第五時限目~秋月のしらべ~
9月上旬、新学期が始まり静かだったIS学園にも活気が戻ってきた。
この時期の教師陣は、校内行事のタッグマッチトーナメント戦、学園祭と一年の中で一番ピリピリとする。
まぁ、後者が一番の原因なのだが…………
そんな中、彼はと言うと、夏期休暇中に箒と約束した通り、放課後稽古相手をするべく道場へ足を運んでいた。
バシ!バシ!バシン!
竹刀と拳のぶつかる音が道場内に響き渡る。
剣道具を身に付けた二人が、激しくぶつかり目まぐるしい戦いをしていた。
剣道具には篠ノ之の名と赤城の名が記され、方や竹刀を振るい、方や拳を振るう。
面打ちを狙いに来る踏み込みにあわせ、首を傾け面打ちを回避、胴にカウンターのボディブローを打つ構えをとると、バックステップしつつ再び竹刀が上がり、引き打ちが放たれる。
即座に追撃をやめ、その場に踏み止まると引き打ちした竹刀が眼前を過り止まる。
両者摺り足で距離を開ける。
しばし長い間、面と面のにらみ合い
その間にも互いに思考だけが動き、流れた汗が頬を伝う
『下手に踏み込めば打ち込まれる』
同じ心情故に、動く事ができない
そんな均衡を破ったのは、篠ノ之箒であった。
彼が動くより早く大きく踏み込み竹刀をゆるりと前方へ突き出す。
ー突きだと!駄目だこの距離でパリィは無理だ
パリィができない状況を悟や否や、なかば強引に投げへと変える
上体を反らしながら捻り、竹刀の突き軌道を面が掠りながら交わし、左手で竹刀を持った両手を握り、左手一本で無理矢理投げ飛ばす。
投げ飛ばされた篠ノ之はすぐさま前宙し着地、こちらに向きを直し上段構えから竹刀を胸辺りまで下げ中段構えへとかわる。
ー中段…………
対するこちらも投げ構えから、右拳を前へ突き出しアウトボクサースタイルへ移行する。
先程から先手を取られてばかりだ、何故こんなにも、先手を取られる?足さばきで詠まれるにしても速すぎないか?
疑問だけが脳内に降り積もっていく
ー突破口はそこだ……
ジリジリと静かに距離を詰める二人、あと半歩で竹刀の攻撃範囲に入る。
ー駄目だ、これ以上は踏み込まないと打ち込まれる…………くそ!半歩遠い
そう思い、ピタリと踏み止まると
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
まるで、こちらが踏みとどまる事を見越したように鋭い踏み込みで、箒は打って出てきた。
面、籠手、胴と流れるような連撃の嵐をしっかりと目で捕らえ、交わしていく。
ビュン!ブン!ヴォン!
空を切る音が非常に近くで聞こえる。
竹刀が水平になり、両腕が引かれ、踏み込んで来る。
ー最後は突きか!
突きが来る中を踏み込み、懐へ潜り込む。
「な!「は!」
胴へ左ボディブローを的確に叩き込む。
「はぁはぁ………一本だな……はぁはぁ」
「はぁはぁ………参りました……はぁはぁ」
互いに定位置に戻り、一礼
白線より外に出て静かに正座し面を取る箒の横に、がさつに座り豪快に面を外す。
「くぅー久々に燃える試合だったぜ」
「完全に決まったと思ったですが…………」
「しかし、先手をこうも取られるとはな、腕が鈍ったか」
「いえ、これは篠ノ之流の1つ『零拍子』のお陰と言った所でしょうか」
「『零拍子』?」
「はい、篠ノ之流古武術裏奥義…………それが、『零拍子』です、簡単に言えば相手が動くより先にこちらが動けると言った感じでしょうか、実際の所は『相手の初動を起点にし動く』と言った方があっているかと」
「なるほど、俺はそれにハマっていた訳か…………ん?ちょっと待て篠ノ之流は剣術じゃないのか?」
「はい、確かに今の篠ノ之流は剣術主体ですが、元々は古武術でした、しかし篠ノ之神社では『剣の巫女』が神楽舞を舞うと言う事もあり、それが古武術が剣術へと変わったきっかけだとされています」
「なるほどな…」
ーそれはいいことを聞いた
立ち上がり体を伸ばし、時刻を確認する
午後5時半
ー仕事もあるから、やれて後一回か
「今日はもう一回やって終わるか」
「はい!」
互いに面を着けようと面を手に取ると、ガラガラと道場の扉が開き、一人の扇子を持った女生徒が入ってきた。
「あ、箒ちゃん!稽古中に悪いんだけど、赤城先生貸して頂戴」
「せ、生徒会長!?」
「あのな、かた…ゲフン!楯無、俺は物じゃ無いん……っておい!」
強引にこちらの手を取り引っ張っていく
「悪い箒!また明日な!!片付け頼む!」
「は、はぁ…………」
取り残された箒は唖然としながらも、言われた通り、後片付けを始める。
「相変わらず、赤城先生忙しそうだな」
先の稽古で得られたものはとても多かった。
こちらの構えに合わせ構えを変える場面や、対剣術戦の動き方、そして…………
「『零拍子』の対抗手段」
剣胴着から、制服へと着替え道場の戸締まりをする。
今日、零拍子は3度使った、その内有効打と思われるものは1度あったか無かったと言ったところだ、つまるところ、殆ど機能していなかったに近い…………明日は二刀流、下段構えで零拍子を実戦してみよう
部活棟から学生寮へ歩き始めると、風が吹き渡る
「秋風が心地好いな…………」
火照った体には丁度いい涼しさだが、さすがに汗をかいたこの状態で長くはいない方が良さげだ。
「そうと決まれば、早々と帰ってシャワーでも浴びるか」
うむと一人うなずき、急ぎ足で自室へと帰る箒
彼女が寮に着いた同時刻、強引に引っ張られた彼はアリーナへと来ていた。
アリーナ内ではバルーンを中心にその回りをグルグルと回る雪羅、それを見守るセシリアとデュノアがいた。
ーあの動き、マニュアルでシューター・フローの練習しているのか
「はいはーい、一夏君の為に助っ人呼んできたよー」
そう声をあげると、こちらを向く二人
「あー、やっぱり助っ人って」
「赤城先生のことでしたの」
「俺じゃ不満か?」
「「いえいえ」」
「にしても、何でこの練習してるんだ?雪羅自体射撃主体じゃないだろ?」
元々シューター・フローは射撃練習の1つであり、ほぼ射撃をしない雪羅にとっては無関係な練習ともいえる。
「えぇ、確かに雪羅『には』必要の無い練習ね、でも一夏君にはどうかしら?近接戦闘の練習ばかりさせるより、様々な練習を通した方がより効果的だと私は思うのよ」
そんな楯無の解答を聞き、知らず知らずの間に腕を組み顎に手を添え考え込んでいた。
「どうやら思いあたる節があるみたいね」
「あぁ、お前が言った通りかも知れないな楯無」
今まで彼を見てきて感じたのは、織斑一夏と言う青年は何度も何度も繰り返して成長していくタイプだろう。
扇子を広げ、ンフフと笑う彼女の上空では、シューター・フローの円軌道から、直線軌道にシフトするためIBをかける一夏が見えたのだが
「ぬぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
ISの機体制御が完全に間に合わず、二人の頭上を酷い叫び声を上げながらすっ飛び、アリーナの壁へと激しく衝突
「「一夏(さん)!!」」
すぐさま駆け寄るデュノアとセシリア
ーまだまだ、何ありか…………
「と言う訳で、赤城先生お手本を」
「お手本って、お前俺のが見本にならないの知ってるだろ」
俺のシューター・フローは、癖が酷く付きすぎて他人が真似出来ない領域の物に変わり果てていた。
「でも、少しは何かの参考になるかも知れないでしょ?同じ近接主体何だから」
ー何言っても無駄だろうな…………
「やれやれ」
左手に着けた指輪に触れ、目を閉じ軽く念じる。
打鉄…………と
ISの展開が始まり、体が光に包まれる。
目を開く頃にはISの完全展開が終わり、のびのびと軽くストレッチをする。
ー感度良好……しゃ!やるか
「一夏君、よく見ておきなさい、これから起きる事を」
ホバー移動から、IBを使い瞬間的に加速し離陸、バルーンを視界に捉えつつ直線軌道から再度IBをかけ方向転換、バルーンぎりぎりを攻めていく、その様子はさながら空を蹴って軌道を変えている感じに近い。
当然、彼が描く軌道は円などでは無く、綺麗な三角だった。
「すげー」
「あの短い間隔でIBを三回やるなんて」
「信じられませんわ」
地面をズザーと滑りながら着地
「とまぁこんなもんかね」
「さすが赤城先生、シューター・フローの皮を被った何かをしますね」
グサッ
「楯無、今のは久々に心に刺さったぞ………なんつうか、こう言うのは、どうやったら敵の弾幕を潜り抜けれるのか、どうして今自分は被弾したのか等の疑問を大事にし自分なりの解答をだせ、そうすれば自然と被弾率が下がるし、より速く懐へ入れる」
ISを待機状態に戻し、アリーナ出口に向かい歩き始める
「あ、赤城先生、もう帰るんですか?」
「あぁ、仕事がアホみたいに残ってるからな、なんかあったら職員室にいるから遠慮なく呼んでくれ」
「「はーい」」
「あ!あとアリーナの戸締りは忘れるなよ」
いい忘れた事を思い出して言い残し、背中越しに軽く手を振り、そそくさと地獄と化しているであろう職員室へと向かう。
当然の如く、彼の机の上には山のような仕事が溜まっており、思わず絶望に苛まれる。
ーうわ、マジかよ……そんな気はしてたが
うなだれていても始まらないので、仕事に取り掛かることにする。
仕事の内容は学際に関するものや、タッグマッチのもの、生徒たちの要望等がごちゃ混ぜになっていた。
「はぁ」
ため息混じりに仕事を進める、資料を読み誤字の訂正、印鑑を押し提出、NPCで資料の作成……
しばしの間、時間を忘れひたすらに仕事を進める。
すべてが終わり軽く息を吐き、周りを見渡すとものの見事に誰も居なくなっていた。
この職員室の光景はいつもの光景だ。
「あとは見回りだけか………」
軽く背伸びをし、冷めた飲み掛けのコーヒーを飲み干す。
コンセントから見回り用の懐中電灯を取り、各教室の戸締り確認をしていく。
「異常なし」
各階を回りきると、一ヵ所だけ光が漏れている場所があった。
工作室だ、IS整備士養成コースの生徒がよく利用する場所でもある。
「誰か残ってるのか?」
そう言いながら工作室に入ると、中では眼鏡をかけた女生徒がディスプレイとにらめっこしながら、タッチパネルを操作していた。
「どうだ簪、捗ってるか?」
「あ、赤城先生!すみません、今帰りますので」
慌てたように帰りの身支度をする簪に対し
「そう慌てるな、少し時間はあるから付き合うぞ簪」
懐中電灯で肩をたたきながらディスプレイを覗き見る。
機体制御、バーニア出力等々の調整が行われていたが、ザックリ見たところまだまだかかりそうな様子であった。
ーこの調子で間に合うか?タッグマッチ戦
「赤城先生、ここの調整なのですが」
「あぁそこか、そこはな」
打鉄をベースにした完全オリジナルのワンオフ機、従来の打鉄に比べ格段に機動力が増し、専用の武装を各所にもうけている。
その結果機体調整が大きなネックになっていた。
機体制御の為、バーニア出力を上げれば機体がそれに耐えきれずに悲鳴をあげ、ケーブル等が焼損地上へ失速し落下、酷いときは外装が剥がれ落ちるくらいの爆損もした。
このままでは一年で終わらないと思い、何度か彼女の為に整備科の生徒を呼ぼうとしたが、彼女はそれを丁重に断った。
彼女なりのプライドがあるのだろう、そう悟った俺はそれ以後その手の事はせずに、こうして遅くまでやってる彼女にちょくちょく手を貸すことにした。
ーこのやり方じゃ駄目なのはわかってるんだ…………わかってんだが…………今の俺じゃ簪を導いてやれない
「…………教師失格だな…」
「赤城先生何かいいましたか?」
「いや、何でもない、簪ISに搭乗してくれ俺が調整するから、その度にバーニアを吹かしてくれ」
「わかりました」
工作室の扉横で壁に寄り掛かり、2人の会話を聞く扇子を携えた女生徒
「ごめんね、赤城さん…………」
彼女はただそう言い残して廊下を歩いていく。
そうとは知らずに、黙々と打ち込む二人、気がつけば時刻は寮の門限一時間前になっていた。
「やべぇ簪…………そろそろ切り上げよう、寮の門限もあるだろうから、片付けは俺がやっとく」
「え?…………そうですね、そうさせてもらいます、赤城さん明日も大丈夫ですか?」
「んー微妙だな、そうするつもりではあるが」
「わかりました、あと赤城さんお母さんがたまには顔を出してくれって」
「…………善処はするよ」
そう言い機材の片付けに入る
「そう………ですか…………わかりました、では私はこれで」
「あぁ気をつけて帰れよ」
背中越しにそう答え、機材を片付け、点検し点検表を書き工作室のブレーカーを落とす。
「よし、俺も帰るか」
再び職員室に戻り懐中電灯を元の位置に戻し、鞄に自宅での仕事の資料を入れ職員室の明かりを消す。
更識家にはかなりの面でお世話になった、俺がこうして教職についているのも更識家のおかげだ。
ーなかば強引ではあったがな
そのとき簪と楯無(刀奈)と出会った、あまりいい印象で出迎えられた気はしなかった。
当たり前だいきなり家の者じゃないやつがここで過ごし始めるのだ無理もないというか誰でもそうなる、でも前楯無は大荒れしていた俺を暖かく出迎えてくれた。
過ごし始めて数週間、その間俺はひたすらに勉学に勤しんでいた、そんな時ふと、なぜ俺をほっといてくれなったのかと聞いたことがあった。
ー正直なところ俺をわざわざ探し出して捕獲することもなっかたろうに
そんな俺の問いに対し
そうね、確かに赤城君を捕まえることもなかったかもしれないわ、でも私には赤城君にまだかすかに残る闘志が見えた気がしたの。
赤城君の強さは『紛れもない強者の強さ』だからこそ私は赤城君をここに置こうと思ったのよ。
でも、赤城君がここに止まることを選んだのではなく、前進を選んだのは誤算だったけど
と前楯無は答えた。
つまるところ、前楯無は裏家業の人材を欲したため俺を捕獲、監禁、だが案の定俺は勉学に勤しみ教職の道へまっしぐら、彼女の思惑は大きく外れた訳である。
でも、それならなんで
「止めなかったんだろうな」
止める気があったなら止められただろうに
信号待ちしながら過去を思い出し、空を見上げる。
「…………ま、顔出しにくいが、考えておくか今年の正月にでも」
信号が青に変わり、アクセルを吹かし帰り道をひた走る。