エラーです。
前回の本編で、「もう3月」とありましたが、設定ではまだ2月下旬(末)でした。大変申し訳ございませんでした。お詫びして修正致します。
「初めまして、ヨゾラさん。私は三千院家のメイド、マリアと申します。お話はお嬢様から伺っておりますわ」
三千院家の玄関にて。
アイルたちを前にメイド、マリアは指先の一つ一つにまで神経を集中させて、丁寧にお辞儀を返した。ここはメイド力の見せ所とばかりに。
角度、間、姿勢。全てが美しくも洗練された
「大丈夫ですか、ヨゾラさん?」
思わず彼女の手を取ったアイルだったが。
「問題ありません。さすが三千院家のメイド力は世界一、いえ通常の3倍どころではとどまらないのだと感服した次第です。これが極めしメイド道なのですね」
「はぁ」
全く容量の得ない回答に間の抜けた声がもれる。そんな彼には構わず、ヨゾラはマリアの元へと歩み寄り、そしておもむろに両手を差し出した。
「敬服致しました。私はまだまだ道半ばな未熟の身。是非色々と手ほどきをお願いしたく、今後とも何卒よろしくお願い申し上げます」
「まぁ、そんな。大げさです、こちらこそ、よろしくお願いしますね」
お淑やかに微笑むマリアだったが、満更でもなさそうにその手をとって固く握手をしてみせた。
目と目があった瞬間、何かを感じ、何かが交錯し、そして一旦の決着がついたらしい。
一体このやり取りは何を意味しているのか。そんな言葉が喉まで出かかったものの、ツッコむのもまた面倒そうだと感じた執事は、ひとまずこの場を流すことにした。
「どうぞ、お嬢様の下へご案内致します」
「お邪魔致します」
やけに丁寧なやり取りを交わし、2人はマリア後に続いて屋敷の中へと足を踏み入れた。
皆様お疲れ様です、マリアです。
危ないところでした。危うく相手のメイド力に取り込まれてしまう所でしたが、何とか面目を保つことができましたわ。
三千院家のメイドたるもの、いついかなる時も優雅たれ。常にそう自分自身に言い聞かせ、今日まで務めてきました。なので、決して動揺などをして足下をすくわれる訳にはいきません。
というか、動揺なんてそもそもしていません。ええ、もちろんです。仮に一瞬だけそう見えたとしても、それは幻影もしくは錯覚ということになりますね。
私はいたって冷静です。クールなのです。
例えば目の前で華麗に挨拶をされたメイドさんと、隣で呑気に立っている執事くんとの関係とか、そんなものは全然全く微塵もこれっぽっちも気にはなりません。本当です。徹頭徹尾モーマンタイです。
というわけで、モノローグはここまで。このままだと変なボロを出して自爆しそうとか、そんな心配があるからではありません。ええ、決して。
「おー、来たか。話は聞いてるぞ」
扉を開けると、屋敷の主人が機嫌良く彼らを迎え入れた。
「にゃあ!」
「おお!なんだお前、随分と元気だな!あはは」
挨拶もそこそこに、ナギの胸元に子ネコが飛び込んだ。出会って5秒でじゃれ合いを始めるナギの様子に、執事もたおやかな微笑みをこぼす。
「さすがお嬢様、動物とは相性バッチリですね」
「ふふん、当然――おい、今動物『とは』って言わなかったかハヤテ」
「え、そんな事言いました僕」
完全なる無意識。焦って目を泳がせるハヤテは、アイルたちへと視線ごとぶん投げた。
「ああ!アイルさんにヨゾラさん、お久しぶりじゃないですか!今日はまたどうして三千院家に?」
「話題そらすのが下手ですわね……ハヤテくんは」
苦笑しつつ、マリアはアイルたちに手を向けた。
「お二人が咲夜さんの使いでいらっしゃってくれたんです。というか、ハヤテくんはヨゾラさんとはお知り合いだったんですね」
「ええ、まあ」
とある教会でとある試練を共に闘い抜いた戦友といっても過言ではない。過言である。
「平たく言えば、ハヤテ様の
吹き出すハヤテ。つかみかかるナギ。
「ハーヤーテー!!お前私というものがありながら何他の女に手を出してるのだッ!!」
「違いますよ!!どう考えてもボケでしょう今の!!ヨゾラさんも何とか言ってくださいよ」
「まぁ、そんな私たちの逢瀬をつまびらかにしろ、と」
「何言ってんですかアンタ!!」
どったんばったん。
屋敷内で主人と従者の追いかけっこが始まる中、アイルは困ったような表情でマリアに顔を向ける。
「すみません。彼女、少し変わっているというか」
「あら、お茶目で素敵な方じゃないですか」
しかしマリアはくすくすとおかしそうに笑ってみせる。
「それに、ナギがあんな風に感情豊かで楽しそうにはしゃいでいるなんて」
「360度怒って発狂しているようにしか見えませんが」
「ふふ。それも含めて、ですよ」
軽くウインクしてみせるメイドさん。彼女の懐は菩薩のごとき広さを持ち合わせているらしい。
かと思えば、わざとらしく咳払いをして何故か姿勢を正すメイドさん。
「それはそうと、アイルくん。ちょっと、ですね」
どこか言いにくそうに、視線をおもむろに隣の執事に向ける。
「どうかしました?」
「いえ、別に全然全くこれっぽっちも大した事ではないのですが……あの、ヨゾラさんとはどういう」
が、次の瞬間。
「ゴルデ●オン・ハンマァァアアア!!」
「落ち着いてお嬢様粒子になるッ!?」
追いかけっこしていた2人が間になだれ込んできた。黄金のピコピコハンマーを振りかざしたナギと、真っ青になって駆け抜けるハヤテが。そのまま壁にピコピコハンマーが激突、お約束の爆散。
「あ」
煙が消えると、ひらひらと宙を舞っていた雑巾がぱたりとメイドさんの頭の上に着地。
その光景に思わずぎょっとするハヤテとナギ。しかしマリアさんは顔を俯かせたまま静かに肩を振るわせるのみ。
「ち、違うのだマリア!これはわざとじゃ」
「落ち着いてくださいマリアさん!お嬢様の檜●ボイスは中々クオリティが高かったですよ!?」
そのままずいずいと2人に近づくと、そして無残に爆散した壁をスッと指さし。
「いいから、今すぐに片付けなさーいッッ!!」
脱兎のごとく、2人は部屋から飛び出していくのだった。
気を取り直して。
「ま、ともあれだ。この
膝の上に置いた子ネコをそっと撫でつつ、ナギは自信ありげな表情でサムズアップしてみせる。
「シラヌイ?ナギお嬢様、この子はどう見ても黒猫なのですが」
「額の辺りの十字傷や首回りが少し白いから問題無い。ちなみにこの元ネタが出た時期は筆しらべを使った某アニマルゲームがじわじわとブームになっていた時でな、当時あの広大なフィールドを駆け回るわくわくで毎日コントローラーを握っていたことを思い出すよ」
ヨゾラはますます首を傾げる。
「マリア様、ナギお嬢様が何を仰っているのかさっぱり理解できません」
「ご心配なく。この子はいつもこんな調子ですから」
「オイ」
さらりと毒を吐くマリアは、ネコとお嬢様を交互に見つつ、軽く息をつく。
「ですがナギ、もう一方は大丈夫です?」
「ん?」
「ですから、ウチには既に1匹、大きなネコがいるじゃありませんか」
場所は変わって、屋敷別室。
「構わん構わん、別にとって食ったりしねーからよォ。まあ若かりし頃はオレっちもやんちゃだったわけだが、もう大人だし?あんなガキ目じゃなえっていうか、まあ大人のヨユーってヤツだなァ」
ソファに座ったホワイトタイガーネコのタマが、肉球に挟んだワイングラスを優雅に回してみせる。
「心配しなくても旦那の顔を潰したりはしねーって。大船に乗ったつもりで安心しな、旦那」
「まぁ、ならいいのですが」
向かい合った執事、アイルの肩にバシバシと肉球で叩く。アイルはといえば、まるで鬱陶しい上司に絡まれたリーマンのようにため息をつきつつ、その腕をそっと払った。
そんな2人、ないしは一人と一匹の様子を驚きとも呆れとも似つかないような表情で眺めていたのは、他でもないハヤテである。
「タマ、いくら余裕だからってトラがソファにふんぞり返ってワインなんて飲んでていいと思ってるのか。一応原作少年誌だぞお前」
「はっ、これだから借金執事は器が小さいねぇ。お嬢たちが見てなきゃ別にいーんだよ、ドサ回りの営業だって上の目がないときはハンドルに足かけて寝てるかパチ打ってるだろ」
「いや営業関係ないだろ」
ハヤテの苦言もどこ吹く風である。
「それによォ、オレがお嬢とどんだけ一緒に過ごしてきたと思ってんだ?寝れない夜も寂しい時も、常にオレっちが一緒にいて心を安らげてやったんだぜ?心の隙間を埋めるのは、古今東西ネコってのが相場で決まってるからな」
「どーでもいいけど、お前はトラだからな?」
「ちっちぇえ、ちっちぇえな借金執事。そんなんじゃオーバーソ●ルも出来ずに予選落ちするぜ?」
軽快に笑いながら、ワイングラスを傾けるタマ。
「執事ってのは、旦那みたいにもっとドシッと構えてなんぼよ。そんな貧相な顔をしてちゃ三千院家の名が廃るってもんだ。もっと家名を背負ってる自覚をもたねーといかんぜ?」
「顔はカンケーないだろ」
すると、奥からナギの声が聞こえてくる。どうやらタマを呼んでいるようだ。
「ったく、噂をすればだ。人気者は辛いってもんだ。オレがいねーと何にもできねーんだからよォ」
タマはソファから降りて、ワイングラスをハヤテに向けて放り投げる。
「おお、ここにいたのかタマ!」
「にゃあ!」
「なんだなんだ、今日は随分甘えん坊だな」
ナギに駆け寄り、愛らしく顔を押しつけるタマ。
「まあそれはそうとタマ、ちょっといいか?」
そんな愛しの主人から放たれたのは無情なる一言。
「シラヌイが怖がるから、しばらく私の部屋には絶対に来るなよ」
「にゃ?」
思わず後ろで顔を見合わせるハヤテとアイル。
「寝室とかにも来るなよ、私がシラヌイと寝てあげるからな。いやそもそも屋敷にいるのもアレか、だったら当面は小屋で1人で寝ててくれ。うん、それがいいな」
「にゃ、にゃ?」
ナギは言いたいだけ言ったあと、軽快にその場を去って行った。残されたのは呆然として震えているホワイトタイガーネコのみ。
「あのー、タマさん?」
「旦那、借金執事……」
タマはゆらりと立ち上がって、そして2人の執事に振り返る。
「ちょっとブラジルまで旅に出てくらァ。コーヒー農園でもやって余生を過ごす正夢が、まさか本当になるとはな……」
「それアニメ一期のやつだろ!自棄になって野生に帰ろうとするなって!」
しかし引き留める言葉には耳を貸さず、タマはふらふらとよろめきながら部屋を出て行ってしまった。
「だ、大丈夫ですかねタマのやつ……」
「まぁ、ナギお嬢様も悪気はないでしょうから」
そう言って肩をすくめるアイル。今自分たちの出来ることはないのだからそれも仕方の無いことかもしれない。
「まぁそれはそうとして……完全に聞くタイミング失っててアレなんですが、アイルさん」
「なんでしょう?」
「いつから、タマが喋るのを知ってたんですか?」
ハヤテは笑顔のまま、頬を引きつらせる。しかしアイルは顔色一つ変えずに、淡々と返す。
「今日が初めてですが」
「いやいやいや!どんな順応力ッ!?」
ドン引きしたように距離をとる。
「え?っていうか色々大丈夫なんですかこれ!?なんで平然としていられるんですか!?」
「天下の三千院家ですし、こういうパターンもあるのかなと」
「ないですよッ、あってたまるか!」
お嬢様たちにはくれぐれもご内密に。
白皇学院執事の驚くべき順応性の高さ、ともすれば反応の鈍さにドン引きしつつ、ハヤテたちはナギたちの元へ。
扉を開けると、ちょうどテーブルを囲んで和やかにお茶を楽しんでいる女性陣らの姿があった。
「おお、ハヤテ。ちょうど良いところに来たな、今お前の女装は何が一番かについて、熱い議論を交わしていてな」
「なんてもんを
キャッキャウフフなティータイムは女装談義だったようだ。
「ふふ、ヨゾラさんの巫女服のチャイナ服のハイブリッド案はかなり良いと思います。流石白皇のメイドさんですね」
「お褒めに預かり光栄です。ですがマリア様の見識には遠く及びません、もっと精進させていただきたく」
一体彼女たちの脳内ではどんな着せ替えがされているのか。思わず身震いしたハヤテはそのままそろりそろりとフェードアウトを試みようと。
「おっと、どこに行く気だハヤテ?これから実践タイムに入ろうというのに」
「え」
主人の声にびくりと肩を震わせて足を止める。恐る恐る振り返ると、いつの間にか3人の女性陣がにじり寄ってきているではないか。メイド服、チャイナ服、巫女服、ナース服。様々な衣装を腕に抱いて。
「い、いやだなぁお嬢様。まるで僕を着せ替え人形にするみたいな口ぶりじゃないですかー」
「ハハハ、みたいじゃなくてなるんだぞ」
是非も無し。
「ヨゾラさん、この青いチャイナ服をベースにするのはどうでしょう」
「良いですね、このスリットは通常の3倍際どく設定してあります」
メイド2人もノリノリである。まさに四面楚歌。
このままでは間違いなく食われる。女装的な意味で。
ハヤテは一縷の希望をかけて、もう1人の執事の方へと目を向ける。あの人なら、きっとあの人ならば常識的にこの暴走を止めてくれるはず――
「っていない!?ちくしょう逃げられたッ」
是非も無し。
その日、屋敷中にはハヤテの艶やかな悲鳴がこだまし続けたという。
「旦那、この先オレッちの出番はあるのかな……」
「ま、これでも飲んで一息ついて」
そしてトラと執事は、缶コーヒー片手に黄昏れていた。
ろくでもない、素晴らしきこの世界に、乾杯。
日常回も終わったので、次回からヒナ祭りに突入していきます。
例のごとく、既存キャラにもオリジナル設定などを入れていきますので、ご理解ご了承のほど、何卒よろしくお願い致します。
物語の終わり方について
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エンディングは一つのみが好ましい
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各ヒロインのルート分岐などがあっても良い
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どうでもいい