「君はこの先のことも見えているんだろう?なのにどうして手を差し伸べてはあげないんだい?」
とある理想郷の宙に浮かぶ塔の中、一人の魔術師と一人の魔法使いがいた。杖を持ち、白い長髪をなびかせている魔術師の問に、魔法使いは答える
「理由は簡単、それは世界の理に反する事だからだ。確かに俺はこの先の事象も、その解決法も、ある程度なら検討は付いている。いや、その事象を回避し、人類史を進歩させる事すらできる」
「なのに君はそれをしようとはしない。それは君の望んだ事なのかい?僕にはそう思えないな。以前の君なら何を犠牲にしてでも人類史を、世界を救おうとしたはずだ。それなのに、どうして君は傍観していられるのかな」
魔法使いと魔術師の付き合いはそこそこ長い。互いの事をある程度は知ってはいる間柄、どうしても気になってしまったのだ。あれ程自分の身を顧みず、仲間を身を挺して守り通し、仲間を愚かなまでに信じ、敵にすら救いの手を差し伸べようとすらした愚か者がここまで合理的になってしまったのかを。
「俺が理に反すれば、俺の存在は今度こそ消えてしまう。それだけはダメなんだ。俺がいなくなり、もし神をも凌駕した存在が現れた時、この世界は抗う事すらできず消滅させられてしまう。確かに俺の目は世界の過去、未来、現在、そしてIFの可能性すら写してくれる。だが、それが全ての可能性では無い。その証拠にアンリマユ、アイツの召喚を俺の瞳は写してはくれなかった」
「だがら君は、傍観するしか無くなったと?」
「そうだ。もし世界を滅ぼす存在が現れなかったとしても、俺はこの座から離れる訳にはいかないんだ」
「・・・君はそれを分かっていて、その座に着いたのかい?この星の終わりまで終わる事のない、人類史の傍観者を。君がその命に変えてまでも守りたかった人達の死に、絶望に手を差し伸べる事が許されない存在に」
人の感情を理解しているが、感じることが出来ない魔術師だが、今回ばかりはどこか辛そうに見えた。理想郷の外にある花を眺めながら黄昏ている今の彼は、どうしても魔術には理解できなかった。昔はあんなにも胸を躍らせ、彼の活躍と勇士に手汗に握り、共に冒険したあの時を鮮明に覚えている。
「・・・」
「すまない、それが君だったね。どんな苦しい茨の道でも、どんな苦しい事だと分かっていても、君は人の為だと、世界を救う為だとその身に余りすぎる苦痛を受け入れてしまう」
「・・・もう慣れたよ。この在り方は変えられない、呪いなんだ」
「そうか。だがこれだけは覚えていてほしい。君は今まで多くの命を、世界を、歴史を救ってきた。一人のマスターが行うには偉業の言葉をいくら並べても足りない程に。だから、たった一回の我が儘なら許されるんじゃないかな。君のその在り方だからそこの我が儘を」
その言葉に魔法使いの心は少しだけ軽くなった気がした。昔と違い、今では世界の事象を正しく理解でき、その合理的な解決方法も分かってしまう。人の命を捨てる事が前提、誰かを救う事は他の誰かを救わないと知ってしまった。誰かを救わないなど都合が良すぎたのだ。初めて誰かを救わなかった時、俺の心は崩れ始めた、耐えれる訳なかった。そしてついに俺の心は、完全に砕け散った。
だが、それでもこの間抜けな魔術師は俺の在り方を良しとした。かつて幾度も窮地を救われ、共に過去を冒険し、神とも争い、この世界を永遠の時間の中で見守る友。
「ありがとう。
「どういたしまして。藤丸くん」