魔剣王正伝   作:プルプルマン

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滅茶苦茶に強い存在って幸せなんでしょうか


強者の時代

我が愛しの孫 ジュラへ

 

 やっほー、地界には無事に着いた頃かの?

 ワシの術が成功していたなら良いが…ああ、心配せんでもこの手紙をお前が読み終えれば、自動で鳥に変化して魔界に帰ってくるように魔法をかけておる。

 まぁ要するに、手紙を読んでくれればワシにも無事が伝わるわけじゃ。

 だから、律儀に返事を寄越さなくても良いぞ〜そもそもそっちの郵便がここまで届くとは思えんしの。

 

 さて、本題に入ろうか。

 ワシはお前がどこに飛んだか、詳しい位置まではわからんが、多少過酷な場所でも手を貸すつもりはないから悪しからず。

 己の力でなんとかしておくれ。

 お前を地界へと送った理由にも関わってくるしの。

 その肝心の理由じゃが、まず転送前にも言ったように今のお前にははっきり言って王の資質が無い。

 厳しいことを言うようじゃが、魔界の一癖も二癖もある連中を束ねる者であるには、並大抵の器では務まらん。

 そして、今のお前には、その器を構成する強さも心意気もカリスマも何もかも足りておらん。

 何より、空を飛ぶことを恐れその恐怖からすらも目を背けるような体たらくでは本当に魔界が腐ってしまう。

 よってまずは、世界を見てこい!

 とはいっても、心安らぐ魔界の事ではないぞ。

 地界や天界…見たこともない世界で、全く違う文化に触れ、全く違う人々と出会い、全く未知の味に舌鼓を打ってこい!

 危険な事も数え切れないほどあろう、血の気の多い連中と戦うこともあろう、些細なトラブルはもっと多くあるじゃろう、しかしそうする事で、必ず今までお前に見えなかったものが見えてくるはず。

 それがわかった時、お前の中に伏す王は間違いなく目覚める。

 そうワシは確信している。

 じゃ、そういうわけで、冒険を楽しんでこいよ〜

 

おじいちゃんより♡

 

 

手紙を読み終わったジュラは突きつけられたその文言に絶句していた。

自分に一体何が足りなかったというのだろう。

キチンと言われた通りに剣術を学び、教養をつけ、相応しい品性(ついでに料理の腕前)をも身につけたつもりだった。

ちょっと空を飛べなかったぐらいがなんだというのだ。

一生を空で過ごす鳥ならまだしも交通インフラも発展してきた魔界で、悪魔が必死こいて飛ぶ必要など無いのだ。

まったくもって時代錯誤だ。

というか、カリスマなんてどこをどうしろと…

ジュラが上手く回らない頭で考えを巡らせていると、横から間の抜けた声が聞こえる。

『はぁ〜厳しいおじいちゃんなのねぇ…』

なんて他人事みたいな言い草だ、まあ実際他人事に違いはないのだが。

『う〜む、お前さん、ワシとイオンが思っていたよりずっと大変な事情がありそうじゃのう…』

その時、ジュラの持つ手紙がプルプルと小刻みに震え出し、ひとりでに発火した。

突然のことに驚いたイオンがテーブルに足をぶつけて勝手に痛がっている。

一方のサクタイは目を見開きつつも落ち着き払っているように見えたが、その差は人生経験の豊富さから来るものだろうか。

そして、当のジュラは目の前の現象を理解していた。

幼い頃に何度か祖父が使っているところを見たことがあったのだ。

その時の記憶によれば、確かこの後は…

手紙を包む炎はやがて暗紫色へと変わり、手紙そのものの形も羽を広げた鳥の姿へと変化していく。

数秒後にはテーブルの上に祖父のペットである「エンサフウチョウ」のソロぱちが佇んでいた。

一瞬ジュラと見つめ合ったソロぱちは別れの挨拶がわりと言わんばかりに一声囀ると、そのまま開け放たれた窓から飛び出し、空間に開いた小さな穴の中へと姿を消した。

しばしの沈黙…それを破ったのはイオンであった。

『びっくりした〜今のすっごい魔法ね。』

『うむ、流石魔法の聖地ってところかの…可笑しな言い方ではあるかもしれんが。』

『いや、別に魔法だけってわけでもないぜ。あれだけのことを魔法のみでやるなんてひたすらに面倒だろうし…』

『へ〜じゃあどうやってるの?』

イオンが早速食いついた。

コイツ何にでも食いつきそうだな…その猫を10頭は殺しそうな好奇心は赤の他人ながら少々心配になるほどだ。

『あのソロ…いやあの鳥は元々ちょっとした「能力」を持っててな、それを上手く利用しているってだけだ。』

『なんと、能力持ちとは…闘技場でもそう多くはないものじゃし、ましてやこの小さな町では一人だけ…鳥にもいるとはのぅ、知らなかったわい。』

なんだこの爺さん、急にテンションが上がり出したぞ、どうしたんだ?

『ああ、おじいちゃんちょっとした闘技マニアなの。闘いに飢えてるだけだから気にしないでいいよ〜』

『血が震えるのぅ!』

またおかしな連中に助けられたものだ。

それよりも今考えるべきことはこれからの身の振り方をどうするかであろう。

いくら怪我が治るまでは置いてくれるとはいえ、いつまでもここに留まる訳にもいかない。

(世界を旅してこいと言われたし、当てもなく放浪してみるか?)

却下、右も左もわからないこの世界でそんなことをすれば、どこかの砂漠だとかで野垂れ死ぬ確率が高い。

そもそも、空を飛べないのだから移動時間が洒落にならないだろう。

そんな調子では魔界に帰るまでに何十年掛かることやら。

色々な事を考えれば考えるほど思考が暗くなってゆく。

そんな時、徐にサクタイが陰が濃くなっていくジュラの目の前に何冊もの本を積み上げた。

高級感溢れる黒い革表紙の専門書、一部が虫に食われた日記帳、日に焼けた事典、ジュースのシミが付いた古びたノート…

本の山を前にジュラが困惑していると、サクタイはニッコリ笑い、

『そんな暗い顔をするものじゃないよ。まずはこちらの世界について知ってみると良い。どうするかなんてそのあと決めれば良いさ。』

ジュラはコクリと頷き、本に手を伸ばす。

『けどまずは!』

それを遮るイオンの大きな声。

『ちゃんと寝るッッ‼︎』

今のジュラにその御達しに逆らう元気はなく、手を引かれるままに先程まで寝ていたベッドへと叩き込まれたのであった。

『じゃあ、ここにベル置いとくから、なんか用があったら鳴らしてね。』

枕近くのサイドテーブルに若干青錆びたベルと本の山を残してイオンは去って行く。

勢いよくドアが閉められ、静かな時間が訪れた。

遠ざかる足音を確認すると、ジュラは早速本の山を漁り、何冊かを引っ張り出した。

『どれどれ…「スカルノーズ世界博物誌」か、かなり分厚いがどんなもんかな…』

本は好きだ。

王宮には地下に巨大な書庫があり、暇な時はそこでしょっちゅう本を漁った。

いくら読んでも尽きることのない知性の泉はとても楽しい場所だった。

(尤も、もう2度と読めないかもしれねーけど…)

自嘲気味にそんなことを思いながら本を開く。

どうやら博物誌の名の通り、世界中の文化や生物、地理などを記した本のようだ。

冒頭の文によると、情報量が膨大なので全108巻に分かれ、今も新しい巻が編纂され続けているらしい。

今更ではあるが何故か言語も通じるし、文字も魔界と同じものを使っているのは不思議としか言いようがない。

ページを捲るたび世界が絵と文で脳に焼き付いてくる。

遥か昔に追い立てられた夢幻の種族、未確認の宇宙人情報、マオウ伝説の証拠とされる遺跡、水中を統べる魚の王、地下にある国とそこで採れる希少な鉱物、ドラゴン、悪魔の遺物、冥府の入り口、地獄の鏡、東に残る奇祭、鬼神伝説、前人未到の秘境と奇妙な生物、死体に集る菌…

先程のエンサフウチョウも絶滅種としてではあるがしっかり記載されていた。

どうやら、地界にもかつては少数が生息していたらしい。

他の巻もいずれ読んでみたいものだ。

一冊目も中々に、次の本へと目を向ける。

『「鱗王目大全」…か、これはうちにもあったからいいか…って、なんで魔界とおんなじ本がこっちにもあるんだ?』

謎は増えるばかりである。

困惑しながらも次の一冊を手に取る。

『これは…ノートか?題名は…だいぶ掠れてるな。えーと、「強者の時代」ね。』

それは書籍というよりむしろスクラップファイルの様に彼方此方からかき集めた情報をつらつらと張り付けていっているという形式に近かった。

そして、後にこの一冊の中身の一部がジュラの冒険にとって大きな障害となるのであるのだが、今の彼は知る由もない。

その中に記された内容は、屈強な悪魔が集まる魔界で過ごしてきたジュラでさえも俄には信じがたいものだった。

中央連合の最高戦力3枚盾の逸話、さらにその後ろに控える最終兵器の噂、地下に住まう太陽神、秘伝の技を受け継ぐ一族、未確認の巨大生物情報、全魔法・魔術連盟のトップメイガス、生きては戻れぬ魔物の国、生ける天災、鬼の皇、玉座に腰掛けたまま数千の軍隊を壊滅させた王、傭兵団・合葬(オーケストラ)、冥府の神、剣聖・菜切癖、達人中の達人、真理を知る瞳、禁呪使い、そして….

最強、怪物、全生命の頂点、あらゆる異名を体現する最強の存在、通称『箱の男』、記されたその内容はほとんど神話に登場する神々と等しい…いや、それ以上のものだった。

いっそ内容が全てフィクションであると言われた方が信じられるだろう。

『世界ってのは広いもんだな…俺、生きて帰れるかな…』

ジュラ・パズズの心中には、これから自分が巡ることになる未知の世界に対して、不安、興奮、あらゆる感情が渦巻いていた。

瞼を閉じ、自分が降り立った強者の時代に思いを馳せる。

だが、全く知らない世界の洪水のように雪崩れ込んできた情報で頭も体も疲れたのだろう。

いつしか、ジュラは深い眠りに落ちていった。




そういえば、最近誕生日を迎えまして、年が素数になりました。
だからどうとかそういうわけではありませんが。

登場人物

ソロぱち
現魔剣王のペットであり、優秀なメッセンジャーでもある、13歳のエンサフウチョウの雄。
魔剣王本人が山の中を追いかけ回し、なんとか捕獲した。
自身の羽にデジタル・アナログ問わず情報を記録する能力を持ち、魔法で適切な媒体に姿を変えればより正確な投影が可能。
命名は昔のジュラ。

用語集

エンサフウチョウ
スズメ目フウチョウ科オンネンドリ属の一種
かつては地界にも少数が生息していたが、現在は魔界に数千羽が生息するばかりである。

能力
この世界ではごく稀に生まれつき種族特性とは違う特殊能力を持って生まれる生物・無生物がいる。
その確率は千分の一とも万分の一とも。
中には一人で世界をひっくり返すほどのものもあるとか。

スカルノーズ世界博物誌
スカルノーズ家が代々編纂を続けている博物誌。
最終目標としてアカシックレコードの顕現を掲げており、世界のあらゆるものについて記そうという目論見である。
現在、20代目スカルノーズ氏が109巻を鋭意製作中。

魚の王
海の中心に住むと噂される世界の魚全てを従える王。
あくまで漁師たちが語り継いだ民話の一つでしかないとする説も根強い。

中央連合の3枚盾
中央連合王国が抱える3人の強力な家臣を指す言葉。
現在は閃光のタイチョー、暗黒のカタパルト、共鳴のドクトルの3人がそう呼ばれ、それぞれが大量破壊兵器クラスの破壊力を持つという。

中央連合の最終兵器
3枚盾を上回る戦力を中央連合が隠し持っているという都市伝説めいた噂話。
信憑性は高くない。

全魔法・魔術連盟
地界において魔法関係のあらゆることを取り決める組織。
魔法犯罪の取り締まり、法律の制定、魔法研究、特許申請の受理、勲章の授与など活動は多岐にわたる。
通称「全魔連」

傭兵団・合葬《オーケストラ》
国のトップ層の間でよく知られる雇用に成功した側に勝利をもたらすという傭兵団。
ミス・ハープ率いる5人で構成されており、名を上げて10年ほどではあるがその強さは業界No.1とも。

禁呪
ここでは単純に全魔連が制定した法律で禁じられた魔法・魔術のこと。
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