アテネちゃんの執事!   作:通行人A'

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Task65:我オモウ故ニ制服アリ

 

 

「ううぅ……何故僕がこんな目に」

 

 白皇のピンク色のスカートをたなびかせ、カチューシャをした美少女――ではなく、綾崎ハヤテはやるせない瞳で、夕焼けを見上げていた。

 

「大丈夫ですよ、誰も貴方が誰か気が付いていませんから」

「気付かれたら即令呪使ってランサーを自●させますよ」

 

 特に意味のない令呪がランサーを襲う。

 

 隣を歩くアイルはどこか気の毒そうに視線を向ける。しかし、360度どこからどう見てもハヤテのその格好は白皇に舞い降りた儚くも美しい1輪の白百合だ。

 

「大丈夫、今日で決着を付けてしまいましょう。ハヤテ君もこのままという訳にはいかないでしょうし」

「はぁ……分かってます」

 

 何度目かのため息をつくハヤテ。一体全体どうしてこうなってしまったのか。

 話はつい昨日の夜に遡る。

 

 

 

「伝説の制服?」

 

 三千院家。

 日もすっかり暮れた窓の外では、あちこちで灯った街の光が浮かび上がっている。そんな中、ソファに座ったナギと咲夜は、訝しげに目の前にあるショーケースを見つめていた。ショーケースの中には、薄桃色のスカートに黄色のスカーフ。そして淡いピンクのブレザー。どこからどう見ても、ナギたちが通う白皇学院の女子用制服である。

 

「えぇ、かつて白皇学院で作られた初代の制服とのことです。マニアの間でも高額で売買されているという白皇制服の(シリーズ)1。この世に50着しかないようです」

「そいつらを駆除したら世の中少しは平和になるんと違うか」

「しかしこの制服は単なるS1ではありません。そのS1を作成するにあたって、試作されたS0」

 

 熱執事であるクラウスは手に持った複数枚の説明書(カンペ)に時折目を落としながら続ける。

 

「いわばプロトタイプ。この世にただの1着しかありません」

「プロトタイプ、ねぇ」

「そもそも、自分らが着てる制服と違いが分からんわ」

 

 ナギは再度、疑わしそうな視線をショーケースにぶつける。咲夜も呆れたようにティーカップを傾けるが、クラウスは首を振る。

 

「いえ、説明によると袖口と襟の線が2本入っているのと、スカーフが従来より2センチ短いそうです」

「どうでも良すぎる」

 

 全くもって。

 

「昔白皇で保管されていたはずのこのS0が、どういうわけか行方不明になり、以後市場にも一切出回っていなかったため、いつしかマニアの間で「伝説の制服」と呼ばれ出したそうですな」

「そうか。それでクラウスよ。素朴な疑問で悪いが、そんなものがなんだってウチに運ばれてきたんだ?」

 

 クラウスは手に持っていた紙をめくる。

 

「3ヶ月前、アラスカの考古学チームがとある遺跡の採掘調査していた現場からこの制服が入ったショーケースを掘り出しまして。そこでロストテクノロジーだと大騒ぎになったそうです」

「オーパーツ扱い?」

「そこで、白皇の実質的スポンサーである帝様の元にもろもろの調査依頼がきた訳なんですが」

 

『いや学生服とか興味ねーし。大体ワシ今ゆかりんへのお便り書くので忙しいんじゃって。調査とかメンドーだしクラウスの方で預かっておいてくれ。テキトーなタイミングで誰かが悪戯で埋めましたとか言っておけばええじゃん、チャオ』

 

 

「という連絡があり、この制服が送りつけられた次第でして」

「よしその悪戯の犯人はあのジジイということにしよう、国際裁判にかけて打ち首にするぞ。話合わせてくれるな咲」

「おう、任しとき」

 

 ナギは断固たる意思にサムズアップで答える咲夜。

 

「まぁ、事情は分かったが……ジジイの願いを聞いてやる義理なんてないぞ」

「しかし送り返すわけにもいきませんし、一応かなり貴重なものなんで迂闊に外に出すわけにも」

「そもそもホンマに貴重なものなんコレ?」

 

 どこからどうみてもただの制服だ。それ以上でもそれ以下でもないように見える。

 

「気を付けてナギ、咲夜。それは呪具よ」

「え?伊澄?」

 

 不意に背後から聞こえてきた声に、慌てて振り返る。そこには幼なじみの和服の美少女が神妙な顔つきで立っていた。

 

「まーた今日は唐突な登場やな伊澄さん」

「ふふ、夜に散歩に出かけようかと思って、ふと気が付いたらこの部屋の前にいたの」

「それで納得してしまいそうな自分が怖いわ」

 

 しかし納得はしてしまうのは親友の性か。

 

「しかし、呪具とはまた大げさやなぁ」

「えぇ、だけどこれは呪具。この制服の製作者は大層な制服好きで、腕はとても良かったのだけど、とにかく女性モノの制服を作り、集めること仕方が好きでなかった大変変わった性癖の持ち主だったわ」

 

 伊澄は窓の外を眺めながら語り始める。

 

「様々な学院の制服を手がけ、その人が手がけた制服は瞬く間に流行。女子生徒たちには大好評だったし、制服コレクターにも大人気になるという繁盛ぶりだったわ。」

「はぁ」

「そして彼渾身の傑作であるこの制服を作り終わった矢先――自身の会社の横領などが発覚して逮捕。獄中で病死したわ。この制服は当時創立したばかりの白皇学院に届けられたものの、この渾身の傑作が世でどう評価されるか、彼は知ることができなかった。獄中で血涙を流しながら悔い続けたと言われているわ」

「え?なに私たちの制服そんなヤツが発案したの?」

 

 心外そうに顔をしかめるナギ。無理もない。

 

「しかし、製作者のその無念がこの制服に取り憑き、呪いを宿すようになった」

 

 すっと目を細める伊澄。

 

「――そんな気がする制服よ」

「気がするだけかいッ!」

 

 スパーンと小気味の良い音を立てて、咲夜のハリセンが伊澄の頭を襲撃。

 

「……痛いわ咲夜」

「なんやってん今までの説明はッ」

 

 椅子からずり落ちたナギも呆れたようにため息をつく。

 

「結局古いだけの布きれってことか」

「ま、そんなボロボロにも見えんしかなりちゃんと保存されとったんとちゃう?」

 

 咲夜は乱雑にケースのドアを開けると、ハンガーにかかった伝説の制服を引っ張り出した。

 

「いうてそんな高価なもんには見えんなぁ」

「しかし時価総額は億も下らないそうですぞ」

「ほーん、この布きれがねぇ……」

 

 億といえば滅多にお目にかかれない大金。しかしこの部屋にいるお嬢様たちは親の顔より見慣れた単位である。品物の扱いが雑なのもそのためか、カンペをめくって説明するクラウスでさえ、その表情は淡々としたものだ。

 

「ん?なんやこれ」

「どうした咲」

「いやぁ、なんかここに変なもんがくっ付いててな」

 

 制服をナギたちに近づける。彼女が指さすのはブレザーの胸元に巻かれた黄色いスカーフ。その先端に、小さな丸いシールが付いていた。シールの表には「封」と文字が刻まれている。ゴミかとも思ったが、金色のそれは意図的付けられているようだ。

 

「ふーん……封って、なんかを封印してるってことか?」

「ははは、こんなちっぽけなシールで何が封印できんねん」

 

 咲夜はけらけらと笑いながらぺろっとシールをはがす。

 が。

 

「因みに、説明書にはそのシールを決してはがしてはいけないって書いてありますな」

「え?」

 

 クラウスの言葉に3人のお嬢様は顔を見合わせる。はがされたシールは咲夜の手を離れ、ひらひらと宙を舞いながら、やがて地面に落下した。

 

「なにやら恐ろしい祟りがふりかかるそうです。絶対にはがすなと赤い文字で書かれております」

「それ一番最初のページに書いとけよ」

 

 安全管理能力の著しい欠如。

 

「ん、けど特に何も起こった感じはせーへんな。なんか感じるか伊澄さん?」

「……」

 

 伊澄は辺りを見回していたが、やがてハッとしたようにある一方向に視線を釘付けにした。それは屋敷の東側の方角に向けられていた。

 

 

「え」

 

 そんな屋敷の東側。

 手にモップを持ったまま、マリアは目を点にしていた。何が何だか分からなかった。

 

 さっきまで一緒に掃除をしていた同僚の男の子。少女のように可愛らしい容姿はしているが正真正銘の男の子。ピシッと決めた執事服姿だったはずの彼が、いつの間にかセーラー服に身を包んでいたのである。

 

「じゃあマリアさん、僕はあっちの方に行ってきますね」

 

 ひらりとスカートをたなびかせ、少年だったはずのその制服の美少女は廊下を小走りでかけてゆく。え、あれ?〝あっち〟ってどういう意味ですか?マリアはただ呆然と、その後ろ姿を見送ることしかできなかった。

 

「マリア!」

 

 しばらくして、後ろからバタバタと駆けてくるナギたちが。目を点にしたままのマリアを取り囲む。

 

「ナギ?」

「大丈夫か、身体とか何も異常はないか?何か変わったこととか」

 

 訳も分からず小首を傾げるメイドさん。今さっき異常にぶち当たったばかりである。

 

「え、えぇ。私は特になにも――でもハヤテ君が、その」

「ハヤテが?」

「何かに目覚めたみたいな、私も何が何だか」

 

 要領を得ないままだったが、ナギたちと一緒にハヤテが消えていった方に駆けていった。

 辿り着いたのはとある応接室。中からは小気味の良い鼻歌が聞こえてくる。明らかにハヤテの声色だ。ナギたちは恐る恐るといった様子で、ドアの隙間から室内の様子を覗いてみた。

 

 思わず息を呑んだ。そこにいたのは、少年執事――ではなく、白皇のセーラー服を身に纏った水色の髪の美少女だったからだ。色っぽく頬を上気させながら、可愛らしい機嫌の良さそうな笑顔で窓を掃除をしている。

 

「これは……ハヤテの中で何が目覚めてしまったということか?」

「どーなってんねん、これが呪いなんか」

 

 呪い?何の話だと怪訝な表情をするマリアだが、その疑問には紙とにらめっこしていたクラウスが答える。

 

「ありましたぞ……最期のページの注釈ですな。えー説明書によると、『シールをはがしたら最期、周囲で一番運がない人間にのろい降りかかる。具体的には、その人間を女子生徒の制服専門の女装好き人間にしてしまう、と』」

「だからそういう大事なことは最初に書かんかいッ!誰やねんこの説明書作ったアホは!」

「しかもえらくピンポイントな効果だな」

 

 頭を抱えるお嬢様ズ。

 

「ともかく、まずハヤテに現状を知ってもらうしかないな」

「込み入った話になるかもしれません。ここの人選は慎重を期した方が良いでしょう」

「おお、伊澄さんがまともな提案を!」

「となるとここはやはり……」

 

 お嬢様ズとクラウスの視線は揃ったように1人のメイドさんに注がれる。

 

「え?私ですか」

「うむ、ここは冷静かつ的確にこの場を収拾するスキルが必要だ。これは余人を持って代えがたい」

「いや事情もなにも私だって一体皆さんが何を話しているのかさえまだ把握しきれてないんですけど」

 

 呆れ半分当惑半分といった声色だ。無理もない。

 と、そこに後ろから助け舟を出すがごとくもう一つの声が。

 

「では、マリア様と私が協力して対応しましょう。この布陣ならば想定外の事態にも98%対処可能です」

「ま、まぁアイルくんが一緒でしたらまだ――」

 

 って。

 

「いやいやなんで自分おるん!?」

「執事ですから」

 

 そう言ってにこやかに微笑む、執事アイルがいた。

 

「さすが某国のエージェントにもひけをとらない気配遮断能力。一切気が付かなかったぞ」

「感心しとる場合か、普通に不法侵入やろがい!」

「まぁ、それはさておき」

 

 さておいた。

 

「お嬢様方。事情は概ね把握しました。なにかの不可抗力があり、今綾崎くんに女装系統の呪いがかかってしまったという訳ですね」

「順応性天元突破しとるんか」

「執事ですから」

「どこでもそれで通用すると思っとるな自分」

 

 思っていそうではある。

 

「おお、エドモンド!やってくれるか、頼むぞ」

「ふふ、さすがアイル様。私の影の右腕だけはありますね」

「もうなんでもええわ、とにかく後は頼んだで」

 

 ナギと伊澄は何の疑問も持たずにサムズアップで答える。唯一の常識人の咲夜もようやくツッコみを放棄することにしたらしい。

 こうしてお嬢様ズはそくそくと元の部屋に引き上げていく。残されたのはマリアとアイルは、もう一度そっと部屋の中をのぞき見る。

 

「というか、一体何がどうなってるんですか?ナギたちがまた悪ふざけをしてるんでしょうか」

「さぁ。私もちょっとご相談があってお屋敷に寄ったばかりなので、分かりませんが……」

 

 窓に吐息をかけて、悪戯っぽく微笑むハヤテ。気のせいか周囲には白百合の花びらが舞い始めている。セーラー服の馴染みっぷりが常人のそれを遙かに凌駕しているのは気のせいではないだろう。

 

「彼にとっては危機的状況な気はします」

「ですわね」

 

 顔を見合わせてうなずき合うと、2人は恐る恐るそのセーラー服に歩み寄る。

 

「あの、ハヤテくん?」

「はい?」

 

 笑顔で振り返る美少女、ではなくハヤテ。

 

「あれ、アイルさんじゃないですか。いらっしゃいませ!」

「なんかその格好で言われると意味が違って聞こえ――」

 

 すかさず隣のメイドさんに肘で小突かれる執事。

 

「それで、お二人揃ってどうかされたんですか?」

「えーと」

 

 マリアは笑顔のまま逡巡するが、覚悟を決めたように口を開く。

 

「ハヤテくんは、その、セーラー服とかはお好きですか」

「え!?い、いきなりなんですか」

 

 目を見開いて2人の顔を交互に見るハヤテ。

 

「ま、まさかマリアさんが着るコスプレを僕に決めろってことですか」

「ちょっとハヤテくん!コスプレってなんですかッ、飛躍しすぎです!」

「そうですよ綾崎くん。個人の趣味趣向を詮索するのはマナー違反です」

「いやそういう問題じゃ!というか趣味じゃありませんってば!」

 

 顔を真っ赤にしてわざとらしく咳払いをすると、マリアは腰に手を当てて2人を軽く睨む。

 

「そうではなくて、ハヤテくん自身がそういうのを着たりするのがお好きかと聞いてんです」

「は?え、着たり?」

 

 そこまでに至り、ようやくハヤテは自身に違和感を感じたらしい。あれ?そういえばさっきから首回りがゆるやかな気がするぞ?それになんだか下がスースーするような――

 視線を下に向ければ、ひらりと揺れる桃色のスカート。胸元に目を落とせば黄色いスカーフとピンクのブレザーが。って。

 

「な、なななななんなんですかこれはぁぁあああ!!」

 

 ハヤテの悲鳴が屋敷獣に響き渡ったのだった。

 

 

 

 間

 

 

 

「え?制服の呪い?」

「えぇ」

 

 セーラー服に身を包んだハヤテが、素っ頓狂な声を上げる。

 

「封印を解いたら最後、周辺で一番運のない人間にセーラー服の女装をする呪いをかける――そんな気がする制服なのです」

「気がするだけですか?」

 

 伊澄は自信満々に説明する。

 

「まぁ落ち着け綾崎ハヤテ。実際にこの制服に説明書にも同じような注意事項が書いてある。伊澄お嬢様が仰っていることはほぼ間違いなさそうだ」

「いやいやどこが落ち着いていられるんですか!」

 

 他人事感満載で説明書に目を落とすのは執事長。まあ実際他人事なのでいたしかたあるまい。

 因みにややこしい話になりそうだったため、ナギとマリアは一時退出中である。ナギはといえば去り際に「私的にはアリだ。受け入れる覚悟は出来ているぞ」とのたくましい言葉を残していったが。

 

「いやー、しっかし似合っとるな自分。もっと自信もち!」

「えぇ。まるで綾崎君に着てもらうために生まれてきたような制服ですね」

「何言ってるんですかお二人とも!」

 

 無責任全開に親指を立てる関西娘と執事。頬を赤らめたまま、ハヤテは自身の身体を包む制服に手をかける。

 

「くっ、なんで……」

 

 しかし縦に引っ張ろうが横にずらそうが、一向に脱げる気配はない。まるで自分の皮膚のように馴染みきってしまっている。

 

「無駄ですハヤテ様。それは呪いです、人間の力だけでどうこう出来る代物ではありません」

「伊澄さん……では、どうすれば」

 

 すがるように伊澄を見る。彼女はいつものぽーっとした表情とは打って変わって神妙な表情で、制服を見つめる。

 

「この制服にかかった呪いのきっかけ、つまりは未練。それを満たしてあげることが必要かと思われます」

「といいますと?」

 

 伊澄は小さく息をついて、目を細める。

 

「さっきはナギもいたので『気がする』と冗談っぽく誤魔化したのですが、どうやら事態は一刻を争うようです」

「あんま誤魔化せてた気はせえへんけどな」

 

 現にハヤテが女装してしまってるわけで。

 

「これは鷺ノ宮家の宝具の一つ、『BANリンガル』です。この宝具を呪具の類いにかざせば、その呪いにまつわる未練などが分かります。先ほど私は皆さんに悟られないようにこれを使っていたのです」

「この際なんでもアリやなぁ」

「この制服の作り手は、制服が世に出る前に亡くなり、大きな未練を残した。この未練を打ち消してあげることが必要なのです」

 

 執事はピンときたのか眉をつり上げる。

 

「つまり、この制服を着た人間が、回りから大きな賞賛を受ければ良い、と?」

「さすがです、アイル様」

 

 にっこりと満足そうに微笑む伊澄。どうやら正解らしい。

 

「ハヤテ様がこの制服の評価を100%引き出して評価されれば、恐らく未練が断ち切られ呪いが解けるものと思います」

「な、なるほど……」

 

 恐る恐るといった調子で小首を傾げるハヤテさん。

 

「え?要するにそれって」

「なるべく大勢の人間にハヤテ様のその制服姿を目に焼き付けてもらい、かつそこで高評価を集めていけば大丈夫です。万事おっけーです」

「いやいやいや!?全然大丈夫じゃないですよねそれッ、どこが万事オッケー!?」

 

 大きく目を見開き、ぶんぶんと首を取れそうなほどに振りながら距離を取るハヤテ。

 

 要するに「女装プレイを大勢に見てもらえ」ということらしい。無理もない拒絶反応である。

 

「ですが……そうしなければ呪いは解けません」

「だ、だったらもっとモデルさんとかに着てもらえばいいじゃないですか!その方が遙かに」

「現実問題として、そのS0の制服を着ているのは綾崎ハヤテ、お前なのだ。お前がやるしかないのだ。三千院家に勤めるものとしていつまでも醜態をさらすわけにはいかんぞ」

 

 威厳と冷静さをもっと語りかける執事長。決して面白がっているわけではない。若干頬が引きつっているのは気のせいに違いない。うん、確実に気のせいだ。でなければハヤテは令呪を持って彼を自●に追い込むこともいとわないだろう。

 

 気が付けば先ほどショーケースに入っていた制服はものの見事に消失していた。伊澄たちの言うとおり、本当にハヤテに乗りうつったらしい。

 

「そ、そんな、急に言われても」

「ちなみにリミットは明日までです」

「ええ!?なにそのご都合的な展開!」

「明日中に解呪できなければ」

 

 できなければ?

 

「ハヤテ様は一生制服専門の女装男子として、界隈を統率するカリスマとなってしまうでしょう」

「……」

 

 とてつもなく恐ろしい呪いであった。

 

 愕然として言葉を失うハヤテら。もはや万事休すか。

 すると、静寂を破るように一人の手が上がった。

 

「一つ、私に考えがあります」

「アイルさん!」

 

 天王州家執事である。

 

「私がお屋敷に来たのも、実は〝あるお願い〟があってのことでした。それを実行すれば綾崎君の解呪も達成できる可能性があります」

 

 ハヤテの瞳の希望の光が宿る。

 

「ほ、本当ですか!」

「ただ、綾崎君にはかなりの覚悟を決めて貰う必要があるかもしれません」

 

 すぐに絶望の波が押し寄せる。

 

 アイルは周囲を静かに見回す。

 

「この作戦には、皆様方の協力が不可欠です。クラウスさん、ナギお嬢様とマリア様もこちらに呼んできてください」

「ふむ、分かった。しばし待っておれ」

 

 かつてないほど真剣な彼の表情に、執事長は余計な詮索などせずに踵を返した。更にアイルは伊澄や咲夜にも目を向ける。

 

「可能であれば、咲夜お嬢様や伊澄お嬢様にもご協力いただきたいのですが」

「まぁ封印解いたっぽいウチにも原因があるしな。ええで、協力したる!」

「アイル様にはいつも助けていただいてます、なんでも仰ってください」

 

 一も二もなく頷いてみせる2人。やがて部屋にはナギとマリアも不思議そうな表情をしながら戻ってきた。

 アイルは全員が集まったのを確認し、おもむろに口を開く。

 

 

「明日のヒナ祭り祭りでサプライズ(ゲリラ)を仕掛けます。皆様にはその主演メンバーを務めていただきたいのです。その名も──」

 

 

 

 

 時間は戻って、3月3日の白皇学院。

 夕刻の白皇は祭りの活気で大きく賑わい、その一端を担っていたのは舞い降りた一輪の白百合こと、制服姿のハヤテだった。

 内外の男性は皆、彼女――ではなく、彼の姿に熱を帯びた視線を送っている。

 

「ううぅ……いっそ殺して」

 

 涙目で俯くその仕草が、余計に男性らの嗜虐心を煽っていることはまず間違いなかった。

 彼の隣で歩く執事は苦笑しつつも、内心ではその制服姿のあまりのハマりっぷりに驚愕もしていた。まさかここまで目立つとは、と。

 

 

 暫く隣り合って歩いていた2人だったが、敷地内のホールへと足を踏み入れた。ホール内はまだ静寂に包まれていたが、大量のテーブルが並べられ、そこには色とりどりの豪華絢爛な料理が並べられていた。そしてステージには、大壇幕で『ヒナちゃん!お誕生日おめでとう!!』と掲げられている。

 そう、ここはヒナギクの誕生日パーティーの会場なのである。

 開始時間まではまだ時間があるためか、人は疎らだ。2人はこそこそとホールを通り抜け、ステージ裏にあるある楽屋まで足を運んだ。

 

 

「お待たせしました。綾崎君のアピール効果は想像以上ですよ」

 

 ドアを開けると、室内にいた視線が一斉に彼らに向けられる。

 

「わー、君本当に男の子?どっからどうみても白皇の美少女だよー」

「えぇ。もはや引くくらいに本当によく似合ってますねぇ……」

 

 ギターを肩から提げたマリアと詩織がまず駆け寄ってくる。

 

「いえ、マリア様もよく似合っていらっしゃいますよ」

「ふふ、ありがとうございますアイルくん。どーせお世辞でしょうけど」

「ええ!?先輩私にはスルーなんですかっ」

 

 マリアも詩織も、何を隠そう白皇の制服姿であった。

 

「なんや無駄にかわええデザインやなぁ。いざ自分が着るとちょっとはずいわー、これ」

「スカートが……スースーします」

 

 その隣には、同じく制服姿の咲夜と伊澄。咲夜はピンク色のスカートの裾をつまんで苦笑い、伊澄はスカートそのものが慣れないらしく、ずっと裾を押さえて顔を真っ赤にしている。

 

「ナギお嬢様、ボイトレの方は順調ですか?」

「ふむ、任せるがよい。七色の声をもつと絶賛された私の歌で、この戦争に終止符を打ってやるさ。『私の歌を聴けぇ!』」

「どこの戦争があんねん」

 

 奥にはナギは自信満々といった調子で拳を掲げる。

 

「では皆様、準備は万端ですね」

「せやアイル兄、チーム名とかはあらへんの?ウチら」

 

 咲夜の言葉に一同は顔を見合わせる。特に何も考えていなかったらしく思案するように腕を組むアイルだったが、ふと何かを思いついたのかマリアが手を打った。

 

「でしたら、セーラーズとかどうでしょう?皆さん制服姿ですし、今渋谷で流行しているときくブランド名とかけてみたり、なんて」

 

 水を打ったように静まり返る楽屋内。

 

「え?あれ?なんですかこの空気」

「あー、うむ。非常に最先端かつセンスフルなネーミングセンスだな、うん」

「ナギ?すごく棒読みですけど!」

「で、では。改めて皆様、準備はよろしいでしょうか」

「アイルくんまで!どうして目をそらすんですかッ」

 

 改めてアイルが楽屋を見渡す。

 

「久しぶりのライブだねー、張り切っていってみよー!」

 

 ベース担当:SHIORI(シオリ)

 

「……皆さんの反応は納得いきませんけれど。でも、またこうして演奏できるなんて学生以来ですね」

 

 ギター兼サブボーカル担当:MARIA(マリア)

 

「ま、やるって決めたら目いっぱい楽しまんとアカンな!関西のノリを見したるで!」

 

 ドラム担当:SAKUYA(サクヤ)

 

「あの、これスカートが……その」

 

 琵琶担当:ISUMI(イスミ)

 

「この戦争を終わらせにきた!私の歌と演奏に酔いしれるがよい!」

 

 ピアノ兼リードボーカル担当:NAGI(ナギ)

 

 

「……もうどうにでもして」

 

 センターボーカル担当:HAYATE(ハヤテ)あらため、HERMIONE(ハーマイオニー)

 

 

 後に白皇の伝説の一つとなる、白皇美少女制服バンド『白皇セーラーズ(仮)』誕生の瞬間であった。

 

 

 

 





いよいよ混沌としてきました。
というわけで、ヒナ祭り祭りも佳境に差し掛かっております。次回はヒナギクさんお誕生会開催です!

因みにナギがピアノ弾けるのかは設定では分かりませんでしたが、音楽も英才教育を受けてきてるのと絶対的な記憶力があるので多分めちゃくちゃ上手いだろうと勝手に想像しました。(設定間違えてたらすみません!)

物語の終わり方について

  • エンディングは一つのみが好ましい
  • 各ヒロインのルート分岐などがあっても良い
  • どうでもいい
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