魔剣王正伝   作:プルプルマン

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最近舌が痛いなぁ


華彩流の章〜Welcome to Underflower〜
ヒノ国へ行こう


飛行船イオンフライヤーは現在JB街を離れ、バグショット区を抜けるために進路を南西にとってゆったりと航行していた。

風は若干出発時より強くなったものの、揺れが強くなるといったこともなく平穏そのものである。

『みんなお疲れー、しばらくは特にやることもないからくつろいでていいよー!アミン、2時間くらい操縦よろしく〜』

『リョーカイ。』

船体が安定したことを確認したイオンがアミンに操縦を任せ椅子に腰掛ける。

『ふむ、俺は一応外壁に目を出して警戒しておこうかな?また驚異が来ないとも限らないからね。』

『あ、じゃあカブさんはそれお願いしまーす。』

『いやいやいや、ちょっと待てい。今アンタなんつった⁉︎目を?出す?いつの間にそんな意味不明な特技増やしてんだよ⁉︎』

『いやーキミ達が研究所内で色々してた時暇だったものだから、ちょいとばかし練習したら感覚器官を増やすことに成功してね。スゴイね生命。』

『アンタ…ますますわけのわからない存在になったな…イオンはよくこんな珍事をすんなり受け入れられるもんだよ。あ、そういやイオンに聞きたいことがあったんだけどいいか?』

『いいよー、スリーサイズ以外ならなんでもドンとカモーン。』

菓子皿のバタークッキーを詰め込みすぎてハムスターの様になっていたイオンが、牛乳で膨らんだほっぺたの中身を流し込み、ジュラの方へと向き直る。

『誰も興味ねーよ…と、聞きたいことってのは次の目的地についてだが、ヒノ国ってのはどこでどんなとこなんだ?俺たちは何をしにいくんだ?』

『ヒノ国ってのは地底にある国でねー丁度ここの真下を掘って行ったら国の端っこに着くかな?ってぐらい大きい国だよ。まあ入口は一箇所しかないから当分はそこ目指すことになるかなぁ。そのまま飛んだら1週間ぐらいで着くけど、どうせならどっか寄りたいかも。』

『なんと、ヒノ国かい!あそこはいいところだよォ〜何分暑い、熱い、暑すぎるからね。普段からマグマを泳ぐ我々でもあそこの最奥部を通る時は熱中症に気を使うくらいさ。』

『そりゃあヤバそうだな、しっかり水を確保しとかねーと。てか俺やカブさんはいいとしてお前はそんなとこで生きていけるのか?』

『ふへへ、ご心配ありがとう…しかし!私はもう完璧な対策を講じているのだよ!まだ完成してないけど!あと、何しに行くかなんだけど…まずはこれ見て、おじいちゃんが取ってた新聞。』

イオンが差し出したのは恐らく一面に掲載されていたであろう新聞記事のスクラップであった。

その見出しにはでかでかと『火山噴火連発!終末は来たれり⁉︎』とセンセーショナルに銘打たれていた。

白黒の写真には青空をバックに煙を噴く山とその斜面を流れ落ちる光る液体が捉えられている。

『最近…といってもここ2ヶ月くらいだけど、世界のあちこちでずっとどこかしらの火山が噴火し続けてるんだって。』

『そりゃあ大災害だな。同情するぜ。てか、そんな時期に地底の国に行くとか控えめに言って自殺志願者みてーなもんじゃないのか?』

『そだねー、飛行船登録しに行ったときも掲示板に今はヒノ国へ行かない方がいいよって書いてあったし。』

『しっかり警告されてんなぁ、流石にやめといた方がいいんじゃねーたの?そんな急ぎの目的なのか?』

『まぁ…この時期しかできないことには違いないかな。私はね、ズバリ宝探しをしたいの。』

『宝探しぃ?なんだ、ダイヤモンドでも探すのか?』

『それだけじゃないよ、火山の噴火は大地の流動、地底に埋まってるもの全部が動き出して地上に出てくるでしょ?宝石、埋蔵金、超古代文明の遺物!どう?ツルハシ振りたくなってこない⁉︎』

『面白そうとは思うが命を賭けるにはなぁ…ま、イオンが行きたいなら好きにすりゃいいんでねーの。船長はお前だしな。』

『ありがと〜ジュラ!進行方向はヒノ国として…それじゃまずは手近な「レプティル地区」の「ケイマーデ市」に行ってみよっか、旅はじっくり行かなきゃね。カブさんもそれでいいですか?』

『もちろんさ。俺もあの懐かしき溶岩を浴びたいと思ってたところでね。』

『決まり〜2日間の空の旅をお楽しみあれ〜』

イオンが地図を畳んで本棚にしまい込む。

カブウは久々の溶岩浴を今から心待ちにしている様だった。

『なあ…1つ聞いときたいんだけどさぁ…』

『なんだいジュラ、スリーサイズ以外なら教えてあげようじゃあないか。』

『…それ、どこをもって認定するんだ?…じゃなくて、アンタ壁から動けないだろーにどうやって溶岩に浸かるんだ?まさかイオンフライヤーごと浸かるとは言わねーよな。』

カブウは突きつけられた残酷なる真実を前に悲しみに打ちひしがれ、声も上げず慟哭した。

 

 

ここはケイマーデ、親切と暴力の街…今日もそこらじゅうの路上で賭け試合が行われ、血飛沫が飛び散っている。

それはルール無用、武器あり、急所攻撃ありのデスマッチ(ただし憲兵が来たら即終了&撤収)だ。

中でも1番薄暗く、阿片の煙がうっすら漂うその小道で1人の新人闘士が頭角を表していた。

『またまたKO勝ちだァァァ!強いっ!強すぎるぞこの男!彗星の様に現れた彼の名は魔拳王ハクア!俺の名を刻んで帰れと言わんばかりに拳を突き上げているゥ!彼こそが地上最強なのかァー⁉︎』

その闘士の正体はご存知ジュラである。

到着してすぐにカツアゲに遭遇し、その連中をぶちのめしたらなんやかんやで路上試合に出ることになったのだ。

路銀も得られて住民からの敬意も得られると考えれば悪くない条件ではあったが、問題は…

『やべぇ、やめ時がわからん…流石に40連戦は疲れてきたぞ…』

チラリとイオンの方に目をやる。

彼女は毎回ジュラにオールインしているためか、溢れんばかりの紙幣が詰まった袋を両手に提げていた。

いつのまにかどこかから調達してきたサングラスをかけている。

儲かってるイオンには悪いが、そろそろ辞めさせて…

『しかし、みなさん!この男を倒さずして最強を名乗ることが許されるのか?いや許される筈がない!我らがチャンピオン!200戦無敗の男!チェイン・ヴァイパーが来てくれたァァァ‼︎』

小さな路地に収まりきらないほどの歓声が爆発し、満ち溢れる。

見物客が誰から言うともなく作り上げた花道を堂々と闊歩してきたのは分厚い黒とブラウンのコートを着こみ腕に傷だらけの鎖を巻きつけた青年だった。

しかし、その立ち姿は隙だらけであり、細かな動きから伺える力量はよく見積もってできる喧嘩屋の域を出ない。

目の前の男が猛者揃いのこの場所でどうやってトップに立ったか、その過程が読めないのだ。

それが、逆に不気味だった。

突如、ジュラの顎に衝撃が走る。

その理由を考える暇すらなく彼は無様に地面を転がった。

『出たぞ出たぞ!チャンピオンの十八番、芸術的なまでの不意打ちだっ!』

途端、ブーイングと歓声が入り混じる。

一歩遅れて試合開始を告げるゴングが鳴らされた。

腕に巻かれた鎖が解け、チェインはそれを全力で振り下ろす。

幸い回復が追いついたジュラはなんとか横に転がりつつ回避し、一瞬の差で石の道を打った鎖が火花を上げた。

『こ、コノヤロー、いきなり不意打ちかましやがって、汚いぞ!』

『汚い上等、卑怯結構!それがここのルールだぜアマチュアくん。』

『んだと〜?…てか、てめーの持ってるそりゃなんだ?お家じゃチワワでも繋いでんのか?』

悪態の応酬を繰り広げながらジュラは自身のダメージを確認する。

テクニックの割にそれは軽微なもので、一瞬ぐらついた脳もすでに思考を取り戻していた。

『にしても、今のふわふわパンチがチャンピオンなんて笑わせるな‼︎今日は調子が悪いって仰りたけりゃ帰ってもいいんだぜ?』

実際、拳の威力も彼の動き自体もこれまでの闘士とそう変わるものではなく、そのどちらもにおいて上回る者が数人はいただろう。

だからこそ、その一撃が読めなかったのが嫌に不気味だったが。

『言ってくれるなぁ…後悔するぜ?』

そこからの数分間はあまりに残酷で、日常に闘争が組み込まれている観衆にすら思わず目を背ける者がいるほど一方的な蹂躙といえるものだった。

的確に下腹部や鼻っ面など急所を打ち抜いてくるチェインに対してジュラの繰り出した突きや蹴りは掠りもしない。

さして重くない攻撃とはいえ何十回とベストタイミングで受けていいものでは無く、徐々にダメージが蓄積しているのは明らかだった。

気持ちばかり焦っていくジュラが魔剣を使ってしまおうかと本気で考えだした時、ゴングが鳴り響く。

『やはり強いぞ我らがチャンピオン!圧倒的な試合運びです!さてさて皆様、闘いは正しく絶頂といった様相ですが、ルールに従い一旦2分の休憩を挟ませていただきます!当然ハクアはダメージを残したまま次のラウンドに向かわねばなりません。』

『ジュ…ハクア〜大丈夫?』

『む…無理かも、もう魔法とか剣とか使っちまっていいかなぁ⁉︎』

『正体バレるよ⁉︎抑えて抑えて…あ、でも私1つ気づいたことがあってね…』

ジュラとイオンが数度言葉を交わし終えた時、試合再開が告げられる。

『さあ!闘士の2人とも息は整ったかな⁉︎優雅にカフェオレを嗜むチャンピオン・チェインに対し、ハクアはお連れのレディとお話し中だったようです。うらやましいねェ〜この色男!』

ジュラとチェインが互いに一歩前へ出る。

『2人で何の相談してたんだ?ボコボコに負けた後慰めてもらうってんならいーい宿紹介してやるぜ?壁は薄いし多少トコジラミは出るが。』

『下品な奴だな。安心しな、滅多打ちにされてそいつらと同衾すんのはてめーの方だ。少なくとも俺達じゃない。』

『減らず口だな、そいつがいつ命乞いに変わるか見ものだぜ。』

ゴングが高らかに鳴り響いた。

『左目も〜ら…』

『右!』

チェインの声に割り込んでイオンが叫ぶ。

ジュラの右拳が突き出された。

大声に驚きつつも冷静にカウンターの蹴りをジュラの側頭部に喰らわせ着地するチェイン。

倒れるジュラに追撃をかまそうと鎖を構えた彼の足に焼け付くような痛みが走った。

『ィツッ…なんだこりゃ⁉︎いつの間にやられた⁉︎』

脛からの出血を確認したチェインは慌ててジュラから距離を取り警戒を張り巡らせていた。

『確かにあの攻撃はいなしたはず…女の指示に隠れて何かしたのか?そもそもあれは指示?何かのフェイクなんじゃ…足痛え…攻撃が見えなかった⁉︎』

彼は最近の試合で全くと言っていいほどダメージを負っていない。

故に、未知のダメージによって激しく精神と思考が揺れ動いていた。

明らかに動揺したその様子を見たジュラは揺れる頭を押さえながらもほくそ笑んでいた。

どうやらイオンの予想は的中していたようだ。

恐らく奴は魔法か能力か、何らかの手段でごく近い未来の結果を見て動いている。

イオン曰く、攻撃の予備動作が起こる前やフェイントを仕掛ける前にはすでに迷いなく回避行動をとっていたとのことで、行動の結果を知ってるとしか考えられないそうだ。

だからこそ、予想外はたとえそれがどんなに小さなものであれ毒矢となって思考をかき乱す。

罵り合いが成立したことから思考までは読めていないと予想したイオンからの指示は、自分が適当に指示を飛ばしてるフリをするから相手の攻撃を角で受けてほしいというものだった。

今使っている変身魔法は物の本質を変えるものではなく、あくまで表象を偽装するだけの単なる認識阻害に過ぎず、故に角も尻尾もちゃんと存在するし機能する。

予想は大当たり、条件はほぼ五分に持ち込んだはずだ。

『どうした?足が痛いんならママに軟膏でも塗ってもらうか?』

『舐めんなよクソが…俺はチャンプだぞ…』

『ああ、明日からは単なるチンピラだけどな。』

イオンの飛ばす指示モドキに従ったり従わなかったりしつつ攻撃を繰り出すジュラに冷静さを失いつつも自分を信じようとするチェイン。

そのまま続けていれば身体能力で勝るジュラがいずれ制するのは確実だったが…

突如、チェインが鎖を纏めてジュラの顔に投げつけ目眩しとした。

『うぷっ、しょうもない小細工しやがって。奴はどこに…‼︎』

チェインは視界を奪ったジュラを無視して観衆の中の一点、イオンの元へと駆けていた。

『しょうもない小細工で悪かったな!まずは厄介な女から仕留めることにするよ!ココにゃ観客を攻撃しちゃいけないなんてルールはないからなぁ!』

チェインの拳がイオンの目前まで迫った時、ゴングが鳴り響いた。

観衆の何人かがざわめいている。

『イヌだぁぁーー!イヌが来たぞーー!』

殺しすら容認される路上ファイトの唯一のルール、それは憲兵とは絶対にカチ合わないこと。

これもまた日常なのだろう、人の群れは焦りを漂わせながらも的確に分散して路地から去っていく。

『さ!私達もさっさと撤収しよーてっしゅー。』

『お、おうそれはいいけどなんかタイミング良すぎるような…』

『そりゃ憲兵さん呼んどいたの私だし。もっと正確に言うなら電話鳴らしてくれたのはアミンだけどねー』

『そ、そうか…200万コンスもあった賭け金が無くなっちまったがよかったのか?』

『あ、儲け分なら心配しないで、ちゃんと受け取ってきてるから。これでしばらく路銀には困んないかも。』

『たくましいヤツだなぁ…』

ジュラとイオンはその後得た金で街を満喫し、荷物を積んで再び飛び立つのだった。

尚、201戦目にして実質的な敗北を喫し、チャンピオンの座を追われたチェインが逃げ出してきた奴隷の女の子と共に占い師としてレプティル地区を駆け巡る冒険を行うことになるのはまた別のお話…

 

 

 

 

更に3日後…

『結構飛んでたな、ここがヒノ国か?』

『ううん、ここは「ウドンゲ」。「エントプロク文化財保護区」の調査拠点だね。なんでも20年くらい前にすごい魔法の痕跡がある遺跡が見つかって急遽作られたんだって。』

『へぇ…随分でかい拠点だな。トトルス村より人いるんじゃねーの?』

『んー、そうかもー』

イオンが呪文の書かれた石板の写真が掲載されたパンフレットから顔を上げ、操縦桿を握る。

『よーし、着陸するよー!』

僅かな振動の後、エンジンが停止し足元の大地を感じられる様になる。

『到着!ココを最後の中継地点とします!』

『お疲れ様、留守番はしておくからゆっくりみてくるといいよ。できればフライドコウモリを買ってきてくれると嬉しいな。』

『なんじゃそりゃ?聞いたこともねーぞ。』

『知る人ぞ知るウドンゲ名物さ。予々一度口にしたいと思っていてね。ジュラも一緒にどうかな?』

『なんか共喰いみたいな気分になりそーだな、遠慮しとくよ。』

ジュラが周囲の砂埃が収まったことを確認し、イオンフライヤーのドアを開けるとやたら視線を感じる。

当然といえば当然で、無骨な飾り気の無い調査用飛行船が並ぶ中に派手に彩られた異物が降り立ったのだ。

彼等は良くも悪くも目立ちまくっていた。

『なんか…事故現場でも見る様な目で見られてるんだけど…』

『大丈夫だよ、ちゃんと着陸許可は貰ってるし。あ、係のひとだー』

イオンが見た方向からやってきたのは一枚の紙を咥えた大きなフクロウであった。

フクロウは機体の魔法印を10秒程見つめた後、ジュラ達の前に降り立ち書類を突き出した。

『えーと、もしかしてココの飛行船管理ってコイツ?』

『そうだよ、ちゃんと名札つけてるし。』

イオンがさらさらと書類にサインしつつ当然と言わんばかりに答える。

よくよく見れば確かにフクロウの首に空路出入管理官ボーディと書かれた札が下がっている。

視線に気づいたフクロウは名札を咥えて掲げウインクしてみせた。

どう反応するか迷うジュラを尻目にフクロウはイオンから書類を受け取ると一礼して飛び去っていった。

『よーし、じゃあまずは腹ごしらえね!面白い話聞けそうなお店あるといいなぁ。』

『とは言ってもあくまで調査拠点だろ?そんなに店とか無いと思うが…』

『うーん、観光客向けの店は見えるけどどうせならもっと調査の人達が使ってるみたいなトコがいいなぁ…』

『となると向かうべきはやっぱああいうとこか。』

ジュラが親指で指し示した裏路地にイオンは笑って賛成の意を示した。

明るい表通りとは対照的な裏路地を彷徨うこと約20分、彼等は若干端が欠けたハンバーガーの看板を掲げる店の硬い椅子に腰掛けていた。

周囲の客は全員遺跡関連の調査員であるらしく、耳に入ってくる情報も遺跡やその調査のことばかりだ。

中でもホットな話題はやはり火山活動であり、その大部分は遺跡の損壊や落盤事故等明るいとは言えないものだった。

これからその渦中も渦中に飛び込む上でなんでもいいから情報が欲しいということで2人は注文した料理が届くまでの間、隣のテーブルに着いていた紫ポンチョの男に話を聞くことにしたのだった。

『突然すみません、やっぱり噴火って深刻なんですか?』

『ああお嬢さんお嬢さんお嬢さん、まずはな・ま・えだよ!名乗らなきゃあ。』

『あ、ごめんなさい。私はイオン・アイシクルです、ココの関係者じゃ無いんですけど、見聞の旅をしてます。』

『いいね、自分はマナナンガル。生業はトレジャーハンター…至高の夢追い人というわけさ!』

どうやら2人はまたもやどうしようもなく変な男に話しかけたらしい。

ジュラは一応男を警戒して剣をいつでも抜ける様に集中する。

『うおー!トレジャーハンター!いい響き!どんなもの見つけてきたんですか⁉︎』

『聞いちゃう?聞いちゃう?そりゃもう聞くも涙語るも涙の冒険譚がいっぱいあるともさ。特に「モッルスカ」で伝説の腕輪を巡った死闘に参戦した時は中々手応えあったなぁ。私無くしてあの勝利は無かっただろうねぇ。』

『きゃー!聞きたい聞きたい!』

『それもいいが、今俺たちが聞きたいのは火山活動に関する情報なんだ。俺の名はジュラ、何か知ってることがあれば教えていただけるとありがたい。』

このままではどう転がっても話の収拾がつかなくなると判断したジュラは強引に割って入り話の軌道を元に戻した。

『なんだつまんないの…情報ねぇ、旅人サンなら王宮広報見てりゃ充分だよ。…いや、一個それに載ってないやつで気になることがあったなぁ。噴火だとかそれに伴う地鳴りの中心地がしょっちゅう移動してるのさ。時には移動中だってハッキリわかる時もある。』

『それって…そんなおかしなことなのか?』

『考えてもみなよぉ、光る電球が動くのとはワケが違う。大地すら破壊する巨大なエネルギーを放つものが移動してるんだ。巨大精霊か神話的存在か…なんにせよかなり生物的な動きをしてるよ。』

『そんなすごいのが居るならもっと騒ぎになってもいい気がするんですけど…』

『大方調査機関に箝口令でも敷かれてるんじゃない?自分も言ったところで新聞とかカタミチ屋が来て面倒になるだけだから言うつもり無いよ。』

『けどよ、それじゃ被害が拡大するばかりなんじゃ…自然現象じゃなくて生物が原因なら排除でき…』

会話を遮る様に金属のトレーがジュラ達のテーブルに置かれ、音を立てる。

文句を言おうとしたジュラだったが、喉まで出かかった抗議の言葉は料理を運んできた中年女性の威圧感に完敗してダッシュで気管に戻らざるを得なかった。

『さっきから呼んでるよお客さん!オニオン&ビーフバーガーのシャリアピンソースとウドンゲ式クラムチャウダー、それにチキン&チップスで間違いないね⁉︎』

『アッ、ハイ…』

『ごゆっくり‼︎』

女性は嵐の様に荒々しく、しかし猫の様に厳かに次の客の元へと向かって行った。

『アハハ、丁度掻き入れどきだから鬼気迫るって感じかな。さて、自分は連れとの約束があるしそろそろ行くよ。じゃ、自分の話を聞きたくなったらいつでも追いかけておいで。』

マナナンガルは皿に乗っていたフライドチキンの骨をまとめて噛み砕き、怪物じみた笑みを浮かべ席を立った。

『アディオス!』

ジュラとイオンが目の前の奇行に言葉を失っていることを知ってか知らずか男は軽く手を振って店を後にしたのだった。

『へ…変人だ…なんで俺たちが行くとこって悉くあんなのがいるんだろう…』

『さぁ…とりあえず、冷めないうちに食べちゃおか。いただきまーす。』

『そうだな…いただきます。』

味は美味かった。

 

 

 

『ただいま〜』

『ん、おおー帰って来たかぁ。もうちょいと遅くなると思ってたよ。どうだい、楽しんできたかい?』

『それが…まぁその、タイミングがな…あ、そうそうこれが注文のフライドコウモリだぜ。たっぷりバレルサイズを買ってきた。』

『おおー!ありがたいねぇ。実に美味そうじゃあないか。ところで、タイミングってのは…』

『いやーイオンが回ろうと思ってた遺跡がよ、全部落石だとか不審火で閉鎖されててなぁ…結局食べ歩きしかしてないんだ。』

『まーよく考えたらどこのお店もやたら人多かったしね…こういうことも旅の醍醐味ってやつかな。』

『それは残念だったね。ま、今日はパーっと騒いで忘れようじゃないか!』

『明日は明日の風が吹く!よーし、とっときの瓶空けるぞーっ!』

『おいおい、呑み過ぎんなよ?』

この町に漂うどこか重い空気を吹き飛ばそうとするように宴は進み盃は乾く。

結局日を跨いでなお騒ぐ声は止まなかった。

フライドコウモリは意外と美味かった。

そして翌日…

 

 

『えーと、どこに書けばいいんすか?ああ、なるほどココに日付と目的地を…それで、え?責任者のサイン?……あー、そいつ今動けないんで俺が書いてもいいですか?あ、そうですか、ありがとうございます…』

大きいとはいえフクロウである管理官の目線に合わせて座り込んで書類の手続きを進めているのはジュラであった。

全ての手続きを終え、書類を管理官に渡すと機体を停めていた装置がするりと外れた。

『うおっ!これもあんたが…どうなってるんすか?』

管理官はウインクした後に一礼し無言で飛び立った。

少しの間そちらを眺めていたジュラだったが、すぐに踵を返して船内へと向かう。

ドアを開けた彼は先程まで寝こけていたイオンが起きたことに気づく。

『ああージュラ…おはよー』

『ああ、おはようさん。若干おそように片足突っ込んでるけどな。もう出発できるけど操縦は…いや聞くまでもねぇなこれ。』

『うん無理〜お願いアミン…』

『ヤッパリコウナッタカ。ホラミロかぶサンヨ、私ノ言ッタ通リダロ?コレデ賭ケハ私ノ勝チダナ。』

『うぐー、悔しいなぁ。これがシンギュラリティか…』

『ナンカ違ッテンゾ…えんじんモアッタマッタシソロソロ飛ビ立ツゼ。今日ハ気流ガ安定シテネェカラ喋リタイコトアンナラ今ノウチニイットケヨ。』

『じゃあこれだけは言わせてくれ。俺の寝間着よ!死なないでくれーっ!』

イマイチ締まらない雰囲気の中、飛行船は浮上を開始し昨夜の事故で瀕死のジュラの寝間着(洗濯済み)が気流ではためいたのだった。

 

 

 

2日後…

『ここがヒノ国か…一面に広がるマグマの海…襲い来る猛烈としか形容できない熱波…そのどちらもが…無いじゃねーか‼︎』

イオンフライヤーが降り立った場所は鬱蒼と茂る森林の中に作られた小さな都市パミスであった。

ジュラの一人芝居に驚いてか周囲にいた羽虫が一斉に飛び去った。

『こらこら、あんまり私の餌…じゃなくて友人達を虐めないでくれ。』

『今確実に餌って言ってただろ!…いや、あまりにイメージと違ったもんだからつい。』

『まーここはヒノ国唯一の地上都市らしいし、あんまりそれっぽくは無いよねぇ。もう気温33℃あるけど。』

『地下はもっと暑いだろうな…ここで体慣らしていくのか?』

『ううん、今日中には潜ると思う。ここでやるのは装備のお披露目だね。』

『前に言ってた対策とやらかな?ズバリ、仕上がりの程は?』

『完璧オブ完璧!こちらがその完成品になります‼︎』

イオンが大きめの麻袋から取り出したのは青色と銀色で塗り分けられた奇妙な質感のツナギと…何やら物騒な口径の大きい銃だった。




チェイン君はこの物語を作るにあたって一番最初にできたキャラです。

登場人物

チェイン・ヴァイパー
生まれも育ちもケイマーデの喧嘩屋。
能力であるか不明な類稀なる勘の良さを持っており、それはちょっとした未来予知とすら言えるほど。
黒いコートは本人の趣味であるが、暑い時はかなり痩せ我慢している。

ボーディ
調査拠点ウドンゲにて空路出入管理官を務めるオオサトリフクロウのオス。
年齢は13歳で、ウインクは無愛想と言われてから意識的にやるようにしている。
優秀。

マナナンガル
コンビを組んで活動しているトレジャーハンターで、多くの経験を積んだ実力あるベテランだが、それゆえか常に自己陶酔しているのが玉に瑕。
武器は巨大な鉤爪だが、明らかに小さすぎるスペースから取り出したりする。

用語集

レプティル地区
全体的に荒れた雰囲気が漂う地域ではあるが、実際の所は意外に住みやすい。
自宅に時たまかかる血飛沫を許せるならではあるが。

ケイマーデ市
名物は裏通りへ行くとすぐ見られるストリートファイト。
どれだけ盛り上がっても憲兵がくれば勝負はお流れ、賭けは無しとなるのだ。

ウドンゲ
エントプロク文化財保護区に存在する唯一の居住区。
定住しているのは主に考古学者や発掘業者であり、一攫千金を夢見るトレジャーハンターや観光客が日常的に訪れる。

エントプロク文化財保護区
神歴1933年それまでノーマークだった場所から大量の魔法遺物が発見されたことで制定された文化財保護区。
悪質な盗掘者は現場判断で処刑することが認められている。

モッルスカ
正式名称は中央連合王国モッルスカ地区であり、かつて千年王国と謳われたモンゴウ王国が併合された際に現行名称へと変わった。
遺跡の量は同国でも随一。

パミス
ヒノ国唯一の地上都市且つ種族としての人間の割合が最も多い町である。
周囲の植生・気候は熱帯雨林に近く、市街まで進出した植物が半ば秘境のような雰囲気を醸し出している。
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