私には、ある使命がある。
「実は零夜(れいや)には、ある任務があるんだよ」
そんな事を言われたのは、もうずっと前の事。
もう何年も人間を攻略してきた。
「零夜には、人間とデートして、デレさせるという任務を与えるよっ」
姉から初めてそう聞いた時は、もう訳がわからなかった。
なぜ私が人間なんかとデートしなくてはならないのか。
そもそも目的が謎だ。
「なぜですか」
そう問うに決まっている。
「人間が精霊を敵視しているの知っているな?」
もちろんだ。だから私は人間が嫌いなんだ。
姉は無言を肯定の意と取ったらしく、話を続ける。
「それは精霊にとってはよろしくない状況だということも分かるな?」
なにが言いたいんだ姉さんは。
「だから人間をこちらに寝返らせる。人間の中で一番強い感情は恋愛と憎悪だ。圧倒的に前者の方が楽だと見て、私はお前に頼みたい」
やはり変だ。
「なら、なぜ私なのですか。姉さんがやればいいんじゃ……」
「お前の体、顔、声。全てが人間の好みにピッタリなんだよ。頼まれて……くれるか?」
嫌だ。私はゲームができればそれでいい。
そう、言おうとした。
でも、だ。
これはもしかしたら、恋愛シミュレーションゲームの応用が効くのではないか、と。
そう考えた。
そう考えてしまった私の本能は、もう抑えることは出来なくて。
「気が付いたらこれで19人目、か」
もういい加減飽きてきてしまった。
しかし、プライド的にも飽きたからやめるなど、言い出せなくて。
はぁ……どうしたものか。
「零夜。次のターゲットだ」
見せられたのは何ともマヌケそうな顔をした少年である。
「識別名、海斗。これからいつものゲームセンターに転送するぞ」
さて、始めようか。
ゲーム、スタート。
ゲームセンターに降り立った私は、すぐさま探索に出ようとしたのだが……
「レースゲームの……新作が出てるっ! ううう……一回だけならいいわ。一回だけならっ」
欲望には勝てないもので。
気付いたら4回もプレイしてた。さすがにそろそろ……と思った時だ。
「一緒に、どうかな?」
なんて幸運。彼の方から来てくれるなんて。
なるべく笑顔で、気分いい返事を。
「うんっいいよ!」
我ながら完璧ね。これでイチコロじゃない?
とりあえず彼と一緒にレースゲームに興じた。
「あー負けた! 自信あったんだけどなぁ……」
うん、すっごく弱かった。
なんかもう接戦みたいな口ぶりだけど、明らかに圧勝だった。
「もーう弱いなぁ! あはは」
最後の方はもう嘲笑だわ。
でも、好感度は結構いい感じなんじゃない?
インカムをつついて、好感度の様子を聞いてみる。
まぁ、高いとまではいかずとも、なかなか良い方なんじゃ。
『これは、イレギュラーね。さっきから全く好感度の変化がないわ』
なん……ですって。
「はぁ!? そんなわけないだろ!?」
コイツも急になに!?
「えっ……どうしたの? 負けたのがそんなに悔しかった? そんなに怒る事ないってー」
とりあえず当たり障りのないように、ね。
にしても、好感度の変化がないのはおかしいわ。
まずは流れを掴むことが大事だよね。
「あっ、あなた名前は?」
「俺は海斗。海に北斗七星の斗だ」
なるべく最初は親しみやすい女の子を演じるのがベストね。だから……
「なにその説明。ふふふ。海斗くんって面白いね!」
完璧ね。これでこの男も「もしかしてこの子俺に気があるんじゃ……」の勘違いに陥ったはずよ。
『あなたが何を考えてるかは大体分かるけど……好感度全然だからね』
なっ……!?
この男ホモなんじゃないでしょうね!?
むぅ……とりあえず私も名乗っておかなきゃ。
「私は零夜(れいや)。数字の零に夜だよっ。よく男の子みたいな名前って言われるんだけど、見ての通り可愛い女の子だからねっ」
どう? 気さくな女の子って感じよ。
さぁ、存分に「どう返していいかわからないっ」となりなさい。この童貞。
「否定できないのが困るなぁ。いや、本当に可愛いな」
……そうきたか。この男はそっちのタイプなのね。
なら、存分に狼狽えてやるわよ。
「ふぇ……!? そんなにストレートに!? ……ふえええ」
どう? 我ながら可愛いわ。
インカムをつついて確認する。
『ねぇ、あの男本当にホモじゃないのかしら』
(まさか……)
『そのまさかよ。好感度は全然変化してないわ』
もう、コイツ……完全にホモでしょ。
まじひくわー。