魔剣王正伝   作:プルプルマン

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大雪だぁつぶされるぅ


臨界

熱風は一切の容赦なく彼等の顔を叩いている。

温度計が捲し立てるアラームと赤文字での警告は周囲の気温が危険なレベルに跳ね上がったことを示し、優秀な耐熱スーツを着込んだイオンですら耐え難いほどの暑さに見舞われていた。

しかしヘルメットのおかげだろうか、顔を覆うジュラも熱で収縮しているジムナーコも見えていないものが彼女の目にだけはありありと映っていた。

それは争い合う2人の生物…というよりはまんま荒れ狂う怪物だった。

両者共に体躯は2mを上回り、頭に頂いた角が怪しく輝いている。

額には青く輝く水晶のようなものが埋め込まれており、丈の長い白いローブで見えにくいが同様のものが前腕と脛にも確認できる。

怪物2人はイオン達には目もくれず徒手空拳の戦いを続け、巻き込まれた周囲の岩盤が莫大な熱によってトロトロに融解していく。

『近づきすぎたか…!合流前に抑えるのは困難、退避だ!』

ジムナーコが体を伸ばして2人を抱え込み、荷物を体内に取り込んでゆく。

しかし、キンウがそれを黙って見過ごすはずが無い。

またしても空間の隙間を通ってきたのだろう、ほんの一瞬で彼等の前に姿を表すと右手と尻尾のように伸びた2本の剣を振るい即座に一部の岩盤を崩落させた。

『なんだアイツ⁉︎テメェ諸共死ぬ気でやってんのかぁ⁉︎』

『付喪神の性質上本体が無事ならこの程度では死なない…我々を巻き込み逃さないのであれば本望か。』

上から次々に降りかかる牛ほどもある大岩を【マノン】を唱え次々破壊していくジュラであったが、崩落は崩落を呼びとても処理の追いつく速度ではない。

しかし、頼れるジムナーコは一心不乱に攻撃を続けるキンウの対処にかかりきりになっており、現在活路を開けるのはイオンだけであった。

故に彼女は頭を絞る、前門の崩落後門の怪物…状況は最悪と言えるだろう。

極限まで加速した思考の果てに彼女が出した答えは…

『おい、どうしたイオン?そんなカシパンなんか持ち出しちまってよー、まさかここでぶっ放すとか言ったりしねーよな?』

彼女は自身より大きい銃身を上に向け、ジュラに重たいものが入った袋を手渡した。

『門がどちらも塞がってるなら、一回全部壊して瓦礫の上行った方がきっと早い!ちょっと危ないのは間違いないけど。その袋、天井に投げて!』

ジュラは言われるがままにずっしりとした袋を投げ上げた。

その時、縛られた袋の口から黒い粉が漏れ出て彼の鼻をくすぐる。

それは僅かな硫黄の香りを漂わせていた。

『お前まさか…』

『多分予想通り‼︎耳塞いで口開けて‼︎』

カシパンのトリガーが引かれ、数発の弾に撃ち抜かれた火薬の詰まった袋は大爆発を引き起こした。

衝撃は壁面全てを走り回り、キンウが既に付けていた傷も加わってあらゆる場所を崩壊させていく。

脳内でうるさいほど反響する衝撃に掻き回されながら彼等はさらに深くへと落ちてゆくのだった。

 

 

 

 

 

 

同刻、オリレを残して烈火軍の追走から逃げ回っていたカブウ達はというと…

二足竜の背中に乗せられていたカラッパとコニワはそれぞれ自身の治療と整理を始めていた。

『カラッパ二等、負傷の度合いはわかるか?』

自分で包帯を巻いていたカラッパが呻く。

『グゥゥ…幸いにも腹膜は回避しました…激しい運動でなければ活動は続行可能かと…』

『そうか、理解した。であればこれで…』

ジムナーコの一部が分離し、粗く巻かれた包帯に染み込んでゆく。

その様子を見たカブウが目を見開いた。

『驚いたな、それは治療かい?』

『あくまで応急的なものではあるが、傷口を埋める程度にはなる。…コニワ二等、心身に異常は?』

『多少の吐き気はありますけど問題無さそうっす…オリレ先輩は…』

『足止めのために残った、だが奴程の兵士なら生き残る可能性は十分にある。我々はもう片方との合流を優先する、理解したか?』

『ハイ…承知しました…』

口ではそう言っているもののコニワの顔には暗い影が差していた。

その時、カブウの触手が確かにその振動を捉える。

『ム…左前方!数人の集団だ!』

反射的にジムナーコが足を増やし、カブウの示す方向に連続蹴りを浴びせる。

その奇襲は穴から顔を出した瞬間に反撃されるなど夢にも思っていなかった烈火軍の兵士達の鼻っ面を捉えて押し戻したのだった。

ジムナーコの体が収縮し元に戻る。

『レーダーか何かを持っているのか?』

『この触手がイイ仕事してくれてるのさ。』

『そうか、この後も頼む。この場にいるブライト隊に告ぐ、全員カブさんの指示に従って迫る烈火軍を迎撃せよ!』

『『ハッッ!』』

動けるコニワがサーベルを抜き、カラッパは弓を引いて応戦する構えを取る。

その間にもカブウの台座から伸びる無数の触手は暗い洞窟の様子を手に取るように伝えてきていた。

『右前方やや上から3人、下方から1人、右後方から3人来ている!速いぞっ!』

『了解!【ヒドロマ・ブレディオ】』

コニワが振り回す水の剣を烈火軍は明らかに嫌っていた、体温が下がると活動に支障をきたす地底人ならではだろうか。

一方のカラッパも負けてはいない。

軽くない負傷を負っているにも関わらず、彼の引く弓は実に正確であった。

それは複雑な地形の暗い洞窟というハンデを負っているとは思えないほど的確に敵の方向に撃ち込まれ、集団の中心まで滑り込む。

しかし、ただの矢ではあまりに対応できる範囲が狭くそもそも頑強な彼等には通らない可能性すらあるだろう。

そこで彼が用いたのは任務の事前に用意していた固形化した冷媒を更に圧縮してガラスのカプセルに詰めたものを、更に魔力を帯びた珪藻土と油紙で包んだ冰爆という道具であった。

これを矢に刺して放つと着弾直後、或いは数秒後に多量の魔力を受け取った冷媒が瞬間的に昇華して炸裂と同時に周囲の温度を奪い去る。

数はそれほど多くないうえ、一つあたりのコストも高いものの万一烈火軍と敵対した際に備えてカラッパが用意しておいた虎の子であった。

それだけに効果は絶大であり、炸裂音が響く度に猛々しさで知られる烈火軍の兵士が体を丸めて倒れてゆく。

その顔は外の寒さに耐えかねて炬燵までたどり着いた猫のように緩み切っていた。

しかし、最も縦横無尽に駆け回り多くの敵を抑えているのはジムナーコであろう。

ジムナーコは確認できるだけで3つに体を分裂させ、それぞれが全く変わらない技の精度と変幻自在の体で前方の敵と渡り合っていた。

流石に分裂前と比較するとパワーは幾分か落ちているもののその心強さは十分すぎるほどだ。

『やはり物理的攻撃より熱を奪う搦手の方が通りがいいか…カラッパ二等、冰爆の残数は?』

ピュン ピュンッ

『8発です、使い所には注意しますが十分とは言えません。』

『もう一度崩落させるのも視野に入れるべきか…いや、これ以上のリスクは取れない。であればコイツを利用させてもらおうか。』

洞窟内の気温は既に90℃近くに達しており、その暑さだけで訓練されていない人間は容易に骸と化すだろう。

そして、その地獄を作り出しているのは洞窟内に吹き荒れる熱風と合わさった剥き出しの溶岩である。

赤熱しゆったりと流動するそれにジムナーコは自らの体を一部ちぎって放り込んだ。

途端にそれは湯気と煙を噴き上げ、辺りに顔を顰めたくなるような臭いが立ち込める。

しかしそれは一瞬のことで、臭いはすぐに煙や湯気と共に熱風に吹き流されブライト隊の背後を覆い隠したのだった。

ピュン ピュンッ

『よし、一時的に後方の敵は手薄になった。コニワ二等、カラッパ二等、前方に注意せよ!強行突破するっ!』

『ちょいと待ってもらおう。ここは俺に任せちゃあくれないか、一つ策があるんだ。』

命令が遮られたもののカブウの真剣な口調に文句を言う者はいない。

自分に注がれる耳と沈黙を発言の許可と捉え、カブウはその大きな口に似つかわしくない囁き声で話し始めた。

『これだけ多くの追手、裏をかかなければ到底逃げ切れるものではない。キミ達の目的が逃げ切りでは無く征伐なのは理解しているが、その上でも彼等の追跡を切った方が有利なのもまた事実だろう?』

『続けてもらおう、カブさん。』

ピュン ピュンッ

『ありがたい…そこで、俺が横穴を掘るから全員でそっちに潜らないかい?もちろん落盤の危険性だとかは高まるが軍曹殿が体の一部を使って囮をしてくれれば追手を撒ける可能性は高い。背後は目眩し、前方はキミ達が抑えてくれているわけだからね。』

それは1つの賭けだった、それも失敗すれば大所帯で袋小路に自ら飛び込み圧倒的な暴力で押し潰されるのをただ待つことになる分の悪すぎる賭けだ。

だが、彼等に残された道は決して多くない。

今走っている洞窟かどこまで続いているのか、どこに向かっているのかも定かではないし、自らを焼く目眩しもそう何度も使える技ではない。

何より、尋常ではない暑さは耐え難かった。

故に彼等は立ち止まる、膝を折って屈するためでなく確実な生存と任務遂行への予備動作として。

『…採用だ、カブさんは全員が通れる横穴を掘ってくれ。我々は決してそれが見つからないよう掘る様子を隠す!』

ピュン ピュンッ

『フフ…トップギアで掘らせてもらうよ!』

カブウが軽く跳び上がったと思いきや体全てを回転させて硬い吻端から岩盤に突撃する。

体表の粘液と強酸性の胃液を併用することで彼は音もなく、目を見張るような速度で、さながら粘土に穴を開けるように容易く岩を穿ってゆく。

元々彼の種族オオキバツノガエルは地中生活に特化した種であり、その能力は例え頭部だけになったとしてもしっかりと残っていたのだ。

芸術的とすら言えるその掘削に対し、工兵のカラッパが無意識のうちに口笛を吹いて称賛の意思を示したのも当然のことだった。

カブウの姿が10秒ほどで地中に消えると作戦を理解していた竜二頭が負傷したような素振りで穴の前に鎮座し、まだ見られるわけにはいかないそれを覆い隠した。

ピュン ピュンッ

その行動に彼等の知能を若干侮っていたことを反省しつつ、ジムナーコはカブウの合図を待つのだった。

 

それから1分程も経っただろうか、背後ではジムナーコの一部が分裂と燃焼を繰り返して煙幕を張り続けていたが、それも限界に近いことが見て取れる。

前方から絶え間なく迫る敵を抑えるブライト隊の面々の顔には疲労が浮かび、息切れすら始まっていた。

守りの決壊が近づきつつあったその時、地中から出現したカブウの触手がジムナーコを突く。

それは一行全員で身を隠す用意ができたことの合図であり、賭け本番のゴングでもあった。

ジムナーコは即座に呪文を唱え、コニワとカラッパは目を瞑る。

【イルミナート・ルクシオン】

洞窟内の全てが強すぎる光に包まれ、ブライトが照らし出す明るさに慣れたばかりの地底の住人は一時的に五感を全て失う羽目になるのだった。

『うぐおぉぉぉぅ!目がぁん!目がぁーー!』

『あぶぅ!下手に暴れるんじゃねぇ!あでっ!今殴ったの誰だぁ⁉︎』

大混乱に陥る烈火軍、恐らく数十秒しか続かないであろう猫騙しだが彼等が敵を見失うのには十分だった。

兵士達が視界を取り戻した頃には既に敵影は無く、いつもと変わらない無骨な洞窟の風景が広がっているのみだった。

『どこ行きやがった⁉︎ハサミ撃ちにしてたろ!テメーら目ん玉ついてんのか⁉︎変装か⁉︎ウルセェ、ブン殴るぞ!もう殴ってんだろが!』

カブウ達の逃走作戦は彼等自身が予想していたよりも遥かに大きな混乱を追手に与えたらしく、烈火軍はあわや内部崩壊を起こしかけていた。

しかし、追い風が予想外なら向かい風もまた予想外である。

『総員‼︎静止せよ‼︎『違和感』を探せ!俺は我等が軍の武勇を信頼している!』

荒れた現場に鶴の一声が響き渡った。

 

一方、カブウ達は背後で烈火軍が揉めている喧騒を聞きながらさらに深くへと掘り進めていた。

最低限全員を収容できる程度の穴は拵えたものの、まだ完全に追跡を撒けるレベルではない。

それこそ追手の数と質を考えるとダミーの横穴を複数箇所用意してもまだ不安が残るだろう。

ピュン ピュンッ

『当面はこのまま掘り進んでいくが、軍曹殿の片割れがいる方向とかはわかるんだったっけ?』

『ある程度ではあるがな…先程より下に移っている。ここから下に43°といったところか。』

『かなりの急勾配だねえ。カブさん頑張って掘るからキミ達は滑らないようについてきておくれ。』

『心得た、アッチでは俺のカケラが四つ程足跡をつけて逃げ回っている。当分は捕まらんだろう。』

ピュン ピュンッ

『頼もしいねぇ。』

『あのースイマセン、なんか後ろのケンカ終わってませんか?』

コニワの言う通り、あれだけ騒がしかった洞窟内は静まり返っていた。

カブウ達の脳裏にあまり面白くない予感が走った直後、彼等の背後から無数の足跡が轟き始める。

『マズイッ!もうバレたか⁉︎』

ピュン ピュンッ

『確かにマズい、だが手はある。カブさん、消化液を拝借する。』

ジムナーコがカブウの胃液をスライムの内部に取り込み、彼等の背後に網状の壁を作り出す。

『酸の防壁だ、1枚あたり数秒は稼げる。が、無限ではない。掘削を続けろ!』

ピュン ピュンッ

『流石、こちらもさっき『返事』があったからね。うまくやれば抜けられるよ、この絶体絶命の局面を。』

『返事?そういやカブさん、さっきからピュンピュン言ってますけどどしたんすか?喘息か何かで?』

『ハハハ、生きてればそういうのもありえたけどね。こいつは中々聞けないよ?俺がさっきから出してるのは俺達、つまりオオキバツノガエルの幼体が稀に発する救難信号さ。敵に襲われてコワイヨータスケテーってな…これを聞くと俺達ってのはどうしても子供を助けたくなるんだ、まあこんな形で同胞を騙すのは気が引けるけどね。』

カブウの言葉が意味するところはその言葉の後に伝わる地響きで何よりも伝わった。

意気揚々の第三勢力が加わり、地底のチェイスはさらに激化していく。

 

 

 

 

 

 

小さな光の粒が一点から拡散し、さながら上等なプラネタリウムのように空間を彩ってゆく。

弾指程の暇もなく、それらは極彩色の殻を破り捨てて凶暴な内面を露わにした。

一つ一つの光源から4、5本は伸びる光線が空間の全てを蜘蛛の巣よりも緻密に覆い尽くしたのだ。

無論単なる虚仮威しではなく、それが十分過ぎるほどの殺傷力を持ち合わせていることは光線が撫ぜた岩肌がバターでも切るかのようにアッサリと熔かされ、煙となって消し飛んでいることから察せられる。

そんな光線網の最も密度が濃い場所に、1人の男の姿があった。

男の名はウラン、本来ならあらゆる物質を粉微塵にするその空間で男がまだ形を保っていられるのは彼もまた強大な力の持ち主であるからに相違ない。

ウランは背中の炉を起点に太陽と同等の重力を発生させることで危険極まりない光の軌道を強引に捻じ曲げていたのだ。

『クク、ミラーボールは好きだが取り扱い注意はお断りだ。』

『神らしい馬鹿げた力だ、だが長くは使えない。』

『正解、コイツァいわば無限の重力密集点を作る技…吸い付いてくる岩が鬱陶しいし、なにより使い続けると大地そのものが無くなっちまう。』

『安心しろ、そうなる前にこの世から消し去ってやる。』

ブライトが突き出した手から太い光線が放たれる。

それも、ウランに向けてではなく自身の攻撃でガラス化した岩盤に向けて。

光は予測不能な軌道を何百回と反射し、それでいてエネルギーを失わず敵を貫くはずであった。

並の相手であれば。

『だから、セーフティにいこうや。』

ブライトが攻撃を繰り出す瞬間、ウランの体から莫大な熱が放射され周囲の岩石が一瞬にして蒸発する。

大量の岩石が僅かコンマ1秒以下の間に大気へと還り、空間を埋め尽くした岩石蒸気は襲い来る光を乱反射させてウランにとって無害なレベルまで拡散したのだった。

彼基準で強めの夏の日差しくらいになった光の中、ウランは目を細めて笑う。

『クコックコッ…眩しいナァ、日焼け止めを持ってくるべきだったかな?さて、そろそろこちらの手番を頂いても?』

ブライトは揶揄うような態度でそう尋ねるウランの挙動をジッと見ていた。

その表情から思考は一欠片も読み取れない。

『構わない、公平にいこう。』

『では、遠慮なく。』

ウランが指を鳴らすその動作だけで空間中にイワト・システムに組み込まれているようなミニチュア太陽が数十個姿を表す。

一つ一つは直径5mに満たない粗雑な偽物ではあるが、決して甘く見ていいはずは無い。

相手は本物の太陽神、即ちいかに小粒であろうと彼の司るものは天球を照らす偉大なるソレと同じなのだから。

ブライトが着地し駆け出すと同時に彼がいた場所を小粒の太陽が抉る。

もはやどちらの速度も並の戦士が追えるものでは無い。

数十の恒星に囲まれつつもブライトは縦横無尽に駆けてゆく。

時にジグザグの軌道を描き、時に自らの足跡を逆走する。

その振る舞いはそこにあるはずの重力を全く感じさせず、敵の攻撃すら足場にする三次元的アクロバットはウランが一瞬でも隙を見せたが最後、喉笛に喰らい付いてやるとでも言いたげな凶暴性の現れだった。

尤も、彼としてはただ単に落ちるより速く足を動かしているだけなのだが。

瞬間的膠着、均衡を崩しに動いたのはウランだった。

突如ミニチュア太陽同士が噴き出した高温の大気によって連結し、ブライトを中心に正十二面体の檻を作り出す。

あまりに巨大な檻は空中に出て身動きの取りにくい彼を押し潰そうと体積を縮めていくが、その動作は英雄ブライト・ロマネスコを仕留めるには緩慢すぎたらしい。

英雄は即座に高エネルギーの光線を放ち1つの太陽を破壊すると、不可解な挙動で空気を蹴るようにして包囲網の穴から抜け出したのだった。

そして、彼が見抜いた弱点はもう一つ。

大量の太陽を用いた物量戦法である以上、必ず本体の防備に隙が生まれる…はずであった。

予想とはやや異なり、ウランは最初からそうするつもりであったかのように彼に微笑みかけていた。

それは事情を知らない者が見れば正しく太陽神の慈愛だっただろう、背後に立ち昇る巨大な溶岩の烏を見ないフリができればだが。

『‼︎…計算ずくというわけか?』

『伊達に50億年燃えちゃいないさ。真弓金烏ーー』

黄金の烏は一声上げた後、流動する翼をはためかせつつ三本足で大地を蒸発させてブライトを押し潰さんと飛び立った。

すぐさま光線で応じるブライトであったが相手は液体、撃ち落とせるはずもなく多少体積を削ったのみである。

それでいて烏を貫いた光線は烏自身が放つ岩の蒸気によって霧散しウランまでは届かない。

攻防一体となった攻撃にこれを即席で思いついたのかと内心舌を巻くブライトであったが、互いの技を讃え合っている時間は無い。

防御のため炎と熱への耐性を得る【デフロン】を唱え腕を組む。

盾の呪文すら使わないそれはウランから見れば拍子抜けするほど悪手であり、実際にブライトは膨大な溶岩の流れに成す術もなく飲み込まれていった。

明らかにKO勝ちの盤面ではあったが、ウランは微塵も油断しない。

自身が生きてきた気が遠くなるほど長い年月の中でも五指に入るであろう実力者、その男がこれほど単純なミスをするとは考えられなかった。

彼は既に原型を止めないほど融け広がった空洞のほぼ半分を覆い尽くす大きさの太陽を造りだす。

それはこの国にギリギリ深刻なダメージを与えないレベルであり、同時に半径数kmを瞬時に蒸発させるレベルのエネルギーを湛えていた。

そのバケモノエネルギー体も全ては1人の男を確実に冥土に送るためであり、彼は現時点で振るえる最大戦力を使うことを決意したのだ。

振り下ろされたウランの腕に呼応し、最早ミニチュアとは呼べぬ太陽が動き出したその時、未だ赤熱する烏の背中が僅かに光を放った。

結果から言うと、最後まで警戒を緩めなかったウランは正解であった。

塵一つ見逃さない緊張感により本来脳天を貫くはずだった橙色の光線を左肩を貫く軌道に歪めることができたのだ。

久しく受けなかった痛みと迸る血潮についつい口元が綻ぶ。

『クク、戦闘狂が…たかだか数十年、どんな生活でそこまで至ったのやら。』

溶岩の中からブライトが飛び出す。

鎧がちょっぴり焦げてはいるものの目立った外傷は無い。

『どの口が言うか、さっきから『死の光』の波長やらなんやらアレコレ変えて仕留めに来てるクセによ。』

『なんのことやら、それよりもこのままではヒノ国そのものが消滅しかねない…そこでこういうのはどうかな、軍人さん?』

ウランの背負う炉から特別有害な光を放つドロリとした灰色の塊が放出され、その主の手に吸い込まれるように向かっていく。

塊の外皮が剥がれ落ち、中から姿を現したソレは金銀をふんだんに用いた耽美且つ荘厳な装飾が施された東洋式の大太刀であった。

鞘の長さから推測してその刃渡りは2.5mをくだらないであろう。

その鞘を握りしめた神は満足げに頷くと空中に胡座をかいて座った。

肩の傷は既に出血が止まりつつあるのは未だ根強く信仰される生きた神だからであろうか?

『どうだ、ここは一つ接近戦でも。近距離での白兵戦は訓練の基本だろう?』

『願っても無い申し出だ、わざわざ貴き御方が穢き人のフィールドに降りて来なさるとは。』

皮肉がいささか分厚すぎるが、ウランはそれを承諾と受け取った。

ウランが着地すると同時にブライトが身につけていた軍刀を遠くの壁に向けて投げ、突き刺した。

謎の行動に対し、ウランは問う。

『もしかして格闘のみで戦うと?舐められてるのかな?』

『あいにく敵を目の前に油断したことは無い。あの剣では即座に融けることが目に見えているが、我が主から賜った物を粗末には扱えない…故に遠くへ放った。心配するな、後で回収する。俺は他所様の土地にゴミを捨ててく奴等が大嫌いだからな。』

『筋金入りの軍人さんだな、刀工の名前から掘られた紋章まで今回のためだけにデザインされた何の価値も無いニセモノだろうに。』

『なんのことやら、それと俺が格闘のみでやるなんて勘違いをしているようだが…本命の剣は別にある。』

そう言い終わるや否や、ブライトが両手に着けている手甲の外側に空いた細い穴から青白く輝く刃が伸長し形を成していく。

『粒としての光を集めた刃だ、この世のどんな素材よりも頑丈にできてる。』

『なるほど、物質としての光…さっきまでのおかしな動きも納得がいく…1人でそこまで辿り着いたなら天才だ。』

『賞賛と受け取っておく…が、俺はその言葉も嫌いだ。御託はいい、始めよう。』

完成したブライトの双剣に対し、ウランの大太刀も鞘からその抜き身の姿を現し威圧感を放っている。

地底に輝く綺羅星のごとき2人は二筋の光となって交錯した。




ウランは盤外戦術として常に空洞の酸素を使い続けることでブライトを窒息させようとしていますが、彼は15分くらいなら無呼吸で全力出せるので当分は大丈夫です。

登場人物

2m越えの怪物
例の兄弟です、ただいま喧嘩中。

鶴の一声
烈火軍のカリスマ的存在です。

用語集

イルミナート・ルクシオン
光源から目を潰す程の光を放つ魔法。
ジムナーコがブライトに憧れるあまり考え出した。

デフロン
炎や熱の影響を抑える魔法。
消防団や鍛治職人に大人気。
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