アテネちゃんの執事!   作:通行人A'

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Task33:会長が斬る!①

 

 

 

 

 少し時間は巻き戻って。

 

「旧校舎の幽霊?」

「えぇ。日に日に相談が増えてるのよ」

 

 放課後の生徒会室。

 副会長の霞愛歌から受けた報告に、生徒会長、桂ヒナギクは首を傾げてみせた。

 

「『夜な夜な、変な叫び声や音が聞こえてきて君が悪い』『ドタバタとなにか駆け回るような音が絶え間なく聞こえる』とか、こんな所ね」

「それ、本当に幽霊なの?不審者が住み着いたりしてるんじゃ」

「その可能性もあるわね……幽霊の噂なんてその場の雰囲気やノリで尾ひれが付いていくものだから」

 

 淡々と資料をめくりながら、愛歌はくすりと口元を緩める。

 

「むしろ、これを白皇名物にしてしまえば良いんじゃない?ユーチューバーとかに潜入してみた、とかやらせたりして炎上コンテンツに」

「生徒が怖がってるんだから、面白がらないの」

 

 ヒナギクはたしなめるように釘を刺すと、立てかけてあった竹刀を手に取った。

 

「どっちにしても放ってはおけないわね」

「どうする気だよヒナ」

 

 書記の春風千桜は驚いたように文庫本に落としていた視線を上げる。

 

「決まってるじゃない。幽霊だろうが不審者だろうが、うちの生徒に迷惑をかけるのなら成敗するまでよ」

「……オイオイ」

「勇ましいわねー」

 

 つまるところ、武力行使。

 

 勇猛すぎる生徒会長に、2人は呆れたようにため息をつく。

 

「あのなヒナ。そういうのは警備員に報告するのが先決だろう」

「でも、ホントかも分からない噂レベルでしょ?それに、警備の人がケガでもしたら」

「いやなんでお前はケガしない前提なんだよ」

 

 もっともである。

 

「夜美希たちの勉強手伝ってあげるから、そのついでにちょっと寄ってみるだけよ」

「だからって、ただでさえ旧校舎(あそこ)は人気がすくないのに。本当に出るって噂だぞ」

「へーきよ。幽霊でも、気合いがあれば攻撃も通るはずだわ」

「そんな心配はしていない」

 

 

 そんなこんなのやり取りもあって。、

 なんやかんやで夜の旧校舎に突入したヒナギクと伊澄、アイルの3人組。

 

「やっぱりというか、外観以上に中は傷んでますね」

「幽霊よりも建築事故の方が危ない気がするわね」

 

 旧校舎は廃屋に相応しいほどボロボロだった。

 床は絶えず軋み、壁は朽ちて剥がれ落ちている。

 地震でも起きようものなら一気に崩壊せんばかりの不安定さである。

 

 先頭を進むのは、懐中電灯を手にしたアイル。

 月明かりが差し込む窓も曇りひび割れ、懐中電灯の灯りもあいまって、館内はやたらと不気味に浮かび上がっている。

 

「皆さん、気を抜いてはなりません。既に人ならざる気配が蠢いてるのを感じます」

「えぇ、分かりました」

 

 突如木材が割れるような音。

 同時に伊澄の頭がフッと消える。

 

「ちょっ⁉︎鷺ノ宮さん」

 

 ヒナギクが慌てて振り返ると、そこにはぽっかりと空いた穴が。

 まさか下に落下してしまったのか。

 

「……お怪我はありませんか、伊澄さん」

 

 アイルが寸前で彼女の手を握り、ぎりぎりのところで落下を免れていた。

 そのまま、二人でゆっくりと引っ張り上げる。

 

「ありがとうございます。危機一髪でした」

「その割にえらい冷静ですね」

「ふふ、伊達に修羅場はくぐっていませんから」

 

 伊澄は着物についた木くずをぱっぱと払う。

 

「もうここまで霊障が来ているようです、気を引き締めましょう」

「え、単に床が抜けただけでは」

「いえ、霊障です」

 

 頑なである。

 つっこむのも野暮な気がした2人はひとまず頷いておいた。

 

「どうやら我々の侵入を早くも探知したようですね」

 

 そう言いながら、伊澄はどこからともなく一本の竹刀を取り出した。

 

「生徒会長さん。ただの竹刀では危険なのでコレをお貸ししましょう」

「え?」

 

 それを、そっとヒナギクに差し出す。

 しかしそれは何の変哲も無い、言ってしまえばヒナギクが今持っている竹刀と何ら変わらないものだった。

 

「竹刀なら持ってるわよ?」

「いいえ、違います」

 

 伊澄は強く首を振る。

 

「これは、鷺ノ宮家に代々伝わる宝具の一つです。ただの竹刀では怪異相手に効果がありませんが、これならば対抗も可能です」

「……ただの竹刀に見えるんだけど」

「これはかの天才刀鍛冶の一人、虎徹が作った業物の一つ」

 

 伊澄はキラリと瞳を光らせる。

 

「竹刀・虎徹です」

「名匠も悩んでたのかしらね……」

 

 どこからどう見てもただの竹刀にしか見えない。

 半信半疑ながらも、その竹刀を受け取ったヒナギク。

 

「え?」

 

 しかし、手に持った瞬間。竹刀は薄く白い光を帯びた。

 

「随分と軽いわね、嘘みたいに手になじむわ」

 

 目を丸くして、くるりと竹刀を振ってみせるヒナギク。

 

「おぁ……!」

「解説の伊澄さん。これは一体どういう事ですか」

「説明しましょう」

 

 手近にあったホワイトボードに、マッキーを使って刀のイラストを描き始める。

 

「刀には元来、作り手の魂が込められております。それは目には言えませんが、使い手の魂に呼応するように反応します。刀は持ち手を選ぶという事ですね」

「なるほど」

「手になじむという感触は、まさしくこれを意味します」

 

 可愛らしい顔の付いた人魂のイラストが、刀の上に飛び出てくる。

 そうして、2つの人魂は抱き合うようにして満面の笑顔を付けて重なる。

 

「生徒会長さんほどの実力者ならば、いずれ虎徹を使いこなせるとは思ってはいましたが……ここまで早く認められるとは」

「実は村から適当な人間選ぶために、偽物の儀式で祭り上げてただけだった、とかではなく?」

「えぇ。正真正銘の勇者の誕生ということです。真ヨ○ヒコです」

 

 こくこくと頷く伊澄とアイル。

 

「お二人がさっきから何を言ってるのかイマイチよく分からないんだけど」

 

 

 ヒナギクは呆れたようにそんな様子を眺めていたが、不意に目を細めると。

 

 

「はぁッ!!」

 

 

 一瞬で二人の後ろに踏み込み、目にも止まらぬ速さで竹刀を振り払った。

 

 

「え?」

 

 振り返ると、そこにはどろどろ揺れる青白い火の玉が数体。

 一刀両断されて、そのまま静かに消えていった。 

 

「ふーん、中々のものね」

 

 あ然とする執事とは打って変わって、彼女は満足げに竹刀を眺めている。

 

「え、幽霊すか今の」

「えぇ、はしくれではありますが、悪霊です」

 

 驚くどころか、むしろ進んで斬りかかっていく生徒会長。

 

「伊澄さん。ヒナギクさんのパーティー加入は図らずも討伐RTAには必須かもしれませんよ」

「まぁ」

 

 

 その言葉通り。

 

 一行は校舎内の進んでいくと、度々悪霊が行く手を塞いだものの。

 地面から這い出てきた数々の腕をなぎ払い、後ろから襲いかかってきた死霊犬を両断し、校中から突撃してきた生首を叩き斬る。

 

 一般人がみればびびって泣き出しそうな悪霊たちとて、竹刀・虎徹を持った会長の前にはなすすべなく敗れ去っていくのだった。

 

「さすが生徒会長さんです」

「これもう作品名変えた方がいい気がしてきました」

 

 次回作「ゴーストバスター☆HINA」は近日中に連載開始未定!

 

 

「でも、驚いたわ。鷺ノ宮さんがこんな仕事をしていたなんて」

 

 ヒナギクの言葉に、今更ハッとしたようにオロオロし始める伊澄。

 

「あ、あの、このことは他の人には内密に。特にナギとかには」

「分かったわ。というか、話したって信じてもらえないわよこんな事」

 

 言いながら、向かってきた骸骨を両断する。

 

「何というか、完全にこの状況に慣れきってますね、ヒナギクさん」

「えぇ。この子が思った以上に馴染むのでつい」

 

 つい、で悪霊を成敗する女の子が世界に何人いるだろうか。

 若干引き気味のアイルだったが、彼女は少し弾んだ声色で竹刀を眺めている。

 

「竹刀・虎徹は鷺ノ宮家に代々伝わる由緒ある宝具の一つ。能力を引き出せる使い手は、家系でも限られていた『業物』です」

「業物?色々と種類があるのかしら」

「その通りです」

 

 伊澄は神妙に頷いてみせる。

 

「『竹刀・虎徹』『木刀・牡丹』などの業物、『霊刀・菊一文字』『竹刀・物干し竿』といった良業物、『木刀・正宗』『妖刀・村正』などの大業物、そして最上大業物には――」

「伊澄さんストップ!その伏線は十中八九回収できないので、今ここでお蔵入りにしましょう」

 

 

 

 さて。順調に探索をしていく一行は、とある部屋の前にたどり着いた。

 

「むむ!」

 

 伊澄の頭頂部の髪がぴょこんとアンテナを作る。

 

「どうされました伊澄さん、まるで鬼○郎みたいに」

「ここから、強い悪霊の気配がします」

 

 それは洋館には似つかわしくない、木製の観音扉だった。

 扉にはこれでもかと御札が貼り付けてあるが、それもボロボロになって剝がれ落ちている。明らかに何かがある様相である。

 

「強い悪霊っていうと」

「先ほどまで私たちの前に出てきたのは下級も下級の悪霊。いわば下っ端です。それらを統括するレベルの悪霊といえるでしょう」

「つまり、ここの元締ってことね」

 

 ヒナギクもぐっと虎徹を握る手に力を込める。

 

「噂の元凶なんでしょうか」

「可能性はありますね、それほど強い気を感じます」

「分かりました。私が先に入りますので、お二人は安全を確認したら中に」

 

 言うが早いか、アイルは扉を蹴破るようにして侵入。

 

「ここは……」

 

 くすんだ木製の床一面に広がる、道場のような部屋だった。

 

「今のところ、特に何もなさそうですが」

 

 後ろに声をかけると、伊澄たちもそろりと入ってくる。

 

「昔の武道場……ですか?」

「みたいですね、それにしては綺麗な方ですが」

 

 一体何十年前から使われていないのだろうか。あるいはもっと前か。

 キョロキョロと周囲を見渡すヒナギクとアイルだったが、伊澄はある一点だけを注視していた。

 

「お二人とも!静かに」

 

 伊澄の言葉に、2人もその視線に習うように部屋の奥を見つめる。

 一見、何もないように感じるのだが。

 

「……姿を現してください、そこにいるのは分かっています」

 

 努めて冷静に。

 それでいて、凛とした強さをもった声色が響く。

 

「これはまた、随分と若い来客だな」

 

 返ってきたのは低くくぐもった声。

 次第に黒い影が地面の一箇所に集まり始め、あれよあれよという間に人の形を作っていく。

 

「鷺ノ宮さん……あれは一体」

「お気をつけください、会長さん。あれはRPGでいう所のボスイベントです。回復やセーブをする間もなく戦闘に突入する恐れがあります」

「ごめん意味分からないんだけど」

 

 ぬらりと。

 黒い人影から皮膚の腐敗したミイラのような骸が、文字通り這い出してきた。貞子もびっくりな登場には、思わず生徒会長とて息を呑む。

 

「霊媒師など、何人来ても無駄だというのに」

 

 コツ、コツ。

 響くのは異質なゲタの音。

 

 否、違和感はそれだけにとどまらない。

 その格好はより一層奇妙なものだった。

 

 腐り切ってボロボロになった黒い肌とは対照的に、白と青が基調の綺麗な着流しをその身に纏っている。

 極め付けは、腰に差された一本の木刀。

 

「恐らくいつの時代かに取り残された剣道部の悪霊でしょう。残された青春に固執し、還るに還られなくなったと推察します」

「目の前の光景とえらく落差がある字面なんですがそれは」

 

 シュールな説明を淡々とこなす伊澄お嬢様は、目を細めて前方の骸を睨みつける。

 

「旧校舎で悪霊たちを差し向けたのは貴方ですか?」

「いかにも」

 

 潔く頷く骸。

 

「私はこの場所を守るためにおる故。部外者にはお引き取りいただく必要があった」

「守る?」

「左様。この場所は私がずっと守っている」

 

 この場所がそもそもどこなのかも、伊澄たちは理解していないが、悪霊が棲みついている特別な場所であることは間違いないようだ。

 

「もしかして、取り壊しを邪魔してたのもアンタなのか?」

「邪魔とは人聞きが悪い。取り壊しの動きがある度に、その時の理事長に付き纏い、枕元で素振りを繰り返して剣道の素晴らしさを伝え続けたわけだ」

「それであの擬音だったのか……」

 

 ブンブン、という幻聴を思い出すアイル。

 

「では、最近の不審な声や物音というのは」

「知らぬ」

「苦情が入っています。旧校舎から、恐らくこの場所から不審な声や物音がすると」

「知らぬ。私はここを守るために、日々鍛錬を積んでいるだけだ。まぁ、確かに最近は鍛錬に過剰な熱が入ることはあったかもしれぬが」

 

 十中八九、これが原因だと確信。

 

「私たちは生徒の苦情を受けて、この事態に対処することになりました」

「ふむ」

「つまり、貴方を除霊しにきたのです」

 

 シュッと、懐から数枚の御札を取り出して見せる伊澄お嬢様。

 その目つきは一流の退魔師のものに早変わり。

 

「なるほど」

 

 骸は脳天気に顎を摩ると、ぽつりと続ける。

 

「しかし、君たちのような小娘ごときに」

 

 ひとつじの風が吹くと。

 

「私を討てるかな?」

「え?」

 

 次の瞬間、骸は彼女の目の前にいた。

 居合の姿勢を保ったまま、いまにも木刀をなぎ払わんばかりに。 

 

 ――いくらなんでも速すぎる。

 

 伊澄の目が見開かれる。

 同時に、庇うようにアイルが背中で盾となっていた。

 

 逃れられるか、否である。遅すぎた。

 彼の背には鋭い斬撃の痛みが。

 

「……ほう」

 

 来なかった。

 代わりに、鈍い打撃音が周囲に響き渡る。

 

 

「一応、名前を聞いておこうか」

 

 

 なぎ払われようとしていた木刀。

 

 

「桂ヒナギク。白皇学院生徒会長よ」

 

 

 それを竹刀一本で受け止めていたのは、紛れもなくヒナギクであった。

 

 

「倒してしまっても良いんでしょう、小娘ごときで」

 

 

 挑戦的な笑みを浮かべて。

 

 

 






無敵の生徒会長の武器が増えてしまいました。
もう彼女だけで良いんじゃないかな・・・

物語の終わり方について

  • エンディングは一つのみが好ましい
  • 各ヒロインのルート分岐などがあっても良い
  • どうでもいい
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