魔剣王正伝   作:プルプルマン

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寒くて体が重いよぅ


ブライト隊見参

軍曹がジュラを締め上げる力はどんどん強くなり、最早彼は手も足もでない状況に陥っていた。

『別に…アンタらに敵対するつもりなんざねーよ!その剣から何を邪推したのか知らねーけどな!』

『では、その剣が上から落ちてきて俺を貫いたのも単なる偶然と?バカバカしい、そんなことが起こりうると思うか?』

『貫いた⁉︎落ちた剣がか?よく生きてんな…じゃなくて、そりゃあ何というかご愁傷様だったけどよ、本当に俺たちが意識的にやったわけじゃないんだ。信じてくれ。』

『…仮に、その妄言を信じるとしよう。だが、気づかれてないとでも思ったか?お前たちは我々を追ってきた。偶然を装い、確実に、我々がいる場所を知っていた。』

軍曹の口ぶりはあくまで冷淡だった。

『それは…こっちも遭難してんだ!生存率の高い方に縋り付くのは人情だろうが。』

『遭難…便利な言葉だ。己を弱者と見せるのみならず、敵からの情けさえ狙える。やはり後腐れのないように始末しておくべきか。』

『そうかよ…どうしてもそっちが離さないってんならこっちにも考えがあるぜ?』

『蓑虫より不自由な今のお前に何ができると?』

『こうゆうことすんだよっ!』

ジュラの目が紫に光り輝き、魔剣がふわりと浮かび彼の手元に向けて回転しつつ向かう。

狙い通り完全な意識外からの攻撃となったそれは彼を岩肌に縛る気色の悪い腕を根本から両断し、拘束を切り裂いたのだった。

イオンたちにもジュラの作戦は察してもらえたらしい。

軍曹が斬られた瞬間にはすでにピンポンスフィアが展開し、人質を取ろうと剣を抜いた軍服達も彼女達に手が出せない状況になっていた。

右手に使い慣れた魔剣の柄を感じ、肩を回したジュラは軍服達をひと睨みして切先を突きつける。

『俺たちの話聞く気ねーならしょうがねー。テメーら食料の準備と帰り道の案内をしろ!拒否したけりゃ俺が相手になってやるからかかってきな!』

軍服達は黙り込んで剣を捨て、後ろに引き下がった。

『よし、それでいい。んじゃ誰かソイツの手当てしてやんな。結構スッパリいったからすぐ死んじまうぜ…って、え?』

振り向いたジュラは困惑する。

確かに数秒前に斬られた筈の軍曹が何処にもいなくなっていた。

更に奇妙なことには切り落とされた腕や飛び散る筈の血痕すら何処にも見当たらない。

『ヤツは何処へ行った…?そうだっ!イオン、ヤツが何処へ行ったか見てないか⁉︎』

彼が軍服達を睨んだ時、イオンとは向かい合っていた。

つまり彼の背後は見えていたはずだ。

『わかんない…なんか溶けるみたいに消えちゃった…』

『溶ける…?ヤツは死体が瞬時に溶けるような種族なのか?それとも、そういう能力…?オイ、テメーらッ!どういうカラクリがあるのか答えろ!』

軍服達に叫ぶも彼等は直立不動を保ったまま、何も答える気はないと言わんばかりに蔑むような眼差しを返すのみであった。

『ッッ〜!ああ、そうかい。言っとくがなテメーら、俺は拷問だって選択肢にある男だぜ。舐めてんじゃあな…』

喋りながら一歩を踏み出したジュラの足に突如枷を付けられたかのような圧迫感がかかる。

驚いた彼が反射的に足元を見ると、地面から突き出た手が彼の右足首を万力のような力で掴み押さえつけていた。

咄嗟に剣を突き立ててその手を攻撃しようとするジュラだったが、その切先は届くことなく拍子抜けするほどにアッサリと手は彼の足首を離して地面に引っ込んだ。

鋭利な魔剣はかけられた力に従って地面に深々と刺さり、ジュラが慌ててそれを引き抜こうと意識を切り替えたその一瞬、右方の岩盤を割って飛び出した足が彼の横腹を蹴り飛ばした。

『ぐはっっ……!』

隙を縫った攻撃に為すすべなく吹き飛ばされ転がるジュラ、慌てて援護に向かおうとするイオンをカブウが静止した。

『ぐっ…まずいね、俺含めて彼等を少し舐めてかかっていたようだ。』

既に彼女達の周囲は武器を回収した軍服達に取り囲まれ、スフィアから出てきた瞬間に千切りにしてやろうとよく磨き込まれた刃が光っている。

彼等は完膚なきまでに分断されていた。

ジュラを攻撃した足に続き、地中から液体のような姿で現れた軍曹が立ち上がり地に伏せる彼を見下ろす。

『今の攻撃によりお前たちの処分は決定した。我々に対する敵対勢力とみなし現場判断で処刑する。』

『仕掛けてきたのはそっちだろーが…道理もわからないヤツは嫌われるぜ?』

軍曹はそれに答えない、必要なことだけ話せばいい主義のようだ。

じんわり痛む横腹を抑えながら立ち上がるジュラであったが、彼の頭にはこの闘いにおいて避けては通れない1つの疑問がよぎっていた。

『さっきのアレはヤツの能力か…?いやありえねぇ、能力には自身の肉体に過度な変化を齎さない法則があるはずだ。生物の特性は変えられない、それがルールッ!』

しかし現に軍曹は地面に溶け込み、手足を自在に伸縮・変形して攻撃を仕掛けてきていた。

それが幻覚の類でないのは横腹の痛みと仲間の目が証明済みだ。

ここからはどんな些細な動きも見逃せない、ジュラの集中力は研ぎ澄まされ剣を握る手は汗が産毛を撫でる感覚すら逃さずに伝えてきている。

一方の軍曹は何処か捉えどころのない足取りでジュラに接近し、彼の迂闊な攻撃を誘っているようにも見えるが…

 

2人の距離が2mを切った時、先に仕掛けたのは軍曹だった。

軍隊式の構えから繰り出される大振りの右ストレート、ややテレホン気味のそれを後ろに反って交わし反撃を試みるジュラだったが、アンドロイド達との激闘を経て成長した彼の本能は安易なその判断を許さない。

彼の思考とは逆にその両手は魔剣を防御のために縦に構えていたのだ。

結果的にそれは正解だった、拳の範囲外に逃げたにも関わらず魔剣に衝撃が走り思わずジュラは後退りする。

軍曹の手にはいつの間に何処から取り出したのやら鈍い輝きを放つサーベルが握られていた。

あの場面で下手な反撃に出ていれば胸を横一文字に切り裂かれていただろう。

ジュラはその事実に唾を飲み込み、より精神を研ぎ澄ます。

『一刻も早くヤツの謎を暴かなくては…この勝負、勝てねぇ…』

一方、隙を見せる素振りもない軍服達に囲まれたイオンは闘いを見守る中で早くも軍曹のカラクリに気がつき始めていた。

しかしそれをジュラに伝える手段は無い。

スーツに通信機能は付いているが今の彼に聞いている余裕はないだろう。

かといって直接外へ伝えようにも一歩外へ出れば微塵切りは免れない。

彼女は頭を捻った末に1つの案を思いつき、カブウに耳打ちした。

『なるほど、確かにそう考えると納得がいくしそれを伝えれば勝機も生まれるだろう…だが本気かい?気温はまだ危険圏内じゃないが岩盤は50℃近いよ?』

『うわー、絶妙にやな温度…まあ岩盤浴みたいなものと思うしかないよねー』

 

3人の軍服達が監視を続けていると、先程まで巨大なカエルの化け物と話していた妙なスーツとヘルメットの少女(といっても声からの推測だが)が突如うずくまっていた二足竜の間に倒れ動かなくなる。

『オイ、どうした?不審な動きはするなと警告したはずだ。』

『あ、ああすまないね。どうも彼女は暑さにまいってしまったようだ。手間をおかけするが、水を一杯いただけないだろうか?』

カエルの化け物が触手で助け起こしたその背中からは衣服の襟元がチラリと覗いていた。

『これから死ぬ人間に水が必要と?冗談はやめて欲しいっすね。というか、仮にくれてやるにもコイツをどけてくれなきゃあどうにもなりませんよぉ。』

軍服の1人がそういいつつ展開し続けるスフィアの表面を指で叩く。

カエルの化け物は諦めたように目を閉じた。

 

軍隊式の効率に特化した格闘技に加え、炎を纏った剣撃が伸縮自在の手足から繰り出される。

ジュラはその手数と威力に責めあぐねていた。

このままではジリ貧となるのは想像に容易い。

真っ当な剣士相手であれば考えられない角度から忍び寄る剣をなんとか返すも骨格というシステムを嘲るような姿勢から繰り出される上段蹴りをまともに受け、頭がぐらつく。

『くっそ…どーやったらその姿勢でこの威力がでんだよ…オマケに魔法も格闘も剣術でさえも余裕で俺を上回ってやがる…』

軍曹は再び捉えどころのない足取りから剣閃と下段蹴りを同時に繰り出し、ジュラは横に跳んでギリギリ回避する。

しかし、またしても考えられない角度と距離から届いた拳による突きを顔に受け、鼻血を吹きながらダウンしてしまう。

揺れる脳がトドメを刺そうと接近してくる敵になんとか対応しようと上体を起こしたその時、軍曹は青く輝く球形の空間に閉じ込められ攻撃が彼に届くことは無かった。

その顔にはジュラの揺らぐ視界でも困惑が見て取れる。

直後、岩盤を割ってカブウの触手が間欠泉のように吹き出し、中から1人の少女が転がり落ちる。

『ひぇ〜死ぬかと思った〜…あ、ジュラ!大丈夫?』

それは耐熱スーツと上着を脱いだイオンであった。

『は?え、お前あん中にいたはずじゃ…』

『ふへへ、この岩盤の中はちと熱かったわ。』

『何やってんだバカ!あぶねーだろうが、早く戻れっ…つってもコイツの部下がいんのか、クソッ!』

『落ち着いてジュラ、私は伝えにきたの。軍曹さんの秘密をね!』

『秘密だぁ?よし聞こう、すぐ聞こう。役に立たない情報だったら怒るぞ。』

『そこは安心していいよっと…軍曹さんはおそらく人間じゃなくてスライム!体内から武器出してるのも見えたし踏み込む時も体の表面が若干震えてたよ!』

『うげー、スライムか…人型のがいるなんて聞いたことも無かったが、腕切られても血の一滴すら流さなかったし一理ある。俺みたいな剣士の天敵ってわけだ。ということは有効な攻撃は…』

パリンと乾いた音が響き、軍曹を閉じ込めていたスフィアが砕け散る。

内部から剣で強引に切りつけて破壊したのだろう、戦略をゆっくりと考えている時間はないらしい。

スフィアを破壊した軍曹が剣を構え直した瞬間、徐に立ち上がったイオンがその顔に向け、いつの間にか左手に持っていたバールを振るった。

軍曹スライム説を考え出したのがイオンである以上、当然物理攻撃の効果は薄く身体能力的にも足元にすら並べないことはわかっているはず。

そんな彼女が何も考えず自棄を起こしたような攻撃を仕掛けるか?

もしやこれは偽装なのでは?

軍曹の深層心理に自分の情報は割れていないと思い込ませるための体を張った嘘なのではないだろうか?

ジュラの思考は追いついた、となれば彼が取るべき手段は1つだった。

自分からこの場に飛び込んできておいてどう見ても効果の薄い攻撃を繰り出すイオンに若干困惑しつつも一切の油断なくストレートで仕留めようとする軍曹であったが、喉元を狙ったその攻撃が彼女に届くことはなく、彼女の下をすり抜けて前に躍り出たジュラの腕に防がれた。

骨まで震える衝撃を堪えながら彼は叫ぶ。

『かかったな!【テラバチン】ッッ!』

それは、彼が今扱える中で最高位の魔法の1つであり、巨大な電力を産むものである。

体の9割以上を水分で構成するスライムという種族、血管系を持たず物質のやりとりを体組織の水分を通して行っている彼等は産声を上げた電気エネルギーにとってあまりに理想の導体だった。

故にその呪文を聞いた瞬間軍曹は初めて焦りを見せ、後ろに跳んで距離の確保を試みる。

しかし、イオンを確実に仕留めるため深く踏み込んでいたことが災いとなったか、わずかな差で一手ジュラ達が先を行った。

一瞬にして軍曹の体を電流が走り、全細胞が危険信号を痛みという形で発し始める。

明確に弱点と言える攻撃を受けた軍曹は思わず剣を取り落とし、数秒後には体表が泡立ち煙を噴き上げる死に体と化していた。

最早流動性を失った皮膚は単なる剥がれかけた樹皮のようになり、数秒後に軍曹は驚くほど軽い音を立てて倒れたのだった。

『勝った…のか?確実に電気はブチ込んでやったが…』

『わかんないけど、どっちにしろトドメは刺した方がいいと思う。たぶん…次は通じない。』

『…そうだな。【バチン・ブレディオ】』

ジュラは倒れた軍曹に歩み寄り、その体の中心目掛けて電気を帯びた魔剣を突き立てた。

電気は内部で炸裂し、倒れたモノは粉々に吹き散らされてゆく。

誰が見てもそれは決着だっただろう…しかし、彼はその手応えの軽さにほんのわずかな疑念を覚え、ほんの少し攻撃の手を緩め周囲に警戒を向けた。

それが功を奏したのだろう、地中から伸びるナイフの攻撃をギリギリのタイミングではあったが剣で防ぐことに成功したのだ。

再び地中から全くダメージを感じさせない軍曹が姿を現し、そのことにジュラもイオンも驚きが隠せない。

『テメェ…まともに受けたはずじゃなかったのか⁉︎なんで立ってられる⁉︎』

『あぁ…見事なブラフと連携だった、賞賛する。だが、俺を他のスライムと一緒にするな。表皮の下に絶縁油層を作り、そこの女がしたように脱皮の要領で地中に潜むなど容易い。』

呪文を唱えてから効果が発動するまでの一瞬で完璧に体内を作り変えたとでもいうのだろうか?

ジュラはこの時初めて真の意味で理解する、目の前の生物が明確に自身より格上の存在であると。

『そして、俺はもうお前たちを雑魚とは思わない。持てる限りの技で始末しよう。』

更に最悪なことに相手は今までがまるで小手調べであったかのようなことをのたまっている。

泥沼のような死闘を覚悟したその時、鶴の一声が場を支配した。

 

『なーに騒いでんだうるせーなぁ。こちとらずっと寝不足だぞ?』

 

その声の主に全員の耳目が集まる。

それはボロいテントの中から気だるそうに這い出てきたアイマスクの男によるモノだった。

『ジムナーコォ、何をそんな騒いでんだ?パーティーなら俺も混ぜてくれよぉ。』

『少尉殿!睡眠を妨げてしまい申し訳ありません。今、敵対勢力を始末しているところでして…というか、任務中に名前呼びはおやめください!』

『そうカタいこと言うなよ、つれないなぁ。にしても、そいつらが敵対勢力ねぇ…そうは見えないが…あ、もしかしてお前に刺さった剣の持ち主とかか?』

『その通りです。』

『なるほどなぁ、確かにありゃあ攻撃っぽかった。で、実際のところどうなんだ?』

『…もしかして俺に聞いてるのか?だったら話のわからねーコイツらより上司のアンタに聞いてもらった方がいいな。落とした剣が刺さっちまったのは申し訳なく思うが、明確な事故だったんだ。俺は自分とそいつらの身を守るため以外で悪意を持ってアンタらを攻撃したことはない、誇りに誓ってもいい。』

ジュラの返答を聞いた男はアイマスクを外して何やら考え込んでいる。

『ふむ…よし信じよう。ウチの部下がすまなかった。』

『………へ?いやいやいや、そんな簡単に決めていいのか⁉︎』

『いいだろ別に、俺コイツらの司令塔だし。それとも少年はもっとボコボコにされたいマゾヒストなのか?』

『いやそんなわけないけど、なんというかさっきまで命かけて闘ってたからちょっと拍子抜けかなぁなんて。』

『さっきはさっき、今は今。カタいこと言ってると世界に置いてかれるぞ?この瞬間も世界は回っているんだからな。さ、仲直り決したら飯だ飯〜コニワ頼んだぞー』

鼻歌を歌いながらテーブルに着いた男の奔放さに呆気に取られながらもジュラ達は促されるままに席に着いてゆく。

柔らかくなった場の雰囲気とは裏腹に思うところがある素振りで立ち尽くすジムナーコ軍曹にカブウが声をかける。

『キミの上官はえーそのー、なんというか個性的で自由な人物なのだね…』

『…少尉が仰るならそれでいい。それが…ベスト。』

『少し色々あったが…ひとまずは仲良くしてくれると嬉しいよ。』

『そうか。』

そのまま無言で歩いてゆくジムナーコの背中からは何も窺えなかった。

 

歪んで中身が煮立つ度に少し揺れる鍋を囲んで全員が和になって座る。

食器が全員に行き渡ったのを確認すると、少尉と呼ばれていた人物は立ち上がり息を吸う。

『えぇーまず俺の部下達、そして予想外の客人達、互いに少し揉めてしまったのは残念に思うがひとまずここは飯の席、多少は素直に話し合えることもあるだろう!それでは皆様お手を拝借…いただきます。』

鍋は干し肉と塩漬けの野菜を放り込んで何かの生物で出汁をとっただけのシンプルなモノだったが、それがかえって緊張の連続で疲れ果てたジュラ達の胃にも抵抗なく流し込める淡白なものに仕上がっていた。

一口、また一口と口へ匙を運ぶ手が止まらなくなる。

『うめぇ…しみるぜ…』

『そうかー、よかったよかった。ところで我々はお互いのことを知らなさすぎるなぁ。食事を味わいながらぼちぼち自己紹介でもしていこうか。まず、俺はブライト、この隊をまとめるリーダーを務めている。そしてこちらの少年が戦った彼がジムナーコ、強かったろぅ?自慢の部下だ。』

ブライト少尉からベタ褒めにされる当の本人は先程からジュラ達に一切目を合わせようとせず、1人で黙々と食事をしている。

尤も、彼がスライムだというならそこが目かどうかも怪しいが。

『そして、この3人もまた俺の優秀且つ品行方正な部下。右からカラッパ、コニワ、オリレだ。』

堅物そうなカラッパは黙って会釈し、快活なコニワはジュラ達に手を振って笑いかけた。

オリレも何か反応していたのかもしれないが、大量の毛で顔が隠れていたためそれを窺い知ることはできない。

『自己紹介どうも、恐縮の至り…俺はジュラ、いつもそこのバカに付き合わされてる旅人だ。』

『はれははかば!…………私はイオン!好奇心の赴くままにここに来ました!あと、さっきはご迷惑かけてすみませんでした!後ろの2人はカンちゃんとテーちゃんです!』

餌を頬張っていた2頭が頭を上げ、軽く会釈して食事を再開する。

『そして俺がカブウ、ちょいと前までキチンと胴体があったが色々と訳あってこうなった。別に呪いの類とかじゃないから安心していただきたい。』

その言葉にホッと胸を撫で下ろしたのはコニワであった。

『よかった〜俺ホラーとか無理なんすよ〜』

『ははは、オバケにビビってちゃあモノノフの名折れだ。精進するように!』

朗らかに笑うブライトは徐にスープを一杯飲み干し、豪快に着席した。

『いやぁ美味い!やはり現場で食うメシは格別だ。緊張とは食事における最高のスパイス、そう思わないかい?ええと…ジュラ。』

『最高のスパイスかぁ…確かにタイミングの問題として捉えるならそうかもしれない…いやでも…』

考えこみ始めたジュラにブライトは苦笑いを浮かべる。

『真面目すぎやしないかい?単なる日常会話なんだからもっと気楽にいこうよ…てかそうだ、あらすじは聞いたけどなんで君ら喧嘩してたんだい?詳しく教えてくれ。』

『ええと、貴方の部下のジムナーコに俺の落とした剣が刺さったことまではいいですか?』

『中々のミラクルだがまぁいいよ。続けて?』

『その後遭難して人を探してた俺たちがここのキャンプに辿り着いて喋ってたらお宅の部下に攻撃されたから反撃して戦闘開始って流れです。』

『なるほどなるほど…カラッパ、それで間違い無いかい?』

『ハイ、当事者である私が言うのも何ですが客観的にも概ね正しいかと。ただ1つ捕捉させていただくなら軍曹が攻撃を決意したのは我々を追跡してきたジュラ氏が落ちてきた剣の持ち主であったと判明し、敵対勢力となる可能性を危惧したからであります。』

『ウム、それは悪いことをした。彼等をまとめる者としてあらためて謝罪させていただきたい。申し訳なかった。』

ブライトが目を閉じ、ジュラ達に向けて深々と頭を下げた。

その潔さは謝られている方が何だかいたたまれなくなる程である。

『いやいや、いいっていいって…俺の剣が悪さしちまったのも事実だしよ…むしろ俺こそてめーの剣ぐらいキッチリ管理しとくべきだったよなぁ。さっきはあんなことになっちまったが、ジムナーコさん…本当にすまなかった。』

なぜか始まる謝罪の連鎖のバトンを渡され、軍曹は困惑する。

『………顔を上げろ、少尉がいいと言ったなら俺はそれでいい。その上で俺個人はお前たちを信用に値しないと思っているがな。』

まともに言葉を交わしてくれるあたり先程までより軍曹からの印象はマシになったようだ。

『仲直り成立っと…そういやジュラ達は俺の部下とまともな戦闘になってたんだよな?いやその若さで中々の手練れだ、どこから来たんだ?』

『私とジュラは中央連合プテロ地区のトトルス村です!』

『俺も…まぁこの姿になったのはそこかな。』

カラッパと何やら夢中で話していたイオンとカブウが割り込んでくる。

ごく自然にジュラの出身地を偽ってくれたのはありがたい。

『何と!意外に近場だったかぁ。それでも距離あるけど移動は馬車で?』

『基本飛行船ですねー、ここじゃもっぱらこの子達乗ってますけど。』

『レンタルの二足竜かぁ。いいね、流浪の旅人って感じだ。牧場はキガンの外れにあるとこかい?』

『あ、まさにそこです。』

『俺もカッチョいい竜飼いたいなぁ…さて、そういやジュラ達はどうしてここに?いや、別に何か疑ってるわけじゃない。ただ立ち入り禁止でコワイお兄さん達が見張ってるとこにわざわざ入ってくるからには相応の目的があるんだろう?っていう好奇心だ。』

それまでペラペラと答えていたイオンはモジモジしつつ黙り込んでいる。

さすがに『あちこち噴火してて面白そうだったので石掘りにきました!』なんて言うのは恥ずかしいのだろうか。

仕方なくジュラがスプーンを止めて口を開く。

『コイツ石掘りにきたんですよ、噴火でレア物がザックザク〜ぐらいの軽いノリで。』

よほど知られたくなかったのかイオンが肘をつねってくる、しかしなぜ体で最も刺激に鈍い部位を?

『要は盗掘かぁ…うん、ワルだ。だが、我々も目的自体は似通っている。何しろ鉱脈の調査と新規開拓の先兵だからな。』

イオンが隣で胸を撫で下ろしているのがわかる、同業者とわかって安心したのだろうか。

『あぁ、ワルといえば我々結構上手に足取り消してきたし、麦の一粒も手がかりは残してないつもりだったんだけど、よく見つけられたもんだ。』

『あーそれかぁ、あんた達ちょっと前にローストビーフ食ってません?ハーブたっぷりのやつ。その香りを辿って…』

『なんと、調査中のプチ贅沢で場所バレするとは。油断禁物だぁ。』

そんなことを話し込んでいる間にみるみる鍋の中身は減っていき、30分と待たずに空になっていた。

『くはー、食った食った。ご馳走様、今日もイイ味だった。』

『へへへ…そうでしょうそうでしょう。客人も満足してくれたようですし、このコニワ料理人冥利に尽きますなぁ。』

一言も言葉を発していない謎の人物オリレも無言のまま手元をサムズアップしているところを見ると相当上機嫌らしい。

実際コニワの料理は美味であり、設備の不十分さを考えるとその技術は驚くべきものであった。

『食後にダラダラしたいのは山々だがぁ、残念ながら我々には仕事がある。お客人達にはその間キャンプでゆっくりしてもらおうか。』

『それはありがたい、俺たち皆色々あって疲れてるからな。』

『あーでも、そのー、私も調査についていっちゃダメですか?せっかくここまで来たんだしもっと色々見ときたいなーって。』

『ふむ…イオン嬢の願いを聞いてやりたいが不可だ。こちらも仕事なのでね。』

『そうですか…無理言ってごめんなさい。』

『気にしなさんな。ああ、そうそう、これは独り言なんだが…カンテラこそあれどここはずーっと暗いから我々の後を誰かついてきてもわからないかもしれないなぁ。用心用心。』

それは実質的な同行許可であった。

その言葉が終わるやいなやイオンが早速出発の準備を始めている。

この分だとどうせ自分も強制的に連行されるのだろう。

束の間のものとなった食事休憩をせめて目一杯満喫しようと臨むジュラの耳にやや怒気を含んだ小さな声が聞こえてくる。

『少尉殿、不審者に対して少々甘すぎるのでは?我々は肩に国の危機を背負っているという…』

『わーったわーった、責任は全部俺が取るし不利益の叱責も全部俺が受ける、それで手を打とうや。スライムだってのに頭カタいぞ。』

それは耳元で囁くような会話であり、ウサギですらリスニングは困難なものだろう。

しかしジュラの耳はその中身を一言一句聞き逃すことはない、デビルイヤーは地獄耳なのだ。

しかし、いくら鉱物資源の有無が産業の明暗を分けるからといってその開拓が国の危機に関わるとは一体どれほど炙り自転車操業の国家なのだろうか?

しかもここは地底のヒノ国だ、公的な出入り口は一つしかない上その周囲は中央連合が覆っている。

その中に平然と忍び込んで鉱脈を探す彼等の正体など、どう考えてもまともにではない。

だが、この件に関しては深く探らない方が賢いだろう。

あくまで距離をおいた友好的な関係でなければ…

考え込むジュラの背中に突如重量が加わり、思わず前につんのめる。

『おぶぼっ!何すんだテメー!そのリュック何キロあると思ってんだ!』

『ごめんごめん〜でも、ほら早く準備しないと置いてかれちゃうよ〜』

『わかってるっつーの…』

それからものの数分でテントもその周りも片付けられ、一行は更なる奥地へ向けて出発したのだった。




ジムナーコの衣服は体表を変化させてそれっぽくしています。
これこそ文明社会に生きるスライムの模範ですね。

登場人物

ジムナーコ
とある国で働くスライムの軍人。
ブライト少尉に拾われ軍曹まで出世している。
年齢は現時点で5歳。

コニワ
ブライト隊の食料管理担当。
正式な階級はコニワ・シシンデラ二等栄養兵。

ブライト少尉
ブライト隊をまとめるリーダー。
本人曰く重大な任務を受けているらしいが態度は軽い。

オリレ
ブライト隊の衛生担当。
大量のヒゲは先祖にいた毛羽毛現という魔物への先祖返りとのこと。
正式な階級はオリレ・カラカネ上等衛生兵。

用語集

テラバチン
バチンの出力を激的に増した魔法。

バチン・ブレディオ
電気のエネルギーを剣に纏う魔法。
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