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今回はちょっと短めです。
――どうすれば、良いんだ
スポットライトが照らされたステージの中心で、アイルは内なる悲鳴を上げた。この日見た景色の名前を僕はまだ知らない、ただ心が叫びたがっていた。
眼前に広がるは見ず知らずの客、客、客。何かを期待するような眼差しを、一斉に彼に向けていた。もはや逃げ場がないことは状況が明瞭に物語っている。唯一の助けを求めて、知人らの方向に目を向ける。
この状況を作り出した元凶、灰色の髪の少女はグッと親指を立ててサムズアップ。憎たらしいほど爽やかな笑顔を彼に向けていた。
その隣にいる主人に至っては、顔を背けて、肩をふるふると震わせて笑いを堪えている様子。
アイルは激怒した。必ずやかの邪智暴虐の主人のアホ毛を抜いてやらねばならぬと決意した。アイルには主従が分からぬ。アイルは、天王州家の執事である。
事は数時間前に遡る。
「愛沢家でパーティー、ですか」
「ええ。先日招待を受けていたのよ」
この所バタバタしていたので失念していたけれど。
アテネは白いワンピースのスカートを軽く持ち上げて、停車していたリムジンに乗りこむ。
よく身につけている漆黒のドレスは美しくも、どこか近寄り難い印象を受ける一方、今日の純白のワンピース非常に清楚で、柔和な雰囲気と可憐さが両立している。これならばその刺々しいキツい性格も上手く包み隠せるのではと執事は内心で頷いてみせた」
「聞こえてるのよ」
「それは失敬」
キッと睨みを受けると、咳払いを一つ、車内に体を滑り込ませる執事。
「咲夜さん……直接お会いするのは暫くぶりになりますね」
「そうね、この前のパーティー以来だから」
4、5と指折りしながら思案するアテネ。およそ8ヶ月くらいだったかしら。
「久しぶりですから、私も気合いを入れないといいけませんね」
「何がです?」
アイルは窓の外を眺めながら、やや強めにネクタイを締め直してみせる。
「彼女は笑いに大変厳しいお方ですから。下手な返しではご機嫌を損ねてしまいかねない」
「前提がおかしいのだけれど」
「天王州家の執事として恥ずかしくない姿を示さないとなりません」
「お前は何と戦っているのよ……」
謎の使命感を表明する執事には呆れたため息だけを返して。隣で一心不乱に、本を読んでいるもう1人の執事に目を向ける。
「マキナ、車内で文字を見ていると車酔いするわよ」
「うーん、分かったぞ」
言われて感じ始めたのか、眉間をぐりぐりとしながら本を閉じるマキナ。横に置いたその新書のタイトルを何気なく見ると『何故男はポニーテールに惹かれるのか~初代と○メモから紐解く真実~』。
また訳の分からない知識を植え込ませようとして。おそらく元凶でありだろう執事を無言で睨むが、彼はといえば窓の外に視線を逸らしてどこ吹く風である。
「ところでアテネ、今日はどこにおでかけするんだ?」
「……今日は愛沢さんという方のお家よ」
マキナは心配そうに彼女を見上げる。
「アテネの仲間なのか?敵じゃない?」
「大丈夫、私も何度もご挨拶させてもらっているから」
「そっか、なら安心だな」
ゆるりと背もたれに身体を預け、手足の力を抜く少年執事。
「ただ、お仕事のパートナーでもあるから、失礼のないようにね」
「おう、任せとけ!」
愛沢グループは主に関西を中心に飲食、インフラやエンタメ事業展開をする大財閥である。事業展開のエリアから本社は東京と大阪にあるが、時代なのか東京一極集中の影響にもれず、本家屋敷は東京に所在している。
「おー、久しぶりやな」
都内にある本家のお屋敷。
関係者としてエントランスホールに案内されたアテネ達を迎え入れたのは、1人の少女だった。
「お久しぶりですわ、愛沢さん。お元気そうね」
「あはは、それがウチの取り柄やねん」
灰色のショートヘアの釣り目が特徴的な女の子だ。赤いヘアゴムがよく似合っている可愛らしい少女なのだが、右手には何故かハリセンが。
「お、アイル兄も。どや、ちゃーんと腕は磨いとるか?」
「誰か教えたげて」
「お前に聞いとんじゃいッ」
すかさず飛び蹴りならぬ飛びハリセンが炸裂し、後方に吹き飛ぶアイル。
「……流石は咲夜さん、小さなボケも見逃しませんね」
「なるほど、リアクションまで周到に計算しとるか。悪くないジャブやな」
差し出した手を取り、起き上がると2人はそのまま堅い握手を交わす。
ふと、アテネの後ろに隠れるようにしていたマキナに気付いた。
「で、このちっこいのが新しい執事か」
「ちっこい言うな!」
「おーおー、元気やなぁ。そや日向たちがおるさかい。そっちで遊んで来たらええ」
頬を膨らませて目を三角にするマキナにも、全く気にすることなく笑顔で髪に手を乗せる咲夜。そのままわしゃわしゃとやや乱雑に髪を撫でてみせる。
「わわっ、止めろ!」
「ええからええから、日向、朝斗!お友達きたから遊んでやってなー」
彼女の言葉に反応するように後ろのドアが開く。同時に、10歳くらいの男女がわーっと飛び出してマキナを囲んだ。
「自分執事服ぶかぶかやんー」
「ホンマや!こっちきて遠山の○さんごっこするでー」
「な、こら!離せー!」
2人は有無を言わせずマキナをの首根っこを掴むと、そのまま奥の部屋に引きずっていく。
そんな様子をどこか微笑ましそうに眺める保護者――ではなく主のアテネ。
「咲夜さんは、良いお姉さんですね」
「そやねん、ウチは面倒見の良いお姉さんタイプの美少女やねん」
「ええ、弊社が独自に調査した妹にしたいというアンケートで上位になるも頷けます」
「いや妹なんかいっ」
ほぼ同時に裏拳のツッコミを食らうアイル。尚アンケートはアットランダムに電話をかけた1500人から回答を得ているとかいないとか。
「愛沢さん、つまらないものですがこれを」
「おー、ありがとな天王州さん。あとでおとんに渡しとくわ。ほらな、会場の方に案内するわ」
「ええ、お願いしますわ」
アテネの言葉に合わせて、執事が手土産を手渡す。つならないものとは思えないほど質の良い紙袋であるが中身はさておき。
にっこりと、淑女らしく笑顔を交わすお嬢様2人。
そのまま咲夜を先頭に歩いていた一行だったが、何を思ったのかピタリと足を止めて振り返るお嬢様――
「まーそれはそうとアイルはん」
いやな予感がした執事だったが、お嬢様は待ってくれない。
「せっかく来てくれたんやから、なんや面白い事してくれるんやろ?ステージで」
「……は?」
で、冒頭に至る。
『天王州家執事・生ライブ!思う存分笑っちゃいまショー』
仰々しいタイトルが書かれた大段幕に、スポットライトが集中するのは執事服の男。
そこに注がれるは会場にひしめく数々の客の視線。それも、上流階級のお偉方の視線、視線、視線。いっそ刃物で刺された方がマシなのではないかというくらい鋭利な視線の数々は、さながらレーザーポインターのようにも感じた。
だが、彼は天王州家の執事である。ここで粗末な演出を見せること、それすなわち家名に泥を塗るのと同義である。出来ないなどと言うことも許されるはずもなく、かつ結果を出せないこともまた許されない。
絶体絶命、とはいえ舞台のお膳立てとしては申し分ない。
「――では、失礼して」
彼は目にも止まらぬ早さで、黒の上下スーツと着替えると、銀色のアタッシュケースを一つ。軽々と手から足へと滑らせると、今度は片手で添えるようにして空中に静止させてみせる。
釣り糸はどは一切無い。会場からはどよめきが走った。ピタリと宙に静止するケースを引っ張ったり、あるいわ叩いたり。それでもケースは微動だにしない。視線は一心にケースへと降り注いだ。
つかみは上々か。そのまま〝笑いもの〟の幕開けと相成った。
それは、ある間抜けな
男はあるとき、地面に落ちている見たこともないスーツケースを拾う。開けてみればそこからは大量の札束が。漁れば漁るほど、その札束は山積みになっていく。
――しめた。
男は口元に人差し指を当てて観客に「秘密」のポーズを取ると、ケースの強奪を決意する。これで億万長者だと、金に目がくらみ欲望に飲まれるのだ。
しかし、そうは問屋が卸さない。
そのアタッシュケースからはあれよあれよ、男には想像もできない代物が飛び出してくるのである。
牛刀、拳銃、天下○品の看板、手榴弾、ロケットランチャー、シャンパンタワー、あまつさえバニーガール姿のブロンドの女性まで。誰?
次は一体何が出てくるのか。観客はどよめきをあげながら、好奇の瞳が輝きを増していく。
そして小さなアタッシュケースから、あり得ないものが飛び出してくる度に、男は慌て、時に舞い上がり、時に逃げる。大げさに、しかし見ている人がまるで景色を想像できるくらいにリアリティに。
余裕綽々で逃げていたら、見えない壁に頭をぶつけて転がり込んだり。
慌てて見えない塀をよじ登ろうとして頭から落下したり。
見えない警官とケースを引っ張り合い、挙げ句には追いかけっこ。車を盗んで逃走しようとしたらパトカーで、バイクを盗もうとしたら白バイで――
その間の抜けた、しかしどこか憎めない一挙手一投足には倍々ゲームのように沸き起こる笑いも比例していく。言葉が一切無くとも、男はその身のこなしと、どこからともなく取り出す小道具だけで、その
いつしか、会場は男のための舞台となっていた――後のこの芸が、世界のスタンドアップコメディの常識を大きく覆すことになる事は、まだ誰も知らなかった。
「って、んなオチあるかァァッ!」
咲夜の跳び蹴りに吹き飛ぶアイルは、壁へ綺麗に頭からめり込んでいた。
「アナタ、いつのまにあんな芸達者になったわけ?」
「異国の地で日銭を稼ぐ必要があった時期もあるんですよ、かじった程度ですが」
「とりあえず壁から頭を抜きなさい」
舞台も無事に終わり、楽屋に戻ってきた一行。会場は大いに受けていたが、咲夜はイマイチ納得がいっていない様子。
「
「まぁ、話芸だけが漫才じゃなくなってきているってことで」
「ほう、言うや無いか」
腰に手を当てると、どこか悔しそうに、しかし満更でもなさげに口元を曲げる咲夜。
「中々厄介な芸人に育ったもんやで、なぁ天王州さん」
「執事なのだけれど」
一蹴する主人。
「まぁええわ。今度ウチが直々にB○Bばりのマシンガン漫談を伝授したるさかい」
「あぁ、ブランデーとベネディクティンの」
「そりゃカクテルや」
「ブラッドフォード」
「そりゃ銀行──ってベタなツッコミさすなッ」
乾いたハリセンの音が楽屋内に響く。と、それに続いてドタバタと不揃いな足音が廊下側から飛んできた。
「騒がしいわね」
「なんや揉め事かいな」
アテネ達がドアの方に視線を向けると、ちょうどよく黒服の男達数名が雪崩れ込んできた。
「あ、大変失礼しました!愛沢様、天王州様」
先頭の男が慌てた様子で頭を下げるが、別にええねんと咲夜は軽く手を振って促す。よほどの緊急事態だろうことは、男達の慌てぶりからも容易に想像が付く。
「皆様、お嬢様を──伊澄お嬢様をお見かけしませんでしたか⁉︎」
「伊澄さん?」
顔を見合わせて小首をかしげる。
「鷺ノ宮家のお嬢様も、本日はいらっしゃっていたんですね」
「あぁ、なんやさっき会場に向かうって言うてたんやけど……まーた迷子かいな」
やれやれと額に手を当ててため息をつく咲夜。
「なるほど、ではアイル」
アテネはさっと執事に目線を送る。
「鷺ノ宮さんを探すのを手伝ってあげて。私は上で愛沢さんお父様方と打ち合わせを済ましてきますから」
「承知しました」
お手数おかけして大変申し訳ございません。
黒服の男達はアテネに深々と礼をすると、その足で部屋を飛び出していく。
「あ、ウチが屋敷案内するで!なんや面白の匂いがするしな」
「助かります、咲夜さん」
かくして、屋敷内で迷子となっているもう一人のお嬢様捜索が始まった。
屋敷内で。誰もがそう信じて疑わなかったことを、大きく後悔することになるとも知らずに。
「ところでアイル様。ここは一体、どこなのでしょう」
「……北の大地、北海道ですね」
「まぁ」
まよいマイマイ――
次回。作中最強の迷子嬢が襲いかかる。
物語の終わり方について
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エンディングは一つのみが好ましい
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各ヒロインのルート分岐などがあっても良い
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どうでもいい