皆様良いお年を。来年も何卒よろしくお願いします!
空はあんなに澄み渡っているのに。木々はあんなにさざめいているのに。川はあんなにせせらいでいるのに。
「どうして私、木の上にいるのかしら」
ただだだ眼前の時計塔を見つめる。
あれだけの高所で日々活動しているというのに、今はたかが木の上で動けなくなっているなんて。
ため息を吐きつつ、しかし一向に身動きが取れない。
頭脳明晰、容姿端麗、文武両道。才色兼備と謳われる白皇学院生徒会長にだって、弱点はある。
高所恐怖症である。
彼女が足場にしている枝は、地面からざっと5mといった所。辛うじて下を見れる程度にはまだ意識を保つことが出来るとはいえだ。もうこの高さでは思うように身体も動かなくなってしまう。というか、現状動けないわけで。
「我ながら、なんて情けない」
己が状況に思わず声もこぼれてしまうほどだ。
しかし、だ。そうまでして、何故わざわざ木の上にいるのか、当然疑問に思うことだろう。まさか鳥にさらわれて置き去りにされた、というわけでもあるまいに。
「この子が無事だったから良かったけど」
その理由は彼女のすぐそばにあった。
横目に見ると、枝の上には手のひらサイズの鳥の巣が一つ、危なげなく乗せてある。そこからひょこっと顔を覗かせていたのは、愛らしい瞳を潤ませたひな鳥が2匹であった。
時計塔を出て千桜たちと別れた矢先、通りががった木の下で落下していた鳥の巣を見かけたのはたった30分前のことだった。
か細く寂しげな鳴き声は言うまでも無く彼女の足を引き止めた。
覗いてみると、巣の中には小さなひな鳥が2匹。親鳥の姿は見当たらない。餌を取りに行っている間に巣が落ちてしまったのだろうか。
「ダメじゃない、ちゃんと見ててあげないと……」
子どもが2匹だけ。取り残されているその光景を彼女が無視できるはずもなく。
そっと巣を抱え、「大丈夫よ」と優しく小鳥たちに語りかけ。
木にするりと上り、巣を置いてあげたは良いが――
「降りられなくなった、と」
ミイラ取りがミイラになるとはまさにこのこと。
しかして、高所恐怖症とはまた別でこの状況は好ましくない。
彼女は生徒会長。生徒会長とはつまり生徒を代表する学校の顔、と言っても過言では無い。
常に皆の模範になり、皆の期待に応えないといけない。
そう、人望と威厳が重要な立場なのである。だというのに、木から降りられないなんて。
「こんな情けない姿を、晒すわけにはいかないわ!」
とはいいつつ、現状木の幹にしがみついていないと立っていられない訳で。
何度目かのため息を深々とついた、まさにその時であった。
「すみません、あの時計塔ってなんですか?」
聞こえてきた声の方に視線を向ける。
見覚えのある顔、どころか先ほどまで探し求めていた顔である。
あれ、噂の三千院家の執事くんじゃない。
ヒナギクは考える。これはチャンスなんじゃないか。
ここで颯爽と登場して、生徒会長としての威厳を見せつければ、剣道部への勧誘も――だが、どうする?こんな状況で声をかけて威厳などを保てるだろうか。
登った木から下り枯れなくなっている。むしろ、非常に情けない格好ではないか。
下ではなにやら騒いでいる様子。どうやら他にも人がいるらしいが、彼女の位置からはその姿が見えない。1人ではないのであれば余計にこんな姿をさらすわけにはいかないのでは。
弱気になってはダメよ、ヒナギク。心の中でそう自身に言い聞かせる。
ここで強気にでれずに何が生徒会長か!
「ふふ、騒がしい人ね。三千院家の新しい執事君は」
下にいたハヤテがきょろきょろと辺りを見回す。
しかし、彼女はいるのはもう少し高い目線の先で。
たっぷりと余裕をもった調子で、頭上から言葉をつむぐ。
「三千院家の執事ともあろう人が、ご主人様を見つけられず迷子なんて。鍛錬が足りないのではなくって?」
ついに視線が上に。
ハヤテとヒナギク、2人の視線がかっちりとぶつかる。そうして、まるで時が止まったかのように、一切の言葉もなく、ただただ無為な時間だけが流れていく。
ぽかんとしたような、間の抜けた執事の表情に、彼女もまた言葉に詰まる。
それもそのはず。余裕綽々な声色が聞こえてきたにもかかわらず、見れば木の幹に必死にしがみついた少女が1人いるだけなのだから。
「あの、アイルさん。これは一体」
「え?」
ハヤテが横を向くと、その視線の先にはまたもや見覚えのある顔が。
「なッ」
ひょこっと、彼女の死角から顔を覗かせたのはもう一人の執事、アイルであった。
見覚えのある顔どころか、彼女たちが普段から一緒に仕事をしている生徒会仲間の1人でもあるわけで。
「えー」
一体何故、この人がここに。そんな疑問は今はどこにでも捨て置けばいい。
彼女はカッと目を見開き、アイルに向けて視線を送る。
それはもう、レーザービームのごとく。
――空気を、空気を読んでくださいッ
常人であれば首をかしげるであろうこの場面。
しかし彼は執事。天下に轟く天王州家に仕える執事である。
クライアントの視線、もとい念をくみ取るなどお手の物。
任せろとばかりに、サッとアイコンタクトを返す。そのままくるりとハヤテの方を振り返り
「あれは、小鳥を助けるために木に登ったは良いけど、高所恐怖症のために降りられなくて途方に暮れていた時に綾崎君が通りかかったので、なんとか威厳と余裕を見せつけようと声をかけたものの後の展開を全く考えていなかったので固まっている生徒会長の桂ヒナギクさんです」
「はぅッ」
ガックリと枝の上で項垂れる生徒会長。
彼女の意思は何も伝わっていなかったようである。
むしろ伝わり過ぎているのか、完全に状況を把握されている。
「は、はぁ」
ハヤテはとえば、今なお状況が飲み込めずに困惑したような生返事。
「もう、何でもいいので助けてください」
ヒナギクは幹にしがみついたまま、あえなく白旗を振った。
「お怪我はありませんでしたか、ヒナギクさん」
「ありがとうございます。もう既にダメージを与えられてますけど、主に自尊心に」
そこから数分間、執事2人で慎重に、枝の上の生徒会長を支えながら地面に降ろしたわけだが。
へなへなと地面にへたり込んだこの少女は一体何者なのか。ハヤテは当然の疑問を視線に乗せる。
「なにか、言いたいことでも?」
「あ、いえ。滅相もない」
が、向こうから返ってきたのは鋭い視線。思わずたじろいだ彼は慌てて首を振って口をつぐんだ。
どうやらこの件は触れてはいけないらしい、と思えばすかさず執事のフォローが。
「心配いりませんよ綾崎君。彼女はこの状況でなんとか威厳を保とうにもうまい方法が分からずつい怒ったような表情をしてしまっているだけですから」
「アイルさんわざとやってるでしょうッ⁉︎」
ヒナギクからの異議をひらりとかわして。
「生徒会長として完璧主義を徹底する姿勢ももちろん素晴らしいとは思いますが、少しくらい隙があっても良いと思いますよ」
「むしろこの数分間で傷だらけなった気がします」
「傷は組織を強くして修復するものですから。これもきっと明日の自分の糧になれば」
「良い感じにまとめにかからないでくさだい」
ため息をつく少女。
この二人は一体どういう関係なのか、皆目見当もつかないハヤテだったが。
「それはそうと、彼が時計塔に上りたいそうです。案内していただけますか?」
「時計塔に?」
急に話題が振られる。
振り返ったヒナギクの視線に,ハヤテは慌てたように両手を振る。
「あ、いえ。あまりにも高いので景色キレイだろうなーとか、ちょっと興味があって。でもいきなりそんなことは迷惑ですよね」
「なんだ、そんなこと。構わないわよ」
しかし、彼女はあっさり承諾。
「え、でも。僕生徒会どころかこの学校の生徒でもないですし……」
「まぁ、関係者以外立ち入り禁止というのはそんなに厳格なルールじゃないから」
ヒナギクはぐっと軽く伸びをして、ようやく緊張を解いたように破顔した。
両足が踏みしめている大地の感触は、彼女に心地よさをもたらしてくれるようだ。
「では、私はナギお嬢様をお呼びしてきますね。時計塔にお連れするので、その間に見学なさっていただければ」
「え、いや!そんな申し訳ないですよ、そこまでしてもらうのは」
「学校側が一方的に不審者扱いしてしまった、せめてものお詫びです」
なのでお気に為さらず。
口元を緩めて、そう続けるアイルに、ハヤテもおずおずとうなずく。
そこまで言ってくれるなら、ここはお言葉に甘えさせて戴こう。
去って行く執事を見届けると、ハヤテは再びヒナギクの方に向き直る。
「なんだか無理を言ってすみません。わざわざご案内してもらうなんて」
「むしろちょうど良かったわ。時計塔はウチの名物でもあるから」
「ちょうど良かった、ですか?」
ハヤテの疑問には答えず。
彼女はさっと後ろ髪を束ね、ポニーテールのようにまとめてみせた。
「私は桂ヒナギク。白皇の生徒会長よ。よろしくね、三千院家の執事君」
白皇の中心に位置し、学院の象徴ともいうべき時計塔はとにかく高い。
敷地内はいうまでもなく、杉並区ほぼ全てを包む敷地の外からですら目印になるほどに、高い。
タワーマンションや大手企業の高層ビルよりもはるかに高い。
生徒会室はその中でも最上部に位置しているので、当然エレベーターで上がっていくことになる。
とはいえ時間がかかるだけあって。
「うわぁ!!すごい、景色ですね!」
最上階のベランダから望むは、この広大な敷地全てを掌握できるほどの眺望だった。
ハヤテの口から感嘆の声がもれてしまうのも無理からぬ話である。
「ふふ。この時計塔からの眺めはまさに絶景。あまりの美しさに、まばたきすらも忘れてしまうでしょう」
その反応に満足げにうなずき、ソファーに腰を下ろしていたヒナギクは優雅にティーカップを傾ける。
「そんな奥からでは見えませんよ」
「私はいいの。心の目で見ているから」
だが、彼女の視線は真逆の室内に向けられていた。一心に。
「ここからだと、学院の様子もよく見えますね」
「そうでしょ。ここに生徒会室があるのは、生徒たちの様子をよく見つめるためなんだから」
自慢げに語るヒナギクは、しかし室内の壁から視線を逸らさない。
「桂さんはここから見たことがあるんですか?」
「私はいいの。目ではなく、心の声で聞いているのよ」
達人曰く、聴覚は時に視覚を凌駕する域に達することもあるという。
「桂さん、高所恐怖症なのにどうして生徒会を?怖くないんですか?」
「怖いわよ!最初の頃なんて部屋に入るのも大変だったんだから、あんなに大きい窓に毎回景色が映るのよ?でも推薦で決まっちゃったから仕方ないでしょ?」
「ははぁ、推薦だったんですね」
「どこかのバカがこんな場所に生徒会室を作らなければ全て平和にいっていたのにね」
ため息をつきつつ、ソファーから立ち上がる。
「というか、今授業中みたいですけど」
「分かってるわよ。けどチャー坊を助けてるうちに授業が始まっちゃったんだもの。途中から入るのも迷惑かかるし」
「はぁ、なるほど」
納得しかけたところで、聞きなれない単語に続けてハヤテは首を傾げる。
「ところでチャー坊って?」
「助けたスズメのヒナことだけど」
茶色いヒナ鳥だからチャー坊。
なんて安直なネーミングセンスだろうか。
そう口をついて出そうになった言葉を辛うじて呑み込み、ハヤテはもう一度ベランダに目を向ける。
校舎で授業を受ける生徒たち。グラウンドで運動をする生徒たち。テラスでお茶会をする生徒たち。
彼らを見つめる視線には、いつの間にか羨望の色が混ざっていた。
「でも、皆さん本当に楽しそうですね」
「綾崎君、今学校は?」
ハヤテは少し思案してから振り返る。
「一応籍は残ってるとは思いますが、通う余裕もないですから。今は仕事をいただけてるだけで十分ですし」
「けど、退学になってるわけではないんでしょう?」
「いやぁ、どうでしょう。もう2週間以上無断欠席してますし、案外退学になってるかもしれませんね」
困ったように笑う執事。だが、その瞳に滲む一抹の寂しげな色を、ヒナギクは見逃さなかった。
「だったら、白皇に編入してみたら?」
「へ?」
「ご主人様が通ってるんだし、それが理由で編入してくる執事さんも結構いるのよ。ウチの学校」
思わぬ提案に、面を食らったように固まるハヤテ。
「それに、白皇に入ったらやっぱり部活ね」
「ぶ、部活ですか」
「そう!オススメは特に剣道部。青春の汗を流すのは学生の特権だわ」
「確かに、青春の象徴ですよね」
「でしょう?私、そこで主将もやってるの。もし気になるなら案内するわ」
そう言って頷きかけたハヤテは、慌てて首を振る。
「ってこれ、体よく勧誘されてませんか?」
「あはは、ゴメン。ちょっと露骨だったわね」
そう言いつつ、ヒナギクは屈託なく笑う。
「けど、どっちにしても学校には通った方が良いと思うわ。ナギの執事である以前に、アナタは1人の高校生なんだから」
「ですが、これ以上お嬢様に迷惑をかけるのも」
「幸運の女神には前髪しかないっていうでしょ」
彼女は机にあったパンフレットを手に取り、そのまま差し出した。
表紙には時計塔の写真がでかでかと写っている。
「少しくらいワガママ言わないと幸せを掴み損ねちゃうわよ」
ワガママを。
ハヤテはおずおずとパンフレットを受け取り、まじまじと見つめる。
三千院家の執事になってから今日まで、学校に通うという発想そのものが無かったが。
「ありがとうございます、お嬢様にも相談してみます」
「うん、それが良いと思うわ」
時計塔から見た学校はとても素敵で。
やはり学校は良いなと、彼は感じ始めているところだった。
「なんていい話のまま終わると思ったら、そうは問屋が卸さないのよ、坊や」
不意に轟いた声。
2人が慌てて振り返ると、ドアに寄りかかる女性が1人。
「あ、あなたは!鬼の門番教師!」
「不名誉な呼び方やめてくれる?」
女性は持っていた竹刀をハヤテの方に突きつけると不敵に笑む。
「私の名は雪路。世の中の景気ではなく私の給料のプライズダウンを阻止するために孤軍奮闘する勇敢な教師よ」
「そっちの方が不名誉なのでは」
「しゃーらっぷ!」
言わずもがな。
「お姉ちゃん、また問題起こしてるの?」
そんな2人の間に、やれやれと言った調子で割って入ったのはヒナギクだった。
「ヒナ、まさかアンタが不審者を庇うとはね。犯人の情に絆されるとは我が妹ながら情けない」
「違うわよ。この人は不審者なんかじゃないわ。新しい三千院家の執事くんよ」
そう言って振り返ると、驚いたようなハヤテの視線とぶつかった。
「え、あの?この方って桂さんのお姉さん?」
「恥ずかしながら、ね」
「マジっすか」
似ても似つかないとまでは言わないが、しかし雰囲気や言動を比べるにこの2人が姉妹関係とは想像できないだろう。
「ふん、確かにキリカ先輩もそんな事を言ってたけど」
「だったらもういいでしょう。早く門番に戻りなさい」
チッチッチ。雪路は人差し指を振って続ける。
「そんな事はもう関係ないのよヒナ。世界は常に動いているの」
「いや意味が分からないけど」
「要するに!歴代最強、鉄壁の門番と呼ばれたこの私が、身元不明のまま侵入を許した事実は変わらない!」
「門番の罰受けたの昨日からじゃない」
ヒナギクのつっこみをスルーして、雪路は竹刀を構える。
「となれば私の給料が更にダウンする事態にもなりかねない。だからそこの彼を不審者として倒し、自分から不審者と認めさせる必要があるのよ」
「自分でめちゃくちゃな事言ってる自覚ある?」
「これは教師の意地、プライドの問題よ。さぁ坊や、剣を取りなさい」
雪路はどこからかもう一本の竹刀を取り出すと、ハヤテに向けて放り投げた。
「ごめんなさい綾崎君。こうなったらお姉ちゃん、人の話を聞かないから」
「あー、いえ。僕も明らかに勘違いさせる状況を作ってしまったので」
ヤクザと肩組んで親しげに話していたら、確かに勘違いしても仕方ない。
ハヤテは困惑しつつも、竹刀を右手に持ち替える。
「綾崎君。手加減しなくて良いから、ボコボコにしてあげて」
「はい、手加減を……って、え?およそ妹とは思えない発言が飛び出してるんですが」
「大丈夫よ。あの人は殺しても死ぬような人じゃないから」
それに、と笑顔で付け加えるヒナギク。
「新しい三千院家の執事君も、巷ではガンダムの生まれ変わりって噂だから大丈夫でしょ」
「どこの誰が流してるんですかその噂」
謎の女教師雪路と三千院家執事ハヤテの非公式マッチが開催されようとしている時計塔から少し離れて。
透き通った青がどこまでも広がる空の下、白皇学院のテラスでは──
「だあぁぁぁッ!!そこで舞うのかよッ」
「はっは。お前の考えなどお見通しだ」
響き渡るは少年の怒号と少女の余裕。
「くそッ、ここからだ!本当の勝負は!」
「馬鹿め、圧倒的な種族値の差を教えてやろう」
あるいは熱い叫びや王者の嘲笑。
「はっ、テンプレの受けルで俺のパーティーが止まるかな?」
「ふん、突破してから言ってもらおうか!」
色とりどりのパラソルが並ぶテラスでは、生徒たちが声高らかにゲーム機の画面をにらみつけていた。
「目と目があえばポケ○ンバトル、ですか」
世間では今、手のひらサイズのボールにコレクションするモンスターゲームが大流行中。
冬休み明けの白皇学院とて、それは例外ではなかった。
アイルは苦笑しつつ、テーブルの合間を縫うようにテラスを横断する。
至る所で若きトレーナーたちが、信頼を寄せるパートナーたちと熱いバトルを繰り広げているさなか、彼は目的の人物を探すべく歩みを進めていた。
「さて、ナギお嬢様はどこに――っと」
足を止める。
奥まった場所に開かれたパラソルの下で、彼女〝たち〟を発見した。
「あ、ナギてめェ!キョジ○ーンなんて存在自体が反則級のもん使いやがって」
「はっはっ、超えられるものなら向かってくるがいい!」
彼女たちもまた、元気にポケ○ンバトルに勤しんでいるようである。
テーブルにはナギと、同じ年齢くらいの男の子がSw○tchを向けあい睨み合っている。
「ナギお嬢様、今お時間よろしいですか?」
「む?おお、エドモンドか」
ナギはアイルに気がつくと、Sw○tchを脇に置いて。
「どうした、また私の漫画が読みたくなったのか?まったく仕方ないヤツだなぁ。今回のはスケールの大きな作品にしたのだが──」
目を輝かせて鞄を漁り始めた。
どうやらまた力作が出来たらしく、人に見せたくてうずうずしているらしい。
「それは是非今度に拝見したく。それよりも、綾崎君のことで」
「ハヤテの?」
アイルは手早く状況を説明することに。
不審者扱いされて逃げ回っていたものの、今はヒナギクと時計塔に待機している。
「そうか。教師に相談したが中々連絡がなくてな。助かったよ、エドモンド」
「いえ、こちらこそすみませんでした。お客様にぞんざいな扱いを」
学院の人間として、丁寧にお辞儀をして謝意を示す執事。
しかしナギの方は怒るどころか、さして気にしている様子はないらしい。
「ハヤテって、この前の執事だろ?あの不幸顔だったら不審者扱いされるもの無理ねーわなぁ」
「うるさいぞワタル、お前も決闘して泣かされたではないか」
「うっせえな!あれは、ちょっと具合が悪くてだな」
向かいに座ってた黒髪の少年──橘ワタルは、歯切れが悪そうに顔を赤らめた。
「ワタル君。ご無沙汰しております」
「おう。去年は会ってないから2年ぶりくらいか、確か」
「そうですね。しかし、暫くみないうちに大きく――はなってませんねェ」
「うっせェバーカ!!」
弾かれたように立ち上がるワタル。
「まだ成長期なんだよ!今に見てろよ、あっという間にアンタも抜いてみせるからな」
「えぇ、楽しみにしてますね」
まだ13歳、身長のコンプレックスを人一倍気にする年頃である。
そんな様子をどこか微笑ましく思いつつ、アイルはさっと頭を下げる。
「それはそうと。せっかく対戦されていたのに、お邪魔をして申し訳ありませんでした」
「いーよ別に。コイツ厨ポケばっか使うから面白くねーし」
「はっ、負け犬の遠吠えほど気持ちの良いものはないな」
「なんだと!」
ナギとワタルはぎりぎりと睨み合う。
「あの、仮にも許婚なんですから。人前では仲良く」
「はっ、そんなものは親同士が決めた話だ。我々の意思には関係ない」
「そうだぜ!誰がこんな傍若無人なワガママ女が良いもんか」
「なにをぉぉッ‼︎」
実はこの2人、こう見えてなんと許婚関係なのである。
とはいえそれは2人の親族が決めた話で、当人の意思は真逆。周囲が勝手に決めたとあって、2人はますます反抗していく状況だ。
一緒にポケ○ンをしている時点で側から見れば仲良しに違いない。
「ではナギお嬢様、そろそろ時計塔に」
「うむ、良かろう。と、言いたい所だが」
ナギはSw○tchを取り出してみせる。
「まず先に、バトルで私に勝ってからにしてもらうおか」
「なんと、そうきますか」
目と目が合えばポケ○ンバトル。
唐突な提案にアイルは面を食らったように目を丸くする。
「おいナギ。新しいポケ○ン試したいのは分かるけど、お前いい加減に――」
「仕方ありません。では私のパーティーで迎え撃ちましょう」
「持ってんのかよ」
Sw○tchを差し出し返す執事。
今、白皇のテラスでも火花を散らせる戦いが始まろうとしている。
「ふん、我が無敵負け無しの最強の
「井の中の蛙大海を知らず。戦いに絶対がないことを教えて差し上げますよ」
「しかもスゲーノリノリじゃんなんなのコイツら」
物語の終わり方について
-
エンディングは一つのみが好ましい
-
各ヒロインのルート分岐などがあっても良い
-
どうでもいい