どれほど時間転がっていただろうか、平衡感覚がシッチャカメッチャカになるほど転がり落ちた先で薄く水が張った広めの空洞に突き当たったジムナーコの片割れは飛沫を上げながら落下し、程なくして中から2つの人影が吐き出された。
『むぉん…あーきもちわるー五臓六腑が裏返った感覚だよちくしょう。』
そのうち1つは今にも吐きそうな顔をした主人公ジュラである。
胃から食道フリークライミングを試みる中身を抑え、周囲を見渡す。
そろそろ見慣れてきたスーツがダウンしている以外はスライムの中にも仲間の姿は見当たらない。
不公平なことにこちらの塊にいたのはイオンとジュラ自身、そしてジムナーコの片割れだけであるようだ。
偏った頭数を嘆きつつ、イオンのヘルメットをポンポンと叩いて起床を促す。
『おい、起きろ。こんなとこで寝てっと熱中症になった後風邪ひくぞー』
『んあ!もう着いたの?』
『着いた着いた、ここが終点ですよっと。』
イオンがぐらつく頭に手を当てながらふらふらと立ち上がる。
彼女の無事を確認したジュラはいつの間にか人型に戻って周囲を警戒していたジムナーコに話しかけた。
『さっきはありがとな。おかげさまで俺もイオンも元気に生きてるぜ。早いとこカブさんたちの方と合流したいが…って聞いてんのか?』
『問題なく聞こえている…が、話す余裕は無い。』
ジムナーコは空洞の一点を見つめて感覚を研ぎ澄ませていた。
恐る恐る振り返ったジュラの目にも軍曹の視線の先にいるものがありありと映し出される。
それは白い丈の短い上着とズボンを着け、腰に同色のマントを巻いた大柄な男だった。
目に赤い光を灯しながら機械的な程一定の歩幅で水面を揺らす男の外見は彼等にとって初対面だったはずである。
しかし、男の本来なら手首がある場所の少し後方から真鍮色の剣に変化した右手と何より特徴のある無機質な殺意でジュラとジムナーコはハッキリと目の前の男が先程のマントの人物であると感じ取っていた。
『ジュラ、お前にも伝えておく…あの男の名はキンウ。ヒノ国1の剣士と聞くが実際の戦法は俺も知らない。油断はするな。』
『オーケイ、攻め方はどうする?』
『まずは力量と癖を見ておきたい…防御主体で崩されそうになったら即座に交代を提案する。』
『いいねぇ、安全第一波状攻撃で行こうぜ。…イオン!離れててくれ!』
イオンが駆ける水音が遠ざかるのを確認し、ジュラは強く踏み込みキンウの元まで跳躍した。
一方此方はカブウと二足竜達、そしてブライト隊の全員が落ちた場所…
彼等は全力で逃げ惑っていた。
というのも何処を向いても目を爛々と輝かせた烈火軍の兵士ばかりであり、その全員が揃いも揃って押し合いへし合いしながらどこまでも追ってくるのだ。
時に同じところを回ってみたり、時に壁の窪みに身を隠してみたり、時に死んだフリをしてみたり…
何をどうしても敵との遭遇頻度は減ることが無い。
それどころか徐々に再遭遇までのインターバルが短くなっている気さえする。
このままではいずれ追い詰められ嬲り殺しの憂き目に遭うことは間違い無いだろう。
『どうする…俺や日々大地を駆けるドラゴンはスタミナにまだ余裕があるが、訓練された軍人とはいえキミ達人間には限界があるだろう。』
『ええ、オマケにやるべきヘビーな仕事も残ってるっすねぇ。少尉殿が俺らを逃すほどの戦闘規模と考えるとここも危ないですし、何より速やかに指令をこなさなきゃあですよ。』
『ウム、俺としても早いとこジュラとイオンの安否を確かめたい。まずは互いの情報を出し合い、方針を練る場を設けたいが…中々難しそうだね。』
すぐそばを通過した烈火軍兵士の気配に対し精一杯身を縮めたカブウ(と言っても無駄に豪勢な土台のせいで全く効果は無いが)が痛感しているように、大所帯の彼等は秘密会議を行うには目立ちすぎていた。
『無理を承知で提案させていただきたい。戦力にならないうえ目立ち過ぎる彼等を一時的に逃すことはできないだろうか?』
カラッパが二足竜達の方をチラリと見つつ言う。
『…すまないがそれはできない相談だ。彼等は借り物でありそれ以前に短い間ながら苦楽をともにした仲間だ。彼等を追い出すと言うのなら我々と軍人さん方とは道を分かつことになる。』
『この状況で分散は好ましくない…鞍と手綱を外せば野生のように偽装できるのでは?奴らもわざわざ野生動物までは狩らないと考えるが。』
『できないね、彼等は改良品種だ。少し造詣のある者ならすぐに見抜けるし、仮に捕まれば虹彩から個体を識別された後処分されるだろう。』
岩の窪みに隠れながら進むにも限界がある。
そして、その限界は刻一刻と迫っていた。
『では、こうすればいい。力技ではあるが。』
ジムナーコが周囲の岩石をスライムで包み内部で破砕する。
体が黒ずむほど岩石を取り込むと、その体は一気に伸びて広がりたちまち彼等のいる窪みを覆い隠した。
すかさずオリレが無詠唱で魔法を使用して光源を作り出し、30秒程で議論には十分な密室が作り出されたのだった。
『これで通路に面した表皮を脱水すれば岩肌の再現は容易…防音はできないから話は小声でしろ。換気は適宜行うから窒息の心配はしなくていい。』
『万能な体だねぇ、実に羨ましい。』
部屋の形成が終わったところで全員が腰を据え、壁となったジムナーコを議長とした議論が始まる。
『さて、まずは今使えるモノを正しく把握したい。カラッパ二等、装備は?』
カラッパがカバンを漁りため息を吐く。
『手元に残った物は各々の標準的装備と僅かな爆薬のみであります。また、爆薬の大部分が入った袋はもう一方の塊とともに落ちたものと推測されます。』
カブウの手持ちもほぼスカンピンである。
『我々も大したものは持っていない。武器と呼べるのは小さなツルハシくらいのものだろう…そういえば軍曹殿は武器を体内に隠しておられたがその辺はどうだい?』
『幸か不幸か大部分はもう一方に流れたようだ。今はナイフ2本と弩一丁しか持っていない。コニワ二等、食料は?』
『携帯食料と水は大体こっちにありますが…問題は軍曹殿の栄養液がこっちに落ちたことっすね。向こうで戦闘が連続した場合は危険かと。』
明るい彼には珍しくコニワも渋い顔をしている。
『こちらが出せるのはドライフルーツ類や炒り豆だ、食料は俺が預かっていたから全てこちらにある。後、成分的には一応彼等の餌も可食であると申し上げておこう。』
カブウが二足竜達の餌が入ったカンを振って鳴らす。
『…向こうの俺は最悪消えてもかまわない。どうせ同一個体だ。オリレ上等、医薬品類は?』
岩肌にぶつかったのだろうか、ひしゃげて中身が垂れている救急箱を出したオリレが申し訳なさそうに首を振った。
『そうか…期待はできそうにないか…使えるものは取り出して箱はどこかの溶岩の中にでも廃棄するように。』
『ふむ…俺が見た限り少ないとはいえ物資は最低限ありそうだ。では、確認させてもらいたい。軍人さん、キミ達は一体何を追い、何を成そうとしているんだい?』
カブウの質問に静まりかえる部屋の中、空気が循環する音のみが響くその空間でジムナーコが口を開いた。
『最早お前たちも部外者ではない、聞く権利がある…そして我々の任務にはどんな微細な戦力でもある方が良い…が、聞いてしまえば戻れない。最終ラインを越え、『部外者』でいる権利を手放すことになるぞ。』
その口調は決して脅すようなものではなく、むしろ親切心から来るものであるようなニュアンスを含んでいた。
が、確かに深く首を突っ込む覚悟を問うものであった。
『俺にその権利があるというなら聞かせていただこう。イオン達だって間違いなくそうする。』
『そうか、それならいい。今近くにいる烈火軍が離れたら伝えるとしよう。』
大柄な生物が接近して来る足音が反響し全身に伝わる。
本能を震わすその音に一度死んでいるうえ、元々持ち合わせていないはずのカブウの汗腺が一気に開き冷や汗が吹き出す感覚を覚えるのだった。
舞台はジュラ&ジムナーコと剣士キンウの対決に戻る。
勢いよく跳んだジュラは豹のようにしなやか且つパワフルにキンウに切り掛かるも、その刃が届くことも鍔迫り合いになることも無かった。
というのも目標までおよそ4m程の地点で前触れも無く彼の肩が切り裂かれたのだ。
『………ふぇ?はぁ?』
その場にいた誰の目にも攻撃は見えていないにも関わらず深い傷だけはそこにある。
切られたジュラ本人ですら事態を理解できていないらしく目を丸くして戸惑っていた。
ほんの一瞬ほぐれた緊張、思考の間隙。
それは一流の剣士にとっては永劫に等しい隙である。
ジュラが我に帰った頃にはすでにキンウは駆け出しており、彼の下に陣取っていた。
そのまま振り上げられた右手により彼の頭は胴体と別れることになる…はずだった。
突然襟を引かれ後ろに転がるジュラ、どうやらジムナーコが体を伸ばして救ってくれたらしい。
『どんな攻撃を受けた?理解できたか?』
『わからねぇ…前兆も、予備動作すらなく空気に切られた…あれが何なのかわからない以上こっちから攻めるのは危険すぎるぞッ!』
『その程度理解している…だが、時間が惜しい。俺が攻める、援護しろ。』
ジムナーコが敵に向けて歩き出し、ジュラの傷からようやく血と痛みが溢れ出した。
波紋一つ無い水の上で向かい合う2人…数秒の睨み合いの後、ジムナーコがナイフとサーベルを構えた4本の腕を伸ばして先制を仕掛けた。
またしても前兆無く切り裂かれる腕、しかしスライムのそれに斬撃の影響はほとんど無い。
切断しても瞬時に再生して迫る腕に驚き、回避のため水面を駆けるキンウ。
自在に軌道を変え迫る4本の刃を右手で捌きつつその特性を瞬時に見抜き、百戦錬磨の剣士はカウンターに打って出た。
体勢と呼吸を整えたキンウが右手を振り、刃を支える4本の腕の根本をほぼ同時に切りつける。
その太刀筋は丁寧且つ熟練されたもので敵と理解していながら惚れ惚れとしてしまう程だ。
しかし、剣閃の真価はそこではなかった。
先程までいくら切り付けられても表情1つ変えることの無かったジムナーコの体が急に強張り、腕を引っ込めたのだ。
ジュラが戻ってきた腕を見るとその一部が褐変し白い煙を上げている。
『ッッ…それは…』
『ああ、焼かれている。早くも対策された。』
キンウの右手ではこびりついたスライムの欠片が煙を上げ続け、黒く焦げついている。
だが、魔法の使い手でもあるジュラに言わせるならその状況は明らかに異様である。
なぜなら、例えば【フロン・ブレディオ】のような剣に何らかのエネルギーを加える魔法を使ったと仮定すると、魔力の動きが無さすぎるのだ。
勿論魔力を微塵も使わずに魔法を使用することは不可能であり、何らかの不自然無くして一点に熱が集中することもまたあり得ない。
ジュラはその熱がキンウの種族、或いは能力によるものと仮定し未知なるそれを解き明かすため感覚を研ぎ澄ます。
『だが、収穫はあった。俺やお前が受けた『空気に切られる』攻撃は厚みの無い毛髪のような刃に切られた感覚だ。そして、攻撃を受ける位置は変わらない。つまり位置さえ把握すれば恐れることは無い。』
『全身切り刻まれながらあみだくじの正解ルートを探せと?理不尽が過ぎるな…てか、なんか再生遅くね?俺と戦った時なんか一瞬だったじゃねーか。』
『ここの水は俺に合わん。亜硫酸、砒素、硼酸…あらゆる有害物質に満ちている。30分もいれば慣れるだろうが、そこまで待ってくれるとは思えない。』
『なるほどね、ますますもって理不尽なゲームだ。』
引き気味に構える2人に向けてキンウは挑発するかのように構えもせず歩み寄って来る。
罠があることを隠す気も無いようだ。
だが、それで実際に2人は動けていないのだからこの上なく有効な手法だろう。
攻めあぐね無駄に気を張ることしかできないジュラの横でジムナーコが動いた。
彼は自ら体の一部を切り離し、網状に広げたのだ。
その目的は2つ、1つは動き回るキンウを捕らえ接近戦に持ち込むこと。
そして、本命のもう一つは罠の場所を正確に探知すること。
網状のスライムが切り裂かれては繋がる刺激はさながらレーダーのように斬撃危険地帯を示し、同時に突破口も伝えるだろう。
降り掛かる粘性の高い網を焼き切ろうとキンウの剣が踊る。
不快な臭いの煙に包まれて顔を顰めるキンウの目前に襟元のスライム片の誘導に従って紫色に輝く刀身が迫っていた。
咄嗟にその剣を受け止め、横に流すキンウであったがジュラは止まらない。
網による探知は有効だが、表面積の増加に伴う水分の喪失を考えるとそう連発できる戦法では無いことを察していた故の攻勢である。
ジュラと切り結びつつジムナーコが怪しい挙動をしているのを確認したキンウは、まだ探知されていない領域に飛び込んで1vs1に持ち込もうと試みる。
が、彼の予想に反しジュラは罠を恐れず止まらない。
全身を切られながらも反射神経で重傷を避け、痛みに顔を歪ませながらも倒すべき相手に向けて剣を振り続けていた。
その臆病さを孕んだ雄牛のような闘争心を内心称賛しつつ、実力が伴っていない彼を無慈悲に切り捨てんとその剣を大きく弾き飛ばしたキンウの左目に投擲されたナイフが深々と突き刺さった。
しかし彼に動揺は無い、右目をギョロリと動かし攻撃の主が同じく罠に刻まれながらも接近してきたジムナーコであることを特定する。
間を置かず2人はサーベルと右手の剣で互角に切り結ぶも、数回の攻防の後水分喪失によって柔軟性を僅かに失っていたジムナーコが押し負け、体を横一文字に焼き切られたのだった。
自身の圧倒的優勢を確信し、まずは最も危険なジムナーコにとどめをささんと腕の熱を陽炎が立ち昇る程に高めるキンウだったが、その瞬間走り込んだのはジュラである。
しかし彼の剣はその手に無く、なんならそれはまだキンウの背後に舞っている。
魔法による無謀な特攻かと思われたのも束の間、ジュラはジムナーコの横をすり抜ける瞬間、本当に嫌そうな顔をしながらその体の中に手を突っ込んでサーベルを引っ張り出したたのだ。
予測の外から一直線に振るわれるサーベル、それをも何とか防ぎジュラを赤い目で睨むキンウだったが当の睨まれた本人は紫に光る目で困ったような表情を浮かべている。
『そう睨むなよ、おっかねーな。まぁアンタはこれでチェックメイトだ。ゆっくり休んでてくれよ。』
ジュラの発言の真意がわからず困惑するキンウ、その背後からはギリギリ彼が操れる範囲から外れていなかったアメーリオが主の手元に戻ろうと空を駆けていた。
完全なる死角、予想外からの攻撃。
それは、いかに実力が隔たっていようと躱せるはずの無い攻撃だった。
『えーと、すまない、何しろ一度死んでるもんで俺の耳がイカれちまったのかもしれないからもう一度聞かせてほしい。今、確かに兄弟喧嘩と言ったのかい⁉︎』
目を見開いて鸚鵡返しするカブウにジムナーコが声を抑えるようジェスチャーで示す。
『静かにしろ両生類…確かに言った。この地殻変動の原因はある2人の兄弟喧嘩だと。2人の名はヒート・プラネタとホット・プラネタ、どちらもヒノ国の王候補だ。』
『俄には信じがたい話だ。確かに今代の王子は強い力を持つと仲間内でも噂になってはいたが、それでもこの規模は個人が為せる領域を超えている。』
『我々も当初は観測結果を疑っていた。恐らくは別要因で発生していた「龍脈」の異変との相乗効果で規模が拡大したとみるのが妥当だろう。例えばマントル対流の変化、例えば…いや、辞めておこう。徒に不安を煽っても仕方が無い。』
『…ジュラとイオンが聞いた震源が移動しているという話も納得がいったよ。しかしなぜ烈火軍や太陽神が邪魔を?1番被害を受けるのはここヒノ国だろうに。』
『半年ほど前に前王が亡くなっている…恐らく、この兄弟喧嘩が次代の王を決める儀式的な意味を持つからだろう。ヒノ国は力を礼賛する文化がある、正当に闘い勝利した方が王になるのは当然ということだろう。』
『そのとーり、だから邪魔されちゃ困るワケよん。』
突如会話に耳障りな声が割り込み、全員がその元を探して見回す。
『天下の中央連合軍がみっともないぞぅ、ここだよココ。』
輪になって座っている彼等の中心、その岩盤から薄笑いを浮かべた顔だけが突き出していた。
『やっと気づいてくれた〜淋しいじゃんかよぉう!』
男の視線がコニワの方に向き、地面から上半身を現すと同時にその心臓に向けて手刀を突き出す。
『ヒャア!1人目もーらいっと!』
瞬時にサーベルを抜いて男の目を切りつけるコニワだったが、その剣はまるで霞でも切ったかのように体をすり抜け手刀の勢いは弱まらない。
コニワ自身が死を覚悟しせめて敵を拘束しようと力んだ瞬間、彼は突き飛ばされ岩肌に叩きつけられる。
背中から鈍い痛みが伝わる中、視界に映ったのは彼を突き飛ばした格好のまま胸を赤くおどろおどろしい形状の爪で貫かれたオリレの姿だった。
『〜〜ッッ!オリレ先輩っ!』
1人仕留めてご満悦の表情を浮かべていた赤い爪の男であったが、その笑みはすぐに消え失せ余裕の表情は吐き気を必死に我慢しているようなものへと変わってゆく。
1秒でも早く離れたいといった様子で手を引き抜き、警戒した態度を示す男は口を開いて苦々しく吐き捨てた。
『グエェ…ひどい感触だ…テメェなんかクスリでもやってんのかぁ?いや、クスリ程度じゃこんなおぞましい歪んだ精神は生まれまい。それとも、中央連合ってのはみんなこうなのかぁ⁉︎』
1人で悶える男を他所に貫かれたオリレがむくりと上体を起こし立ち上がる。
奇妙なことに血の一滴も流している様子は無く、嫌な鉄の匂いも立ち込めてはいない。
『オリレ上等、無事か?状態を報告せよ。』
『…………!…………………!』
オリレは壁に擬態したジムナーコにくっつきそうなほど顔と思しき場所を近づけて報告しているようだが、よほど声が小さいのかカブウの耳では何を言っているか聞き取れない。
『なるほど…つまりソイツは精神を直接攻撃して来ると、それでもって恐らくこちらから物理的に干渉することはできないと。』
『そんならほっといても問題ないんじゃないすか?なんか勝手に苦しんでますし。』
『いや、オリレ上等が言うには精神を掻き回されると無視できない不快感に体が支配されるとのことだ。邪魔になる以上排除すべきだろう。』
当事者の自分をそっちのけにして話を進めるジムナーコ達に男は明確な苛立ちを見せる。
『ああ、もう少しで精神をちょっとずつ魚の干物を毟る様に破壊してやれたのによぉー!排除だと?この俺を「怨霊」ヤツデと知っての侮辱かそりゃあ?』
『そう思いたければそうしろ。お前が怨霊だというなら巫系の術式で対処するまでだ。オリレ上等、カラッパ二等、準備を。』
『ヒクッヒクッヒクッ、さては俺をナメてるな?テメェらに1番キク攻撃ィ見せてやろうか?』
『……妙なマネをすると拘束から消滅に切り替えるぞ。』
『最初からそのつもりだったくせによく言う。スゥゥ……烈火軍のみなさぁーん‼︎敵はここにいるよぉ‼︎』
『貴様…くだらないマネを…』
その大声は薄い壁などものともせず洞窟の中を反響増幅し、はるか遠くまで届いてゆく。
『ネ?1番キクだろう?じゃ、追いかけっこがんばんなよぉ。』
再び薄ら笑いを浮かべながら岩盤の中に消えていく怨霊ヤツデ、その姿が見えなくなる頃には既に荒々しい足音が上下左右あらゆる方向から迫って来ていた。
『厄介な置き土産を残されてしまったらしい…どうする軍曹殿?』
『いずれここは発見される。であれば速やかにここを離脱すべきだ。総員荷物を纏めて移動準備!周囲の安全を確認次第出発する!』
発動しかけていた術式を即座に閉じつつ手早く荷物を纏め、ものの30秒程で準備を整えたブライト隊の面々、その鮮やかな手つきにカブウが称賛の口笛を送る。
『流石は軍隊、一糸乱れぬ動きは普段の訓練がありありと浮かぶようだよ。』
『お褒めに預かり光栄…だが出発は少し待つべきだ、近くに居る。』
ジムナーコが言った通り、直後に駆ける足跡が聞こえ始め10秒程で隠し部屋の前で止まった。
『おっかしいなぁ〜たぶんこの辺から聞こえたと思うんだがなぁ。見慣れた岩ばっかりでなーんも見当たんねぇ。聞き間違いかぁ?』
烈火軍兵士は隠し部屋の周囲を行ったり来たりしているようだ。
部屋内に緊張が漂い、全員が息を潜め武器に手をかけている。
永い数秒が過ぎ、兵士はピタリと止まり首を鳴らして大きな欠伸をした。
『くっそー、勘違いかよ。ああ面白くねぇ!』
何かが砕ける音が響く。
恐らく、外の兵士が鬱憤晴らしに岩盤を破壊した音だろう。
短気で恐ろしいことこの上ないが、今は鬱憤の対象がここの壁に向かなかったことを喜ぶべきだろう。
彼等が少し気を緩めたその時、太く猛々しい槍がジムナーコを貫きカラッパの脇腹を抉った。
カラッパが咄嗟に袖を噛み、喉元まで出かけた絶叫を強引に抑え込む。
『言ったよな〜俺はここの岩を見慣れてんだ、中々よく紛れちゃいるが大体の位置が分かってりゃあ違和感を見つけるのはそう難しいことじゃない。出てこい犯罪者ども!ハラワタ引き摺り出して溶岩に詰め替えてやろうか〜⁉︎』
ジムナーコが咄嗟に体内の岩石成分を団子状に固め、兵士の顔に向けて散弾銃のように放つ。
一瞬怯んだ兵士の顔に飛び出したオリレがひしゃげた元救急箱を無理矢理被せ、決定的な隙を作った。
『全員走れ‼︎追いつかれることは死と同義と考えろ!』
人型に戻ったジムナーコの先導に従って全員が一斉に走り出す。
腹部を抑えるカラッパをステガ15に預け、殿を務めようとするオリレの後ろで呻き声1つ上げずにコニワが倒れた。
『コニワ二等!何をしているッ!』
ジムナーコの呼びかけにも反応は無く、その目はどこを見ているのかわからないほど虚だった。
そして、その足には地面から突き出た赤い爪ががっしりと食い込んでいた。
『ヤツデェェェ‼︎貴様ァ‼︎』
『初めて動揺したねぇ、ジムナーコ軍曹クン。今度こそ誰かは脱落かな?』
すでに烈火軍兵士は被せられた箱を破壊し、追う準備を整えている。
ここで落ちるのは果たして誰か、賽は投げられた。
死角から繰り出された緻密な一撃、しかし肉を裂く音は響かない。
背後から迫る危機をキンウの腰から伸びた尻尾が止めていた。
肉を削ぎ骨だけにしたワニのそれにも似た尻尾が力強く魔剣を叩きつけ、その勢いのまま右手がジュラが手にしたサーベルを破壊する。
吹き飛ばされたジュラは罠の密集地帯に擦り無数の斬撃を浴びてしまう。
『ぐあがっっ………つぅ…』
無様に転がってはいたが幸いにも決定的な傷は無く、立ち上がっても足元がふらつくこともない。
が、それはそれとして戦力の見直しが必要であることは間違いない。
何しろ対処すべき刃がもう一本増えたのだ、適応とやらが済むまでジムナーコは頼りにできないしどう闘ったものかと頭を捻るジュラの耳に金属音のような音が混じった声が届いた。
『若き剣士よ、今のはかなり肝が冷えたぞ…もし仮に貴様の瞳が深い、深い、磨き抜かれた宝刀のように輝いていなければ…背後から迫る致命の一撃を映し出していなければこのキンウは間違いなく敗北を喫していた…』
『ハハッ、じゃあなんだ?勝機は俺自身の目のせいで逃したってのか?まったくやんなるぜ。そのずっるい尻尾も含めてよぉ、目ん玉潰れても血の一滴もでやしないアンタはどんなバケモンなんだ?』
『失礼、名乗らせていただこう。我が名は神器「金烏」、太陽の神ウランが作りし一振りの剣にして此岸にて受肉せし「付喪神」。そして、王家を守護する者である。』
『そーかい、アンタも神さまだったか。道理でお強いわけだ。』
『どちらかというと精霊とかあの辺に近いのだが…まぁよかろう。ここが最後の躊躇いどころ、今すぐに尻尾を巻いて地上へ帰るがいい!』
『俺は別にそれでも構わねーけど、コイツらはそうもいかねーらしいぞ?』
『その通りだ、俺にはお前の主人を害してでもこの災害を断ち民の安寧を保障する義務がある。我が主はこの国の風俗慣習に対し口を出すつもりは無いが、隣人の迷惑行為に泣き寝入りをする気も無いと仰った。』
『なんか初めて聞くことあったなぁ!コイツの主人って誰だよ⁉︎また敵増えんのかよチクショウ!ええいわかったか、コイツらに付き合わされてる限り俺だって帰れねーんだよ!道知らねーしな!』
キンウの尻尾が鎌首をもたげて臨戦体制に入り、右手が外から見てもわかるほど赤熱する。
そこに最早和解の可能性は無いだろう。
『警告はした、無視したのは貴様らだ。最後に1つ言っておく…空間の切断、これこそ剣の最高到達点だ。』
キンウが縦に一閃した軌跡は残像よりもずっと色濃く残り続け、広がったそれは実体を持った空間の穴となった。
内部は地界に来る時に通った認識しづらい空間になっているらしく、戦闘中にも関わらずずっと見ていると瞼が落ちて来そうだ。
その奇妙な空間はキンウが足を踏み入れると同時に閉じ、入り口である剣の軌跡はあっという間に視認不可能となったのだった。
残される敵がいない戦場、それでも不思議と張り詰める空気に若干の奇妙な感覚を覚えつつも周囲を警戒し神経を研ぎ澄ますジュラ。
しかし、彼を持ってしても空間の外から繰り出される真の不意打ちを予測することはできないらしい。
それは精神というより肉体の反射だった。
膝が勝手に曲がり、背後に出現した空間の穴より繰り出された尻尾の一撃を回避できたのだ。
そのままの姿勢であれば間違いなく頭を差し貫かれる串団子ルートだったであろう殺意全開のそれに彼の額に汗が滲む。
慌てて剣を振るうも敵の姿はすでにそこに無く、穴も閉じてしまっていた。
間をおかずしてジムナーコの背後にも穴が出現しキンウの攻撃が続くが、これは難なく躱しそのままジュラと背中合わせに構える。
『どうする…手の届かねーところから一方的に突かれてちゃいつかこっちが崩されるぜ?しかも向こうからは多分こっちが見えてる。』
『そこは問題無い、俺は全身が目のような感覚を持っている。どこからの攻撃でも対処可能だ。だが、お前という大きな戦力を失うのは惜しく、何よりモグラ叩きには付き合っていられない。』
『同意見だ、じゃあ互いに切れる手札を確認しておこうぜ。俺はまだヤツに見せていない魔法と剣の技がある…が、あのウランって野郎伝いに知られてる可能性もある。』
『良い札が揃っている、こちらもまだスライムアーミーの本領は見せていない。尤も、まずはこの環境に適応しなければ話にならないが。悠長にしている時間は無いことを考えるなら、ベターな作戦は俺が囮となって奴を拘束することだろう。』
『その隙に俺の最大火力をぶち込むっと…奴さんがシナリオ通りに動いてくれると良いが。』
『誘導は任せてもらおう、力を温存しておけ……来るぞ。』
同時に複数の穴が出現し、どの方向に防御したものか一瞬迷うジュラであったが、致命傷となる部位を進んで狙って来ていた過去の傾向を思い返し剣を右上に切り払う。
予想は見事に的中し、首を狙って突き出された尻尾の攻撃を弾くことに成功するもそこに反撃の機が見えなければさして意味は無い。
しかし死角から放ったはずの攻撃をジムナーコに難なく回避されたキンウはよほど彼を警戒しているのか、フェイントを織り交ぜた攻撃でジュラばかりを狙ってきていた。
『クソッ、不公平っ、だぁ!』
かといってジムナーコも下手に動くわけにはいかない。
下手に動けばそれだけジュラの負担が増え、作戦が全て水の泡になる。
この場面の最悪はキンウを倒せないことであり、適応さえ済ませればたとえジュラが戦闘不能に陥っても彼は1人でキンウを御せる絶対的な自身があったのだ。
故に彼は動かない、ただ任せられた通り背中を守るのみである。
この3人の闘いをイオン・アイシクルはずっと見ていた。
距離は付かず離れず、巻き込まれないよう姿勢は低く、それでいて絶対に目は離さない。
いざとなれば落盤を引き起こしてでもジュラを救う算段を立てていた彼女であったが、2人が背中合わせになる直前あることに気づいていた。
耐熱スーツの袖に縫い付けてある方位磁針が激しく動いている、それ自体は磁性鉱物を多数産出するこの場所においては全くおかしなことでは無い。
だが、この時ばかりはわけが違っていた。
明らかに空間のある一点に向けて針が動いては静止することを繰り返しているのだ。
その動きは明らかに『穴』の開閉と同期しており、特に強く反応したのはキンウ自身が攻撃に使ういわば本命の穴であった。
理屈はわからない、が空間に無理に干渉しているため独自の異常な磁場が発生しているのではないか?
そう予想した彼女は散乱した荷物の中からあるものを探し出し、ドリルで砕き始めた。
すでに10回を越える攻撃を防ぐも勝機の見えない根比べに思考が鈍り始めたジュラ、その反応が一瞬遅れた隙を刺す攻撃をジムナーコのサーベルが防いだ。
『ボサッとしている暇は無い、隙を見せれば確実に突いてくる相手だ。』
『んなこと言われてもこちとら集中力が限界なんだよぅ。ああ、真正面から短期決戦してぇ。』
『無いものねだりをするな…ところで、お前の連れがこちらに走って来ているが良いのか?』
『ハァ?』
ジュラが左をちらりと見ると、そこにはヘルメットの黒い窓を通してもわかるほど笑顔のイオンが戦場真っ只中に走ってくる姿が見えていた。
『何やってんだアイツ⁉︎おいバカ、戻れバカ!』
大袈裟なほどのジェスチャーで後退を促す彼の言葉はハッキリと聞こえているはずである、しかし彼女は止まらない。
『そんなバカバカ言わないでよ〜私は、ジュラを助けに来たのっ!ほいっと!』
全力で振られたイオンの腕から空中に黒い粉が撒き散らされる。
正体不明の粉に戸惑う2人であったが数秒後の現象を目の当たりにし、瞬時にそれを理解する。
イオンが接近してきたことを警戒して様子を見ていたのかしばし止んでいたキンウの攻撃が再開され、再び空間に穴が空く。
すると、同時に穴を中心として垂直に黒い粉でできた紡錘形のような模様が形成されたのだ。
『1番大きいやつ!1番大きいやつから来るよ!』
ジュラの右上に空いた一際大きな穴から右手の剣が突き出され、彼のこめかみを狙うそれにジムナーコの腕が巻き付いて止める。
熱され煙を吹き上げる体を最早気にする様子もなく、ジムナーコはキンウを空間の穴から背負い投げのように引き摺り出した。
『アタリが見えているクジ程くだらないものはない…勝負アリだ。』
急に空間を移動させられ、感覚に喩えようの無い気分の悪さを覚えているキンウであったが、クリアな思考を取り戻したその目には上段に剣を構えるジュラと構えられた巨大な剣が見えていた。
『やーっとキモチ良くかましてやれるぜ。魔剣 バール アメーリオォ!』
主人の鬱憤や開放感を吸い上げ、さらにエネルギーを増した輝く剣は大きく振りかぶられたことにより半月にも似た軌道を描いてキンウを急襲した。
しかしキンウもまた対抗して全力で振るった尻尾で迎え撃ち、刃の直撃を避けたのだった。
数秒の力の押し付け合い。
やがて右手を拘束されているというハンデ付きではあるものの、基礎パワーでジュラに大きく勝るキンウがゆっくりとではあるが着実に押し返し始める。
優勢となったキンウはそのまま畳み掛けようと万力を込め、遂にその一撃を跳ね除けることに成功した。
得た勢いのまま反撃に出ようとジュラを睨む彼であったが、ただ高く打ち上がった剣があるのみですでに敵はそこにはいない。
その時、キンウの腹部に冷たく固い感触が当たった。
『ハズレ、こっちが本命なんだわ。イオンコメット1/3パワーで行くぜ。』
それが何か知る暇もなく銃口から光が溢れ出し、妖刀キンウを貫いた。
キンウが宙を舞い、金属音を立てて地に落ちる。
敵の沈黙を確認し、ジムナーコが人型に戻る。
『協力感謝する、俺1人であればより死闘となり後の任務に支障が出ていただろう。』
『いやそういうのいいって、俺だって何回も助けられてるしよ。そういやイオン、お前が撒いてたあの粉なんだ?なんかやべー成分入ってねーだろーな。』
『ただの鉄だよー、銃弾の頭のとこ砕いただけだけどあの穴から出てる磁力の探知には使えたみたい。あ、その件なんですけど、ジムナーコさんたちの弾を勝手に使ってしまいました。ごめんなさい、弁償はさせてもらいます。』
『気にしないでもらおう、闘争に於いて勝利のために各々が持つものを出し合うのは当然だ。』
『そうか、磁界ができていたとは知らなかったな、手前の能力だと言うに…』
ジュラとイオンが驚き振り返る。
全身を魔力の奔流に灼かれながらもキンウは立っていた。
『まーた不死身みてーな敵かよ!なんで体内灼かれてやっと第二ラウンドですみたいな雰囲気出してんだ⁉︎大人しく寝とけ!』
『それはできない相談だ…我は王の敵を屠る一振りで…』
その言葉を遮る様にジムナーコが一歩前に出る。
『適応完了だ。ひどい水ではあるが住んでみれば意外に快適かもな。お前たちは休んでおけ、ここからは俺1人で十分だ。』
自信に溢れたその言葉を流動する体の表面が潤いを取り戻していることが裏打ちする。
2人の戦士が対峙した時、突如熱風が吹き荒れた。
1人の男が宙を舞う。
それは迷いなく踵を返したオリレに投げられたコニワだった。
手足を投げ出し虚な目をした彼をカント08が背中で受け止め加速する。
そして、その場にはオリレとヤツデ、怒り狂った烈火軍の兵士のみが残された。
『ヒクッヒクッヒクッ、結局殺されにきたのはモジャモジャクンかぁ。助かるねえ、俺としてもお前のようなキモチワルイ精神なぞ二度と見たくない。』
オリレは無言を貫いている。
その視線は膨大な量の毛で隠れているもののしっかりと対応すべき敵を見つめているようだ。
猛った兵士が吠え、大きく振りかぶられた前蹴りがオリレの軍人にしてはやや細身の体を捕え岩壁に叩きつけた。
すかさず舞う土煙、その向こうにはあまりの衝撃で硬い岩盤に埋もれ古代遺跡の壁画のようになった哀れな犠牲者が見える。
『ふむ、まずは1人…死体は持っていこう、士気の下がった逃走者を狩るほど楽なことは無いしね。さぁいくぞ!勇猛果敢な烈火軍!大いにネズミを炙り出そうじゃあないか!ん?…………は?それはおかしいぞ?』
上機嫌で逃走者達を追おうとするヤツデの耳に石が転がり落ちる音が届く。
その発生源を確かめるべく彼が振り向くと、そこには文字通り人外の膂力で振るわれた攻撃をまともに受けた筈のオリレが何事も無かったかのように立っていた。
『どうして生きているのかな…はナメすぎにしても確実に行動不能にはなる蹴りじゃない?それともキミ、手加減したげた?』
問いかけられた兵士がブンブンと首を振る。
『精神のみならず身体も異常ときたかい。キミの国は兵士の体弄って遊んでるのかな?』
突如、ヤツデの目の位置で軍刀が一閃される。
『アレ、キレちゃった?ごめんねぇお宅のボスからかっちゃって。』
『……国ではない。単にあちきが「カラカネ家」の出というだけのこと。』
彼女の口からその名が出た途端、怨霊ヤツデが汚れに汚れた便所でも見たかのように露骨に顔を顰める。
『なんだ、キミもこっち側、かぁ。道理でそんな悍ましいナカミしてるワケだ。』
『あちきはずっと平和と幸福を重んじる人間だ。』
『ハ、キミが人間だというならそこらのトカゲでも人間になれるだろうよ。キミんち、いい噂聞かないよ?』
人を小馬鹿にしたようなその挑発にオリレ・カラカネは答えない。
言い返す言葉が尽きたのか、相手に会話する価値すら無いと判断したのか、毛髪で覆い隠された顔から窺うことはできなかったが一つ確かなのはこの場に於いて精神のみにしか干渉できないヤツデは戦力外となったということだ。
兵士にその場を任せ他の敵を追おうと視線を奥に向けるヤツデであったが、その目に飛び込んできたのは逃げるネズミの姿ではなく空気そのものが煮えたぎったような熱風であった。
キンウの空間穴を探知できたのは単に別の世界の磁場が漏れ出ていただけです。
登場人物
キンウ
剣の付喪神で本体はウランが趣味で製作した大剣「金烏」。
趣味は化石採集。
ヒート・プラネタ
ヒノ国の腕白兄弟のうち弟の方。
溶岩を操る能力者ゆえか体温が超高くマントル旅行を趣味にしているほど。
ホット・プラネタ
ヒノ国の腕白兄弟のうち兄の方。
重力場を発生させる能力を持ち、弟とは12歳差。
烈火軍の兵士A
頭から薬臭い箱を被せられてご機嫌斜め。
用語集
龍脈
大地を流れる高密度の魔力エネルギーの通り道。
複雑に曲がりくねっており大規模な魔法の行使等でも利用される。
怨霊
なんらかの理由でこの世に留まった霊魂が無差別に悪意と害を振り撒くようになった存在。
金烏
ウランの造った神器であり正体不明の鉱石でできた大剣。
誕生と同時に付喪神となるほど強大な力を持ち、空間そのものを切断する能力がある。
付喪神
使い込まれたり、強い思念を浴びた道具が神となったもの。
過去には例外的にこれを作り出す能力を持つ者も居た。
カラカネ家
ラミー州の魔法の名家であり現代の技術体系に大きな影響を与えている。
多くの優秀な魔法使いを輩出してきたが近年は燻り気味。