秋川やよいさんが推しです   作:スーパータヌキ

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 3話

 春、それは始まりの季節。そして出会いの季節。花や桜が咲き始めて、爽やかな風が吹き渡る。

 今年からこのトレセン学園に入学するアタシは出会ったんだ。

 おそらくそんなに年は離れていないのにどこか老けて見えるアイツを。やる気も自信も全くなさそうなのに目だけは希望に満ち溢れていたアイツを。今から3年前、アタシはアイツに出会ったんだ。

 

 

 ∼∼∼∼

 

 俺はカチンコチンに緊張していた。それもそのはず、今日からこのトレセン学園でトレーナーとして働くからだ。夢にまで見た、念願だったトレーナーになれると知った時は狂ったように高校からの友達と喜びあった。すぐ後に近所の人にうるせえとお叱りを受けてしまったのだが。俺は物心ついてからずっとトレーナーになる事を目標にしていた。自己紹介とかで将来の夢を聞かれるとトレーナーとすぐに答えられるくらいに憧れていた。

 

 今俺のトレーナーとしての日々が始まるわけなのだが、やはり緊張する。足はみっともないくらい震えているし、表情筋は緊張でろくに動かなくなった。そんな中俺は出会った。

 おそらく今年からこの学校に通うであろうウマ娘を。

 多分登校初日なのにセグウェイで学校に入っていくウマ娘を。

 俺は出会った。出会って良かったと喜ぶべきなのか出会ったせいで毎日プロレス技をかけられるようになったと嘆くべきなのか。

 そんなとんでもないウマ娘に。

 

 ∼∼∼∼

 

「諸君っ!! まずはこの学園にようこそっ!!」

 

 俺は今、入学式のようなものに参加している。今話しているのはこの学園の理事長である秋川やよいさんだ。彼女はどう見てもロリである。日本って15歳以下は働かせたらだめじゃなかったっけ。

 

「歓迎っ!! 諸君の活躍に期待しているっ!!」

 

 話し方に結構癖があるように感じたが、話していることはすげえいい事だった。あんなに可愛らしい見た目なのになんだか誰よりもかっこよかった。すげえや流石トレセンの理事長だ。

 

「では、ここで我が校の生徒会会長のシンボリルドルフさんから激励の言葉です」

 

 今言ったのが理事長の秘書の駿川たづなさん、今壇上にいるのが生徒会長のシンボリルドルフ、よしおぼえたぞ。

 その後はなんか近くの街の町内会長とか区長の秘書の方から代理で手紙を読んだり、色々あった。まあ緊張していたから全く内容は覚えていないのだが。

 

 式が終わり、外に出ると汗が風で乾いていくのを感じた。マジで緊張した。もう二度としたくない。

 この後ウマ娘達は教室で必要な参考書とかを取りに行くらしいので、勧誘とかは明日からだ。明日がんばって勧誘しなければならないのだが、上手くいくだろうか、不安である。

 

 そんなこんなでドッキドッキの初日は幕を閉じた。

 

 さて次の日、勧誘を始めたのだが、何故か上手く行かない。というより、名前を聞くとどこかへ行ってしまうのだ。まあ、そりゃそうだ。俺の名前は取柄菜士郎、とりえなしろうだ。取り柄なし、なのだ。つまりあいつら名前で判断しやがったのだ。ひどい。

 取り柄あるし。ないなんてことないし。

 

 なんだかこの先が不安になってきた。こういう気分になるとまずい。ポジティブに行かねば。とりあえずコーラ飲もう。しかし、トレセンというか都会というか、東京はすげえな。1.5リットルのコーラが自販機に売ってるよ。マジですげえ。

 自販機に向かっていると、近くの自販機で一人ぽつんと座っているウマ娘がいた。どういう訳か見た事がある気がする。

 とりあえず勧誘してみよう。今は一人でも多く勧誘しなければならないのだ。

 

 ∼∼∼∼

 

 アタシことゴルシちゃんは今すげえ焦っていた。アタシは基本焦らない。レース前でもなんでも。知り合いにドロップキックして失神したときは流石に焦ったが。

 早くどっかのトレーナーの担当ウマ娘にならなきゃいけない。早くいいトレーナー見つけないと練習ができない。なのに、今まで話してきたトレーナー達は全員退屈な奴らだった。

 自分なら君をもっと強くさせられるだの、一緒に強くなろうだの退屈だ。もっとアタシを燃え上がらせる様なやつはいないのか。

 ゴルシちゃんの可憐で優秀な眼で探した結果誰一人いなそうだった。……いや、一人いるか。入学初日に見たあのトレーナーA(仮)だ。あいつは中々面白そうだ。まぁぱっとしなそうだし見た目はつまらん奴なのだが。今そいつはどこにいるんだろうか。今の所結構ポイント高いから担当ウマ娘にできんぞトレーナーA(仮)。

 

 ……はあ、なんだか喉乾いたな、飲み物買おうって財布がない。やべえロッカーに置きっぱなしだ。どうしよ、お、あいつこっちに近づいてくんな。見たところ多分トレーナーだし奢ってもらおう。

 ……えっ? 奢らせる以外の選択肢はないのか、だって? ねえよ

 

 ∼∼∼∼

 

「そこのトレーナー? ゴルシちゃんの一生のお願いだ飲み物買え」

 

「すっげえ命令口調だなおい」

 

 コーヒー買おうとしたらこの後勧誘しようとしていたウマ娘が話しかけてきた。すっげえ上から目線なのだが。何なのだこいつは。

 ……ん? こいつどっかで見たことあんなと思ったらセグウェイで登校してたやつじゃね? ……どうしよ、勧誘すんのやめよっかな。なんか身の危険を感じるし。

 

「ん? お前もしかしてトレーナーA(仮)か?」

 

「何だよトレーナーA(仮)ってそんな名前じゃねえ一体なんの事言ってやがる」

 

「どうでもいいんだよ! 後早く飲み物買え」

 

「ああはいはい買えばいいんでしょ買えば」

 

 何なのだこいつは。よくわからんやつだ。ぶっちゃけ怖えな。

 ひょっとしてやべえやつを勧誘しようとしてたの俺って? 

 ああ逃げたい。脱兎の如く逃げてしまいたい。多分ウマ娘のほうが足速いに決まってるしすぐ捕まるんだろうな。つまり逃げられないと、これ詰みだな。ああ終わった終わった。

 

「おい目が死んでんぞどうした」

 

「別に関係ないだろうが」

 

「じゃあそんな寂しい目をすんなよ……」

 

 おっ? いまこいつ心配してくれたのか? もしかして本当は優しかったり? ありがてえ。誰かに心配してくれたのはもうかなり久しぶりだな。どうしようやっぱり勧誘しようかな。……ええいどうにでもなれだ!! 

 

「なぁ? お前さん俺の担当ウマ娘になってくれねえか?」

 

「……! なんであたしなんだよ」

 

「狂ってるお前さんの行く道を見てみたくなったんだ。俺はお前さんの夢を叶える手伝いがしたい」

 

「…………」

 

「まあ、俺みたいなよくわからんやつに突然言われても反応に困るか……」

 

「いいぜ!」

 

「……ん?」

 

「いいぜっつったんだよちゃんと聞け」

 

「俺なんかでいいのか?」

 

「くどいんだよ!! いいって言っただろ!」

 

 ダメ元で言ったら成功したよ。こんなあっさり上手く行ったのでちょっと信じらんねえな。でもこいつがいいって言ってくれたし、これはもう大成功ってことかな? やったぜ。

 

「とりあえず、まあそうだな、よろしく頼むよ、……あーえーっとお名前なんて言うの?」

 

「ゴールドシップだ! トレーナーは?」

 

「俺は取柄菜士郎だ、間違っても取り柄なしとか言うなよ」

 

「ああよろしくな取り柄なし!」

 

「今の聞いてたかてめぇ」

 

 そんなこんなで俺とゴルシは出会った。きっと今日のことは絶対に忘れないだろう。

 

 

 

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