アテネちゃんの執事!   作:通行人A'

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Task42:カードの切り方が運命だ

 

 

「たのもー!」

 

 かけ声と共に、観音開きの扉を力強く開け放ったのは西沢歩。食に恋に勉学に、青春真っ盛りの華の女子高生である。

 

「一々部屋に入るくらいで大げさにするな、ハムスター」

「ハムスター言わないでくれるかな!」

 

 そんな彼女をとがめるのナギは、椅子に腰掛け、さも面倒そうに頬杖をついた。

 そう、ここは三千院家の一室だ。

 

「こんなに大きなお屋敷に来たら、道場破りばりの頼もう!をやりたくなるものじゃないかな」

「はっ、これだから庶民の考えることは」

「庶民って言った!今庶民って!」

「静まれ」

 

 猛抗議する庶民の声を右手の一振りではねのけるお嬢様。流石である。

 

「こら、ナギ」

 

 ストンと、ナギの頭に軽く手刀が落ちる。

 

「せっかく遊びにきてくださったお友達にその態度はなんですか」

「いや友達違うし」

 

 振り返ると、やれやれとため息をつくマリアである。

 

「ごめんなさいね、西沢さん。この子、あまり友人が多くないので……嬉しくても素直になれてないんです」

 

 頬に手を当てて微笑む聖母のごときメイドさん。後光でも見えんばかりのその優しさと優雅さにはイケイケドンドンなJKも思わず恐れ多く頭を下げてしまう。

 

「あ、いえいえ!そんなこちらこそ押しかけてしまって恐悦至極というか」

「それをいうなら恐縮至極だ」

「うるさいな!いいのこういうのは雰囲気で」

「いや良くはないだろ」

 

 確かに良くはない。

 

「で?何故ハムスターが我が三千院家にいるのだ?うちにはもうタマというペットがいるんだが?」

「だから、ハムスターじゃなくて歩!西沢歩!」

「おやつはひまわりの種がいい?あいにく切らしていてな」

「人の話聞いてる!?」

 

 抗議しながらも、マリアさんに淹れてもらった紅茶とクッキーをちゃっかり頬張る。

 

「では、ひまわりの種以外にウチに何の用だ?」

「私をなんだと思ってるのかな、三千院ちゃんは……私が来たのは」

「言っておくが、ハヤテならいないぞ。色々あって今修行中でな」

 

 釘を刺されて一瞬きょとんとするが、ぐいっと身を乗り出す歩はどこか少し嬉しそう。

 

「え?もしかして愛想尽かされて出て行っちゃったとか?」

「修行の旅に出たの!!ハヤテと私はいつでもラブラブだ!」

 

 叫んでから顔を真っ赤にして言葉を句切るナギお嬢様。二の句が告げないほど照れるなら初めから言わなきゃいいのに、と後ろにいるメイドさんは内心呆れつつ。

 

「修行ってなに?」

「執事の修行だ。私にふさわしい男になるために、今よりももっともっと強くなりたいんだと。私の手を取ってそう宣言していったのだ。だからお前などに構っている暇はない」

「ふーん、大した自信ね」

 

 歩は腕を組んで背もたれに寄りかかる。

 

「けど、いいのかな?そんな風にハヤテ君を1人で野に放って」

「野に放つってお前、うさぎじゃないんだから」

「だってハヤテ君、すっごい女運悪いんだから」

 

 むっとしたように眉をつり上げるナギ。

 

「1人で旅なんてさせたら、どこぞの変な女に引っかかったりして」

「して?」

「ドSな悪女に首輪を付けられて恥ずかしい衣装で調教されたりとか」

「な、なるかバカハムスター!」

 

 2人の脳裏にはあまり健全とは言いがたい辱めを受けるハヤテのあられもない姿が。

 

「まぁでも確かに、ハヤテ君は女性に絡まれやすいというのはありますよね」

「な、マリアまで!」

 

 給仕する手を止めて、マリアは心配そうに窓の外に目を向けている。今日ここまでのハヤテの交友関係を振り返ると、あながち的外れな不安でもあるまいと。しかしナギはグッと拳を握って邪念を振り払おうと言い聞かせる。

 

「し、心配ない。ハヤテが私以外の女になびくなどあり得ない」

 

 そこにメイドさんがぽつり。

 

「男になびく可能性も……」

「それだけは絶対ダメ!!!」

 

 歩とナギの悲痛な叫びが見事にハモったのだった。

 そんな彼女たちを悶々とさせている少年執事、綾崎ハヤテはといえば。

 

 

「さて、座学はこんなところでしょうか」

「いやあの、内容が金融教育や投資雑学ばかりだったのですが……」

「はい、執事たるもの、昨今の金融情勢や投資事情には精通していないといけませんので。名ばかりインフルエンサーの甘言にご主人様が惑わされては大変です」

「どんだけ尖ったカリキュラム!?」

 

 都内某所に所在する、アレキサンマルコ教会。その中にある一室で絶賛修行に打ち込んでいた。

 机に座るハヤテの前には、専門書を手にした男性修道士が1人。彼はアンドレと名乗るこの施設のスタッフだ。

 

「あの、アンドレさん。座学以外の研修日程はどうなっているのでしょうか」

「本日は座学で終了で、明日からは現場実習ですね」

「おお、現場実習」

 

 それっぽくなってきた。いやなってくれないと困るのだが。

 

「現場実習は、シスター・フォルテシアも同席されます。実習の採点は彼女が直接されますので気を抜かずに頑張って下さい」

「な、なるほど。彼女はこの施設のビッグボス的な存在なのですね」

「まぁ、そんな所です。ビッグは余計ですが」

 

 アンドレは本を閉じると、一礼して部屋のドアに手をかけた。

 

「では、本日はこれで終了です。明日からは現場実習のカリキュラムにに移ります。基本的に外出などは自由にされて構いませんが、明日の朝8時30分にはこのモニター前に集合してくださいね。受験番号ごとに教室が違いますから」

「なんだか免許合宿みたいな流れですね」

 

 そもそも受検者がハヤテしかいないようだが、という野暮なツッコミは置いといて。荘厳な礼拝場にはあまりにも場違いな頭上のモニターをぼんやりと眺めつつ、ハヤテはなんとはなしに修道士に話を振ることに。

 

「ところで、アンドレさんご出身は」

「……ギリシャ、地中海の方です。シスター・フォルテシアも同じ国出身なのですよ」

「へー、そうだったんですか」

 

 あまり馴染みのない出身地に目を色づかせるハヤテ。

 

「良いですね、地中海。きっと綺麗な場所なんだろうなー」

「そうですね。ただ暮らすにはあの地方は独特なので好みがあるかもしれません……そういう意味では日本の方が暮らしやすい気もしますが」

「ま、確かに便利な国ではあるのかな」

 

 彼は頷きつつ、アンドレに今一度着目する。話しやすい雰囲気の男性だが、どことなく荘厳な雰囲気も兼ね備えており、修道服がよく似合っている。きっと神に仕える身として、日々敬虔な活動に従事しているに違いない。

 そう思うと、なんだかこちらまで背筋を伸ばさないといけない気分になった。

 

「アンドレさんはいつからこのお仕事に?」

 

 彼は軽く小首を傾げたが、自身の黒髪を指で触りながら口を開いた。

 

「今日ですが」

「今日!?え、今日って言いました今」

「はい。稼働時間の割には時給が良かったので……今朝ノリで応募したらその場で採用になりました」

「バイト!?これバイトなの!?しかも田舎の酒屋みたいな採用の流れだし」

 

 立派な修道服を着てるこの兄ちゃんはバイトで、しかも初日ときた。先ほどの荘厳な雰囲気は跡形もなく消え去り、残ったのは不安の波に晒されたハヤテの心だけ。

 

「まぁ、あまり心配せずとも大丈夫ですよ。聞く話ではカリキュラムは形式上のもので、不合格になったりすることはほぼないっぽいですし」

「何が問題なのかすら分からなくなってきました」

 

 不安全開で始まった執事とらのあなでの研修。

 翌日、現場実習の舞台に選ばれたのは――

 

「って、ここ白皇じゃないですか」

 

 みんな大好き、東京都練馬区の敷地ほぼ全てを掌握しているマンモス校、白皇学院であった。

 

「えぇ。綾崎さんはこの学校に今通われているのでしたね」

 

 そう言って微笑むのは修道服を身につけた女性、シスター・フォルテシア。上品かつ知的な雰囲気は流石聖職者。神に仕える彼女の敬虔な姿勢が外見にもしっかりと現れているに違いない。

 

「このような小さな島国に暮らす愚かな貧乏人どもが通うにしては、立派な学び舎ですね」

「え?」

 

 敬虔な姿勢が。

 

「あ、私何かマズいことを言いましたか!?ごめんなさい、まだ日本語を上手く使えてなくて」

「……めちゃくちゃ流暢だった気がしますが」

「まだ日本に来て間もないので、おかしな所があったら遠慮無く指摘してくださいね」

「ア、ハイ」

 

 流石聖職者。神に仕える彼女の敬虔な姿勢が外見にもしっかりと現れているに違いない。

 

「ところでアンドレさんは?」

「彼は今日はお休みです。ここの仕事はダクト洗浄のバイトと掛け持ちなので、そちらに行っております」

「ホントにバイトだったんだあの人」

 

 随分と懐の広い教会だな、と内心思いつつハヤテたちは白皇の中心にある時計塔へと足を運ぶ。

 

「あの、ここに来たということは、白皇で執事実習を行うということですよね?許可とか大丈夫なんですか」

「えぇ。白皇さんとは、執事実習や執事教習の免許合宿などの行事関連で、毎年包括連携協定を結んでいますから。英語でいうところのモーマンタイです」

「凄いなツッコミ所が多すぎて逆にツッコめない」

 

 とりあえずモーマンタイは英語ではない。

 

 

 

「あら、執事実習ってハヤテ君だったの?」

 

 時計塔の最上階。

 生徒会室のドアを開けると、顔を覗かせた生徒会長、桂ヒナギクが目を丸くしていた。

 

「こんにちわ、ヒナギクさん。なんか話の流れでこうなっちゃって」

「貴方も大変ね、大方お屋敷の思いつきでしょ?」

 

 ご名答。さすがは洞察力に優れる白皇学院の生徒会長である。

 

「初めまして、私はシスターです。今回執事実習でこの無能で役立たずな綾崎ハヤテくんについて、主人のために何も出来ないクズで無駄だと分かっていても多少は使えるように更生するためにやって参りました」

「はい、お話は聞いてます……って、ハヤテ君思い切り落ち込んでますけど、大丈夫ですか」

 

 うずくまって子犬にように震えている執事。

 

「あら?ごめんなさい、私日本語がまだ不自由で!なにか傷つけるような事を言ってしまいましたか!?」

「い、いえ……大丈夫です、慣れてますから」

「そういう問題なのかしら」

 

 生まれたての子鹿のようにして立ち上がるハヤテを横目に、ヒナギクは手に持った資料に素早く目を通す。

 

「今回の実習は生徒会のサポートですね。あまり面白い仕事じゃなくて申し訳ないけど」

「いいえ、もう焼くなり煮るなりこき使ってやってください。ボロ雑巾よりは使い道があると思いますので」

「……本当に日本語お上手ですね、シスター」

 

 再びしゃがみ込んでしまった執事。ヒナギクは軽く息をつきつつ、そっと彼のもとに手を差し伸べた。

 

「たまには環境を変えて仕事をすることも大切よ、ハヤテ君。執事としていろんな人の元で働くことは良い刺激になると思うわ」

「ひ、ヒナギクさん……」

 

 笑顔の彼女の背後には後光が差して見える。流石生徒会長。

 

「ダメ男製造機適正高いですね、さすが生徒会長さん」

「シスター!?絶対分かって言ってるでしょ!」

 

 

 

 さてはて。

 生徒会室でワーキャー騒いでいる声は廊下までこぼれていたが。そんな喧噪に、動揺して足をとめる人物が1人。

 

「な、何故ハヤテがここに……」

 

 白皇学院理事長、天王州アテネ。その人である。

 

「き、緊急事態……ですわ」

 

 まさに生徒会室に扉に手をかけようとしていた所であったアテネ。

 腕に資料を抱えたまま、生徒会室の前からよろよろと後退していく。

 

 隣で付き添っていたヨゾラは主人を横目に、どこからともなく、数枚のカードを取りだして手札にしてみせた。

 

「白皇にて気になるあの子と運命の出会い。ここは速攻か、紳士的か。はたまた撤退か?どうする、どうするのお嬢様」

「ヨゾラ!?アイルみたいなボケは止めなさい」

 

 ライ○カード。続きはwebで。

 

「しませんわよッ‼︎」

 

 





いつも本当にありがとうございます。毎月発売するハヤテのごとく完全版が生きる糧になっている今日この頃です。おまけマンガはもちろん、さまざまなイラストがまとまっているのは本当に素晴らしいですね。


さて、こちらは執事とらのあな編、本格的にスタートです。例のごとくドンチャン騒ぎのオリジナル展開のオンパレードになるかとは思いますが、何卒お付き合いいただけると幸いです。

感想や評価、指摘などありましたら是非お願い致します!

物語の終わり方について

  • エンディングは一つのみが好ましい
  • 各ヒロインのルート分岐などがあっても良い
  • どうでもいい
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