アテネちゃんの執事!   作:通行人A'

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Task61:祭りの前のなんともいえない静けさが好き

 

 

「サプライズの貸し切りパーティー、ですか」

 

 麗らかな日差しの暖かさが、春先を少しずつ感じさせる昼下がり。

 日本の未来を担う志高き学生たちが喧々諤々談義に花を咲かせつつ、昼食を楽しんでいる白皇学院のテラス。その一角で、高等部1年生のハヤテたちもテーブルを囲んでいた。

 

「うむ。3月3日はヒナの誕生日でな。白皇のパーティーホールを貸し切って大々的に執り行うことにしたんだ」

 

 花菱美希はそう言って、コーヒーカップを傾ける。

 

「生徒会役員の皆で、ヒナちゃんにバレないように秘密裏に進めてたんだー。途中でバレないかひやひやしたよー」

「会場はもちろん、必要な資機材も全ておさえたからな。準備は万端だ」

 

 隣に座る瀬川泉、朝風理沙も自慢げに頷いている。

 

「へー、普段の皆さんからは想像できないくらい迅速で周到な計画ですねぇ」

「随分聞き捨てならないことをさらりと言うのね、貴方」

 

 毒舌な執事を反論代わりに軽く睨みつつ、美希は軽く息をつく。

 

「まぁいいわ。で、そのパーティーにナギくんとハヤ太くんも参加してと声をかけに来たわけ」

 

 そう言うと、ハヤテは「是非」と笑顔で即答。しかし、彼の隣に座っていたナギはあからさまに面倒そうに眉をひそめてみせる。

 

「ちょっとお嬢様!なに初っぱなからインドア階級特有のオーラを出してるんですか」

「うるさい、パーティーなんてめんどい・だるい・かえりたいの三拍子が揃ってると古事記にも書かれているだろう」

「未知なる故事来歴を紐解かないでください」

 

 ナギは大げさに肩をすくめると、持っていたスマホに視線を落とした。

 

「別に私が行かなくたって、ヒナギクの誕生会ならわんさか人は来るだろう。別に1人居なくたって誰も気が付きやしないさ」

「そうではありませんよ、お嬢様」

 

 ひょいっとそのスマホを取り上げる執事。

 

「こういうのはお祝いする心を表すことが大切なんです。お嬢様だってヒナギクさんにはお世話になっているでしょ?」

「ま、まぁそれは」

「誕生会は1年に1度、とても特別な日なんです!少しでも多くの人に祝ってもらいたいじゃないですか!僕なんて友人どころか両親すら誰も来てくれないうえに、マリービスケット1枚に使いかけのろうそくを乗せただけの誕生日が――」

「分かった分かった!参加するから気が滅入るような過去をさらりと始めるなッ」

 

 想像するだけで涙を誘う絵面である。

 

「というか、ヒナギクの性格なら質素なパーティーを好みそうなものだがな」

「あぁ、それなら問題無い。年明けくらいに、流れでそれとなく聞いてみたんだが」

 

 自信ありげに美希は腕を組んでみせる。

 

『え?誕生日会……そうね、派手なのは苦手だから、家族とかで静かに食事とかがいいかしら』

 

「などと言っていたので、可能な限り盛大にしてみようと」

「どんだけあまのじゃくなんですか、皆さんは」

 

 違う意味の自信だったらしい。

 

「ま、パーティーは派手な方が楽しいしなんだかんだで盛り上がるものだ」

「なのだー」

 

 目一杯お祝いしたい。

 方法はともかく、その思いが強いことは、理沙や泉の笑顔からも十分に推察できる。

 

「参加すると決めたら、三千院の名に恥じぬようにしっかりお祝いするぞハヤテ」

「はい、お嬢様」

 

 ナギの言葉に、にっこりと微笑む執事であった。

 そんなこんなで放課後。

 

「やっぱり、それなりのプレゼントとかも必要ですよねー」

 

 帰路に就くべく、ハヤテたちは中庭を歩いていた。

 

「まぁ、そりゃな。誕生会なわけだし」

「マリービスケット1枚、とかだと流石に怒られますかね」

「オイさっき私に祝う気持ちがどうとか説教垂れてただろお前」

 

 冗談ですよ、と睨み付けるお嬢様に苦笑交じりに両手を振るハヤテ。

 

「でも、女性に誕生日プレゼントなんてあげた経験ほとんどないし、何を差し上げるのがベストか悩みますね……なんなら友だちのお誕生日にも『『綾崎君の家は貧乏だから、家に上げたら何か盗まれるかも』って僕のお母さんが言ってたよ』とか聞いて参加しづらくて行ったことないですし」

「だからさらっと重いんだよお前は」

 

 返す言葉に困る思い出は一体いくつ彼は抱えているんだろうか。

 

「あまり深く考える必要もないだろう、お前の言うように気持ちが大事なんだろうしな。あとの小難しい事はグー●ル先生に聞け」

「またそんな投げやりな……お嬢様は何を差し上げるおつもりなんですか」

「ま、そうだな……三千院家としては」

 

 そこまで言いかけて、ふとナギは足を止める。彼女の視線の先には執事服を着た男性の姿が、折りたたまれた出店用のテントの前に立っていた。

 

「おー、エドモンドではないか」

「おや、ナギお嬢様。それに綾崎君も」

 

 執事――アイルはお疲れ様ですと軽く会釈をしてみせる。

 

「ヒナ祭りの準備か、精が出るな」

 

 なるほど、祭りの準備か。ナギの言葉にハヤテも合点がいったように小さく頷いた。明後日は3月3日、ひな祭りだ。

 

 ここ白皇学院では、ヒナ祭り祭りという毎年開催される伝統行事がある。夕方から夜にかけて行われる縁日で、内部外部から出店なども出店され、生徒たちは年度終わりの思いでつくりに目一杯羽を伸ばすのである。楽しいお祭り行事という反面、学期末試験前の最後の学校行事でもあり、生徒によっては最後の思い出になる可能性もある。

 一瞬の輝きの後に儚く散る花火のごとく。その話を聞いたとき、ハヤテは思わず身震いしたものだ。

 

「えぇ。と言っても、出店申請関連の最終チェックをしているだけで。あとは前日の設営だけですかね」

 

 資料がいくらか挟まれたバインダーをひらひらと振りながら、アイルはそう言ってのけた。

 視線の先には折りたたまれたテントがずらりと一列に並んでおり、等間隔に立てられた柱と柱の間には赤と白のぼんぼりがつるされている。

 

「ナギお嬢様も当日はお祭りに参加されるんですか?」

「いや、その日は終日リバースをプレイする予定がある」

 

 即答である。

 

「いやいやお嬢様、ヒナギクさんの誕生会があるじゃないですか。というかリバースはまだ発売されてません」

「何を言う。3月だからもう発売されて間もないではないか」

「それは2024年の話です」

 

 未来に生きる。明日を創る。

 三千院グループは頑張る全ての人を応援します。

 

「っと、こうしてはおれん。ゴールド●ーサーのフラグ建設の途中だった。何せディスク2枚組みでやることが多くてな、さらばだエドモンドよ」

「突き進む気ですかお嬢様!あ、では僕も失礼します」

 

 一刻も早くコントローラーを手にしたいと去って行くナギとそれを追いかけるハヤテ。そんな慌ただしい2人を見送りつつ、アイルはやや困惑したような表情で小さくため息をついた。

 

「……どうやら、嘘は言っていないようですね」

「でしょう?」

 

 一体どこから現れたのか。

 振り返ると、彼のすぐ後ろには彼以上に困惑しきった表情の男性が音も無く立っていたのである。

 

「私、さっきの女の子2人の前で忘年会での十八番、生涯社畜ダンスを踊ったのに、全く見向きもされなかったんですよ」

「まぁ、無視したくなる気持ちにはなるでしょうが」

「あ、この踊り忘年会や新年会の受けは抜群だったんですよ。特に上司から」

「聞いてませんって」

 

 黒髪を7:3に分けて、ピリッとした黒いスーツを着こなしたその風体はまさに都会のサラリーマンそのもの。彼はどこか得意げに胸を張ってみせる。

 

「視線や挙動から明らかに対象(あなた)を捉えていなかった。見えていないのはまちがいないんでしょうね……あと先ほどの水色の髪の方は男性です」

「えぇ!?あんなに可愛かったのにですか!?」

「思い切り執事服を着ていたでしょう」

 

 とはいえ、男装している女子と紹介しても、10人が10人納得してしまうであろう事は容易に想像できるが。

 

「しかし、どうしたものか」

 

 誰に問いかける訳でもなく、アイルは空を見上げる。冬の高い空にはうろこ雲が地平線まで伸びている。

 

「どうしたものでしょうねぇ」

 

 隣の男も眉をつり上げて呑気に首を傾げている。そんな姿にアイルは肩を落とす。

 

「当人がその調子じゃ進むものも進みませんよ」

「そうは言っても、私だって何もかも分からないんですよぉ」

 

 情けない声色ですがりつくサラリーマン風の男。しかし、その手はするりとアイルの体を通り抜けてしまう。

 

 

 そう。男は実体が無かったのである。

 

 

 

「で?私にどうしろというの?いい精神病院でも探せばいいのかしら?」

 

 理事長室。机を挟んで向かい合った天王州アテネからは、白い視線が容赦なく執事に浴びせられていた。

 

「開口一番、人を病人扱いしないでください」

「あのねぇ」

 

 ため息をついて額を押さえるアテネ。

 

「扉を開けるなり『サラリーマンの幽霊に取り憑かれたから助けて欲しい』と転がり込んできた執事がいたら、誰だって同じ反応になるわよ」

「まぁ否定はしませんが、今回は本気です」

「まるで前例があったみたいな口ぶりね」

 

 肩をすくめるアイルの目の前を、スーツ姿の男はまるで漂うように歩きながら、アテネの方を凝視していた。

 

「あの、あの!とんでもなく美人な方ですね、私こんな綺麗な方を見たことがありませんよ!」

「えぇ、彼女――私の主人は1000年に一度の美少女という触れ込みですからね。身内(しつじ)の目から見ても、美貌では右に出る者はほぼないと自負を持って断言できますし、無理もないでしょう」

 

 が、いかんせんアテネには男が見えていない様子。

 

「いきなりなんですの?」

 

 唐突に褒められて面を食らったように頬を赤くするご主人様。

 

「あぁ、失礼。ちょっとこの〝人〟にお嬢様のことを聞かれまして」

「……そ、そう」

「飽くまで外見は、ですけどね。寝起きは悪いし、機械には疎いし、好き嫌いは多いし。おまけに性格ときたら分からず屋だし頑固で――」

 

 飛んできたバインダーが顔面に直撃した。

 

 

「……それで?100歩譲ってお前のその荒唐無稽な話を信じるとして、どうしてそんな事態になったわけ?」

「まぁ、私にもてんで分からないといいますか」

 

 鼻っ面をおさえつつ、アイルは天井を見上げる。

 

「1時間前くらいまで、3日のヒナ祭りの準備を手伝っておりまして。ふと気が付くと、この男性が私の後ろに立っていました」

 

 横を見ると、男もコクコクと頷いている。が、肝心な彼の事はお嬢様には見えていない様子。

 

「それで、最初は道に迷った方かと思って話しかけたのですが、えらく仰天しておりまして。話を聞くと、『気が付いたらこの辺にいた。いろいろな人に話しかけてもずっと無視されてて、今日初めて声をかける人がいて驚いた』と仰るわけです」

 

 相変わらず頷くだけの男を横目に、アイルの説明は続く。

 

「聞けば記憶もないし、自分が誰かも分からない。おまけに誰にも気付いてもらえなかった、と。正直全く信じていませんでしたが、彼に触れようとしたらすり抜けてしまって」

 

 アイルはそう言って男の体に触れようとするが、その手は空を切った。端から見れば何もない場所に手を伸ばしている不審者そのものである。

 

「ホログラムで悪戯されている線も考えましたが、一緒に会った他の人もどうやら全く見えていないようでした。そこでこの男性が言っている話が間違いないのかなと」

 

 説明し終えてため息をつく執事。その肩にポン、と手を置こうとしてすり抜ける男性の右手。

 

「お嬢様ならその類いの話に少なからず理解はあるでしょうし、早いとこ解決してもらおうと」

「人を霊媒師扱いしないでちょうだい……ですがまぁ、仕事柄全く信じられない話でもないわね。この学校も学校ですし」

 

 白皇は歴史も古く、様々なパワースポットとしても知られている。故に、オカルト話も少なくない。現についこの前は旧校舎に本物の幽霊が住み着いていたほどだ。

 

「けれど、除霊とかそういうのは全くの専門外よ?」

「あれ、霊体に通じる攻撃とかないんですか?パパッと光の剣でも出して串刺しにしてもらうとか」

「ちょっとちょっと!なにいきなり物騒な話をしてるんですかあなた方!?」

 

 男は慌てて2人の間に割って入って両手をぶんぶんと大きく振ってみせる。

 

「僕を消さないでくださいよ!僕には、僕には大切な使命がある……ような気がするんです」

「使命?」

「はい!それが何なのか……思い出せないんですけど、でも大切な使命が、あった気がするんです」

 

 執事と男のやり取りが聞こえないアテネは小首を傾げるのみ。

 

「どうかしたの?」

「いえ、この方が『大切な使命があった気がする』と主張してまして」

「使命、ですか」

「本当かどうか分かりませんけどね。消されたくなくて嘘を付いてるだけかも」

 

 本当ですよ!

 そんな男の情けない声色はあいにくとお嬢様には届かない。しかし、お嬢様は軽く頷いてから、改めてアイルに目を向けた。

 

「仕方ありませんね。アイル、その方の使命とやらを見つけてあげなさい。頼れるのが貴方しかいないのだから」

「まーじですか」

「マジよ」

 

 とはいえ。

 

「私では現状力になれそうにないですし、どうしようかしら」

 

 机に肘をついて、両手を合わせて口元に添えるお嬢様。、

 ちなみに男はむせび泣きながらアテネの慈悲にひれ伏していた。

 

「そういえば貴方、以前の幽霊騒ぎのときにアテがあるって言ってなかった?」

「まぁ、あるにはあるんですが」

 

 言いにくそうに頬を掻きながら続けるアイル。

 

「大変個性的な能力(ちから)をお持ちの方なので……もっと大きな問題とかに巻き込まれる可能性もあるといいますか」

 

 

 都内にある某武家屋敷。

 

「くしゅん!」

 

 縁側に腰掛けていた鷺ノ宮伊澄は、可愛らしく着物の裾で口を押さえてくしゃみを一つ。

 

「おや、風邪かい?最近は気温も安定していないからな」

 

 そんな彼女に話しかけたのは、黒い祭服を身につけた男性だった。額にはこれ見よがしにバッテン模様の傷があるのが特徴的だ。

 

「いえ、そういうわけでは……もしかしたら誰かが噂をしていたのかもしれません」

「ほう、なるほどな」

 

 男は腕を組んで頷くと、不意に明後日の方向に目を向ける。

 

「あぁ、そうだ。聡明な読者諸君は私のことをちゃんと覚えているとは思うが念のために注釈を入れておこう。私はアレキサンマルコ教会の元神父、リィン・レジオスター。訳あって成仏できずにこの鷺ノ宮家に住み着いている。趣味はアニメ・ゲーム鑑賞、ニコニコのMAD作成、つべの違法アップロード動画の通報、X(旧ツ●ッター)の「震えて泣いた」系嘘松投稿を煽りまくったまとめサイトの運営などなどだ。つい今伊澄くんがくしゃみをした瞬間も録画したので、これを切りつないでMADにして紳士諸君に届けるつもりだ」

「もうツッコみ所が多すぎて処理できません、あとその動画はすぐに消して下さい」

「このように私にかかれば伊澄嬢すらツッコみ役に回るわけだな」

「もー!話を聞きなさい!」

 

 ぽこぽこと神父を叩く伊澄嬢。

 

「いいですか、こういう時はえてして大きな依頼が舞い込む前兆なんです。もっと緊張感をもってください」

「ほう?」

 

 リーンゴーン。

 言った側から、屋敷内に響き渡ったのは訪問者を告げる鐘の音。

 

「来ましたね……これから物語の根幹に関わるきっかけとなり得る、重大な依頼が」

「MITSURINからでーす、お届け物にあっがりましたー」

 

 そして、響き渡る配達業者の声。

 

「おっとそうだった!注文していたネ●チャ先生のフィギュアが届いたのか、待ちわびていたぞッ!」

「もー!!」

 

 

 本日も晴天なり。

 

 

 

 






 よく記憶喪失の人を拾うことで定評のある天王州組です。アテネも能力的に幽霊とか見えるのではとも思いましたが(現に神父さんは見えていましたし)、力が働いている時とそうではない時で見えたり見えなかったりするとか、そんな感じで理解していただければ助かります。ぶっちゃけそこまで深く考えてませんでした笑
 
 意外とストレートな褒め言葉に弱かったりするアテネさん、可愛い。昔からきっとハヤテくんには褒められまくってるけど、毎回めっちゃ照れてるのでしょう、可愛い。原作ではカユラが美少女過ぎて絶句してたので、1000年に1度の美少女なのは間違いない。可愛い。あと10巻の表紙とかもう本当に可愛い。
 言い始めるとキリがないのでこの辺で笑。また次回もよろしくお願いします!


 P.S. 神父さんはあの後からずっと鷺ノ宮家に住み着いてます。話を面白くするにはもってこいのキャラクターなので、今後は登場回数は増える予定です。

物語の終わり方について

  • エンディングは一つのみが好ましい
  • 各ヒロインのルート分岐などがあっても良い
  • どうでもいい
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