アテネちゃんの執事!   作:通行人A'

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Task25:運命は英語でいうとディスティニー

 

 

 

『そう、三千院さんの所の執事に……』

 

 電話越しに聞こえてきたアテネの声は、不思議なことに安堵するようなものだった。

 

「申し訳ございません、お嬢様。任せておけと言っておきながらこの始末。危うく綾崎君の命を危機にさらすまでに至ってしまいました」

 

 端末を片手に深々と頭を下げる執事。

 

 それもそのはず、彼が責任を感じて無いわけがない。対象の人物が目を離している隙に親に身売りされ、住む所もなく高利貸屋に追い回されているのに気が付かなかったのだから。毎日監視しているわけでもない上、当日は白皇のパーティーに出席していたのだから不可抗力とはいえ、仕事を失敗した言い訳にはならない。

 

「彼の両親の非道さを見誤ってました。明らかな私の落ち度です」

 

 やはり両親だけでも見つけ出しておくべきだったと、アイルは今更ながら唇をかんだ。

 

『いいえ、これは。私がいつまでも躊躇していたから招いた結果よ』

「かくなる上は、この場で切腹をして責任を」

『聞きなさいっ』

 

 ぴしゃりと言われ、どこからともなく取り出したドスを放り投げる。

 

『ともかく、貴方が責任を感じる話ではないわ』

「そう言っていただけるのはありがたいんですがね」

『ひょっとして、落ち込んでる?』

 

 柄にもない声色だったらしい。意識していなかったアイルは軽く首を振ると、「ミリ単位くらいは」とわざとらしく返してみせた。

 

『ハヤテはあの両親からは引き離されているのよね』

「今は屋敷に保護されてますから、大丈夫でしょう」

『そう。ひとまず良かったわ』

 

 そう言って、再び安堵の声が聞こえる。どうやら、彼女の懸念はそこにあったらしい。安心している気持ちは本物のようだ。

 

「聞いた話ですが、借金の方も紆余曲折あってつい昨日、三千院家のナギお嬢様が一括して肩代わりしたそうで。今後は住み込みで働くことになったそうで」

『……三千院家なら安心かしらね』

 

 しかし、気丈に振る舞っているように聞こえても、その中に寂しげな感情が見え隠れするのを執事が見逃すはずがなかった。

 

「ただ、まだ正式に決まったわけじゃないようです。三千院家の執事長は反対されているようですし」

 

 彼は24日の夜、マリアに頼まれた件を伝える。執事長を説得するためにも、一度ハヤテの様子を見に来て欲しいとお願いされた。結局そのときは後日、機会を見て足を運ぶと濁したのだが。 

 

「そこでケチを付けて屋敷から追い出させる。行く宛てがなくなった彼を、ウチで拾うという手がありますが」

『そんな事、私が望むとでも?』

「ですよね」

 

 アイルは肩をすくめてみせた。聞くまでもない質問だったが、彼女の複雑な心境をおもんばかると問いかけずにはいられなかったのである。

 

『ひとまずは、予定通りにいきましょう』

「年明けに会うってことですか?」

『えぇ。立場が変わっても、私が逃げる理由にはならないわ』

 

 力強い主人の言葉。従者としては反対する理由はない、彼は静かにうなずくに留めた。

 

『ただ、ちょっとこちらも立て込んでしまって。帰国が伸びそうだから』

「大丈夫ですか?やはり私もそちらに戻った方が」

『平気よ。経済情勢の関係で、例年よりも雑務が立て込んでるだけだから』

 

 電話越しに疲れたため息が聞こえる。

 

『それに、貴方は来ない方が良いわね。まだうるさい連中もいるから』

「元々拾いモノの身ですから、疎まれるのには慣れてますよ」

 

 高貴な家柄に使える従者にはそれなりの出自や血統がもとめられる場合も多い。特に、天王州家ほどの名家になれば周囲でも黙っていない人間は少なくない。

 

『それだけでなく、いつも以上に厄介な輩もいるって事よ。あの嫌みな男もね』

「あぁ、フランセルの所の。心中お察しします」

『えぇ、いつにも増してアプローチが鬱陶しくてね』

 

 うんざりとした様子の声色に、アイルもまた顔をしかめた。

 

「仮にご成婚されれば、周囲も大人しくはなるでしょうけど」

『あんなのと一緒になるくらいなら舌をかみ切った方がマシよ』

「同感です」

 

 

 

 

 

 ハッピーニューイヤーの足音もいよいよ目前に迫った年の瀬。

 両親の借金の方に1億5000万円で身売りされた悲劇の少年、綾崎ハヤテといえば──

 

「うーん、ここの手入れはまだ甘いな。昨日は業者の人がやったのかな、もう少し丁寧にしないと目立っちゃうよね」

 

 甲斐甲斐しく、屋敷の掃除に勤しんでいた。

 

「うん、やっぱりこのスチームクリーナーは使い勝手が良いな」

 

 巨大な窓ガラスを水垢一つなく綺麗に拭きつつ、オブジェや家具の手入れもそつなく迅速にこなし、丹念に絨毯を洗浄する。

 

「あ、そろそろ鍋も良い頃合いだ。今日のは自信作だからお嬢様も喜んでくれるかな」

 

 かと思えば、厨房へひとっ飛び。大鍋でしっかりコツコツ煮込んだ合鴨のスープを丁寧にかき回し始める。

 

 三角巾を頭に巻いて、可愛らしいエプロンに腕を通し。忙しなくも鼻歌交じりに動き回る。もちろん、終始可憐な笑顔も絶やさない。

 さながら舞踏会に置いてかれても健気に家事に励むシンデレラを彷彿とさせる。

 

「良いお嫁さんじゃないですか、ナギお嬢様には勿体無いくらいですね」

「いや執事候補じゃから」

 

 そんなハヤテの姿を遠巻きに眺めるのは、アイルとカイゼル髭を蓄えた初老の執事。2人とも並んで双眼鏡を構える姿はいやに滑稽である。

 

「ですがクラウス執事長、どこからどう見ても献身的に尽くす花嫁の姿にしか見えません」

「確かに否定はできんが」

「末永くお幸せに。それでは」

 

 立ち去ろうとするアイルの肩を掴んで引き戻すクラウス。

 

「待て待て!お前さんちゃんと奴の仕事ぶりを見ていきなさい」

「これ以上何をしろというんですか。姑いびり?」

「上司命令じゃ!このまま帰られるとマリアに怒られる!」

「元上司でしょう。情けない理由で泣きついてこないでください」

 

 帰る、帰らない。互いが互いに駄々をこね合う執事2人。

 

「お二人とも、良い年してなにしてるんですか」

 

 当然、部屋に入ってきたメイドさんには呆れられる始末である。 

 

 

「む、エドモンドではないか」

 

 屋敷の主人であるナギも一緒だったらしい。

 

「どうしたのだ、また私の漫画が読みたくなったのか。まったく仕方の無いヤツだな」

「いや、それはまたの機会に」

 

 ちなみにエドモンドとは彼がナギに名乗った偽名である。

 

「今回は新しい三千院家の執事候補になった方を見定めてほしいと頼まれまして。彼の執事力を計りに参りました」

「スカ○ターでも使う気かお前」

「ここに」

「あんのかよ」

 

 アイルが取り出したのは誰もが見覚えるのあるヘッドセットディスプレイ。ひとたびこれを使えば、あらゆる人間の執事力が数値化されるという。

 

「ちなみにナギお嬢様の生活力は5です」

「執事力どこいったオイ」

「商店街の駄菓子屋で売ってました」

「パチモンじゃねーか」

 

 ヘッドセットを取り上げると後ろのソファに放り投げるナギ。

 

「そんなモノは不要だぞエドモンド。ハヤテはもう執事として雇うと私が決めたのだ、力など測るまでもない」

「いいえ、それは認めておりませんな」

 

 断言するお嬢様に待ったをかけるのは執事長。すっと2人の間に割って入る。

 

「候補ですぞナギお嬢様。まだ採用したと決まったわけではありません」

「なるほど、つまらんジョークを言う髭はこれかクラウス?」

 

 間髪いれずクラウス自慢のカイゼル髭を引っ張り上げるナギお嬢様。立派なだけありよく伸びる。

 

「いいですかお嬢様!ここは由緒ある三千院家、どこの馬の骨とも分からぬ男を入れるわけにはいきません!」

 

 髭を抑えつつ、クラウスはきっぱりと言い放つ。執事長の威厳が

 

「関係ないのだ!私が助けて貰った礼に雇うと決めた。この決定に変更はない」

「いいえ!姫神の後任は私が決めると約束したはずです!この三千院家執事長、クラウスの名にかけてこれは譲れませぬ」

「そんな名は深泥が池にでも捨て置いてしまえばよいのだ!」

「名誉ある執事長の名を!?」

 

 一方でナギもまったく引く気はないようで。あーでもないこーでもないと意見のつばぜり合いを始めてしまう。

 

「と、まぁずっとこんな調子なんです」

「クラウスさんも大概負けず嫌いですからね」

 

 そんな二人を困ったように眺めるマリアとアイル。主人と執事長の板挟み続きなメイドさんの苦労はわざわざ確認するまでもないようだ。

 

「いいですかなお嬢様。三千院家の執事とは清く、正しく、強くなくてはなりません。主人を命に代えても守る精神と肉体の強さと品格が無ければ話になりません」

 

 人差し指を立てながら高説するクラウス。そんな言葉も、ナギは軽く鼻で笑ってみせた。、

 

「強さなど、ハヤテには愚問だな。何しろアイツは変身するたびに戦闘力が増す」

「ほう?」

「そして、ヤツはあと2回変身を残している。この意味が分かるな?」

 

 自信満々とばかりに胸を張るナギ。

 

「へぇ。彼、そんな設定あるんですか」

「ありませんよ?」

 

 メイドさんが答えるまでもなく無論である。

 しかし、クラウスは不適に微笑み人差し指を立てて見せた。

 

「よろしい。では適正試験を行いましょう」

「試験だと?」

「えぇ、誰の目にも明らかな形で執事の品格を見せて戴ければ、採用に文句は言いますまい」

 

 ぷいっと顔を背けるお嬢様。

 

「ふん!、ハヤテの強さは折り紙付きだ、イチイチ試験など必要はない」

「ふむ、彼の実力って本当にあるんですかねぇ。実は嘘なのではないですか」

「なんだと!」

 

 あからさまにため息をこぼすクラウスに食ってかかるナギ。

 

「折り紙つきなら見せてくれてもいいでしょう。ムキになって拒むというのは隠しているとしか思えませんな」

「ぐぬぬ」

 

 流石は三千院家の執事長。ナギの性格もお見通しなのだろう。端から見れば安い挑発だが、負けず嫌いの彼女にとっては効果絶大だ。

 

「アイル、帝様直々に試験を受けた君はならば分かるだろう。執事は強さと品位を示すことが信頼を得る最大の近道だと!」

「あれ試験っていうですか、懲罰かと思ってました」

 

 いきなり話を振られたアイルは肩をすくめつつ、ナギの方に目を向ける。

 

「しかし、確かに執事長の意見にも一理あります」

「む、むう」

「ナギお嬢様が信頼する方が弱いはずもありません。ここできっちり力を証明すれば、何も異論は出ないでしょう」

 

 微笑む執事に、ナギはおずおずと頷く。

 

「まぁクラウスの意見はどうでもいいが、エドモンドが言うなら良いだろう」

「どうでもいい!?」

 

 ショックのあまり床に膝をつく初老。

 

「試験とやらを持ってくるがいい。ハヤテならどんなものでも返り討ちだがな!」

「分かりました、すぐに用意します」

 

 勢いよく宣言するナギの言葉を聞くやいなや、部屋を飛び出していくクラウス。そんな光景を見送りながら顔を見合わせる3人。

 

「今更ですが、試験って何をさせるんですか?」

「さぁ」

 

 

 数十分後。

 

「あの、僕はなぜ見知らぬ扉の前に立たされているのでしょうか」

「適正試験が始まるからだ少年」

 

 ハヤテは、執事長に連れられて屋敷内にある扉の前に立っていた。

 

「適正試験、ですか?何の?」

 

 振り返ると、ナギ、マリア、アイルの3人が小首をかしげて返してくる。何なのだろうこの状況は、ハヤテはますます疑問を募らせる。

 

「心配するなマフティー、なんとでもなるはずだ」

「いえ綾崎ですお嬢様」

 

 閃光のごとく、ナギは目を輝かせてハヤテの活躍を疑わない。そんな無垢な表情を前に撤退するなんて言えないじゃないかそもそもどんな試験なんだこれは。

 

「頑張ってくださいねハヤテ君」

「ま、マリアさん!一体これはどういった試験で」

「分かりません」

 

 にっこりと笑顔でハヤテのヘルプをぶった斬るメイドさん。慈悲はない。

 

「少年、私は君を執事とは認めていない。ナギお嬢様の執事となりたくば、この先の部屋にいる敵と〝執事〟として競ってもらう」

「な、なるほど。執事適正試験ということですか」

 

 クラウスの宣戦布告と言う名の丁寧な助け舟を貰いつつ。

 

 意気揚々と開かれた扉の先に待ち受けていたのは――

 

 

『お待ちシテおりましタ。綾崎ハヤテさん』

 

 

 寸胴なまん丸ボディに、銀色のパイプのような無骨な腕。べた塗りのオレンジ色のペンキ。胴体の中心に「8」という番号がイヤに目立つように刻まれている。

 

「何なのだこいつは、ロボ○ンのような古くさいデザインの――」

「おっとそれ以上はいけませんよお嬢様」

 

 クラウスは軽く咳払いを一つ。

 

「これは現在、三千院家の傘下にある企業が開発した介護ロボット(エイト)です」

「介護、ですかクラウス執事長」

 

 ハヤテは怪訝な表情で前方のロボットを眺める。

 

「その通りだ少年。昨今の少子高齢化で、介護人材不足が深刻化しておる。ロボットに介護を任せるという話はもう、現実化しつつある。三千院家でもこの開発には力を入れており、先進企業と協力して勧めているのだ」

「それは分かりますが、まさかこれと戦えという気ですか?」

「無粋な事を言うな。あれは介護ロボだ、この部屋にある日用品を使い、給仕の早さやエレガントさを競ってもらおうというのが試験だ」

「なるほど」

 

 部屋にはコンパクトキッチンや高級食器棚などあらゆる家具が取りそろえられている。

 その中心にいる介護ロボットを違った様子で見つめる2人が。

 

「マリアお嬢様、なんだかやけに見覚えのあるロボがいるのですが」

「えぇ、私もちょうど同じ事をおもっていた所です」

 

 顔を見合わせるアイルとマリア。

 

「昔、生徒会室であれと同じ機体にドリルで殺されかけた気が」

「文化祭のステージでも似たような子が大暴れしてましたねー」

 

 2人の脳裏には白衣を着て屈託のない笑顔を浮かべるマッドサイエンティストの姿が。

 

「え?アイツ三千院家の関連企業にいたんですか」

「えぇ。正確には傘下企業に紐付いてる研究所に所属されてるんです」」

「なるほど……帰っていいですか?」

「ダメです」

 

 執事の要望をニッコリと切り捨てるメイドさん。

 昔懐かしむ2人はさておき、ナギはしげしげとそのロボットに目を向けて――いや、いぶかしげに小首をひねっていた。

 

「お嬢様、どうされました?」

「いや、ふと思ってな」

 

 眉をひそめたまま続ける。

 

「何というか、随分ブサイクなロボットだ。クラウス、これ持ってくる機体間違えたのではないか」

「いやいやお嬢様、これは一応世界最先端の介護ロボットでして」

「これが最先端!?これで!?」

 

 暴言とともに指をさされたロボットはぴくりと微動する。

 

「こんなブサイクなロボに介護されたら逆に死にたくならないか」

「そんな元も子もない」

「何にしても、こんな合体も変形もできなさそうなロボットにハヤテが負けるはずないな」

 

 ふとナギが前を見ると、右腕を大きく振り上げたロボットが。

 

「うわっ!?」

「危ないお嬢様ッ」

 

 振り下ろされた右手は屋敷の壁をいともたやすくぶち破る。ハヤテがナギを抱えて間一髪避けていなかったら、間違いなく今頃星になっていただろう。

 

「これはこれは、随分と短気な最先端ロボットですね」

「人口激減で老人問題も一挙解決というわけですか」

 

 そんな様子をのんきに眺めるメイドと執事。

 

『ちっ、変形させてやろうと思ったのに……次こそミンチにしてやろう』

「およそ介護現場で使わない台詞じゃないですかっ」

『甘いぞ綾崎ハヤテ。介護現場は常にストレスフル、スタッフは内なる破壊衝動を抱えて発散の機会をうかがってるものなのさ』

「闇深すぎる発言はやめろ!!」

 

 物騒な発言をいなしつつ、ハヤテはナギを後ろに退避させる。

 

「クラウス執事長!アイツを止める方法は?」

「えーと、マニュアルによると背中のパネルを開けて、パスワードを打ち込んでメニューリストから緊急停止コマンドを押して」

 

 執事長から説明書を取り上げると、マリアは笑顔で一言。

 

「とりあえぶっ壊して機能停止させちゃってください、ハヤテくん」

「やっぱりそんな展開ですか」

 

 小さなため息を一つ、ハヤテは寸胴な鉄の塊と対峙する。

 

「では本気でやらせていただきます!ロボットに恨みはありませんが、覚悟して――」

 

 ぱか。ロボットは体の前を開けると、ぎっしりと詰まっていたのは無数の小型ミサイルが。一斉にハヤテに向けて発射される。

 

「って!!これのどこが介護ロボなんですかちょっと!?」

「夫を先に亡くした一人暮らしの高齢女性のために必要な機能なのだろう」

「無理があるわッ」

 

 しかし、ハヤテは無駄のない華麗な動きで避けていく。ミサイルは壁や床に炸裂しているが。

 

「おお!流石ハヤテだ、当たらなければどうということはない!」

「確かに悪くない動きですな」

 

 よりエイトはムキになり、両腕を振り回し部屋を破壊しにかかる。

 

『くらえ貧乏顔がぁぁああ』

 

 再び小型ミサイルを掃射。あちこちに炸裂したあげく、部屋には大きな水しぶきが立ち上った。

 

「おお、水道管を壊させたのか!」

「なるほど、機械は水に弱い」

「あの、この後誰が片付けるか分かってます?」

 

 片付けするのも憚られるほど既に部屋はぐちゃぐちゃだが。

 

『フハハハ!日本のロボの生活防水機能は世界一ィィィ』

「申し訳程度の機能だな」

「しかし防水は介護には必須ですぞ」

 

 本日三度目の掃射。

 が、弾のいくつかがターゲットを外れてしまい。

 

 行き場を失ったいくつかがよりにもよって、マリアがいる方向に直進してきた。

 

「え?」

 

 瞬間、彼女の体がふわりと浮く。そして景色は一気に変わり。

 

「マリアお嬢様、お怪我は?」

 

 こちらをのぞき込むアイルの表情を見て、マリアは今、彼に抱きかかえられていたことに気が付いた。

 

「だ、大丈夫です」

「それは良かった」

 

 マリアは目をぱちくりさせていたが、やがて彼の元からそそくさと離れ。ぱっぱとスカートの裾をはたくと、軽く咳払いを一つ。

 

「ありがとうございます、アイル君。おかげで助かりました」

「いやそこ体裁保つ必要ある?」

「ナギ?何か言いまして?」

「……なんでもないです」

 

 どうやってのか、彼は弾をバラして信管を一瞬で抜き去っていたらしい。無力化されて弾の残骸が近くに転がっているのみ。

 

 否、それだけにあらず。

 

『ぬウ!?う、動けナイ?』

 

 エイトの手足にはいつの間にか、ナイフやフォークが無数に刺さっていた。アイルがいつの間にか、後ろにあった食器棚から拝借し、放ったようだ。鋭く深く、それはロボットを磔にする。

 

「綾崎君!このナイフやフォークは純銀です」

 

 そのかけ声に、ハヤテははっとして周囲を見る。ずぶ濡れなのはエイトだけではない、水浸しになった絨毯や床も。

 彼はすばやく近くにあった太い配線を引きちぎると、両手に構えた。

 

「見せて差し上げます……天を統べる、ロ○ア系の力を」

『ぬう!?それは純国産の100V電源……ま、まさか貴様』

 

 執事は大きく振りかぶって、配線を切り口を水浸しの床に放り投げる。電気は加速的に、純銀製のナイフに通電し、雷鳴をとどろかせた。

 

 

 ママラガン――!!

 

 

 見るもの全てを圧巻する神の雷。

 かつてスカ○ピアを沈めかけたという伝説の大技は、一瞬で暴走介護ロボットを包み込んだ。

 

 

 

 

「ハヤテ!無事か」

「え、えぇ。なんとかかんとか」

 

 モクモクと白煙が充満する中、ハヤテは咳き込みながらも転がり込んでくる。

 

「お前、どうしてそんな無茶を」

「主人を命に代えても守るのが、執事の役目でしょ?」

 

 まさに執事の鏡のような回答。それを聞いたナギは振り返ってジト目をクラウスに向けた。

 これでもまだハヤテの適正にケチを付ける気か、と。

 

「まぁ意外と見事な手際でしたし、実力もなくはない。いいでしょう、しばらくは様子見ということで雇っておいてもいいでしょう」

 

 気まずそうに視線をそらしつつ、執事長は背を向けるとそう言い残して部屋を出て行った。

 

「散々引っかき回して、去る時は一瞬か。まったく」

「心配ありませんわ。修理代はクラウスさんの給与から引いておきますから」

 

 残酷な事実を告げるメイドさんの声。その事実を知るのは悲しいかな少し後になることだろう。

 

「それはそうと」

 

 ハヤテはアイルの方に目を向ける。

 

「先ほどは助かりました。えっと、聞くタイミングがなかったのですが」

 

 貴方は一体。

 

 その問いにアイルはしばし逡巡した。実は一緒に自転車で高速を走ったりもしているのだが、いかんせん馬鹿正直にそんな事実を言うわけにもいくまい。

 

「初めまして、綾崎君。私はアイルと申します。普段は白皇学院で執事として仕事をさせていただいてます」

 

 丁寧に一礼。

 

「今回はマリアお嬢――マリア様の紹介で、三千院家の新しい執事の方を見に来たんです。以後お見知りおきを」

 

 そうして、笑顔で右手を差し出した。

 

「そうでしたか。それはそれはご丁寧に、綾崎ハヤテです。こちらこそ、まだ新米ですが」

 

 ハヤテは少し照れたようにはにかむと、その手を握り返すのだった。

 

 ハヤテとアイル。2人の執事の出会いが、後に大きな運命を動かすことに……

 

「なんだこの後薄い本の展開になるのか。ハヤテは私のものだが、そっちの路線で売り出すのもアリか」

「ハヤテくんなら違和感なさそうですねぇ」

「違いますよ!?」

 

 なるかどうかは、まだ分からない。

 

 

 

 

 

「えぇ⁉︎先輩、介護ロボット壊しちゃったんですか」

「あれのどこが介護用だ」

 

 因みに。

 

「えーと、まだ火力が足りませんでした?それとも兵器の種類不足?あ、わかったレーザーですね!」

「思いやりな」

 

 製作者、もとい志織にはしっかり意見を伝えておく執事であった。

 

 






最近ジャイアントお嬢様を読んでますが、とても素晴らしいですねあの街。まさに理想郷、住民票はいずこ

物語の終わり方について

  • エンディングは一つのみが好ましい
  • 各ヒロインのルート分岐などがあっても良い
  • どうでもいい
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