プラーミアの焼死体はスネグーラチカには刺激が強すぎた。そう考え、視界を遮ろうとしたが、不思議とプラーミアの死骸は大地に吸い込まれていった。
そのため、スネグーラチカの目は俺へと注がれた。怖い。本当に助けてくれたのか、ただ戦いに執着しているだけではないのか。幼き目が問うてくる。
……俺が? 俺は聖闘士。地上の平和を守るために戦って……戦って……?
考えようともしなかった思いは威厳ある声に中断された。
「やはり大地は未だに我らを愛さぬか。それにしてもプラーミアめ
「誰だ」
「プラーミアが言っていただろう。ズメイを統べるアジュダヤのトゥガーリンだ。脆い白銀よ。スネグーラチカを置いて逃げれば、追わないでやろう」
分からない。最初に出会った一団は、血をよこせと言っていた。
彼らがスネグーラチカを狙う理由とは……
「そんなことができるなら、ここまで来ていない。お前たちは何を目的としている?」
「そんなこと! そんなことも知らずに派遣されてきたのか。やはり使い捨ての白銀よな」
まぁいいと前置きして、トゥガーリンは語る。
「我らズメイは竜人。人でありながら竜ゆえに、人をさらって食うこともあった。しかし、ある時代に人間に敗北を喫した。そして……我らの血は大地に奪われた」
トゥガーリンの周囲には炎だけでなく、雷も発生し始めていた。そして雪は次第に雹となり聖衣に打ち付けられる。この天候も、彼の力なのだろう。
「我らの血は我らに戻ることはもう無かろう……ならば、他人から奪ってしまえばいいだけのこと! 雑兵のズメイ共は人の血で事足りよう。だが我は首領としてジェド・マロースの孫娘、スネグーラチカの特別な血を持って力を取り戻す!」
「わ、私が何を……そんな名前じゃないし、顔も知らない祖父のためになんか!」
彼女はスネグーラチカという名前ではない。特殊な血筋という知らない事情に巻き込まれた、一人の娘。彼女に襲いかかるものこそ理不尽と呼ばれるものだった。
同じように特別な生まれではなかった俺はそれに何故か、ひどく共感を覚えた。特別になりたくて、聖闘士になった。幸い高い実力もあった。特別な存在に囲まれて、自分も特別になりたいと願う。ありふれた男が俺だ。
襲いかかる炎熱と雷熱は
肉が焦げる匂いの中で、俺は自分に問う。聖闘士になってから、俺は誰かのために戦っただろうか? 確かに多くの任務をこなしてきて、助かった人もいただろう。
少しだけ優秀な聖闘士として、戦ってみよう。そう思ったのは聖衣と同じ色の地だからか。
「トゥガーリン。俺はやはり逃げれんよ。確かに俺は脆い白銀だろう。黄金になりたくてしかた無かった。それでも、俺は聖闘士の中でこそ成り上がりたかったのだ! 地上の平和を守る戦士の中で!」
根底にあるのは他者を守るため、見知らぬ敵を討つ。それを忘れていた。
理不尽な目に遭う銀の髪の少女を、同じ銀色の聖闘士が助ける。聖闘士の本懐はそこにあった。
「ぬかせぃ! 白銀ごときが!」
「はっ! 自分で弱体化していると言っていただろう!」
恐らくは血が大地に、という話が関係しているのだろう。本来は俺よりも強いはず。じわじわと攻めるも防ぐも悪手。一撃で全てを叩き込む。
神話に曰く、御者座となったエレクトニウス王はアテナに育てられた。そして不自由な足の代わりに馬車を発明したという。
体中が焼けても構わん。ソーサーを小宇宙で操り、足へと誘う。半端な光速拳。武器にはしてはならないソーサー。全てが噛み合う。
自分よりも優れていよう鱗鎧を持つ相手にいざ。
「ロス・チャリオット!」
制御できない速度を、車輪で補う。一直線ならばバラける攻撃も一箇所に集められる! 古代の戦車と化した俺は敵へと一気に突き抜けた。
「バカな……白銀ごときに、我が……」
「喋り過ぎと、弱体化。そしてコレがお前の敗因だ」
大地に浮かぶアテナの文字。封印の証。特別に持たされた護符一枚で、一撃を食らっただけのトゥガーリンが消えていく。
俺にできたのは相手へ決定的な一撃を当てたのみ。倒したのはあくまでもアテナの血文字頼りだった。しかし、それで良いのだろう。
ズメイ達が何も無かったように消えていく。この地で生き残った人々はこれから更に辛い思いをすることになるだろう。
倒れ込んだ俺に、スネグーラチカの髪と目が映った。
ああ、銀もそう悪くない。こうして、地上を守り続ける任務の一つが終わった。一人の聖闘士を成長させて……