イオン・アイシクルは奔走するフランポポに半ば引きずられるようにして傾斜のきつい洞窟を駆け上って行く。
牙にロープの輪をかけるというスマートとは言えない方法ではあったが、ヘルメットを頑丈に作っておいたおかげかこんな無茶をしても全身が満遍なく痛くなる程度で済んでいるのは幸運といえるだろう。
しかし彼女自身はそれほど頑丈ではない人間である。
ロープにしがみつく彼女の腕が悲鳴を上げ始めたその時、半狂乱だったフランポポが急に停止し首を振るって横穴に潜り込んだ。
その拍子に輪は切断され、投げ出された彼女は慣性に従い地面に転がるハメになる。
『わ!ぶ!もごっ!いたた…前歯、折れてないといいけど。』
またもヘルメットに守られた彼女が立ち上がり辺りを見渡す。
残念ながらどう見てもそこは地底湖といった雰囲気ではない。
まだ重い荷物を引きずるのかと辟易する彼女であったが、同時に周囲の気温が先ほどと比べて明らかに低下していることに希望を感じてもいた。
カンテラで壁を照らしてみれば、そこには水が染み出して滴り落ちており、熱を伴った光に驚いた小さな白い虫達が慌てて凹凸の陰に逃げ込む。
目的の湖はかなり近いようだ。
もうだいぶ深さを増した足元の流れを頼りに一歩、また一歩と奥へ進んでいく。
ソリ代わりの銃はとっくにどこかへ行ってしまい、リュックの生地が岩肌と擦れ合って生じる不快な音のみが響いている。
オマケに洞窟はどんどん狭くなり、足元の水量は増してゆくため運搬の難易度は指数関数的に非絶賛上昇中である。
既に肉体強化魔法の恩恵をほぼ失っている彼女だが、力を振り絞ってまた一つ小さな隙間を通り抜けた。
突如訪れる開放感、疑問に思った彼女は試しに横の壁を押してみるも先ほどまで確かに存在した鬱陶しい岩肌の手応えは無く、そのままバランスを崩して転倒する。
ヘルメットの窓を拭って起き上がった彼女が見たのは端が見えないほど広大な空洞、その全てを埋め尽くしている巨大な水面であった。
試しに光を水面に近づけてみるも硫黄の香りが鼻をつくばかりで、水は澄んでいるというのに底は窺えない。
その深さは相当のものであり、恐らくここがジムナーコの言う地底湖なのだろう。
言われた通りスーツの電源を切ってみても熱が染み込んでくる嫌な感覚は無く、呼吸するたび舌が火傷するような心配をする必要も要らなそうである。
猛獣の痕跡も見当たらないそこは確かにこのファンタスティック地底世界における唯一の安全地帯といった様相だ。
しかし、彼女には楽園に留まっている時間は無い。
ブライトの言う一手を打たねばならないのだ。
正直なところブライトが後ろめたい理由でこの場所に来ていることは察せられるし、それ故に完全に信用できる相手とは言い難い。
だが、一つだけ確かなのは誰だって自分の不利になる発言はしないと言うことだ。
ブライトの利益は任務遂行と部下の生存、そして一介の船長たるイオンが最優先する利益は仲間の生存。
ブライトの口ぶりからしてすでにジュラ達は彼の部下とともに戦いを始めているのだろう。
であれば彼女が取るべき手段は1つだった。
イオンは戦いを終わらせる計画のために自分の行くべき場所を探し、数回辺りを見回した後にそれを見つけた。
『あった!水門!』
その巨大水門は地底湖全ての水を管理し適切な量を流すため今日も張り切ってお仕事に励…むことはできていない。
動作はほぼ完全に停止しており、厳戒な封鎖のためか職員は1人もおらず管理所の灯りもついていない。
彼女はひとまず最寄りの管理所を目指して大きな荷物を引きずりつむ湖の際の足場が悪い岩肌を渡って行く。
壁はややオーバーハングしており、一歩踏み違えればたちまち転落、2度と上がることはできないだろう。
もはや必要無くなった銃器類や雑多な機械を水面に投げ捨て、最低限の荷物だけを背負うことにするも、それでも尚100kg近い荷物があると彼女の力では壁にしがみつくだけで精一杯である。
それでも少しずつ足を動かしていくイオンの努力を嘲り笑うように管理所までの距離は一向に縮まる気配は無かった。
時間をかけて辿り着いたところでジュラや他の誰かが死ぬようなことがあっては意味が無い。
彼女はあくまで全員が助かる道を歩みたかった。
少し悩んだ末に彼女は決断する。
これが上手くいけば目算100mは離れている管理所までの所要時間を大幅に短くできる筈だ。
内部に残った最後のエネルギーでピンポンスフィアを起動し、バリアを展開したまま荷物の中にあった手榴弾の束に飛び乗る。
一つだけ混ぜ込んだ衝撃反応爆弾がまず起爆し、釣られて作動した手榴弾の重なり合う爆風が彼女と荷物を高くまで押し上げた。
『おわぶぶぶ、重力!』
衝撃に耐えかねたピンポンスフィアのフィールドはすぐに崩壊し、本体も間もなく自壊する。
落下が始まる前に彼女は魔力弾の装填が完了したカシパンを取り出し、反動軽減装置をバールで引き剥がした。
不意に千切られたコードから赤い火花が散るも彼女は一切気にすることなくそのトリガーを引く。
その瞬間、完全にセーブを失った蓮装砲は発射の反動を100%利用する擬似的ロケットブースターへと変貌した。
その凄まじいエネルギーは合計100kgを越える物体をいとも簡単に空中で移動させ、体をくの字に折り曲げられながらもイオンは必死でその方向を保つ。
操縦桿のその字も無い無茶苦茶なフライトの結果、彼女は何とか管理所の窓から飛び込むことに成功し、何もできずに死亡という最悪の事態は避けられた。
未だ回転し部屋内の器具や時計に穴を穿ち続けているカシパンの銃身にバールを突っ込んで無理矢理停止させたイオンは無言で脱いだヘルメットをリュックの上に置くとすぐに部屋の中を見渡す。
目的のゴミ箱を見つけた彼女はせかせかとそれに這い寄り、蓋を開けるとその中に胃液混じりの血を吐き出した。
『うぐっ、えっ…うぉえぇぇ…ああ、やっぱきついや…』
狭い部屋の中に鉄の臭いが充満する。
全身から力が失われていることを実感する彼女だったが、口元を拭うとすぐにカシパンをポーチに収納し机の中を漁り始めた。
『えーと、たぶんここの見取り図がこの辺に…あった!』
入室の衝撃で持ってきたカンテラは割れてしまったが幸い管理所内には電気式のランプがあった。
ガラスの欠片を指で払い落としスイッチを入れると温かみのある黄色い光が灯る。
イオンはその近くに水門の見取り図を広げるとじっくりと睨めっこを始めた。
程なくして答えは出たのか彼女は立ち上がり、図面を持って立ち上がりヘルメットを被り直す。
『さ、後は現場検証あるのみ!』
彼女は衝突によって若干歪んだドアをこじ開け、バールを片手に錆びた階段を降り出した。
金属と金属が激しくぶつかり合う音が響き渡る。
イオンの振るうバールと水門の開閉を司るハンドルがその発生源であり、彼女はそれを叩いて動かそうとしていたのだ。
しかし、元々ロックされているうえ屈強な地底人が複数人がかりで回すことを想定して作られたハンドルは少女の腕力程度ではうんともすんとも言わず、ただ冷たい存在感を放つのみである。
10度目にして腕の痺れに負けたイオンはへたり込み、ひんやりした金属の床に大の字になって寝転んだ。
『プランA失敗…プランBに移行…したくないなぁ。』
きわめて平和的?なプランAとは対照的にプランBとは水門の爆破という野蛮中の野蛮的計画である。
当然これを行えばユノハナの観光業に大きな被害が出る可能性があり、最悪1つの町が滅ぶ。
そうなれば自分達は特級の指名手配犯になるのは避けられないし、なんならヒノ国と中央連合との間で戦争すら起きかねない。
何より至れり尽くせりでもてなしてくれた風炉花荘の人々にも申し訳が立たない。
それら諸々を加味した上で、イオンは自身と仲間が生き残るためにプランBを実行する。
それは生存に必須であり覚悟を決める必要すら無い。
彼女はぴょこんと起き上がり、さらに階段を下って行く。
下ではすでに大方の準備を済ませていた。
見取り図と現場を見た上で導き出した構造的に最も脆い場所にありったけの火薬袋を積み上げ、反応性の高い炸薬を包んだ紙の筒を差し込んである。
後は着火手段だが…流石のイオンも至近距離で炸裂する火薬の山など見たくはないので、そのままマッチを投げ込むなんてことはできない。
しばらく考え込んだ後、彼女は徐にマイナスドライバーを取り出し岩肌に強く擦り付けた。
何度も繰り返すうちによく手入れされたドライバーは見るも無惨なざらついた金属棒となる。
彼女は本来の役目を果たせるかも怪しいその姿に少し悲しそうな表情を浮かべるも、すぐ気を取り直して紙筒の中にゆっくりとその金属棒を差し込む。
これを引き抜けばいつでも点火できる筈だ。
ロープを解いて拵えた麻糸をドライバーの柄に結びつけ、そのまま数十m離れた岩陰まで伸ばしてゆく。
間違ってもうっかりで点火しないように慎重に、慎重に。
数分後、岩陰で自身の安全を確保した彼女はピンと張った麻糸を握りしめ最後の状況確認を行う。
『水門…異常無し、火薬…異常無し、心臓…飛び出しそう。ふぅ、3…2…1…ボンバイエ‼︎……………あれ?』
全力で糸を引くも手応えは軽く爆発は起こらなかった。
彼女が恐る恐る手元を見るとそこにはダラリと垂れ下がった麻糸があるにも関わらず、起こるべき現象の気配すら感じられない。
『何をするかと思えば、貴様は頭がおかしいのか?』
背後から響く声、咄嗟に手近な布袋を掴んで簡易的な盾代わりにしつつ振り返る。
ズドンと重い衝撃が走り尻もちをつかされるイオン。
袋には太い刃が突き刺さっていた。
その刃の主は彼女も見覚えのありすぎるもので…
『あなたは!キ…キ…あの、すみません。どちら様でしたっけ?』
『キンウだ、冥土の土産に覚えて逝け。まさか水門を破壊しようとしているとは思わなかったぞ。』
『もしかしてこの糸切ったのは…』
『このキンウだ。それより、なぜ水門を破壊しようとしている?ヤケでも起こしたか?この場所で水門の破壊などすれば貴様自身も溺死することぐらい考えればわかるだろう。愚者には断頭台が必要だな。』
キンウが抜こうとした尻尾状の刃をイオンが押さえつける。
『なんのつもりだ?このまま腸をえぐられたいならそれでも構わないが。』
『てきとーに使っちゃったけどこの袋の中身も爆薬なんですよー。引っこ抜いたら私達まとめてドカン!です。危なかった〜』
キンウの目が見開かれ思考が加速する。
おそらくその発言は虚偽だ、これほどの大きさの物体を破壊するのに全てのリソースを注ぎ込まない理由が無い、そもそもそれが本当なら刺さった時に反応している筈、だがもし仮に本当だったら?我が損傷も決して軽く見ていいレベルではない、本体まで破壊されてしまうのでは?
いや、ハッタリだ、自分の溺死すら厭わない人間が今更爆薬を恐れるはずが無い。
それに、本当だったとしてもここで爆死してくれれば着火役もいなくなって好都合ではないか。
キンウは一瞬で思考を巡らせた後、袋から刃を引き抜き彼女の首を刎ねることを決断する。
だがそれは言い換えれば一瞬迷ったということであり、最初からやることを決めてある彼女にとって十分すぎる時間を与える結果となった。
イオンは念の為もう一本結んでおいた麻糸を思い切り引っ張る。
連動してドライバーが紙筒から引き抜かれ、直立していたキンウに閃光と爆風が叩きつけられた。
『うぐっ…!』
バランスを崩しふらつくキンウ、歴戦の武人が体勢を崩すほどの爆破エネルギーはただごとではない。
水門をガッチリと固めていた岩盤は粉々になって吹き飛び、金属製の水門そのものも大きく変形させられる。
そして、トラブルに見舞われた番人の隙をついて地底湖の水は隙間から激しく溢れ出した。
だが、キンウの想定よりも被害は少ない。
見たところせいぜい穴は直径2m前後、十分に工事で対応可能である。
一旦は安堵し、今度こそイオンを排除しようと右手の刃を振り上げるキンウに彼女は告げた。
『上見に行けばわかるんですけど、ここの湖普段よりずっと水が多いらしいです。たぶん管理する人も入れないからだと思うんですけど。』
『何が言いたい?』
イオンは首元のボタンを押し、ヘルメットとスーツを密着させる。
『あれだけ穴空いてれば水圧で潰れるんじゃないかなぁって。』
水門の決壊と彼女の言葉の終わり、どちらが早かったかキンウは覚えていない。
ただ1つ確かに覚えているのは溢れ出した大量の水に成す術なくもみくちゃにされてあらゆる平衡感覚を失ったまま意識を失い、薄暗い水底に横たわったことだけだ。
一方、イオンはキンウの隙を突いてリュックにしがみつきつつ流れに巻き込まれていた。
荷物を粗方出してしまった密閉性の高いリュックは少女1人を支える浮力としては十分なものを生み出しており、掴まっていなければ彼女は今頃水中で沈んだアメンボのようにもがく羽目になっていただろう。
膨大な水は狭い通路を侵食掘削し強引に拡張して流れていく。
唸り声を上げる水の中、彼女は頭に違和感を覚える。
『つめたっ!なんか、水染みてない?』
彼女のヘルメットは度重なる酷使に悲鳴をあげ、その気密性は完璧ではなくなっていたのだ。
一度許せば続けざまに侵略してくる水に慌てた彼女は首のボタンに手を伸ばすも、突如水中に沈んでしまい脱出は失敗。
より浸水の勢いは強まることとなる。
そこで彼女はようやく自分の腕に引っかかっている布に気づいた。
そう、彼女のリュックは既に浮きとしては力不足になっていたのだ。
慌ててリュックを捨てようとするも、下手に動くほど布はより面倒に絡まってゆく。
結局、彼女は足にまで絡みついたリュックにお手上げ状態になりながら溺死のカウントダウンが進行し続ける状態で流下していくこととなる。
『やばいよやばいよ溺れるぅ!ゴボボ…ぷはっ!だ、誰か〜助けてー!』
彼女の叫びはヘルメットの中で反響し、誰にも届くことは無い。
地底に突如現れた本物の大河は飛沫と轟音を上げながら洞窟を進んでいくのだった。
『と、このように!聞くも涙語るも涙の浪漫溢れる大冒険の末!私、イオン・アイシクルは無事生還したのです!』
『その話、今じゃないとダメだったか?』
ジュラ達は今再び風炉花荘の温泉に浸かっていた。
と言ってもイオンの話が長すぎたのか、既にブライトやその部下は既に上がって今頃は部屋で好き勝手寛いでいることだろう。
そして幸いにもユノハナの温泉に支障が出るようなことは無かったらしい。
無論水門と地底湖はいずれ修理が始まるのは間違いないし、修理代を請求される前にトンズラするのが吉だろうか?
そんなことを考えていると、壁の向こうから再び元気な声が聞こえた。
『あーあ、話してたらのぼせそ。先上がってるね〜!』
『そりゃ2時間も話してたらそうなるだろうよ。転ばないよーに気をつけろよなー。』
続けてジュラも湯船を出る。
未だ折れた腕は動かせないが温泉に浸かっているうちに痛みはあまり感じなくなっている、まったく素晴らしい効能だ。
『これで一応2回目だが…慣れねーなこの浴衣ってヤツは。どうもあちこちスースーしてしょうがねー。』
タオルを首にかけペタペタと廊下を歩いて行く。
一階にある広間の上等な木製の扉を開けると部屋では既に宴会の準備が万端となっていた。
『おー、長風呂だねぇジュラ少年!ささ…お席あったまっておりますよっと。さて、これで全員揃ったかな?それでは皆様お手を拝借…乾杯!』
並々と酒が注がれた器が小気味良い音を立てた。
ぐつぐつ煮える鍋は錚々たる具材のいいとこ取りだ、食欲を引き立てる香りが部屋を循環し窓の外へと流れて行く。
机の上に所狭しと並べられた料理は、思わず酒が進むものから幾重にも折り畳まれた味の三次元構造で舌を楽しませてくれるものまで千紫万紅の装いだ。
ひとまず目の前に盛られた知らない魚の活け作りを一切れ口に運び、桝なる四角い容器に注がれた酒を飲み干す。
『しっかしあの地獄からよくもまあ全員生きて帰れたもんだ。おれぁ一生分の運使い果たしたかもしんねー。』
『あっはっは!ホントだよー、ルール違反なんてするもんじゃないねー。』
『そうそう、入っちゃあダメなとこにはそれなりの理由があるんだからさー、このウランからも厳しく忠告させてもらおうか。』
『うんうん、イオンは向こう見ずがすぎるんだよなぁ…って、なんでテメーがいやがんだ亀男⁉︎』
『ウランだってー、いやなにタイチョー殿に親善の印の純米酒を差し上げようと思って来たら偶々君らと同じ宿だっただけのこと。ねぇ?』
『うむ!俺も久しぶりにヒートアップできたからな。互いの健闘を讃えて酒を酌み交わしたかったのだーよ。』
『だからってなぁ…そいつ地殻変動の元凶みたいなもんだぞ?』
『細かいことは置いとこう置いとこう。お、そろそろかな?』
突然空間に隙間が形成され、中からキンウが姿を現した。
その体は既に癒えたらしく一辺の瑕も無い。
『うげ、テメーもいんのかよ。言っとくが決着はもう着いてるからな!俺たちの勝ちで!』
しかしキンウにそのわかりやすい挑発に乗る素振りは無い。
剣はジュラの言葉を無視して切り開いた隙間から濃い味付けが視覚で伝わってくるような鍋料理を取り出す。
『お詫びを兼ねて酒肴をお待ちしました。どうぞよしなに…』
『いよっ!待ってました!いやーウラン神の従者殿は優秀でいらっしゃる。』
『いやいやそれほどでも…それに、正確に言えばキンウはヒートの臣下なのです。』
『ほほう、初耳でしたな。いやはや殿下も御慧眼でいらっしゃる。そういえば、王子の御二人は?』
『御心配痛み入りますな。しかしヒートなら治癒の促進のため溶岩に、ホットなら体温回復のため溶岩に浸かっておりますよ。ことヒノ国では決着に対しあれやこれや物言いをつけることなど無いので御安心なされ。』
『そう言っていただけると有難い。ではこれからのことですが…』
『少尉殿‼︎大変です!酔っ払ったカラッパさんが勝手に脱衣を始めましたぁ!』
『なんだと?うっちゃってもいいが見苦しいな…申し訳ありません、少し部下の教育をする必要が生じたので席を外させていただきます。カラッパ落ち着けぇ!パンツは最後の砦だぞ!イオン嬢も手拍子で盛り上げないでくれっ!』
『今のうちに通したい話もあったが…まあよいか。…ヤッホー、ジュラ君楽しんでるかい?』
ピョコンと飛び上がって驚くジュラ。
変なとこにものを詰めたか自身の胸を叩いている彼の桝にウランはにこやかに酒を注いだ。
『チミィ、全然呑んでないなぁ。それじゃあいけない!ウン。』
『あ…暑苦しい…俺はケッコーですーほっといてくださいー』
『ナニィ⁉︎我が神酒が呑めないのかぁ?おらおらぁ。』
『うげぇ、なんだこのアルハラ太陽神⁉︎』
『そうだそうだ〜』
空いている左サイドにいつの間にか滑り込んでいたイオンもくっついて来る。
『私の酒が呑めねぇってのかぁ〜?おらおら〜。』
『うげぇ!妖怪アルハラマナイタ女までぇ!』
『あ?言ったなコノヤロー!気にしてるんだぞー!おどれ吐いた唾飲まんとけやぁぁぁぁ‼︎』
『んぎゃー!痛い痛い!やったなコノヤロー!』
『ハッハッハ、見たまえカント嬢・ステガ君。あれがこの世で最も醜いケンカだよ、覚えておくといい。さぁみんな!取っ組み合いが始まったよぉ!賭けるなら今しかない、張った張ったァ!俺はイオンに1000コンス!』
『あ、ずりーっすよカブさん!くっそ〜しょうがねー、じゃ俺はジュラさんに500コンス賭けとくっす。』
『イオンに50000コンス。』
『俺のオッズひどすぎだろ!てかジムナーコォ!テメェは俺を舐めてんのか‼︎』
『正当な評価だが?』
『んだとコラァ!って、待て、イオン。なんだその凶悪な棍棒は⁉︎どっから出し…どぉわぁぁぁぁ!』
『おーっと決着かぁ⁉︎では、カウントを取りまーす!じゅーう…』
危機感の薄い旅人に何かしらヒノ国に都合のいい約束を取り付けようと企んでいたウランであったが、目の前で畳をタップしているジュラの顔を見ていると策謀を巡らせることがアホらしく思えてきた。
神は笑って賽を投げる。
『俺も乗ったぁ!イオンちゃんに1億コンスだ!』
『テメーら揃いも揃ってバカにしやがって〜。おんどれぁ見てろよ、今に…ちょっとイオン?部屋の中でカシパンはやめようねーそうそうえらいえらい。隙ありィぶほっ!ば…か……な…』
『ああっーと!ジュラのジョーに完璧なカウンターが決まったぁー!つよいぞイオン・アイシクル!』
『そーでしょそーでしょぉ?ふへへ、これがさっき思いついた一子相伝のアイシクル酔拳!ごひょうらんあれぃ!』
イオンが暴れた拍子に酒瓶が何本かあり得ない挙動で吹き飛び、まるで因果律にそう囁かれたかのようにオリレの頭に直撃した。
当然のように瓶は彼女の頭に負けて玉砕し、一気に酒をかぶることとなる。
一瞬静まり返る場。
いつも通り表情は窺えないが、彼女が立ち上がった際の仕草でそれはハッキリとわかった。
オリレ・カラカネは完全に出来上がっていた。
何を思ったか、彼女は大量の酒が染み込んだ髪の毛を鞭のように振り回し周囲を打ち払っていく。
最初の犠牲者は彼女の無事を確認しようと肩を叩いたコニワだった。
訓練を欠かさない軍人がいとも簡単に薙ぎ払われ美しい放物線を描いて舞い上がる。
『あーっとコニワくん吹っ飛ばされたぁー!』
カブウはまだ実況を続けている。
『コ…コニワァァァ!止まれオリレ上等へ…』
ジムナーコも続けざまに打ち上げられた。
『や…ヤバい!酒乱だ酒乱だー!』
『シュラン?じゃあ私はイオンだ!』
ボケボケしたことをほざいている少女の口に根菜の煮物を詰め込む。
『むぐ。』
『ちょっと黙ってろ酔っぱらい!おお偉大なる太陽神サマァ!今こそ我等を救いたまへー!』
『キミが祈ってちゃアレだろーに。まぁいいよ、それじゃあ我が威光を示すとしようかな。行け!我が権能によって大地から生まれし焔の神剣、金烏よ‼︎』
キンウはとっくに帰宅していた。
手を前に突き出したなんかそれっぽいポーズのままウランが宙を舞う。
『はわわわわ…もうダメだ、おしまいだぁ…』
『むぐむぐ…ゴクン、ジュラ!ここは私に任せて逃げて!』
『イオン…お前…!』
『あの技、たぶん伝承にある唐金巴獅子…であれば!わがアイシクル酔拳で打ち破れる!』
『おお、なるほどな⁇なんかよくわからんけどすごいな!』
『命をかけた闘いになるだろう…先手必勝!必殺ジュラバスター!』
ジュラの襟が掴まれ、それに疑問を感じる暇もなくオリレに向けて投擲される。
『へ?なんで?』
それが少年の断末魔だった。
撥ね飛ばされ薄れゆく意識の中、彼は確かに見た。
何事も無かったように対峙し互角の戦いを繰り広げるイオンとオリレの姿を。
『アレ…?俺が死んだ意味って…何?』
優しいアルコールに包まれて、彼の意識はブラックアウトした。
『ダーッハッハッハ‼︎いやー2人とも、面白い余興を見せてもらったよ。感謝感謝…あれ?なんでこっち来て…‼︎や、やめるんだ!俺の側に近寄るなァー!』
悪の実況王カブウは倒れた、彼女達の覇道を阻むのは後1人である。
そう、中央連合王国軍最強にして最大戦力三枚盾の一角、閃光のタイチョーこと光の英雄ブライト・ロマネスコその人だ。
既に半裸のカラッパをなぜか床の間で逆さ吊りに処していた彼の頭脳は、嵐のように迫る彼女達への対抗法を瞬時に導き出す。
彼がとった手段はTHE・宴会芸、皿回しであった。
それも3枚や4枚ではない、額・右手・左手・左足・首・尻尾のスペシャルな6箇所同時回転である。
そう、数多の酒気を浴びる中で彼もまた存分に出来上がっていた。
しかしこのブリリアントシックスレボリューション(今命名)がウケなかった宴席が無いのは事実。
対抗策としては間違いなく最強クラスの札だったろう。
しかし、嵐は生命・財産、そして時にそれまで築いてきた自信の全てを奪い去っていく。
具体的に言うとブライトは1秒と持たず吹き飛ばされて撃沈した。
もはや彼女達を止める者は居ないのか?
否、まだ最良の友である二足竜が2頭立っているではないか!
絶望に塗れた宴席唯一の希望、そんな彼等は今全てをガン無視して料理を啄んでいた。
どうせすぐ酔いが回り切ってくたばるだろうと分かっていた彼等は、視界の隅で未だ暴れ狂う2人を鬱陶しそうに眺めながら自らが雑食であるメリットを享受しているのだ。
彼等が満腹になり勝手に竜舎へと戻る頃には料理はほぼ平らげられ、立つ者の居ない死屍累々の部屋が残されるばかりであった。
額から伝わる地面の冷たさに酔いが覚めていくのを感じる。
そして、頭がシャッキリしてくると同時にジュラは自分達がしでかしたことのヤバさを理解し始めていた。
今、彼等は全員で女将のロマナに土下座を敢行している。
神の中でも位の高い太陽神までもが額を地につけているのは見た目だけなら滑稽だが、とても余計なことを考えられる雰囲気ではない。
『いくらお客様と言えど、えぇ許せないことはありますともえぇ。』
地の底から響くような女将の声に血の気がサッと引いていくのを感じる。
『女将さん…大変ご迷惑をおかけした。ここは私が年長者として弁償させていただくのでどうか寛大な処置を…』
『えぇお金を出せばそれでいいとでも?ウラン様というお方がえぇついていながら何故このようなことを?』
『えー、酒の席特有の空気感と言いますかなんと言うか…』
ブライトがより額を深く下げた。
『申し訳ございません‼︎全て監督責任を疎かにし、自らを律することもできなかった私の責です。いかような罰でも受けますので、どうか部下と友人達の命だけは…!』
『えぇそんな深刻なえぇ話じゃありませんとも。皆様、頭をえぇお上げください。ただ、度を越えて汚した分はお客様自身でえぇ掃除していただきます。』
『ハッ…謹んで掃除させていただきます!総員、きり…』
『えぇやる気があるのは結構ですが、えぇ。まずは…』
女将が手を叩くとどこに潜んでいたのやら従業員達がぬるりと姿を現し土下座軍団を包囲する。
『サービスの酔い覚ましです。えぇ』
1人一杯、謎のドリンクが手渡された。
従業員が飲み干せというジェスチャーを送ってくる。
思い切って口に含み飲み干してみると味はひどいものだったが、なるほどこれは酔い覚ましに最適だ。
みるみるうちに思考が鮮明になっていく。
それこそ下戸オブ下戸のイオンですら目線がどこに向いているかわかるようになっている程に効果は抜群だった。
程なくしてブライトの指揮によるロマナさんごめんなさいお掃除大作戦は開始された。
意外にも料理がこぼれたり等はほぼ無かった(カント08とステガ15が食べたから)が、そこらじゅうにシミを作っている酒には参った。
水分自体はジムナーコがいくらでも吸い取ることができるが、一度汚れてしまった畳や襖は取り返しがつかない。
ブライトはウランと額を突き合わせてあーだこーだ言いながら弁償代の概算をしていた。
程なくして片付け自体は終了し、ようやく休めると思ったのも束の間、またしてもぬらりと現れた従業員達に担ぎ上げられ浴場に放り込まれる。
客に対して強引すぎるような気もするが、よくよく見返せば自分達の格好もひどい有様である。
寝る前に最低限体は洗えというお達しなのだろう。
かくして、ジュラ・パズズを始めとする関係者一同は半強制的に裸の付き合いをすることになったのだった。
ジュラ的にはむりくり放り込まれたものの別段不満ではない。
熱湯風呂であろうがヒートアップし過ぎた酒盛りの熱には及ばず、なんならクーリング手段にすらなり得るのだ。
深く息を吐き湯船に沈むジュラの頭をを上から何者かの手が押さえた。
『わぶぶっ!ブハッ!誰だコノヤロー!』
顔を上げて振り向いた彼が見たものは、水面そのものが手の形をとって揺れている姿だった。
『テメェ、ジムナーコォ!なんのつもりだ、溺れるとこだったぞクラァ!』
『あまりに隙だらけだったもので好奇心を抑えられなかった。ココロノソコカラスマナイ。』
『棒読みじゃあねーかコノヤロー!湯煙特設リングだブチのめす!』
『湯船で騒ぐなマナー違反だ。』
『まぁまぁ2人とも、仲が良いのは大変結構だがね。太陽神様の御前だぞ?』
弁償代の7割をウランがポケットマネーから出すという話になってからブライトのテンションは目に見えて高い。
『調子いいよなアンタも…』
『伊達に縦社会やってないさ。諂うときは上手に諂おう!』
『うーん、あまりに情け無さすぎる…てか、そういやアンタたち軍人だったな。こうしてみるとそりゃガタイもいいよな…』
『お、それじゃあ男の友情、筋肉自慢大会でも始めますか?まずはこのコニワ、不肖ながらいかせてもらうっす。』
有無を言わさず湯船から飛び出したコニワがガッチリとポーズを取る。
『ピュゥピュゥーいいぞいいぞー!』
『ヒュー!肩の銃創がセクスィー!』
どうもコニワは着痩せするタイプらしく、軍服の時とは打って変わって質の高い筋肉に包まれた身体が遺憾無く存在感を発揮していた。
屈強な内にも繊細さが見え隠れしているのは料理人という彼の性だろうか?
彼に対抗するように湯船から躍り出たのはジュラであった。
同じく調理を生業とする者同士、そこには譲れない一線がある!
ジュラが気高い誇りを胸にポーズを取る。
『…ビューティフル。』
『メガトン級筋肉弾頭〜!』
魔界から来たばかりの頃であれば宮殿育ちのボンボン等、彼等に対抗すらできず筋圧で微塵擦りおろしにされていたことだろう。
しかし、いくつも死線を乗り換え成長した今の彼は違う。
若干細身ではあるものの、実戦という最良の訓練所で徐々にその肉体は研ぎ澄まされてきていた!
その研鑽を感じ取ったか、コニワがギリギリと歯噛みする。
相手を認めるという行為から悔しさというエッセンスが湧き上がるのだ。
一方こちらは女湯…
『オリレさんって髪綺麗ですよねー、シャンプー何使ってるんですか?』
『………』
『え、「サボアンコウ」の背脂?知らない生き物だ…見つけたら使ってみよ…え?やめたほうがいい?はぁ…なるほど、体質的に普通の人じゃ合わない…むねん。』
『このカラッパ、謹んで場を盛り上げさせていただきます。』
湯船から厳格な工兵が飛び出し、床に降り立つ。
しかし決してオーディエンスに正面は向けない。
男は背中で語るのみだ。
『Oh…Mr.アイアンマン…』
『なんだなんだ〜?誰がここに国宝級の彫刻を置いたんだぁ〜?』
その体は鋼を纏っていた。
決してマッチョマンとは言えない体型ではあるが、十分すぎる程の量と質を兼ね備えたオーダーメイクの肉の鎧がその強さを雄弁に語っていた。
『ふふ、流石は本来曹長の位置にいるべき男といったところか。』
『昔の話です、少尉殿…それに、私はあの行いを後悔しておりません。』
『いい顔してるなぁ、宴会で偉い人ぶん殴ったのに。』
『まぁ元から嫌いでしたので。遅かれ早かれいずれはでしょう。』
どうやらこの男、割とちょくちょく酒でやらかしているらしい。
機械をいじくるヤツらは皆こうなのか?
『さて、部下の手前だ。総大将として格好つけさせてもらおうか!』
ブライトが湯船から飛び上がり空中で回転して着地する。
すかさずバチっとポーズを決めるその姿だけで男が経験してきた全てが手に取るように伝わってくる。
しなやかな腕と尻尾はその体に星の核を越える密度のエネルギーを含有することを包み隠さず示し、その秘めたる獰猛性はジュラよりも小柄な体躯であるにも関わらず、巨神に立ち会っているのではないかと錯覚させられる。
永いと表現することすら億劫となる程に永い時を生きたウランですら目を丸くして言葉を失っていた。
やはり年月を重ねている分ジュラよりも膨大な情報を得ているのだろう。
『やっぱ少尉殿はすごいっすね〜もうすべてから戦場の匂いしますもん。』
『そうかぁ?俺仕事とプライベートは分けるタイプなんだけどなぁ。』
『まったく…これで本当に人の身だというのだから…クコックコッ。プライドばっかり高い天界の神々にも嫉妬されるだろうよ。』
『それは光栄だ。俺が死んだ暁にはお裁きの場でキッチリ自慢することとしよう。』
『一個聞いていいか?さっきから気になってたんだが…その尻尾何?』
一方こちらは女湯…
『オリレさんってスタイルもいいですよねー、いーなーいーなぁー。』
隣の少女から放たれる嫉妬の暴風雨(中火)に彼女はタジタジになっていた。
『私なんかもうここ半年どこもかしこも伸びも縮みもしてませんよー。毎日ヨーグルト食べてるのに。何食べたらそんな色々とおっきくなれるんですか?』
『……………』
『ふむふむなるほど、よーするに遺伝と。………ドチクショウめ‼︎』
生命の誕生以来脈々と受け継がれる神秘のシステム、その厚すぎる壁の前に無力な彼女はただ慟哭するしか無かった。
『この尻尾なーそういや言って無かったか。俺は種族としての「猿人」、おっと化石で見つかる方じゃないぜ。定説じゃ人間との共通祖先のうち樹上生活に適応したものって感じらしいが…小難しい話はいいだろ。人間と見た目はさほど変わらないが腕はやたら長いわ尻尾はあるわでよく不気味とは言われるな。』
『へぇー、世界にゃいろんなのがいるもんだな。初めて見たぜ。』
『まー数はいないだろうな。何しろデカい生き残りは俺の故郷でもある「エープス自治区」と別の大陸に1箇所しか無いし。落ち目もいいとこだ。』
『それは…なんというか…ご愁傷様…』
『こればかしは適者生存だからなぁ。ま、そんなことより次なる筋肉野郎はどいつだぁー⁉︎』
待ってましたと言わんばかりにウランが後光を伴って浮かび上がった。
『いやはや、粗末な分霊体で恐縮だがお許し願いたい。』
口では謙遜しつつも全身から自身に満ち溢れたオーラを放つウラン。
しかしそれも当然だろう、何しろその肉体は精密に設計された黄金比そのものだったのだ。
ある1箇所を除いては。
『神筋!神筋!神筋!』
『背中の炉って完全にくっついてるんすね。どうやって服脱いだんすか?』
『その右腕…なるほど、それであの剣か。』
ウランの手は剣士の完成形、理想そのものの形状をしていた。
それは練度という話を抜きにして、あらゆる刃物が持つ切断という力を最大限以上に引き出す完璧オブ完璧、強いて名をつけるなら剣聖比とでも言おうか?
『ある人間を参考に形だけ真似たものだがね。次は剣術にも磨きをかけてリベンジしよう、少尉殿。』
『もちろん、私等で良ければいつでもお受け致しましょう。』
ブライトとウランが好戦的な笑みを浮かべて睨み合う。
血の気の多いおじさん達の間にカブウが割り込んだ。
『それじゃ、大トリはこのカブウかな?期待しておくれよぉ〜』
『あれ?ジムナーコとキンウはいいのか?』
『俺はスライムだ、筋肉という部位は存在しない。』
『俺は付喪神だ、全身ツルツルだ。』
『お…おう、そーかい。』
カブウが触手を這わせ、湯船から立ち上がる。
『フフ、惚れてもいいよ?…フンッ!』
全身に力がみなぎると同時に肥大化する触手、浮き上がる血管。
先ほどの宴でさらに栄養をつけたカブウの姿は、マッチョマンというよりこの世のあらゆる悪感情を肥料として与え続けたアネモネのようなものになっていた。
『いや気色悪っ!もうやめとけっ、人に見られたら通報されるっ!』
『えっ、でもまだ歓声が上がってな…』
『キシィーーーー!』
『うわっ!カラッパさん!威嚇はダメです、失礼っすよぉ!』
カブウの心に傷ひとつ。
『いやー皆さん落ち着いてくれたっすね。よかったよかった。』
カブウは湯船の隅っこで拗ねているが放っておいて問題はなさそうだ。
『まぁ結構長風呂してますし?これで上がるのもアリなんですが…どうです、あのスキマ。』
コニワが指差した先にあったのは女湯と男湯を分かつウルトラセキュリティウォールとなっている岩である。
その最上部には隙間が空いており会話や小物のやり取りくらいならできるようになっているが…
『コニワ…?お前!まさか!ヤル気なのかっ⁉︎』
『そりゃあそうでしょうジュラさん。全宇宙男児の夢と言っても過言ではないこのスキマッ、覗かずして何がオトコかっ‼︎』
『考え直せっ!今向こうにはテメーの大事な仲間もいるんじゃあないのかっ!何より、バレたらブッ殺されるじゃ済まないぞっ‼︎』
『挽肉になる覚悟など最初からできてますよォ〜、貴方はどうなんすか?自分に嘘をついてるんじゃあないすか?諦める理由ばかり探してるんじゃないすか?』
『そんなこと…あるわけがっ…』
『そうですか…人生僅か50年、このコニワ…例え1人でも一花咲かせてみやしょう!』
『…………待てっ!…悪かった、もう覚悟はできた。男ジュラ・パズズ、同行する。』
『フッ…それでこそオトコノコっすよ。』
神妙な面持ちで歩みを開始したコニワとジュラであったが、湯船を出る直前ブライトの咳に引き止められる。
『なんすか、覚悟はできてますよ。』
『俺は止めやしないさ。ただ、かつて少年だった者から今を駆ける少年達にアドバイスさ。恐れるな、覚悟は道導…だ。』
『…ありがとうございます。』
壁を登るのは簡単だった。
もちろん同じようなことを考えるバカ対策に表面は滑らかにされている。
しかし、微小な傷や突起は無数に存在しており鍛え上げられた肉体を持つ彼等にとっては平地も同然だった。
瞬く間に頂点に手を掛け、顔を見合わせることで覚悟を確かめ合った2人は一斉に体を上に引っ張り上げる。
そして、その向こうには湯煙桃源郷が………無かった。
彼等の視界にいたのはただ緑色のスライムのみ。
それは2人が今を理解するより疾く、ずっと前からそうすることを決めていたかのように彼等の目に体内から石鹸水を吹きかけた。
『『目がぁん‼︎目がぁぁぁぁん‼︎』』
頭から転がり落ちた痛み等気にならない程執拗に眼球をいじめに来る悪魔の液体の前に彼等は全ての抵抗力を失っていた。
錯乱した感覚でなんとか認識したのは湯船に顔を突っ込んで腹を抱えているブライト以下数名の姿と体をぐにょぐにょ揺らして挑発してくるジムナーコ、そして自身への死刑宣告だけだった。
『あ!誰か引っかかった!ジムナーコさーん、覗き魔誰ですかー?』
壁の向こうから声が聞こえる。
『不埒なる覗き魔は二名!コニワとジュラだ!聞こえたか?』
おかしい、浴場にいるはずなのに背筋が寒い。
『…へぇー、わかりました!……………ジュラとコニワさんには私たちから後で話があるのでちょっとツラ貸してくださーい。』
どうやら彼等はこの地に骨を埋めることとなりそうだ。
しかしそれも詮無いこと、最初からジムナーコの掌で踊ろうとしたことが最大にしてたった一つのミスなのだ。
その後の彼等は1番温度の高い温泉に入っても震えが止まることは無かったという。
『お、やっときた。そーとー絞られたと見えるな、顔が2倍くらいに腫れてんぞ。』
ジュラとコニワが解放されたのはおよそ2時間に及ぶ折檻を耐え抜いた後であった。
その内容は凄惨そのものであり、2人には記憶自体は残っていないものの、圧倒的な根源的恐怖だけはハッキリと深層心理に残ることとなる。
部屋に入るなり死んだように倒れる彼等の姿にウランはまた吹き出した。
また現在、ジュラ一行が借りた部屋を女部屋、ブライト隊が借りた部屋を男部屋にしていることをここに付け加えておく。
『やー、オモチャにして悪かったな2人とも。今日はゆっくり寝ような。』
『………ないすか………』
『?…え、なんて?』
『男の友情第二ラウンドォ!枕突き合わせて恋バナするのをまだやってないじゃないすかァー!』
コニワの叫びに呼応してしまったか、布団を被って寝ようとしていたウランとカブウがにじり寄ってくる。
『『恋のお話?ステキね…!』』
部屋の照明が消えるとともにブライトが部屋をムーディなピンク色の光で包み込んだ。
完全に能力の無駄遣いである。
『じゃあまずやっぱりぃ、ジュラさんに聞きたいんすけどぉ…ぶっちゃけイオンちゃんとはどこまで進んでるんすかぁ?』
『あー、それきくぅー?コニワったらトップギアだなぁもう。』
『でも、俺もそれ知りたかったのー。一緒に旅しててもわかんなくてさぁ。』
『私にもお聞かせ願いたい。』
全員の視線を注がれたジュラは頬を赤く染めて目線を逸らした、
『べ…別に、アイツとはそんなんじゃねぇしぃ…ただのけいや…友達だよぅ。』
『きゃぁー!初いねぇ初いねぇ!マイハート核融合しちゃいそう。』
『いっつもしてるじゃーん!』
『大事にしなよー?美人さんになるぞぉ?』
『てか!ホントに勘違いすんなよな!俺と!イオンは!とーもーだーち!わかった⁉︎』
『うふふ、そういうことにしといたげるよ。そうだ!太陽神様なんて長い長い過去に色々浮いた話もあるんじゃあない?カブさん、聞きたい!』
『そこまで言われちゃ仕方ないなぁ。じゃあ俺が存在しない女神に恋焦がれて月つくった話したげる!』
『…………へ?』
『あのときぃ、俺も精神極まっててぇ。暇つぶしに理想の女の子つくっていっしょに遊んだりしてたんだぁ。40人目の子供(虚像)ができたくらいにね、その子に体をあげたいなーって思ったからちゃちょっと重力をいじって地界に星をぶつけて欠片で体をつくってあげたんだよぉ。いやーあん時はキザなセリフ言っちゃったなぁ。キミに捧げる愛おしき玉、いつまでも私とともに輝く魂であってくれってね。キャー!』
『そ…それはそれはうん、幸せそうで何より…』
『あのぅ、ほんのちっぽけでつまらない質問だが…その愛しき人は今も…?』
『いや?20億年くらい前に4回目の死(食中毒)を迎えたよ?そういやあれから会ってないなぁ…まぁいいか。どうどう?ときめいた?』
『えーなんだ、そのー…‼︎おい、コニワ!カラッパ!寝たフリをやめろ!俺に押し付けるな!うー、いやまあ、神と我々が生きる次元はとことん違うことが理解できたよ…』
『…?いや、キミなんか割とこっち寄りだと思うけど。』
『勘弁してくれ…』
すでにブライトとウラン(と既に寝てるジムナーコ)を除く全員が狸寝入りモードに移行しており、仕方なく2人も布団にくるまり睡眠体勢に入る。
個々人がそれぞれ違う思いを抱え、中々寝付けずにいたがその根本にある恐怖という感情だけは共通していた。
神と人は格が違くてよ、色々と。
翌朝…
『おはよ〜なんかジュラもカブさんも顔色悪いよ?だいじょぶ?』
『はは、2人揃って悪い夢見ちまってな。…悪い夢であってくれ。』
『なんか大変だったんだねー、隊長さんたちも元気ないし。』
出立の準備を進めるジュラ達の元へブライト隊が歩みよる。
『や…お互いよく眠れたらしいね。』
『おう…お陰様でな。』
ぎこちなく笑い合う男性陣の様子にイオンとオリレ(両者昨晩は爆睡)は首を傾げる。
ジムナーコがふとイオンの抱えるカバンに目を向けた。
『その荷物、今日立つのか?』
『そーですね、街の方を満喫しながら戻ろうかなって考えてます。』
『そうか。…遅れてしまったが少尉殿の代わりに言わせてもらう。一般市民であるあなた方をこのような血生臭い作戦に巻き込んでしまい本当に申し訳なかった。我々の至らなさを恥ずかしく思う。』
『そんな気にしないでくださいよ〜私、ちゃんと目的のものはゲットしたので!』
イオンは黄石洞からの脱出後、ひっそりと烈火軍に鉱石を詰め込んだ袋の捜索を依頼していたらしい。
戦闘狂揃いの烈火軍にどんなワイロを使ったのかは知らないが…
『ちゃっかりしてんのなー…あ、話は変わるけど今回俺たちは王位争奪戦を邪魔しちまったわけだよな?アレって結局どうなったんだ?まさかクーデター扱い?』
『それについては俺からお答えしよう。』
ウランがジュラの背後から答える。
『今回は異例尽くしだったからどうしたものかと思っていたが、当人達曰くより長く立っていたヒートが王に相応しいとさ。本来なら不法侵入の挙句王族に剣を向けたことを追求するところだが、仮に地上の被害が甚大になっていればあわや戦争の危機だったし、ここは不問としよう。』
『互いに口は噤んでおくとしようか。今はその方がいい。』
『クコックコッ、平和に行こうねー。それじゃ!縁があればまたどこかで。』
ウランは軽く手を振り、一筋の陽炎となって消えた。
『…だそうだ、ジュラ少年達も今回のことは口外せずなるべく早く忘れるんだ。地底の事件なんて無かった、それでいいね?』
『わかったよ、俺たちだって口滑らしてアンタたちや烈火軍に命狙われんのはゴメンだからな。』
『りょーかいです、事なかれ事なかれ〜』
『ものわかりが良いのは美点だ。帰属する場所は違えど我等はもう戦友、殺したくはない。主のためなら虚言も吐くがこれは本心だからな…そういや、次の目的地は決まってるか?これでも情報は入ってくる立場なんでな、有名どこならアドバイスはできると思う。』
『わぉ、助かります〜。次は海、越えてみようと思ってまして「サイレンス共和国」に行こうかなーっと。』
『ん初耳ぃ!まぁイオンがいいなら俺もそれでいいと思うけど。』
『ここからサイレンスか、長旅になるだろうし気をつけてくれ。最近マシになっちゃあいるが、あそこは治安最悪だ。武器は常に携帯しておくのが吉だろうよ。』
『ふむふむ、おっかないなぁ。道中色々揃えてかなきゃ。』
不安感を煽られる紹介だが、いくら治安が悪いとはいってもここの地底ほどではないだろう。
『忠告感謝するぜ。因みに、アンタたちはどうするんだ?』
『我々は事後処理もあるからもうしばらくは滞在するだろう。ウランと議論したいこともあるからな。そうそう、体の調子はどうだ、ジュラ少年?朝メシ食ったか?』
『突然なんぞ…?まぁ骨はくっついてないけど朝餉はしっかり食った。』
『なら旅立つ若人に餞別を、オリレー!ちょっとこっち来てくれー。』
椅子でくつろいでいたオリレが立ち上がりジュラ達の元へとやってくる。
既にブライトの意思を解していた彼女は一言も無くジュラの右腕を取ると、いつも通り小さくしかしハッキリと聞こえる声で唱えた。
【ホムラウル・サクラム】
骨折場所に重ねられたオリレの手を白い光が包み込むと同時に、ジュラは急速な体温の高まりと空腹感に襲われた。
『う…うぉあぁぁー!吸われるっ吸われるぅー!』
未体験の感覚に膝をつき首を垂れるジュラ、程なくして吸われる感覚は無くなったものの顔を上げる勇気は出ないらしい。
『イオン〜、まだ俺の手くっついてる?』
『くっついてるくっついてる、たぶんたぶん。』
恐る恐る自身の手を見てみるが、それは何事も無かったかのようについたままだった。
それだけでなく、折れたはずの場所より先に力が入り拳をつくることができるようになっている。
尋常ではない再生に歓喜より困惑が勝った表情を浮かべるジュラに向けてブライトが言葉を続けた。
『俗に言う回復魔法ってヤツだ、まだ痛むか?』
『そうか、これが噂に聞く…いや、もういつもと変わらねー。てかなんなら前より調子良いような気がする。感謝するぜ。』
『当然、オリレの仕事は一級品だからな!そうだ、どうせならここで習っておけばどうだ?少年ほどの実力があれば習得はできると思うが。』
ジュラが微妙な表情を浮かべ首を振る。
『ありがたい申し出だけど、気持ちだけ受け取っておくことにする。俺たちはすぐにでも出発するつもりだしアンタたちだって忙しいだろ?』
『むー、絶対便利だと思うんだがなぁ…』
カブウが竜舎から2頭を連れてきたらしい、外からやる気に満ちた息遣いが聞こえてくる。
『じゃあ、お別れだな。』
『次会う時は最初から味方同士でいたいねぇ。ジムナーコも少年のようなライバルができて喜んでるし、俺も再会を願っている。』
『少尉殿を否定するわけではないが、俺はお前が嫌いだジュラ・パズズ。ライバルだなんだのと勘違いをするんじゃあないぞ。』
『ハン!俺だってテメーのお陰でもっとスライムが嫌いになったよ。せーぜー元気でやれよな。』
『ジュラさんともっと料理について意見交換したかったんすけど、時間ってのは残酷っすね〜』
『ここの料理についてももっと語り合いたかったよな〜ま、お互い研鑽しようや。』
ジュラがカント08の背に跨り、まだカラッパやオリレと別れを惜しんでいるイオンを呼ぶ。
首がもげそうなほど後ろ髪を引かれつつ彼女も竜に乗り、出発の準備は整った。
足でトントンと合図を出すと、昨日腹一杯に美味しいものを詰め込んだ2頭は勢いよく駆け出した。
『うおっ、速!…それじゃあまたな〜!』
『隊長さんたちもお元気でー!』
あっという間に宿の門をくぐり手を振る影がゴマ粒のように小さくなっていく。
このままでは勢い余って街に突っ込みかねない。
『ちょっと張り切りすぎだ!緩めろ緩めろ〜!』
手綱を強く引かれて漸く常識的な速度に落ち着いた2頭の背でジュラ達は一息つく。
『なーんかすげー危ないことに首突っ込んでたなー。やっと落ち着けるぜ。』
『死ぬかと思ったよねー。ま、五体満足で帰れるからオールオッケー!』
『元はといえばテメーが言い出しっぺだろうが!反省しろ!…ってのはともかく、今回は本当に助かった。お前が無茶苦茶やらかしてくれなきゃ俺たちはあそこでまとめて溶岩に呑まれておしまいだった。ありがとな、これからも頼りにしてるぜ。』
『えへへ〜照れるなぁもう。私が最高究極のMVPだなんて、そんなホントのこと言われてもぉ〜』
『なんだコイツぅ〜そこまでは言ってねーぞぉ?』
『なん…だと…!で、話は変わるんだけどさ。』
『えらい急転換だな…なんかあったのか?』
『ジュラって回復魔法いらないの?便利そうだしさっき教えてもらえばよかったと思うんだけど。』
『あー、あれなー…ちゃんとジムナーコにスライム回収してもらったか?』
『?…うん、今朝持っていってもらったよー。』
『じゃあ言ってもいいか…悪魔って種族はどうも清浄なる光の魔法と相性が悪くてな。それと性質がよく似る回復魔法も使えないんだよ。魔界にも昔は使えるヤツもいたらしいが、今はもうロストテクノロジー扱い、無理に使おうとすりゃ別のとこから血が噴き出るぜ。』
『ひえー、スプラッタ。いいことばっかじゃないねー。』
『だなー。ま、想定より早く腕使えるようになったし後は魔剣が手元に戻ってくるのを待つだけだな。』
カブウが突然ピタリと立ち止まる。
『おわわっと、カブさんどしたの?』
『いやちょっとジュラに伝えるべきことを思い出してね…ンゴ…モゴゴ…!あったあったコレだ!』
大きく口を開いたカブウの舌の上には紫色に艶めく刀身の魔剣アメーリオが横たわっていた。
『⁉︎…なんでカブさんが持ってんだ⁉︎確かに洞窟に突き刺さったはず…』
『突然水に流されて流石の俺も焦ったからなぁ、手当たり次第触手を伸ばしてどこでもいいから掴まろうとしたんだよ。しばらく流されてなんとか掴んだのがキミの剣だったというわけさ。』
『うーむ、なんたる偶然…あれ?待てよ、てことは…』
『もう何時でも出発できるってこと!つまり…』
『『遊び尽くして帰るぞー!』』
全ての懸念事項から解放されたジュラ達はネオン煌めく夜の街へと繰り出したのだった。
一方こちらは風炉花荘玄関前、去っていくジュラ達に深々とお辞儀していた女将が中に入っていったのを確認したジムナーコがブライトに耳打ちし始めた。
『少尉殿、少し報告したいことが…』
『今は俺達だけだしいつも通りでいーぞー。で、どうした?』
『…ではブライトさん、ジュラ・パズズに関してなのですが…奴は伝説に語られる災厄の化身、悪魔なのではないかと。』
『…根拠は?』
『本作戦中、俺は何度か奴の全身を包む機会がありその度に頭部から伸びる角のような存在を確認しています。外見的には分かりませんがコレは昨日の入浴でも確認できました。まずこれが1つ。』
『ふむふむそれで?角だけなら地底人や竜人、俺の兄貴だって持ってる。』
『ええ、存じています。第2の根拠は奴の属性魔法、これの切り替えです。通常、現在の魔法は複数の属性を実践的なレベルで扱うのは高難度であり、扱う種類の切り替えにも術式の繋ぎ直しが必要なことはご存知でしょう。ですが、奴は全くその工程を踏まず属性を切り替えて使用しています。これは古書に記された悪魔固有の特徴と類似しており、全魔連に連絡すれば賞金ものでしょう…いかがですか?』
『十分及第点、だが詰めが甘い。合わせて考えるべきはどこからでも出てくるあの剣と回復魔法に対する反応だ。後者もまた悪魔の一般的性質に通ずるところがある。そして前者と今お前が言った少年のファミリーネーム、これを考慮すると…聞き齧っただけの俺の知識が間違っていなければ敵も味方も高貴な御方だらけだったことになるかもな。』
『どういうことです?』
『時間はあるんだ、追々話してやるよ…あ、そうそう少年だがさっき見たら翼に尻尾まであったぞ。あの変なスーツ着てる時は見えなかったから中にしまってたのかな?』
『そうでしたか、そちらもまた外見には反映されてないように感じましたが。』
『恐らく魔法的誤魔化しがなされてるんじゃないかなぁ。かくいう俺も可視光よりずっと波長の短い光で見てわかったことだし。ま、正体の鑑定はアムルド氏にでも頼んでおくとしよう。それに、俺がなんと言おうが告げ口なんてする気はないんだろ?』
ジムナーコの沈黙は何よりもわかりやすい答えだった。
ブライト隊は朝餉の香りに誘われ部屋へと戻っていく。
その窓からは満点の擬星空の下、賑わう街の提灯が瞬いている様子がよく見えていた。
ジュラ達がヒノ国を立ったのは2日後である。
回を重ねるごとに長くなっていく…書いてて楽しいからいっか!
用語集
サポアンコウ
流れの穏やかな砂泥底に生息する肉食性魚類。
危険を感じると信じられない量の毒泡を出して身を守る。
猿人
人間との共通祖先の内、森林地帯で樹上生活を選んだ方の現在の姿。
エープス自治区
一応中央連合の領土ではあるが、接触を拒む猿人の割合が多く彼らの自治に任せている。
サイレンス共和国
元々悪そのものの生まれ故郷と揶揄されるほど治安が悪く犯罪組織の温床であったが、現在はマシになりつつある。
ホムラウル・サクラム
骨折に特効がある回復魔法の一種。