アテネちゃんの執事!   作:通行人A'

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『海の勇者ライフセイバーズ』のキャラが一部登場します。原作でもチラッと出たりしてますよね、美海ちゃんとか


Task13:学校へ行こう 公立編

 

 

 都立潮見高校。

 

 生徒数は約700人。男女350人ずつの共学。

 最寄り駅から徒歩10分ほどで、部活数も主要なスポーツや芸術系統は揃っている。いわゆる学力偏差値でいえば中央値の付近をうろうろしているような、都内の某区に存在するごくごく平凡な公立高校である。

 

 石でできた正門に刻まれた学校名を横目に、アイルは学び舎を眺めていた。喧噪も特にはなく、唯一体育館と思わしき場所からはかけ声らしき音が響いている。

 

 

 ふと、彼は身体に目を落とす。やや丈の短い学ランと黒ズボンに、傷みが顕著な黒鞄。どこからどう見ても学生の出で立ちのそれである。

 いつもの赤い髪とは打って変わり、黒くボサボサとした髪を伸ばし、顔には黒縁の丸眼鏡。カラーコンタクトを入れた黒目で、頬には急ごしらえのそばかすがちらほら。執事の時の格好など面影ひとつない。

 

 きょろきょろと視線を彷徨わせながら、彼は恐る恐るといった調子で歩みを進めていく。警備員なども見当たらず、扉を開けて校舎の中へと足を踏み入れた。下駄箱が並ぶ昇降口は比較的閑散としており、まばらではあるがチラホラと廊下を歩く制服の男女の姿が。

 

「あのー、ちょっといいですか」

「はい?」

 

 一人の女子生徒に声をかける。振り返ったその短いツインテールの女の子は、見覚えのない男子の登場に不思議そうに小首を傾げてみせた。

 

「えっとあの、近くの中学から来たんですけど」

「中学生?」

「はい、突然すみません」

 

 突然の非礼を詫びつつ、怪訝な表情をする女子生徒に、来校理由の説明を始めるアイル。

 

「俺、木下って言います。今年受験で志望校悩んでて」

「ほうほう、受験生とな」

「ええ。それでこの学校にも興味があって、出来たら見学したいなって思って来たんですが」

「あー、なるほど!オープンキャンパスってやつだね」

 

 女子生徒はポンと手を叩くと、ニコッと微笑んでみせた。

 思い切り大学の事だが、意味合いは似たようなものなので頷いておく。

 

「そっかそっかー、もうそんな時期だもんね。冬休み終わったらもう入試かー」

「ホントは夏にも行きたかったんですけど、部活で忙しくて暇がなかったので今日に」

「なるほどねー。部活あるとこの時期が勝負だもんね!」

 

 話しかけた女子生徒はかなり気さくな性格らしく、見ず知らずの相手にも淀みなく明るく接してくれた。

 適当な偽名を彼女に伝えつつ、学校の案内を頼むと「任せなさい」と二つ返事でOKをくれた。

 

「私は西沢歩。今年この潮見に入った一年生だよ。つまるところ、去年まで君と同じ受験生って事だね」

 

 女子生徒はそういうと、何故か得意げにごく当たり前のことを繰り返してみせる。

 

「急にすみません。よろしくお願いします、西沢先輩」

「先輩!それは中々どうして良い響き……えへへ、先輩かぁ」

 

 にへらと総合を崩す彼女は年相応に可愛らしい。うちの主人も普段からこのくらい笑顔を作れればなぁ、などとぼんやり考えつつ、先を歩く歩の後ろをくっついていくアイル。

 「まずは職員室」ということで、来校の理由説明のため廊下を歩いていると──

 

「おーす、西沢!」

「あ、宗谷くん」

 

 向かいから片手を上げて近寄ってくる男子が一人。シェフの気まぐれコース、爽やかな笑顔を添えて。

 

「珍しいな、放課後も残ってるなんて。お前帰宅部だろ」

「いやいや宗谷くん、この光景が目に入らないかな?」

 

 男子生徒は後ろのアイルに気が付いたのか、ひょこっと顔を覗かせる。白髪で体格も良いその男子生徒は不思議そうにアイルを見つめていたが、やがて合点がいったように頷いた。

 

「なんだ、西沢の彼氏か」

「なわけないでしょッ」

 

 慌てたように食ってかかる彼女に、男子生徒は悪戯っぽく笑ってみせる。

 

「冗談冗談、お前はハヤテ一筋だもんなー」

「わー!わー‼︎いきなり何を言ってるのかな宗谷くんはッ」

 

 顔をゆでだこのように真っ赤にして両手を振り回す歩。

 

 そんな光景を横目に、アイルは内心ほくそ笑んでいた。なんと随分聞き覚えのある名前である。先日といい、どうやら自分はよほど幸運の女神に愛されているようだ。

 

「そうじゃなくて!この子は、来年受験生で──」

 

 歩はまだ赤らんだ頬のまま、かくかくしかじかと必死に事情を説明している様子。暫くして、彼は再び合点がいったようにこちらに視線を向けて来た。

 

「へー、高校選びでウチをね。そいつは熱心だな!」

「あ、いえ。そんな大層なことでは」

「俺は南野宗谷。西沢と同じ一年だ、よろしくな」

「どうも、木下です」

 

 差し出された右手に握手で返す。

 宗谷と呼ばれた彼もまた、明るく気さくな調子で話すタイプのようだ。コミュニケーション力に長けた生徒が多いのは好ましい。

 

「宗谷くんは水泳部でね、潮見のエースなの。化け物みたいな速さで泳ぐ通称魚類なんだよ」

「誰が魚類だ誰が」

 

 宗谷はやや鼻息荒く、腕を組む。

 

「俺は泳ぎで誰にも負けないことが目標なんだ。

知ってるか木下。カバはな、あの水泳の神様イアン・ソープの倍近いスピードで泳ぐんだ。そいつが相手でも俺は負けない」

「はぁ」

 

 なんていらない知識なのだろう。

 

「つーわけで、入学したらお前も水泳部な」

「凄いな話の流れ一切見えなかったですよ今」

「いいからいいから、とりま入ってみて合わなかったらまた考えりゃいいから。いいか、競泳水着の割引クーポンが何故か幸運にもここにあってだな」

 

 どこの宗教勧誘か。気安く肩に手を回してくる宗谷だったが、あっけなく引き剥がされてしまう。

 

「こらこら、悩める受験生を困らせないの!」

「んだよー、西沢にはカンケーないだろ」

「関係大あり!四面楚歌の中勇気を出して私を頼ってくれた後輩はしっかり守らないと」

 

 四面楚歌でも勇気を出して話しかけたわけでもないが念のため。

 唇を尖らせる宗谷を引きずるようにして先行する歩。そんなこんなで、一行は校舎の2階、敷地のちょうど中心に位置する部屋に到着した。プレートには『職員室』とある。

 

「そうですか、大変感心です。是非気がすむまで見学していって下さい」

「ありがとうございます」

 

 かくかくしかじか。室内の一人の教諭に事情を説明すると、彼は機嫌良く見学をOKしてくれた。室内の他の教諭よりも心持ち服装がきちっとしている、学年主任かなにかだろうか。

 

「では南野くん、西沢さん。彼をよろしくお願いします。くれぐれも失礼のないように」

「え?俺も?」

 

 テキトーに離脱するつもりだったのか、宗谷はきょとんと目を丸くする。

 

「君の英語の必修課題が見事に未提出です。今回は再提出のチャンスをあげましょう」

「お任せください」

 

 人選ミスではないだろうか。

 

「西沢さん、君もほぼ白紙では提出として認められません。猶予を与えるのでちゃんと案内しなさい」

「お任せください」

 

 二人とも優等生とは言えないらしい。

 そんなこんなで、不良児2人に連れられて校舎をぶらつくことに。

 

「っても、案内もなにもうちの学校に紹介するほどのもんもねーよなだ」

「ちょっとちょっと宗谷くん!我らの母なる母校には国学に誇るべきアドバンテージだらけじゃないかな!かな!」

「ほー、じゃあ潮見《うち》の名所って?」

 

 少し開けた広場に着くやいなや、歩が自信満々といった調子で両手で大きく広げてみせる。

 

「例えばここ!潮見高校名物、食堂!」

 

 白いプラスチックの大テーブルが四つ。奥には申し訳程度にひっそりと購買。広さでいえば教室ひとつ分くらいか。

 

「どこにでもある学校の食堂に見えますが……」

「甘いね悩める受験生くん」

「木下っす」

 

 偽名だが。

 

「この学食には潮見名物の焼きそばパンがあるのだ!」

「焼きそば?」

「そう!これは町内でも有名なパン屋さん『ブッシュドノワール』が毎日出来立て30個をうちの高校に入れてくれるのだよ!」

 

 どこからともなく取り出されたのは、溢れんばかりの焼きそばを挟んだ一つのコッペパン。

 

「自家製のこってり甘辛濃厚ソースからまる麺のハーモニー!かつふわっふわで自然な甘み薫るパンとの親和性は最早絶技!昼休みになったら生徒たちの争奪戦が始まるの!ここで手にできなかった生徒はパン屋まで買いに行くしかない──」

「それパン屋の名物じゃねーか」

 

 宗谷の言葉に固まる歩。

 

「次行ってみよー!」

 

 紙芝居がごとく鮮やかな場面転換か。次に訪れたのは何の変哲もない体育館だった。

 

「ここは潮見名物の体育館」

「何でもかんでも名物付ければいいってもんじゃねーぞ」

「もぐもぐ」

「あと食うのもやめろ」

 

 体育館の中心で焼きそばパンを頬張る少女。

 

「まだまだ!この体育館はグラウンドと隣接してるんだよ!いつでも外遊びにシフト可能!」

「いや構造上よくあるよ」

 

 体育館の扉を開け放つと、上履きのままグラウンドに舞い降りる女子高生。手には白と黒のコントラストが効いた球体が──

 

「何を隠そう、練馬のベッカムと呼ばれた私のリフティングが存分に披露出来るかな!このグラウンドで!」

「誰が呼んでんだよ……」

 

 先程から彼女はどこからパンやらボールを取り寄せているのだろうか。疑問を挟む余地なく、高々と放り投げられたその球体は、そのまま一直線に落下。彼女が持ち上げた右足に当たると

 

「あ」

 

 1人寂しく。明後日の方向に転がってしまった。

 

「ベッカムは引退だな……よし、今度はとっておきの場所に連れてってやるぞ受験生」

「はぁ」

 

 両手をついて項垂れる歩を尻目に、野郎2人はグラウンドを横切って反対へ。金網に囲まれた長方形のエリアには、透き通った水が張られている。

 

 

「ここがどこだか分かるか、受験生よ」

「見たまんまですね」

 

 言うまでもなく、夏の遊び場、プールである。

 時期的には不自然なことに綺麗な水が張られているところからすると、この学校ではまだ利用されているのだろうか。

 

 宗谷は腕組みしたまま、飛び込み台に足をかける。

 

「ここは戦場だ」

「いやプールでしょ」

「ここで繰り広げられるのは、意地と意地のぶつかり合い。コンマ秒を、伸ばしたその指に掴み取るまで終われない、戦の極地」

 

 話を聞く気はさらさらないらしい。

 

 宗谷は目を閉じて思いを馳せたように熱弁をふるっているが……あいにく全く興味がないアイルはといえば、右から左に聞き流しつつあたりを見回す。実は周囲に開閉式屋根があって、屋内プールに早変わり、といった機能もないらしい。冬も目前と迫ったこの時期に利用するのはいささか厳しいのではないだろうか、軍学校よそりく寒中水泳訓練でも行っているなら話は別だが。

 

「あ、宗谷くーん!」

「む?」

 

 極めて明るい声が響くと同時、ドタバタとせわしない足音をとどろかせながら1人の少女が駆け込んでくる。黄色いポニーテールをふりふりと揺らして、目を輝かせながら。

 

 

「美海か、どーしたんだよ。今日はバイトじゃなかったか」

「いやー、明日だったんだよね。勘違いしてた」

「相変わらずだなお前は」

 

 美海と呼ばれた少女はそれほどでも、と照れたように微笑んでいる。多分褒められてない。

 

「おや?そこにいる君はどこの誰?」

「ああ、来年入学する木下だ。水泳部の次期エース候補でな」

「この世から受験をなくしてくれれば今すぐにでも」

 

 なんとびっくり入部先まで決まっているらしい。

 

「へー、ってことは君もライフセーバーを目指してるの?」

「え、ライフセーバー?」

「うんうん!うちの水泳部に入るってことはつまり、最強のライフセーバーを求めてるってことだよね」

 

 問いの意味が分からず小首をかしげていると、

 

「あー、すまん。こいつの言ってる事は聞き流してくれ。最近ちょっと色々あってさ」

 

 なぜかげんなりとした表情で宗谷は、アイルの肩に軽く手を乗せる。ライフセーバーとは読んで字のごとく

 高校では競泳部とは別にライブセービングが盛んなのだろうか。

 

 

「あれ、美海じゃん」

「歩!」

 

 ひょっこりと。3人の姿を見つけた歩がプールサイドに駆け寄ってくる。リフティングは終わったのだろうか。

 

 

「先輩、ミランは引退したんですか?」

「いや練馬限定だから!わかりにくいなそのボケ」

 

 練馬限定でもない気がするが。

 

「美海まで一緒とは思わなかったよ」

「うん、ちょっと宗谷くんに会いに。土曜日に行く水族館のことで相談がね」

 

 ここで歩の目がキラリと光る。

 

「はっはーん!」

「な、何だよ西沢。その不適な笑みは」

「美海と水族館デートってわけですか。宗谷くんも隅に置けないですなー」

 

 途端に顔を赤くする宗谷。形成逆転。

 しかし、やりとりを見るにこの2人は恋人関係――

 

「全然全然!ただライフセーバーの参考にペンギンを見に行くだけだよー。宗谷くんとはそういうんじゃないから」

 

 という訳でもないらしい。

 あっけカランと。満面の笑みでそう返す美海の後ろで、がっくりとうなだれ膝をつく宗谷。学校にはつきものの青春のいろは。ずいぶんとわかりやすい構図だなと、アイルは独りごちた。

 

 

 

 

「うーん、大体こんなもんかなぁ」

 

 宗谷たちと別れた後も案内はしばらく続いた。とはいうものの、これといってめぼしいポイントもなく――今までがあったかといえば層も言えないが――つつがなく進行し、2人は正門前まで来ていた。

 

 

「ありがとうございました先輩。おかげさまで受験、頑張れそうです」

「そっかそっか!悩める学生を救うのは先輩の使命だからね、あと私の単位のためにも」

 

 正直な学生だ。

 

 

 

「あ、あとちょっとお聞きしたいんですが」

 

 

 アイルはわざとらしく、思い出したようにそう口を開く。本題はここからだった。

 

「なにかな?なんでも聞いて」

 

 少し思案するように視線を彷徨わせた後。

 

「さっき、先輩たちが話していたハヤテって人のことで、ちょっと」

「ハヤテくん?」

 

 歩はきょとんと小首をかしげる。当然だろう、友人の話題が見知らぬ第三者から出てくれば。

 なので、彼は言葉を選びながら続ける。彼女との関係もまだ全く分からない。

 

「えっと、実は僕……の兄が、バイト先で綾崎ハヤテさんって方と一緒だって聞いてて。確か高校生って言ってたみたいなので、もしかしたらさっき言ってた人と同じなのかなって」

「え!そうなんだ、それは偶然だね!」

 

 素直な子なのだろう。とってつけたような理由にも。彼女は少しも疑うことなく話してくれた。

当該の人物――同じクラスにいるその青年のことを。

 

 

 彼女の知っている綾崎ハヤテのという人物はとにかく真面目で勤勉、誠実で誰にでも優しいという。常に笑顔を絶やさず、だから彼の周りにも自然と人が集まってきて、そうして彼らも笑顔になるんだと。

 

 

「ハヤテくんはね、坂道をノーブレーキで走る自転車から、人を救い出すのも朝飯前なんだよー」

 

 少々評価の仕方がおかしい気もするが。それでも、聞いているだけで分かる。彼女が彼のことを憎からず好ましく思っていることは。

 それは端から見れば微笑ましいことだ。アイルも何も知らぬ一回の他人であれば、背中を押してあげたいとも思える。ただ立場を考えると、それは少々難しかった。

 

 

「その、ハヤテさんはどこに住んでいるんですかね。兄もバイト以外ではあったことないって」

「あー、うん。実は私も家には行ったことなくて、『ウチはビンボーだから、他人を呼べるところじゃない』って」

 

 それはなんとなく、この前忍びこんだバイトでも薄々は感じていた。でなければ年齢を偽ってバイトなんでしていないだろう。

 

「だから、学校終わったらすぐバイトなんだよね。それは皆もあまり遊べなくて残念がってるし、も、もちろん私もだけど」

「……ご両親とかは、何をされているんでしょう」

「うーん、私は会ったことないなぁ。ハヤテくんもその辺は話したがらないみたいだし」

 

 概ね納得のいく回答だった。

 彼女は嘘をつくような人間ではないはずだ。同級生の中でも、それなりに仲が良いカテゴリーに部類されるのだろうことも想像に難くない。それでも彼のプライベートについては見えてこない。

 

 優しく誠実。けれど公私に明確な線を引いている人間、そんな印象をアイルは抱きつつあった。

 

 

「あ、なんなら明日ハヤテくんに話しておいてあげようか?」

「いえ、入学したらちゃんと挨拶します。西沢先輩、本当にありがとうございました」 

「あははは。実は私も英語の課題やばかったし、おあいこだよ」

 

 

 どこまでも正直な人だった。

 帰宅していく歩の後ろ姿を見送ると、アイルは反対方向に足を進めつつ、携帯端末を取り出す。連絡先はいわずもがな、彼のクライアントならぬ主人だったが……

 

 

「ありがと。お疲れ様」

 

 一通り報告を終えた返事は、意外なほどあっさりとしたものだった。

 

「当人の在籍も確認できましたし、このままこの学校に生徒か教師として転入でもして接触すれば」

「……」

 

 しばしの間があり。

 

「いいえ、それは止めておきましょう」

「お嬢様?」

 

 目を丸くする執事。

 

「えっと、プランを変えますか?お嬢様が直接殴り込むとか、止めはしませんが危険が」

「違うわ。この件はここで一旦手を引くと言っているのよ」

 

 危うく携帯を落としそうになり、慌てて支える。

 

「本気で言ってるんですか」

「ええ」

「どうして……」

 

 携帯の向こうでは、しばし逡巡するような彼女の

 

「別に会わないと言ってるわけじゃないわ、ただ少し彼の事を見守ることも必要かと思ったの」

「……」

「ハヤテは今、その場所でたくさんの友人に囲まれているのでしょう」

 

 直接見たわけではないが、それは間違いなさそうだ。

 

「かもしれませんが。けど」

 

 心配しないで。電話越しにアテネは諭すように、穏やかな口調で続ける。

 

「別に会うのに臆病になってる訳じゃないの。正直以前はそういう気持ちもあったけど、そうではなくて」

 

 私は、ただ――

 

 

 

「ハヤテの幸せを一番に考えたいの」

 

 

 ため息をついた。そうする以外に返答しようがない。

 

「私はハヤテを強く傷つけてしまった。それはもう取り返しがつかないこと。だから彼がもし救いを求めていたら、どんなことをしても助けるつもり、でも、」

「……」

「彼に幸せでいてほしいの。それを壊すようなことだけは……できないわ」

 

 今彼が幸せなのかまだ分からない。と、喉まででかかった言葉をなんとか押し込む。

 忘れてはならない。それを決めるのは主人であり、彼は主人の判断を支える情報を報告すだけにすぎない存在だ。

 

「それに、これだけ近くにいるのです。様子を見守ることができる、それだけでも十分ですわ」

「分かりました。もう何も言いませんよ」

 

 そこまで言われてしまえば、執事の為す術はない。主人の命令は絶対だ。

 

「拗ねないでちょうだい。貴方の仕事ぶりは評価しているわ」

「別に。もう少し学生気分を味わいたかっただけですよ」

 

 何がおかしいのか、通話口からはアテネの笑い声がこぼれた。

 

「あら、だったらまた白皇に入学する?」

「冗談。3年もいればあの学校は十二分です」

 

 どうも今日の彼女は素直すぎて気味が悪い。などと正直に口にすればどやされるのは明白なので、頭の中にとどめておくことにした。見上げれば雲一つない空に、鮮やかなあかね色のカーペットが奥へ奥へと広げられている。

 

 

「私の方も、いい加減白皇の仕事に戻らないとね」

「ええ是非ともそうしてください。古今東西から鬱憤をためた理事の方々が、引きつった笑みでお嬢様を迎え入れてくれるでしょう」

「貴方、人のモチベーションをへし折る天才ね」

「そいつはどうも」

 

 

 

 

 

 

物語の終わり方について

  • エンディングは一つのみが好ましい
  • 各ヒロインのルート分岐などがあっても良い
  • どうでもいい
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