すみれ「やっぱりね、ここにいると思った」
校舎裏と呼ばれる教師や業者が出入りする生徒の触れない場所に、可可は隠れていた。近くの角を曲がれば体育館があり、その奥にはプールがある。大抵は近寄らないここは、身を隠すのにうってつけで、裏口付近の階段下の隙間に、小さな身体は収まっていた。
可可「……どオシテ、見つかるデスか」
すみれ「造作もないの、こんなこと」
可可「こんなとは失礼デス」
すみれ「はいはい。ほら行くわよ」
手を差し伸べたすみれを睨む。可可は認めたくない気持ちでいっぱいだった。
可可「イマ、噛みついてしまえば」
すみれ「なに、恐ろしいこと考えてんのよ!」
可可「ほっといて欲しいデス……可可はこの隅で壁になっていマシタので」
すみれ「拗ねてんじゃないわよ」
可可「これが拗ねたくもなりマス!」
すみれ「そうね。毎回、私には全敗だものね」
可可「かくれんぼ! なぜ勝てないデスか!」
すみれ「それは私のスター性に出来ないことがないからでしょ?」
可可「まだ言っテるデスか、やれやれ、これだからグソクムシは」
すみれ「ふん、好きに言うと良いわ。今はもう、ただの負け惜しみにしか聞こえないからね!」
可可「むむっムッなー!!!」
すみれ「日本語おかしくなってるわよ?」
膨張していく怒りが抑えられない。可可は一人であるようにすみれを無視して部室へと帰ろうとしたが、どうやら不可能な事案で、対抗して口を回していく。
可可「一丁前に……」
すみれ「ちなみにあんた一番最初だから」
可可「こんちくしょーこんちくしょー!」
すみれ「ほらほら、暴れないの」
可可「だいたい、すみれが見つけるから悪いデス」
すみれ「それ、ルール無視よ」
可可「可可が勝つ為ならそんなものも覆してやりマス」
すみれ「横暴よ」
可可「何か魔法の類を使っているに違いありマセン」
すみれ「残念ながらルールも守ってるわよ。かのんに聞いてご覧なさい。ちゃんと一緒に60のカウント取ってるんだから」
ようやく可可はぶつぶつと言いながらも、再度伸ばしたすみれの手を握った。なんだかんだ下を向き、まだ気に食わない様子を崩さなかった。
すみれ「ちょっとあんた、汚れてるわよ」
可可「えぇ、どこデスか?」
すみれ「お尻のところとスカートの裾」
可可「座っていたからだと思いマス」
片手で叩こうとしたが「ほらやってあげるわよ」と、すみれは繋いだ手を離し、貴重な骨董品を扱うように柔らかく叩いた。
可可「すみれ」
すみれ「なぁに?」
可可「どオシテ分かるデスか? 可可の居場所」
すみれ「なんでったらなんでかしらね。不思議な感覚なんだけど、分かるのよね。嫌でもあんたのことになると」
細かくスカートに出来た皺を手で伸ばしながら、すみれは呟いた。
可可「ふ〜ん」
すみれ「あっ、太ももにも。もう、どんな体勢で隠れてたの」
可可「これは仮定の話デス……すみれ、勘違いしないでクダさい」
すみれ「はいはい、仮定ね、仮定でしょ」
ある程度の汚れを払ったすみれは、取りこぼしはないか、可可の身体を一周回った。
可可「もしも、もしもデスよ。可可がどこか遠い……つまり、深海の底だったり、上海の街だったり、砂漠の中だったり……そういうところに行ってしまった時も、すみれは見つけるのデスか?」
すみれ「簡単よ。月の裏だって隠れたうちに入らないわ」
可可「どうして言い切れるのデスか!?」
すみれ「さっきも言ったでしょ」
可可「っ……」
すみれ「分かるったら分かるのよ」
確認が取れたすみれは、可可の前に立ち目を合わせた。そして、
すみれ「ね?」
屈託なく笑ってみせた。
可可はどうしてか恥ずかしくなり、すたこら置いていこうとしたが、足はそこに張り付いたままだった。
すみれ「ふふ、あんたが探して欲しいのなら見つけてあげても良いわよ」
可可「あっ、むっっ、ムカつくデス!」
すみれ「そうこなくっちゃ」
コツンと可可のおでこを小突くと踵を返した。
可可「あだっ、すっすみれ! 待つデス!」
すみれ「なによ」
可可「可可が走って逃げるかもしれないので、手を繋ぐと良いデス」
すみれ「もう、はいはい。逃げるんじゃないわよ」