ゴルシが珍しく激怒した事件から一年が経ち、遂にゴルシと取柄菜はURAファイナルに挑戦する時が来たのだが、結論から言ってしまえばゴルシは予選も準決勝も難なく突破し、決勝で数多の強敵達から勝利をもぎ取った。
ウイニングライブも特に問題なく進んだ。ゴルシも取柄菜も笑っていた。そして、今まで応援していたファン達も泣きながら笑っていた。ゴルシは勝ったのだ。
勝った筈だった。
トレセン学園のとある倉庫の中に彼女はいた。
取柄菜の一個上の先輩トレーナーである冴菜いろはである。
彼女は初めてゴールドシップを見た時からずっと自分の物にしたいと考えていた。圧倒的な才能を持つゴールドシップというウマ娘がいれば、自分はすぐに有名になる事ができる。そんな野望を持っていた。
ゴルシをキレさせたウマ娘は彼女の担当ウマ娘だった。
あの時、考えていた計画は取柄菜とゴールドシップの仲を引き裂き、担当のトレーナーがいなくなった所に自分が勧誘して、自分の物にする、というものだった。
だが、取柄菜が想像以上にゴールドシップを信用していたのと、喧嘩を売るように命令した自分のウマ娘が予想以上に大根役者だった為計画は失敗してしまったのだが。
結局ゴールドシップは諦めて、一年後のURAファイナルで優勝の栄光を手にしようと自らのウマ娘をスパルタとも言える方法で鍛えたのだが、決勝まで行ったは良いものの強者しかいない決勝では歯が立つわけもなく、最下位になってしまった。
すぐ近くで手を取り合い涙を流しながら喜んでいた取柄菜の姿を見て、彼女は不快感を他人に見せつけるようにその場を立ち去った。
そして、今は誰も使っていないトレセン学園の倉庫の中で苛立ちをぶつけるように暴れまわっていた。
そして彼女はふと、地面に転がっていた古びた時計を見つける。
彼女はその時計を手にすると突然地面に叩きつけたいという衝動に襲われ、思い切りそれを地面に叩きつけて、
気づけば彼女はその日の朝に戻っていた。
彼女は考えた。だが、同じ勝負を再びやった所で実力差が大きすぎるから負けてしまうだろう。
せめてゴールドシップには勝ちたい。取柄菜の喜ぶ姿が見たくない。そんな事を考えていると、彼女は思いついてしまった。
レース会場に取柄菜がいなければいいんじゃないか?
じゃあどうすれば取柄菜は会場に来れなくなるんだ?
大怪我させれば来れなくなるんじゃないか?
だが、あいつは普段からゴールドシップにドロップキックとかされてる。
きっと頑丈だ。絶対に病院送りにする為には……いや、せっかくだ。
この際、殺してしまおう
彼女は狂っていた。そんな事はつゆ知らず、ゴルシと取柄菜は2回目のURAファイナルの決勝の調整を進めていた。
∼∼∼∼
今日は遂にURAファイナルの決勝。昨日は対戦相手を確認し、作戦を考えた。ゴルシを完璧なコンディションにする事も出来た。
後は本番あるのみだ。まずは朝食を取ってその後ゴルシと合流して、最後の調整をしよう。とりあえず目玉焼き食べよう。あれなんやかんやで醤油が一番合う。ゴルシは水をかけて食うとか言ってた。意味がわからない。
「おっ!! 卵黄が2つも! 運がいいぞ!」
珍しく卵黄が2つ出てきた。嬉しいぜ。
「今日の運勢はっと……おお! 大吉だ!」
毎回吉とか凶とかなので嬉しいぜ。
嬉しいんだけど……嬉しいはずなんだがな……
なんだろう。どこか違和感を感じる。何故かは知らないけど、俺は知っていた。卵黄が2つ出てくることも、大吉になることも。
まるで、同じ日をもう一回過ごしているかのような違和感が朝起きた時からあった。
この体験は実は初めてじゃない。過去に一度だけ同じような事があった。
それは、一年前のたづなさんと理事長の試験の時だ。
あの時、俺は初めてメジロパーマーの走りを見て、かなり独特だと思った。この時初めて彼女の走りを見た。なのにだ、俺は知っていた。彼女がそういう走り方をするウマ娘なのだと。何故か知っていた。初めて見るはずなのに。
頭の中で自分自身がこれは見たことがあるぞと言っていた。そんな訳ないはずなのに。
その日はこの後何があるのか、どんな事を話すのかが全て知っているような感じがした。一日中ずっと不気味だと思っていたので、あの日のことはよく覚えている。
「……いや、今はそんな事考えてる場合じゃないな」
たとえ今日を過ごすのが2回目だったとしても、今一番に考えるべきなのはゴルシのレースだ。それ以外にない。
早くご飯食べて、ゴルシの元へ向かわねば。
朝食を済ませたあと、ひげを剃ってスーツをビシッと着て準備は万端。よし行こう。ゴルシと一緒に勝ちにいこう。そう思いながら、玄関で靴を履いたのだが、
「ああっ!! 俺のお気に入りの靴の靴紐切れてる!」
なんかやだな。凄く嫌な予感がするぞ。……まさか、ゴルシに何かあったのか? まずい不安だ。早くゴルシに会おう。
∼∼∼∼
朝早く、今日はなぜだか早くトレセンに行きたい気分だった。
今日はURAファイナルの決勝がある。アタシにとってもトレーナーにとっても大切な試合らしい。何だかものすごくソワソワする。きっと武者震いってやつだろう。今のアタシは超サイコーだ。早く走りたい。
向こうからアタシのトレーナーが走ってきた。なんかすげえ焦ってる。何に焦ってんだか。寝坊でもしたのかな? してもまだ早すぎる位だけどな。
「ゴ、ゴルシ? なんともないよな?」
何をいきなり聞いてんだこいつは? どう見たってアタシはなんともないだろ。
「あ~~良かった。いやなんかさ? 嫌な予感がしてさ?」
つまりアタシを心配してくれたらしい。本当に優しいやつだ。間違っても言わないが。こいつはいつだってこうだ。いつだって優しい。そしてアタシの事を信じてくれる。あんだけドロップキックとかしてんのに。多分アタシはコイツの事が好きだ。間違っても言わないけど。
こんな日がいつまでも続けばいいのに。そう思うくらいには好きだ。……やっべ、はっず。ぜってえ言わねえ。本心だからこそ絶対言わない。
「よしゴルシ! じゃあ最後のちょうせい、に? ……えっ?」
だけど、そんな日々は長持ちしないもんだな、それはいつだって突然来る。
「えっ……? トレー、ナー?」
体が動かない。動かなきゃ。動いてくれ。頼む。
「ゴル、シ? 早く、はやく、逃げ、ろ、にげ、て」
逃げるんじゃない。助けるんだ。助けたいんだ。助けさせてくれ。頼むよ。
「あ、ああ……」
体が言うことを聞かない。座りこんでる場合じゃない。早くなんとかしないといけないんだ。動いてくれ。お願いだよ……
「おい、おい、おい! トレーナーァ!! 大丈夫だよな? 大丈夫なんだよな!?」
大丈夫なわけないだろ。はやく、なんとかしないと、ほんとうに、死んでしまうよ。
「キャアアアアアアッ!?!? はやく、早く救急車をっ!?」
誰かがそう叫んだ。どんどんトレーナーの赤い何かが、地面に広がる。
トレーナーの、あの、優しかった目には、温かい目が、真っ黒になっていた。どんどんアタシの体の感覚がなくなっていった。
「え、えっ、えっ? トレ、とれー、なー? おい? なんか、言ってくれよ」
反応がない。何も返ってこない。
「おい、頼むよ、トレーナーのあだ名、取り柄なしだってトレセン中にひろめる、よ?」
反応がない。いつもの返事がない。
「なんか、言えよ?」
何もない。
「なあ、頼むからさ? なんか言って……」
何も返ってこない。
「お願いだよっっ!! お願いだからなんか言ってくれよ!!」
びっくりするくらいの静けさがそこにはあった。
「うあああっっっ! うわあああああああっ!! とれえなあ!! とれえなぁ!!」
静まり返ったトレセン学園に悲しみの泣き声が響き渡った。
次回、過去編最終回です。その後はハーフアニバーサリー編とやよいさんと海編の予定です。
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