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憂き世。浮世の語源であり、仏教的な厭世観を現世に照らし合わせ、「つらい世の中」とする意味である。ドでかく殴り書かれた半紙をマジマジと見つめて、アイルは小首を傾げる。
「憂いているのじゃよ、この世の中に」
「はあ」
応えるように。遠い目をしながら、三千院帝は部屋の天井を見上げて言った。あまりに唐突な切り出しに、アイルは瞬きをしながら必死に思考を巡らせた。しかし正解が分からずに、というかそもそも何の話かも分からず曖昧な返答をする。このジジイは一体何を言ってるんだと。
そんな反応などお構いなしに、帝は握りしめた拳を振りかざさんばかりに弁を振るう。
「これまでギャンブルカスだのゴミを見るような目で見ていた癖に、アプリがリリースしてから存在を知った途端手のひらを返している連中に!ワシは失望しとるんじゃ!」
「いや何の話をしてるんすかアンタ。え、誰の何の話?」
「元々競馬ファンでしたけど何か?見たこともないレースをさも現地で応援してたようなしたり顔でドヤる痛々しいやつの何たる多いことかッ。だからオタクはダメだとバカにされるのが分からんのかッ」
「厄介なのはどっちもどっちじゃ」
結局のところ、アイルのつぶやきが全てのような気がする。
とはいえ、言わんとしている事は分からないでもない。メジャーデビューしたてバンドの曲を聞いて、インディーズの時の方が良かったとか語る例の人あるあるに似ている気がする。違う気がする。
「別に良いことじゃないですか。創始者以外は皆新参、コンテンツの寿命や力強さを作るのは新規の呼び込みがいかに強いかという」
「そんな事を論じてるのではない。要は謙虚さが今の若者には足りないということを言っとるんじゃ!」
「難癖の棒高跳びですか?」
ブ○カもびっくりな跳躍力。
「良いかアイルよ。今まで1回も競馬場に足を運んだことがないやつが、動画やwikiで必死に知識をさらい、更に通ぶったような裏話にも手を付け、『あー、あの○○は確かにそう言われがちだよね。けど実は』とか『え?知らないの、あの○○はこういった経緯があるんだよ』とドヤ顔で語ってる姿を見たとき、どう思う。むずがゆくならんか?」
「最近居酒屋とかでそんな光景見ますけども」
微笑ましい光景である。14歳の時に必殺技を叫んでいたら近所のおじいさんにニコニコしながら見つめられた時の感覚に似ている。似てない。
「『アプリで初めて競馬を勉強し始めたんですが、調べたら○○って』という枕ことばを付けるとか」
「何この人生きづらそう」
古人曰く、これをどんぐりの背比べという。
「で、相談なんじゃが、ワシも念願の馬主デビューをしようと思ってな。ついてはスイーツ大好きなお嬢様な性格がいい」
「にわか丸出しでモロ影響受けてるじゃないですか」
今までの叫びはなんだったのか。
三千院家。
その歴史は数百年にも及ぶとも言われる、世界でも有数の大財閥である。世界でも有数の大財閥出過ぎだろうというツッコミはもっともだが置いておくとして、その本家当主であるのが、先ほどから熱弁を振るっていた三千院帝である。某水を被ると女の子になる漫画とは別人である。
帝が暮らす三千院家の本家邸宅は、恐らく日本で最大の敷地面積を誇るであろう巨大さで、初めて訪れた者は皆口を揃えて「異世界に来た」と目を回すほど。実際にその屋敷は家と言うよりは城であり、針葉樹林が生い茂る中にそびえ立っている。北欧の城と紹介してもなんら違和感がないほどだ。
そんな文字通り城の一室。帝の書斎に、天王州家の従者であるアイルは呼び出されていた。
「お嬢様なら下の階でお待ちですよ」
「そうつれないことを言うな、こんな話が出来るのはお前さんくらいでな。クラウスも最近は流行にもっぱら疎くなっておる」
アイルは呆れたように肩を落とす。
「まあ、半分冗談じゃ。うちの元執事の心配もしておるんじゃよ」
「それこそ冗談でしょう」
帝は1枚の便せんを机に置くと、おもむろに万年筆を手に取った。
「アテネは元気でやっておるか」
「ええ、もう成長が著しいですから。この前は録画の機能をマスターしました」
「それ成長の進捗報告ですること?」
天王州家では一大事なのである。
「けどまだ焼き回しとかは不慣れっすね」
「あーうん、あれって意外と面倒だもんね。最近はサブスクの影響でやる機会も減ってるし」
「携帯端末を最低限扱えることが目標でしょうか」
「うん、何でさっきから報告がおばあちゃんに初めてスマホをプレゼントした孫みたいになってるの?」
そんな報告はどうでも良いんじゃい。
老人はその歳に合わぬバイタリティ溢れるツッコミを披露しつつ、万年筆を従者に突きつけてみせる。
「そういうんじゃなくてさ、ほらあるじゃんもっと!『アイツも少しずつ笑顔をみせるようになりましたよ』とか『あんな事がありましたからね……けど、本人は前を向いてますよ』とか!思わせぶりで伏線っぽい会話はいくらでもあるじゃろーがっ」
「そもそも我々2人で話すこと自体需要が感じられません」
「あーダメだわ、なってないわ。全くアテネのやつはどういう教育をしてるんじゃ」
ブンブンと万年筆を振り回す三千院家の現当主。
「ワシ、三千院家の当主!ラスボス感あるニヒルなキャラを印象付けたいじゃん!」
「それは冒頭既に頓挫してるのでご安心を」
返す言葉もないわけで。
深々とため息を吐くと、老人は再び背中を向けて便せんに向き合った。
「まったく、アテネに付けて10年になるのに……日に日に反抗的になってない?」
「まさか」
アイルはあまり関心がないような声色で軽く伸びをしてみせた。
「しかし、彼女ももうじき17になるか」
「ええ、追い越されるのも時間の問題かもしれませんね」
帝は動かしていた万年筆をピタリと止める。
「治りそうにもないか、お前さんの身体は」
「どーでしょ」
「記憶もか?」
「さっぱり」
少しだけ深刻そうな声色にも、軽い調子で肩をすくめる執事。
「ま、俺の事より今は、優先しなきゃならない事がありますから」
「ほう?」
言われて、帝は眉を釣り上げるが敢えて何がとは聞かなかった。勿論こちらから話すこともない。
「まぁ、アテネはワシが巻き込んだ手前もある。変に拗れても後味は悪いんじゃよ」
「善処します」
軽く頭を下げると、「お嬢様を呼んで参ります」とアイルは踵を返してドアに手をかけた。が、ふと気にかかった彼は手を止めて、視線だけを後ろに向けた。
「ところで、さっきから何を書いてらっしゃるので?」
「無論、乙女○症○群へのメールじゃ!」
主人を帝の部屋へと案内したはいいが、込み入った話になりそうだったのでそくさくと退散。したのはいいが、他人の屋敷などで時間を潰すのも落ち着かない。
というわけで、本当に日本なのか再三疑わしく感じられるほど広大な庭に出ることに。その敷地面積は正確ではないが、北海道帯広市の半分並みだという噂も聞く。これで国内とは最早詐欺である。
下手に遭難したら敷地内で死にかけないとも限らない。そんな事を考えながら、外をふらふらと歩いていたアイルは、とある湖畔にまで足を伸ばしていた。
「はぁ」
小さなため息。主はどこかと探すと、水辺のベンチに見覚えのある後ろ姿を見つけた。
金髪のツインテールには、木々の木漏れ日から差し込む光が滑らかに反射して一層美しく煌めいている。憂いも含んだエメラルド色の瞳には穏やかな水面が映り、白いワンピースはそよ風になびく。まるで絵画の中から出てきたかのようなその少女は
「あとは公式グッズの転売厨どもをどう始末するか、それが問題だな」
とても物騒な事を白昼堂々宣っていた。
「む、誰だ?」
関わらないように回れ右で歩き出そうとしたが、敢えなく見つかってしまう。アイルは振り返ると、気まずそうに笑ってみせた。
「どうも、ナギお嬢様。初めまして」
三千院ナギ。
それが少女の名前だった。読んで字のごとくの名字、この屋敷に住まう三千院帝の親族である。
「なんだ、お前もジジイに悪ふざけで採用された、ろくでし、もとい私の執事候補か?」
「いえ、そんな愉快な事には巻き込まれてませんが」
「む、お前どこかで見たことがあるような」
親族どころか、ここの現当主の実孫。血の繋がった本家本元の御令嬢だ。
彼女はアイルの顔を無遠慮に眺めると、合点がいったのか、ポンと手を打った。
「あぁ、昔ジジイの所にいた執事か」
思わず目を丸くする天王州家の執事。
「覚えておいでとは」
「人の顔はそうそう忘れんさ」
「いや、多分会ったの一度くらいしかないんですがね。それも大昔に」
頬を掻きながら感嘆する。彼女の記憶力の良さには半端なものではないようだ。三千院帝の孫娘は天才だと風の噂で聞いたことはあったが。
「しかし、名前は聞いたことがなかったな」
「エドモンド結城です」
「混ぜるな危険を体現したような名前だな」
ストリートなのかバーチャなのかハッキリして欲しいところである。
「で、エドモンド。暫くここで姿を見かけなかったが、クビにでもなったのか?」
そうして名前は信じたらしい。
「まぁそんなトコですね。」
「で、今日はジジイにクビの報復しにきたのか。必要なら手伝うぞ」
「世界を敵に回す覚悟はまだありませんよ」
誇張でも何でもない。三千院家の当主を手にかけるということは、大なり小なり世界を敵にするのと限りなく同義である。そのレベルの規模なのだ。
「そうか、気が変わったらいつでも相談するといい。戦車の一つや二つは貸してやるぞ」
「何でそんな乗り気なんですかアンタ」
「ふっ、愚問だな。私はあのジジイが嫌いだからだ!」
家族間は良好という訳でもなさそうだ。無論、他人であるアイルは首を突っ込むことはない。
「ところで、ナギお嬢様はこちらで何を。別邸にお住まいだと聞いておりましたが、本邸にお戻りになられたので?」
「いや、別邸に住んでいるよ。ジジイの所になど収監されてたまるものか」
うんざりしたように吐き捨てるナギ。
「さっき執事がどうとか仰ってましたが、その話と何か関係が」
「あぁ、そうだよ。色々あって私の執事がばっくれたのでな、代わりの者を寄越すから本邸に来いと」
彼は頭の中で疑問を作る。ナギの専属執事がいたという話は数年前に聞いたことがあったのだ。名前こそ思い出せないが、とても仲が良いという噂も小耳に挟んだ。が、ばっくれたという話は初耳であった。
「で、案の定推薦してくるのはろくな奴がいない。完全にジジイの嫌がらせだ」
「なるほど」
彼の脳内には嬉々として奇人変人を集めて孫娘に紹介する老人の図が浮かんできた。
「それで本邸を抜け出してた訳ですか」
「うむ。静かな湖畔でも見て、心を落ち着けようと思ってな」
ナギは髪をさらりとかき上げて、水面を優しげに見つめる。
「そして、今まで見向きもしなかった癖に、アプリリリース後にウ○娘のグッズを転売してる奴らの始末方法を360通りほど考えていたのだ」
「血は争えない、か」
「む?」
何でもないと、適当に言葉を濁したが、この祖父にしてこの孫ありと、執事は確信した。
そうはいっても、目の前の少女は三千院家の御令嬢。SPたちが血眼になって探してるかもしれないが、ここで1人置いていくのも憚られる。
「取り敢えず、屋敷に戻りませんか?」
「だが断る」
「そこは動きましょうよ」
「馬鹿者、遊び半分で言ってるのではない」
ナギがのろのろと立ち上がろうとした時だ。
「見つけたよナギちゃん!」
轟かんばかりのハキハキした声量。2人が振り返ると、そこには1人の男がいた。いや、漢がいた。
太い眉、赤く逆立った短髪、膨れ上がった上腕二頭筋と胸筋は服の上からでもハッキリと分かるほど屈強である。
「誰?」
「……執事候補の1人だ」
げんなりした表情のナギ。
執事?とアイルが首を傾げるのも無理はない。上は体操着、下はハーフパンツ。偏見かもしれないが、執事とはかけ離れた格好である。
「そして、私が現在進行形で屋敷に戻りたくない原因だ」
お嬢様の表情とは打って変わって、男の顔は爽やかな笑顔に包まれている。白く整った歯がキラリと光り、隆起した筋肉が唸りを上げた。
「探したよナギちゃん!さぁ、僕と一緒に楽しい筋肉生活を始めよう!」
「始めるか馬鹿者!」
「大丈夫!初めは上手くいかなくても、きっと筋肉が好きになるよ!身体を動かす楽しさを体感しよう」
男はにこやかに一蹴する。
「またキャラが濃い執事ですね」
「候補だ。ジジイが寄越したトップクラスに厄介な」
体操着なのが実に気になるが、それも彼の明るい笑いにかき消されそうである。
「心配しないでナギちゃん!無理なく、そして楽しく筋肉をいじめる専用プランを285通り考えてきたんだ!レッツエクササイズ!」
悪い人ではなさそうだ。が、ナギは冗談じゃないとそっぽを向いてしまう。
「おいエドモンド、あの悪人を追い払ってくれ」
「別に悪い奴には見えませんけど、鬱陶しそうではありますが」
アイルの執事服の裾をちょいちょいと引っ張りながら、ナギはきっぱりと言い放つ。
「私にエクササイズなど不要だ。朝から晩まで学校にも行かずゲームと漫画とネットができる環境があればいい。筋肉を強化する暇があるなら、回線速度を強化すべきだ」
自堕落を絵に描いたような宣言だ。
「いっそ彼に性根叩き直してもらうのもありなんじゃ」
「うぉいエドモンド貴様、裏切る気か!」
なるほどね。
2人のやり取りを聞いていた男は腕を組んで大きく頷いてみせる。
「君もつまり、ナギちゃんの執事候補という訳か」
「ふん、その通りなのだ。しかもコイツはあと3回変身を残している」
この意味が分かるな?
挑発するように問いかけるナギに、男も更に一人で頷きながら指を鳴らし始めた。
ここまでくれば予想していたとはいえ、案の定ばっちりしっかり巻き込まれる形となった天王州家の執事。
「まぁ、いいでしょう。ナギお嬢様が困ってると仰るなら」
彼は諦めたように息をつくと、男と対峙するように前に出た。
「君は何か格闘技をやっているのかな?」
「超・占○略決を少々」
「格闘技じゃねーよそれ」
不敵に微笑む執事にナギの鋭いツッコミが飛ぶ。
「僕は柔道三段、空手三段、剣道二段。他にムエタイ少林寺拳法サンボ骨法、ブラジリアン柔術、あとカポエラを少々」
「お前、さては郷○太郎だな」
「いやそのネタは分かりにくいと思うぞ」
呆れたようなナギに構わず、二人の男は余裕の笑みを浮かべたまま、しかし睨み合う。
「で、何で勝負するって?」
「そうだね」
男は笑みを崩さずに、しかし力強く指を突きつけて見せる。
「正々堂々、スポーツ三番勝負だ!君が先に2勝することが出来れば、大人しく身を引こう」
「おい格闘云々どこいった」
「まずは野球だ!うぉおお、燃えてきたぁ!」
「話聞け」
そもそも格闘術の自慢はどこに行ったのか。
「まずは野球だ。僕が投げる球を君が打てたら君の勝ちだ!一球の真剣勝負さ!」
「榎本の生まれ変わりと称されたかったミート力で返り討ちにしてくれる」
「なにコイツら順応性高すぎない?」
いつの間にかグラブにバットを構え、位置につく男たちに思わず額を抑えるナギ。しかし彼女の悲痛に構わず、勝負は幕を開けた。
「オーバー160キロを誇る僕の炎のストレートを捉えることが出来るかな⁉︎」
「いやプロ行けよ」
空気がうねりを上げて男の腕にまとわりつき、それはやがてかまいたちのようにして放たれたボールをぐんぐんと加速させていく。さながら弾丸のようにあらゆる抵抗を薙ぎ倒して迫り来る豪速球には、流石の執事も手も足も。
「ふん!」
バットがあっさり出たようだ。
「何ィ!?」
芯で捉えた心地よい金属音が響き、振り切った金属バットから一直線に、ボールは跳ね返っていった。そのまま空の彼方へ。
「ば、馬鹿な」
膝から崩れ落ちる男に、執事は無情にもVサイン。完璧な当たりである。
「だ、だったら今度はPK勝負だ!僕が蹴って君が止める、恨みっこなしの一本勝負!」
「お前さっきから自分に有利ばっかじゃない?」
「良いんだよナギちゃん!大概のことは気合いがあればゴリ押せるのさ」
「爽やかに最低な事を言うな」
どこから出してきたのか、設置されたサッカーゴールで執事は大きく手を広げて構え、男はサッカーボールを右足を添えて対峙する。
「見せてあげるよッ、プロスカウトも魅了した僕の黄金の左足をねッ!」
軽快な助走から、鋭くを振り抜いた左足――ではなく右足がボールを捉えた瞬間、その白黒の球体は目にも止まらぬ速さで回転しながら空気を切り裂いていく。一気にゴールポストの左コーナーぎりぎりめがけて突き進み、ネットを
「そんな、馬鹿なッ」
揺らす前に、執事の左手にすっぽりと収まっていた。ポストを伝い軽々飛び上がっていたその黒服は、着地するやいなや表情ひとつ変えずにまたもVサイン。
「ぼ、僕の黄金の左足が……僕の欧州リーグ制覇の夢が」
「執事候補じゃなかったかお前」
両膝を着いてガックリとうなだれる男に、アイルはおもむろに近づいていくと、優しく肩に手を乗せてみせた。
「勝負は時の運。なにも人生が決まるわけじゃない、顔を上げてくれ」
「執事君……」
「簡単な話さ」
そうして、共に戦った盟友を称えるような笑顔で。
「ただ凡才だっただけだ、何も気にすることはないよ」
ナギはその時、男の心が根元からへし折れる音を聞いたと振り返る。あれほど形容しがたい鈍い音もそうなかったのではないかと。
後ほど、邸宅のSPたちは泣きながら三千院邸を猛然とダッシュする体操着の男の姿を見たとか。
「プライド粉砕の仕方がえげつないなお前」
「でも、これでもう三千院家には近づかないでしょう」
男が脱兎の如く逃げ出した方向を見つめながら、ナギは若干気の毒な気持ちも抱きつつ。そよ風に揺れる髪を抑えつつ、執事の方へと振り返った。
「ま、何にしても助かったよエドモンド。ありがとう」
「むしろお嬢様の自堕落に拍車をかけてしまった罪悪感が強いような」
「どーいう意味だッ」
真面目に悔やむような顔つきになるアイルに、お嬢様はくってかかる。その後も暫くあーだこーだと話していると、2人の後方から早足でかけてくる音が。
ナギが振り返ると、そこにはメイド服をきた女性が、眉をつり上げて立っているではないか。
「もうナギ、こんな所にいたんですか」
「なんだマリアか」
ライトブラウンの髪を後ろで束ねてハーフアップにした、大層に美しい女性だった。メイド服という見た目もあって少し大人びて見えるが、その整った容姿はどこか幼さも残しつつ、成人を迎えていないであろうことはどこからどう見ても決定的に明らかというべきであり、それは世界共通の定義というほかはあり得ないだろう。
「なんだこのモノローグ異様に丁寧じゃね?」
「なにか不服でも?」
「い、いや……」
美しい笑顔のまま迫るメイド服の女性に、ナギは慌てて咳払いをして誤魔化す。
「それよりもナギ。勝手に抜け出してはいけませんよ、SPの方々も大騒ぎしていますから」
「大げさな奴らだな、敷地内を歩いていただけだろう」
「ここはウチよりも広いんですから1人でも危険ですわ」
前述したが、この屋敷の敷地は地方の自治体まるごと入れてもお釣りがくることもあるとかないとか。
「ところで、ここで何をしてたんです?人生を見つめ直してもだえ苦しんでいたんですか」
「オイどーいう意味だ」
にこやかに主人に毒を吐くメイドさん。
「実はこのエドモンドに助けてもらってな」
「エド?どなたです?」
メイドは小首を傾げながら判然としない様子。その反応を疑問に思い、ナギも振り返ると。
「あれ……?」
ナギの後ろにいたはずの執事は、忽然と姿を消していた。跡形もなく。
「遅かったわね……って、何故そんなに疲れているんですの?」
アイルが屋敷に戻ると、どうやらとっくに話が終わっていたらしいアテネが怪訝な表情を投げかけてきた。主人を待たせてしまっていたことに謝罪しつつ、執事は深々とため息をついてこめかみを抑えた。
「この屋敷にいるとアイデンティティが崩壊しそうで」
「は?」
B面に続く。多分
物語の終わり方について
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エンディングは一つのみが好ましい
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各ヒロインのルート分岐などがあっても良い
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どうでもいい