魔剣王正伝   作:プルプルマン

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卵たけえ
ポケモン面白れぇ
課題もなにも進まねえ


洞窟いいね

早速イオンがスーツを広げて解説を始める。

『えーと、これが耐熱スーツで、動力源は着てる人の魔力を使うよ。使い方はここのボタンのところを…』

『いや、ちょっと待ってくれ…話の腰を折って悪いが、この物騒な形状のモノはなんだよ?まさか先っぽからひんやりした風でも出てくんのか?』

ジュラが手に持つそれは珍妙な形状をしてはいるものの、どう見てもメタリックな光沢を放つライフルのような銃火器であった。

しかし、これほどのサイズの銃(カシパンを除く、あれは色々とおかしい)をイオンでは扱えるか怪しいところがあるし、ジュラに至っては使い方すらおぼつかない。

使い手として適任がいない以上こんなものを用意しても持て余すだけに思えるが…

『ああ、これね。扇風機じゃないよー、え~と使い方は…まあまずは実際に見てもらおうかな。』

ジュラが手を差し出されるままに珍妙な銃をイオンに渡すと彼女はおもむろにそれを両手に構え、銃口を背後の木の枝に向けて引金を引いた。

すると、一瞬の後銃口の先端付近の空間が光り輝きみるみる内にエネルギー球が生成されていく。

それは見る者に瞬きする暇すら与えないうちに一本の線へと変わり、青々とした葉を数枚打ち抜いたのだった。

『ま~こういう感じ。名付けて「イオンコメット」!持ち手の魔力を効率的に熱エネルギーに変換して発射する仕組みだよ!』

『へぇー、結構面白いんじゃないか?ちょっと使わせてくれよ~』

『んへへ~もちろんいいよ~もともとジュラに使ってもらうつもりだったし、今のうちに慣れといたほうがいいかも。』

『そうなのか?俺はまたてっきりお前が持っとく用なのかと。自衛的な意味で。』

『う~ん、そうしても良かったんだけど耐熱スーツにも魔力を使うこと考えると、私がどっちも使うためには今から数年かけて魔法使いになる特訓をしなきゃいけないレベルで魔力が足りないんだよねぇ。てことで遠慮なく使って!』

『ま、そういうことなら受け取っておくぜ、ありがとな。じゃ早速…』

あくまでクールにふるまいながらもジュラは16歳の少年でたいがいかっこつけたがりであった。

イオンコメットを受け取るや否やトリガーガードを指にかけて数回回転させ、片手に構えて続けざまに3回引金を引く。

解き放たれた光線はいとも簡単にそこいらの街路樹より太い木の幹をへし折った。

赤熱しながら倒れる木を背後にジュラがニヤリとほくそ笑む。

『なるほど、使い心地はいい感じだな。どうだイオン?こういうの初めて触ったにしちゃ結構うまいんじゃねーか?』

イオンも自分の作品が上手く使われている様子に上機嫌なようだ。

『うん、使い手の魔力次第で基礎威力が上がる仕組みだからやっぱジュラに渡して正解かも~あ、そうそう使ってもらう上での注意点なんだけど…』

イオンは軽い口ぶりで話をつづけながら、まるでそうすることが当然であるかのように銃身を掴んで口を自身の胸に突き付けた。

いつもに輪をかけて意図のわからない彼女の行動にジュラの脳が応答を停止する。

『は?』

『今ジュラが間違えて引金を引いちゃったら私はどうなると思う?』

『何やってんだバカ!死ぬぞ!?』

一瞬遅れて思考を取り戻したジュラが慌てて銃口をイオンと正反対の空へと向ける。

『うん、死ぬよ。それは指をちょっと動かすだけで私みたいなただの人間なら誰でも殺せる道具。まあ、そんなこと守ってもらってる私が言えた立場じゃないし、今更そんな甘いことも言ってられないけど、その引金は軽いものじゃないって覚えてくれてたらうれしいかな。』

そう言って微笑む彼女の瞳は普段のポワポワしたものとはうって変わって真剣そのもので、初めて出会ったときを想起せずにはいられないほど吸い込まれそうな黒色をしていた。

『お…おう、わかったよ…』

途端にいつものポワポワした空気が戻ってくる。

『んへへ、よかった~じゃ、張り切って地下に潜るぞー!』

『いや、物資の補給はどうしたんだい⁉︎』

こうしてイオン灼熱採掘隊御一行様は(物資補給後)待ちに待った地底の冒険へと繰り出したのだった。

 

 

 

 

 

 

同時刻…ヒノ国深部では軍服を着た数人の男たちがせわしなく動き回っていた。

『軍曹どの~ホントにこんなとこキャンプ地にするんすか?さっき炊事場に飯盒置いたら地響きで全部ひっくり返ったんですけど。』

軍曹と呼ばれた男は部下の愚痴をさらりと受け流す。

『場所を吟味して置きなおせ。少尉殿はお疲れだ、決して起こさないようにな。…カラッパ2等、調査機器の調整は?』

『「龍脈写」の部品が一部高温でダメになっていますが他の問題はありません。修理に半日ほどいただいても?』

『許可する。では、機材が整い次第調査を開始する。それまで、各自十分に休養をとるように、以上!』

血のような溶岩が明るく照らし出す地底のなお暗い場所で『何か』は密やかに、しかし確実に進行していた。

 

 

 

 

 

『ていうか、意外に入国規制とかされてないんだな。関所の検査もザル同然だったしさぁ。』

『ホントよね~せっかく船の中も掃除したってのに見に来てくれなかったなぁ。』

傾斜のある洞窟内をじりじりと下降していく飛行船の中ではイオンが口にくわえたストローを上下に振りながら地図を眺めていた。

『まあ見られていいこともないしよかったんじゃねーの?てか行儀悪いからそれやめなさい。』

『ふむ、俺が考えるにこの警備体制もお国柄じゃあないかな?「地底人」という種族全体の特徴でもあるが、この国ではおおざっぱで豪快なものが好まれると聞く。治安維持機構は問題が起きてからねじ伏せることを方針とし、それを成す力を持ち合わせているとかなんとか。』

『ソレ、よく国として成り立ってんな…ん?今なんか外で何か動いたぞ?住民か?』

何かを目にとめたジュラが窓に駆け寄る。

しかし、彼の目前に広がるのはわずかに赤い光を放つ生命の気配を感じさせない洞窟の壁面のみであった。

『どれどれ~?』

『いや…単なる勘違いか?』

『いや、間違いなくいるよ。あそこをよく見てごらん。』

カブウが触手で指し示した岩陰を二人が目を凝らして見ると、わずかに動く人間ほどの大きさの動物がいることが判別できる。

それはツルリとした背中からほのかな赤い光を放ちながら長い首で周囲を見回し警戒している様子を見せていた。

『なにあれ!トトルス村の近くじゃあんな生き物見たことないよ!』

『あのでっぷりとした食欲をそそるボディ…間違いなく「ツチドラゴン」の類だろうね。あれは最高にジューシィなんだ。特にここのは地熱で程よく柔らかい。』

『腹が減るレビューどうも。せっかくだから一匹捕まえてこようか?』

『うれしい申し出だが、遠慮しておこう。ここは重要な空路だし、なによりツチドラゴンは家畜化されているものも多い。トラブルは避けたいだろう?』

『正論だなぁ、まさか家畜を襲ってたヤツに言われるとは思わなかったが。』

『ハハハ、本能のままに喰らう野生動物を諫めるなど誰にもできないからね!…おや、二人とも上を見てごらん。また風変りなのがいるよ。』

言われるままに視線を上に向けた二人の前に現れたのはオーバーハングした壁面から垂れる無数の白い紐のような物体だった。

しかし、それは勿論ただの紐などではなく…

『うお、動いた!トカゲだったのか…』

視線に気づいたのかその生物は一斉に壁面に張り付いて隙間や物陰へと這って潜り込んでしまったのだった。

『うーん、正確に言うとヤモリの類だね。恐らく「ハングマンカギオヤモリ」かなぁ。尻尾の先端にある鉤でどこにでもぶら下がってる愉快なヤツさ、まあ食いでが無いから私はあんまり好きじゃないが。』

『どこまでも食う話してんなぁ。しかし、魔界もたいがいおかしな場所だが地界も変なのがいるもんだ。』

『ここの連中は我々含めて皆厳しい環境に適応するために進化してきてるからね。個性派なのさ。』

話をしていると徐々に洞窟が広がり明るさを増していく。

どうやら到着は近いらしい。

イオンが操縦桿を握り慎重に角度を変えていく。

機体の進行方向がだんだんと平行に近づいてゆき完全に平行となったそのとき、急に視界が明るく開け暗闇に慣れていた一行は目を思わず細めた。

歓迎の目くらましの後見えてきたのは広大な地下空間の上に燦然と輝く太陽のような球体とそれに照らされ活気づくヒノ国王都「キガン」の街並みであった。

『うわぉ、黒い岩の家!煙と湯気!ホントに地底都市なんだ!』

『うおお…なんで地下に太陽があるんだ?太陽って分身できんのか?』

『懐かしきかな、我が魂の安息地!空調の効いたここからですら心地よい熱を感じさせてくれるじゃあないか!』

飛行船発着所は地上との連絡通路から出てすぐ西にあり、数分ほどで到着できそうだ。

イオンが着陸申請の通信を入れている間ジュラは見ているだけで汗ばんでくるような眼下の街並みを眺める。

金属の精錬所と思しき場所から立ち上る炎が彼の瞳に揺れていた。

 

 

 

 

無事着陸に成功したイオンフライヤーであったがそのドアは固く閉ざされ開く様子はない。

というのも、そのドアの前に身の丈が2mを越える筋骨隆々の大男(地底人)が二人山脈のようにそびえたっているのだ。

しかも、その頭上には帽子を突き破って伸びる3本の角を備え、腰からは大木さえ易々とへし折りそうな尻尾が伸びている。

船内では男たちの放つ圧にいつ船を出たものかアミンを除く全員が浮足立っていた。

『おい、誰が開けるんだよ…もう10分はこうしてるぜ…』

『それは…まあ、一番強いジュラに一番槍の名誉をね…』

『てめーさらっと押し付けようとしてんじゃねーぞ!!ええい、こういう時はじゃんけんだじゃんけん!恨みっこなしの一発勝負だぞ!ほら、カブさんも参加しろよ!』

『ええ~俺もかい?』

『たりめーだ!さいしょはグ〜‼︎』

…結果はイオンの一人負けであった。

『『健闘を祈る!』』

『ちくしょう、死んだら化けて出てやるー!』

イオンがおそるおそるドアへと歩み寄りまずは扉越しでのコミュニケーションを試みる。

『やははーこんにち…』

『問う、お前は人間か。』

『え…そうですけど。』

『今すぐ空調を切り許可を出すまで待機せよ。ドア・窓の開閉は許さない。』

それだけを伝えると男たちはくるりとドアに背を向けた。

面食らいつつもとりあえず空調のスイッチをOFFに切り替え、おとなしくしていることにした一行だったが、ものの5分もしないうちに嫌な蒸し暑さが伝わり首筋に不快感を覚え始める。

30分が経過した頃にはジュラはTシャツ一枚に着替え、ぬるくなったサイダー入りのコップを握りながら机に突っ伏していた。

『……俺たちいつになったらでれんだろーな…このままじゃ蒸し焼きだぜ…』

『……………』

同じくキャミソール一枚に着替えたイオンは水の入った洗面器に顔を突っ込んだまま何も答えない、恐らくもう死んでいる。

一人だけ元気はつらつとしているカブウは上機嫌に鼻歌など歌っていた。

じっくり蒸される彼らの耳に救いの一言が飛び込んできたのはそんな時だった。

『出てヨシ!』

その言葉が終わらないうちに駆け出すジュラと蘇生したイオン、二人がほぼ同時にドアを押し開け外に飛び出すと完全に思考の外に追いやっていた灼熱の空気が一気に彼らを包み込み…意外に平気だった。

『暑っ…いことは暑いけどいうほどのもんじゃないな!』

『むしろ部屋の中より涼しいくらいだねー、風もあるし!』

久々の新鮮な空気を楽しむ二人に男たちは粛々と手続きが済んだこと、肌が弱い場合は丈の短い服は推奨されないこと、船内は熱がこもるため変形するような物品はしまっておくこと等を通達していくが耳に届いている様子はない。

顔を見合わせる男たちにカブウが声をかける。

『失礼、必要なことなら俺に話してくれればあの二人にも伝えておこう。今の彼らはさっきまでの蒸し焼きで脳みそまでとろけ切っているんだ。』

物珍しい喋る剝製に男たちは少し驚いた様子だったが、プロらしくそのまま話を続ける。

『そうかい、えーあと伝えることは過度に危険な奥地へ立ち入らず「烈火軍」の指示には従うこと。以上だ。』

『理解した、しっかり伝えておくよ。ところで…何故我々に船内で待機を?』

『3年前「マジェラン公国」の皇太子が飛行船を降りた時、温度差で倒れた。それからこうなった。マヌケな理由で戦争を起こすわけにもいかん。』

『なるほどね…そりゃあしょうがないや。』

ジュラとイオンは焦がれた新鮮な空気にテンションが上がりすぎたのか熱中症になりかけた。

 

 

 

『…以上が彼らから聞いた注意事項だ。なにか質問は?』

『烈火軍ってなんだ?憲兵隊みたいなもんか?』

『ヒノ国お抱えの軍隊だね。生前にじゃれたことがあるけど無茶苦茶強いよ。』

『おっかねー、なんとしても変身魔法解けないように気をつけねーとな。イオンもトラブル起こすなよ?』

『わかってるよー、ところで船の中暑くなるってどのくらい?』

『さあ?具体的な温度は聞いてないなぁ。』

それまで無反応だったモニターに光が灯りアミンが言葉を発する。

『光の反射率・素材の温度伝搬・内部の気流…諸々計算スルト最高81℃ッテトコロダナ。…フザケテヤガル。』

『本格サウナって感じだねー、出発する前に冷却機能の点検しなきゃ。』

『念入リニ頼ムゼ。おーばーひーとハゴメン被ルカラナ。』

『んじゃあ準備が終わる頃…時計でいうと午後5時ごろ出発でいいか?目的地は決めてあるんだろ?』

『うん、目指す場所は温泉地帯「ユノハナ」!湧き出す温泉を嗜みつつ宝探しもザックザックよ!』

『悪くないねぇ、して移動手段と日数は?』

『ドラゴンを借りて乗ってくよ。地盤の具合にもよるけど大体丸2日ってところかな。』

『気に入った。それでいこう。』

窓とドアを全開にしても尚暑い船内で冒険者達の準備が進行していた。

 

 

 

ジュラ達は現在、キガンの外れに位置する「養竜場」にて移動用の二足竜を乗りこなすのに悪戦苦闘していた。

ジュラは角の無い頭で持ち上げられて宙を舞い、イオンは太い尻尾に吹き飛ばされて看板に引っかかっている。

『あちゃー、ここまで好かれねえ客も珍しいなあ。前世は大ムカデかなんかだったんじゃねーの?』

『いやーすみませんなぁ、うちのヒヨッコどもがみっともない姿お見せしまして…』

オモチャ状態の2人を見て和やかに管理人と談笑する巨大なカエルの顔。

ジュラはこの現状の情報量の多さに許容限界を迎えていた。

『ええい、色々突っ込ませろやぁー!まずなんでオブゥ…コイツらはムベッ…こんな荒れてるんだよ⁉︎よく今まで人死にが出てないな⁉︎』

2頭の竜に踏みつけられながらジュラが不満をぶちまける。

それに対する管理人の返事はあっさりしたもので…

『コイツらは生来大人しい品種なんだがなぁ。お客さんがよっぽど気に触るツラしてんのかもしれん。』

と自らの額にある角をイジりながら言うばかりだった。

『そりゃあ悪ぅございました!生まれつきこの顔だよチクショウ!てか、なんでカブさんがここにいるんだよ⁉︎いつの間に動けるようになったんだ⁉︎』

『今更かい?さっきまで3人で談笑してたじゃないか。』

『ああ自然すぎてまっっっったく違和感無かったよ!また珍生物度増しやがって〜!』

『お褒めに預かり恐悦至極だね。なんかこう腹の下に力込めたら壁から外れて触手で歩けるようになったんだ。日々の成長を感じるよ。ま、腹どころか首から下はもうないがね、ハッハッハ。』

いつもに輪をかけてわけのわからないことを言うカブウ相手にジュラは思考を諦め、竜達が満足するまで引き摺り回されることにしたのだった。

なんやかんやで3人が養竜場を発つのは午後9時となる。

 

手懐けるのには苦労させられたが、その分竜の足取りは軽快で複雑な形状の岩や砂礫を難なく踏みしめて洞窟の中を駆けて行く。(カブウは触手を小刻みに動かす高速移動スタイルとやらで並走している。わけがわからない。)

手綱を握りしめた手から伝わる振動は穏やかなもので、乗り手に見えているような悪路を全く感じさせない。

端的に言えば驚くべき快適さであった。

『どうだーイオン、ちゃんと乗りこなせてるか?落とされそうになったら言えよーこっち乗せてやるから。』

『なんとかねー!ああ、前見れない〜〜』

体の一部と見紛うほどがっしりと竜のスラリとした首にしがみついたイオンが震える声で返事をした。

今にも死にそうな顔ではあったが、とりあえず返事はできることに安堵すべきだろう。

『まだ出発から2時間も発ってないぞー頑張れよー……にしてもやっぱ落ちつかねぇなぁ。時計じゃもう真夜中だってのにずっと太陽がギラついてやがる。』

帽子の鍔を少し押し上げたジュラの顔を強烈な光が照らし出す。

地底の太陽は未だ燦然と輝きを放っていた。

『仕方ないね、ここにおける日没は3日に一回それも9時間だけらしいよ。』

『体内時計がイカれちまうぜ。なんとかならねーもんかな…』

『こればかしはどうしようもないかな、アイマスクと仲良くやってくれたまえ。そうだ、暑さは平気かい?』

『ああ、そっちは大丈夫だ。長袖だから堪えるかと思ったけど…湿度の問題か?』

今回は過酷な自然環境に身を置くということで元気印のイオンも含めて十分丈夫な服装で臨んでいる。

『それは何より…さて、まだ日は高いけどそろそろ睡眠をとるかい?ちなみに次の日没は半日後だよ。』

それから30分もしないうちに携帯式のテントが1つ組み立てられ、ジュラとイオンは慣れない乗竜の疲れかすぐに寝息を立て始めた。

 

外で2頭の竜と談笑しつつ見張り番を務めていたカブウの耳にテントの入り口が持ち上がる音が届く。

『おや、お早い目覚めだ。もっと寝てていいんだよ?』

『イオンに角蹴飛ばされて目が覚めちまった。あいつの寝相の悪さを侮ってたぜ…そういや今何時だ?』

『えーと、午前5時過ぎだね。』

『ということは、えーと…6時間も経ってんのか…やっぱ全然わからねーな。』

『日没まで後7時間弱…もう出発するかい?』

『足元が暗くならないうちにソイツらの扱いに慣れときたいとこはあるけど…イオンがいつ起きるかわかんないからなぁ。』

噂をすればなんとやら、2人の会話かテント内に差し込んだ光かはわからないが何かが彼女を夢の世界から呼び覚ましたらしい。

『んーー、2人ともおはよー』

『ハイ、おはよーさん。ねぼすけイオン。』

『ねぼすけてないよーだ。あ、カンちゃんテーちゃんもおはよー』

呼びかけられた2頭の竜が僅かに首をもたげ、特に用事で呼ばれたわけではないことを察すると気だるそうに再び皿に盛られた餌に視線を戻す。

実に可愛げのカケラもない態度だ、嫌いじゃない。

ちなみに彼等の正式名称はカント08(ジュラの乗ってる方)とステガ15(イオンの乗ってる方)である。

『いつの間にそんな渾名を…まぁいいや、朝メシ食ったら出発するぞ。テント畳んどいてくれ。』

『『りょ〜かい!』』

午前7時、トマトをふんだんに使ったトルティージャを堪能した彼等は再び動き出した。

 

広大な洞窟を駆けて駆けて駆けて…数時間が経過しただろうか、乗竜に慣れ始めた一行の足取りは軽く散々苦労したイオンでさえも前を見据えて走れるほど技術が向上していた。

『いやー私達だいぶ上手になったねーーどう?もうちょっと飛ばしてみる?』

『やめとけ、勢い余ってつんのめった先が溶岩溜まりでしたなんてことになっても助けてやんねーぞ。』

『んもーつれないなぁ。男は黙ってスピードキングだよ。』

『なんじゃそりゃ…って、なんか変な音聞こえないか?』

警戒して歩みを止めた彼等の耳に確かに届く重低音。

それはさながら大地そのものが歯を食いしばって重いものを引きずっているようなイメージを伴いつつ身体の芯へと響いてきている。

だが、辺りをいくら見回しても音源らしきものは見当たらない…にも関わらず、その音はより大きく存在感を増していくばかりだった。

自然と背中合わせで固まる2人と3頭、最初にその正体に気付いたのはカブウだった。

『上だッッ!上を見てみたまえよ!』

そこには少しづつ少しづつ両側から伸び、太陽を覆い隠そうとする巨大な岩の蓋とでもいうべきものの姿があった。

『なんだありゃ…洞窟が太陽を飲み込もうとしてやがる…』

『まさしく天変地異といったカンジだね…いやはや改めてみるとやっぱ気圧されるなぁ。』

『これがあの「イワト・システム」…どうやって動いてるんだろう?私もあのレベルの…』

一行は1時間以上をかけて進行した驚異の光景に釘付けになり、全てを目に収めたのだった。

イワト・システムが動作を完了すると、その直後にポツリポツリと星のような光が天井に現れものの数分で外の星空と遜色ないほどに数と密度を増して行く。

そして、瞬く間に洞窟のすべてが擬の星空に照らし出された。

『ここにゃ太陽どころか星まであんのか…これで月でもありゃ完璧だな…』

『ウム…しかし、このパンフレットによるとあれは星ではなくすべて蛍とかいう光る虫の仲間なんだそうだよ。』

『もしかしてお尻が光るやつ?だったらトトルスでも見たことあるよ!もうちょっと暑くなると毎年川に出てくるんだ〜』

蛍談義に花を咲かせながら歩みを再開する一行、その姿を薄暗い物陰から無数の目が見つめていた。

 

降り注ぐ淡い光の下を優雅に駆ける一行だったが、先頭を行くジュラはふと小さな違和感を感じ手綱を引いて竜の歩みを停止させる。

『うおっとっとっ、どしたのジュラ、急に止まったりして?危うく落馬…いや落竜?するとこだったよ。』

『悪いな、ただなんか変に饐えた臭いが…』

『目的地は近づいているんだ。温泉特有のガスの臭いじゃ…いや確かにこれはどちらかというと腹を空かせた捕食動物の臭いだね…しかもこの大地を抱く触手が感じてるよ、何者かの接近をね。』

『そういうことならやるべきことは1つだな。号令頼むぜリーダー。』

背後の岩盤に亀裂が生じる。

『全員逃げろー!邪魔だったら荷物も捨ててー!』

イオンの号令で一行が姿勢を屈め速度を増すと同時に背後で溶岩が噴き出し、その中からは厚い甲殻に覆われた巨大なムカデのような生物が姿を現した。

『ッツ…「ボルカフロットワーム」かぁ、嫌なのに目をつけられたね。2人とも顎から飛び出る牙に気をつけるんだ!ヤツは執念深いよ!』

幸いにもその生物はあまり俊敏な方ではないらしく全速力で這ってきているものの問題なく逃げ切ることができる程度であった…単体なら。

前方の地面に亀裂が生じたことを確認したジュラが慌てて手綱を引き、強制的に竜の進路を変える。

直後、地中から顔を出したソレの牙が空を裂いた。

仮にそのまま進んでいればそのイオンの身長より大きな牙で竜の胴体ごとジュラの首を撥ね飛ばしていただろう。

ジュラを仕留め損ねた狩人であったが、その攻撃は止まらない。

すぐさま対象をイオンに切り替え、牙を目一杯広げて鎌首をもたげ立ち塞がる。

彼女が挟み撃ちにされていることはジュラから見ても明らかであった。

『虫にそんな知能があるのかッ⁉︎止まれイオン!今助けるッ!』

しかし、ジュラの叫びとは裏腹にイオンはさらに姿勢を下げ、より加速していく。

『バカっ!聞こえねーのか?居合みてーに真っ二つにされるぞっ!』

その声は届いている、だがその上で彼女は己の勘に従っていたのだ。

『聞いたテーちゃん?ジュラが助けてくれるよ、頼もしいでしょ?私のボディーガード。でも、いつでもは頼れない。これから先きっと1人で潜らなきゃいけない門がある。うんうん、わかるよテーちゃんが震えてるの、私だって怖いし。でも今は任せて目、瞑ってて?』

紅玉の色を帯びた竜の瞳が瞬膜に覆われ白くなる。

その瞬間加速は最高潮に達し、その姿は最早一本の矢とすら言えるほどになっていた。

しかしどれほどの速度であろうと反応が追いつく以上待ちに徹した狩人にとって恐るるに足らない。

緩慢な動作の蟷螂でも蜻蛉を容易に仕留めうることがそれを証明している。

ましてや今回彼女らが辿らざるを得ない軌道はすでにわかっているのだ。

これほど楽な狩りは滅多にない。

馬鹿正直に突っ込んできた獲物に対して狩人は自慢の牙を振るい、アッサリと二枚おろしにした…はずだった。

だが、その牙に肉と骨を纏めて裂く心地良い感覚は伝わってきていない。

というのも、走行を保てる限界まで姿勢を下げたイオンだったが土壇場でそれよりさらに下を行き、脅威を潜り抜けるために手綱による意思疎通だけで竜との無茶なスライディングをやってのけたのだ。

ほんの少し剥がれた鱗が舞うもののダメージに数えられるほどでは無い。

その結果、狩人の牙はイオンの帽子の鍔を僅かに切り裂く位置を捉えることしかできなかった。

イオンはすぐに姿勢を持ち直し、ジュラと合流して再び加速していく。

最早勝ちの目は無いと悟った狩人達は再び岩盤の中へと潜行し、新たな獲物の到来を待つのであった。

 

 

『てめー何やってんだ‼︎危ないだろうが!』

『ごめんごめん、ジャンプして空中で無防備になるよりはいいかなーって。』

『そーゆうことじゃねーよ。ホント何のためのボディーガードだよ…ったく。そういやカブさんは?』

『え、私見てないよ?言われてみればいつのまにかどっか行っちゃったような…』

2人の背後でまたもや大地の割れる音が響き、ジュラが飛び出して来たものを反射的に切り払おうとしたその時…

『おっとタンマタンマ!これ以上切り刻まれちゃ復活できないよ。』

地中から現れたのはよく見知った剥製だった。

『何だよもー驚かせやがって、こんな時に一体どこへ消えてたんだ?』

『岩盤と溶岩の隙間を移動してたのさ。そのまま避難ついでの溶岩浴をしてきてもよかったんだけど、何分今は台座が燃えちゃうからねぇ。』

『おーおー、いっそそのまま燃え尽きちまえ。人騒がせな。』

『手厳しいなぁ。カブさんかなしい。』

ジュラから反応が返ってくることは終ぞ無く、カブウは深い悲しみに包まれた。

 

 

それから約5時間後…休憩をとりつつ竜を走らせていた一行の視界にほんの僅かではあるが立ち上る白い湯気が見え始める。

気づけば、鼻をつく腐卵臭が僅かに漂い始めていた。

『マジか、予定よりだいぶ早いんじゃあねーの?』

『いやー正直この子達のスピード甘く見てたかも…』

2頭の竜は顔を後ろに向けて得意げにジュラとイオンを見ている。

『くぅ…腹立つ顔しやがって…後で干し肉でも買ってやるから前見て走れ!』

一歩ごとに濃度を増す湯気と硫黄の匂い、地獄の楽園ユノハナはもう目の前まで迫っていた。




養竜場 二足竜レンタル料早見表
種類            一日当たりの代金
荷竜車(最大積載量5t)用   160000コンス
荷竜車(最大積載量1t)用 80000コンス
荷竜車(最大積載量600kg)用 50000コンス
騎乗(身長2.5m↑)用 要相談
騎乗(身長1.8〜2.5m)用    30000コンス
騎乗(身長1.0〜1.8m)用 15000コンス
騎乗(身長1.0m↓)用 8000コンス

お客様には竜の健康を管理し、最小限のストレスで返還する義務が発生するため、追加で2500コンスの配合飼料とブラッシングセットをお求めいただきます。(すでにお持ちの方は購入の必要はありません。)
また、お客様の過失で竜が重傷を負う又は死亡した場合はヒノ国金法第34条に則った額の賠償金を請求いたします。
加えて、期間の2倍または1年を超過しても竜の返却がなされなかった場合は盗難とみなし、地の果てまでも追い詰めて代償を支払っていただきます。
その他ドラゴンアレルギーや実体の無い方向けのプラン等相談いつでも受け付けておりますのでお気軽にご連絡ください。

登場人物

軍曹
なんかアヤシイ奴らの指揮官。
口ぶりからもっと上があることが窺えるが…?

カラッパ2等
アヤシイ奴らの工兵担当と思われる。
正式な階級はカラッパ・ウルオード2等工兵。

キガン空路出入管理官の2人
ムキムキの地底人。
趣味は2人とも同じで猫の写真集の収集。

養竜場の管理人
最近、ドラゴン飼ってるのか餌の虫飼ってるのかわからなくなってきた。

カント08
ジュラがレンタルした方。
寝ながら石を噛んで歯が数本かけている。

ステガ15
イオンがレンタルした方。
体の斑模様がパイナップルのように見える。

用語集

イオンコメット
魔力を熱エネルギーに変換する銃型変換器。
持ち手の上にあるダイヤルである程度威力を指定できる。

龍脈写
地中のエネルギーの流れを図に起こすための観測装置。
新規の鉱山開拓や大規模建築には必須。

地底人
昔から地底を住処にする有角有尾種族。
高温高圧環境に適応するため生物として極めて頑強。

ツチドラゴン
鱗王目ツチドラゴン亜目に属する生物の総称。
世界各地の地中で多様な進化を遂げ鱗王目総種数の8割を占める。

ハングマンカギオヤモリ
溶岩が流れるような高温環境を好むヤモリ。
尾の先端は鉤状で、これを利用して洞窟内での安定性を高めている。
燻製にするととてもうまい。

キガン
ヒノ国の政治・経済の中心部にして最も熱い都市。
街中に溶岩が流れる場所もあり、熱耐性のない種族には少し住みにくい。

烈火軍
ヒノ国が誇る最強の軍隊。
地底人の強みを活かし、白兵戦を基本とする。

マジェラン公国
極寒の地として有名な国であり国土の80%を永久凍土が覆っているとする説もある。

ユノハナ
原理は不明ながら500℃を超えても液体を維持する水が湧き出る危険地帯だが、好熱性の種族には好評で週8で入り浸る者もいる。

養竜場
産業のための竜を育てる施設を指す。
代表的なものは運搬用、愛玩用、食用等。

イワト・システム
地底の太陽を眠らせるために洞窟そのものが流動する大規模な魔術。
一方、大量の地下水脈を利用した圧力操作もシステムの一環であるためここまでの規模を実現できるという側面を持つ。

ボルカフロットワーム
粘性の高い溶岩の中を泳ぎ回るムカデのような生物で極めて獰猛。
ヒノ国の旅人の死因で堂々のNO.2を占めている。(NO.1は脱水)
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