運営が本気でメイプルを潰しにきたようです   作:名無しの固有名詞

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軌跡

 

 

「さて、行くか。」

 

 

ワーカーが部屋に入った途端、扉は勢いよく閉まる。それに合わせてワーカーも勢いよく跳び上がる。

 

 

「【跳躍】 やっぱりか。」

 

 

毒沼から現れたのは毒竜、初見殺しの攻撃はプレイヤーの装備を溶かすためのものだった。即死よりかはまだ優しいだろう。

 

 

「製作側に不意打ちが効くとでも?」

 

 

毒霧を撒くもワーカーには何度も見慣れた光景だ。実際にプレイすることは初めてなのだが。

 

 

(毒霧には三種類ほどの段階がある。一つ目は主力の当たったらかなりのダメージを受けるタイプ。二つ目はそれに纏われてる少しだけどダメージを受けるタイプ。まあ、耐性があるから効かないけど)

 

 

「それより」

 

 

毒霧で覆われて毒竜に切り込む隙がない。ここはワーカーでも知らず、他に担当がいたところだ。むしろ、ワーカーは最初の初見殺ししか知らない。

 

 

「【ウィンドカッター】」

 

 

杖をスッと振るとそこから風の刃が現れ、毒霧を切り裂く。しかし、多大な量の毒霧によってそれはすぐに埋められてしまう。

 

 

「……こんなん一人でどう勝てと?」

 

 

かのメイプルはこれを単独で、かつワーカーよりも低いレベルでクリアしたのだ。一体どのような手段を取ったのだろうか?

 

 

「そんなこと考えてても状況は変わらない、現状を打開する策を考えるんだ」

 

 

メイプルのことは一先ず後回しにして対策を考える。攻撃が通らないならば受けに回るという判断に出た。しかし、これはかなりのリスクがあった。

 

 

「危ないなぁ」

 

 

ワーカーの身体のスレスレを主力の毒霧が吹き抜いていく。間一髪というものだ。

 

 

「相手のMPが切れるまでにこっちの体力が保つかどうか…」

 

 

 

ワーカーには毒霧を突き抜けられるほどの火力も無ければ【毒無効】も存在しない。できるのは忍耐程度だ。

 

 

「忍耐…そろそろか?」

 

 

その言葉で思い出したのは毒霧の最後の種類だった。

 

 

『スキル【状態異常耐性中】より【毒耐性大】を獲得しました。』

 

 

それは、時間が経てば経つほど部屋中に蔓延していく、見えない毒霧だ。あまりに時間をかけ過ぎると一定の時間を越えると即死する、それがこのボス戦の特徴の一つだった。

 

 

「ダメージ自体はないか、ならこのまま相手の攻撃が弱まるまで待つ」

 

 

毒竜はめげずにワーカーへ向けて毒霧を放つ。しかし、当たりそうなところで当たらない。丁度良い距離を取れば避けることなんて容易い。ぶつかりそうになったときには

 

 

「【超加速】」

 

 

公式の裏技を使って手に入れた【超加速】により毒霧からあっという間に離れる。どうやって手に入れたかは内緒だがお店で買えるということだけは確実だ。

 

 

 

毒竜は次こそは当たると思っている、わけもなくワーカーが攻撃判定のギリギリを走っていることに気がついたようだ。その途端、攻撃はピタリと止まった。

 

 

「今だ」

 

 

そう掛け声を出した瞬間、毒竜の足元から火が噴き上がった。もちろん、毒竜の攻撃のわけもなく

 

 

「【罠発動】火柱」

 

 

火はそのまま毒霧をも飲み込み燃やしていく。次第に火は毒竜に燃え移り、こんがりと焼けていった。

 

 

「美味しそう、とは思えないな。まあ食べるプレイヤーなんていないよな」

 

 

丸焦げになった毒竜の残骸の元へ近付いたワーカーは戦闘不能を確認し、安堵する。

 

 

 

「ドロップは特になし、か。まあ【毒耐性大】が取れただけでもいい収穫かな。」

 

 

 

この情報を持って帰り、メイプル対策班で作戦会議をするようなのだが役に立つのだろうか。現状、メイプルの異常な強さには

 

 

一.圧倒的防御力

 

二.攻撃吸収

 

三.大規模毒攻撃

 

 

の三点が挙げられている。防御力に関しては現状あらゆる手を使ってVIT値を上げればできないわけでもないそうだがそうすると火力の説明ができないらしい。攻撃吸収は【悪食】というレアスキルを所有しているという見解。毒攻撃は【悪食】の吸収量を放出すれば可能な範囲、という結果だ。これを聞いた時のワーカーの反応は

 

 

「【悪食】強すぎんだろ」

 

 

の一言である。次のメンテナンスで流石に弱体化はする予定だが他にも何か危ないスキルを所有していたら笑い話では済まされない。それを探るためにワーカーがゲームに潜っている。

 

 

「レベルは…20か。確か別室だったかな?」

 

 

 

 

一度ログアウトし、別室へと移る。マニュアルには、レベルが20になったら移動するように言われていたのだ。夕日が眩しいがそんなことはさておき、またハードがあった。それを装着すると

 

 

 

「ここは、廃墟?」

 

 

どこかで見たことのあるような廃墟に移動した。そして、驚いたことに

 

 

「え、何」

 

 

周りには数十のNPC。どうやら戦闘態勢で殴りかかってきた。

 

 

「あ、そういうこと」

 

 

ここの廃墟はメイプルが第一回イベントで戦っていた場所とほぼ同じ、囲んできたプレイヤーは実際にメイプルが戦った形式と同じ。すなわち

 

 

「毒竜を倒したらどれくらい勝てるかって実験かな?」

 

 

毒竜は一層の中ではトップクラスといっていいほどの高難度ボスだ。クリアした数も多くなく、それが見方によってはイベントの実績に関係しているのかもしれない。それを試すつもりのようである。

 

 

「【超加速】」

 

 

全方位から止めどなく撃たれる魔法攻撃にワーカーは当然避けることにしか集中することができず、流れ弾で同士討ちされることくらいしか倒す手段がない。途中、何度も当たりそうになりながらも、何とか避けきる。

 

 

「多分一瞬でも当たったら勢い落ちてやられる。あ、」

 

 

そんなことを考えていると足を滑らし案の定動くこともできずHPバーはゼロになった。

 

 

「こんなの勝てるわけないだろ」

 

 

20というレベルはイベント内ではかなり低い方で、しかも大人数を相手にというのは勝ち筋は普通はない。メイプル以外のトップ10は当然それ以上に高いわけでやはりメイプルの異常性が伺える。

 

 

擬似第一回イベント

ワーカー

死亡回数 1

被ダメージ 58

撃破数 499

 

 

「定時だ、帰るか。」

 

データは明日にでも解析班が分析してくれるだろう。役に立つかどうかはわからないのだが。

 

 

 

「初日お疲れさん、今晩はゆっくり休め」

 

 

「はい、課長。お疲れ様です。」

 

 

課長に一声掛け、帰路につく。家に帰ったら、

 

 

 

「よし、レベル上げするか。」

 

 

さも当然かのようにログインする。昼間とは違って街にはかなりの人数のプレイヤーがいた。

 

 

「そういえば第一回イベント終わってからの売り上げがまた伸びたとか言ってたっけ?」

 

 

これもある意味メイプルのおかげで彼女の楽しげなプレイ(敵プレイヤーにとっては悪夢)が購買意欲を湧かせたのだろう。製作陣からは実際に対峙しないことを願うばかりだ。挫折してプレイをやめてもらっては困る。現状は売れ行きの方が勝っているがゲームバランスが崩壊したら結果は火を見るよりも明らかだ。

 

 

「そのためにもたくさんデータを集めねば」

 

 

そう強く決心したワーカーであった。

 

 

 

ーーーー

 

 

 

「よし、スキルもいくつか上げれたしやっぱりマニュアルがあると効率が違うな。初日で24とか、かなり速い。」

 

 

初日だからレベルが上がりやすいだけではなく、今日だけで半日弱もプレイしている。かなり慣れてきたようだ。

 

 

 

「次のメンテナンスまでにデータが必要だ。そういえばメモに生産職の情報も仕入れてこいってあったような」

 

当然、プレイヤーが経営している店は日中は流石に閉まっていたため、プレイ時間であるゴールデンタイムから深夜に駆け回るしかない。こっちの都合良くはいかないのだ。

 

 

 

「バグとかチート装備があるか見てこないと。」

 

ここでのバグやチートというのは強過ぎるというわけではなく通常手に入らない装備や異常に上げられたステータスの装備のことを指す。

 

ステータス透視メガネをかけ、プレイヤーや装備のステータスが見えるようになる。

 

「これ、人混みの中で使ったらダメだな」

 

目の前が文字だらけで真っ黒になる。これでは読めるはずの文字も読めない。店が空いている頃が良いタイミングのようだ。

 

 

しばらく回ってみても怪しい店は見当たらなかった。規制がかなりうまくいっている成果である。

 

 

「ここで最後かな、イズ工房?」

 

 

メモでは一番警戒すべき店と書かれていた。メイプルのような上位ランカーが多く立ち寄った店らしい。ここで何かがある可能性は他と比べて極めて高い。

 

 

「お邪魔します」

 

 

 

OPENの看板を確認し、中へと入る。思いの外、客はおらずゆっくりと装備を見ることができそうだ。

 

 

「いらっしゃい。初めまして、よね?」

 

 

「はい、最近始めたばっかで。少し商品を見ていってもよろしいでしょうか?」

 

「ええ、いいわよ。」

 

 

それを聞くと、店に飾られている剣や杖を実際に手に取り鑑定する。杖は装飾が綺麗で作り手のこだわりがあるように見える。

 

(他の店と比べてステータスがかなり高い。例の人も通っているわけだしやっぱりマークしておくべきか。)

 

 

「あら、気に入ったの?」

 

 

手が空いているからなのか、何か気になる点でもあるのか、ワーカーに話しかけてきた。じっくりと杖を見ていたワーカーは突然話しかけられ驚く。

 

 

「い、いや。まだ買おうと思っているわけでは」

 

 

「そうよね、まだ始めて日も浅いようだし……予算、ないでしょ」

 

 

「あ、」

 

 

そのとき、ワーカーは初めて気が付いた。その装備の金額が。

 

 

「三千万ゴールドなんてまだないわよね。」

 

 

「あはは、そうですね。次来るときにでもまた検討します。」

 

 

「そう、楽しみにしているわ。」

 

 

「では、失礼します。」

 

 

 

力には代償が伴う。それがより大きくなればなるほど、代償も比例して大きくなる。すなわちこういうことだ。

 

 

「あの店、やっぱりマークしておこう。」

 

 

これが原因で、次の職員会議で話し合う内容に装備の値段の項目が追加されたとか。

 

 

 




次回以降、公正なプレイを心掛け、世間体を考慮するためワーカーへの本部からの有益な情報は途絶えました。なお、、業務連絡等の必要な連絡は行います。ご了承ください。

本社はテレワークを推進しております。
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