アテネちゃんの執事!   作:通行人A'

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Task48:砂漠のエンカウンター パッチ2.2

 

 

 一辻の風が吹いたかと思えば、周りの兵士は消え去っていた。

 それほどに一瞬の出来事だった。

 

「美少女くノ一ヨゾラ、ここに推参」

 

 両手に複数のクナイを構え、素っ頓狂な事をのたまうメイド服の少女がそこにはいた。

 見覚えがあるどころではない、彼女こそハヤテ一行の仲間の最後の1人。

 

「ヨゾラさん!ご無事だったんですね」

 

 ハヤテが声をかけると、彼女はふっと小さく笑みを浮かべて振り返った。

 

「えぇ、どうやらこの世界でくノ一にジョブチェンジしたようです。ですがご安心ください、魂はメイドですので」

「いやそんな心配はしていません」

 

 クナイを使ったからくノ一なのだろうか。よく意味は分からなかったが、状況を冷静に俯瞰すれば、彼女はハヤテ達を助けてくれたらしいことは間違いがなかった。

 

「というか、メイドの姉ちゃんは記憶あるんかいな」

「えぇ。ですが詳しい話は後です、まずはナギお嬢様の呪縛を解かなくては」

 

 ヨゾラが目を向ける先には、こちらを睨み付けるナギの姿が。

 

「貴様ら、私の城でここまで好き放題してくれるとは。よもやただで帰れるとは思うまいな」

 

 殺意にも近い視線をぶつけてくるナギ王女。

 

「……絶賛ぶち切れてんなぁ、話合う余地なさそうやでこれ」

「王国にはまだ山のように兵がいるぞ、どうする?」

 

 咲夜たちは苦渋の表情で一歩後ずさる。が、ヨゾラは冷静にハヤテの方を指さした。

 

「ハヤテ様!執事である貴方様がナギお嬢様の目を覚まさずどうしますか!今こそお二人の絆を示す時です」

「わ、分かりました!」

 

 その呼びかけに頷くと同時に立ち上がり、力強く一歩を踏み出すハヤテ。

 

「お嬢様、ナギお嬢様!思い出してください!僕です、綾崎ハヤテです!」

「くっ、誰だ貴様は!知らんと言っておろう!」

「思い出してください!僕やマリアさん、クラウスさんやタマたちと一緒に過ごした日々を!作中時間ではまだ2ヶ月ちょっとですが、現実時間ではもう僕たちが出会って1年も経っている、この思い出の数々を!」

 

 知らないと言いつつ、何かが脳裏をかすめるのか思わず額を抑えるナギ。

 

「お嬢様!ここで何もかも忘れてしまっては、ご友人や大切な思い出までなかったことになってしまうんですよ!」

「何を……言って」

「このままでは、ペル○ナ3リロードやF○7リバースもプレイできないんですよ!?リメイクで一体どのような結末を迎えるのか!キ○ローやエ○リスの未来がどうなるのか、見届けられないんですよ!!」

「うぅ、あ、頭がァ……!」

 

 ハヤテの追い打ちに思わず片膝をついて苦しむナギ王女。

 

「おお、ナギには効果抜群みたいや!流石借金執事!」

「いいのかよこれで……」

 

 ガッツポーズを作る咲夜とは対照的に呆れ果てる東宮。やはりお嬢様のDNAに刻まれたゲーマー本能にはあらがえないのか。

 と思われたが、ナギは歯を食いしばって右手を振り払った。

 

「か、関係ないわァ!どっちも大筋は変わらない、変わるわけがない!ここまで月日が経っていれば変わる結末だってあっていいというのに、結局はアトラクタフィールドの前に収束する未来なのだ!大体7とか三部作とかいってるけど、結末どころか本当に完結できるのかすら怪しいわ!!尺が足りるのかそもそも!P○3の時からリメイクだけが最後の砦と言われたコンテンツを、あっさり連中が三部作で手放すなんて、信用できるかァあああああ!!」

 

 必死の執事の声も、ナギの怒号の前には及ばない。

 

「そんな!これでもダメだなんて!」

「いや効いてるぞ多分、なんならもう半分以上記憶戻ってるぞアイツ」

「魂の叫びだったな、GJだぞ少女よ」

 

 そのときヨゾラが胸元から折りたたまれた一枚のルーズリーフを取り出してみせた。

 

「では仕方がありません。奥の手を使いましょう」

「ヨゾラさん!?」

 

 そしておもむろにそのルーズリーフを開く。

 

「これはとある筋から入手した、ナギお嬢様が執筆した自作の歌です。恐らく執筆中のマンガ『マジカル☆デストロイ』に合わせて作成したものと推察します」

「は!?」

「では、僭越ながら。音読させていただきます」

 

 スッと息を吸い込むヨゾラ。

 

 

 サンブライト☆フォーリンラブ

(作詞作曲:三千院ナギ)

 

 太陽が叫んでる

 大地が叫んでいる

 そして世界が叫んでる(※叫んでる) ※合唱

 

 今、別れの――

 

 

「うわァァァああああッ!!何をしてるのだお前はァァァッ!!」

 

 悲鳴を上げて紙を奪い取るナギ。

 

「どどど、どこからこれを入手したのだ!!」

「メイドですので」

「答えになってるかッ、なんでもかんでもそれでまかり通ったらS○S団はいらんのだ!」

 

 顔を真っ赤にした少女に対して、メイドは人差し指を口に当てて軽く微笑む。そこで一同はハッとしたような表情に。

 

「お嬢様!ひょっとして記憶がお戻りになったのでは!?」

「ん?お、おぉ?」

 

 駆け寄るハヤテにきょとんとした顔を返すナギ。

 

「そういえば、私はここで何をやっているのだ?って、なんだこの格好は」

 

 キョロキョロと周りを見回した後、自分の服装をみて目を丸くする。どうやら大方の予想通りの展開となったらしい。

 小首を傾げるナギお嬢様を囲んで、一同は顔を安堵したように顔を見合わせるのだった。

 

 

 

 その後、王宮は大騒ぎだった。

 「ちょっとこの者たちと外に遊びにいきたくなったのだ」。と宣言したナギ王女の言葉に臣下たちは目を見開いて肩を震わせ、従者たちは涙を流して喜び、兵士たちは「宴の準備を」と色めきたっていた。

 

 それもそのはず、このナギ王女は王宮にずっと引きこもりで、国をあげて大いに心配されていたらしい。滅多に、どころかもうずっと国民の前に姿を現さず、死亡説まで囁かれていたとか。

 そんな超絶引きこもり王女が自ら王宮の外に出る、というのだからそれも当然。しまいには大臣が「記念すべきこの日を宴の日とする!国民の皆で盛大に祝おう」などと提案するものだからそれはもう国全体がハチの巣をつついたような騒ぎにまでなってしまった。

 

 そして、ハヤテたちはといえば。

 不届き者の侵入者から一転、王女に日の光を当てた英雄として祭り上げられる始末。王宮の外に出た途端に、無数の兵士たちが整列して道を作る歓待ぶりだった。

 

 入り口から伸びるレッドカーペットを歩くハヤテら一行。王宮からは無数の臣下たちが「晩ご飯までには帰ってきてくださいね」と涙ながらに大きく手を振ってお見送りと異様な光景である。

 

「国をあげての大騒ぎとは……さすが引きこもりクイーン」

「引きこもりクイーン言うな」

 

 けらけらと笑う東宮をナギは仏頂面のまま睨み付ける。

 

「なんなのだ、たかが外に出るくらいで。バカにされているようにしか思えんぞ」

「まあまあお嬢様、万事上手くいったんですから」

 

 ふくれっ面のお嬢様をいさめるハヤテ。

 

「しかし、これでお嬢様が行方不明になったら、我々は天下最悪の大罪人にならんかね?」

「ちょいちょい、物騒なこと言わんといてな。ウチらもうこの世界に来ることもないねんから」

 

 神父の脇を小突きながら、咲夜も楽観的に笑いながら歩く。あふれんばかりの歓声に背中を押されながら、やっと王宮前の正門を出た一行。

 

 

「で、素朴な疑問なのですが」

 

 ここで、ヨゾラが立ち止まって皆を見回した。

 

「私たち、どうやったら帰れるのですか?」

 

 

・・・・・

 

 

「えぇ!?ちょっ、あれ!?もしかして誰も知らない感じかこれ!?」

「ハヤテ!お前ゴールを知ってるんじゃ無いのか?」

「いや知らないですよ!不具合が起きて何の説明もされてないし!」

「ウチらかて気付いたらこの世界いたしさっぱりやで!」

「一難去ってまた一難、か」

 

 途端に慌て出すハヤテたち。それもそのはず、突然の不具合で誰一人としてこの世界のルールを把握している者がいなかったのである。

 

「結局、振り出しに戻るわけですか」

 

 ハヤテのため息に、一同もがっくりと肩を落とす。

 そうして諦めかけたその時。

 

「いえ、これでいいのですよ」

 

 かかってきた穏やかな声が一つ。

 その主を探そうと顔を上げると……

 

「え、シスター!?」

 

 祈るように両手を合わせたシスター・フォルテシアが彼らに歩み寄ってきたのである。

 

「一体いつこちらの世界に」

「つい先ほどです、ゴールには私が案内するのがルールですので」

 

 シスターはニッコリと微笑みながらそう口にする。

 

「え、では僕らの奮闘劇も一部始終?」

「はい。モニターで拝見させていただきました」

 

 そう言って、彼女はハヤテたちに右手を差し出した。

 

「皆様、大変お疲れ様でした。想定外の困難にも関わらず、素晴らしいチームワークで乗り切られましたね」

「ということは、これでクリアに?」

「いえ、ここからが試練になります。本来デモバージョンは仲間を集めて、最初の試練を突破することですので。現状はいわば折り返し地点なのです」

 

 仲間を集める過程がいささかイレギュラーだったが、無理矢理にでも道筋通りに進んでいることにするらしい。正直、彼らはこのドタバタの混乱でかなり疲弊しているのだが、精神的に。

 

 なので、当然文句をいう者も。

 

「オイオイ、こっちはお宅の不良品のせいで大迷惑を被ったんだぞ?少しくらい融通するってことはないのかよ」

「それについては大変失礼致しました。なので、試練は最初で最後のたった一つにして差し上げます」

「何故上から目線なんだ……」

 

 ふふん、と得意げにシスターは続ける。とはいえゴールは近そうだと知って、東宮も渋々と追加の文句を収めることにした。

 

「では最終試練の元にご案内します。皆様、しかと気を引き締めてくださいね」

 

 

 さて、シスターの案内で、ハヤテ一行は王国を後に。広がる砂漠をしばらく歩けば、ちょこんとたたずむ小さな教会の前まで辿り着いた。どうも、どこか見覚えのある教会のような。

 

「シスター、ここは?」

「ここが決戦の地、アレキサンマルコ教会inVR、です」

 

 周りを砂漠に囲まれている以外は確かに現実のアレキサンマルコ教会であった。なにゆえ仮想世界に全く同じモデルの教会を作っているのか、ツッコミたい気持ちを抑えつつ、教会に向かって歩くシスターの後を少し離れてついていく一行。

 

 教会の入口でピタリと足を止めると、笑顔のままくるりと振り返るシスター。

 

「さて、では執事クエストVRの最後の締めくくりと参りましょう。といっても、もう既に始まっておりますが」

「え?でも神殿で待ち構えるボスモンスターとか、そういうのどこにも見当たらないですよ」

 

 いいえ、とシスターはおもむろに首を横に振る。笑顔のままだがその瞳から優しげな光は消えていた。

 

 

「ボスはもう、皆様目の前におりますよ」

 

 

 刹那。

 地面が大きく揺れて、ハヤテたちは思わず膝をつく。慌てて顔を上げると、巨大な芋虫のような怪物が、まさに地面から飛び出してくるところだった。

 

 ゴツゴツとした鎧のような鱗には無数のトゲ。円上に生えた鋭い牙と大きな穴のような口が開かれれば、地鳴りと共に響く低いうなり声。

 

「ひぃぃ!?なんだよあの化け物!?」

「あれはサンドワームかッ、リアルで見ると威圧感が凄いな!」

「言っとる場合かァ!」

 

 その姿は砂漠に潜むという空想上の怪物、サンドワームそのものである。ナギのようにゲームをやっている人間にはおなじみの怪物だが、一般人にとっては気持ちの悪い化け物に他ならない。

 

「シスター、これは一体!?」

「最後に皆様の前に立ち塞がるのは、私こと『シスター・フォルテシア』ということですよ綾崎くん」

 

 怪物の前で、微笑みを絶やすことなく頬に手を当てるのはシスター。

 訳も分からず目を白黒させるハヤテたちだったが、神父は腕を組んだまま眉をつり上げた。

 

「フォルテシア?お前、教会の別のシスターではないのか?」

「あら、なんの事でしょうか?私はフォルテシア、アレキサンマルコ教会のシスターですよ」

「ほう?私が知っているフォルテシアとは、似ても似つかない人物のようなのだがね」

 

 神父の言葉に、ハヤテは驚いたように振り返る。

 

「神父さん、一体どういうことですか?」

「私が知っているシスター・フォルテシアはもっともっと年のいったばあさんだったはずだ。齢にして60は超えている、こんな若い女性ではない」

 

 しかも。

 神父はシスターを睨みながら畳みかける。

 

「趣味が男性アイドルの追っかけという年甲斐のないばあさんだ。それだけでは飽き足らず、最近ではテニ○ュやとう○ぶ、Si○eM、ツイ○テなど幅広く二次元にまで手を伸ばし、イベントや即売会、聖地巡礼にまで若い女性らとツアーをする沼っぷりを発揮しているんだぞ!」

「いやそんなプライベートまでバラしてやるなよ」

 

 聖職者だって人間だもの。

 

「ま、まあ趣味はさておき。どういう事ですかシスター、アナタがフォルテシアではないだなんて」

「まぁ、もうあなた方を騙す必要もありませんか」

 

 ため息をつきながら、シスターはその表情から笑みを消した。

 

「どうせ、あなた方は永遠にこの世界から出ることが出来ないのですから!」

 

 同時に後方のサンドワームが雄叫びのような叫び声を上げる。

 

「シスター、どういうことなんですか!?」

「簡単なお話ですわ。私がこの教会のシスターではない、ただそれだけのこと」

 

 シスターは右手を挙げると、そのままナギの方を指さした。

 

「私の目的、それは三千院家への復讐ですッ!!」

 

 その言葉に呼応するかのように、大きな口を開けたサンドワームが、唸りを上げながらナギたちの元に突進する。

 

「お嬢様!!」

 

 間一髪。危機を察知したハヤテが、すんでのところでナギや周りの人間を押し倒すようにして直撃を回避。仕留め損ねたサンドワームはずるずるとシスターの後ろへと戻っていく。

 

「あぁ、伝え忘れていましたが。この世界でデリートされた場合、もう元の世界には戻れませんので」

「そんな!?」

「ちょっとしたツテを頼って、秘密裏にシステムを改造しましてね。私の権限が無い限り、ここからログアウトすることもできません」

 

 口を歪めるシスターに、一同は身を固まらせる。あまりにも予想外の展開に、皆混乱して理解が追いついていない様子。

 

「お、おい冗談じゃ済まないぞ!一体なんなんだアンタ!?」

「シスターですよ。三千院家への恨みを持つ以外は、普通のね」

 

 既に涙目の東宮が震える指先で訴えるが、シスターは妖艶に微笑みながらそれを一蹴。

 

「あなた方部外者には恨みはありませんが……これも神の運命(さだめ)。一緒に電子の海に消えてもらいます」

 

 そんな物騒なことを平然とのたまう自称シスター・フォルテシアに一同はぐっと息を呑む。

 

「あぁ、どれだけこの時を待っていたことか。上手くことが運びすぎて自分が怖いくらいです」

 

 と思えば、一転してシ恍惚の表情を浮かべながら頬に手を当てるシスター。

 

「つい最近お嬢様の乗った船がテロリストに襲われましたよね?それは私の手引きです……といってもこれは単行本5巻の話でしたね。今作では取り上げられていませんでしたか」

「なんということを!?二重の意味でッ!」

 

 自己陶酔し、危険極まりないことをつらつらと気持ちよさそうに語るシスター。

 

「白皇のデータベースに手下を侵入させ、提携先であるこの教会の情報を書き換えさせたのも私です。偽物の私を『シスター・フォルテシア』と認識させたおかげで、怪しまれることもなく綾崎ハヤテとお嬢様を誘い込むことができましたよ」

「そこまで周到に計画を」

「ふふ、一斉一代の計画。万全を期さないとなりませんからね」

 

 もっとも。

 

「余計な邪魔が入って捕まってしまいましたが。上手く誤魔化して目的までは悟られなかったので、よしとしましょう」

 

 勝ち誇っているシスターを面倒臭そうに睨むナギ。

 

「つまり、私たちはお前の手のひらでまんまと踊らされてたという訳か」

「そういう事になりますね」

「くッ、全くなんたる失態か。あとでクラウスはぶっ飛ばすしかないな」

 

 天下の三千院家をもってして、この結果はあまりにも屈辱極まりない事態である。ここを推薦した執事長の処遇について、真剣に検討を始めるナギだったが。

 ここでもう一つの疑問がハヤテの脳裏をよぎる。

 

「けど、では執事とらのあなどうなっているんですか?これも試練とかそういうサプライズ的なオチは」

「ふふ、勉強不足ですよ綾崎くん!そんな施設はとうの昔に無くなっていますから、そんな都合の良いオチは来ませんわ!」

 

 彼女の言葉に負けじと、執事は一歩踏み出して更に問う。

 

「無くなってるって、一体何故!?」

「何故って、そりゃ……」

 

 そうしてシスターは呆れたような表情で、しかし声を張り上げる。

 

「執事とか日本にあんまりいないのに、やっていけるかッ!!」

 

 

 ――全くもって納得の理由だ!

 

 

 この場にいる全員の心が、まさに一つになった瞬間だった。

 

 

「なんにしても、この場で全員電子の海に沈んでもらいましょう!お覚悟を!!」

 

 こうして、執事クエストVR最終試練が今、幕を開けたのであった。

 

 

 

 





長引いてしまった執事とらのあな編も次回でラスト(多分)


色々と話の辻褄が合わなくなってる部分があるかもしれませんが、寛大な心で見なかった振りをしていただけると幸いです笑

物語の終わり方について

  • エンディングは一つのみが好ましい
  • 各ヒロインのルート分岐などがあっても良い
  • どうでもいい
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