「ねーねー、どの期を探せばいいのかなー?」
生徒会室に隣接する資料室。
「そうだな、年齢が20前半なら……卒業が18歳と仮定して」
「大体4-5年前ってところじゃない?」
溶解前の過去議事録や仕事の資料、歴代の生徒会の活動誌などが押し込まれたその10畳程度の室内で。泉、理沙、美希の3人娘は本棚に並んだ分厚いアルバムを片っ端から手に取っては、中身をパラパラと確認していた。
資料に囲まれた室内で、夢中でページをめくるその光景は一見学生らしいが。
「3人とも、部屋もう部屋閉めるわよ」
「今いいところだから!もうちょっと!あと5分……から1時間くらい」
「アバウトすぎるわッ」
ドア越しに注意をしていたヒナギクも痺れを切らしたように室内へ入ってゆく。
「まったく、何でその集中力を仕事に使わないのかしら」
「まぁ良いじゃないヒナ、ほんの暇つぶしくらい。あ、面白そうな写真があったらコピー用に私に頂戴ね」
「何に使うつもりですか愛歌さん……」
ニコニコと微笑む愛歌は早くも何かを企んでいるようだ。
そんなこんなで、結局生徒会総出で資料室を捜索すること数分。
「あ、これじゃないか?」
千桜が取り出した一冊のアルバム。
どれどれと、集まる周囲に、彼女はめくったページの隅を指さしてみせる。
「ほらここ、編纂者の名前がアイルさんになってる」
「あ、ホントだ」
「執行部なのに活動誌の編纂までやってたのかあの人」
それは今から7年前の活動誌だった。
「てか、ヒナもすっかり仲間に加わってるじゃないか」
「う、うるさいわね」
表紙を一枚めくってみると、ページの中央には一枚の写真。写真の下には、生徒会執行部とある。さらにその下には、その年の生徒会の健勝を称えるような、おそらく教職員が書いたものであろう一文が添えられていた。
「お!これが執行部か」
「集合写真みたいね」
執行部の集合写真──と思われたそれは、写真というにはあまりにも情報過多な1枚であった。
「って、え?子ども?」
中心にいるのが小学生くらいの小さな女の子。栗色の綺麗な髪を黒いリボンで後ろでまとめた美少女……だが、年齢はどう見ても高校生のそれではない。せいぜい10歳前後といったところか。
「これって……」
「どう見ても小学生じゃないか」
そんな少女を押し倒さんばかりに抱きついているのが2人目の少女だった。メガネをかけた亜麻色のロングヘアの、これまた美少女である。こちらは年相応、女子高校生の見た目で制服もよく似合っている。
だか異質なのは彼女の後ろに明らかに人外、というか明らかにメカメカしたロボットが両腕を広げて映り込んでいることである。ドラム缶のように寸胴な胴体に、両足にはキャタピラー、U字磁石のような両手。そして頭のてっぺんにはアンテナ。
「すごいな、今時ここまで古風なロボットが逆に珍しいぞ」
「触れるとこそこ?」
そして、そんな様子を呆れたように窘めているのが最後の一人。赤い髪の青年──服装こそ違えど、見たまんま、先ほどまで生徒会室にいた執事そのものであった。
「これってもしかして」
「あれか、例の伝説の生徒会の時期じゃないか」
伝説とはまたやたら大げさな単語だ。千桜は小首をかしげる一方、美希や理紗は顔を見合わせてうなずき合っている。
「あのねちーちゃん、ウチの学校はいろいろな伝説や武勇伝、七不思議とか七つの玉の伝説とか精霊王の戦いとかが言い伝えられてるんだよー」
泉はにははーと人差し指を立てながら話を引き取る。後半は何か違う気もするがとりあえず。
「ヒナちゃんと同じで一年生で生徒会長さんになったひとがいたんだよ。それも飛び級で。ヒナちゃんも聞いた事あるよね」
「話だけはね、直接見たのは初めてだけど」
ヒナギクはまじまじと写真を見つめながら続ける。
「確か10歳で飛び級、高等部1年生から生徒会長を3期連続で務めて、最優秀生徒に贈られる銀時計を3年連続でもらったとか」
「おいおいおい、それどんなニュー○イプだよ。いやイノ○ーターの線もあるか」
「素が出てるわよー、ハル子」
慌てて咳払いする春風氏。そんな彼女に、美希が手帳を開いて補足する。
「彼女が率いた生徒会はもう天才ばかりの集団で、歴代でも飛び抜けて優秀だったそうよ。ただトラブルも多かったみたいだけど、それも含めて伝説と言われているそうね」
どこから情報を仕入れてくるのかと疑問は持ちつつ、千桜は感嘆の視線をアルバムに送った。
「とすると、これはその伝説の生徒会とやらの活動誌なのか」
「ええ、どうやら我々は奇跡の世代に出会ってしまったらしい」
「バスケするみたいに言うな」
しばらくその3人と1機の写真を見つめる少女達。
それにしても。ここにいる誰もが思っていたことを、代弁するようにヒナギクが故知を開いた。
「アイルさん、全然変わってないわね……」
千桜も大きく頷いた、写真の情報量が多すぎてついつい指摘が後回しになりがちだが、ここに映っている写真の青年と、先程の執事が本当にうり二つなのである。冷静に考えるとそれもまた異質だ。
「普通、面影あるとか若いとかそういう感想が出てくるもんだけどな」
「まんまよね、これ」
どこからどうみても、数十分前に笑顔で接してくれていたあの執事そのものだ。
「アンチエイジングもびっくりだぞ、一流の執事っていうのはそんな術まで身につけてるのか」
「うらやましいわね、私も教えてもらおうかしら」
「いや、私たちまだそんな年齢じゃないでしょ」
女性はいつまでも若々しくいたいものである。それは年齢に関係なく、年端もいかない幼女から腰の曲がったお婆様まで世界共通の悲願である。アンチエイジングは詐欺ではない、努力なのである。1秒でも美しくありたいという古今東西今昔の祈りが今日の技術革新を推し進める原動力になっていることは言うまでもない。もちろんこれからも。
「えらく力入ってるなモノローグ」
「千桜さん?」
「いえいえなんでも」
しばらくは白皇学院の理念だとか、有識者による学校の賛美……に見せかけた悪ふざけ文とかポエムとかとっちらかったページが続いていたが、やがて学院の行事の記録へと移った。
10月 体育祭
「あ、体育祭だー」
写真は体操服を着た女子生徒らが組み上げた騎馬でくんずほぐれずの激闘を繰り広げている様子が映されている。
「騎馬戦かー、先月もヒナの一騎当千万夫不当の活躍で我が白組が大勝したんだったな」
「やめてよ、人を怪物みたいに。けど今も昔も騎馬戦は盛り上がるわよね……って」
ヒナギクが目にしたのは、写真の下に書かれた振り返り記録だった。
『10月9日。快晴。体育祭は各組が接戦を繰り広げ大いに盛り上がった。。つつがなく競技は進行したが、問題が起こったのは終盤の女子騎馬戦。何の原因かは不明だが、牧村副会長が作成した審判ロボ「ツー改」が突如暴走。最大48本の触手型アーム(ローション付き)を繰り出して、生徒らにローションを塗りたくろうと襲いかかる。生徒会で迅速に機体を撃破、直接的な被害は未然に防いだが牧村副会長に厳重注意を言い渡す。後日副会長の自分も理事会から厳重注意を受ける。尚当該機は「女の子はローションを塗って輝くものだと髪からの啓示があった」などと意味不明な言動を――』
皆、無言のままページをめくる。
11月。文化祭
「こ、これは文化祭のステージか」
「生徒会でバンドやってたんだねー、楽しそ」
少女がマイクの前で楽しそうに歌っている写真だ。隣にはベースを弾く先程のメガネの少女の姿もある。文化祭の盛り上がりを感じられる一枚、のはずなのだが。
『文化祭は2日目のステージ以外は概ね平和に終わった。ゲリラ的なコミケ会場が出したり、科学部の教室だけがラピュタのごとく浮遊したりもしたがそれは省略する』
「いやするなよ」
『問題は2日目のステージ、理事会の思いつきで生徒会でバンドを組み演奏することになったのが間違いだった。人数不足からと捩じ込まれた楽曲演奏型ロボ「スリー」「スリー+」が演奏中に音楽性の違いで乱闘を開始』
「ロボットに音楽性の違いって……」
「そもそも演奏中だろそのとき」
『お互いに搭載兵器の使用ロックを自己解除し、バリアントを展開する寸前で粉砕したので被害はステージ一部の破損と最小限で収まった。製作者兼バンドの提案者、牧村副会長には厳重注意。後日理事会から副会長の自分も厳重注意を受けた』
1月。マラソン大会
『多くの生徒のため息とは裏腹に、晴天に恵まれた1月27日。絶好のランニング日和でスタートしたマラソン大会は最終種目まではつつがなく進行した。しかし、10数年ぶりに開催された自由型では牧村副会長が設置していたサポート型給水ロボ「フォー」が「ブルマが足りないッッ」と制御チップを自損させ』
「なんか嫌な予感するのだけれど」
『給水用テントを改造。表向きは給水を行う施設ながら、裏では女子生徒の体操服姿の隠し撮り写真・映像を男子に販売する商売を開始。さらに数名の男子生徒を勧誘して、多目的販売方式を確立し始める始末。瞬く間に販売ネットワークを構築していった』
「ダフ屋か」
『後日、数名の女子からの告発で事実が発覚。海外逃亡を目論んだ「フォー」は成田の検査場で引っかかり捕縛。現地に赴きその場で粉砕した。当然牧村に説教。理事会からも説教。』
「ついに呼び捨てになっちゃったよ」
4月。高尾山ハイキング。
『毎年恒例のハイキングである。
特筆すべきことがあるとすれば、牧村が作成、廃棄していたクマ型ロボ「ファイブ」が原生のクマの群れの頂点に君臨したことか。技術や言語まで指導し始め、しばらく高尾山周辺ではファイブを中心とする独自の生態系を広がったと聞く。もう何が何だか分からない』
「どこのア○ロボットだ」
「というか、さっきからこの年だけ技術革新が飛び級してない?」
『この頃、牧村をどう合法的に島流しにするかを真剣に検討し始める。会長はその女神のごとき慈悲深さで彼女を包み込んでいるが、このままではいつか平和な学園生活が崩壊する日も来るかもしれない。いや学校だけならいい、このまま行けばいずれ世界すら滅ぼしかねない。それだけは絶対に避けないとならない。でもネチネチ嫌みをいう法人関係の老人連中はむかつくから崩壊するのは何ら構わない、崩壊しろ』
「もうただの愚痴だこれ」
『愚痴くらい言わないとやってられない』
「活動誌越しに会話し始めるな」
6月。大演舞会
『4年ぶりに理事会の思いつきに開かれた大演舞会だったが、今回はそもそもそれが間違いだった気がしてならない。理事の「サクラ○戦みたいな感動を呼ぶ舞台設定を」という無茶ぶりに対応すべく、牧村が作成した劇場サポートロボ「シックス」が一体どうなったか』
「暴走したんだろ」
『今「暴走したんだろ」と半ば呆れ気味に突っ込んだのだろう。悔しいがその通りだ』
「だから読者の心を読むなよ」
『「シックス」は可変式のステージ支援型ロボットで、本体が1000の変形バリエーションを持つ。国立劇場もびっくりな白皇の特別劇場において、映像・音響・光彩からホログラムを作成し、あらゆるシチュエーション再現可能という頭がおかしい技術の玉手箱のようなロボットだ。
暴走自体は生徒に直接的な危害を加えるものではなかったが、牧村が部活でこっそり作成していた会長の成長日記――という名の盗撮集があろうことがホログラムで、生徒の衆目下に再現してしまう暴走を起こし、会長自ら「塵芥一つ残さずに殲滅せよ」という厳命を受けて粉砕となった』
「会長無慈悲だな」
『牧村は会長直々に説教、しかし生徒の一部(ほぼ男子生徒)からは伝説として賞賛が降り注いだという。この学校は大丈夫だろうか』
そのページの下部には、まだ編纂者による悲痛な叫びが続いている。
『未来の生徒会役員へ。君がこの活動誌を読んでいるということは、おそらく俺はもうこの学校には在籍していないだろう』
「そりゃそうだろな」
「時世の句みたいねぇ」
『確かに牧村は天才だ。その技術力でロボティクスの分野における白皇の地位は飛躍的に向上した。彼女の功績を安っぽい言葉で表すのは失礼に値するとさえ思う。
しかし奴は真性のマッドサイエンティストだ。人の心がないのである。
このまま世に放ってはいけない。どうか聞いてほしい未来の役員よ。もしまだこの世界が残っていて、やつの所在が分かっているのであれば――』
パタっ。
アルバムを閉じたヒナギクは、ゆっくり息をつくと、笑顔で周囲を見回した。
「……私たちは、粛々と活動を続けましょう」
「了解」
この日ほど、現執行部は一致団結を実感した日はなかったという。
場所は変わって。
「要するにっ!」
笑い声、自慢話、愚痴。様々な喧噪が入り乱れる、現代に疲れた大人たちの社交場「居酒屋」。
ジョッキの底でカウンターを叩いた、牧村志織は大げさに語気を強めてみせた。
「部長は全く分かってないんです!」
赤らんだ頬からは良い感じに酔いが回っているらしい。
「開発において大事なものは何だーって聞かれたから、やっぱり火力です!って答えたら。「違う」っていきなり怒って机をひっくり返したんですよー」
「で、お前はどう返したって?」
「次点で、ケーキって言いました」
ドヤ顔である。
「状況がさっぱり飲み込めないが」
隣に座っていたアイルもまた、傾けていたジョッキを置くと。
「多分部長が正しい」
「ひどーいっ!」
バシバシと無遠慮に肩を叩く志織は、台詞とは裏腹に上機嫌に笑顔である。かと思えば、一気にジョッキを空っぽに。ぴょんと右手を挙げて、せわしなく店内を動く定員さんへとアピールする。
「すみませーん!生2つおかわりで!あとももと皮、2本ずつくださーい」
能天気な注文に、アイルは深々とため息をついてジーッと隣を見つめた。
「お前……ホントに変わってないな」
「先輩に言われたくありませんよー」
見た目全然変わってなくて本当にびっくりしたんですから。
志織はまじまじとアイルの顔を眺めてくる。全く遠慮のないその視線に耐えかねて、明後日の方向へ顔を反らす。
「まー、むしろ学生の時が大人びてましたもんね先輩は。あ、ひょっとしてそこで帳尻が合ってくるのかな」
「お宅が起こす問題のせいで苦労が顔に出てたんだよ」
「あはは、あのときは大変でしたねぇ。でも今となっては良い思い出ですよ」
「お前が言うな」
まるで他人事だ。アイルはため息をつく代わりに、串焼きを雑に食いちぎる。
「というか、今もやってる事変わらないんじゃないのか。頼むから世界は滅ぼすなよ」
「もー、人をなんだと思ってるんですか」
「マッドサイエンティスト」
読んで字のごとく。狂気の科学者。
「ときに先輩」
「はいはい」
「マリアちゃんの事、避けてるの?」
唐突な切り替わりに、思わず咳き込むアイル。
「いきなりだな」
「いやー、そうでもないと思いますよ?」
しかし、志織はいたずらっぽい視線を彼に向けながら続ける。
「私の方はちょくちょくマリアちゃんとも会ってるんですよー。その中でたまーに先輩の話にもなるわけです」
「へー」
「でも、先輩とは卒業以来会ってないって言うじゃないですか。あんなに仲良しだったのに」
志織は人差し指を立ててみせる。
「ケンカでもしちゃったとか」
「あり得ないな」
アイルはグッとジョッキを一気に傾けた。
「大体、マリアお嬢様がそんな事を言ったのか?」
「そうなのよねー。マリアちゃんは「そのうちフラッと来るんじゃないですか」ってのんきに笑ってるだけで。だからその線はないだろうなーっとは思ってたんです」
腕を組んで小首を傾げる。
「本当に何もないからなぁ」
「うーむ」
「まあ、そういうこと。考えるだけ無駄だと思うぞ」
ですが、と志織は食い下がった。
「私は科学者として気になってしまうわけです。ついでに同級生としても」
「いやこっち先輩なんだけど」
「ということで、さっきマリアちゃん呼んでおきました」
・・・
「は?」
まるでその反応に返すように。控えめな音と共に、店の扉が開く。
そこには綺麗な栗色の髪を後ろで簡単に結んだ女性が1人。少しずつ冬も近づいてきたからだろう、濃いブラウンのジャケットに、肩から黒いストールを掛けている。
そんな彼女が屈託のない笑みでひらひらと手を振っている光景が前方に。隣の志織もまた同様にへらへらと笑顔で返している。
故に執事は思う。彼女には人の心がない。
お気に入り100件、本当にありがとうございます。まさかそんなに登録していただけるとはつゆにも思わず恐縮しっぱなしです。
更新は不定期ですが、頑張って早めていこうと思います!これからも何卒よろしくお願いします!
物語の終わり方について
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エンディングは一つのみが好ましい
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各ヒロインのルート分岐などがあっても良い
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どうでもいい