【完結】白銀の空隙   作:傀儡兵C

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前編

 息をきらして、雪だるまのような格好をした少女が走っている。寒い気候以上に、体力の限界を越えようとしている吐息だ。

 

 少女が逃げている理由は簡単だ。後ろから追ってくる者がいるから。そして、それが……

 

 

「血が足らぬ! 血が足らぬ! 大地よ、血を返せ!」

 

 

 とても人間のように思えなかったからだ。彼らは一様に骨と爬虫類の皮を被り、同じことを繰り返す。血を返せと。あれではまるでおとぎ話の邪悪な竜人だ。

 

 

「あうっ!」

 

 

 そんなことを考えたせいか、少女は足をもつれさせて転倒した。それは致命的な隙で、後ろから来ていた者達が少女を取り囲む。

 

 

「血を返せ!」

 

 

 返せってなんだろう。私達はなにも奪っていない。両親も友達も、そうだろう。でも突然に現れた存在によって寒村の平穏は打ち砕かれた。

 ……結局、神様は助けてくれないのだろうか。勇者もおとぎ話に過ぎないのだろうか。

 

 

「血をっ!」

 

 

 手が迫り、少女は思わず目を瞑った。怖い光景など見たくない。

 

 

「事情があるのは分かったが、おなごを集団で追いかけ回すのは趣味が良くないな」

 

 

 ……人の声。顔をあげた少女は見た。彼は神様では無いだろう。もしかしたら勇者でも無いのかも知れない。しかし、紛れもなく声の主はその通りの救い主であった。馴染みのある銀色が放たれ……

 

 

「フラッシング・ソーサー!」

 

 

 ……竜人達は吹き飛ばされた。少女にとって彼こそが救世主となった瞬間だった。

 

/

 

 

 そこは壁にヒビが入り、破壊と歴史を伝えて来る空間だった。それでも荘厳に感じられるのは、一段高い座にいる人物の迫力であろう。

 

 ……教皇にして最強の戦士。牡羊座のシオンの威厳であった。今も俺はその前にぬかづくことに、一片のためらいもない。古より伝わる教皇の兜と長いローブ。外見ですら様になっているというのに、内奥する小宇宙(コスモ)は、離れた我が身にさえ伝わってくる。

 

 我らは聖闘士(セイント)。邪悪と戦い地上の守護を担う、守護星座の戦士達である。本来は教皇自身も戦女神アテナに仕える身であるが、次代のアテナはまだ現れていない。

 

 この地……聖域と、いずれ蘇る冥王との戦いのため、力を蓄える日々なのだ。

 

 

 

御者座(アウリガ)のリョウマよ。そなたに新しい任務を与える。北の地にある寒村において、人々が少しずつ消えているという。この地を調査し、手に負えるならば良し。そうでなければ情報を持ち帰れ」

「ハッ! この御者座(アウリガ)! 微力を尽くします!」

 

 

 顔を上げるとシオン様と目が合う。その顔は慈愛に満ちていた。それは父性にも郷愁にも似た顔だった。その顔を目に焼き付けたまま、俺は教皇の間を辞した。

 

 

/

 

 教皇の間から下へと降りるには手間がかかる。そのためサイコキネシスを得意とするシオン様が直接テレポーテーションで飛ばしてくれた。

 突然景色が変わり周囲の神殿郡が見える。教皇の間と同じように大方は直っているものの、あちこちにヒビや傷も目立つ。前聖戦の傷跡だ。

 

 前聖戦はおよそ10年前だったという。偶然、この地に流れ着いた俺にはわからぬことだが些かどころではなく、大分に異色の闘争であったらしい。

 

 生き残った聖闘士は、宿敵ハーデスの部下たる魔星を監視する天秤座(ライブラ)の童虎様。教皇となったシオン様。そして……

 

 

「今から任務か。リョウマ」

「テネオ様……!」

 

 

 長い髪を後ろに括り、きらびやかな黄金の鎧をまとった青年がいた。

 聖戦後に牡牛座(タウラス)の聖闘士となったテネオ様だけだ。広大な聖域を一から作り直したという、黄金(ゴールド)の方々には畏敬を覚えずにいられない。

 ふとシオン様の優しい目を思い出す。東洋の血を引いていると言ったとき、テネオ様も同じような顔をしたものだ。

 

 

「任務か。お前ならば大丈夫だろうが、気は抜くなよ」

「はい!」

「本来……白銀聖闘士(シルバーセイント)が各地で任務をこなすのは正しい。しかし、この聖域を離れられない我が身が歯がゆくもあるよ」

「テネオ様……それは、今黄金聖闘士の数も……」

 

 

 分かっていると言いたげに、テネオ様は俺の肩に手を置いた。本来12人いるはずの守り手がただ一人。どれほど覚悟がいることだろう。どれほど悔しさを耐えたのだろう。

 だが、その手から伝わる思いが俺の総身を震わす。

 

 

「では、行ってまいります」

 

 

 衝動を駆けることで発散する俺の耳に、つぶやきが聞こえた。

 黒髪はテンマさんを思い出すと……




番外編を読み直してたら、むらむらと…
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