秋川やよいさんが推しです   作:スーパータヌキ

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 2話

 朝は憂鬱だ、とても憂鬱だ。理由は2つある。一つはゴルシに振り回される日がまた始まってしまうから。2つ目は純粋に朝に弱いからだ。季節が何であろうが朝の布団は恐ろしい。離したくない。

 

 そして今日も隣の家の怒鳴り声(?)で目を覚ます。それにしてもここんところ毎朝隣の部屋から怒鳴り声が聞こえる。それのせいで最近目覚めが良くないのだ。…………今思ったんだが、実は隣は誰も住んでなくて、幽霊がやってました、なんてオチじゃないよね? ね? やべえ昨日ホラー番組見ちゃったからそんな事考えるようになっちゃったよ。勘弁してくださいよマジで。すると、リビングの方から、

 

「おーいトレーナー? 飯できたぞ!! 早く食いに来いよ!!」

 

 おっともうご飯が用意してある。しかも結構見た目も良いし、バランスも良さそうだ。なんやかんやで結構何でも出来んだなゴル……

 

 …………えっ?? ゴル、えっ? ……えっ? 

 

「おおようやく起きたかトレーナー。飯食う前に顔洗ってヒゲそってこいよ」

 

「うん、その前にツッコミどころ満載なんだけど、なんでいんの? 後どうやって鍵開けたの? 何勝手に人が買ってきた食材使って飯作ってんの?」

 

「細けえこと気にすんなよ!! みぞおちえぐるぞ!!」

 

「うん、ひどくない?」

 

 何故か担当ウマ娘のゴルシがエプロンをつけて、ご飯を作ってくれていた。いやありがたいけどさ、怖いよ、不法侵入だよ、それ犯罪なんだよ。

 

「どうだ飯はうめえか? アタシが作ってやったんだから感謝しろよ!」

 

「うんすげえ美味しいけどさ、マジでどうやって家入ったの? 怖いよほんとに」

 

「えへへ……うめえって言ってくれた……」

 

「ねえ聞いて? 人の話を聞いて? お願いだから聞いて?」

 

 ゴルシは最近よくそっぽを向くようになった。何故なのだろうか。何かあったのだろうか。今度聞いてみよう。家に入った方法もその時に一緒に聞くことにしよう。

 

 朝食後、シャワーを浴びて、髪をセットしてスーツを着て、カバンに必要な書類等を入れて、いつでもトレセンに出発できるようにしていたのだが、用意している最中、やよいさんの秘書のたづなさんから電話が来た。

 

「おはようございます! 朝早くから申し訳ありません」

 

「おはようございます。いえ、大丈夫ですよ、それで何か御用で?」

 

「はい、先日理事長にお呼び出しされた時の事を覚えていらっしゃいますか?」

 

「へっ!? あっはい、覚えていますが……」

 

「どうやら今トレセン学園の中で取柄菜トレーナーの良くない噂が流れているようで……」

 

 まあ、大方予想はついている。俺がやよいさんの事を好きだ、ということだろう。まあ本当の事なのだが、それが本当だと言ったら色々アウトなのだ。主に年齢的なやつで。

 

 それにトレーナーがそんなロリコンだと広まったらゴルシにも迷惑がかかる。

 

「それを広めているのが、その、言いにくいのですが……」

 

「わかっています、女性の先輩たちでしょう?」

 

「!! はい、そうです……」

 

 何となくこれも想像がついていた。彼女らは俺を憎んでいたからな、陥れようとニタニタ笑っている姿が容易に想像できる。

 

「理事長が今日、トレーナーや全教員に説明してくださるので、大丈夫だとは思いますが……」

 

「はい、色々迷惑かけてすみません」

 

「いえ!! 取柄菜さんが謝ることではありませんよ!! どうやらあなたの先輩トレーナーの方が盗み聞きしていたみたいなので、仕方がありませんから!」

 

 まじかよ、盗み聞きなんかしてたのか。どんだけ俺の事恨んでんだあいつら。ていうかなんであいつらが恨んでんだよ。事の発端はあいつらだろうに。

 

「あ、そういえば気になった事がありまして……」

 

「? 何でしょうか?」

 

「理事長ってどうやって俺の噂を知ったんですかね?」

 

 そうなのだ。やよいさんとの話し合いの後ゴルシに聞いたところ、自分ではない、と言っていたのだ。ちなみにその前にゴルシに飛び膝蹴りくらわせようとしていたのだが、反撃をくらってしまった。ウマ娘の蹴りはやばい。死ぬかと思った。

 

「ああ、その事なんですが実はですね……『おーいたづな! 話したい事があるんだが!』」

 

 たづなさんが何かを言おうとしていたが、何とやよいさんが登場してしまったようだ。

 

「すみません!! どうやら何か話があるみたいなので失礼します!」

 

「あ、はい、どうも」

 

 電話を切ったあと一気に昨日の疲れが戻ってきた気がした。色々気になる事が沢山あるのだが、俺は今、非常にまずい状況になっていることに気がついた。そう……

 

「やっべ遅刻じゃんか」

 

 全力ダッシュで向かわないと間に合わない時間になっていたからだ。

 

「このアホトレーナー!! アタシまで遅刻しそうじゃねえか!!」

 

「学校から遠い俺の家に来たのが間違いなんだよ!!」

 

「あーもー最悪だよこんちくしょうめ!! 先行ってんぞ!!」

 

 そう言い残すとゴルシはあっという間に見えなくなってしまった。

 ウマ娘すげえなどと思いながら俺はバスに乗り込むのだった。

 

 ちなみに結局俺もゴルシも遅刻はしなかったが、ゴルシはメジロマックイーンに、俺はたづなさんに怒られてしまった。反省。

 

 

 

 ∼∼∼∼

 

 ゴルシ達が授業を受けている中、何故か俺はまたやよいさんに呼び出しを受けていた。今回はなんで呼ばれたのかたづなさんもわからないらしい。はっきり言って怖い。緊張で死ぬ。マジでやばい。

 そんなことを思いながら待っていると、

 

「おはようっ!! 取柄菜くんっ!!」

 

 俺の推しであり大好きな理事長、やよいさんがやってきた。

 

「今回もまた急に呼び出してしまい申し訳ないっ!!」

 

「今日もお話できる事に感謝。ありがとう、生きててよかった」

 

「不明っ!! 一体何を言っているっ!?」

 

 やべえ変な事言っちゃったよ、引かれてないかな? 引かれてたらもう終わりだな。間違いなく泣く。

 

「…………傷は、大丈夫か?」

 

「っ!! ええ、おかげ様で治りました。迷惑をかけてしまい、申し訳ないです」

 

「安堵っ!! 何も気にすることはないっ!!」

 

 やはり優しい。もうね可愛くて優しいとかチートすぎん? いやチートとか失礼だな。なんて言ったらいいんだろうか。うん、神でいいや。全く違和感ないし。

 

 その後はゴルシの今後の活動について話し合ったあとお茶をすることになった。その時になんとやよいさんがお茶を振る舞ってくれたのだ。あれはもうね、感動したよね、お茶がうまいのもあるしお茶を渡してくれた時のあの笑顔ね!! もうね、可愛すぎて鼻血出るかと思ったよね!! てか出てた気がするけどさ!! もう振る舞い全てがかわいい。

お茶菓子ももらったんだけどさ、めちゃうめえのよ。美味いって言ったらそれなんとやよいさんの手作りだったみたいでさ、嬉しそうに顔を赤らめてたのを見たときはマジで昇天するかと思った。可愛すぎだろ。これはもはや罪だろ。可愛すぎ罪だろこれ。

 

 帰り際やよいさんが笑顔で手を振っていたのを見た時、俺は昇天した。いや、マジであれは反則、可愛すぎ。やばい。

 

 

 その後、授業を終えたゴルシと体力のトレーニングをしたあと、ゴルシに近くで売っていた大判焼きを奢ってやったのだが、なんかゴルシすげえ驚いた顔をしていた。顔も赤いし、マジで大丈夫なのか。最近ゴルシからの暴力が少なくなっているし、狂った言動も少なくなった気がするし、ぶっちゃけ変である。

 

「おいゴルシ大丈夫か? 顔赤いぞ?」

 

「ッッ!! だ、大丈夫に決まってんだろ!? こっちに近づくな!!」

 

 熱はないと言っているし、体温計で測っても特に以上はない。

 多分今複雑な時期みたいだし、優しく見守ってやろう。

 下手になんかしようとして、ドロップキック食らうのも嫌だし。

 

「ったくわかんねえやつだな全く……おっ! 流れ星じゃねえかあれ!」

 

 いつの間にか星が見えるくらいには暗くなってしまった。やべえな、早く帰らせないと怒られちゃうぜ。

 何とかしてゴルシに帰りの用意をさせなければ、そう思っていると、

 

「なあ、もう3年経ったんだな……」

 

 ゴルシがそうポツリと呟いた。そうだった、初めてゴルシとトレーニングした時、俺はゴルシと大判焼きを食べながら星を見ていたんだった。懐かしい、まだ右も左もわからない新人トレーナーだった俺と、新入生の中でトップクラスに狂っていたゴルシ。

 

 

 なんだか、昔の事を思い出したくなった。どうやらゴルシもそう思っていたようだ。俺たちはちょっとしたベンチでこれまでの3年間を振り返ることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回から何話かは出会いから今に至るまでを書く予定です。ちょっとやよいさんの出番が少なくなってしまうかもしれませんが、お許しください。

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