魔剣王正伝   作:プルプルマン

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ここから、魔剣王の昔話編でございます。
本編とも言う。


可愛い子にはうんぬんかんぬん

ある日の、魔界の宮殿にて…

搾りたての血のような深紅の絨毯が敷かれた廊下内に、頑丈な石造りの床が抜け落ちるのではないかと心配になるほどの足音と怒鳴り声が木霊する。

『ジュ〜ラァ〜、どこへ行ったァァ!』

というのも、身の丈10メートルはあろうかという巨大な悪魔が文字通り悪魔のような形相で誰かの名前を叫び、走り回っていたのだ。

しかし、それを見ているピカピカの甲冑を着込んだ警備兵や忙しなく動く使用人達の殆どは特に注目を寄せるわけでもなく、その光景も日常の一部であるという様子で各々の仕事をこなしていた。

『ちょっとそこ行くメイドさんや、ジュラの奴の居場所に心当たりはあるかな?』

長身の悪魔が精一杯屈んで自分の横を通りかかったメイドに捜索中の人物の居所について、何か心当たりは無いかと聞くと、『またキッチンじゃないですかね〜』とゆるい返事が返ってきた。

それを聞いた長身の悪魔は『またかッ』、と呟いて頭を抱えるとそのまま気を取り直してキッチンの方へと猛ダッシュしていくのであった。

その姿を見送った者達は、(毎日毎日よくお飽きにならないな〜)なんて考えつつ、再び普段の仕事に手を抜きつつ精を出していた。

 

その頃、宮殿のキッチン内では1人の少年が長〜〜いコック帽を被った料理長と熱烈な議論を交わしていた。

この料理はもうちょっとしょっぱくするべきだの具材を追加してダシのコクを深めるべきだのを熱く語っている少年は、コック帽に収まりきらないほどの炎の様な形に整った赤髪とその中に輝く剣先のごとき形をしている半透明な紫の角を携えており、そこはかとなく高貴な雰囲気を纏っている。

議論の熱量が最高潮に達したその時、キッチンの扉が押し開けられ先程の巨大悪魔がそこから中を覗き込む。

悪魔は料理長と討論する少年を見つけると、さっきまでのものより一層大きな声で怒鳴り上げた。

『またコックの真似事をしとるのかァァッッ‼️いい加減にしろいッ‼️』

あまりの音量にそのままでは鼓膜が破壊されかねないので、手で耳を塞ぎながら少年が答える。

『真似事なんかじゃないぜッ!ここのコックのピンチヒッターになれるぐらいには腕前も上達してるし、こないだじいちゃんが食べてくれた時もニッコニコしてたじゃねーか!』

『ぐぬぬ…そりゃあ可愛い孫の手料理じゃ、勝手に笑顔にもなるわい‼️それに、実際味もかなりのモノじゃったしの…じゃが、それとこれとは話が別!今は約束した飛行訓練の時間じゃろ?それが済めば、いくら趣味に没頭しようと構わんわい。』

『だーかーらー、何度も言ってるだろ!俺は別に空なんざ飛べなくても構わないって。今の時代仮に飛べなかろうが生きていくには問題無いし、そもそもただでさえ生まれつき小さい羽をガキの頃に折ってるんだぜ?開くこともロクにできないってのに飛べるわけ無いじゃんかよ!』

そう言う少年の羽は彼の祖父と比較すると、確かに体に対しての大きさの比率が小さい様に見える。

しかし、彼の祖父はまだまだ食い下がる。

『13の時、医者の先生にも言われたじゃろう?お前の羽はもう完全に治っている、と。それなのに、ジュラよ…何故飛べないんじゃ?お前は何に怖がっておる?』

『ぐぅ…怖がってることなんてねーよ!あれから3年も経つってーのにピクリとも羽は動かない!なら、アイツがヤブで治ってなかったか、もう治らないだけじゃねーのかよ。』

そんな、今まで幾度も繰り返した問答の後、ジュラの祖父は大きくため息を吐き、小さな声で着いてきなさい、とジュラに命じた。

本当に真剣な話にしか使わない声色だった。

ジュラは渋々とその言葉に従い、包丁を置きコック帽とエプロンを外すと祖父の後に続いて歩き出した。

 

魔界特有の薄暗く赤い空が見える窓が等間隔に並んだ廊下を2人で歩きつつ、(一体どこへ向かっているんだ?)とジュラは考える。

普段彼が飛行訓練に使っているだだっ広いダンスホールは全く反対側の塔だし、こっちの方にはよくわからん「魔法陣」が描かれている部屋と庭師の納戸があるだけだったと思うが…?

遂に祖父の真意がわからないままにたどり着いた長い長い廊下の果ては、そのよくわからん魔法陣がある部屋であった。

その部屋には窓が一つも無く、薄暗い旧式のランプの灯りがあるばかりであり、その雰囲気が言い知れない神秘性を漂わせている。

そして、肝心の魔法陣はいつ見ても変わらず部屋の真ん中に描かれており、久しぶりに見た今、小さい頃はよく形が崩れずに残っているものだ、と感心したことをふと思い出す。(多少埃は積もってはいるが)

その部屋に入った直後、祖父は魔法陣を弄り始め、何やら術を行う準備を始めているらしかった。

『こんなとこ来てなにすんだよ、じいちゃん?なんか楽に飛べるような新しい魔法でも作ったの?』

だが、祖父はジュラの質問には答えずに、逆に質問を返してきたのだった。

『ジュラよ…もし、飛べないお主が無人島へ流れ着いたとして、一つだけ持って行ける物があるとしたら、何を選ぶ?』

何かと思えば、そんな話下手が場を持たせるためだけに使うようなつまらないテーマの話をするためにわざわざこんなところまで足を運んだのだろうか?

少々戸惑いながらも、考え込む。

『ふむ…空を飛べる「ドラゴン」とか連れて行ければいいけど、そもそも俺はドラゴンに乗れないしな…振り落とされて毒液を吐きかけられるのがオチだな。じゃあ、自分の部屋と繋がってる鏡はどうかなぁ…いや、俺はそんなモン持って無いし、第一つまらない質問に対するつまらない答えの代表選手だしな。そんなら、やっぱり…』

彼が導き出した最高の答えは…

『俺なら自分の包丁を持っていくかな〜料理を嗜む者として、包丁は命!だしさ。』

『なるほどのぅ…まぁジュラらしくていいと思うぞ。』

祖父の意外なほどアッサリとした反応に面食らったのはジュラであった。

完璧に決まった…と思ったのだが、祖父はそこから一切話を広げることもせずただ黙々と作業を続けるのだった。

ジュラは自分から聞いといて何だよ…と不満に思いながらも、その作業の工程をボーッと眺めていた。

やがて、宮殿の時計が鐘を鳴らし、昼餉の時間を告げる。

もうそんな時間か、そりゃあ腹も減るわけだ、などと考えていた時、祖父が最近重たくなってきたらしい腰を上げて背伸びをし始めた。

どうやら、ようやく作業が終わった様だ。

魔界でも最高峰の魔力と技術を持つあの祖父が時間にして1時間半にも及ぶほどの準備を要する魔法だ、さぞかし凄いものなんだろう。

ジュラは期待に胸を弾ませながら、祖父に問いかける。

『なぁ、そろそろいいじゃんかよ〜どんな魔法を使うのか教えてくれよ〜』

『おお、そうじゃのう。もうそろそろ教えても良い頃かの。これは物体や生物を天界や地界なんかの別の世界へと送る魔法じゃよ。世界の壁を魔法で越えるには結構なパワーが必要での、準備にもそれなりの時間がかかってしまうがのう。』

『へぇ〜で、この魔法を使って今回は何をするんだ?』

『お前を地界に送るんじゃよ。』

『…………へ?』

思考がフリーズしたジュラを置いて祖父の話は進む。

『今のお前にはまだ、誰かの上に立つ資格も器もなんにも無い。よって、魔界とは別の場所を体験してくることでそういうものを育ててきてもらおうと思っての。まぁ心配せずとも、心身共に十分に成長したら迎えに行ってやるわい。あ、そうそう、さっき言ってたMy包丁じゃが、持っていっても構わんぞ。』

話が頭に入って来なかった。

祖父の声の大きさゆえに、何を言っているかは一字一句ハッキリと聞き取れるが、その言葉の意味を認識できない。

魔法陣が光り始め、魔法発動の前段階へと突入していることも窺えたが危機感…というより現実味を感じられない。

混乱して何もできずに立ち尽くしていると、愛用の包丁が一人でに飛んできてベルトのホルダーへと収まった。

その音により我に帰り、すぐさまその部屋から逃げ出そうと後ろに駆け出したが、いくら足を動かしても自分の位置が変わらないどころか、体ごと宙に浮き上がり背後の魔法陣に引き寄せられていく感覚が伝わってくる。

やがて彼は抵抗虚しく魔法陣に背中から飛び込む形で吸い込まれ、悲鳴一つ上げる暇もなくその内部へと消えていったのだった。

後にはまるで最初から何事も無かったかの様に静かな部屋が残り、役目を終えた魔法陣も仄かな光を放つばかりである。

その部屋の中で、彼の出立を見送った第32代目魔剣王はひっそりと謝罪する。

『突然送り出して済まない…空も飛べないまま送り出して済まない…これから幾度も危機に陥るかもしれないがなんとか乗り越えて欲しい。そして…』

巨漢の魔剣王は廊下で赤い空を見上げて願う。

『良い人間の友人をつくってほしい…その者が必ずお前という存在を大きくしてくれる。』

魔法陣の部屋を照らしていたランプの炎が大きく揺れ、そのまま音もなく消えた。




全然関係ございませんが、ジョジョリオンが完結しましたね。
私はジョジョシリーズが大好きなので、終わってしまう寂しさと祝福でごっちゃごちゃの気持ちでございます。

登場人物

第32代目魔剣王
身長10メートルオーバーの巨大な悪魔であり、ジュラと同じ燃えるような赤毛、同時に凄まじい魔力を体に宿している魔を統べるに相応しい者である。
今回の世界の壁を越える魔法も、彼ほどの魔力があって始めて成し得る秘術である。
最近の楽しみは孫の料理だったので、今回の決断は断腸の思いだったそうな。
尚、巷では魔界最強の悪魔との呼び声も高い。
本名は「カンブロリウム・パズズ」

警備兵・使用人・コック・料理長
最近では毎日のようにこんなことが起きているので、感覚が麻痺してきた。

ジュラ
本作の主人公である少年であり、現在16歳。
見た目の特徴としては本当に炎の様な形と色に整った髪と紫水晶の様な角、細く黒い尻尾が挙げられる。
趣味は料理であり、その腕前は本職の料理人達にもある程度は認められるほど。
通常の悪魔より羽が未熟な状態で生まれ、加えて7歳の頃にとある出来事で高所から落下し、羽が損傷したことから治療が済んだ今でも飛ぶことができない。
本名は「ジュラ・パズズ」

用語集

魔法陣
大気中や体内にある魔力を効率よく利用する方法の一種で、その他には呪文なども該当する。
これらは皆様の身近なもので例えると、魔力がカニで魔法陣や呪文がカニを食べるときに使うアレだとすると伝わる…かな?
カニを食べるとき、必ずしも専用の道具が必要では無いが、それがあると格段に食べるのが楽になるはず。
それと同じで、魔法陣は図形やその順番に意味を込め、呪文は文字や発音に意味を込めて魔力の扱いを楽にする。

ドラゴン
爬虫綱鱗王目に属する生物の総称。
翼1対に足1対、翼1対に足2対など様々な形質を持つ。
基本的には世界中に分布しており、翼を退化させ一つの島にしか生息していない種類もある。
体長は最小の種で25cm、今まで見つかった最大の個体は1290mであった。(尚、その個体は鱗の調査によりまだ幼体である可能性が高いとされる)
魔界などには更に巨大な種がいると言う口伝もあるが真偽は不明。
ドラゴンに関しては『鱗王目録 著ポイズン・スウィィト』に詳しい。

また、皆様の暮らす現実世界にはドラゴンや鱗王目なんてのも(恐らく)存在しないので、ご安心ください。
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