アルダハ王国。
砂漠の真ん中にそびえる巨大な鉄の壁に囲われたその国は、大量の鉱物資源や繊維業を主な収益とする交易都市国家である。砂漠に囲まれた立地上、気温は高温乾燥だが、活気の熱も強い国民性がある。他国からも商人が集まる国としても有名だ。明らかに某オンラインゲームからパクられたであろう国設定だが、製作者はこのまま見て見ぬ振りをするつもりだろうか。
そんな危険な国に足を踏み入れたハヤテ一行は、露店がずらりと立ち並び、商人たちが活気づいて盛んに声を掛け合う市場、バザールを歩いていた。
「つまり、俺たちは記憶を改ざんされたまま仮想世界に閉じ込められたってことか?」
「まぁ、平たく言えば」
東宮は腕を組んで眉をひそめてみせた。
「実際に体験している身じゃなかったら笑い飛ばしていたところだな」
「僕もですよ。これだけで一つの新連載ができそうだし」
同意見とばかりにため息をつくハヤテ。さしあたって、お嬢様たちがどういう状況なのかを把握する必要がある。
「それで、東宮さんはこの国の兵士になっていましたけど、何か分かりませんか?」
「あー、うん。実は存在しない記憶ってやつがおぼろげにあってだな。多分この国の擬似的な記憶なんだろうけど」
「本当ですか!」
東宮は心底気味が悪そうに額を抑える。
「完全にじゃない、モザイクがかかったパズルのピースが浮かぶ感じだ。めっちゃ気持ちが悪いけどな」
「でもそれは貴重な手がかりです、何が思い出せますか?」
「簡単に言うなよ、記憶が二つあるってかなり奇妙な感じなんだぞ」
とはいえ、現状彼のその記憶が唯一の手がかりになりえる。ここは彼に頑張ってもらうほかない。それは本人も分かっているのか、若干顔をしかめつつも目を閉じて記憶に集中する。
「えーと、アレだ。僕たちのメンバーの1人に会ってるな。多分、この国で」
「誰ですか?」
「えっと、アイツだ。あの関西弁で勝ち気そうな女子」
咲夜だ。
やはりハヤテ以外のメンバーもこの世界に飛ばされていたらしい。
「ではまず彼女を探しましょう。東宮さん、彼女がどこにいたか覚えてますか?」
「あぁ、なんとなくだけど、路地裏の店にいたような」
うろ覚えといった様子だったが東宮はバザールを見回しながら歩き始める。ハヤテと神父もその後に続くが。
「ところで、この神父っぽい人は誰なんだ?この世界の住人か?」
「神父とは仮の姿にすぎない。オタクの王、人呼んでオタロード日本橋とは――」
「ややこしくなるんで黙っててください」
ハヤテはむりくり神父の口を塞ぐ。
「この方は教会の神父さんです。ひょんなことからダイブしてそのまま出られなくなってしまったようで。一緒に脱出方法を探してるんです」
「オイオイ、こんな時に聖職者が遊んでんじゃねーよ」
幽霊の件は丸々省いて説明することに。神父の紹介以上に事態がややこしくなることは必須であり、今は時間を無駄にしている場合ではないのだ。
東宮の案内で市場一角を曲がった路地に足を踏み入れる一行。日の光が当たらない分、表の市場よりも見た目は薄暗いながらも、商人の活気のある声が雰囲気を明るくしているように思える。
「お、そこのイケメンの兄ちゃんら!どや、ウチの商品見ていかん?サービスするでー」
その中でも、一際明るい声がハヤテたちにかかってきた。明るく、そして聞き覚えのある声だ。
「って、咲夜さん!?」
それは紛れもなく、愛沢咲夜その人であった。
薄緑色の薄い生地を長袖に、白い布を頭から垂らしている。格好こそ、砂漠の民族衣装のようだが、その顔は間違いなくお笑いをこよなく愛する愛沢家の長女であった。
「すごい、早速発見しましたよ」
「ふん、だから言っただろう。僕の記憶力を舐めてもらっては困るな」
「急に強気になるんだな、少年」
一転してドヤる元兵士。
「お、なんや。東宮の兄ちゃんもいたんかいな。いつもウチを贔屓にしてくれておおきにー」
「お、おう。うん」
ハヤテは目を丸くして2人の顔を交互に見る。
「え?知り合いだったんですか」
「い、いやどうかな。そうだったような気もするし、違ったような気も」
曖昧にもやがかった記憶なのか、東宮はしかめっ面で首を傾げる。そんな彼の肩をバシバシと遠慮も無くたたく咲夜。
「なんや冷たいやっちゃなぁ。自分のとこの女隊長の気を引くために、魅了のお香や香水を買い求めてきたやないかー。結構ウチ協力したやろ?」
「えぇ!?ぼ、僕が!?」
ぎょっとしたように目を見開く東宮。
「そ、そんな馬鹿な!僕は桂さん一筋なんだぞ!」
「なんやもう別の女を追いかけとるんか。この前はいよいよ惚れ薬を取り寄せてくれとか言うてたのに」
どうやらこの世界での2人の付き合いは意中の女性を射止めんとする為の協力だったようだ。むろん、咲夜にとっては商売相手に過ぎないのだろうが。
「ま、アレはいくらウチでも簡単には手に入らんからな。アングラな商品やしそれなりに値も張るさかい、もうちょっとだけかかりそうやけど」
「へー」
方法は正々堂々とは言いがたいようだが。ハヤテとリィンから白い目を向けられて慌てて首をねじ切らんばかりに振る。
「な、何かの間違いだ!僕はそんな卑劣な手段に頼ったりしない」
「ほな、予約は取りやめでええねんな?希少な品やからもうしばらくは手に入らんと思うけど」
「当然……あ、いや待てよ。これは現実世界で使えたり」
白い目を向けられ続けることに気付いて、わざとらしく咳払いを何度か。
「当然だ!僕は正々堂々アタックして勝ち取ってみせるさ」
「さよか。なんや雰囲気変わったな自分」
咲夜はさして気にする素振りもなく、淡々とキャンセルを受け入れたらしい。あまりしつこいタイプの商人ではないのだろうか、そういった所は現実の性格に似通っている気も。
「ま、東宮さんが男の風上にも置けない点については、後日野々原さんに報告するとして」
「お願いそれだけはヤメテ!!」
ハヤテは改めて砂漠の商人と化した咲夜にむき直る。本題はそんなつまらないことではないのだ。
「咲夜さん。思い出してください、僕たちの任務を!」
「なんや新手のナンパか?生憎そういうのは間に合って」
「そうではありません!誓ったではありませんか。ナチュ○ルもコーディ○ーターもイノ○ーターも○兵も共に手を繋ぎ、悲劇を乗り越えて輝ける明日をつかみ取るって!」
そんな記憶は多分現実に戻ってもない。
咲夜は訳も分からずに小首を傾げるばかり。いつもだったら小気味の良いツッコミの一つでも飛んできそうなものだが。
「ですが、覚えていないのであれば仕方ありません。この手はあまり使いたくなかったのですが、最終手段です」
「なんだそんなものがあるのか。ならびしっと決めてやれ綾崎」
ハヤテは力強く頷くと、そのまま東宮の手を取る。いつの間にか設置していたらしいビールケースの上に躍り出る。
「ご覧戴きましょう!僕らの抱腹絶倒間違い無しのZAIMANを!世界を変えるお笑いを!」
「……え?」
目を点にしている東宮に構わず、ハヤテは目一杯の笑顔を振りまきながら。
「どうもー!お笑いコンビのバトラーズです!名前だけでも覚えていってくださいねー」
「いやちょッ」
「いやこんな砂漠のど真ん中にはるばるやって参りましたけれどもね。まーやっぱり暑いこと暑いこと。こんなの夏になったらどうなっちゃうんでしょう」
「ちょ、ちょっと待て!」
好き勝手に進行するハヤテを半ば強引にヘッドロックして後ろを向かせる。
(一体何をさせるつもりだお前ぇ!)
(いいから適当に合わせてつっこんでください!必ず上手くいきますから)
(合わせろって、僕は漫才なんてやったことがないんだぞ!)
(大丈夫です!僕を信じて!)
力強い瞳でそう囁くハヤテ。一見根拠が無さそうに見えるが何か彼なりの考えがあるようだ。東宮は渋々といった様子で小さく頷き、2人はまた向き直る。
「すみません。彼、緊張強いでして。前世はきっとウサギだったんじゃないでしょうか」
「え、あ、あぁ」
「ちょっとちょっと!まだ緊張してるんですかもう!」
ぎこちない様子で目を泳がせる東宮とは打って変わって、軽快な調子で言葉を紡ぐハヤテ。見ていて痛々しいほどに全くかみ合っていない。
気がつけば、咲夜の拳がぷるぷると震えているような。その反応をハヤテは見逃さなかった。
「ところでね、実は僕のおじいちゃんが好きなお店があるらしいんですけど、その名前を忘れてしまったんですよ」
「え、いや待てお前それは」
戸惑う東宮の脇腹をすかさず小突くハヤテ。
「名前!忘れてしまって!」
「え、えーと店のな、なまえな。どんな特徴だったんだ?」
「それがですね、赤い看板に黄色で『M』って書いてあるお店らしいんですけど。全然分からないらしいんですよ」
「あー、えっと、それは、それはどう考えてもマクド――」
刹那。両足が東宮の顔面をとらえた。
「アホかおのれはァァァッ!!」
「って僕かよッ――ぐふぅ!?」
咲夜のドロップキックを顔面にくらい、その場に昏倒する東宮。
「もろパクリやないか!つかみも外しまくった挙げ句にまるパクリってどういう了見じゃボケェッ!!」
そのまま東宮の上に馬乗りになる咲夜さんは、鋭い連続の張り手を繰り出す。
「しかもパクるならパクるで、堂々とやらんかいドアホ!!んな恥ずかしそうにやってボソボソ何言っとるか分からんなんざ、ド寒い展開にしたら先方にも失礼やろがいッッ」
「あばばばば」
「何とか言えこのとっちゃんボーヤが!」
一体いくつのビンタが、彼を襲っただろう。
などと詩的なことを言っている場合ではなく、このままでは彼がログアウトしてしまう。物理的な意味で。
「そこまでです!ステイ、咲夜さんステイ!!」
「離せ借金執事!ウチはコイツを殴らないかん!殴らないと気が済まへんのや!」
「咲夜さん気を確かに!4人目のパイロットみたいになってますから!」
そこでハッとしたように我に返る咲夜。さっきまでの怒りはどこへやら、慌てて周りを見回す。
「あれ、ウチなんでこんな所に?」
「良かった、戻ってきてくださいましたね」
安堵を息をつくハヤテの足下では、パンパンに顔を腫らした東宮が白目をむいて時世の句を一つ。
「まず、僕の心配をしろ……よ」
「アーメン」
そばでは神父が胸で十字架を切っていた。
「なんやえらいけったいな話やなぁ。まさかあのカプセルの中に閉じ込められたっちゅーことかいな」
「半信半疑でしたが、本格的に確信しました。間違いないと思います」
裏路地でビールケースを椅子代わりに腰掛けたハヤテら一行は、眉間にしわを寄せて顔をつきあわせていた。とはいえ、現状自分たちが置かれた状況が、あまりに突拍子もないことには困惑しかない。
「咲夜さんはこちらでの世界の記憶はどれくらい残ってますか」
「んー、なんとなくやけどな。知らん思い出が急に浮かんできて気持ち悪い感じやなぁ」
咲夜は腕を組みながら考え込むように目を閉じる。
「ま、この奇妙な感覚はこの世界から脱出するまでつきまとうんだろうがな」
「そうやねんけど……なんで自分顔腫らしてるん?」
「お前、これがVRじゃなかったら訴訟してるところだぞ。僕の寛大な心に感謝するんだな」
頬を思い切り腫らしながらしたり顔で頷く東宮。
「って、そうか。この状況でようやく合点がいったわ!ナギがえらい状況になっとるで自分!」
「え、お嬢様がどこにいるか知ってるんですか!?」
「いや、知っとるっちゅーか」
ハッとした咲夜はやがて気まずそうに視線を逸らす。そのまま隣にいた東宮にそっと耳打ちをする。
「なぁ、自分王国兵やったんやろ?そこらへん借金執事に言うてないんか?」
「んん、自分の周りことしか分からないというか、思い浮かばないというか……なんだ、三千院は王国の人間になってるのか?」
「王国の人間、はそうなんやけど」
ため息を一つ。彼女は改めてハヤテの方に目を向けた。
「アイツ、今この王国の王女やねん」
「は?」
王国の最北には、白大理石で建てられた王宮が鎮座している。砂漠の国の命綱ともいえる水路が整備された巨大な庭園を歩いていくと、特徴的なタマネギ型の丸屋根が姿を現す。その様はさながらインドのタージマハル廟を彷彿とさせる。
「はえぇ、まるで世界遺産だな。圧巻だぞこの光景は」
「てか自分、王国兵なのに来たことなかったんかい」
「仕方ないだろ、僕はまだ見習い門番だったんだぞ」
正門の先から望む王宮の景色に息を飲む一行。
「さすがお嬢様、こっちでもこれほどの地位を築かれているとは」
「感心しとる場合かいな。本番はこっからやで」
咲夜の言葉に、ハヤテたちは神妙な表情で頷く。
「ほな、作戦通りいくで」
作戦。それはこの王宮に彼らが潜入するため、路地裏にて即席で立てられたものである。
ほんの数十分前。
「では、早速王宮に行きましょう。お嬢様の目を覚まさないと」
「待った待った。そう簡単にいかんねん」
ビールケースから立ち上がるハヤテをいさめる咲夜。
「王宮は厳重に警備されとんねん。中に入るのにも身分証とかそういうのがきっちりチェックされるんや」
「な、なるほど」
「まして、王女に面通しするとなるとアポイントが必須。闇雲に突撃しても追い返されるだけやって」
つらつらと語る咲夜に、東宮は怪訝そうな表情を向ける。
「なんでお前はそんな事情を知ってるんだ?」
「あぁ。こう見えてウチ、たまに王宮へ出入りするお得意様やねん。得意のセールストークと、清楚な見た目を兼ね備えたウチには朝飯前っちゅーこっちゃ。ほら、ウチって知性派美少女やん?」
ドヤ顔を披露する咲夜に、ぽかんとしている男子2人。イマイチピンときていなかったらしいがそれはさておき。
「だったら、お前が王宮に入って三千院の目を覚ましてくりゃいいじゃんか」
「話聞いてたんかスカポンタン。いくらウチといえど、予定がないのに王宮に入ったらお縄に決まっとるやろが」
ぐっと言葉に詰まる東宮。
「でも、だったらどうしたら」
「だから、急遽の商談予定を作ればええ。作戦会議や!」
びしっと指をさされて思わず後ずさる。
「まず自分。王国兵なんやろ、だからウチの護衛みたいな感じでついて来い」
「おい待て、俺は門番だぞ」
「構へん、そこはウチのトークでなんとかするわ」
問題は、とハヤテに目を向ける。
「自分や。身分も不確かな2人を王宮に迎え入れるなんて許されるはずもない」
「ま、確かにその通りだな。執事君は現状でもかなり不審者だし」
隣にいた神父も同調するように頷く。
「って、神父さんもでしょ」
「私は神父。どの国でも違和感なく溶け込めるさ」
そんなものだろうか。納得がいかないものの、一応頷いておくハヤテ。
「だから、ウチにとっておきの秘策があんねん」
「秘策、ですか?」
「ん、秘策」
ニッコリと自信のある笑みで頷く咲夜。
「実はな、王宮では身の回りの世話をする可愛いメイドを今募集しとるっっちゅー情報があってな」
「はぁ」
「で、タイミングよくウチはフリフリの可愛いメイド服を持ってるんやけど」
「なるほど」
しかし、そんな可愛いメイドなどこの場にはいるのだろうか。咲夜は商人としてコンタクトをとるだろうし、他に女子などどこに。
そこで、咲夜の視線だけでなく、周りの視線が自分に集中していることに気がつくハヤテ。
「……え?」
そんなこんなで、現在に戻る。
「む、そこの一行!止まれ!」
王宮の正門前に足を運ぶと、当然のごとく番兵2人が一行の前に立ち塞がった。
「おーおー。労働お疲れさま」
そんな番兵に気さくに話しかけていく咲夜。記憶が曖昧なのに根っからの商人気質を発揮しているらしい。
「なんだ、咲夜さんでしたか」
顔見知りだったのだろう、一気に警戒を解いて肩の力を抜く番兵ら。
「あの、門番の東宮です!商人の方が王宮に用事があるというので監視役として付き添っております」
「なるほど、ご苦労さん」
咲夜の隣の東宮がしゅっと背筋を伸ばして報告を上げる。兵隊が板に付いた所作である。
「しかし咲夜さん、本日はアポイントなどは入っていましたっけ?」
「ちゃうねん、アポではないんやけど」
咲夜が後ろを振り返る。怪訝な表情の番兵が彼女の視線をなぞるように辿ると、そこには神父と、その隣にはメイドがいた。
水色の綺麗な髪、パッチリとした瑠璃色の瞳。すらりと伸びた長い足に、10人いれば10人が振り返る可憐な顔つきが目を引く。
それは紛れもなく、ハヤテであった。三千院家の執事、綾崎ハヤテその人であった。めっちゃ可憐で清楚なメイド少女になっていた。
「ほら、この前王宮に商談いったときに、王女様のお世話をするメイドを探してるって話を聞いてな?そんでいっつもお世話になっているからアテを連れてきたんよー」
「あぁ、そういう」
「この子、地方の教会の捨てられてた孤児なんやけど、都で働きたいって意気込んでてな。で、この神父はこの子の父親代わり」
黙ったまま軽くお辞儀をする神父。
「なけなしのお金で孤児の自分を育ててくれた神父や教会の皆に恩返ししたいって。自分も働いてボロッちい教会をリフォームしてやりたいんやと。その健気な心意気にウチも心を打たれてなー」
ありもしない話をさも当然のようにつらつらと語る咲夜。しかし、いつのまにか番兵2人は感涙し、目元を抑えていた。
「まさかそんな事情が!」
「感動した!」
素直な人たちのようである。ちなみにハヤテはハヤテでとめどなく涙を流していた。
(うぅ……なんで僕がこんな目に)
番兵らは王宮に事情を伝えると、しばらくして王宮側から王女への謁見が許可された。ハヤテたちは案内役に連れられて王宮内の一室に異動する。
「では、のちほど謁見の間にご案内します。少々お待ちください」
兵士はそう言って部屋を出て行った。残されたハヤテたちはテーブルを囲んで再びで顔をつきあわせる。
「第一関門は突破だけど、ここからどーするんだ?」
「そんなん、借金執事の出番やん。執事らしくご主人様の目を覚ましてやり」
「そう言われても……アテもなにもないですし」
「こういうのは流れで案外いけるもんやって!」
要するに行き当たりばったりということらしい。まあ正直、彼らに打てる手はもうこれしかないのだが。
「しかし、お前は本当にメイド服が似合うな。いっそそっち方面で売り出してもいいんじゃないか?」
「そやそや!やっぱりウチの目に狂いはなかったな」
「ふむ、こんなに可愛い子が女の子なわけがない。現代日本ならかなりの需要があると思うがね」
「全然嬉しくありません……」
仲間たちのメイド姿のお墨付きをもらったところで、案内役の兵士が迎えに。「王女様のもとにお連れします」と素っ気なく事務的に述べる兵士に連れられて、部屋を出た一行。巨大なエントランスに出ると、中央にある巨大な2つの螺旋階段を上がっていき、巨大な扉の前に並び立つ。
「おお、なんかこういうのって雰囲気あるな」
「確かに、RPGとかでしか見ませんもんねこういうの」
「情けない顔してないで堂々としとき」
扉の放つ重々しさに気圧される男子2人。一方咲夜は平然とそう言ってのける、これが育ちの差であろうか。
そしてゆっくりと扉が開け放たれると。
「ようこそ、私の王宮へ」
聞き覚えのある声が響く。間違いない、ナギの声だ。
ハヤテたちは顔を見合わせて、扉の先へと足を踏み入れて。
「そしてようこそ、地獄の一丁目へ」
数多の兵士達が、こちらへと槍を構えてお出迎えしてくれた。
「え?」
ざっと数十人はいるであろう。完全に包囲された状況で、ハヤテたちは広間の中心に押し出されるような形となった。
「ちょ、ど、どういうことだよ!?」
「ふむ、囲まれているな」
「なんや随分荒っぽい歓迎の仕方やなぁ」
目を丸くして慌てる東宮とハヤテ。冷静な神父はさておき、咲夜もさすがに予想外だったのか腰に手を当ててため息をつく。
さて、周囲を囲む兵士をかき分けるようにして1人の少女が一行の前に歩み寄ってくる。
「お前達か、報告があった賊というのは」
薄黄色のドレススカートに、頭には金の冠と薄い絹のような布が垂れ下がっている。これが王族の衣装なのだろうか、そして彼女は紛れもなく、三千院ナギであった。
「お嬢様!良かった、ご無事でしたか!」
ナギは怪訝そうに執事を一瞥する。
「お前にお嬢様呼ばわりされる覚えは無いが」
言うまでもないが、記憶はないようである。ナギはハヤテ以外も品定めするようにしげしげと見回し、呆れ果てたように息をついてみせた。
「貴様らがここに来ることは既に把握していた。わざわざ私の世話係を探してきてくれたそうだな?」
「そうやでナギ!王宮のことを思っての提案なのに、この仕打ちはなんやねん!」
「ほう、そうか」
ニヒルに笑むナギ王女。
「では。裏路地で我が城に侵入する画策をしていたのも王宮の為を思ってか?随分と手の込んだ計画のようだったが?」
「うっ」
言葉に詰まる一同。
「残念ながらウチの密偵は各所で目を光らせていてな。お前達の行動もご丁寧に報告をくれたぞ」
「くそッ、最初から捕まえるつもりだったのか……」
観念したように吐き捨てる東宮。
どうやら計画は最初から筒抜けだったらしい。
「さて、国家反逆罪を企む不届き者どもを現行犯で囲んでいるわけだが――どういった処罰がお望みかな?」
ナギは冷酷な瞳でハヤテたちを蔑むように見下す。
誤解である。のだが、この経緯を説明して納得してもらえるとは到底思えない。実際に嘘をついて王宮に潜入する計画は立てていたのだから。
もはや万事休すか。
その時であった。
「皆様、伏せてください――!」
突如響き渡る別の聞き覚えのある声。ハヤテたちは考えるよりも先に、素早く屈んだ。
次の瞬間。天より降り注ぐ無数のクナイが、まるで華開くような美しく規則的な広がりをみせながら、周りの兵士たちに次々と襲いかかったのだ。
目にも止まらぬ早さとはまさにこのこと。兵士たちが次々とその場に倒れ伏し、気が付けば啞然としているナギ以外、周囲の兵士は全て煙のように消え失せてしまったのである。
そして、ナギとハヤテたちの間に、跪くようにして姿を現したのは1人のメイド服の少女。
「白皇学院専属メイド改め」
両手にクナイを構えながら、そのメイド服の少女――ヨゾラは小さく口元を緩めてみせた。
「美少女くノ一ヨゾラ、ここに推参」
とらのあな編も大分終盤、あとちょっとだけ続きます。それはそうと作中でも最強と名高いハヤテのメイド姿は今作初登場、今後も大活躍必至です。
物語の終わり方について
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エンディングは一つのみが好ましい
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各ヒロインのルート分岐などがあっても良い
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どうでもいい