アテネちゃんの執事!   作:通行人A'

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 11月30日はアーたんの誕生日!もちろん忘れていたわけでも設定ミスで遅れたわけでもございません。ともかくおめでとう!!()


Task58:ドキッ!美少女だらけのお泊まり会

 

 

 

「うん、これでこの子も安心ね。ありがとうヨゾラさん」

 

 ケージに収まっていたマットの上で、気持ちよさそうにあくびをする子ネコを眺めながら、ヒナギクは安堵の息をついた。

 

「いえ、お嬢様のためとあれば例え火の中水の中、水軍相手に火計も起こして見せますとも」

「だから、その呼び方は止めてくださいってば」

 

 仰々しくお辞儀をするヨゾラにヒナギクは苦笑をこぼす。

 可笑しそうに笑っている声色からは言葉ほどは嫌がっているわけではないらしい。

 

「しかし、ハヤテ様は随分ぎこちない様子でしたね。あのまま帰られてしまいましたし、何かあったのでしょうか」

「あー、うん。まあ仕事中だしね」

 

 ヒナギクは曖昧に笑うと、なんとは無しに廊下に続くドアを見る。ヨゾラもそれに倣うように視線を動かした。ドアの先、廊下に出たすぐ左には洗面所兼脱衣所があり、その奥はバスルームだ。閉じられたバスルームからはシャワーの音が響いていた。

 

「あの西沢さんという少女となにか恋愛がらみのトラブルでも?」

「す、鋭いわねヨゾラさん」

 

 当人たちの問題を勝手にしゃべる訳にもいかない。しかし嘘のつけない性格の彼女である。その反応を見れば、ヨゾラが口にしたことが正解であることは火を見るより明らかであった。

 

(まぁ、実際私はハヤテ様へ告白する彼女を見てしまっているわけですが)

 

 まさかのぞき見していたとも言えるわけがない。

 

「あ、私ちょっと彼女の着替えとか持ってくるわね」

 

 ヒナギクは慌てたように立ち上がると、そのままリビングを後にする。つくづく嘘をつくのが苦手らしい、それもまた彼女らしいのだが。

 ヨゾラは苦笑気味に見送りつつ、懐から小さなメモ帳を取り出した。

 

(西沢歩さん……潮美高校1年B組、成績は中の下、帰宅部。家族構成は父母弟の4人の中流家庭。ハヤテ様の元級友であり、友だち以上の恋人未満といった関係だと多数の他級友は証言、か)

 

 綺麗に綴られた文字を目で追っていたが、やがてため息をついてメモ帳を閉じるのだった。

 

(これは中々の強敵ですね、お嬢様)

 

 

 

「西沢さん?ここにタオルとか置いておくわね、着替えのパジャマもサイズそこまで違わないと思うから」

 

 脱衣所の棚の上にタオルや着替えを載せると、ヒナギクは風呂場にそう声を掛けた。中からは慌てたような歩の声が返ってくる。

 

「あ、ありがとうございます!すみませんお風呂までお借りしちゃって」

「気にしないで。というかこっちが無理に引っ張ってきちゃったんだから」

 

 さもありなん。歩に泊まるように勧めたのは家主(現状)当人であるのだ。

 

 着替えも置いたし、あとはごゆっくり。

 そう言って立ち去ろうとしたヒナギクだったが、中から遠慮がちな歩の声が引き留めた。

 

「あ、あの!会長さん、えっと、その」

「どうかした?あ、他に必要なものがあったら遠慮無く言ってね」

「い、いえ!そういう訳ではなくて」

 

 歯に衣着せぬ物言いに、小首を傾げるヒナギク。

 

「えーと、その、ハヤテ君ってもう帰っちゃいました、よね?」

「えぇ、西沢さんがお風呂の間にね」

「あ、はははー。ですよね」

 

 なるほど、聞きたかったことはそれだったか。ヒナギクもやっと合点がいった。

 ハヤテは仕事の途中であったので帰るのは当然なのだが、あの状況では気まずくて帰ったと思われても仕方がないことも確かであった。

 

「その、込み入ったことを聞くようで申し訳ないのだけれど……バレンタインに西沢さんはハヤテ君に告白したのよね」

「え、えっと……はい」

 

 ぶくぶくと泡の音が響く。

 ドア越しで見えないものの、きっと歩は恥ずかしさのあまり湯船に顔を埋めているのではないか。

 

 何故こんな込み入ったことを聞くのか。口にしておいて脳内で自問するヒナギクだったが、すぐに答えは返ってきた。

 かねてより、彼女にはある引っかかりがあったのだ。ナギのことである。

 

 ヒナギクはナギがハヤテに好意を抱いていることも、ハヤテがそれに気が付いていないことも知っている。

 更に言えば、何故そういった勘違いを起きたのかも知っていたりする。なにせ、ハヤテが拾われた日に屋敷にいた真相を知る数少ない人物でもあるからだ。まあ、それはさておき。

 

(ナギの好意以前に、西沢さんがハヤテ君が今どういう状況にあるのかも知らない可能性だってあるわよね……)

 

 もし彼が置かれた状況を彼女が知らないのであれば教えてあげた方が良いのではないか。

 言葉に気を付けないと話がややこしくなるかもしれない。

 

「えっと、因みにだけど。西沢さんはハヤテ君が三千院家の執事をしてるのは知ってる?」

「え?あ、はい!つい先月に知ったばかり、ですけど」

 

 何故そんな話題になったのか、ドア越しからは不思議そうなトーンで返ってくる。

 

「ついでに、ハヤテ君が仕えてるっていうお嬢様にも何回か会ってます」

「ナギとも?」

「はい、つい大人げなく勝負だ、とかいってつっかかっちゃうんですけど」

 

 歩は少しだけ躊躇いがちに続ける。

 

「ただまぁ、ちょっと可愛いなって思っちゃうところもあって。恋敵ながら悔しいんですけどね、ははは」

 

 その言葉でヒナギクは安堵の息をちいさくついた。

 一通り事情は知っているらしい。であるならば、特に言葉を選ぶ必要もないだろう。

 

 話を戻すけど。そう言って、ヒナギクはおもむろに問いかけた。

 

「あの様子だと、バレンタインの返事はまだ聞いてない、ってことでいいのかしら」

 

 途端に沈黙が続く。

 それが答えのようなものであることは明白だ。とはいえ、ヒナギクは彼女の言葉を待つことにした。

 

 暫くすると、やたら明るい口調が返ってくる。

 

「い、いやー、まぁ返事は聞かなくても分かっているっていうか。だから、今は先延ばし作戦中なんですよ!」

 

 声色は明るいが、どことなく言葉には力がこもっていない。

 

「ほらよくあるじゃないですか、ドラマとかでも!友だち以上恋人未満みたいな関係を作ってですね!それで長く一緒にいれば、そのうちハヤテ君も気の迷いとか勘違いが生まれてきたりして、もしかしたら僕もとか、なったり……して」

 

 どんどん弱まっていく声に、ヒナギクは決して口を挟むことなく静かに聞いていた。

 

「そんな……そんなカッコ悪いこと、考えたり」

 

 ぶくぶく。

 しまいにはまた湯船に顔を埋めてしまっているようだ。

 

「会長さんみたいにカッコ良くなれたら、こんな風に悩まないんでしょうけど……でも私は」

「悩むわよ、私だって」

 

 ぽつりと、ヒナギクは返した。

 

「うじうじして、くよくよして、ずーっと前に踏み出せないこと、私にもいっぱいあるんだから」

 

 全然カッコ良くなんて。

 ヒナギクは目を閉じて首を横に振ってみせたが、やがて視線をドアに向けた。

 

「ねぇ、これから私のことは〝ヒナギク〟って呼んでもらえないかしら」

「へ?」

 

 いきなりの提案に驚いた声が返ってくるが、構わず続ける。

 

「まだ知り合って間もないけど、あなたには私の事、ヒナギクって呼んでもらいたいの」

「か、会長さん……」

「それから、私もあなたの事を歩って呼ばせてほしい。ダメかな?」

 

 ドア越しからはきょとんした歩の表情が見える様だ。

 

「わ、私、名前なんて1回しか言ったことがないような」

「ふふ、それも運命なのかもね」

 

 そんな様子がおかしくて、ヒナギクは思わず相好を崩した。

 

「は、はい!だったら私も、ヒナさんって呼ばせてもらいます」

「え、何故さん付け……」

 

 

 そして、良い子は寝る時間に。

 

「えぇ!?ヨゾラさんってヒナさんのメイドさんじゃないんですか?お金持ちの学校の会長さんだし、てっきりお手伝いさんとかいるのかと」

「はい、身も心もヒナギクお嬢様に委ねたいものの、誠に遺憾ながら私は学園専属のメイドとなっております」

「ちょっと紛らわしい表現しないでください」

 

 自宅の一室では、川の字に並べた布団にパジャマ姿の女子が3人。この状況にタイトルを付けるのであれば、『ドキッ、女の子だらけのパジャマパーティーinTokyo』とでも言えば良いだろうか。

 

 せっかくなら3人で一緒に寝ようという話になり、ワイワイキャーキャーと他愛もない話に花を咲かせることになったのである。他愛もない話といっても、女子3人が集まれば必然的に恋愛がらみの話が多くなるわけで。

 

 

「でも!私は思うんです、ハヤテ君ってヒナさんみたいなカッコ良くて強い女性に惹かれやすいんです」

「そ、そうかしら?」

「だから私も、カッコイイ女子にならないといけないんですッ!」

 

 力説する歩に熱量に気圧されるヒナギク。恋バナの女子のパワーは伊達では無い。

 

「でも、歩みたいに素直に好意を伝えられるのって凄くカッコイイと思うわ。無理に自分を変えなくてもそのままでもいいんじゃないかしら」

「いえ!悔しいですが現状私は彼の〝そういう〟対象には入ってないのです。待っているだけでは春はこない――ここは乾坤一擲の攻めが必須!」

「はぁ」

 

 ぐっと拳を握りしめて瞳に炎を燃えたぎらせる歩。反面、そういう話題に疎いのかヒナギクは小首を傾げている。

 

「ヨゾラさん!ヨゾラさんみたいな大人な女性から、冷静で客観的な意見をいただけませんか!」

「客観的に、ですか……」

 

 いきなり話を振られたメイドさんはパジャマ姿のまま思案顔で口元に拳を付ける。

 

 

 思い返せばほんの数十分前だろうか。

 歩のハヤテへの恋慕など諸々の事情を、他でもない本人から力説されたばかりだ。いかに彼女が彼に惹かれ、そして追いかけ続けたか。苦悩と苦労の歴史をぎゅっと凝縮して語っていたが、一言一言には並々ならぬ熱がこもっていたことは言うまでも無い。

 

 さしものヨゾラでさえ、彼女のその熱意には口も挟めずに聞き手に徹したほどだった。

 

 

「まぁ確かにハヤテ様は引っ張ってくれるような強い方がタイプなのかもしれません。しかし、白皇のスーパーコンピューター(自称)と呼ばれる私の分析によれば、ハヤテ様自身Sの片鱗が見られます。3歩後ろから淑やかに支えるタイプの方が相性が良い可能性もあるかと思われます」

「おおぅ」

 

 歩は驚いたように目を丸くする。まさかそこまで詳細な分析が返ってくるとは思わなかった。

 

「ヨゾラさんってハヤテ君をよく見てるんですね……は!?まさか思わぬライバル出現!?」

「いえ、私は人を観察するのが趣味なので。他人の細かい所作まで気になってしまうんです、なのでご安心ください」

「な、なるほど?」

 

 歩は若干困惑を残したままひとまず首肯する。

 

「それに、私のタイプはもっと別だと思われます」

「え?」

 

 意外な言葉に、2人の少女は目を輝かせる。

 

「タイプってことは、そういう人がいらっしゃるってことですか?」

「聞きたい聞きたい!」

 

 部屋の活気が一段と増した気がした。ヨゾラはわざとらしく悲しげな表情を作って首を振る。

 

「そうでしょうか、私の話に読者が興味があるとは思えません……華のJKで原作でもファンの多いお二人の恋バナの方が圧倒的に需要があるかと。いえむしろヒナハムこそ至高という――」

「いやいやダメじゃないかな!?色々と危なくないかなこの人!?」

 

 大慌てでヨゾラの口をふさぐ歩。

 

「あ、ごめん歩。なんだかここ数日でヨゾラさんのノリに慣れちゃってた」

「どういう慣れ!?」

 

 まったくである。

 

「でも、意外です。ヨゾラさんって浮いた話とかってなんだか興味がなさそうな印象だったから」

「ヒナギクお嬢様に言われるのは心外です」

「うぐっ!」

 

 返す刀で急所を突かれる生徒会長。

 

「お嬢様と話していると、恋する乙女というよりも夕方まで外で駆けっこしてる小学生男子かと思うときがあるほどです」

「な、そんなことないですよ!」

 

 真っ赤になって反論する生徒会長。

 

「そうですよねー。ヒナさん絶対学校でモテモテでしょ、ていうかもう毎日ラブレターまみれとかじゃないかな。こんなに美人でカッコイイ女の子を放っておく男子なんていないんじゃないかな」

「公式非公式いずれのファンクラブも複数あるくらいですからね、学内でたまに覇権争いをしてるほどです」

 

 え、そうなの?

 さらりと流れたヨゾラの言葉に、思わず聞き返しそうになる。学内でそんな不毛なことが起きていたのか、初耳である。

 

「まぁ当人がこの通り、恋愛よりも三度の飯が好きというタイプなので」

「ちょ!人を腹ぺこキャラみたいに言わないでください!」

 

 とはいえ、反論を試みる彼女の言葉にはどこか力が無い。

 

「ではお嬢様。ちょっと目を閉じて想像してみてください」

「え?」

 

 言われた通りに目を閉じるヒナギク。

 

「今、目の前には神戸A5ランクの最高級牛肉を使ったできたてのハンバーグと、お嬢様が恋をしたと思われる男子がおります」

「はぁ」

「今すぐに手を伸ばせばどちらかが手に入るとすれば、どっちに手を伸ばしますか?」

 

 イメージする。

 片方の天秤には熱々出来たでの肉汁がほとばしるほどのハンバーグ。もう片方の天秤には自分が恋する相手の男性が……恋する?男性の顔をイメージしようとしても、その顔は真っ黒で、ハテナマークが付いたままだ。もう一度ハンバーグを見る。熱々でジューシーなハンバーグからは、パイナップルを使ったデミグラスソースの甘い香りと、香ばしい肉の香りが美しいハーモニーを奏でているではないか。

 

 結果。

 

「は、ハンバーグ……」

 

 うわぁ。

 歩とヨゾラは呆れたように顔を見合わせる。

 

「し、仕方ないでしょ!好きな男子とか言われても咄嗟にイメージできないんだもの!」

「ま、まあそうですよね。本当にいなかったらそういう想像もできないですもんね!私もハンバーグを選ぶと思いますし!」

「……激しく気を遣われてる気がするわ」

 

 がっくりと肩を落とすヒナギクを何とかフォローしようと四苦八苦の歩。こうして夜は更けていく。

 

 

「それはそうと、美少女3人のパジャマパーティーの様子を先輩に送りつけましょう」

「それは絶対にやめなさいッ」

 

 

 

 

 眼前には一面に咲く水仙の花。遠くに望む丘の上には荘厳な城がそびえ立つ。なんて美しい光景だろうか、この世のものとは思えないほど美しくも儚げなその景色はいつまで経っても見慣れないものだ。

 

「アーたん!」

 

 振り返ると、こちらに駆け寄ってくる少年が1人。

 

「ハヤテ、どうしましたの?そんなに慌てて」

「心配したんだよ、いきなり居なくなっちゃうんだもん!」

 

 少年は齢にして6歳くらいか。やや大きめの執事服はお世辞にも似合っているとは言いがたい、服に着られているという印象だ。それでも懸命にこちらに向かって走ってきてくれたことが何よりも嬉しかった。

 

「ごめんなさい、ちょっと考え事をしてて」

 

 だから素直に謝った。すると少年はにこっと微笑んでみせる。水色の髪が、その笑顔にはよく似合う。

 

「ううん、大丈夫だよアーたん。それより僕、アーたんに言いたいことがあって来たんだ!」

「あら、何かしらハヤテ」

「うん!それはね――」

 

 ニコニコと満面の笑みを浮かべていた少年。

 次の瞬間、表情の笑みが消えた。

 

 

 ――どうして僕を、見捨てたの?

 

 

「――ッ!?」

 

 一気に暗転する景色。まるで水中に潜ったときのような息苦しさが襲いかかり、言葉を発したくても発せない。身動きすらとれない。

 

 

 ――違う、違うのよハヤテ!私は

 

 

 弾かれたように飛び起きたアテネは、自分が今までベッドで眠っていたことに気が付いた。汗が滲んだ額を拭って、大きくため息をついて、ようやくそれが夢だったことを理解した。

 

「……ハヤテ」

 

 ぽつりと、誰に言うわけでもなく呟く。

 すると、彼女のこめかみから痛みが走った。思わず額を押さえてうずくまる。その痛みにじっと耐えていると、脳裏にまるで流れ込んでくるような囁き声が響き渡る。

 

石ダ、石ガイル……石ガ

 

「うるさい……!」

 

 ぶんぶんと、乱雑に首を横に振る。しかし囁き声は止まらない。

 

オ前ハ、助ケラレタ……ダガ、助ケタノハ?マダ城ノ中?

 

「分かっている、必ず助ける……だから、だから私の中で喚くな」

 

 額を抑えながら窓ガラスに映った自分が見える。黒く濁ってしまった瞳が彼女自身を捉えた。

 

離レロ……奴カラ、離レロ、奴ハ危険ダ

 

「やつ……?」

 

 荒い息を整える暇も無く、彼女は問う。

 

スグ側ニイル……アノ男ハ、アノ執事ハ、必ズオ前(ワレワレ)ヲ裏切ル

 

 もう一度思い切り首を振る。

 

「違う!彼はそんな――」

 

敵ダ……奴ハ、必ズ裏切ル

 

「止め、ろ……ッ!!」

 

 頭痛はひどさを増していく。絞り出すように叫ぶと、両手で頭を押さえつけるようにして、彼女はベッドにもんどり打った。

 

戻レ……城ニ、(オレ)ノ宝ガ、全テガ、城ニ

 

 

 ドンドン。

 やや強めのノックが聞こえたと同時に、囁き声も頭痛も消え去った。

 

『お嬢様?大丈夫ですか!?』

 

 返事をしようにも声が出ない。

 数回のノックを経て、遂に部屋のドアが開け放たれた。そのまま駆け込んできたのはアイルだ。

 アテネは息を整えながら、視線だけを彼に向けた。

 

 

 

「……大丈夫よ」

 

 大きく息をついて、やっとそう返した。

 

「少し悪い夢を、見ていただけだから」

 

 上半身だけを起こして、ベッドの背もたれに身体を預ける。頭痛も胸の苦しさも嘘のように抜けている。

 

 落ち着いた彼女は、それより、と執事に目を向けた。

 

「レディの部屋に許可無く入るなんて、マナーがなっていないのではなくて?」

「失礼しました。叫び声が聞こえた気がしたので」

 

 軽口を叩く元気もある、体調など悪くはない。視線でそう伝えると、彼はまだ腑に落ちない表情ではあったものの、小さく頷いてみせた。

 

「すぐにローズティーをお持ちします、気持ちが安らぐと思いますので」

「ありがとう、いただくわ」

 

 アイルは会釈すると、そのまま部屋を後にする。アテネは閉じられたドアを、暫く黙って見つめていたが、やがて反対にある窓ガラスに目を向けた。

 

 いつものように美しい紅い瞳が、彼女をじっと捉えていた。

 

 

 

 

 

 





ジャンル・コメディ。ん?コメディ?

物語の終わり方について

  • エンディングは一つのみが好ましい
  • 各ヒロインのルート分岐などがあっても良い
  • どうでもいい
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