アテネちゃんの執事!   作:通行人A'

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あれやこれと考えているうちに長いこと留守にしてしまいました。ごめんなさい!何とか頻度を上げて更新していきたいと思いますのでよろしくお願いします。


Task11:見上げればヤツがいる①

 

 

 

 

 晴天の霹靂。

 晴れた空にとつぜんカミナリが鳴りひびくように、予想もしない思いがけない出来事がとつぜん起こること。

 

 

「ハヤテを見た、ですって?」

 

 

 アテネの頭の中はまさに今、雷鳴が駆け巡らんばかりの衝撃が襲いかかっていた。

 

「えぇ、時速100㌔までなら車の窓越しに読んでいる小説のページ数まで言い当てられる私の動体視力を持ってして、かなり可能性は高いかと」

「そう、ハヤテが」

「えぇ、時速100㌔までなら車の」

「お黙り」

 

 日本に戻ったアテネたち。

 彼女たちが身を置いているのは東京都のある学術機関であるが、ここについてはまたいずれ。ともあれ、書斎の机に座っていたアテネは居ても立っても居られないといった様子で、身を乗り出した。

 

「状況を詳しく話してくれる?」

「あれは11月の木枯らしが身に染みる昼下がり。ふと大通りの横の路地に目を向ければ毛づやが悪い黒猫がジロリとこちらを睨んでいて、空を見上げれば灰色の雲から今にも」

「もういいです簡潔にお願い」

 

 すかさず横槍を入れられて唇を尖らせるも、渋々といった口調で続けるのは彼女の執事、アイルだ。

 

「ついさっき、空から落ちてきた青年を見かけましてね」

 

 事の発端は、彼が夕飯の買い物を終えて帰路に着いていた時のこと。

 物価が安かったギリシアと違い、基本的に物価水準の高いのがこの日本という経済大国である。拠点周辺の所謂スーパーの食品等価格調査を兼ねた買い物を行なうのは、補って余りある財力に関係なく最早彼の習慣の一つになっていた。

 

 戦果の紙袋を二つ、腕に抱えて地下鉄の階段を上がっていた矢先だった。

 

「どいてどいてーッ⁉︎」

 

 階段の先、光が差し込む出口から〝人〟が降ってきたのである。

 

「は?」

 

 執事たるもの、いかなる時も冷静かつ紳士たれ。

 しかしながら、地下鉄の出口から自転車と共に人が落ちてくるのは、いかなる時には入っていなかった。

 

 

 咄嗟に袋を放り投げ、墜落者を受け止めようとするとあえなく2人まとめて階段下へと吸い込まれてしまう。刹那に、彼の背中に伝わる衝撃と、脇腹に良い感じに食い込むのはこれは肘だろうか。だとすれば的確に殺しにくる実に鋭い肘鉄だ。暗殺だとすればちょうど良く緊張感がなく、それでいて効果的だ。

 

 おかしいな。日頃の行いは良い方なんだろうが。もしかしてアレか、今日の朝ちょっとした悪戯で録画の中身を全てテレビショッピングの冒頭の掛け合いだけを集めたやつに書き換えた罰だろうか。因果応報はあるのか。

 

 

 飛びそうになる意識を、そんなくだらない思い出と共にギリギリのところで引っ張り留めて、喘ぐように空気を肺に取り入れようとするが咳き込んでしまい上手くいかない。

 

 

「ああッ、ご、ごめんなさい!」

 

 ひどく慌てた声。しかしはっきりとした口調だ。ひとまず降ってきた相手は無事だと分かり、肩の力が抜ける。他に巻き込まれた人もいないようで、周りはシンと静まり返っていた。

 

「だ、大丈夫ですか!?今救急車を」

「えぇ、大丈夫です。この程度擦り傷で」

 

 言いかけた所で吐血する。

 

「うわぁああ⁉︎内臓やられちゃってるじゃないですか」

「持病です、たまに内臓に亀裂が入るみたいな」

「そんな世紀末な病気聞いたことないですよっ⁉︎」

 

 しかし執事は身体の埃を払うと、何事もなかったようにすっと立ち上がる。

 

「ともかく私は大丈夫。それより貴方こそお怪我は」

「僕は大丈夫」

 

 差し出した手を思わず止めるアイル。

 

「って、あぁ‼︎時間が、ヤバいヤバいっ」

 

 僅かに目を見開くその先にいたのは、水色の髪をした少年だった。彼は顔を真っ青にして慌てて肩にリュックを背負い直すと、倒れた自転車を立て直す。

 

「ホントにごめんなさい!携帯……はお金なくて持ってないんですけど、これ会社の番号なんで!もし後から怪我とか分かったら電話ください」

「え、いや」

「治療費とかちゃんと払うんで!」

 

 手に握らせてきたのは番号だけが殴り書きされた一枚の紙切れ。

 

「ホント逃げたりしませんから!夜逃げは慣れてるけど、ってそんな事はいいか」

「えーと」

「ごめんなさい!配達の時間がもう……!ともかく何かあればそこに電話くださいっ」

 

 まくし立てるが早いか、少年は傍らにあった自転車を素早く立て直す。

 

「は?ちょっと、ここは地下で」

 

 次の瞬間、アイルの視界は放たれた閃光に阻まれる。頬を撫でる風の感触に目を開けると、そこには少年の姿はもうなかった。

 

「えぇ……」

 

 まさにつむじ風が吹き去ったが如く。

 あ然と見上げる地下鉄の出口の先には、雲一つない晴れやかな青空が広がっていた。

 

 

「と言うことがありまして」

「さらっと話してくれたけど、一歩間違えればニュースになる大事故よ。身体は大丈夫なの?」

 

 アテネの怪訝な視線にも表情一つ変えずに肩を竦めるに留める。

 

「ヘーキですよ、(あばら)の2、3本くらいならラジオ体操してればくっつきます」

「打ち所が悪かったのかしら、ただでさえおかしな頭が取り返しのつかない事に」

 

 可哀想な人を見るような視線を向けられるが、気にせずに咳払いを一つ。

 

「ともかく、丸対は見つけたわけですから。さっそく調査に移ります」

「それ以前に、本当に彼なの?」

「お嬢様、この忠実なる下僕を信用できないと?」

「貴方を信用するときは世界の終わりね」

 

 今宵は百万年に一度。

 

「で、帰る途中にもらった番号を調べたところどうやら物流業者のようですね。都内にあるようです」

「物流?」

「自転車を使ってましたから、大方配達のバイトかなにかかな。早速その会社に潜り込んでみたいと」

 

 待った、と話を遮るように左手を振る主人。

 

「けれど、名乗っていた訳ではないのでしょう。貴方に見せた彼の写真はもう10年も前のものよ」

「そこはご心配なく」

 

 彼はノートパソコンを取り出すと、画面を彼女の方に向ける。何のソフトだろうか、画面の中には水色の髪をした青年のモデリングが、胸から上が映し出されている。

 

「これは?」

「某国の諜報員も利用している、加齢想定をしたシミュレーションソフトです。失踪した人間の捜索はもちろん、指名手配犯の懸賞金呼びかけなどにも使われています」

「なんでそんなものをさらっと出せるんですの」

 

 画面に映っているのはまさに出会った青年そのものであった。現代の科学力を侮るべからずと。しかしアテネは未だに怪訝な表情は変わらず。

 

「確証はないわけでしょう?」

「まぁ、今のところはそうですが」

 

 煮え切らないような態度に、いらぬ疑問も口をついて出るというもの。

 

「もしかして、会うのが嫌とか?」

「べ、別にそんな訳じゃないですわ。ただ私は極力無用なリスクを減らそうと」

 

 とはいえ、彼女の気持ちも理解出来なくはない。

 きっも怖いのだろう。本物である可能性が高ければ高いほど、会いたいという気持ちと同じくらい怖さもあるはずだ。

 

 何せ10年。それほどの長い月日をかけて追い求めていた人物なのだから。

 

 

 

 綾崎ハヤテ。

 彼女が探し求めている人物の名前だ。年齢は彼女と近しく、彼女が唯一心を許した男性でもあるという。平たく言えば恋人だった……らしい。10年前といえば幼少期も幼少期、恋人なんて概念があるのかも怪しいが、主人がそうだと言えばそうなのである。

 

 アイルが知っている情報はその程度。馴れ初めはどうだ、どんな時間を共有して、そしてどうして別れてしまったのか。詳しい話はほとんど聞いてはいない。

 執事としては、主人が会いたい人がいるのであれば探し出して連れてくる。それ以上でも以下でもない、主人にとって不快不要な詮索はする必要がない。

 

 

「止めます?こんな機会そうないと思いますけど」

 

 分かった上で、敢えて尋ねる。アテネは軽く唇を噛んで逡巡してみせたが、「分かりました」と諦めたように深くため息をついた。

 

 

「段取りを教えてちょうだい。言うまでもないけれど、危ない手はなしよ」

「ご心配なく。正攻法でいきますとも」

 

 親指で軽く胸叩いてみせる。

 

「まず当該会社に新人アルバイトとして潜入して、彼の履歴書を拝借します。それから自然と彼と二人きりの状況を作り次第、拘束して拉致。屋敷に運び込んでお嬢様に対面させ」

「どこが正攻法なのよッ」

 

 扇子の柄が彼の頭部を強襲する。

 

「迅速かつ正当なご対面の演出を」

「この国でそれは拉致監禁なのよ、誘拐なの」

「今更何言ってるんですか、手段を選んでる場合でもないでしょう」

 

 あっけからんと言い放つ執事。

 

「要は事後だろうが本人が同意すればOKってことで。いっそのことここで執事として雇ってしまってもいいのでは」

「執事?」

「元々執事だったんでしょう、彼」

 

 首を突っ込み過ぎただろうか。しかしアテネは懐かしむように目を細めるのみ、気にしている様子はない。

 

「そうすればずっと一緒にいられますよ。生活に困ってるなら尚更ね」

「けれど、貴方はどうするつもり?」

「前々から言ってますが、お嬢様には人をいくら付けても付けすぎる事はないんですよ。ご自分の立場を冷静に考えて下さい」

 

 現状執事2人──1人はまだ子供という体制は、天下の大財閥の令嬢を取り巻く環境にしては余りにも小規模すぎる。アテネ自身が極めて優れた能力を持っているにしてもである。

 

 暫く満更でもなさそうな様子であれこれと思案をしていたらしいお嬢様だったが、やはり首をふるふると振って。

 

「と、ともかく!誘拐はダメ、まずは本人かどうかの確認を最優先にしてそれから考えましょう」

「もたもたしてると誰かに取られますよ」

 

 キッと睨まれたので口をつぐんでその場を退出する。こういう事は勢いが大切な気がしなくもないが、結局それは当人同士の気持ちが乗ればこその話でもある。

 

 

 

 そんなこんなで2日後。

 

「坂本洋介です!本日からお世話になります!」

 

 都内のとある配達業者の事務所で、元気よく声を張り上げていた男がいた。

 癖っ毛の黒髪に、丸い黒豚のメガネ。頬にはぽつぽつとニキビが目立つ。やや気の弱そうな印象が漂う、草食系男子坂本くんである。誰だ。

 

「はいはい、坂本くんね。よろしくよろしく」

 

 事務所の一角。散らかった机の上に放り投げられていた履歴書を手にとると、所長と思わしき初老の男性は今初めて目を通したらしく。

 

「君、年齢は」

「今年で20になります」

 

 坂本洋介。東京都出身の20歳。

 都内の私立高校を卒業後、大学受験に失敗。その後やる気を無くし、特に就職する訳でもなくフラフラ。アニメとゲームとお菓子を手に気ままな実家暮らしを満喫していたが、今年実兄が結婚し、両親と同居するという話が出たために家を追い出されそうになり──正確には兄の高学歴高収入を鼻にかけバカにしてくる兄嫁によってつまみ出されそうになり──慌てて働き口を探したものの、さした資格もない彼を企業が雇ってくれるはずもなく、まずはバイトという形でこの業者の門を叩くことになった。

 

「まぁ、知っての通りうちは慢性的に人手不足でね。それなりに根気がいることになると思うけど」

「大丈夫です。嫌味な兄嫁を見返すために頑張ります」

「色々と複雑な事情があるみたいだね……」

 

 所長の男性はあまり詮索したくないのか、苦笑を添えるだけ。やがて男性の後ろのドアが開く音がして、気が付いた所長はそこに向けて軽く手招きをしてみせた。

 

「綾﨑君。戻ったか。早かったな」

「お疲れ様です所長。いやー、自転車で飛ばしてたらパトランプに止められそうになっちゃって。振り切るのに苦労しました」

「……うん、まあ捕まらないでね」

 

 入ってきたのは水色の髪の青年だった。幼い顔立ちながら明るそうにへらっと笑うその表情はお人好しという文字がひっついている。

 

「彼が昨日話していた新人だ、君より少し年上だけど教育係を頼めるかな」

「ああ、この方が」

 

 青年はくるりと向き直ると、人なつっこそうな笑顔を向けた。

 

「綾﨑ハヤテです。よろしく」

「ど、どうも。坂本です」

 

 くせっ毛は少し戸惑いながらも手を出し返す。握手をすると、ハヤテと呼ばれた青年はまたニコッと笑ってみせた。

 

 

 想定外に早かった。

 心の中でそう吐露するくせっ毛。悟られないようにようにそっと息をついた。

 複雑な設定を考えて潜り込んだだけはあったなぁと、ぼんやりと目の前の彼を見つめながら思う。坂本という皮を被った〝執事〟は、予期せぬ事態の進行に幸先の良さを感じていた。

 

「坂本くんは複雑な家庭環境の中、這い上がろうとしているようだ。綾﨑くん、よろしく頼むよ」

「あ、はい!年齢とか関係ないのでびしばし鍛えてくださいっす、綾﨑先輩」

 

 勿論嘘である。設定てんこ盛りなこのくせっ毛は、本来は燕尾服を着こなした赤髪の従者として働いているのだから。

 

 そんなことは露知らず、目の前の青年は照れたようにほんわかと微笑んでいる。先輩という言葉の響きがいたく気に入ったらしい。一瞬女性かと見間違うほどに綺麗な顔立ちをしている。なるほどお嬢様のタイプなわけだなと1人納得する。

 

 

 あとはこの男をどうやって屋敷に引っ張っていき、お嬢様と感動の対面をさせるか。くせっ毛はそんなことばかり考えていた。 

 徳●さんは司会にはいないが、ご対面セットくらいは自作する暇はあるだろうか。セットはマキナにも手伝ってもらおう、場所はどこかそれっぽい劇場でも抑えておくか。なんて。

 

 

 しかし彼は、ご都合主義のようなスムーズな展開に少々浮き足だっていたのかもしれない。全く気が付いていなかった。目の前の綾崎少年以上に、気が緩んでいた自分自身に。

 

 

物語の終わり方について

  • エンディングは一つのみが好ましい
  • 各ヒロインのルート分岐などがあっても良い
  • どうでもいい
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