時候の挨拶ってよく練られてますね。
イオンフライヤー正規メンバーであるイオンとジュラ、臨時メンバー(居候ともいう)のカブウとランス、その4人が1つのテーブルを囲いリーダーの発言を待っていた。
尚、アミンは興味が無いとのことで欠席である。
『はい、みんな注目!これから記念すべき最初の行き先を決めます!まずは誰か、意見ある人〜』
一斉に三人分の手(と触手)が挙がる。
『はい、ランスさん!』
『無難に区内の別の町へ行くべきだと思う。あと、区外に行くとしても「サーペルタ自治区」は超絶対にお勧めできないね。』
『サーペルタ嫌いなんですか?じゃー次はカブさん!』
『やはり「輝賎」にあるという「炉山」の火口に行きたいなぁ。平均気温150℃で快適快適。』
『遠すぎるし、私が死んじゃうのでダメでーす。最後にジュラ!』
『その二人が言ったとこ以外のところ。』
『キレッキレだねぇ、ちゃんと仲良くしてねー。というわけでやっぱりキチンと地図を見て決めようと思います。』
早速テーブルの上に地図が広げられ、イオンが一点を指さす。
『さっきの湖と山がここだとして、スピードはそんなに変わってないから今私たちがいるのはこの辺にあたると思うんだけど…アミーン!右側15°に「翼の大岩」見えるー?』
『アーア、バッチリ見エテルゼ。オ前ガ突ッ込ンダ写真でーたガ間違ッテナキャアナ。』
ランスがその受け答えに目を丸くする。
『もしやキミが今会話していた相手ははここの操縦コンピュータなのかい?』
それに答えたのはアミンだった。
『見リャワカンダロ白モヤシ。ソレトモ、テメーノ脳味噌マデ錬金術ニ使ッタノカ?』
『し…失礼。愚問だった…』
ランスがちょっとしょぼくれている、少しだけ同情。
『んー、今の場所はだいたいここってわかったから、とりあえず隣の「バグショット区」にでも行ってみない?私こんなんでも一応「プテロ区」はおじいちゃんに連れられて大体行ったことあるんだよね。せっかくならもっと遠くへ行ってみたいかなぁ。』
『いいんじゃないか?俺はここいらのことは本で齧った程度しかわかんないし、危険地帯ってわけじゃないならその辺は任せる。』
『ふむ、バグショットといえばやはり有名どころは「爆裂魔事件」だね。見に行ってもいいと思うよ?』
『ちょっとまてぃ。早速物騒極まりない単語が出てきてないか?なんだその爆裂魔ってのは…花火のことじゃないよな?』
ランスが怪訝な顔を浮かべる。
『爆裂魔を知らないのかい?田舎者の私の故郷どころか他国でも有名な事件のはずだけど…まぁそういうこともあるか。爆裂魔というのはその事件を起こした魔法使いの通称で、我々魔法に携わる者の間では八尺メリーとも呼ばれているね。彼女は爆発の魔法を得意としていたんだけど、12年前のある日、それを使って大規模な破壊を行なったんだ。当然、全魔連が出動して大量の死傷者を出しながらも鎮圧に成功した…ってのがあらすじだね。』
『おっそろしいヤツがいたもんだな…その事件の舞台がバグショットってことか?』
『正確にいうとその中でも一つの街だけど、まぁその通りだ。たしか、当時の資料を集めた記念館も建ってたからキミも魔法に携わる者としていってみるといいんじゃないかな。魔法の恐ろしさを知って損することは無いと思うよ。』
改めてかんがえてみると、今平然と使っている自分の魔法は見えないし携帯も容易な凶器のようなものだ。
その重さは誰しもが高い魔力と丈夫な体を持つ魔界では実感しにくいかもしれない。
(ここで学んどくのもアリっちゃアリか…)
『よーし、決まりだね!取舵いっぱーい!』
舵輪の前に立ったイオンが思いっきり左に回そうとするも、まったく舵は回らない。
『あれ?おかしいなぁ、故障した?おーい、アミーン、生きてる〜?』
『…アノナ、テメェラガ本当ニばぐしょっとヘイクンナラナ、回ス方向ハ面舵ダロウガ。』
イオンフライヤーは右に舵を取った。
『ところでイオン、到着までだいたい何日かかるんだ?食料と日用品を管理しなきゃならんし、場合によっては補給もいるかもだからさ。』
『そうだね〜今のスピードは燃費がいい感じの43kmだから、ちょっとは変わるかもだけど、だいたい1日と半分くらいかなぁ。』
『りょーかい、じゃあ食料は問題ないな。燃料はどうなんだ?』
『んー、多分大丈夫。あと三日は持つよー。だからもうアミンに全部任せて着くまで寝ちゃってもいいかもね〜。』
『ちゃんとご飯は食べなさい。じゃ、そんな感じだって伝えてくるぞ。』
『よろしくー』
ジュラは背後のテーブルで談笑しているカブウとランスに伝言を伝えるためにその席へと向かう。
『あんた達も聞いてたか?次の町までは1日半かかるんだってよ。その間自由にしててもいいが、飯の時間にはここに来てくれよ。』
『ふむ俺は元々ここから動けないし、特にすることも無いが…ランス君はどうする?』
『そうだね…せっかくだからこの飛行船を案内していただきたいかな。万が一重要な場所に入ってしまったら申し訳ないからね。』
『イオンフライヤーのことならおまかせあれ‼︎』
『コイツ…いつの間に後ろに…‼︎』
誰も気づかない内に忍び寄っていたイオンは、いかにも自慢の機体について語りたそうに目を輝かせていた。
せっかくだし、聞いてやるか…自分の暮らす場所のことぐらいは知っておくべきだ。
『では!これよりイオンフライヤー特別機内ツアーを開催しま〜す!まずはそこの機関室ですが、中はかなりごちゃごちゃしてて私以外がいじくると高確率で火を噴いて吹き飛ぶので気をつけてくださ〜い。せっかくだし、中も見てみる?』
彼女は質問の答えを聞くどころか、質問そのものをする前にすでに扉を開けている。
体に口が追いついていないのか、追いつかせる気がないのか…
肝心のその中身はジュラには到底理解できないもので、何十本もの配管に計器がついたものが複雑に行き交い、幾つもの機関がピストンを繰り返している。
『これは…かなり大規模なシステムを組んでいるようだね。私も幾度かこの手の場所を見る機会はあったが、ここまで複雑なものはお目にかかったことはないなぁ。』
『やっぱりですか?この機はターボモードに入ると超スピードが出せるようにしてあるからそれに合わせてシステムもこんな感じになっちゃうんですよ〜。まあ、もし爆発しても壁の向こうにある水タンクが最初に壊れて鎮火するんで大丈夫です!』
今の話の中で何がどう大丈夫なのかジュラには理解できなかったが、とにかく機関室には下手に関わるなという肝心な部分は理解できた。
あと、ターボモードって何ぞ?
『興味深いね、是非とも設計図とかも拝見したい。』
『設計図かぁ…あれ、どこやったっけなぁ?置いてうちに置いてきたか…無くしたかも。』
その言葉にそこそこ蒸し暑いはずの機関室の空気が凍りついたように冷たくなる。
『ハハハ…聞き間違いかな?今確かに無くしたとか…』
『うん、まぁ大丈夫ですよ。私は全部わかってるので。』
大丈夫ではない、致命的に後先が見えていない。
『やっぱここは暑いなあ。そうだ、じゃあ次は食糧庫でもいこー。』
既に走りだしているイオンに置いて行かれないよう二人も歩を早める。
リビング兼操縦室にある3つ目のドアを開けると、そこには外見から受ける印象より幾分か長い廊下が伸び、その両側に各部屋のドアが連なっていた。
『基本的に通路はここ一つだから、すれ違う時はちゃんと譲り合ってくださーい。えーと、そんでもってジュラにはもう言ったけどここが食糧庫になりまーす。機関室とかみんなの部屋からは離してあるから中は結構寒くなります。管理は全部ジュラに任せてるのでランスさんが使いたいときとかは一声かけてあげてください。』
『了解したよ、イオン君。』
廊下の最奥にある食糧庫のドアをしばし開放し汗をぬぐう冷気を堪能した後、今度は来た廊下を戻りつつ部屋を紹介される。
『ここがそのほかの倉庫になってて、ランスさんのリアカーとかもここにしまってあります。中はぐちゃぐちゃだけど気にしないでください。』
『質問、どうして事前に準備してなおかつ一日目なのにこんなに散らかってるんだ?それとも、いつのまにか俺は一月ぐらい気絶してたのか?』
倉庫は出発する前徹底的に掃除し、積み込む荷物も厳しく厳選したにも関わらず、中は乱雑に散らかり蜘蛛の巣すら張っていた。
『…そしてこちらがランスさんに使ってもらう部屋になりまーす。狭い部屋だけど勘弁してくださいな。』
こいつめ、聞こえないふりしよったわ。
『狭いだなんてとんでもない。部屋まで貸していただけるなんて頭が上がらないよ。世話をかけるね。』
『いえいえ~そんで、ここがジュラの部屋ね。内装はいろいろ好きなように変えていいよー。』
ジュラの部屋は間取りや広さは先ほどのランスの部屋と変わらず、裸電球の下にシンプルなデザインの固定されたベッドや鎖で床とつながった椅子・テーブルが置かれ壁に棚が打ち付けられているだけだったが、唯一丸い窓には彼が地界に来て最も気に入った色である薄い黄緑のカーテンがかけられているという違いがあった。
(こういうところだよなぁ…)
さりげない気遣いにジュラは思わず腕組みをして勝手に頷いていた。
『それで、ここが私のスウィィイトルーム!入るときはノック必須だよ!中見たい?見たいよね?困っちゃうなあ、もう。』
誰一人何一つ言っていないにも関わらず、勝手に開けられた扉の先は一面がまばゆいほどのショッキングピンクに覆われた部屋で、不愛想な黄土色をした廊下の壁とのギャップで思わず目が眩みそうになる。
部屋中のいたるところに歯車とハートマークをあしらった装飾を凝らしていながら、申し訳程度に積まれたはいいもののすでに物置と化しているドレッサーがこの部屋の主がどのような人物であるかをこの上無く表していた。
『ここの壁にあるスイッチを押すとビームが出るようにしようと思ってるんだけど、そうなると色々内装も作り直さなきゃだし、悩みどころだよねぇ。私的にはもう十分満足な部屋なわけだし。』
(いや、どこから何のために撃つんだよ。そんでもってビーム自体は撃てるのかよ。)
『できればもっとこの部屋のこだわりポイントについて語りたいんだけど、おなかすいたからそれは今度でいいや。ジュラ~なんかつくって~』
『へいへい、ちょうど次がキッチンだしランスを案内してる間につくっといてやるよ。』
『さんきゅ~、ジュラに言われちゃったけどここがキッチンになりますね。ジュラ曰く「勝手に入らないでくれ」だそうです。』
『シェフは自分のテリトリーに入られることを嫌うというからね、理解したよ。』
『最後はここ、さっき使ったから知ってると思いますけどバスルームです。機関室の冷却水を使ってるんですけど、水は結構貴重なのでなるべく節約してもらえると助かるそうです。』
『わかった、気を付けよう。』
『まあ、雨水を回収する装置もあるんで相当無駄遣いしない限りは大丈夫だと思いますけど。』
『それは安心。ところで、いくつか通り過ぎた部屋があったけどどういう部屋なんだい?』
『あー、全部作ったはいいけど肝心の何に使うかを決めてない部屋ですね。そのうちなんかに使うかもです。』
早くもキッチンから漂ってくる甘い香りを感知した二人は話を切り上げ、いそいそとダイニングのテーブルへと向かうのだった。
甘露な香りか満ちる部屋に金属と陶器の触れ合う音が木霊する。
『君の料理は実に美味しいね。これほどのアップルパイなら店を開けば評判になるよ。あ、会員を募集するならぜひ私をNo.001にしておくれ。』
『ひゃあ、ははひひゃんばーへろ!』
『食べながら喋るのはやめなさい。まったく…俺だって、できるなら静かにレストランでもやりてーよ。』
思わずつぶやいた独り言は幸か不幸か誰の耳にも届かなかった。
その夜、トランプゲームに熱中するイオンたちを尻目にソファーでホットミルクをすすっていたランスにジュラが話しかけた。
『隣、いいか?』
『もちろん構わないよ。そんな怖い顔しなくてもね。』
つぎはぎだらけの古ぼけたソファーはあまり座り心地がいいとは言えない。
『君の警戒はもっともだけど、こうまで表に出されると悲しいよ。』
『そりゃ悪かったな。知っての通り俺は隠し事が苦手でね。』
ランスのマグカップからは湯気が立ち上り続けている。
『好きなんだ、ホットミルク。』
(突然何のカミングアウトだ?)
ランスにとっては返事の有無などどうでもいいのだろう、ただ言葉を紡いていく。
『特にある程度冷ましたぬるま湯くらいの温度がいい。人には変わり者と言われるが、そのぬくもりが私にとって最も幸福であり、同時にドブの中にいたような毎日を思い出させてくれる。ま、味はひどいものだけどね。』
『いきなり何言ってんだよ?もしかしてミルク熱すぎたか?』
『いやいや、そういうことじゃなくてね、知ってほしかったのさ。私は中身も過去もある一人の人間、涙も笑顔も経験してきたし、君が思うほど正体不明の変人ではないとね。』
『いや、変人ではあるだろ。』
『ハハハ、手厳しいご意見だ。…人間にとって深みを増してくれるものはなんだと思う?趣味だとか経験だとか様々なものが挙がるだろうが、私は秘密こそがそれにあたると考えている。秘密を隠すときに人間が巡らせる思考の奔流、それこそが深みなんだ。それ以外でもそうかもしれないけどね。』
淡々と語る男の真意をつかみかね、少年は顔をしかめる。
テーブルから慟哭の声が上がった。
『うああーー!!また貧民だーー!!私は所詮力なき民衆なのか…』
『このトランプというものは初めてやったが、なかなかどうして面白いじゃあないか。特にここぞというところの駆け引きを制したときなんか爽快だね。』
『五回モヤットイテナンダケドヨ、ぼーどげーむノ相手二こんぴゅーたヲ選ブノハドウカト思ウゾ。マケルワケネーダロ。』
五連敗したイオンが時計を確認するともう夜は更けていて、月も天頂に差し掛かりつつあった。
『あー、もうこんな時間かぁ。明日もあるし寝なきゃねー。』
『おう、そうかそうか。明日はどんなゲームをするんだ?』
『そうだなぁ、明日はねーカブさんに「ミスターガジョン」を教えてあげるよ。』
急に騒ぎ出したイオンたちによってすっかり就寝ムードとなったリビングでジュラもキッチンを片付けるために立ち上がる。
その背中にランスが呼びかけた。
『お互い、大きな秘密を持っているんだ。仲良くしようよ。』
返事はしなかった。
それから、約20時間がたち、一行はバグショット区に入り目的地を目前に着陸の準備に追われていた。
『メーターから目を離さないでね、ジュラ!ところで、あれが「JB街」であってるんですか?』
『上から見たことは無いけど恐らく間違いないね。飛行船の発着場は向こうにあるはずだよ。』
『了解!みんな覚悟はできた?さあ、いくよ!』
記念すべき初着陸、なんとか死者は出なかった。
飛行船欲しいなあ
登場人物
爆裂魔
単独のテロリストとしてはここ200年で最悪と言われる犯罪者。
強大な爆発魔法でJB街を半壊させ、多くの死傷者を出したが当時の全魔連実働部部長ドリー・バーデンとの一騎打ちの末敗れた。
現在は処刑済みと公表されているが、どこかの刑務所で秘密裏に匿われているとの噂もある。
用語集
サーペルタ自治区
中央連合の中でも人口に占める竜人の割合が多く、彼らの自治が認められた地域。
輝賎
戦いに敗れた者たちが寄り集まってできた嫌われ者の国。
どんな者でも受け入れてくれる。
炉山
三日に一度は噴火する活火山。
膨大な地熱と生み出され続ける鉱石を求めて各国の研究所が乱立する。
翼の大岩
翼を広げたアホウドリのような形状の大岩で、旅人から方角を示す目印として重宝されている。
バグショット区
富裕層や貴族が住むロイヤルシティとも呼ばれるが、周辺のスラムでは凶悪犯罪が頻発する。
プテロ区
巨大な一枚岩が点在する風景が広がる地域で人口は少ない。
爆裂魔事件
爆裂魔八尺メリーの手でJB街が半壊した事件で、死傷者250人を超える大惨事となった。
ミスターガジョン
ボードの上に三本のポールを立てて内側の陣地を奪う側と守る側にわかれ駒を操作して取り合うゲーム。
ローカルルールがやたら多い。
JB街
爆裂魔事件の舞台にして犯人の故郷。
いまだに傷跡が残り慰霊碑に花が絶えない。