そんなどこかの笑い話。
「――ふむ。ご存じだと思いますが戦車道に参加可能な戦車は第二次世界大戦終戦までに実践投入、あるいは試作段階ですが設計完了していた戦車のみで、装備品もそれに準じています」
「ひっ!……は、はい。私もそれについてはわかっているのですが……」
「どう見てもこの戦車は数年前に生産された物です。故にレギュレーション違反であるため戦車道への参加は認められません」
「で、ですよねー……でも、そこをなんとか!」
「できるとでも?」
資料に一通り目を通し終わり、それを持ってきた丸眼鏡の女性へ視線を向けると小さく悲鳴を上げると私が聞きたいことに対して同意の言葉を述べる。私があまり優しい顔つきをしていないことは自覚しているがそこまで露骨に反応しなくてもいいだろう。
西住しほは小さくため息をついた。女性は涙目になった。
戦車道と呼ばれる武道がこの世界にはある。戦車道は戦車に搭乗して試合を行うことを通して、礼節があり淑やかで慎ましく、凛々しい婦女子を育成することを目指した武道とされている。
そして、戦車道は歴史ある武道であるがために幾つかの流派が存在しており、その中で最も古くもっとも規模が大きい流派とされるのが西住流。その師範かつ高校戦車道連盟の理事長も務めている女性こそ、西住しほ。日本の戦車道におけるビッグネームの一人である。
そんな彼女の元には戦車道のスポンサーや、プロチームの監督、整備部品のメーカーなど様々な役職の人物が尋ねることがあり、丸眼鏡の彼女もそういったメーカー関係者の一人であった。
「そ、そのー……。戦車道に使う戦車って現存数に限りがあるじゃないですか。なのでその穴埋めに我が社の戦車をお使いいただけないか、なんて上の人から戦車道最大手である西住家の方に営業するように言われてきたんですけど……やっぱりダメですか?」
「確かに戦車道に用いる戦車は古い。故にどれほど修理を重ねても寿命を迎える戦車は確かに存在します。一部の高校では戦車不足が原因で戦車道を辞めたところがあるのも事実です」
「じゃ、じゃあ!」
「が、高価なれどレプリカの生産が認められている為戦車数は一定の量をキープしており、旧式となったそれを他校へ移籍させることもあるのです。故に全体的に見て戦車は不足しておりません」
「つまり?」
「レギュレーション違反以前に御社の戦車を売り込む余地は正直言ってありません」
悲鳴を上げながら雷にでも打たれたのか天を仰いで女性は崩れ落ちた。その後ゾンビのようによろよろと起き上がるオーバーなリアクションに驚きそうになったが、何とか平静を保つ。
「大丈夫ですか?」
「ううっ、へ、平気です、大丈夫です……だから私が営業に行くのは無茶だったんですよー。本業は営業じゃないのに」
「本業は何を?」
「会社でスポーツドクターをしています。会社の戦車道チーム参加者向けに整体とかしてたんですけど、突然人事部から戦車の営業行って来いと言われまして……しかもこれをちゃんと成し遂げないと夏のボーナスが大幅カットと無慈悲なことを言われてます」
「は、畑違いの仕事ね。お気の毒に」
「お気の毒と思ってくれるのなら戦車の導入してくれたりしません?」
「それとこれとは話が別です」
また崩れ落ちた。その内チリになって消えるんじゃないか、この人。流石に少し哀れになってきたので、助け船の一つくらいは出してあげるとしよう。
「……一つ発言を訂正しましょう。戦車道業界全体で見れば売り込む余地はあるかもしれません」
「えっ!?ほ、本当ですか!?」
「御社の戦車は戦車道の試合においてはレギュレーション違反ですが、試合以外で使う分には問題はないでしょう。練習や教導と言った分野においては一定の需要があるかもしれません」
「な、なるほど……メモしておかないと」
「ですが、本格導入するのであれば現場において一定の理解が必要となります。必要であれば紹介状を用意しますので、いくつかの学園艦を回って売り込んでみるのはどうですか」
「ふむふむ……!」
眼鏡の奥で瞳が輝いている。見るからに歓喜している彼女を横目に再び資料に目を向ける。
試作戦車、SUPER VEHICLE-001:メタルスラッグ。
カール自走臼砲を思わせる巨大な榴弾砲と機銃を装備していながらもサイズは豆戦車レベルの一人乗り小型戦車。それがこのメタルスラッグという戦車らしい……一体どんな用途で作ったんだろうか。
・メタルスラッグ
直訳すると鉄のナメクジ。駄菓子屋とかにおいてあったりする銃をバンバン撃ちまくったりするアクションゲームのやつに出る戦車。でもぶっちゃけ戦車の皮を被った別の兵器っぽい。なんでこんな戦車を戦車道に出そうとするんだ。
・丸眼鏡の女性
人事部のミスで会社戦車道部に送り込まれたら信じれないくらい強かったことがある丸眼鏡の女社員。誰なのか薄々勘づいている方もいらっしゃるかもですがガルパン世界のそういう人、という設定なので元ネタと違う部分も多いのでオリ主タグつけてます。