アテネちゃんの執事!   作:通行人A'

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Task14:学校へ行こう 私立編

 

 

 東京都杉並区の敷地面積をご存知だろうか。

 約34平方キロメートル。広さにして1000万坪以上、東京ドーム700個分に相当する。

 

 私立・白皇学院の敷地はほぼこれに該当する。何を言ってる分からないと思うが、書いてる本人も意味を実感できないので問題はない。事実であるという事のみが重要なのである。

 

 さて、ここ白皇学院は規模からも察しが付いてる通り、小中高一貫教育のエスカレーターシステムとなっている。そう、人を怠惰に貶めること請け合いのエスカレーターシステムである。ぬるま湯システムと改名することを勧めたいがそれはさておき。

 

 白皇学院では国内最高峰のマンモス校である。手前味噌ではあるが、全国の大富豪の子女やあらゆる天才たちが集まる超エリート学校として有名という側面もある。そのため、国内最高峰の進学校と呼ばれてもいるのである。それに相応しいだけの設備や環境はありとあらゆる事態を想定して整備されている。杉並区全域という意味不明な敷地規模はほぼ全てが、生徒に最高のパフォーマンスを発揮してもらうためだということを肝に銘じてほしい。

 

 特に都内に住んでいる者なら誰しも一度は目にしたことがあるだろう、「白皇の時計塔」は学校の象徴である。東京タワーよりも高いこの建築物は、我が校の躍進と栄光を示すものだとぬかす者もいる。

 しかしながら、昨今の経済情勢を鑑みるに、無駄な建築だと世間が叩き始めるのも時間の問題ではないかと──

 

 

「相変わらず、はちゃめちゃな学校紹介ですね……誰ですかこれ書いたのは」

 

 呆れたようにそう言うと、春風千桜はメガネを正した。グレーの髪を黒いリボンで後ろに結んでいるその少女は、手に持った二つ折りのパンフレットを机に無造作に放る。

 

「大方、理事会の悪ふざけでしょう。真面目な謳い文句に飽きたのではない?」

 

 抱えていた資料の束を本棚に戻しながら、紫色の髪をたなびかせた少女──霞愛歌は素っ気なく返してみせた。

 

「新しい生徒会がスタートしたのに、初っ端からこんな悪ふざけのクレーム対応だなんて先が思いやられますね」

「あらそう?退屈な依頼よりはマシじゃない」

 

 頭を抱える千桜とは対照的に、愛歌はくすくすと他人事のように面白がっている様子。

 

 

「仕方ないわ。仕事である以上はきちんと対応しましょう」

 

 その声の主に、2人の視線は注目する。生徒会室の一角に鎮座するその、ピンク色の髪の少女に。

 

「加えて、正式な学校紹介の文章も作り直さないとね。お願いする人をまず決めないと」

 

 金色に光る純金のプレートには『生徒会長』。そう掘られたその机に、凜と背筋を正して座るその少女こそ、この空間──生徒会室の権力を一点に集中させ、掌握する絶対的オーナー。もとい学院の絶対的専制君主を確立させた彼女に逆らうということはすなわち、学院の利権を貪る富裕層全てを敵に回す事と同義であり

 

「……ねぇ?紹介の仕方に悪意がない?」

「いきなりどうしたヒナ」

「ごめんなさい、疲れてるのかしら」

 

 白皇学院生徒会長、桂ヒナギクは額を軽く抑えつつため息をついた。

 

「まだ慣れてないのかも、こんな役目初めてだから」

「おいおい、だらしないぞヒナ。そんな事でこの大所帯の長が務まると思っているのか」

「あら、そう言うなら仕事を手伝ってくれない?役員の花菱美希さん?」

 

 笑顔を向ける先には、カチューシャでオールバックにした少女が1人。彼女はブルーがかった灰色の髪を撫でながら、あさっての方向に視線を向けている。

 

「生憎ね。私はこれから夏休みの課題に取り組まないといけないの。学問にいそしむのが学生の本分よ」

「今11月なんだけど」

「かけた時間は関係ない、結果を出せばいいの」

「期限が結果でしょ」

 

 呆れたように目を細める会長に構わず、美希は凶器かと思うほど分厚い書籍をテーブルに降ろす。

 『夏休みの敵』。悪意すら通り越して潔さを感じさせるタイトルである。

 

「というわけでヒナ。この危機を乗り越えるために、答えを写させてください」

「ダメ」

 

 即答。そもそも2ヶ月前に教諭に提出済みである。

 

「自分の力でやりさない」

「そんな殺生な!この非人道的な量をたった一人でやれなんて、そもそも夏休み中でも無理だというのに!鬼!悪魔!ち○ろ!」

 

 バンバンとテーブルをたたくがどこ吹く風とスルーする会長。代わりに、資料から視線を外した千桜が声をかける。

 

「長期休みなんだから、毎日ちょっとずつ消化してれば良かったじゃないですか」

「そんな計画性があれば落第寸前になんてなってないわーー!!」

「威張ってゆーな」

 

 清々しいほどの開き直りである。だが、それは彼女だけではなく――

 

「甘いな皆の衆、私ももちろん右に同じだ!」

「なのだー」

 

 テーブルの下からひょっこり顔を覗かせた少女が2人。かと思えば、部屋の中央に躍り出る。

 

「待たせたなブルー!ここに風紀委員ブラックこと、朝風理紗も参戦仕る!」

「瀬川泉改め、いいんちょさんレッドも参上なのだー!」

 

 お前たち、私のために。

 美希は拳を打ち震わせると、一気に2人の間に滑り込む。

 

「副委員長ブルーもここに!3人合わせて」

 

 見事な連携でポーズを決めると――

 

「ザ・夏期課題未提出3人衆!ここに見参!」

「貴女たちね……」

 

 生徒会名物かしまし3人娘、ここに推参である。

 

「あらあら、3人とも元気ね」

「えぇ。相変わらずですね」

 

 頭を抱えるの姿までが生徒会名物かもしれない。思い切り他人事のように微笑む愛歌。呆れつつ、資料に目を戻す千桜。本日も生徒会室は平和である。

 

 

 ここ、白皇学院生徒会長執行部は彼女たちが取り仕切る学院の組織である。学院の運営から行事にかかる指揮までその仕事は多種多様にして多忙を極める。通常学園法人は理事を始めとする法人の理事会が運営を取り仕切るのが通例だが──

 

「行事とかもそうだけど、学校の運営を生徒に任せ過ぎじゃないかしら」

「それだけ信頼されてるのよ。そのうちその信頼が利用されるかもしれないけどね……ふふ」

「物騒な話をしながら地価を眺めるのはやめてよ、愛歌」

 

 天下の学院理事長が絶賛放任主義という有様なので、運営の大半は生徒会にまで降りてくるという始末であった。

 

 

 その組織の長、生徒会長を務めるのは桂ヒナギク。彼女を準える言葉は有り余る、容姿端麗、頭脳明晰、遠慮会釈、温厚篤実、才色兼備などなど。そんな彼女を学院のトップに推す声は後をたたず、1年生ながら彼女1人の推薦擁立のみで全会一致という前代未聞の生徒会長選を迎えたのである。それが、ほんの1ヶ月前のことである。

 

 彼女の指揮の下、副会長である霞愛歌、書記である春風千桜が左右の腕として並び立つ。頭は切れるし、仕事はそつなくこなす優秀な執行部と理事ら法人関係者は期待を寄せる。彼女たちに付き従う役員は個々の差はあれ、クラス委員長などを務めるなど基本的に優秀な生徒が揃っている。

 

「だったら、妥協案としてヒナが答えを教えてくれるプランはどうだろう」

「どこが妥協案よどこがっ」

 

 例外はあれど。

 

 

 とはいえ、当初の仕事ムードはどこへやら。すっかり3人娘がドタバタと走り回り、それを嗜めるヒナギクと呆れたように眺める千桜。少し離れて、我関せずと何故か新聞の地価一覧を眺めている愛歌。メンバーの意識も四方八方に散らかりつつある、そんな時だった。

 

 

「まぁまぁ皆さん。ここは一つ、紅茶でもいかがですか?」

「え?」

 

 スッと、そばに差し出されたのはティーセット。透き通るような爽やかな甘みが、薄紫色のカップから立ち上る。本当にいつの間に来ていたのだろうか、ヒナギクが顔を上げると、執事はシュガーポットを添えながら柔らかく微笑んでみせた。

 

 

「お久しぶりです、ヒナギクさん」

「アイルさん!」

 

 驚く彼女に構わず、ティーキャスターを軽く押しながら、彼は千桜たちの元にも手早くティーセットを用意していく。

 

「あらこの香り、ウバかしら」

「さすが愛歌さん。リラックス効果がありますから、一旦肩の力を抜いてはいかがでしょう」

「そうね、力なんて元々入っていなかったけれど」

 

 愛歌は何食わぬ顔で席に着くと、カップを手に上機嫌そうに瞳を閉じた。スリランカのウバ州で作られるこの紅茶は高いリラックス効果に加え、タンニンが多く美容効果があることでも有名だ。女性には非常にうれしい品である。

 

 お茶菓子もありますよ。そう言ってアイルが小皿にクッキーを並べると、騒いでいた3人娘も目を輝かせて集まってきた。

 

「お帰りなさい、いつ日本に?」

「数日前に。お嬢様の気まぐれです」

 

 ヒナギクは驚いた表情を今度は嬉しそうに破顔させる。

 

「天王州さんも戻ってきているんですか」

「はい。お嬢様も会いたがっていました、また話し相手にでもなってやってください」

「ええ、もちろんです」

 

 いつの間に用意したのか、生徒会の大テーブルには赤いシルクのクロスが敷かれ、すっかりティーブレイク仕様に様変わり。中心には銀のケーキスタンド、クッキーや色とりどりのマカロンが綺麗に並ぶ。人数分のティーカップからは控えめに湯気が立ち上っている。

 そんな光景に目を丸くしていた千桜は、はっと我に返ったように会長へと目を向けた。

 

「ヒナ、この人は?」

「そっか、ハル子は会うの初めてだったわね」

 

 ヒナギクが手を向けると、丁寧にお辞儀をしてみせる目の前の執事。黒い燕尾服はすらりと流れ、髪の色に合わせた赤いネクタイも目を引く。この金持ちの学校ではそこまで珍しくない存在ではあるが、千桜自身こうして間近で会話する機会はそう多くない。アニメや漫画の存在にとどまっているのが関の山だ。

 

 

「初めまして。天王洲家当主アテネ様の下、執事として仕えております、アイルと申します。」

「こちらそこ、私は春風です、生徒会では書記を――って、天王州?」

 

 天王洲家と聞いて、千桜がはっとする。聞いたことがある名前、どころの話ではない。

 

「天王洲家って。確かこの学院の」

「えぇ、彼はうちの理事長、天王州アテネさんの執事なの。以前から生徒会のサポートもしてもらってるみたいでね。今年も可能な範囲でお手伝いしてもらうことになってるのよ。本業は理事会のサポートなんだけどね」

 

 ヒナギクはどうやら顔見知りらしい。淀みなく説明するその様から立場上、関係者として紹介するのも手慣れていることがうかがえる。

 

 しかしなるほど。白皇の生徒会には顧問の教諭とは別に、法人関係のツテでサポート役がいると聞いたことがある。むしろ教諭は生徒に丸投げ状態になりがち故、運営母体に近いところからサポート役が重要なのかもしれない。外部ならまだしも学院の関係者、どころか経営者一族の関係者なら誰しもが納得するだろう。

 

 

 と感心しているのもつかの間、千桜の目の前にはティーセットはもちろん、綺麗に等分されたケーキが、汚れ一つない美しい銀食器と一緒に添えられている。話している間とはいえ、全く気配すら気がつかなかったとは恐れ入る。

 

「いやしかし、見事な手際だな」

「ありがとうございます。ですが、この程度は執事の嗜みですから」

 

 薄く微笑む執事に、千桜は何かを訴えるように胸の前でグッと拳を握りしめた。

 

「悔しいが認めようッ。現実と二次元をごっちゃにしてもいいと、今だけは」

「ハル子何言ってるのよ」

 

 萌えに燃えたいお年頃。

 

 

 

 

 

 

 静かに漂ううろこ状の雲から、は麗らかな陽が差し込む。そんな午後。

 

 

「いやはや、ほんとにアイルさんはハイスペな執事だよなぁ」

「だねー、ウチの虎鉄くんにも見習ってほしいよぅ」

 

 生徒会室では、甘い香りと一緒に、ゆったりとした時間が流れていた。

 大テーブルを囲んで始まったお茶会を、先程までの喧噪が嘘のように皆がおのおのリラックスして楽しんでいる。

 

「顔良し性格よし器量よし、まさに一家に一台というものだろう」

「理紗、人を家電製品みたいに言わないの」

 

 好き勝手に評する3人娘をたしなめるヒナギクも、穏やかな表情でティーカップに口を付けている。

 

「いやしかし、本当に高スペックですね。さすが連邦の――じゃなかった、さすがは天王州家」

 

 天王州家といえば世界でも有数の大財閥。そこの当主ともなれば権力は計り知れない、そこに仕える従者も生半可なスペックでは許されるはずもないだろう。当主を立てる存在なのだから当然だが。

 そんな執事が付いている生徒会とは一体何者なのか。

 

 

「あらあら、私にはかなり深ーく猫かぶってるように見えるけれど。ねえ、アイルさん」

「愛歌さん、あんまりいじめないでくださいよ」

 

 困ったように苦笑しながらも、空になったカップに丁寧に紅茶を注ぐアイル。

 

「愛歌さんもお知り合いなんですか」

「私の方は家柄的にも、天王州さんと付き合いもそれなりにあるから。多少は、ね?」

 

 千桜の問いに、優しい笑みを浮かべる愛歌。美しいその笑顔の裏に怪しげな色が見え隠れしているのは気のせいか。気のせいということにしておこう。

 

「ふふ、我々もアイルさんとは浅からぬ縁があるぞ!」

 

 と、何故か自慢げに話題に乗っかってくる3人娘。

 

「その通り!ちょくちょく課題の答えを教えてもらったりもしているからな!あとお菓子作ってもらったりな」

「なのだー」

 

 不適に笑う理紗も、ニコニコとお日様のような笑顔を浮かべる泉も。そして美希も、3人の手元には抱えた分厚い課題が。

 

「あなた達ね……」

 

 呆れ果てたようにカップを置くと、ヒナギクはじーっと執事の方に視線を送る。

 

「アイルさんも、あまり美希たちを甘やかさないでくださいよ」

「ははは……」

 

 頬を掻きながらやはり困ったように笑うアイル。そんな彼の元に駆け寄る美希たちは――

 

「というわけで、アイルさんの力も借りて夏休みの敵の討伐を」

「ダメよ、自分の力でなさい」

「そんな殺生な!」

「鬼!悪魔!ち○ろ!」

「だからそれ誰のことよッ」

 

 

 ひとときの優雅さを運んできたティータイム。それが終わる頃には、時刻は夕方に迫っていた。あかね色の光が生徒会室の大窓から注ぎ込まれ始める。

 

 

「そういえば、学校案内の件ですが、こちらで原稿をお願いしておきました。生徒会に連絡をするように言ってるので、後で取り次ぎだけお願いしますね」

「え、本当ですか」

 

 手早く片付けをしながら、アイルは思い出したようにヒナギクにファイリングした資料を手渡した。

 

「ごめんなさい、いきなり手伝ってもらって」

「いえ、これは理事会の不備です、皆さんに責任はありませんよ」

 

 むしろ、仕事を増やしてしまってすみません。執事はキャスターを部屋の隅に避けつつ続ける。

 

「いずれの業者の方も手配をかけておきましたので、諸々明後日には片付くと思います」

「用意周到だな」

 

 千桜は眉を上げて、その手際に注目する。それだけ、ここの生徒会が繁忙を極める場所だという裏返しでもあるのだろうが、下手に慣れてしまえばもう全部丸投げしたくなるかもしれない。

 もちろん、生徒会長のヒナギクがそんなことは許さないだろうが。

 

 しかし心なしか、いつもより肩も軽い気がする。

 

「ハーブの効果で疲れも取れやすくなってると思いますから、今日は早くお帰りになってゆっくりお休みなさってください」

「せっかくだし、お言葉に甘えましょうか」

 

 愛歌は読んでいた英国の新聞を折りたたむと、ヒナギクたちもそれに頷く。ここまでしてもらったのだから、厚意を受け取るのが礼儀だろう。

 

「お嬢様からも、生徒会の皆様には可能な限りサポートを言われておりますので。お困り事があれば、どうぞ遠慮なく」

「では、遠慮なく我々の課題の協力を」

「そ・れ・は却下よ」

 

 案の定のやりとりに、執事はやはり困惑気味の苦笑で返す。

 

「これから理事会に用がありますので、これにて」と執事は一礼すると、キャスターを押しながら生徒会室を後にしていった。そんな彼を見送りつつ、帰宅の用意を始める生徒会の面々。

 

 

「はぁ……結局夏休みの敵は敵のままだったか」

「今日から奮起して片付けてしまえばいいじゃないか」

「そんな行動力があったら万年赤点ギリギリで苦労してないわー!!」

「だから威張ってゆーな」

 

 千桜も手に持っていた文庫本を鞄に押し込む。知的さが垣間見える彼女のことだ、きっと高尚な純文学をたしなんでいるに違いない。何だかアニメのようなイラスト挿絵が隙間から見えたような気がするがきっと気のせいに違いない。

 

「おいモノローグ、私の生徒会生活を失墜させる気か?」

「千桜さん、どうかしたの?」

「あ、い、いえ!なんでも」

 

 慌てて鞄を持ち上げて、メガネをくいっと正す千桜。

 

「そういえばアイルさんって、今おいくつくらいなんですかね」

「うーむ」

 

 かなり雑な話題の逸らし方だったが、周囲の考え込む反応を見るに効果はあったらしい。

 

「そうね……見た目はかなり若いし、20代前半くらいかしら」

「学生は数年前に卒業してると言ってたからな」

 

 ヒナギクは口元に手を当てて考え込む。すると、隣で美希が思い出したように手をたたく。

 

「学生といえばヒナ、白皇出身って言ってなかった?」

「ええ、それも天王州さんから聞いたのよ。いつの卒業生までかは分からないけど」

 

 すると愛歌がくすりと微笑んでみせる。

 

「あら。それどころか、彼も生徒会出身よ。純粋に私たちの先輩になるわね」

 

 彼女の言葉に、意外という表情をしたのは千桜だけではなかった。ヒナギクや美希らも初耳という反応をしているらしい。

 何か面白な気配を感じたのだろう、美希たちの目がキラリと光るのを千桜は見逃さなかった。

 

「ということは!」

「うむ、生徒会にある過去の活動誌を見れば」

「一発だねー!」

 

 言葉を交わさずとも意思疎通をはかる3人娘。

 

「ちょっと、3人とも!もう生徒会室閉めるわよ」

 

 という会長の忠告などつゆ知らず、わーっと生徒会室に隣接された資料室になだれ込んでいくのだった。

 

 

 

 

 

 白皇学院はその広大な土地が大きな特徴の一つだ。生徒会が入る時計塔は学院のシンボルとして敷地のド真ん中に設置されているが、法人としての運営を司る理事会はといえば、同じ敷地内とはいえ対局に位置している。敷地は練馬区ほぼ全てといわれるほどに広大、故に。

 

『次はー、理事会校舎前駅、理事会校舎前駅。お降りの方は停車ボタンを押してください』

 

 移動に時間がかかることこの上ないのである。敷地内を専用の路面電車走るのも頷けるほどに。

 乗客ほぼいないガランとした車内を見回すと、アイルはそばにあった停車ボタンを押した。

 

 チンチン、と今時古風な音を立てて停車する電車から降りると。前方に精巧なゴシック様式の尖塔群が並ぶその高層建築物が立ちはだかっている。入り口はさながらドイツのケルン大聖堂のような荘厳さと豪華さで、ここが校舎だと初見で分かる人間はまずいないだろう。

 

 どう見ても歴史的価値のある教会である。

 とはいえ、ここに理事会本部があるのだ。生徒会といい理事会といい、高さを威厳のように捉える思想は一体いかがなものかと考えなくもない。まぁ、そんな学院のトップは彼の主人なのだが。

 

 

 さて。異彩を放つその建物へ向けて、停留所から一歩踏み出したその時。

 

 

「あれ、先輩?」

 

 不意にかかってきたのは女性の声に足を止めた。

 人違いだろう。先輩と呼ばれるような間柄の人間はここにはいないはずだ。生徒か誰かが勘違いしているに違いない。穏やかに訂正を指摘しようと振り返ると

 

「あ、やっぱり先輩だー!」

 

 満面の笑顔で服の裾を引っ張ってくる女性が1人。メガネに白衣を身にまとっている彼女は、どう見ても生徒のそれではなかった。

 

「うわっ、久しぶり!ホントに全然変わってないですね!生徒会以来だから、5年ぶりです?」

 

 アイルはしばらくパチクリと瞬きをしているにとどまっていたが、2、3回軽く首を振って、小さく息を吐くと

 

 クルリと背を向けて歩き出した。

 

「ってちょっと待ったーーッ」

「がっ」

「なんで無視するんですかっ!かわいい後輩が久しぶりに話しかけてるのにそれはひどくないですかッ」

 

 思い切り裾を引っ張られ、仰け反るように引き戻される執事。逃れられないと悟ると、彼は諦めた調子で口を開いてみせた。

 

「……牧村、なんでこんなところに」

 

 そんな様子を見て、その白衣をまとった女性、牧村志織は満足げに返すのだった。

 

「むろん、人類のためです!」

 

 

 

 






物語の終わり方について

  • エンディングは一つのみが好ましい
  • 各ヒロインのルート分岐などがあっても良い
  • どうでもいい
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