魔剣王正伝   作:プルプルマン

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どっか離島行きたい。
遠いとこ


Fight of STARFRUITS

青い光に包まれ、高度を上げるスターフルーツ。

スターフルーツが上空30mほどで停止し目を閉じて瞑想を始めると、周辺の空間を覆い尽くすように魔法陣が出現し、その照準はわかりやすい程刺々しくジュラとアミンに向けられていた。

仮想呪文【ウゴウ・マ・ミパルセン】

それが唱えられた瞬間、彼等の上空に無数の赤色に輝く魔法陣が出現し数秒間で激烈に光を増してゆく。

刹那の後、それは形容し難い色の光線となって地上を埋め尽くす様に降り注いだ。

『うおぉぉぉっ‼︎なんつー高レベルな呪文だよ⁉︎こんなのどうしようも……イテッ!』

圧倒されるジュラの頭にアミンがゲンコツを喰らわせた。

『つべこべ言ってねーで盾の呪文でも唱えてろ。魔剣王になるとか抜かしてたろ?魔剣王ってのはパニクるのが仕事なのか?』

刺々しい言い方ではあったが、その言葉と後頭部への衝撃は彼のオーバーヒートした頭にはよく効いたらしい。

しかし、それでも圧倒的な魔力の差を目にして彼は半ば諦めているのか、唱えられた呪文の声色は半ばヤケ気味だった。

『【プロトン】!』

魔力が二人の頭上に集まり、半透明な六角形の盾となる。

ただ、それは今まさに襲い来る上からの脅威を防ぐにはあまりに矮小で頼りなく見えた。

『いい盾じゃねーか、核としちゃ十分だぜ。』

アミンが満足げに指を鳴らすと盾の周辺に三角定規や曲尺が次々と出現し、螺旋を描く様に張り付き強化してゆく。

その盾を貧相と呼べる者はもういないだろう。

それは降り注ぐ光線の豪雨を完全に凌ぎ切ったのだから。

雨が止み、その中から無傷で現れた2人に今まで表情を変えなかったスターフルーツも目を見開いてほんの少し驚愕する。

その一瞬を突いて彼を巨大なチューリップの花が殴打し吹き飛ばした。

『どうやらイオンもうまく手伝ってくれてるらしいな。なんでチューリップなのかはしらねーけどよ。』

無傷ではあるが周囲を多い尽くした閃光と轟音で千鳥足になっているジュラの手首をアミンが掴む。

『そらよ、飛んどけ。ただし逃げろなんて優しい意味じゃねーが。』

気づけば、彼はスターフルーツと同じ目線まで投げ飛ばされていた。

焦るジュラとあくまで冷酷なスターフルーツの目線が交差し、彼は理解する。

脅威として認識されているのはアミンであり自分は敵にとって気にかける価値もない雑兵的存在であること、故に適当な攻撃で十分に対処可能と考えられているであろうこと、故に警戒の隙間を縫った痛打を与えられる可能性があることを。

『ちくしょー!せっかく体も痛くねーし跳ね回れてんだ!ここでやっときゃ撃ち得だよなァ!魔剣 パーン アメーリオ!』

無詠唱で出現させた【プロトン】を足場としてジュラが魔剣に力を集め、光を纏っていく。

本来格上のヴァニラを貫いたそれは彼のコンディションがベストに近いためか、より大きく、より鋭く形成されていた。

剣を突き出して足場を蹴り、回転をかけて射出した光の槍は接近していた紫雷を掻き分け、瞬きすら追いつけない様な速度でスターフルーツの胴体へと迫る。

薄目を開けたジュラには対応のため動き出した肩の突起が見えていたが、彼にそれを気にしている余裕は無い。

ただ、持てる全てをかけて一点を貫く。

それだけが全てだ。

怪物の怒号が無機質な空間に轟いた。

 

頭が揺れてる、耳がキーンとする。

アミンが何か言ってる様な気がする…バケモンの右胸に大きいとは言えねー傷がついて…いや、つけたのは俺か?……頭が揺れてる

ジュラの奇襲は結果として不成功に終わった。

スターフルーツが一瞬で形成したエネルギー球との接触で衝撃が相殺されたのだ。

とはいえ、天変地異そのものを体現したような怪物に手傷を負わせたことは確かであるし、本腰入れて対応すべき脅威と認定されたことも事実である。

何より、アミンが即興で思いついた作戦のために必要な一瞬の時間を作り出すには十分な一撃であった。

『上等だぜ魔剣王サンよォ、おめーの火力にゃ期待してねーから安心しな!頼んだゼェ、イオン‼︎』

スターフルーツの真下に巨大な分厚い百科事典が開いた状態で出現し、彼がそのことに気づいた瞬間、勢いよく閉じたページが彼を挟み潰した。

しかし、この程度で潰れるものならもうとっくにどうにかなっている。

閉じられた本は内部から発火し、千切れて灰になりつつある紙吹雪を纏った怪物が姿を現した。

『あーあ、古本に挟まった紙魚みてーに潰れてりゃあ幸せだったのによ。ちょいと痛くするぜ?』

鉄骨に腰掛けたアミンが指を鳴らすとスターフルーツが拘束されていた間に出現させたであろう無数の巨大なタガネが上空から標的に向けて襲いかかった。

さしものスターフルーツも大質量による攻撃になすすべなく撃ち落とされ、轟音と粉塵を巻き上げて床に激突する。

対象が地に落ちたことを確認すると、彼女は攻撃を続けながら未だ呆けているジュラの元へと向かった。

『よう、生きてるか、ジュラ?』

全ての経過を時間が遅くなっているような錯覚とともに見ていたジュラであったが、かけられたその声に反応して飛び起きる。

『ふぉあ⁉︎あのバケモンやったのか?』

『せっかちな野郎だな、これからやるんだよ。ほら、手伝いやがれ。おめーの力だって無いよりゃマシだ。』

追撃を加えんとスターフルーツの方へ向き直った2人の眼前には一つ一つが攻城大砲ほどの径を持つ15丁の黒光りする銃口が突きつけられていた。

『『…………は?』』

戸惑う2人をよそに、それは一斉に火を噴いた。

 

 

 

一方此方はクイーンの研究室、ここでも血こそ流れないものの暴力よりも激しい闘いが行われていた。

互いが互いに出現させた物を打ち消し、隙を見て援護攻撃に転じる。

キーボードを叩く指の動きはどこまでも加速し、しかしピアニストの演奏のような繊細さを失わない。

それがこの勝負に立つ者として最低限こなすべき条件であった。

腕の酷使によって傷が塞がらないためかイオンの額には玉のような汗が浮かんでいるのに対し、クイーンは未だ本気を隠しているかのような素振りを見せている。

『ふふふ…そんなに焦っても仕方なくってよ?残念だけど私はあなたよりあらゆる点で優れてるのよイオンちゃん。そしてスターフルーツとお仲間2人の戦闘力は月とスッポン…いや、それ以上に隔たっているということ…もうとっとと諦めなさいな。』

スクリーンにはクイーンが出現させた拳銃によってスターフルーツに追撃を与える機会を逃したジュラとアミンが、戦線復帰した怪物に対して防戦一方になる様子が映し出されていた。

仮想呪文【バラフロル・バルフリート】によって出現した炎の塊が四方八方を飛び回り意識をそちらに向けていたアミンが紫雷を受けて吹き飛ばされる。

『今のは痛そうねー、ちょっと同情しちゃうわ。』

微塵も思っていないであろうことをすらすら言ってのけるクイーンに反感を覚えるイオンだったが、その後に続く言葉がそれを口に出させないほど重くのしかかった。

『じゃ、悪いけど私も本気でやらせてもらうわね。だいぶ頭も回るようになってきたし。』

それは、言うなれば死刑宣告と同義であった。

全力になった彼女のタイピングは後も容易くイオンを抑え込み、スクリーンからは空間に満ちる剣と銃に逃げ回っている2人が唖然としている様子がありありと映し出されている。

最早それは勝負とは呼べないもので、抵抗すら許されない蹂躙未満だ。

ジュラはなんとか致命傷を避けて盾の呪文を唱えることしかできず、アミンもまた彼を助けながら身を交わし続けるしかできない。

イオンも自身の打ち込んだデータを悉く何もできないよう処理され、ダメージが蓄積する一方である一行の敗色は濃厚だった。

そんな時、息を切らし始めたイオンが何かランスに問いかける。

『…………ランスさん…なにか、なんでもいいので体と頭がもっと動くようになる魔法薬って作れますか。』

『イオン君…それは…だが、君は…』

『悔しいけど、こーゆう時できることはクイーンさんの方がずっとすごい…だったら、私が勝つためにはもっと底上げしないと……!』

『…可能だが、させられないよ。君はすでに決して軽く見ていい負傷者ではないんだ、今そんなものを使えば体への負担が…』

『かまいません、覚悟はできてます。私がやらなきゃみんなここで死んじゃう…私の冒険は終わらせないし、ジュラもアミンも、クイーンさんたちも…誰1人死なせない!』

そう宣言する彼女の横顔は凛々しく、黒い目に灯った光は揺るぎない覚悟の存在を確かに示していた。

『…了解した、我らがイオン船長。最高のモノを用意しよう‼︎』

 

『なーんかごちゃごちゃやってるわねえ。まだ何か策でも残してるのかしら?一応警戒だけはしておき…』

突如、クイーンが出現させた武器が全て色とりどりのアネモネの切花に置き換わる。

台詞を遮られた彼女はおろか、実際にその空間内にいる3人も含めた当事者たちはただ2人を除いてその現象にわけもわからず戸惑っていた。

『ありがとうランスさん、なんとかなりそうです!』

『船長、その薬は強い…どうか無理だけはしないでくれ。』

『あなたたちッッ何を…』

クイーンの目前で深く息を吸ったイオンの指が再び動き始め、先ほどまでとは段違いの速度と精密性で盤上に様々な物体を作り上げてゆく。

我に帰ったクイーンが阻止しようとするも間に合わず、時計の振り子に背後から襲撃されたり、人間用潜水服を着たサバの集団に蹴り飛ばされたりと明らかにスターフルーツは翻弄されていた。

オマケにこれを好機と見たジュラとアミンも盛んに攻撃を仕掛けており、盤面はまさに形成逆転と言える様相を呈していた。

『バカな…突然技術が高まるなんて悪い夢?…どういう理屈な……!』

イオンとランスの方へチラチラ目をやっていたクイーンは気づく。

『キーボードが濡れてる…あれは…赤黒い…血?』

身体強化薬による心肺機能の向上、血流の増加によってイオンが肩に受けた傷が開き、再び出血しているのだ。

一滴、また一滴と赤黒い雫が包帯を染め、華奢な腕を伝わって滴るたびに漂う鉄の香りが強さを増してゆく。

大体の事情を察したクイーンは時間稼ぎを狙ってか、半ば呆れたような声でイオンに問いかけた。

『あなた正気じゃないわね。本当に腕イカれるわよ?まあこっちとしてはさっさと自滅してくれた方が都合いいけど。』

『………』

『薬の副作用で倒れてもがいてるあなたを見ながら飲む「サイレンシアコーヒー」はさぞかし美味しそうねぇ。』

『………』

『何か答えてくれてもいんじゃない?話してる余裕も無いのかしら?』

『一つだけ聞いときたいんですけど…』

『な…何よ?』

『このキーボード、防水機能あります?』

『はぁ⁉︎何?そんなこと………』

会話でイオンの体が限界を迎えるまでの時間稼ぎを狙ったクイーンであったが、逆に虚を突かれたことで彼女の打ち込みに綻びが生じ、敵に塩どころか特大の塩田を送る結果になっていた。

いくらキーボードを叩いても闘いの中に全く自分の意思を介在させることができない状況に彼女は焦り、自ら電源を落とした通信を再開して叫ぶ。

『スタァァァフルーツゥゥゥッッ‼︎コード067起動!当然最大威力よッ!』

『了解。コード067認証。仮想呪文【ダオラ・グドルク・マ・ドラコドン】』

呪文の詠唱後、ほんの数秒間不気味で纏わりつく様な静寂が空間を支配する。

強烈に嫌な予感が脳裏をよぎったイオンはそれまでより速くキーボードを叩いて大急ぎで何かを作り始めた。

『もう遅いわ、いい勘してるけど。たとえ鋼鉄を作ろうがアダマンタイトを作ろうが跡形も無く破壊されるもの。』

それは悪魔のような呪文だった。

スターフルーツの目前で発生した最初の巨大な爆発が生物を蝕む病原菌の様に連鎖し、エネルギーの波を広げてゆく。

やがてそれは類を見ないほどの規模まで拡大し、目に見える範囲の空間を熱と破壊で覆い尽くしたのだった。

煙と炎にまかれて何も映さないスクリーンを見ながらクイーンは笑う。

『勝ったっ!完膚なきまでの勝利っ!私のスターフルーツはこの爆発でも十分に耐えられる強度を有する…つまり、あとはあなたたち2人を始末しておしまいってことよ!もちろん傷ついたこの子でも人間2人の始末には十分過ぎるくらいだわ。さぁ、何か遺言はあるかしら?あなたたちの残った部分と一緒に故郷へ郵送してあげるわ‼︎』

『なるほどな、これはいいこと聞いたぜ。ヤツはこの爆発で傷ついているんだな?』

爆発音と炎が巻き起こす気流の音だけを発していたスピーカーからくぐもった声が響く。

その声の主は紛れもなくジュラだった。

『は?なんで生きて…』

クイーンの言葉に彼は答えない。

『イオン、ありがとよ、助かった。後は任せてくれ。』

その言葉を聞いたイオンは糸が切れたように倒れ込みそうになるも、気を張っていたランスがその前に彼女を支える。

『おっと…とっくに限界を超えていたか…本当に、心の底から尊敬するよ、イオン船長。』

疑問を無視され蚊帳の外の扱いを受けるクイーンであったが、突如煙が晴れたスクリーンに彼女の知りたいことは全て映っていた。

散らばった透明な「スライム」は熱と衝撃を防ぐために最高の素材がなんであるかを示し、ベトベトの2人は彼らがその内部にいたことを示している。

『行くぞアミン!遅れんじゃねーぞッ!』

『誰に言ってやがんだ、へっぽこ悪魔が。まぁ合わせてやるよ、私は優しいからな。』

ジュラが大きく振りかぶった魔剣にエネルギーが収束したことにより身の丈をゆうに越すサイズとなり、アミンもほぼ同じサイズの剣を出現させる。

『『魔剣 ケファ バール アメーリオ‼︎』』

2人の剣閃は奇しくも悪魔らしからぬ十字を描いてスターフルーツに刻み付けられたのであった。

力無く吹き飛び、受け身すら取れずに床へと叩きつけられる彼は最早戦闘続行可能とは言えず、そのことを一番理解しているクイーンがへたり込んだことを確認したランスによって勝鬨は上げられた。

『ッッ〜〜我々の勝利だ!聞こえるかい、ジュラ君、アミン君…我々は勝った!勝利したんだっ!何度でも言わせてもらおう!我々はただ1人の犠牲も出すことなくッ、偉大な勝利を収めたんだっ‼︎』

安堵したジュラがため息を吐き、アミンの方に向けて手を挙げる。

少し面食らった顔をする彼女だったが、すぐにうっすら笑みを浮かべてそれに応じ、戦友2人はハイタッチを交わしたのだった。

 

 

 

『▶︎仮想禁呪 コード000のロック解除 使用まで後…』




ジュラはスライムが大の苦手だったりします。
特にそこそこ水分が抜けて崩れやすくなったのが嫌だとか。

用語集

ウゴウ・マ・ミパルセン
星の力から生み出した強力な魔法の貫通力を増幅し、魔法陣から無数に降らせる魔法。

プロトン
魔力エネルギーを凝縮して盾とする魔法。

バラフロル・バルフリート
比類なく強力な炎を拡散させつつ打ち出す魔法。

サイレンシアコーヒー
サイレンス共和国発祥のコーヒーの淹れ方。
多量の角砂糖を溶かし、ペパーミントを浮かべながら飲むスタイルがオーソドックス。
卵と砂糖をふんだんに使用したカップケーキとともにいただこう。

ダオラ・グドルク・マ・ドラコドン
巨大なエネルギー球が爆発すると、連鎖して周囲の魔力エネルギーを利用し大量の誘爆を起こす。
爆裂魔が使用した際はJB街に壊滅的な被害を出した。

スライム
ホウ素を含有する楽しいヤツ或いは幾千幾万の菌類の集合体。
多数の個体が集まって意識を作り出すものもいる。
水分必須。
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