水族館崩落事件から翌日、テレビではどの局でもこの事件を取り上げ専門家などがこぞって意見を述べていた
一周チャンネルを回し終え電源を切りベットに横になる、やることがなくおまけにかなり嫌な制約がついたのが一番効いているのだろう
帰宅と同時に、更識の本家に俺を移送という結構な行動を行った千冬さん
無論反論はしたが、あの凄みを効かせた目力と心配をかけた事、完全に俺が狙われた事、他諸々が重なり流石に収まるしかなかった。
ーラバーズの面々にも勧められたのも大きいがな
学園側には長期出張と表側では公表し、学長にはケガの療養と身辺の安全確保の為と話している。
結果ここに再び戻ってきた訳だが…
「暇すぎる…全部千冬さんがしてくれたとは言え、あまりにもすることがない」
ー積みゲー等々俺の家から持ってくるか?
ベットから立ち上がり襖を開け廊下へ出る
「赤城様どちらに行かれるのですか?」
部屋前で待機していメイドにそう話かけられる
「…俺の家から必要な物とってくるだけですよ神奈さん」
「それでは車を回して来ますので少々お待ちを」
「いや、原付で行くよ屋敷の警備もあるでしょう?」
「いえ、私は当主様より赤城優様の護衛最優先でと言われていますので」
「……」
そう制約というのがこれだ、護衛が四六時中完全につき自由に動けなくなった、正直いただけないが事が事だけに無理も言えない。
おとなしく玄関に向かい待っていると一台の車が車庫からこちらにくるのが見えた。
全塗装したであろう紫色の車体に、車検ぎりぎりのローダウン、助手席運転席共にフルバケットシート、そしてエンジン音だけでわかる直4ではないロータリー音が轟く、挙げ始めるとキリがないくらいのカリカリのチューンナップ車がのっそりと現れる
「前見たときよりもまた厳つくなりましたね」
「はい、また少々いじらせてもらいました」
運転席から降り、助手席のドアを開けながら笑みを浮かべそう答える。
助手席に乗り込みシートベルトを締め軽く車内を見渡すと、三連メーター、シフトノブ、ハンドル等も変わっていることに気づく
ーほんとにこの人は車が好きなんだなぁ
更識家の門をくぐりしばらく無言のまま進み、赤信号で止まり神奈が口を開く
「左腕のお加減はいかかですか?」
「ん?そこまで変わったことはないかな、動かすと多少痛みがあるくらい」
「なるほど、ではまだ本調子には遠いのですね」
「そうなりますね」
赤信号が変わり車が動き出す
「不服のようですね」
「この現状誰だってそうなりますよ」
「ほんと赤城様は昔から何も変わっておられませんね」
「そうですか?大分丸くなったと思いますけど」
「確かにあの頃に比べたら角が取れましたが、顔に出るところなどは昔のままですよ」
神奈さんにそう言われ過去の自分を思い出してみると、あぁ確かに思い当たる節がいくつもある。
「んん…」
「ふふ、どうやら図星のようですね」
他愛ない話を交えながら数十分の道のりを終え自宅に辿り着く、自宅のカギを開けその辺のカバンにごそごそと物を入れ始める
ーとりあえずこれだけいれときゃいいか?
パンパンのカバンを肩に担ぐと携帯が鳴る
「誰だ?こんな時に?」
「荷物をお預かりしますので出てはいかがですか?」
「お願いします」
荷物を神奈さんに渡しポケットから携帯を取り出しでる
「よお、赤城元気してるか?」
「イーリスか、お前からかけてくるなんて珍しいな」
「そうか?そりゃそっちのバカでかい事件がこっちでもニュースになってるからな」
「世界規模になってんのか」
会話が始まると神奈さんは荷物を抱え車へと乗せに向かう
「IS絡みだからじゃないか?んなことはいいんだよ、お前ケガしてんのか」
「…どうしてそれを」
「馬鹿かおめぇは、ケガしてるならもっと早くに連絡寄越せ!いつからケガしてんだ!」
「あぁ…鑑定依頼した時より前か」
「はぁ…あんま、あぁだこうだ言っても仕方ねぇ…変に心配して仕事疎かにするのがいるから今度から連絡しろよいいな?」
「あぁわかった、話はそれだけか?」
「いや、明日の日本時間17時にそっちに入国するナタルと一緒にな」
「随分と突拍子もなく来るな、こっちでなんかあるのか?」
「日米ISテロ対策するんだとさ」
「合同でか」
「今回のでかい騒動が原因だろうよ、正直な話あんまり意味ないと思うがな」
「なるほどな、形だけでもしないと世論が納得しないからだろう」
「んで、諸々終わったら21時過ぎに食事を兼ねて例の話を進めたい訳だがどうだ?」
「微妙だな、今護衛もとい監視ついてるからな」
「ははは、旧友との食事とでも言ってきてもらうしかないな、あとは物をうまい具合に渡すしかないな」
「努力しよう」
「あいよー、んじゃまたな」
「あぁ、よろしく頼む」
そこそこ長い通話になってしまったが、これで少しは進展するはずだ
「さて車に向かうとするか、待っているだろうし」
カギを締め、階段を降り神奈さんが待つ車に乗り込む
「お話が進んでいたようですが、どなたとお話に?」
「腐れ縁の友人ですよ、明日こっちに来るみたいなので食事でもと思いまして」
「なるほど、であれば明日の予定はそれだけですね」
「そうなります」
もと来た道をのんびりと戻りながら窓の景色を眺める
ー日米合同ねぇ…
「知っていますか?明日日米で対ISテロ対策があるそうですよ」
「情報網の速さは相変わらずですね」
「はい、情報戦は十八番でありますから、となりますと明日会う御友人はイーリス様御一考でしょうか?」
「えぇ、うまい飯屋にでも連れて行こうと踏んではいますよ」
「でしたら、屋敷にそのまま御招待されてはいかがでしょう?護衛もしやすく積話もできましょう」
「どうですかね、当主の許可なしに言えませんし、あいつも堅苦しいの嫌う傾向ありますから」
「左様ですか、この話は後程詰めると致しましょう」
「そうですね」
そろそろ、屋敷が見え始め話を切り上げる。
門を潜り車庫へ車を進め切り返して、バックで止めドアを開け降りる。
何かが風を切った音が瞬間的に聞こえ右手で眼前に来た何かを捕らえ弾く、弾いた感触的にそこそこ固い固形状の球体であろうそれが車庫のシャッターへ当たり転がる
「これ…非殺傷用のゴム弾では?」
「またですか、私の車に傷が付いたらどうするのですか奥様」
ーいやいや、傷というかケガするレベルやって!
「ごめんなさいね神奈、どうしても試してみたくて…ね」
にっこりと笑顔をうかべ、ごついグレネードランチャーを抱きながら現れる女性
「相変わらずお変わりないみたいで」
「えぇ、まだまだアラフォー、若々しく初々しくよ」
抱きしめたグレネードランチャーと共に体をくねくねさせる
「前当主とは思えないくらい元気ですよ、我が更識家は…ちょうどいい機会です明日の話をなされてはいかがでしょうか赤城様?お荷物の方はお部屋へ運んでおきますので」
「え、あぁ、ありがとうございます」
ーこの人と一対一は遠慮したいんですが
「あら、もしかして結婚のことかしら「違います」
思わず食い気味で話してしまった。
「あら、残念それでお話とは何かしら?」
「明日旧友と食事でもしようと思いまして」
「あまり良いお話ではありませんね、いい優あなたは命を狙われ、そしてこの更識家はあなたを守るようにブリュンヒルデに言われているのよ」
「護衛対象なのだからむやみやたらに動くな…と」
「えぇそうよ、お話は以上」
その場から離れるように踵を返した前当主の背中に単語を突きつける
「織斑一夏の行方が分かるかもしれないと言われても止めますか?」
歩みがピタリと止まる。
現状自分が交渉材料として切れるカードであり、正直切りたくないカードでもある
「更識家の情報網が何も知り得ていないと?」
「えぇ、知ってたらすっとんで行ってるでしょう、あの人の性格上」
「……神奈、明日優の護衛を任せるわ」
荷物を置き戻ってきた神奈にそう話しかける
「よろしいのですか、屋敷へ御呼びして食事会でも構わないのでは?」
「今は誰が敵なのかわからないの状況なの?あまり身内以外を入れたくないのよ」
「失礼いたしました、では明日の護衛はお任せを」
「こちらこそよろしくお願いします」
「それはそうと、せっかく戻ってきたのですから今日はパーティーよ」
ーえ!
二十畳ほどの広々とした個室に向かい合うように並べられた配膳台、その上には焼き魚に味噌汁、白米、漬物が置かれていた
「あれ?パーティーでは?」
「私にとってはあなたと食べられればそれはパーティーよ」
「なるほど」
互いに対面に座り手を合わせる、こちらは片手で済ませる
「「いただきます」」
山盛りの白米を食べながら味噌汁をすする
ー懐かしい味だ、ほんと母さんの味に近いんだよな
「食べながらでいいから聞いてもらえる?」
「もぐもぐ、なんでしょう?」
「今回の騒動、裏にいるのはかなり大きな集団よ、それも私たちみたいな連中の集まり」
「何故そのような情報を俺に?」
眉をピクリと動かしそう答える
「どうせあなたには何一つ教えてないんでしょう、あのお方は」
「あ、やっぱりわかります」
「当然よ、私あまりそう言うの好きじゃないのよ、だから私はあなたに教えるのよ」
「ありがたい限りで」
「それにあなたは私にとって家族同然よ、周りがなんて言おうとね、話が少しそれたわね本題に戻りましょう」
食事を進めながら、現情報を聞き頭の中でどう動くか練り始める
「私はね優あなたがこの戦いを終わらせる鍵だと考えているの、だからこそその左腕の怪我を早く治すことよ」
「俺にそんな大役できる気がしませんが」
まだ完治していない左腕に視線を落とす
「大丈夫、あなたは鞘姉さんの子なんですから」
その名を聞き味噌汁の水面に浮かぶ自身の顔を見る
「その名前久しぶりに聞きました」
そう俺の母は更識の出だ、結婚する為に家を出たらしい、これに関しては俺が独学で調べた範囲の情報で故に定かではない
「だからこそ優、無理だけはダメよいい?」
箸を置きこちらを見る前当主
味噌汁を飲み終え蓋をする
「えぇ、できる範囲でやるだけですよ」
目を合わせそう答える
「その目は無理する目よ」
「ん」
手を合わせ
「「ごちそうさまでした」」
「こちらの情報は神奈に渡しておくから」
「助かります、では俺はこれで部屋に戻ります」
「あら、私の夜「しません」
そそくさと襖を開け自室へと戻る彼の背中を見
「鞘姉さんどうか守ってあげて」
そう言葉をつぶやく
夕食を食べえ自室へ戻るや否やPCを立ち上げ黙々と何かをし始める
「今回の情報はかなりの収穫量だ」
こちらが欲しい情報の大半が埋まったに近い
あぁは言われたが無茶するのは目に見えているから、やはり一時的にISを抑えられる物が欲しい、正確には対IS戦で使用でき生身で使える物
どうせISが戻ってくるまで相当かかるというか、千冬さん辺りが阻害してるのだろう
となると今の俺ができる最善は…ISと言えど精密機械の塊、それをどうにかする電子戦装備を作成し使用と同時に生身でなんとかするデータ通りなら効果は期待できるがそう簡単に行く訳がない
正直言ってこの手は嫌いな部類だ効果がなかった場合リカバリーができない、イコール俺の命が無い
「プログラムの大元はできた、もう少し練り詰めて手直してそれでいいはず、あとはこいつを入れる器が必要だな」
持って来た荷物を軽く漁りPCゲーの限定特典に目が行く、箱を開け中身を確認すると銀色の懐中時計が現れる
「こいつでいいか、掃除されてなければ確かあそこに」
机横の段ボールを移動させると、畳が一か所だけない場所が顔を覗かせ、床の突起を引っ張り開ける
―そう床下収納があるのだ、これを発見した時心が躍ったけか
床下収納を懐中電灯で照らしながらジャンクの山を引っ張りだし物色する
「あーこんなのでいいか」
懐中時計に合う大きさの物を取り出し、収納を元に戻しその上に段ボールで蓋をする
カチャカチャと懐中時計をばらし、組み込めるように調整しスペースを確保
コンコン
襖の淵を軽く叩く音が聞こえる
「はい、入って構いませんよ」
「作業中失礼します赤城様」
神奈が部屋に入りコーヒーと共にデータ端末を添えてテーブルに置く
「ありがとうございます、まさかコーヒーまで」
「一度部屋の前に来ましたところ何やら熱心に作業していらしたので気休めにでもなればと」
作業を止めコーヒーをゆっくりと飲む
ー昔も教師になる為の勉強してた時こうやって持ってきてくれたなぁ
「あまりご無理をなさらぬように」
「えぇ、これが落ち着いたら就寝しますよ」
「そう言って朝までやっておいでになられたのはどちら様でしたでしょうか?」
ーうぐぅ
図星を突かれた
「そうですね、前回の教訓を生かしてコーヒーを飲んだら寝ることにします」
「あら、随分と素直になりましたね」
「俺をいじるのはそれくらいにして明日よろしく頼みます神奈さん」
「はい、かしこまりました」
コーヒーを飲み終えカップを渡す
「では私はこれで失礼します」
襖が閉じる
「寝るか」
PCをスリープモードにしベットに横になり目を閉じる
「赤城様、起きてください起床の時間です」
「ん、今何時ですか」
「七時です」
「まだ眠りたいです」
「いけません、洗濯ができなくて仕事が片付かないのですどうかご協力お願いいたします」
ーここまで言われるとほんとどうしようもないくらい起きる
むくりと体を起こす
「着替えは用意してありますのでそちらを、くれぐれも二度寝はしませんように、では私は部屋の前で待機しております」
襖を開け閉じる
「あぁ、体のエンジン掛からねえ」
軽くぼやきながらも服を着替える
「着替え終わりましたよ」
「わかりました失礼します」
着替えた服を神奈さんに手渡す
「洗面台で洗顔後、昨日お食事をした場所にお越しください朝食を持ってまいります」
「え、確か前当主って朝食べないんじゃ」
「ご安心をメイド隊総動員でやりますので」
―うわぁ
これに関しては気の毒にと言わざる終えない、誰しも日が高くなるまで寝ていたいものだ
洗面台で洗顔を済ませ、言われた通りの場所で座って待っていると
「嫌よ!私はまだ寝ていたいの」
「わがままを言わないでください前当主様!」
恐らく隣の部屋であろう前当主の寝室からそんなやり取りが聞こえる
「嫌ぁぁ!この変態、○○魔」
「な!たとえ前当主様とは言え言っていいこと悪いことがありますよ!」
「なら!私を寝かしておくことね!」
「失礼します」
布団の引っ張り合いの中を貫く声
「メイド長、前当主様が」
「わかりましたここは私が、前当主様赤城様がお席でお待ちになっておいでです、どうかご準備の方を」
バサッ布団が宙を舞う
「それを先に言いなさいな、何をしているの私に服をよこしなさい」
ーやべぇ、相変わらずいい精神してる
そう心で言いながら数分待っていると、食事と共に前当主が頭にたんこぶを作り現れた
「な、なにかありました?」
「いえ、タンスの角に頭をぶつけただけです」
「そ、そうですか」
深く言及はしないことにした
昨日に続き山盛りのご飯を食べながら前当主と会話していく
「優、今日は何時頃友人と会うのかしら」
「そうですねぇ21時半頃ですかね」
「そう」
寂しそうな目をする前当主
「一時間程度の会食ですよ、すぐに戻ってきますよ」
「え、じゃそのあと夜「しません、朝から何の話させる気ですか!」」
「んー大人の「言わなくても察してますから大丈夫です」」
「それはそれとして、ねぇ優、更識家に来ない?」
「何度も言いましたが、さすがに虫が良すぎますよやっぱり」
母方の実家扱いにはなるとはいえ、更識家を出た母の実家にいるというのはなんとも複雑だ
「あなたは幸せをもっと感じていいはずよ」
「そうですね、今の現状が解決したらまたゆっくり考えますよ」
少し答えを濁し朝食を済ませていく
朝のせいかお互いほぼ会話ない食事
「「ごちそうさまでした」」
朝食後は部屋へ戻り昨日の続きをすることにする
プログラムを再度組み直したり、試行錯誤を繰り返すがうまくいきそうにない
「んん、うぅん」
眉にシワを寄せる頭を抱えるうちに昼食の時間になり、そして日が暮れ始め夕方が過ぎる
コンコン
「失礼します赤城様そろそろお出かけのお時間にです」
「へ?」
PCの時計を確認すると二十時を過ぎていた
「嘘、もうこんな時間」
「はい赤城様このような時間です、お食事処はお決まりでしょうか?」
「え、えぇまぁ」
ーやばい、決めていない
「私の行きつけのラーメン屋はいかがでしょう」
「そこでお願いします」
「かしこまりました、では私は車を回してきます」
服を着替え、PCゲームのソフトケースを開き例の物を取説の後ろに忍びこませカバンに入れ玄関で待つ
神奈さんの愛車のエンジン音が聞こえ、ゆったりとこちらに徐行で来る
「お待ちしましたでは参りましょうか」
「お願いします」
「多少お時間かかりますのでご容赦ください」
「全然大丈夫ですよ」
「イーリス様御一考はどちらでお待ちになる予定でしょうか」
「今メール送りましたから、ちょっとまだわからないですけど駅前でいいんじゃないかと」
「承知しました、ラーメン屋もその近辺なのでどこかのコインパーキングに車を止めると致しましょう」