Task23:煽情のメリークリスマス①
時は12月24日。クリスマスイブの夜。
人気もない都内の公園のベンチにポツリと、力なく座り込む少年がいた。世間は絶賛聖夜に浮かれ,舞い散る雪は寄り添う恋人たちにとってはロマンチックな光景に映るのだろう。そんなもんは唾棄すべきだ、と内心罵ってみたものの、少年の現状はなんら変わり映えはしなかった。
真冬の寒空だというのに、くたびれたの下はTシャツ1枚。しかし気温の寒さ以上に、懐の寒さが身にしみる。広げた右手には銅の硬貨が1枚とアルミの硬貨が2枚、しめて12円。日本の経済の中枢、東京のド真ん中で手のひらにこれほど悲しい隠れミッ○ーを作っているのはおそらく自分だけだろうと少年は自虐的に笑った。
遠目に見える構造ビル群は、矮小な自分を見下ろしてくるようにすら感じる。
少年──綾崎ハヤテは今、まさに人生の窮地に立たされていたのである。
「まぁ、どうしてこんな状況になったのか。ここまでの経緯は
親が大量の借金をする
仕方が無いので親に売られる
借金取りからきのみきのまま逃亡←イマココ
「いや、人生転落寸前の大一番を三行でまとめるなよ!」
グッと硬貨を握りしめてベンチから立ち上がる。
とにかくどうにか、この状況を打破しなければ明日はない。それこそ、銀行強盗や身代金誘拐くらいの犯罪に手を染めないとこの逆境は乗り越えられない。
ふと見ると、公園の自販機の前には、1人の少女が立っていた。綺麗な金髪のツインテール、厚手のコートはややぶかぶかで着てられる感が強いが、かなり高そうな素材なのはパッと見でも分かる。見た感じは良いところのお嬢様という雰囲気である。
これは神の啓示か。彼は思わず天を見上げる。散々なクリスマスを送る羽目になった自分に舞い降りてきた唯一無二のチャンスに思えてならなかった。
そっとその少女の後ろに回り込む。
このまま彼女を気絶させて都内の外に運び出し、そして脅して家を聞き出して身代金を要求する。想像しただけでぐっと生唾を飲み込むハヤテ、胸にもやっと黒い塊が叩きつけられるような感覚を覚える。正直、こんな年端もいかない少女に極悪非道な行為をできるのか。
「……いや、何を迷っているんだ僕は。別に失敗しても、最悪ムショに入るだけじゃないか、寝床もご飯もあるしそれはそれで。だったら犯罪でもメリットしかないじゃないか」
「さっきから何を一人でぶつぶつ言っているのだ?」
「うわっ!?」
気が付けば、いぶかしげな視線を向けてきている少女が目の前に。
「き、君。いつのまに」
「いや、後ろで物騒な事を呟いてる奴がいたらそりゃ気が付くだろ。なんだお前、テロでもする気か?」
「まさか、そんな」
大それた事ができるわけがないだろう。そう口にしようとして言葉に詰まる。犯罪を企んでいるという意味では変わりないのではないだろうか。
「お、可愛い子はっけーん」
「ひゅー、聖夜のデーとかなァ?」
と、2人の後ろから突然、コートを着た男の3人組が声をかけてきた。値踏みするような視線でハヤテを睨み、少女のもとへとにじり寄ってくる。
2人は茶髪のロングヘア、もう1人は黒のドレッドヘア。まさに典型的なDQNだなぁとハヤテは呆れつつも、しかしこれは看過できない横やりだ。
「ねーねー、君可愛いね。俺らこれから大人のパーティーするんだけどさ。一緒においでよ」
「そーそー、せっかくのクリスマスイブなんだしさァ。こんなモヤシ男放っておいてさ」
困惑する彼女の右手を強引に掴むと、引っ張っていこうとするではないか。まるで誘拐だ、そんなことをさせるわけにはいかない。
「ちょっと、待った」
「あ?モヤシ君は引っ込んでろよ、今俺らは」
言い終わる前にハヤテの右足が男の顎に炸裂していた。男は後頭部から、後ろの連中にぶつかるように倒れ込む。
「て、てめえ!いきなり何をしやがる!」
「それはこっちのセリフです!」
うろたえたような男たちを、ハヤテは思い切りにらみ返す。当然である。いたいけのない少女を誘拐する様子をみて止めないことがあり得るか。否。
「嫌がる少女を無理矢理連れ去ろうなんて言語道断!」
それは、ハヤテの計画だからだ。
「なので、ここで成敗します」
彼はゆらりと、両手を構える。
「あ、あの構えはまさか!」
「知っているのかお嬢ちゃん!」
少女は目を見開いて叫んだ。ハヤテの体を包む青白いオーラ、そのあまりにも強い重圧感に、男達は自然と後ずさる。だがもう遅い。
その構えは
刹那――
目にも止まらぬ拳の連撃が、男達を襲った。
後にその少女――三千院ナギは、この時の光景をこう振り返っている。
「あれはそうだな、攻撃じゃない芸術だったよ。神速の連撃は小宇宙によって威力はどこまでも速くなる。あの拳をみて私はハッキリ確信したよ。コイツはただ者じゃない、黄金聖○士にもなり得る素養があるってな」
~三千院ナギ著『我が不労』より抜粋~
「くそ!覚えてろよテメー!」
「著作権には気をつけろよバカヤロおおおおッ」
滅多打ちにされた男たちは為す術無く、泣きながらその場から退散していった。そんな情けない姿を見送りながら、ナギは小さく息をついた。
「ありがとう、何だかよく分からんが助かったよ聖矢」
「いや綾崎だけど」
痛恨のミス!
これから誘拐する相手に名前を名乗ってどうする。一瞬の油断を誘い、名前を聞き出すとは少女はなんという策士か。あるいは彼がアホなだけか。
「ん、お前綾崎というのか」
「あ、いや」
一瞬で追い詰められたハヤテ。火サスでいえばもう崖のてっぺん、説得を試みようとして船越○一郎氏が近寄ってくる大一番だ。もはや逃げ場はない、どうするか。
「ところで、君に頼みがあるんだ」
「頼み?」
ええい、ままよ。
ハヤテは咄嗟に、右手を差し出した。
「僕と、付き合ってくれないか」
「は!?」
「僕は、君が(人質として)欲しいんだ」
ハヤテにしてみれば、追い詰められたが故の誘拐交渉だったのだろう。しかし微妙に言葉を省いてしまったその言い回しは。
「ば、いきなり何を言っているのだ!イブの夜だからっていきなりそんな」
「いきなりでごめん!でもこっちだって本気なんだ」
誰の目から見ても、愛の告白に相違なかった。
唐突な出来事に頬を紅潮させるナギに、追い打ちとばかりに壁際に追い詰めて近づくハヤテ。
「でも、そんな冗談みたいな」
「こんなこと、冗談じゃ言わない。一目見た時から、君をさらうと決めていたんだ」
吐息のかかる距離まで詰められる。
前提が違うのだから、この光景の意味も180度異なるだろう。
誘拐を画策している身とすれば、これは被害者を追い詰めて恐怖に屈服させようとしている行為であるのだが。告白されていると思い込んだ身からすれば、これは熱烈な愛のアプローチに他ならない。
しかし誤解を解くものなどこの場には何もない。決定的に何かがすれ違ったまま、話は進んでいくのである。
「お、お前の気持ちは分かったよ」
距離を取ったナギは真っ赤になった顔を俯かせたまま、ぽつりと呟く。
「けど、そんないきなり言われても……その。心の整理がつかないというか」
まだ折れないか、いやまだだ焦るな。
ハヤテは自分に落ち着くように言い聞かせる。ここで言葉を間違えれば計画がおじゃんだ、とはいえモタモタしている時間もない。
「く、詳しい話は私の家で聞くから。まずは一緒に来てくれないか?」
「え、家?」
「あぁ、さっき助けてくれた礼もしたい」
誘拐させろと脅している相手が、家に来いときた。家にいって直接脅せとでも言うのか、そんなアホなことは許容できない。自主しに行くようなものである。それか、改心しろと説得を試みるつもり魂胆か。
「い、いや!気持ちはありがたいけど。いきなり君の家にというのは」
「いきなりって……お前、まさか変な想像してるんじゃないだろうなッ。そういう意味ではないぞ!」
変な想像どころか犯罪を企み実行しようとしている訳だが。
何だか厄介な方向に話が転がっていくような危機感を察知するハヤテ。人一倍磨いてきた自負のある彼の危機感知センサーが脳裏で信号を鳴らしているのだ。
ここで適当な理由をつけて逃げてしまおうか、ちょっとお手洗いとかいって。いやしかし、逃げてどうする。このクソ寒いイブの夜空の下、待っているのはソリに乗ったサンタではなく、ベンツに乗ったヤクザ達だぞ?
侃々諤々の議論が彼の脳内会議で繰り広げられる。されど結論はでない、議会は踊る。されど進まず。そんな時であった。
「ナギ!ここにいたんですか」
「む?」
不意にかかってきた声にナギが顔を上げると、小走りで駆け寄ってくる2人の女性が。
「マリア、それにヒナギクも」
「良かった、無事だったのね」
やばい、知り合いか。ハヤテは慌てて2人に目を向けた。1人は栗色の髪を後ろで結んだ女性で、もう一人は桃色の髪の女性。2人ともとんでもなく美人で、それこそハヤテが今まで会った中でもトップクラスな美少女だが、そんな事を考える余裕も今はない。
今のうちにフェードアウトをしてしまおう。
そろり、そろりと。彼は音を立てないように、ゆっくりと後ずさる。
「まったく、勝手にパーティーを抜け出して。心配したんですよ」
「ふん、あんな退屈な場所にとどまってられるか」
マリアがそうたしなめるが、ナギはふいっと顔をそらした。
「というかヒナギク、何故お前までここに?」
「心配したからに決まってるでしょ」
ため息をついて腰に手を当てるのはヒナギク。しかし右手には木製の長い棒のような――
「どうして竹刀なんて持っているのだ」
「そりゃ、もしも誘拐とか企んでいる輩とかがいたら粛正するために」
「お前はどこの用心棒だ」
びくッ。ヒナギクの言葉に少年は肩を震わせる。そこで2人は彼の存在に気が付いたようだった。思い切り目と目が合う、その瞬間に何を感じるのか。青い鳥よ。
「えっと、ナギ?この方はお知り合いですか」
「あぁ。えっと、話せば短いようで長くなるのだが」
まずい――ッ。
いまここで誘拐の件を話されでもしたらもう本当にアウト、お縄ちょうだいである。しかし、ナギは意外な説明にとどめてくれた。
「絡まれている所を助けてくれたのだ。だから、家で礼をと思ってな」
「まぁ」
彼女の頬はほんのり赤くなっているが、誤魔化すように腕を組んで視線を明後日の方向にぶん投げた。
マリアは両手を合わせると、彼の方に笑顔を向けた。
「そうでしたか、それはそれは。ナギがお世話になりました」
「いや、あの、はい。当然の事をしたまでと言いますか」
何故誘拐のことを言わなかったのか、解せなかったが今のハヤテはこの流れには乗っておくしかないだろう。
「で、では、僕はこれで。迎えの方も来られたようですし」
「せっかくですから、家にいらっしゃってください」
「あ、でもほら、そんな悪いですし」
もうこの場を離れる機会は今しかない。
ハヤテは何か脱出の理由を探そうとするが、ナギは軽く首を振ってそれを制した。
「気にするな、礼の一つも出来なければ家名が廃る。それに……さっきの件で話したいことも、あるしな」
「えーと」
さっきの件。それが指す意味は2人だけが知っている。中身は告白と犯罪、全くの真逆に取り違えられているが、そんなことは知るはずもなく。
「マリア、一旦家に戻るぞ」
「そうですね、ではSPの皆さん」
よろしくお願いしますね。
マリアの声に、声ではなく揃った複数の足音が返ってきた。
「へ?」
振り返ったハヤテの顔は一気で青ざめた。無理もない。
そこには黒服の屈強で強面な男達が一列に並んでいたからである。
「は、ははは」
乾いた笑いがこぼれる。
あぁ、終わった。これは詰んだな。完全に逃げ場がないことを悟った。
途端に、気が抜けてしまい膝から崩れ落ちるハヤテ。
「ってオイ!?どうしたのだお前」
「ごめんパトラッシュ、僕はルーベンスの絵は一緒に見れなさそうだよ」
「いやパトラッシュ違うわ!というか起きろオイ!」
必死に彼の頬を叩くナギ。しかし反応がない、意識を失ってしまったらしい。
「心配ありませんお嬢様、気絶しているだけのようです」
「そ、そうか」
黒服の男の一人が、倒れた彼の首筋に手を当ててから小さく頷いて見せた。彼女もほっとしたように息をつく。
「とにかく運ぶぞ、早く車へ」
「かしこまりました、ナギお嬢様」
少年は屈強な男達に軽く担がれ、ナギに続いて道路脇の車へと移動していく。
「なんだか込み入った話になっているようですね」
「えぇ、本当に」
そんな様子を見送っていたマリアとヒナギクは、顔を見合わせて苦笑し合う。
「ヒナギクさんも、屋敷に寄って行かれませんか?ご迷惑をおかけしやお詫びに紅茶などごちそうしますので」
「え、でもそんな悪いですし」
「いえ、ナギが迷惑をかけたのですからこれくらいは」
申し訳なさそうに頭を下げるマリア。そう言われては無下にするのも申し訳ない気もする。
考えてみれば、今から学院に戻っても、後夜祭もほぼ終わってしまう頃合いだ。彼女はその言葉に甘えることにした。
「あ、アイルくんに連絡しないと。反対方向を探してくれてましたから」
「そうですね、私の方から連絡しておきます」
車の方へと歩きながら。ヒナギクは携帯端末を取り出した。
『ナギ、無事に見つかりました。少しお屋敷に寄ってから戻ります』
画面に浮かびあがったメッセージを確認し、アイルは安堵の息をついた。送信者のヒナギクの文面からも特にトラブルがあった可能性もなさそうだと推察する。
『承知しました。生徒会のフォローはこちらでしておきますので、ごゆっくりなさっていってください』
ぐっと親指を立てたぽっちゃりペンギンのスタンプを添えて、メッセージを送り返す。そのまま端末をポケットに滑り込ませると、道路脇に止めていた二輪車のもとに。
最高出力115kWを誇るその黒いマシンは、天王州家の従者御用達の4ストロークバイクである。
執事がグローブを付け直して乗り込もうとした時だ。信号待ちしていた後方の黒いベンツから、けたたましいダミ声が響いた。
「とにかく探せッ。綾崎のガキは絶対に逃がすな、肝臓1つでも1000万円で売れるんだからな」
「へい兄貴!」
何とも物騒な会話である。よりしもよって世間が幸せに浮かれているようなクリスマスイブに。やはり世間は広いということか――って。
「綾崎?」
聞き覚えのある言葉に眉をつり上げるアイル。しかしその答えが返ってくるはずもなく、ベンツは大きいエンジン音を上げて発進してしまう。
考える間もなく、高級車とガラの悪い男達はイブの夜に消えていった。
彼はいぶかしげな視線を過ぎ去った先に向けていたが、やがてその後を追うように、二輪を発進させるのだった。
やりたい放題で正直スマンかったと思っている・・・
大筋は同じですが、色々展開を変えながら進んでいきます。次回もよろしくお願いします!
物語の終わり方について
-
エンディングは一つのみが好ましい
-
各ヒロインのルート分岐などがあっても良い
-
どうでもいい