取柄菜「ぐわああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ!?何故だッッッ!!ありえないっっっっっっっ!!」
ゴルシ「えっ!?アタシの出番は……?」
たづなさん「えっ私も走らされるの?」
やよいさん「しゅっちょういきたくないです」
それはあまりにも突然の出来事だった。
いきなり背中を刺された。刺されてから2秒位経ってから今何が起きているか分かった。刺した相手は何故か笑っていた。怖い。
刺された所を中心にどんどん寒くなっていく。
何かをゴルシに言った気がしたが、自分の声が聞こえなかった。
ゴルシが何か言っているが何も聞こえなかった。
……ゴルシの奴、泣いてんのか? 珍しいな。まぁいきなりこんな事になったら誰でも泣くか。
意識がどんどん薄れていくのを感じる。だめだこりゃ、ここまでかなあ。あーあ、ゴルシにエデンの事聞いとくべきだったな。気になって仕方ないもん。
そんな事を思いながら、俺の意識は途絶えた。
∼∼∼∼
朝早く、理事長に突然呼び出された。
どうやら学園内で通り魔が起こったようだ。
しかもその被害者はURAファイナルに出バ予定のあるゴールドシップさんのトレーナーの取柄菜さんらしい。
その為、これからURAの決勝を開催するかどうかを話し合うらしい。理事長から頼まれた事を済まして、会議に参加するために急いで理事長室に向かう。
本音を言えば私は反対なのだが……
「URAファイナル決勝は予定通り開催する」
「なっ!! 理事長!? 何故ですか!?」
「そもそもURA自体が今回で1回目。なので様々な国から皇太子などを招待している。その中にどうやら気が短い事で有名な国の王女が来るらしい」
「!!」
「下手に中止などすれば彼女は日本に圧力をかけるかもしれない。1回目に国際問題など起こしてしまえばURA自体を続けるのは困難になる」
「ですが……」
「故にこの結論に至った。納得できないのは非常にわかるが、どうかわかってくれ」
「私は問題ないのですが……ゴールドシップさんはどうするのです?」
「……」
「トレーナー無しでレースに走れと言うのですか?」
「……それなんだがな、たづなよ。頼んでもいいか?」
「ええ、わかりました」
どうやら急遽私がゴールドシップさんの代理のトレーナーをすることになったようだ。だが作戦などはきっと取柄菜さんから伝えられているだろうから、特にする事はないだろう。
「それでたづな? 頼んでいた例の時計は持ってきてくれたかな?」
「それが……見ていただければわかるとは思いますが、どうやら壊れているようで……」
「……ん? いや、多分これは誰かに使われたな」
「えっ!?」
「……一応あの時計が置いてあった倉庫の近くに何人か見張らせておいてくれ」
「わかりました! 理事長はこれからどうするんですか?」
「皇太子達は我が国の方々が対応してくれるだろうから、私達は取柄菜君の所へ行こう」
理事長の独特な話し方が無くなっているあたり、相当焦っているようだ。まぁそれもそうだ。いきなり仲間が襲われたと言われれば誰だって焦る。自分よりも遥かに年下だというのに自分よりも多く働いている事に申し訳なく思いながら、彼女の後を追うことにした。
∼∼∼∼
ふと気づくと、俺は病院のベットの上にいた。刺された所に包帯がかなり分厚く巻かれていて少し息苦しかった。どうやら死なずに済んだようだが、もう長くは持たないだろう。自分の身体は自分がよく分かっている。
近くにあった机に手術室が全て埋まっている為、今日は傷を縫い合わせる手術をする事が出来ない。その為、今日一日は絶対に動くな、という内容の書類が4、5枚あった。
ぶっちゃけそんな事は関係ない。俺は血を流しすぎた。どっちみちもう死ぬ。そして、俺の血はすげえ珍しいやつらしい。いつだったか調べてもらって発覚したのだ。
どうせもう俺は死んでしまうのだろうから、やり残しがないようにしなければ……
そんな事を思っていると、
「取柄菜くん無事かっ!?」
「取柄菜さん! 大丈夫ですか!?」
「理事長に……たづなさん?」
お見舞いに理事長とたづなさんが来てくれた。
「無事ならいいのだがって……何をしているんだ? 取柄菜くん?」
「ゴルシのもとヘ……! 早くしないと、レースに間に合わないんです!」
「!!」
「なっ! 何を言っているのですか!? 貴方は今下手に動いたら本当に死んでしまうかもしれないんですよ!?」
「ああ、わかってますよ」
「ゴールドシップさんなら心配いりませんよ!! 私達もいますし、何よりもう彼女は一人前、ん? 1ウマ前か? まあ、彼女だけでもやっていけますから!!」
「……ハハッ」
「!? ……なんで、笑って?」
「ゴルシが? 一人前? なわけ無いでしょ」
「……?」
「一人前なんだったら! ゴルシだけでもやっていけるなら!! あいつはなんでトレセンに通い続けているんだ!?」
「!!」
「あいつはあいつ自身がまだまだ伸びしろがあるってわかってるからトレセンに来ているんじゃないのか!? まだ自分だけじゃ無理だってわかってるからトレセンにいるんじゃないのか!?」
「そ、それは……」
「そんなあいつを手助けしてやる為に俺達トレーナーがいるんだろ!」
「取柄菜くん、君の言いたいことはわかったよ。でも、今の君は相当まずい状態なんだよ? 君だってわかってるはずだ。なのに、何が君をそこまで突き動かすんだ?」
「……」
「どうしてそこまでやれるんだい? いくら担当のウマ娘だからと言ったって普通はそこまではできない筈だ」
理事長の、いや、やよいさんの突然の質問に驚いてしまったが、実際悩んだり考えたりする必要はない。答えはもう決まっている。
「やよいさん、俺ね、ちっちゃい頃は祖母の……ばあちゃんの部屋でいっつもウマ娘のレース見てたんです……」
∼∼∼∼
『一着は────ー!! 圧倒的な速さで他のウマ娘たちと大きく差をつけて勝利しました!!』
『うっっっわ!! すっげえ!! 婆ちゃんの言ってたウマ娘さんが優勝したよ!』
『そうかい? いやーやっぱりあの娘だったか……』
『うん!! って……一着のウマ娘さんのトレーナーさん、すっごい号泣してる……』
『士郎や、他のトレーナーさんも見てみな?』
『えっ!? みんな、泣いてる! なんで?』
『トレーナーさん達はね? 本当に自分のウマ娘が大好きで、支えているんだよ。本気で自分のウマ娘さんを勝たせたいと色んな努力をしているの。だから、勝ったらウマ娘さん達と同じくらい喜べるし、負けても同じくらい悲しめる』
『……』
『トレーナーさんと、ウマ娘さん、お互いの力が合わさって初めて、勝つ事が出来る、って私はそう思う』
『お互いの……力?』
『士郎は、確かトレーナーになりたいんだっけ?』
『うん!!』
『じゃあ士郎は、担当のウマ娘さんと信じ合えて、そのウマ娘さんの夢を一緒に叶えられるようなトレーナーさんになってね?』』
∼∼∼∼
「あの日ばあちゃんと交わした約束は今も覚えてるんです」
あの日から俺はすげえ勉強して、かなり頭のいい大学に行って、トレーナーになる為に必要な資格を取る為にまたすげえ勉強して、ようやく俺はトレーナーになることができた。
「ウマ娘と信じ合えて、そのウマ娘の夢を一緒に叶えられるようなトレーナー……そうなる為に、俺はずっと努力し続けたんです」
「……」
「俺は! あいつ夢が叶うところが見たい!! 夢が、叶うように俺がアイツを支えたいんです!」
「っっっ!!」
「ゴルシの夢は! 俺と一緒にエデンに行くこと、らしいです!!」
あの日、初めて出会って、トレーナーになって、初めて交わした約束であり、叶えるべき俺達の夢だ。
「ぶっちゃけエデンとやらが何処にあるのか! どうしたら行けるかなんてわかんないけど!! だからこそ!! 俺は一回一回のレースを大切にしていきたいんです!!」
「!!!」
「あいつは今一人なんです!! このままじゃあいつの、俺たちの夢が叶わなくなってしまう!!」
「取柄菜くん……君は、そこまで……」
「だから……行かせてください!」
「いや、でも、しかし……」
「それでも、死ぬかもしれないんですよ? 取柄菜さん……だから、今回は……」
「ま、駄目って言われても行くんですけどねー」
「「えっ!?」」
二人が驚いているすきに何故か近くにあったゴルシのセグウェイ、通称ゴルシ号に乗って、俺は病院を脱出した。
「取柄菜さぁぁぁぁぁぁぁん!?!? 何やってんですか!? 戻ってきてください!! 理事長もっ!! 一緒に止めに行きますよ!!」
「…………かっこいいなぁ」
「そうですねかっこいいですねって…………えっ? …………えっ??」
∼∼∼∼
もうすぐ、レースが始まる。他のウマ娘の隣にはトレーナーがいるが、アタシの隣にはいない。でも、大丈夫だ。このレースに勝って、トレーナーを驚かせてやるんだ。そうだ。一人でも大丈夫なんだ。
アナウンスでゲートに入るように言われる。緊張も焦りもない。あるのは悲しみだけだ。…………ん?
そうか、アタシは寂しいんだ。悲しいんだ。それでも、走らなきゃ。
レースが始まる。走らなきゃ。でも、力が入らない。
どんどん抜かされていく。もっと早く走らなきゃ。でなきゃ夢が叶えられなくなる。
あれ? あたしの夢って何だっけ?
そうだ。アタシとあいつでエデンに行くんだ。
(でも、あそこにはトレーナーはいないよ?)
頭の中で誰かがそう言う。違うよ、そんな事は……
(それじゃあ夢叶わないじゃん。走っている意味ないじゃん)
どんどん足が重くなっていく。だめだ、走らなきゃ、勝たなきゃ……
(走る意味はないんだろ?)
駄目だ。力が入らない。このレースは、勝てない。
そう思った時だった。
「………………シ!! ………………ルシ!!」
聞こえる訳がないと、決めつけていた声が聞こえた。
「…………ゴルシ!!! ゴルシ!!!」
目頭が熱くなるのを感じる。途端に力が入るのも感じる。
「行けえっっっっっっっっ!!!! ゴルシィィィィィィ!!」
体中に力が漲る。さっきまで重かった体が一気に軽くなる。
今なら出来る。あいつに、アタシの全力を見せることが!!
『現在最下位のゴールドシップ!! 今日は調子がって……あれ? ゴールドシップがいません!! 一体どこへ……えっ!!? 何と、ゴールドシップ!! 1位のシンボリルドルフと並んだぁぁぁぁぁ!?!?』
ゴルシの追い上げはえげつなかった。あっという間に2位まで登りつめた。その走りは今まで見た中で一番早く、一番格好良かった。
『くっっっ!! ルドルフ頑張れぇぇぇぇ!!』
『ゴールドシップぅぅぅぅ!! 勝っちまえぇぇぇ!!』
『ル゙ナ゙っ゙っ゙!! ゙ル゙ナ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ッ゙ッ゙ッ゙!!』
『お前うるせえ!! ……あっ! ルドルフ頑張れ!!!』
『行けぇ!!! ゴルシィィィィィィ!!!』
会場がゴルシとシンボリルドルフの応援合戦になり、文字通り白熱したレースとなった。そして、
『ゴールドシップ!!! 抜かしましたぁ!! シンボリルドルフを抜かして!! そのまま!! ゴォォォォォォォォルッ!!』
ゴールドシップがシンボリルドルフを超えて、1着を取った。
ゴールドシップが勝ったのだ。
『URAファイナル決勝!! 見事優勝の栄光に輝いたのは!! ゴールドシップだぁぁぁぁぁぁっっ!!』
∼∼∼∼
ゴルシが、勝った。優勝した。ふと自分が泣いている事に気がついた。本当のエデンがどこにあるのかはわからない。だけど、今の俺にとってここがエデンだ。ゴルシが笑っている。それだけで、ここがエデンだって言える。俺はそう信じている。
「ウェーイ!! ウェーイ!! トリェ──イ!!」
「うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!」
やはりゴルシはゴルシだ。相変わらず痛いことをしてくれやがる。
「なあ、トレーナー、アタシ勝ったよ」
「そうだな!」
「きっとここがエデンだな!!」
「……そうだな!! ……さあ、お前はまだやる事があるんだ。ウイニングライブっていうね!」
「わかった!! 行ってくるよ取り柄なし!!」
「ふふっ! ああ!! いってらっしゃい!!」
最後までそれか、悲しいけどそれでいい。取り柄はある。ゴールドシップをここまで育てる事ができた。それが俺の最大の取り柄だ。
「取柄菜さん……もう、帰りましょう……もう、何もありませんから……」
「いや? たづなさん。まだあるさ。ウイニングライブ忘れてない?」
「それはっ!! でもこのままじゃ!!」
「最初から覚悟はしていた。だから問題はないよ」
「……!!」
「それに! まだ、俺にはやるべき事があるんだ」
「……? なんですか?」
「……今こそ、見せてやる!! 俺の、全力の!! ヲタ芸を!!」
その日、2つの伝説が生まれた。一つはゴールドシップが皇帝、シンボリルドルフに勝利したこと。2つ目はその後行われたウイニングライブにて、ピンク色の髪のウマ娘と一緒にすげえ顔色が悪いゴールドシップのトレーナーが渾身のヲタ芸をしていたことだ。
後にウマッター、ウマスタグラムにて再現の動画が大量発生するのだが、これはまた別の話。
∼∼∼∼
「なんで!?!? なんであいつ刺したのに!!!」
トレセンの倉庫で何かを探しているのは取柄菜を刺した冴菜いろはである。結局何も変えられなかった彼女は再び戻そうとあの時計を探していた。
「くそっくそっ!! どこだあの時計は!!」
「探しているのはこれですか?」
「ッッッ!!! た、たづなさん……」
「さっき言っていたのは全て録音しました。もう逃げられませんよ?」
「グッっ!! クッッソぉぉぉぉ!!」
「こういう時、理事長ならなんて言いますかね? うーん……あっきっと、そうですね! 失望っ!! 君にはがっかりだ!! って言いそうですねぇ!」
「ちっくしょぉぉぉぉぉぉっっっ!!!」
∼∼∼∼
やりきった。渾身のヲタ芸!! もう、何も悔いはない。
どうやら限界が来た。視界がぼやけて、段々暗くなっていく。
ありがとうゴルシ。君のお陰で俺の人生は楽しく、素晴らしいものになった。
もし、もし来世でもウマ娘になったら。俺の担当ウマ娘になって欲しい。
本当にありがとう。来世でまた会おう!!
…………
………………
………………………………
おはよう!!!
どうやら、またしぶとく生きてしまったようです。何なのさ、俺死ぬと思って来世は〜〜とか言っちゃったよ。恥ずかしいなぁもう。
これを我が親友とゴルシに聞かれたらどうせ
「来世でまた会おう! (笑)」
とか言うぜ絶対。手にとるようにわかる。
「おっ! ようやくおきたか!!」
ベットの近くにゴルシが静かにりんごをむいてくれていた。
でもむきかたの癖が強すぎる。なんか空中に投げてなんかよくわからんことしたら皮がむけている。なんかかっこいい。今度教えてもらおう。
ゴルシ曰くどうやら俺は相当まずい状態になったらしいのだが、やよいさんが同じ血の型だったらしく、分けてくれたようだ。
本来なら血を分けるのは高校生以上かららしいのだが……次やよいさんにあったらお礼を言わねば。
なんともなさそうに話しているが若干目が赤くなっているゴルシに何か暖かな気持ちになった。すぐにビンタされたが。
「あっ!! 理事長!!」
「えっ!? あっ!! うっ!! あっ」
「なんだぁ? リジチョーになんかしたのか取り柄なし」
「自覚ナッシング」
何故なのだろうか。全く原因がわからない。すると、
「安堵っ!! 無事で何よりだっ!!」
いつもの感じで戻ってきた。なんかすごい安心感がするな。
「よかった。……たまには頼ってくれよ?」
「うおおおおおおおおっっっっ!?!?」
「? じゃあお大事になっ!!」
なんだ今のは、何か、撃ち落とされる音を聞いた。何か大切な物を撃ち落とされた気がした。
いや、この感覚は、あれだな、そうに違いない。
「??? どうした取り柄なし」
「ヤヨイサンカワイ」
「へっ??」
「やよいさんッッ!! かわいいいいいいいいっっっっ!!!?!??」
この日、俺は秋川やよいさんが推しになった。
そして、今に至る訳だ。
長くなってしまいました。お許しください。
さて次回からハーフアニバーサリー編です。
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