魔剣王正伝   作:プルプルマン

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こないだ、生まれて初めてプリクラを撮りました。
あれはいいもんですね、楽しい。


侵略的異聖人

大きな金属音が轟き、机のティーカップが震える。

『始まったかァ?精々潰し合ってくれよ。さあ野郎ども、プランは総取り、方針は抜群に姑息、いつも通り仕事始めんぞ!』

海賊達がどこからともなく武器を取り出す。

全てドラドの能力で隠されていたものだ。

いよいよ始まった聖戦の裏で暗躍しようと、毒牙を持った獣が群れていた。

一口も飲んでいないティーカップの中身を観葉植物の鉢に注ぎ、海賊ドラドは立ち上がる。

その足取りには、最後に勝利を手にするのは己であるという、揺るぎない自信が満ちていた。

 

 

 

 

『なんで明かりがっ…うわぶぁ!』

曇天の黄昏時のような暗さになった倉庫内は、ジュラ達の独壇場だった。

何せずっと暗い魔界生まれのジュラに、最初から鼻と耳しか使っていないライコ。

最早どういう感覚器官で周りを探っているのかわからないカブウに、5分くらいずっと目を瞑っていたカシュアナ(あまりにも力業では?)。

圧倒的なアドバンテージである。

 

 

(どういうこった?今朝の点検じゃ異常は無かった筈だ…まさか、弄ったのか?この数分で。)

確かにこの倉庫の横には電気管理室が存在しており、中の配線を把握すれば干渉は容易だろう。

あくまで理論上での話だが。

数分で中の人間に一切を気取らせず配線を理解し、あまつさえ外部コントロールまでしてみせるなど並の業ではない。

『なるほど勝算は持って来たと…小生意気な、少し立場を教えてやるか。』

レディース・ファントムが一度だけ足を踏み鳴らした。

 

最初に異変に気づいたのはカシュアナであった。

『………⁉︎全員退避を!』

そう叫んで、回し蹴りの一薙ぎでその場にいた全員を、フカフカのマットレスのように優しく押し戻す。

『またわけわかんねえ技術ぅーー!てかどうし…』

ギャング達が地面から湧き出る灰色の触手に飲み込まれていた。

それはさながら船の甲板から人を攫う、絶海の魔物。

しかし彼等に抵抗の様子は無く、触手も中身を害そうとする動きはしていない。

むしろ、体の輪郭に合わせてその形が変化しているような…

『あれはもしや…コンクリートかい?』

カブウの呟きでジュラは気づいた。

その流動する灰色のドレスが、冷たい床から生えて来ていることに。

『我が神徳が1つ、神纏蛸…あのじゃれあいで神の全てを知った気になってるんじゃあないだろうな?』

余分なコンクリートが剥がれ落ち、再び床へと戻ってゆく。

最早、そこにいるのは武装しただけのチンピラ集団ではなかった。

一人一人がオーダーメイドの鎧を着込んだ、手練の重装部隊だ。

鎧の完成とともに、壁までもが形を変え格子状へとなり、再び倉庫内に光が満ちる。

『おもしれぇ早着替えだな、宴会芸にゃ悪くねぇ。』

ライコがポケットから取り出したナックルダスターを指へと通し、獰猛に笑う。

『油断すんなよライコ!流動してるってことは、下手な攻撃を仕掛けても流される可能性大だぜ!』

聞こえてないのか聞く気がないのか(おそらく後者)、ライコがそのまま手近な敵に突撃し拳を振り抜く。

本来であれば確実に腕の骨を粉砕する軌道、しかし振るわれた拳は冷たい鎧の一部を剥ぎ取るのみであった。

ニヤリと敵は笑い、カウンターを合わせるようにライコの胴目掛けて鎌を振るう。

それは確かにライコの腕を裂き…そして動かなくなった。

『なぁに驚いてんだ?いらねぇならもらうぜ。』

ライコが体を引いた勢いで鎌が奪い取られる。

『中々よく研いであるじゃねぇか。使い手がボンクラじゃなきゃ骨までイったかもな。』

無理矢理刃を引き抜き、小馬鹿にしたような笑みを浮かべるライコ。

そのまま鎌を噛み砕いた狂犬に、取り囲むギャング達も萎縮せざるをえない。

『マッズ、だがもう一つのプレゼントはウマイ。テメェその右手、腫れてんだろ。初期段階の炎症の臭いがプンプンしてるぜ。』

ライコの背後からカシュアナが駆け抜け、一条の光にしか見えない速度でギャング達を蹴り飛ばす。

『つまり、完全に攻撃を防げる訳ではない…内部を破壊すればなんとでもなる。そういうことですねライコさん!』

『お、おう。……マジに人間かこいつ?』

蹴られた人体が上手な水切りのように跳ねる様を見て、ライコ(ジュラとカブウも)は心からそう思うのだった。

 

戦闘開始から未だ2分と過ぎてはいない。

それでも、ジュラ達は敵のホームで互角以上に立ち回ることができていた。

(しかし、このみじけー時間で突破口を見つけちまうたぁ、流石に頼もしい連中だな。)

カブウも既に、消化液散布による腐食攻撃で灰色の流動鎧を攻略しつつあった。

(よし、立ち上がりは手堅…)

『ジュラ!しゃがんで!』

イオンの声に迷い無く頭を下げる。

一瞬遅れてその上を何かが通り過ぎた。

魔剣を振って牽制しつつ、その正体を見定める。

それは、レディース・ファントムの腹心が1人と思しき、細身の男だった。

男は靴の先端から飛び出した刃から黄色い液体を垂らしつつ、ジュラを見据える。

『我が名はアスタクス、1つ死んでいただこう。』

 

同時に、カシュアナとライコの頭上からも猛威が降りかかっていた。

互いに地面の影と空を切る音でそれを察知し、回避する。

直後、轟音とともにコンクリートの欠片が撒き散らされ、通気の悪い倉庫内に砂埃が舞い上がる。

その中心には、美術館でもレディース・ファントムの側を離れなかった暗い顔の大男がいた。

骨のありそうな相手に舌舐めずりをするライコをカシュアナが制止する。

『私が相手をします。ライコさんは作戦通り遊撃を。』

ライコが頬を膨らませる。

『つまんね、やめちまおうぜ作戦なんざ。』

『そんなこと言わないでください…』

大男が床に深々と刺さった伐採斧を引き抜く。

『チェラックス…武器はこの愛斧のみ。』

『カシュアナと申します。お手合わせよろしくお願いします。』

お互いの気質が変に噛み合ったのだろうか。

ギャングへの殴り込みとは思えない、静かで満ち足りた開戦だった。

 

『結局オレのオモチャは有象無象の虫ケラ共かよ。おいデカ頭、どっちが大勢ブチのめせるか勝負しようぜ。』

『こんな状況でなければそういう話は大好物なのだけれどもねぇ。』

『んじゃ『逃げ』か?』

『いーや、コールだとも。レイズしてもいーよ。』

口を開いた二頭の捕食者、その視線にさしもの剛毛心臓のギャング達も射すくめられる。

その口には、光の加減か積もり続けた怨恨のせいか、赤黒く見える牙が覗いていた。

 

神座に腰を据えたまま、レディース・ファントムは戦場の全てに目を光らせる。

(それなりに熟達した魔法剣士に狂犬ライコ、カシュアナと何故か蘇ってやがるカエルは当然警戒すべきとして、真に目を向けるべきは…)

その視界の中心には、いつのまにか積まれた木箱の陰に隠れていたイオンの姿があった。

少女はヘルメット代わりの木製バケツを被り、時折の流れ弾をしゃがんで避けようとするのみである。

(やはりあのガキだろ。荒事慣れしていないフリをしながら、ずっとこの俺から目を離していない。1秒でも長く我が姿を拝領しよう、というなら殊勝だがんなわけも無い。)

レディース・ファントムの脳裏には、シンプル且つ厄介な『択』が発生していた。

恐らくは自分が迂闊に動いたり、隙を見せたりした瞬間に、その少女は『伝令』をする。

それがどんな小さな声であろうと、なんならただの息遣いの変化であろうと、決して聞き逃さない男も敵勢にいる。

となれば、今はまだ身体能力で劣る自分は一手しくじっただけで、『詰み』へと追い込まれることになる。

(或いはカシュアナか、その他2匹か…なんにせよ、これは単純な総力戦じゃない。手持ちの駒をいかに援護し、動かすかの対決…不意打ちで数の利を覆し、この俺を縛ったつもりだろうが、力と啓をかねてこその『神』だぞ。)

レディース・ファントムが再び足を踏み鳴らす。

ジュラが反射的に後ずさる。

『やばい!触手がまたく………こない?』

何も起きないこと、それが逆に戦場を停止させ、レディース・ファントム1人に注目を集める状況を作り上げていた。

『興が乗ってきたな……さあ想像しろよ聖徒共!俺の世を!新しき地界を!脳髄の最奥より、賛美の祝詞を詠むがいい!そしてわかるな?新たな創世には、とびきり豪奢で、とびきり悪趣味な祭壇が相応しい!さぁ、異端者の骨肉で聖地の礎を組み上げろォ!』

爆発寸前まで熱のこもった倉庫内で、その演説はピッタリのガソリンだった。

ギャング達の雄叫びが幾重にも反射して侵入者の体を叩く。

それは、まるきり後退を知らぬ狂人のサバトだった。

ライコが耳を押さえながら舌打ちする。

『クッソ、乗せられやすいだけの拝み狂い共め…声のデカさは取り柄だな。』

レディース・ファントムが尊大に笑う。

とうに、最初の闇討ちと数人を沈めて得た精神的アドバンテージは無くなっていた。

それどころか、明らかにギャング達の士気は上がり調子にある。

『クク、まず初めに言葉があった。始めるか、今この薄暗い屋根の下こそが、人新世の特異点よ!』

その場を支配していたのは熱と団結、それは確かに信仰と呼べるモノだった。

 

 

 

鋭い回し蹴りを後退して躱しつつ、速度に重きを置いた剣閃を放つ。

それに対して大きく背を逸らし、汗を浮かべるアスタクスの反応を見てジュラは確信する。

(よし、地力は俺が上。毒と仕込み針を加味しても、タイマンなら負けるこたぁねー。…それだけならな。)

士気十分とはいえ、周囲を取り囲んでいたギャング達は、大暴れするカブウとライコに振り回され、その他に手が回っていない。

よって、ジュラ・パズズが今警戒すべきは…

アスタクスが軽く左右に体を揺らした直後、姿勢を低く保ったまま突進する。

標的は当然ジュラ、目線からして狙いは肝臓付近。

なんてことは無い直線的な攻撃、おそらく武術の経験だとかは無いのだろう。

少し身を引いてカウンターを合わせれば、その時点で決着である。

だがしかし、気づけばジュラの足はその持ち主の意思とは無関係に前へと歩き出していた。

その軌跡にも自由意志の介入している様子は無い。

その様子は、まるでブレーキの壊れたトロッコだった。

(どうなってやがるッ!動くんじゃねー俺の足!だ…だめだ言うことを聞かないっ。このままじゃ…)

既に2人の距離は回避のリミットに近づきつつあった。

アスタクスの靴先からギラリと光る刃が飛び出し、致命の雫を滴らせる。

『うおおおおおおっ!』

 

アスタクスが未熟を恥じるように己の頬をはたく。

ジュラ・パズズは未だ生きていた。

かろうじて後方へ倒れ込み、体内深く毒針を打ち込まれる未来を回避していたのだ。

そして、2人の間では勢い余って脱げたジュラの靴が1人でに前進を続けていた。

別に、靴自体にイオンがそういうギミックを仕込んでいたり、履かれずとも歩みを止めない感心な靴である…というわけではない。

落ちてきて間も無い頃、トトルス村で買ってもらった、正真正銘の普遍的手作りブーツである。

『それがテメーの能力か?ギャングよかオバケ屋敷なんか天職なんじゃねーの。』

足、それ自体に何も影響は無い。

推察するに、無生物に作用する操作能力だろうか。

詳細はまだ詰める必要があるが、この一幕で能力の大雑把な輪郭は見えてきていた。

それは絶対的なアドバンテージ、しかし敵に焦りは無い。

アスタクスが再びステップを踏み、構える。

『であれば、服を全て脱ぎ去るか?そうすればこちらに勝ちの目は無くなる。』

残念ながら、誰かが林檎を食べて以降、一部の生物には『恥』という感情が備わるようになっている。

それは、自己の内部で完結する心のゆらぎであり、確率論の視点から論じれば無視してもほぼ問題は無い。

恥によって心臓が痙攣したり、脳の血管が詰まったりした不運な者はあんまりいないのだから。

しかしこれまた残念ながら、恥は命よりも重い。

そういうこともあるのがこの世なのである。

それが悩み多き若人の身に降りかかった事なら尚更だ。

要するに、ジュラ・パズズという1少年の社会的尊厳最終防衛脳内委員会は、既に決定を下していたのだ。

『んなことできるかボケェー!テメーなんざハンデマッチで十分だコラァー!』

ようやくジュラの靴の動きが止まる。

同時に、アスタクスが地を蹴り駆けた。

『良し、では知的有機生命らしく、旧世界に殉ずるがいい。』

 

 

 

 

カシュアナとチェラックスがジリジリと間合いを詰めていく。

片や理解不能の超人、片やチーム・ヤビーの怪力乱神、両者の間には取り巻きの命知らずの信奉者達でさえ近づけない威圧感が満ちていた。

最初に動いたのはどちらか、正確なことはわからない。

なにせ、地を蹴ったカシュアナの体が不自然にぐらつき、何も無い場所で転びかけたのだ。

普段の彼女を知る者が見れば、芝居を疑うような現象である。

そして、つんのめったカシュアナの後頭部を目掛け、斧は振り下ろされていた。

カシュアナは咄嗟の判断で転んだまま宙返りに移行し、チェラックスの腕を踏んで間合いを離す。

 

美術館でのあの時もそうだった。

突如として平衡感覚に狂いが生じ、そうなることが最初から分かっていたかのような軌道での攻撃が来る。

あの時一度体験していなければ、今日この瞬間頭に何十針も縫うような傷を受けていたかもしれない。

チェラックスが首を鳴らし、再び斧を天高く構える。

『戦略性は薄味に、一撃の威力を重視しました』

そう言われずとも伝わる男の立ち姿を前に、カシュアナも一度深呼吸を挟んで精神を調律する。

本質が武道家である彼女と、元々無口な大男との間に言葉は無く、それでも互いに対する警戒レベルはMAX以上に引き上げられていた。

流れ落ちる汗の雫が冷たい床を打ち、それが立ち合いの銅鑼となる。

 

 

 

『いいねぇアイツ等ァ楽しそうで。』

ギャングの1人の首を掴んで振り回しつつ、ライコが溜め息を吐く。

『退屈かい?俺でよければ話し相手くらいにはなれるよ。』

カブウは、新たに発声器官を作り上げることによって、集中しながらいくらでも無駄口を叩くことが可能なのである!

『ああヒマだ、コイツ等ときたら流れる鎧の一発芸しかねぇ。んなもんはなぁ…』

ライコの手元が揺らぎ、砕け散ったコンクリートとともに男が吹き飛ぶ。

『変形(それ)より速くブン殴ってやりゃいい。』

『ほう、拳闘のテクニックだね。経験が?』

『タライロンじゃ常識だな。少なくとも、文字よかポピュラーか。尤も、オレのグローブは慈愛溢れる革じゃねぇ。』

ライコがナックルダスターを指で回してみせる。

なんだかんだ、ライコは作戦に従って動く意思を見せている。

どれほど縦横無尽に動き回ろうと、耳だけは常にイオンの方へ向けているのが何よりの証拠だ。

(まぁ作戦といっても、10分弱で見出せるものなど細かくは練れないけどね…)

 

指定の時刻から7分前、この倉庫へ最速で辿り着いたジュラ達は肩で息をしていた。

そんな時、イオンは既にカシュアナの蹴破った扉から配電管理室へ侵入しており、ポロポロと崩れる絶縁体に覆われた銅線を前に思考を巡らせ始めていた。

数十秒後、配線に着手するのとほぼ同時に彼女はカブウに依頼していた。

『カブさん、中の様子を探ったりできる?なるべく詳しく。』

容易いお願いである。

壁の隙間から触手を侵入させ、先端に光受容器官を作るだけでいいのだから。

『もちろんだとも。ちょっと待ってねー……………よし、見えた。敵勢は30人くらい…事前情報通りだね。そして…おや、見覚えのある顔が3人。俺を雑巾みたいにしてくれた彼は鎮座しているね、えらそうに。』

さしものカブウも、自分を物理的に捻った相手に対しては言葉にトゲを含ませるようだ。

『多いなぁ。それに、ファントムさんはカブさんを倒しちゃうくらい手強いんでしょ?』

イオンが手元から視線を動かすことなく問いかける。

『ああ、乱戦になれば能力は使いにくくなるかもしれないけど、目下一番の脅威には違いないね。』

『そだね…でも、だったらそんなに頭数を揃えたのはなんでなんだろ?どうせ待ち構えるなら、全力で戦える1人か仲間さん達だけでいいと思うんだけど。』

『確かに不自然ではあるね。自分で現場をビシッと整えなきゃあ、気が済まないタイプなのかもだけれども。』

『私は、むしろ大人数でいるのが相乗効果を生む、そんな手があるんだと思う。だから…』

 

そんな状況でイオンが組み立てたのが、ライコを遊撃させてレディース・ファントムを縛る、という作戦である。

残る戦闘要員3名は手応えのありそうな敵を一騎討ち、或いは少人数相手取る形に持ち込むこと。

その柱2つだけの粗い作戦は、それでも確実にレディース・ファントムを縛っていた。

(敵も流石に1武力集団の長、素振りとしてはこちらの意図に気づいているらしいね。しかし、『形』を作れた時点でこちらの勝利はずっと手の届く位置に来た。)

ライコがカブウの触手を捥ぎ取り、勢いよく鞭のように振り回す。

『オラァ!さっさとくたばれゴミ共!男とSMなんざさせんな!』

『痛いなぁもう。あんまり乱暴だよライコくん。しかし流石に頼もしいね、今こちら側に居てくれている幸運を喜ばねば。』

『痛いだぁ?ツバでもつけとけ。テメェ等こそ、案外場慣れしてるじゃねぇか。嗅ぐからにお坊ちゃんと珍獣のクセしてよ。』

『ハハハご明察、こないだも死にかけたばっかりさ!』

『そりゃご愁傷様、グッドラァッック。しっかし解せねぇのは…』

入口の方へ目を向けたライコのこめかみへ魔法の電撃が命中する。

『大丈夫かい⁉︎ライコく……』

『このクソ暑い真夏にィ、取るに足らない安物のセーター着てる奴がいやがるなぁ…このオレに、カスみてぇな静電気ぶつけやがって。そのダサい生皮(アウター)剥いでやるか。』

にわかに漂い始めた強烈な胃酸の匂いに、荒くれ共も遺伝子に刻まれた畏怖を思い出す。

その出本は、巨頭の怪獣か飢渇の狂獣か、もはや確かめる術は無い。

 

 

大振りの斧を紙一重で避けたカシュアナは、未だ己の中にある違和感を解析できずにいた。

自身の身体はイメージ通り動いてくれている、いつもありがとう。

しかし動きには誤差が生じている。

局所的空間歪曲現象でも起きているのか?

この、機能性に全てを捧げた倉庫は、意外と未知のパワースポットだったりするのか?

カシュアナの答えはどちらも否。

(おそらくは、能力で平衡感覚を弄られている…それなら対処は簡単なことっ。)

カシュアナが、突如地面を強く踏みつける。

その人間離れした力の前にはコンクリートも少し乾いた紙粘土同然であり、彼女の足は泥沼でも踏んだかのように床へと埋まっていた。

『これで軸がブレる理由無しっ!さあ、どこからでも…あれっ。』

怪力無双、チェラックスは普通にカシュアナの背後へ回り込み、普通に斧を振り下ろしたのだった。

足が動かなけば、背後を取られるとどうしようもない、盲点である。

誰がなんと言おうと、盲点である。

 

砕け散った斧の欠片が鈍く輝く雨となる。

明らかに異常な光景だった。

速度の乗った金属塊をまともに受けた筈のカシュアナの頭に、まったく傷は無い。

ただ数本の髪の毛がゆっくり落ちたのみである。

チェラックスはこの一年で最大の動揺を覚えていた。

相手は音に聞く鉄女だ、一撃でなんとかなるとは彼も思っていなかった。

しかし、流血の一滴すら見られず逆に武器を破壊されるというのは、完全に想定外である。

巨岩でも、打てば表面は削れていく。

それがただの水滴だろうと。

ましてや、今目の前の人間を叩いたのは、剛力で振り下ろされたヘビー級の刃である。

『この現世において、永久不変などあり得ない。』

そんな不死身のマオウの旗に似つかわしくない感覚がチェラックスの頭を満たす。

少し前につんのめったカシュアナであったが、すぐさま体勢を立て直し引き抜いた左足で後ろ蹴りを仕掛ける。

ブ厚い筋肉を備えた腕を挟み、後ろに跳んで衝撃を半減させて尚、その一蹴は巨漢チェラックスを壁まで飛ばしていた。

倉庫のコンクリートが明らかに陥没し、チェラックスの肺から1cc残らず酸素が追い出される。

陸上で溺れるような不快感に運動不足の表情筋を歪ませつつ、巨漢は総身の知恵を総動員して勝ち筋を探っていた。

 

己の攻撃は全て通じないのか、それほどまでに実力差があるのか。

否、現に美術館では一撃で頬を腫らす程度のダメージは与えられていた。

であれば、そこにはカラクリがあって然るべきだ。

それを裏付けるように、思考の時間を与えない追撃がチェラックスに迫り………狙われたであろう鼻っ柱から右に40cmほどズレた位置に着弾した。

飛び散ったコンクリート片がチクチクと肌に刺さり、ようやくまだ己に意識があることに気づく。

敗北にニアミスし、一周回って冷静になったチェラックスとは対照的に、カシュアナの顔には焦りの色が差していた。

壁から足を引き抜き、床へと舞い戻る動作の中で、一瞬カシュアナの足取りがおぼつかなくなる。

『頭に………何か仕込んだか。』

チェラックスの問いにカシュアナが頷く。

『あの時受けた拳から一振りの威力を予想し、同等の威力の一蹴を体内に仕込んでおきました。姿勢が安定しないのは軽い脳震盪です。』

『愚かな…磨いた技で自傷とは。』

『ですが、元々を歪めてあげれば感覚は狂わない。……とはいえこの手を使わざるをえなかった一番の理由は、そうしなければ私も命が危ういと本気で感じたからです。貴方の膂力は、恐るべき脅威だった。』

彼女らしい、率直な賞賛だった。

『………光栄。背後を取らせたのも戦略か…』

カシュアナが少し目を逸らす。

『いえ、それは単にうっかりです。お見苦しいものを見せてしまい申し訳ありません。』

彼女らしい、シンプルなポカだった。

『………………………………………………そうか。』

ばつの悪い沈黙を振り切るように、向かい合う2人は構え直す。

先をとったのはまたしてもカシュアナ、対するチェラックスは超大振りのアッパーカットで迎え討つ。

いっそ笑ってしまいそうなまでのテレフォンパンチ。

しかしチェラックスには確実にアドバンテージがあった。

 

この寡黙な男の真の能力は、『傾き』を自在に操ること。

この大地そのものが、チェラックスを祝福するように角度を変え、全ての物理現象はそれに追従する。

制御を誤れば酷い結果を招くが、そういう怯えは『我が主』の導きによってもう乗り越えた。

移動の瞬間に地面がほんの5°でも傾けば、多くの人間は躓き無防備を晒すし、悪くすれば骨折や神経の損傷すらありうる。

これは、身体の多くを無意識で制御する生物にとって、不可避のトラップである。

ましてや、目の前の女は致命的な勘違いを続けている。

全力の打撃で内臓や骨にダメージを与えれば、光明は十分に見えてくるはずだ。

 

カシュアナが加速し、そのままつんのめる。

ガラ空きになった胴体に深く、深く重剛拳が突き刺さり………双方の動きが止まった。

見れば、カシュアナが自らを迎え撃った拳を掴んで引き寄せ、固定している。

掴まれた場所が真っ白になる程の、万力のような握力だ。

『やはり…ですか。頭を揺さぶってみても、まだ違和感は拭えませんでした。しかし、私に触れるその瞬間なら!貴方を基準に平衡を調整できるのではありませんか!』

既にカシュアナの足取りはキレを取り戻していた。

トラップはその真ん中を踏み抜かれ、正常以上に作動しながら破壊されていたのである。

カシュアナのワンピースが揺れた瞬間、己の敗北を悟ったチェラックスは慣れない大声を燃やし尽くして叫んだ。

『新世界に光あれぇ‼︎』

左右は知れない。

しかし確実に、鈍い打撃音とともに神の片腕は落とされた。

 

 

 

 

『ああもうやりづれぇ!』

もう3分になるか。

ジュラは己の衣服に踊らされ、ひょうきんな動きを繰り返していた。

さらに、アスタクスはそんな少年を嘲るように毒針で小突いてくるのだから鬱陶しい。

このままではジュラの寿命がストレスでマッハである。

とはいえ、彼はもう特効の対策法を知っている。

何かそう、形無き大切なモノを捧げワイルドなスタイルになることで状況は一発逆転し、戦いを実質的に終わらせることが可能なのだ!

なにせ能力者本人のアドバイス、間違いはない。

(カブさんだけとかなら最悪それでもいいが!ここにゃ女の子が2人いるっ!くそっ、悪魔の一生はなげーんだ、ひでえ思い出なんぞ引き摺れねー!)

突如、アスタクスの動きがピタリと止まる。

『なんだ!ランチ休憩なら取らないぜ!』

同時に衣服の抵抗が解かれたのを感じ、ジュラが剣を構え直す。

『お前は、己がどう剣を振ったか覚えているか?』

『……あ?戦闘中に剣術指南たぁ余裕なんだな。』

『世界、は確実に記録している。』

アスタクスが指差した方向を見やると、いつの間にかジュラの靴が揃えられていた。

その座標は、彼等異教の暴徒達が扉を蹴破ったまさにその瞬間と同じであった。

(物体…記録…位置…まさかっ!)

『気がついたか、しかしかなり遅れたな。既にお前は、自らの剣技で活け造りとなっている。』

アスタクスが悪趣味に指を鳴らした。

 

大層な前口上に反して、魔剣はピクリとも動かなかった。

2人の間に気まずい沈黙が漂う。

『なぁおいどうしてくれんだよこの空気。ライコのヤツがすげー小馬鹿にした目で見てくんだけど!』

まったく、目は悪いが他人のポカには聡い男である。

アスタクスはたっぷりと困惑していた。

『いや、こちらとしても初めてなんだ。逆再生できない剣など…それ、実は綺麗めの海綿だったりしないか?』

『俺が風呂場から武器拾ってくる頓珍漢に見えんのか。決闘の申し入れだろこんなの。』

アスタクスが軽く頭を下げる。

互いに余計やりづらくなるからやめてほしい。

(つくづく、能力者ってのは怖いな。どこから何が飛び出すか、なにもわからねー。しかしなんで…もしかして、ウチの魔剣は本人の産声と同時に現出するらしいし、それで生物判定くらったのか?)

考えてみれば、己が十余年寝食を共にしたこの魔剣について深く向き合ったことは無かった。

あのなんでも知ってそうな祖父からも、当人に合わせて色々と変化する、ステキな分身としか聞いていない。

念じれば実体を持ち、魔力との親和性が高く、力を集める性質を持つ。

もちろん、ヘビー級ブロック肉を解体できる切れ味もある。

『……思ってたよりフシギ存在だなこれ。』

今を生き延びることができたならば、一度じっくり見つめ直すべきなのかもしれない。

 

既にアスタクスは次の手を考えついていた。

男がベルトの収納袋から取り出したるは、カエシのきつい釣り針にゴム紐を括り付けただけの簡素な武器。

しかしジュラの想像が正しければ、それはこのアスタクスというギャングにとって最良の武器となるだろう。

背後に跳び、ゴム紐の伸縮範囲から逃れようと試みるも、すぐにシャツに引っ張られて元の位置へ引き戻される。

両手に何本もの針付き糸をぶら下げたアスタクスが冷徹に告げた。

『漁を始めるぞ、異端の小魚よ。』

 

(コイツっ…ヤバい!こんなのを全部処理するなんざ不可能だっ!)

『漁』の開始から数秒後、ジュラの体は既に音を上げていた。

しなり、伸びる湾曲した多数の敵意。

それは一度やり過ごしても、過去の軌跡を辿って再び獲物に牙を剥く。

もう疑いようは無い。

アスタクスの能力は無生物限定での過去逆再生、そう表せるものだろう。

加えて、おそらく釣り針針の逆再生を途中で解除している。

そうすれば、釣り針に連なるゴム紐は新たな軌道を描き、微妙に違う処理を強制することができるからだ。

『オマケに、逆再生中の物体の動きは止められねーらしい…多分、鉄の盾を挟もうが引き裂いて進み続けるんだろーな。』

これではゴム紐を切ることも叶わない。

つまり、ジュラがクリアすべき題は2つ。

一つ、変化し続ける軌道を見切り、攻撃を手堅く防ぐこと。

一つ、逆再生中の釣り針がどれかを見分け、尚且つ軌道を記憶しておくこと。

…いくらなんでも無理が過ぎる。

実はジュラ・パズズという生物には、眼が2個、手足は2本ずつ、脳と魔剣に至っては1つしか無いのである。

現に、ジュラの体には何度も皮膚を裂く痛みが走り、釣り針の銀色は既に赤で覆われようとしていた。

『クソッ!手首のスナップがキレてんなギャング野郎!』

『賞賛に与り光栄、手は緩めないが頸動脈を引っ掛ける楽な最後を約束しよう。』

 

【フロン・ムルド】ッ!

 

ジュラの周囲を無数の火の玉が覆っていた。

たちまち辺りにゴムの焼ける不快な臭いが充満し、ライコがキチンと2人に聞こえるように舌打ちする。

『慈悲深いことだな。んじゃ俺も卵の中身分ける時みてーに、優しくぶちのめしてやる。』

火炎を侍らせるジュラを前に、アスタクスはあくまで冷静に思考を巡らせていた。

手元に伝わる感触から、残った針は4本。

炎の障壁を『維持させる』には十分。

(魔法使いというのはまったく不思議な生態をしている。どいつもこいつも、ありふれた物理現象を己の特権だと考えているのだから。)

ムルド…その一節は魔力の発散を全方位に向けて行うことを意味する、強力な呪文である。

しかし、アスタクスは知っていた。

それは強力な発露と引き換えに、膨大なエネルギー消費を伴う諸刃の剣であると。

(我が同志に魔法を心得た賢者がいることに気づかなかったか。であれば展開は見えている。)

ジュラが剣を平突きの姿勢に構えて突進する。

(当然、決着を急ぎ、攻勢に偏ることだろう。読めているぞっ!)

アスタクスがゴム紐を振るう。

しかしそこに一切能力は作用させない。

所詮は牽制であり、その存在を認識させればそれでいい。

能力の対象は、目の前の剣士が履くズボンである。

ズボンに引かれ、ジュラの体勢がガクンと震える。

既に本命の準備は済んでいた。

爪先から毒針が飛び出し、その矛先はジュラの眼窩へと向けられていた。

 

金物のぶつかり合うような音が響き、ジュラが強かにコンクリートで顔を打つ。

『いってー…この床やっぱ危ないぜ。転んだら怪我すんだろ。丈夫そうではあるけどな。…そして、絶対にここで決めに来ると思ってたぜ。【バチン・ブレディオ】…金属は確実に電気を伝える…勿論俺の血でたんまり濡れた濡れたゴム紐もな。』

ジュラは、受け身を放棄してでも次の一撃を弾くのに全力を注いだ。

体を硬直させるだけなら、接触は一瞬でいい。

全身の痺れに抵抗もできないまま、アスタクスは目を見開いていた。

(そうか…あの炎は防御のためでなく、あくまで十分血が染み込んだ焼き切れない紐を分けるためのもの…どっちで攻撃しても、こちらは詰まされていた…)

麻痺して閉じることもできない顎に剣の側面での殴打がクリーンヒットし、アスタクスの足から力が抜ける。

(しかしバカな…ありえない……)

意識を手放す刹那、アスタクスは同志に教わった知識を思い返していた。

『え?同時に2属性の魔法ですか?むりむりっすよ。人間の身体構造上、できるようになってないんす。脳みそ増やすとかしたらできるかもしんないですけどねー。』

なら、幕が下りゆく視界に映るこの少年はなんだというのか。

『新世界…ひか…り…れ。』

アスタクスが抱いた最後の疑問を解くためには、あまりに時間が足りなかった。

 

 

 

 

『よう、面白ぇ踊りできんだな。流石いいとこの坊ちゃんってとこか?』

軽い口調で声をかけてきたのはライコだった。

『決めつけてんじゃねー……ダンスホールにゃ硬すぎんぜこの床は。』

振り向いたジュラの鼻を強烈な鉄の臭いが直撃した。

床に赤、壁に紅、人に朱。

そして、何よりも夥しい赫に染まっていたのはニヤニヤと笑うライコ自身であった。

もはや、誰のものかもわからない程に塗り重ねられたそれは、平常と変わらない本人の振る舞いも相まって、ここが地獄かそれに類するものではないかと錯覚させるほどだ。

ライコの肩越しに巨大カエルの生首が触手を振っているのだから尚更である。

『あー疲れた。んな楽しい喧嘩ぁいつぶりだオイ。気に入ったぞテメェ等。』

上機嫌のライコが体を揺するたび、手足から鮮やかな色の雫が垂れる。

それは、何も敵から搾り取ったものだけではない。

さしものライコもこの数の戦闘員相手は危うい戦いだったのだろう。

ひとまず、命に障りは無さそうで何よりである。

視界の端ではカシュアナがしゃがみこんでいる。

呼吸は少し乱れているが、今整えている真っ最中といったところか。

これまた重傷には見えない。

そして、背後は見なくてもわかる。

イオンが空前絶後の大振りで、ガッツポーズなりサムズアップなりしているのだろう。

正面に立つライコの反応に困ったような態度からも、よーく想像できる。

 

 

 

チープなスプラッタ映画のスタジオのようになった倉庫に満ちる、吐き気がするような鉄の臭いの中で、レディース・ファントムは未だ座していた。

手勢は全滅、嘆く気も失せるような数的不利。

強過ぎる逆風の中、その表情は窺えない。

『レディース・ファントム、貴方の計画は分解しました。もう決着です。私も陳情しますので、潔くお父様の元へ向かいましょう。』

その言葉に反応は無い。

しかし、ゆっくりと男は立ち上がって血溜まりの中歩みを進める。

その足は、仰向けに倒れるチェラックスの前で止まり…

『何やってんだグズどもがぁ‼︎殉教者にでもなりたいのかバカが!どいつもこいつも!ここでやり切ったマヌケ面浮かべてくたばってみろ!墓ァ暴いてもう一回ブチ殺すぞォォ!』

チェラックスが太腿を蹴られて呻き声を上げる。

『…それも、神罰か?お望みどーり、骨肉の座はできたんだから、カリカリすんなよ。』

少し苛立ちを含んだ挑発のつもりだった。

しかしレディース・ファントムはジュラに顔も向けようとせず、倒れた部下を怒鳴るのみである。

ひとしきり絶叫し終えた後、男は無礼者達の方へと向き直った。

『囀る体力は遺言にとっておけよゴミクズ。予定変更だ、全員漏れなく、一切の慈悲無く、丹念にブチ殺す。この神自らだ。』

ライコが鼻で笑う。

『聞き間違えかよ?念の為教えといてやるが、オレはここから2歩でテメェのとこに行き、食いちぎった喉笛でポルカだって吹いてやれるんだぜ?』

レディース・ファントムは笑わない。

『敵を知り、己を知ればなんとやら。なら、己の力すら量れないバカは、死んで当然だな、喜劇的に。』

コンクリートの床が散らばる人体を押し除けながら流動し始める。

『奇遇だねぇ!オレも今、そう思ってんだ!』

ライコが何かされる前に駆け出そうとして、カブウの触手により引き戻された。

『テメェからおっ死にてぇかデカ頭!』

『失礼、だがこの年になると妙に老婆心がはたらいてね。余計なお世話だったかな。』

カブウの触手が示したのは、ライコの履く底の薄い靴の型がハッキリと刻まれたコンクリートだった。

ようやく真髄を見せ始めた、レディース・ファントムの能力はかなり自在のようだ。

深く踏み込み過ぎれば、音も無く巻き込まれ、冷たい床の一部にされていたかもしれない。

『…ありがとよ。あー、カブサンだったか?』

『お互い様だともライコくん。俺もその奮闘に随分元気を貰った。』

『下賤の者が、それらしく馴れ合っているな。よかったじゃないか、地獄への道連れができて。』

驕りに満ちた声が響く。

既に倉庫の中心は小高い丘のようになり、レディース・ファントムはその頂点たる神座から矮小の異端者を見下ろしていた。

『バカはどいつも高いとこが好きってのは万界共通の自然法則だな!いい的だぜ!【テラバチン】!』

レディース・ファントムの頭上に火花を散らす魔法陣が描かれる。

雷は高いモノに落ちる、子供でも知っている常識だ。

当然、狙いはこの場で最も頭が高いモノ。

強引に空気を灼いた電子の爆撃が、暗い倉庫を照らし……

『厚みが2.3センチだったらヤバかったか。バカは出力だけは高いもの、殊更に価値が無いな。』

ジュラの魔法は、標的の上で傘のように広がったコンクリートにあっさりと防がれていた。

ポロポロと表面のコンクリートが剥がれ落ちるも、中心に座す男には動揺1つも与えられていない。

今になり、漸く異端者達は思い知る。

 

金の糸で操られた駒達の踊るこの殺風景な城全てが神の座であり、神そのものだったのだ。

『いい顔だぞ。ようやく神罰の恐怖を理解したらしい。さあ命あらば祈れ、縋れよ、狂喜せよ!逆十字の名の元に!人魔を統べる超越者が顕現したぞっ!創造しろォー!未来をーー!』

低次元を這いずる下賤の諸君、救いようもなく滑稽で惨めなプロローグをありがとう。

ここからが一頁、黎明の聖典、レディース・ファントムの創世記だ。




レディース・ファントムが美術館で本気を出さなかった理由→本人にとっては『聖域』なので、僅かでも他人の作品を歪める可能性のある択は取れなかったためです。ここで戦いが続けば、一分くらいでこの章は終わってました。

用語集

フロン・ムルド
自身を中心に火炎球をドーム状に配置する呪文。
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