「あなたを……思うほど〜」
アコースティックギターは埃をかぶってはいなかった。
「湧き上がるメロディーを〜」
でも、2週間も触れていなかったから、拗ねたみたいに半音ずれていた。
「トマトの深い赤に重ねたりして」
ケースに閉まっていたら機嫌を崩したりしなかったのかな。湿気もあったし尚更嫌だよね。
「はぐれないようにぎゅっと……」
撫でてあげながら言葉をかけた。チューニングするのもずいぶん慣れて、時間も掛からなくなった。心をきゅっと引き締めるのも同時に、姿勢なんか正してみたりして。
「はぐれないようにぎゅっと」
左手の指が弦に触れる。皮膚に痕も残らなくなった。硬くなって嬉しいのと、女の子なのに指が硬いのはどうなんだろうって複雑な気分。
「些細な言い合いも」
やっぱり誰かと手を繋いだ時、気付かれたりするのかな。あいつは鈍感だから大丈夫だと思うけど。でもやっぱり気になってしまう。
「友人の、ままでも〜」
それでもCコードにFコード、今では難なく弾けるようになって。難しくて挫折しそうになったけど、辞めずに続けて来れたんだなぁ。
「やっぱり大半は私が悪いけど」
初めてギターを買ってもらった日。私は飛び跳ねるように喜んで、適当にガシャガシャ弾いて、うるさいってお母さんに怒られたっけ。
「この気持ちはきっと……」
メロディーも音階もめちゃくちゃだったけど、一番自由に飛んでいた気がする。音はただ空中に散らばっていて、私はその中を自由に飛び回っていた。雲の名前も空の色もよく知らないまま、それでも飛び回っていた。
「お願い 翼があれば〜」
やっぱり……歌が好き。
「あなたを探し続けるから」
こんな風に思い返されるから。
「遠くの町まで行ける そして……」
辛いことも良いことも全部。ただ一つとして。
「アイラブユー アイラブユー」
「焼きリンゴみたいに甘くほろ苦いって」
机に積まれた本の下に、小学校のアルバムがある。
「ハンバーグみたいに熱く崩れても」
昔はよく読み返していた。あいつと私が出会った頃だから。
「はぐれないようにぎゅっと」
お互い幼くて、それがまた可愛くて、林間学校で手を繋いでいたのも輝かしい。
「はぐれないようにぎゅっと……」
大人に近づくと手を繋ぐだけで大変になっちゃう。
「身近な約束も」
中学生になると男女で仲良くするのも変な感じになって、顔を合わせるたびに喧嘩していた。
「カフェオレの、隠し味も〜」
私は女子校であいつは共学で、会うことも少ないのに馬鹿みたいにそんな風だった。
「気づいて欲しくて遠回りしちゃうの」
腐れ縁と呼べるまで、時間は経ったのかな。今の私たちはお互いをなんて呼ぶのかな。
「素直になればきっと……」
小学生の時から変にモテるし、中学生になったら男らしい声になってるし、自分でも分かってはいるんだけど。
「いまひとつあなたの耳に」
やっぱり……あいつが好きなんだ。
「この歌が届かなかったら」
こんな風に思い出すから。
「恥ずかしけど伝えるよ まっすぐ〜」
性懲りもなくあいつの歌なんか作っているから。
「アイラブユー アイラブユー」
「思えば急にあなたを忘れたい時」
ちょっと気持ちが乗って来ちゃって、右手のストロークが速くなる。
「別の歌を歌おうと思っていた」
誰かが聴いているわけでも、聴かせたい訳でもないのに。
「決まって星が綺麗に見える夜に」
勝手に口が滑って両手が動き出す。曲が降りてくるってこういうこと?
「逢えないくせして心に住み着いている」
ちーちゃんやくぅくぅちゃんに驚かれるかも、褒められるかも。それっていいけど何か違う。
「よりにもよって私の隣にいて」
「お願い 翼があれば〜」
音楽に出会わなければ、どんな私になっていたのだろう。あいつに出逢わなければ、どんな女の子になっていたのだろう。
「あなたを探し続けるから」
マンマルはぼーっと窓の外を見ている。今日は満月だけど雲で見えない。でも雲の上はいつも晴れ。夜空は常にある。
「遠くの町まで行ける」
ギター雑誌の広告に、モテ女の必勝法が書かれていて、折り目なんてつけている、中学生の私。
「アイラブユー」
理想の女子ってなに? 可愛い女子ってなに?
「お願い 私の歌を〜」
そろそろ終わらせないとお母さんに怒られるかも、近所迷惑だってそう言われちゃう。お父さんの仕事の邪魔にもなる。
「あなたの元へ、届けるから」
でも、あとちょっとで終わるから最後まで歌わせて欲しい。いくらでも怒られるから。いくらでも宿題をするから。
「茶化さないで聴いてほしい」
私の鼓動は速くなって、みぞおちの辺りがきゅっと締め付けられる。頬も温かさを増してゆるみ始める。汗が額を流れた。
「今だけ手を止めてほしい」
ノートに印された赤や青の線。適当に書いた落書き。それらは全部メロディーとなって私の口を動かす。
「だから……アイラブユー」
そんな端に、書いてしまった相合傘。
「ずっと〜 アイラブユー」
部活のみんなには見せられない一冊。
「もっと……アイラブユー」
あいつには、偶然でも見られたら……なんて考える一冊のノート。
作中の歌はかのんちゃんのオリジナル曲です。
私が勝手に作成致しました。
題名はありません。
あなたを思うほど湧き上がるメロディーを
トマトの深い赤に重ねたりして
はぐれないようにぎゅっと
はぐれないようにぎゅっと
些細な言い合いも友人のままでも
やっぱり大半は私が悪いけど
この気持ちはきっと
お願い 翼があれば
あなたを探し続けるから
遠くの町まで行ける
そして アイラブユー アイラブユー
焼きリンゴみたいに甘くほろ苦いって
ハンバーグみたいに熱く崩れても
はぐれないようにぎゅっと
はぐれないようにぎゅっと
身近な約束もカフェオレの隠し味も
気づいて欲しくて遠回りしちゃうの
素直になればきっと
いまひとつあなたの耳に
この歌が届かなかったら
恥ずかしけど伝えるよ
まっすぐ アイラブユー アイラブユー
思えば急にあなたを忘れたい時
別の歌を歌おうと思っていた
決まって星が綺麗に見える夜に
逢えないくせして心に住み着いている
よりにもよって私の隣にいて
お願い 翼があれば
あなたを探し続けるから
遠くの町まで行ける
アイラブユー
お願い 私の歌を
あなたの元へ届けるから
茶化さないで聴いてほしい
今だけ手を止めてほしい
だから アイラブユー
ずっと アイラブユー
もっと アイラブユー