魔剣王正伝   作:プルプルマン

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クイーンには1人兄がいますが、放浪癖と浪費癖をダブルで発症してる録でもないギャンブラーでまったくアテにならないヤツです。


終幕に色々詰め込みすぎた

異様な風体の一つ目に思わず後ずさるヴァニラ。

その場にいる誰もがその一挙手一投足を注視する中、ゆっくりとその禍々しい程赤い口が開き…

『ガボバフゥゥゥ!オゴッ!』

盛大に吐血した。しかも血は緑色だった。

ドン引きする一同を尻目に一つ目はヴァニラに対してにこやかに語りかける。

『いやぁ〜すごいパンチだねえ。私ってば内臓が2.3個増えちゃいそうになったよ。』

『ふ、増えるのか?普通減るもんじゃ…』

『どっちかというと潰れるが正しいんじゃねーか?どいつもこいつも勝手に入ってきやがって…なんだ?俺の知らない間に世界中の辞書から礼儀とマナーって単語は消えちまったのか?』

早くもヴァニラが相手のペースに呑まれつつあるのを察し、パラミツがいつでも攻撃に転じる準備を整えつつ会話に割って入る。

『おっと、これは失礼した。どこにも呼び鈴が見当たらなかったものでね。けどぉ、あらかじめ時間は伝えてあるはずだよ、ミス・クイーン、貴女の今朝の夢でね。』

『えぇ…そういえばそんな夢見たよーな見てないよーな…』

『相手のペースに呑まれちゃいけませんぜ!というか、どうやってその名を知った?お前が現れてからこの場にいる誰1人として本名を名乗っちゃいねーはずだ。』

『そりゃあもちろん葉書に書いてあったじゃないか、パラミツくん。丸っこくて可愛い文字でね。』

『テメェやっぱりどうや…おい、いつの間にスッた?』

一つ目の手には先端に毒が塗られた銀色の長い針が握られていた。

『おっと失礼。私は重度の先端恐怖症でね、他意は無いんだ。さて、そんなことは置いておいて本題に入ろう。』

得体の知れない相手に歯噛みするパラミツを尻目に一つ目は飄々とお辞儀をしてみせた。(針はそのまま食べてしまった。)

『申し遅れました、私の名はコード・フェイス卿。享楽と知新をこの世の何よりも好む生粋の道楽家でございます。以後、お見知り置きをヨロシクゥ。さて、Dr.C.Fのカラクリ式嘘発見器の性能の面でのご相談とのことですが、まずは双方矛を収めて頂いても宜しくてん?』

『…わざわざご足労頂き光栄ですわ、ただ一身上の都合からそいつらは確実に始末しないといけないんですの。サクッと済ませますので別室でお待ちいただけます?』

『ハハハーー!それはノンノンですなぁミス・クイーン。私の用事はすぅべてに優先されるのですよ。』

『それ以上勝手なことを仰るのなら力づくでもお待ち願いますが?私に同じことを言わせないでくださるかしら?』

クイーンはかなりイラついているらしく、口元こそ緩めてはいるが目の奥には微笑みのほの字も無かった。

放っておけば直に戦闘が始まり、コード・フェイス卿と名乗る者も危険に直面するだろう。

相手が得体の知れない存在だろうがジュラは一度助けられた恩を無視できる程器用な男では無い。

故に一つ目の前に立つ、立ってしまう。

『コード卿さんよ…アンタ、帰った方がいいぜ。コイツらは並の腕前じゃないしこの闘いは俺たちの問題だ、アンタを巻き込むわけには…』

『おお、なんて酷い怪我なんだジュラ・パズズくん‼︎出血も酷いし骨も粉々、オマケに脳味噌もちょろっとハミ出てるじゃあないかい!』

『いやハミ出てたら死んでるが⁉︎ていうかどこで俺の名…』

『ハハハ、重傷者は寝ておきたまえよ。後で絆創膏を貼ってあげよう。』

コード・フェイス卿の右手人差し指がポロリと脱落し、押し出される様にして生えてきたペン型のライトが瞬き始める。

不思議と目を離せないその光はジュラを深い深い眠りの底へと誘っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

次にジュラが目を覚ましたのは冷たい石の天井が見えるフカフカのベッドの上であった。

全身の痛みは引いておらず、腕一つ動かすのも億劫であったがまずは状況確認のため周囲を見回してみることにする。

左隣、岩肌が剥き出しの壁である。

ということはここはまだクイーンのラボがある洞窟内なのだろうか?

ふと壁面を這っていた小さなサソリと目が合う。

サソリがシルクハットを持ち上げ、丁寧に会釈をしていったためジュラも慌てて寝たまま礼を返す。

これは高貴なる王宮で生きる者としての必須スキル、最早本能に根差した反射反応的なものであった。

(最近の虫は礼節を心得てるなぁ…)

不思議と疑問には感じなかった。

天井、真上に裸電球が1つ吊るされている。

嫌がらせかよ、落ちてこなきゃいいが。

そして右隣、おそらく自分が寝ているものと同じベッドが並べられており、その上に左肩と両手に包帯を巻いたイオンが静かに寝息を立てていた。

その寝顔は穏やかで、なんの夢を見ているやら枕にはよだれが垂れていた。

唯一の気にかかる点は掛け布団が見当たらないことぐらいだが、その答えもすぐに見つかった。

『どんな寝相してるんだ、コイツ?ベッド隣で大丈夫だろうな…』

上体を起こして掛け布団の行方を探そうとしたジュラが見たのは、恐らくイオンが吹き飛ばしたであろうそれが8mほど離れた壁にめり込んでいる様子であった。

何しろ岩盤が布に負けているのだ、只事ではない。

戦慄したジュラが余計な被害を被らない様になるべく壁に寄って寝ていると、ドアが開いたと思しき音が聞こえそちらに目をやる。

『すまない、起こしてしまったかな?』

入ってきたのは右腕を吊って頭に包帯を巻いたランスであった。

『いや、さっき起きたところだよ。ところで、早々で悪いんだがソイツの布団を…』

『おや、さっきも直したんだけどなぁ。』

壁に向かったランスが布団を引き剥がして埃を払い、イオンに掛ける。

残された壁にはクッキリと布団の形が刻み込まれていた。

『ありがとよ…ところで、あれから俺達はどうなったんだ?ここはまだアイツらのテリトリー内なのか?』

『そういうことになるね。何から話したものか…まず、我々がまだ呼吸を続け、清潔なシーツの上で休息を取ることができているのはコード・フェイス卿なる紳士とアミン君のおかげでね、あの二人は即興で組んでスターフルーツ君の頭脳データのバックアップ?とやらを人質にほとんどの要求を飲ませてしまったよ。そんないきさつで我々の出航時までこちらでお世話になることになったよ。物さえ壊さなければ好きに過ごしていいとさ。』

『なるほど、でもアミンはいいとしてなんで見ず知らずのあの人がこんなに良くしてくれるんだ?贔屓してもらっておいてアレだが、あんまり唐突で不気味極まりないぜ。』

『それに関しては答えてくれなかったけど、話してみればユーモアに溢れた気のいい方だったよ。間違いなく変人ではあるけどね。』

『そうか…ん、そういや俺が眠ってからどんぐらいたった?』

『丸一日ぐらいかな。もうひと眠りしてもいいと思うよ。』

『いや、いい。あんま寝すぎると調子狂うしな。厨房借りてなんか作ってくるよ。』

『流石、根っからのシェフだね。そういえば、さっきまで説明してもらっていたんだけど我々がここに来る原因になった空のひび割れだけど、あれは本当に彼女達とは何も関係ない現象らしい。理由だとかはまだわかってないけどね。』

『なんじゃそりゃ、違うなら違うであんな怪しい動きしないでほしいよなぁ。てかほんとなのか?』

『ああ、根っこの理屈からすべて説いてくれたから間違いないと思うよ。怪しい動きについてはクイーン氏曰く「カタミチ屋」に目を付けられることを警戒したんだそうだ。』

『なんだその幸薄そうな名前。』

『あくまで噂程度ではあるが世界にとって邪魔なモノを消したりしている組織だと聞くね。私は単なる都市伝説だとばかり思っていたけど、彼女のような立場ある者が言うなら本当に存在するのかもしれない。』

『おっそろしい話だなぁ。ま、俺が眠りこけてる間にいろいろ聞いて回ってくれたんだな、ありがとよ。』

『フフ、どういたしまして。』

『ところでだ、最後に1つ聞かせてくれ。この趣味の悪い絆創膏はなんなんだ?』

ジュラが自分の膝に貼られた黒い背景に血走った目が浮かんだデザインの絆創膏を指差すと、ランスは困った様な笑みを浮かべた。

『ああ…うん、コード卿からのプレゼントらしいよ…我々全員に向けてのね。ほら、我らが船長の肩にも貼ってあるだろう?』

『うーん、あまりに予想通り過ぎる。にしてもなんで包帯の上から貼ってるんだ…?うわ、とれねぇ。』

『その辺は私にもなんともだね…でも特別な効果はあったのかもしれないよ?現に全身ボロボロになっていたジュラ君がたった1日でこんなにピンピンしてるわけだしね。』

『謎アイテムがすぎるだろ…てか、それは俺が元々…』

徐にイオンの上体が起き上がり、大きな欠伸を1つ吐いた。

ほぼ閉じたままの目を擦る彼女が発した言葉は単純明快なもので…

『ぐぅ…お腹すいた…』

丁度、昼を告げるベルが鳴り響いたところだった。

 

 

『『おかわり!』』

広さの割に照明を1つの裸電球に依存しているためか、若干薄暗い部屋で全員顔を突き合わせての食事が行われていた。

『自重しなさい居候ども!あんまり生活費が嵩むと経費で落ちないでしょーが!』

『まあまあ、落ち着かなきゃあミス・クイーン。彼等は成長期だよ。いっぱい食べるのがマストさね。』

一つ目の紳士が和やかに制する。

『それでもってなんであなたまで居座ってるの⁉︎誰が許可を出したってのよ?』

『そうカリカリしないでおくれ。それに安心してほしい、今私が使ってるのはマイフォーク&ナイフだからね!』

コード卿がウインクを決める。

『何に安堵しろと⁉︎後、それはウインクじゃなくてただ目を瞑っただけでしょうが!』

『わかったよ、こうすればいいんだろう?』

コード卿の一つ目を覆う瞼が縦に半分だけ閉じられる。

『ウインクの話はもういいわよ!………って、え?それどうなってるの?』

掴みどころのないコード卿のペースに乗せられながらも口論を続けているクイーンとは対照的に、ジュラ達はごく和やかに食事を楽しんでいた。

『いやー、わざわざ俺達の分まで作ってもらって悪いな。これなんか「混丁字」が効いててすげーうまいぜ。』

『お、お前はこーいうのわかるクチかぁ。嬉しいねぇ。私見だが「カリママ」の煮物にはコイツが欠かせねえってのが俺の持論でよ。気づいてもらえりゃクイーンラボ料理長パラミツ、シェフ冥利に尽きるってもんだ。』

『ああ、俺も船じゃ料理担当でよ、皆うまいうまいって食べてくれるのはいいんだけどたまにはわかるヤツととことん話し込みたいよなぁ。』

『わかる、わかるぜその気持ち…お前、いやジュラよ。丁度ネタは色々できてんだ、せっかくだから食べまくって忌憚の無い意見を聞かせてくれや。』

『よしきた、だが次のメシの準備は俺がやらせてもらうぜ。そのときはあんた、いやパラミツも鋭い感想を頼むぜ?』

『もちろんだ、手は抜かないさ。』

料理人2人が盛り上がる横では、イオンが山の様な皿を積み上げながら驚異的なスピードで料理を平らげていた。

すでに彼女自身の体積を超えていそうな皿の量にランスとヴァニラは圧倒されていた。

『イ…イオン君…少し食べ過ぎなんじゃ…?』

『ほんはほと…………そんなことないですよー、丸一日ご飯抜きのうえめちゃめちゃ頭使ったんでいくらでも食べられるんです‼︎おいしー‼︎』

『し、幸せそうでよかったな…』

傲岸不遜を絵に描いたような男だったヴァニラが言葉に詰まっている、異常事態である。

『ヴァニラ君…色々言いたいことはあるかもしれないが、今は彼女の食欲が向くままに任せてほしい…』

『おう…』

『ランス、話してるとこ悪いが失礼するぜ。少しソイツと話がしたい。』

話が一区切りされたのを見計らってジュラが声をかける。

『私は構わないが…ヴァニラ君はどうだい?』

『構わねぇよ。クイーン様からお前らには良くしろって言われてるからな。』

『ありがとよ、突然で悪いんだが…今回の件で俺は自らの未熟を何度も嫌ってほど思い知らされた。そこでだ、もっと強くなるために出航するまでの間ではあるが俺と実戦形式での訓練を行なってほしい。』

『いいぜ、こっちにとっても願っても無いチャンスってやつだ。』

『やっぱり突然言い出して迷惑だよな。だが、俺には…え?』

『お前はその矮小な魔力で!痩躯な身体で!このヴァニラを真っ向から倒して見せた!そのお前と訓練を積めば俺はまだまだ上へ行ける。それにィ、何かと強い方がいずれできる弟分にも兄貴の威厳ってやつを示せるしな。』

『弟分…?』

『あーこっちの話だ、それよりその特訓…早速明日から始めようや。』

『お、おうお手柔らかに頼む。』

こうして、ジュラ一行は各々出航までの時をクイーンの一味とともに過ごすこととなったのだった。

 

数日後ー

『クイーン様、ちょっと入りますぜ。』

パラミツがあの闘いで建て付けが悪化した木製のドアを開け、部屋の中に入る。

『おっとかてぇ…ここも修理しないとダメっすねーって、なんだイオンちゃんもいたんですかい。』

机に散らばった機械部品を端に押しやり、額を突き合わせて広げた何かの図面と睨めっこをしていた2人が顔を上げる。

『はーい、お邪魔してまーす。』

『ええ、スターフルーツのボディ設計を手伝ってもらってるの。あなたたちの弟は完璧に仕上がりそうよ。』

『そうですかい、楽しみにしときますよ。…まずは先日要請しておいた燃料と資材が届いたんで、明日にでも研究所の再建に取り掛かれますぜ。一緒に国王からの文書も送られてきたんですけど、それによれば先日の騒動に関してとやかく言うことは無いし、詮索もしないとのことです。周辺の街には適当なニセ情報を流しておくとか。』

『それは助かるわ、外部の者に研究所を破壊された上その侵入者に支給された燃料の横流しまでしてるなんて知れたら解体刑に処されても文句言えないわよ。尤も、あの王なら代わりに何要求してくるかわかったもんじゃないけど。』

『ウチの国にゃ解体刑はありませんぜ。10年前に廃止されました。』

『ものの例えよ、それもこれもあの不審者が介入してきたからで…ま、結果的にこうして助かってるからいいけども。』

『うへへ〜お世話になってます。』

『報告は以上です。そんじゃ俺、次の料理当番なんで失礼しやす。』

『ハイご苦労様。』

ドアが閉まり、その内側では再びスターフルーツ降臨計画が進められるのであった。

 

所内全域にスピーカーから食事の準備ができたことを知らせる鈴の音が響き始める。

『んお、もうそんな時間か。オイジュラよ、疲れたし続きはまた後にしようぜ。』

『そうだな、俺ももう限界だよ…何しろアンタ容赦ってもんがねーんだもん。』

『容赦はしてねーが手加減はしてるんだ、文句言ってんじゃねーや。』

『しっかしこの部屋丈夫だな、何してもぶっ壊れねーぜ。アンタたちのボディを壁と同じ材料で作れば何にも負けないんじゃねーの?』

『その発想は無かった、硬すぎて動けない気もするが。…たしか、西の方から呼んだ金属職人に造らせたとか聞いてるがな。』

『ふーん…ところで、ズバリ俺の訓練の成果は出てると思うか?』

『さあ?』

期待して聞いてみたジュラだったが、冷たいほどあっさりした返事に少し肩を落としつつ食卓へと向かうのだった。

 

 

さらに数日後ー

数日間放置されたことで少し葉っぱを被ったイオンフライヤーの前でジュラとイオンが話をしていた。

『どうだ?ちゃんと燃料満タンにしたか?』

『うん、補充用までクイーンさんに工面してもらっちゃった。』

『意外に気前いいなぁ、俺はまたてっきり恨み買ってるもんかと思ってたがそうでもなかったのか?』

『クイーンさんは根っこがいい人だからね!』

「よく会って10日ぐれーの相手について断言できるな…お人よしも大概にしねーと碌な目に会わないぞ?』

『ふっふっふ、私が信じるのはいつだって自分の声さ!(キメ顔)それはそうと、あの人の本心は昨日も徹夜して一緒に図面を描いた私にはちゃんとわかってるよ!多分!』

『そーかい、道理で靴下が左右別々なわけだ。出発前にちゃんと仮眠取れよ。』

『アレ?』

出発を数時間後に控えた朝のことであった。

 

一方こちらでは薄暗い部屋の中でクイーンとコード卿が机を挟んで対面していた。

『それで、あのオモチャ…いや、発明品のメカニズムは大体わかったわ。ありがとう。』

『それはよかった。私は機械に関してとんと素人だからね、うまく伝わって何よりだよ。』

『素人がこんなもの作れるわけないでしょうに、ほんとおちょくられてる感が拭えないわ…ていうか、説明するの遅すぎない⁉︎あなたここに2週間近く滞在してるんだけど‼︎』

『そりゃあ話したらここにいる理由がなくなっちゃうからね、それに秘密ってものは焦らされるほどより甘くとろけるように熟成されるだろう?』

『このタダ飯食らい…はぁ、とにかくもう聞きたいことは無いからとっとと帰って頂戴。断るなら摘み出すわよ。』

『手厳しいなぁ、まぁ私にも待つ弟子はいるからね。彼等が干からびない内に帰らなきゃ。』

コード卿の体が溶ける様に椅子からこぼれ落ち、ドアの前で再び同じ形に形成される。

そのままノブに手を掛けて捻ろうとしたその時、彼は何かを思い出した様にクイーンの方へと振り向いた。

『…何?まだなんかあるの?』

『1つ大事な話を忘れていてね。むしろこっちを話しに来たぐらいの特大のヤツを。スターフルーツくんのことだが、初仕事はとんでもなく大きいものになるよ〜ウン。じゃ、頑張って作ってあげてね。』

突飛な話に困惑するクイーンをよそにコード卿はニッコリと笑い、ドアのすぐ横の壁の中へと溶け込む様に姿を消した。

『…………ドアくらい開けてきなさいよ…』

 

 

東より風速2m/s・天気は快晴、飛行船の離陸においてなんら問題の無い天候であることを風見鶏は宣言していた。

『それじゃ、色々お世話になりました。これからも2人でスターフルーツさんを完成させましょう!』

『そのための無線番号交換だからね。ま、あなたたちの賑やかさ、嫌いじゃなかったわよ。』

イオンの手元にあった無線機が1人でに起動し、音声が発される。

『ヨウ、ひすてりっくむち女。すたーふるーつノ頭脳でーたは確カニテメーのこんぴゅーた二返シトイタゼ。後、同ジ人工知能トシテMMCM-2543領域カラMMEP-9966領域マデヲ見直スコトヲオススメスル。ヨリ思考ガ柔軟ニナルダロウヨ。』

『それはどうもご丁寧に…でも、いいのかしら?そんなこと教えちゃ、更に強力な兵器ができちゃうわよ。』

『ハン、国ノ兵器開発ヲ邪魔スルヨリャ助言シタ方ガ心象イイダロ?コイツラガ中央連合敵ニ回シタラ命ガ何十だーすアッテモ足リネーヨ。ナンダカンダ色々迷惑カケタカラナ、ワビトシテ活用シテクレヤ。』

『賢明ねぇ。あなたたちも精々くたばらない様に気をつけるのよ?…また訪ねて来なさいな。』

『はい!チョコレートとジュースを用意して待っててください!』

『う〜〜ん、強欲。嫌いじゃないわぁ。』

 

2人の男が対面し、張り詰めた空気の中で少し離れた場所で1人の男が座っている。

相見える2人の内、1人は剣を、1人は両の拳を構えていた。

突如、座った仮面の男が右手を高く上げる。

号令がかかるかどうかのタイミングで対面する2人は己の力を存分に解放した。

『始めッッッ!』

ほんの数秒間の激突にも関わらず、2人は風を巻き起こし何十回と金属音が鳴り響く。

合間を縫って放たれる魔法を一方がかき消し、その隙を突いて体重を乗せた剣閃を放つもう一方の隙を裏拳で狙う勝負。

それを制したのは拳の男であった。

上からの打撃で地面に激突する相手を見て、男は右拳を突き上げ勝利を誇示する。

『ぃよぅし、また俺の勝ちィ。また一歩高みへ到達しちまったかぁ〜』

地面に這いつくばっていた剣の男も服についた砂埃を払い落としながら立ち上がった。

『ペッペッ、砂噛んじまったよ…はぁ、結局一回もアンタに勝てなかったか。自信無くすぜ。』

『気にすんなよな、実際にお前と闘った俺が言えることが2つある。1つ!お前は弱い!2つ!だが、確実に手合わせするたび成長していた!お互い力つけてまた闘ろうや。』

2人は再戦を誓いガッチリと握手を交わした。

『暑苦しいねぇ、ヴァニラが楽しそうで何よりだが。ところでジュラ、さっきランスから入った通信によればもうそろそろ飛行船が離陸できるとよ。油売ってると乗り遅れるぞ。』

『おっと…そりゃマズイな。じゃ、名残惜しいけど行くとするか!』

『俺も料理についてもっと語らいたかったが…ま、生きてりゃまた会う機会もあるだろ。』

『そんときゃもっと腕前上げとくよ、またな!』

ジュラが駆け出し、既にエンジンが温まっている飛行船のドアに飛び込み、しっかり施錠する。

『あ、そういえばまだジュラ乗ってなかったんだった。いやー危ない危ない。』

『忘れてたのかよ…ヒデェなぁ。』

『ごめんごめん、さあ離陸するよ!掴まって!』

最初の離陸よりイオンの操縦技術も成長したらしく、イオンフライヤーは穏やかに大きな振動も無く離陸に成功した。

『ホイ、オ疲レサン。自動操縦に切リ替エトイタゼ。手振ッテクルダロ?』

アミンの言葉が終わらない内にイオン達3人は窓へ向けて駆け出していた。

『女々シイコッタナァ。コノママ濡ラサレ続ケルナラ舵輪ノ交換モ遠クナイナ。』

進路をJB街へと向けながら、アミンは無断で中止する形になった飛行船の審査はどうなったかと勘案していた。

 

 

 

 

 

結果から言うと、イオンは勝手に審査中の機体を動かしたことで大目玉を食らい、同乗者のジュラとランスもキツく注意された。

しかし、審査自体はカペート支部長の判断によりペナルティ無しでの合格となったらしく、世界飛行車協会公認第3種飛行船を示す魔法印が機体の舳先にしっかりと焼き付けられ、晴れてイオンフライヤーはどこに出しても恥ずかしくない飛行船となった。

後で支部長がコッソリ教えてくれた話では、連絡していないにも関わらず本部の方から審査を通すようにとの異例の指示が降りたらしい。

彼女の話では恐らくもっと上からなんらかの圧力がかかったのだろうとのこと。

どうやら先日の騒動の件は一から十まで筒抜けだったようだ。

そして、こんな雑な形での贔屓は間接的な口封じといったところだろうか?

結局、注意は街に着いてから日を跨ぐまで続いたが、最後には『良い旅を!』の一言で切り上げられた。

そして翌日、イオンも加わった3人で改めて爆裂魔記念館を訪れる。

到着するなり館長からお礼を言われ、入館料を免除されたことで面食らう3人だったが展示自体はそれぞれの心に刻みつけられるものであった。(尚、お土産の爆裂魔の杖レプリカを手に取ったらしっかりと4200コンスを要求してきた。抜け目ないジジイだ。)

その後は通りでやたらと美味い「マジェランアイス」とやらの屋台を見つけたり、街を一望できる高台で柵に立って写真を撮ろうとしたイオンがストロボに目をやられて落っこちそうになったり、とにかく話題に事欠かない1日であった。

だが、イオンとジュラは明日にはこの街を出て、次なる旅路を行く。

それは、戦友ランスとの別れを示していた。

船に帰還した3人はなんだかんだ言って名残惜しいのだろう、夜も更けたというのに全員がテーブルについて談笑していた。

『まったく、あそこで俺が余所見してたら今頃お前全身バラバラでお陀仏だぞ?無鉄砲も大概にしろよなー。』

『うーん、耳が痛いなぁ。でも、細い場所ってなんか乗りたくならない?』

『イオン君は少年の心を忘れないね…私も、子供だった………』

ランスが何故か遠い所を見つめ出したとき、時計から日を跨いだことを告げるフクロウが飛び出した。

『ヨルダゾー、ネロー、ネヤガレー、ネロッツッテンダヨー』

『…もうこんな時間か、そろそろ寝ないと明日に障るね。』

『え、でも…もう少し喋ってませんか?ほら、次はいつ会えるかわからないわけですし!それに…』

『イオン、そんなに別れが惜しいなら出発を遅らせればいいだろ。』

『…ダメ、それをやっちゃうと私全部がダメになる気がする。』

『だったら、未練がましいのは無しにしろよ…お互い違う道を行ってる以上しょうがねーだろ…』

『でも…でも…寂しいものは寂しいよ。ジュラだってそうでしょ?』

『俺は…別に…気にしねーよ…多分…』

沈痛な雰囲気を打ち破る様にランスが手を叩く。

『別れを惜しんでくれるのは嬉しいが、そのために夜更かしして体壊しちゃつまらない。世界は広いようで狭い、縁あればまた会うこともあるさ。今夜はゆっくりお休みよ。』

『でも、もしその縁が無かったら…』

『ああ、気休めにしかならない考え方かもしれないね。だが、事実は消えないし変わらない。少なくとも私は君達と寝食を共にし、肩を並べて闘ったこの2週間をこれから先絶対に忘れることは無いし、誇りに思うだろう。私達はこれからもずっと無二の友、これじゃ不満かい?』

『〜〜〜〜ッ、わかりました。ランスさん、今までありがとう。』

目尻に涙を滲ませながら笑顔を作るイオンの姿は声こそ震えているが、別れをしっかりと受け入れたことを感じさせた。

『こちらこそ、ありがとう…そうだ!友情の証に私の秘密を1つ君達と共有させてもらってもいいかい?』

『?…大丈夫ですけど、それって話しちゃっていいんですか?』

『俺も別に大丈夫だけどよ、それって知ったらなんかの組織に命狙われるとか無いよな?』

『その点は心配無いよ、君達に知ってもらうのは言ってしまえば単なる私の本名だからね。…私はランス、ランス・ロングレンジ。生まれはサーペルタ、訳あって故郷を捨て放浪の旅を続ける咎人だ。』

『ああ、そういやフルネーム聞いてなかったな。でも、名前くらいで大袈裟な…』

『ふふ…それがそうでもなくてね。一般に世界の多くの地域では、名を隠す者がフルネームを伝える時はその相手に最大限の敬意を払う時とされている。私はジュラ君の剣技、勇気、意思…そしてイオン君、いや。』

ランスが徐に立ち上がり、座ったままのイオンの前で恭しく跪いた。

『へ?ちょ、どうしたの⁉︎ランスさん!』

『イオン船長の覚悟、度量、慈愛に心の底から敬意を表したい。私は君達の高潔なる精神を尊敬するよ。』

純粋な敬意に当てられ照れながらも誇らしげなイオンとは対象的に、ジュラはどこか恥を感じている自分に疑問を覚えていた。

思考を巡らせ、程なくしてその理由に行き着く。

それを意識する前に言葉は口を衝いて出ていた。

『俺も…秘密がある。ランス、今のアンタに対してコレを隠したままってのは不誠実だ。言わせてもらいたい。』

『そんなことは無いよ、さっきのは私がどうしても言いたかっただけで、君まで明かす必要は…いや、失礼した。聞かせてもらうよ。』

ジュラの真剣な目を見てそれが単なる便乗ではないと悟ったランスが横槍を詫びる。

『ありがとよ。…実は俺………人間じゃないんだ………!』

宣言とともに変身魔法を解き、角と翼・尻尾を露わにする。

『あっ、うん、そうなんだ。……………やっぱり。』

ランスの反応は思ったより淡白であった。

『アレ⁉︎なんか反応薄くね⁉︎今結構重大な発表したはずなんだけどなぁ⁉︎てか、今やっぱりって言った⁉︎いつ気づいたのぉ⁉︎』

『いやまぁ、最初に会った時から薄々気づいてたし…突然どこからともなく剣を出したり時々シッポが生える人間はいないんじゃ無いかなぁ…』

『え?尻尾出てた?いつ?』

『落としたフォーク拾う時とかかな。』

『しまったぁー!ついいつものクセでやっちまった!てことは俺が悪魔ってことも気づいてたのか⁉︎』

『いや、それは知らなかったけど…悪魔って魔界に住んでると言われるあの悪魔かい?』

『紛れもなくそうだよ、やっぱこっちじゃ珍しいのか?』

『珍しいなんてものじゃないよ。582年の地魔間交流断絶以来悪魔が地界で目撃された例は50件に満たないんだ。種族を隠すという君の選択は正解だね。私の知ってる例では、罠にかかった悪魔が裏社会で髪の毛の一本残さず解体されて売買されたことがあると聞いている。悪魔の体を求めて表には出せないことをしてる魔法組織なんて両手の指で数えきれないほどいるし、油断は禁物だろう。』

『マジで…?地界こっわ…ってこっちきてから結構な人数に見せちまった気がするぞオイ!もう夜もおちおち眠れねーじゃねーかぁ!』

『おおお、落ち着いてジュラ!大丈夫だから!トトルスの人達みんないい人だから!』

『そ、そうだよ。君の変装は完璧だった!うん間違いない!』

『みみみ、見破った本人が何言ってやがる!チクショー!俺は生き延びる!バラバラ死体になんぞなってたまるか!』

それからしばらくは騒がしかった飛行船内であったが、1時間もすれば3人分の寝息が聞こえ始め、壁から伸びた触手によって電気のスイッチが静かにOFFへと切り替わったのだった。

 

 

 

 

『うぁー、変な姿勢で寝たから首痛い…』

『右に同じく…』

『左に同じくだね…』

結局、彼等は騒いだそのままに椅子や床で寝落ちしたため節々が洒落にならない痛みに苛まれていた。

『ああ、そろそろ出発の時間だね…行き先は決めてあるのかい?』

『はい…次は地底の「ヒノ国」に行ってみようかと。』

『なるほど、あそこは暑いから水を切らさない様に気をつけなよ。…それじゃ、名残惜しいがしばしお別れだイテテッ!』

『締まらねーなぁ。昨日の深刻な雰囲気がウソみたいだ。』

『別れなんてのはこれぐらい気楽でいいのさ。ジュラ君、君の旅には困難が付き物だろうが目的が叶うことを心より応援しているよ。イオン船長、君が冒険の果てに何を見るかはわからないが、それがなんであろうと君だけの財産となるはずだ。…どうか君達の旅路に幸多からんことを。』

ランスがドアを開け、飛行船の外へ出る。

扉が施錠され、発進した飛行船が芥子粒より小さな点になって青い空に吸い込まれてゆく。

男はそれをずっと見送っていた。




次回から新章、書き終わんのに何年かかるかなぁ。

登場人物

コード・フェイス卿
一部界隈で名が知れ渡っているつかみどころのない奇人。
最大の謎である一つしかない目については皆既月食に合わせて望遠鏡を購入したかったが思ったよりだいぶ高価だったので目を大きくしたとのこと。(本人談)
ちなみに視力は1.7(自称)
自分で「卿」と名乗ってはいるが、別に爵位は無い。

用語集

カタミチ屋
神歴6年の世界会談によって設立が決まった暗部組織。
世界全体の利益のためにあらゆる仕事をこなす。
構成員は普段別の職に就いている。

混丁字
コガネチョウジノキの花を乾燥させた香辛料の一種。
特徴は肉類の臭み消しと口蓋に響く様な刺激。
原産地では胃薬としても使用される。

カリママ
夏に肉厚な果実をつける木。
名前は武里国の古い言葉で「おかず」という意味。

マジェランアイス
マジェラン公国で誕生した世にも不思議な半液体アイスクリーム。
原料はトナカイの乳であり元々は雪の中に埋めた桶で保管する狩猟民族の保存食としての側面が大きい。

ヒノ国
軍事力に於いては世界一の地底にある国。
住民の9割以上は地底人であり、主な産業は鉱物採掘と加工。
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