バー「酔醒」、寡黙でありながら温かみのあるマスターが経営する、落ち着いた雰囲気のカウンターオンリーのバーである。
今宵の客は2人、隣同士の席に座り談笑しているその様子に、取り立てて変わったところは無い。
店内に響くのは、天井から吊られた歌う人形の声とグラスとテーブルの触れ合う音、そして時たま椅子のきいきい鳴る音…それだけであった。
外は生憎の曇天だが、店内にはパワフルに燃える暖炉が拵えた、暖かな空気が行き渡っている。
カウンターに置かれた水槽の魚も、見慣れない生物の存在をしばし忘れ、水底で休息する。
そんな穏やかな夜は、やはりと言うべきか前触れもなく引き裂かれる。
水槽の魚が沈没船の飾りに身を隠したことにマスターが気づいた直後、どこか不穏にベルが鳴り、年季の入った樫の扉が開いた。
『こんな時間だけどお邪魔するわ、ご迷惑でなければいいのだけど。』
夜霧に当てられ悴んだ指先を摩りつつ、厚いコートの女性が店の中へと踏み入れる。
女性は少し驚いた顔の店長と目が合うと、柔和に微笑んだ。
(迷い人か…ごく稀ではあるが、ありえない話ではない。)
『いらっしゃいませ、お好きな席へどうぞ。』
『ここがいいわ。』
女性が入口近くの壁に寄りかかり大きく息を吐く。
『早速だけど注文を。私が望むのは魔人2名との対話よ。ドリンクのオーダーが要るならフルーツ全般不使用でお任せするわ。』
『御冗談を。ここはただのバーですよ。』
『バーほど人魔の坩堝に相応しいところも無いわ。ねぇ、フォーリー氏にミズブキ氏。いや、魔人ネクロ様・魔人ムカゴ様?』
女性の視線が先客2人へ向けられる。
彼等は死角から向けられた視線を、逆に値踏みしているかのように会話を止めていた。
入口から見て手前側の客が、老若男女のどれとも分類できない声で笑う。
『フフ…マスター、彼女のドリンクはノンアルにしてあげた方がいい。目を開けながら夢を見ている。』
【ファミン】
奥側に座っていた客の指先から骨灰に似た色の光が放たれ、女性に向けて飛んだ。
術を正面から受けた女性がガクンと壁に沿って崩れ落ちる。
その術には予備動作も、心構えの変化も何も無い。
ただ持ち上げた腕の下に入り込んだ小蠅を、浅い理由すらも無く潰す…そういう類の行動だった。
『いきなり飛ばすなぁ。もうちょっと話聞かせてもらいたかったと、私は思うね。』
呪文を放った客が肩を竦める。
『んー、確かに探究者として今のは失格だった。僕の一手は実に短絡的だったと認める。しかし正解ではあろうよ。こんなに問題ごとを持ち込みそうな声の主は久方振りだ。』
活気に満ち溢れてはいるものの、数多の声を刻んで攪拌したような、掴みどころの無い声だった。
『そうかあ。あ、マスター掃除を頼むよ。使えそうな部位は冷やしておいてくれ。私の菌によると、彼女純粋な人間らしいけど、どこか要るかい?』
呪文を放った客が首を振る。
『いや?特に使うことも無い、ストックも潤沢にある。…どうかされたか?』
力の抜けた女性客を片付けようと近づいたマスターが足を止めていた。
その数歩先では、『確実に魂を消し去った』はずの女性がゆっくりと立ち上がり、床に着いた裾を払っていた。
『いきなり死の呪文、とはね。もう少し理性的なお方と期待していたのだけど。まぁ、答え合わせにはなったわ。』
2人の客は初めて女性の存在に注意を向ける。
『後学のため聞かせてほしい。僕の【ファミン】にミスは無かった。にも関わらず、なぜ貴女の魂は未だ破壊されずここにあるのかを。』
『簡単なことよ。彼が身を挺してくれたの。私が受けたのは余波だけ。』
いつの間にかカウンターの向こう側へ入り込んでいた人影があった。
ソレは抜かりなく両手に持った長い針を、2人の延髄へと突きつけていた。
脅し、ではないだろう。
むしろこれは、好奇心旺盛なターゲットを振り向かせるためのエサだ。
『紹介するわ。私の開発した混合型アンドロイド、パラミツよ。そして申し遅れたわね。私の名はクイーン・イルカンテス、中央連合王国機械部門兵器開発室所属のヒラ研究員よ。』
奥の客がパラミツと呼ばれた人形をまじまじと観察する。
喉元に突きつけられた針が、既に皮膚と接触しているにも関わらず、言動に動揺は無い。
『ふーん、僕たち2人のとは違う技術で組み上げられている。それに…これは魂かそれに近しいモノを搭載している。すばらしい完成度だ。』
『賞賛、恐縮の至りですわ。』
手前の客が首を捻る。
『でも、問いの答えにはなっていないなぁ。私達は、【ファミン】が擬似霊魂にも作用することを知ってる。イルカンテス女史はこれに何を詰め込んでるんだい?』
『あら、それは秘密よ。教えるにしても、こちらの話を聞いてもらってからね。』
クイーンは2人の客の興味が十分に向いたことを確信していた。
『僕はムカゴ、恐らくお尋ねの人物と同一だ。』
『私はネクロ、変装も解いた方がいいかな?』
クイーンは少し勿体ぶった後、言葉を続ける。
『感謝致しますわ。率直に申し上げます、私が欲しいのは貴方達の知識と技術です。』
2人の魔人が予想通りだというように頷く。
『やはり、だね。私達自身、それが渡せる中で最も価値ある2つだと自負しているよ。』
『しかしこいつはー僕の悪いクセなのだが、貴女のような優秀な人には意地悪したくなるのだ。ただじゃああげたくないかな。』
ネクロも悪ノリするように頷く。
『あら、ウチは資本主義ですわ。相応の対価は用意していますとも。』
クイーンが持った端末が発光し、空中に文字が浮かび上がる。
『約3ヶ月後に決行されるカタミチ屋と下部組織の合同作戦、その情報よ。対象は黒小鷺、目的は殲滅。重要機密保持者以外はいなかったことにされるでしょうね。』
『へぇ…彼等も大概好き勝手してたからねぇ。それを対価にくれるのかな?』
クイーンが端末をポケットにしまう。
『ええ、差し上げますわ。その日その場所は、何をするも自由…決して記録には残されない。お二人も、『取り返したいもの』があるのでは?』
ネクロとムカゴは過去に数度研究所を荒らされている。
それは当時の治安維持機構によるものであったり、引き際を誤った冒険家気取りによるものであったりするわけだが、直近にして被害最大の事案が他ならぬ黒子鷺によるものであった。
奪い去られた成果物を取り返そうにも、相手は裏社会で絶対的な立ち位置を築いている組織。
当然優秀な私兵を揃えているし、未知の兵器もごまんと保有している。
故に魔人達は、膨らみすぎた組織の瓦解まで待つつもりでいたのだが…
『確かに、魅力的な情報だ。真偽の鑑定がまだ、という点を除けばだけれどもね。賢人はカタミチ屋の任務を語ったりはしない。この世で明日も呼吸していたいのなら尚のこと。』
クイーンが手を振る。
『もう、下手なカマかけないでよ。ここは現世と空間的に切り離された、真の無法地帯。そうじゃなきゃさっきの【ファミン】が「捕蝶結界」に引っかかって、今頃全魔連に囲まれてるもの。』
魔人達が目を細める。
裏社会にすら流れていない研究所襲撃の存在を掴み、この隠れ家的酒場の性質と位置を知って辿り着いている。
独自の技術体系を構築し、それをエサに使う狡猾さもある。
クイーンはその才知でもって、魔人の懐に潜り込んでいた。
『オーケイ、理解した。ミス・クイーン、僕達の持てる限りを提供しよう。しかし1つ追加条件を。僕達と『友達』になってもらおうか。何をするにも、3人というのはキリがいい。』
ネクロが禍々しく微笑んで同意を示す。
クイーンも負けず劣らずの笑顔で答えた。
『是非に。願ってもないことですわ。』
この後、クイーンの研究は特に外装の構築という点で大きく進展し、次々と新たな機体が生み出されることとなる。
『そういえば、パラミツ君が死の呪文を防いだカラクリを聞いていなかった。』
帰り際に投げかけられた問いに、クイーンは上半身だけで振り返ってこう答えた。
『この子の中身は根っこから違うの。魂とは似て非なる、便利な新時代のソフトウェアよ。』
2人の魔人は脳とそれに準ずる構造体に詰まった、膨大な経験から理解した。
それは、神の理にもまつろわぬ新たな律の発明だった。
時は天使ゼロ・ゼロがジュラ・パズズ一行と離れ、魔閣樹海を発った直後である。
エリシャと燐に冷たい視線を向けられていたゼロは、離陸から10分ほどが経過し馬車が安定したあたりでようやく解放されていた。
許されたわけではない、2人が飽きたのだ。
『その…なんだ…ぇえ…救援ありがとう。おかげで魔人ネクロを討ち果たし、苦しむ人々を救うことができた。』
御者席からフンと不満げな鼻息が上がる。
『一言目が有り合わせの謝罪じゃなくてよかった。もしそうなら馬車から蹴り落としてやるつもりだった。…俺は不可抗力で巻き込まれた身だ。別にお前が生きてようが死んでようが気にしないけどな、2度と自棄みたいなマネはするな。』
『そーだそーだぁ、文書全部持ってきやがって。失くしたらどうするつもりだったんだこらぁ。』
『天使様〜もう首紐で繋がってんだから、死ぬときゃ一緒ですぜ。自分は逃げのびますけど。』
1人で抱え込み、信頼する勇気を持とうともせず、物理的に距離を取ることを選んだ愚か者には、勿体なさすぎる言葉だった。
『ありがとう…そしてすまなかった…』
『…まーあんま落ち込まないでさ、張り切ってこうぜぇ。1月分ゼロはおっきくなってるわよ。』
燐がゼロの背中をペチペチ叩く。
『因みに、自分らもこの1月天使様のケツ追っかけてただけじゃありませんぜ。今後に取るべき行動は決めてありまさぁ。』
エリシャが馬車の床に地図を広げた。
そのまま何本も引かれた赤線の1つを指差す。
その線は現在地エープス自治区より、遠く北北東に位置する大海原の一点に繋がっていた。
『まずは、この文書を本格的に武器にする!そのためには暗号化された箇所も全て読み込み、自分らだけが自在に文面を変えられるようにしなくちゃあですから、ここにいる1人の男に会いに行きますぜ。』
そこは、本来一つの島がある場所である。
そして、その孤島の名を天使ゼロ・ゼロは知っている。
いや、どれほど地界との関わりが薄い天使も、その名前だけは知っている。
厄介な案件の調書、地界歴史学の教本、酔いどれ先輩天使の愚痴…あらゆる所でその名は頻出単語だからだ。
地図上から明確な消されているその島の名はブルー・ブラッド・ケージ島…通称「B.B.C」、表にも裏にも出せない歴史から葬られし凶悪犯罪者を閉じ込める、絶海の棺桶である。
全体が刑務所として整備されたその島は、200年前の一件以来1人の脱獄者も出していないと噂され、その内部情報どころか存在自体さえ都市伝説として一笑に付す者もいるという。
一応天界では確実に実在するものとされているが、実際に行くことはないだろう。
誰もがそう思っている場所であった。
『お前が文書を持ち去った途端に追手の質が落ちてだな、何人か生け捕りにして尋問する中で得た情報だ。正直俺は今も半信半疑だが。』
問題は『誰』に会うかだ。
狂人もいるだろう。
大物もいるだろう。
伝説もいるだろう。
しかしその中でも、この闇に覆われた文書を読み解ける人物は限られる。
それも、要求は完璧以上のクオリティである。
ゼロがゴクリと唾を飲んだ。
『誰、が俺達のキーになる?』
エリシャが古い手配書を広げる。
そこに写っていたのは、片目がスコープのようになった青髪の男であった。
『最後の黒子鷺代表、ガンガゼ…たぶんこのヒト以上に内情を知ってそうなのはいないんじゃないですかね。』
山威が目を覆う。
『当然の如く、公式には死んでる扱いだけどな。この2人のお守りしながらここまで辿り着くのがどんだけ大変だったか…あぁ、涙こぼれそう。』
『失礼しちゃうわオッちゃんたら。ヒトのことやんちゃな犬みたいに言うんだもの。』
『そーだそーだー。』
むくれた燐と同調するエリシャ、偶には普段の行動を見返してほしいものである。
『…ヤマイ、本当に悪かった。しかしB.B.Cのことは俺も知ってるが、あそこに面会制度なんてものは無い。島に入るモノは、切手の一枚ですら厳重に調査されると聞いている。出る時は言わずもがなだな。』
改めて親愛なるメンバーを整理しよう。
住所不定の魔法使い、身元不明の雪女、世界中を敵に回した窃盗犯、特に令状も持っていない天使。
一番まともなのが、中級魔法使い(武里式札術)の資格を得ている山威 汽穂という体たらくである。
一般的な関所なら、詰所を素通りして牢屋へご案内されるレベルだ。
ましてや、世界一のセキュリティを誇る刑務所になど入れるわけが無い。
『…いくらくらい包もうかしら?』
『半径1Km内にも近づけないぞ。天界に令状発行でも要請するか?任務のためで押し通せば…』
そう言ってはみるも、とても許可が降りる気はしない。
そこは地界屈指の壊れた魂が集う場所、一種のアンタッチャブルな領域でもあり、審査は厳しいだろう。
それに、虚偽の目的での令状申請など、ゼロ自身の心がずっと罪を引きずることになるのは明らかだ。
ただでさえ劣悪な精神コンディション、更なる負荷は避けたいものである。
『まぁ、自分は上陸さえできれば能力でいくらでも入り込めるし、リンもアイデア自体は考えてあるもんねー。』
山威が目を伏せる。
『非常に、非常に気は進まないけどな…』
まだ聞いてすらいないゼロにも、それがロクでもない作戦であることは察せられた。
『ひゅ〜、大陸の反対側でも海ってのは変わんないもんだねぇ。ちゃんと塩辛い。』
エリシャが水面に落とした石に小魚が集り、エサではないとみるや一瞬で興味を失う。
『みてよーリン、コイツらの動きまで一緒。色はだいぶ地味めだけど。』
『ホントだー美味しそ。オッちゃん銃貸して。』
水面を覗き込んだ燐が目を輝かせる。
『アホか、鶏の解体に斬馬刀使うタイプのアホか。落ちるなよ灯焆。ハァ、せっかく高いカネ払って借りた「駆天馬車」もっと乗り回したかった。』
山威が馬宿を未練がましく眺める。
どちらにせよ、B.B.Cまではスタミナが持たないし、海上に休憩スポットなんてものは無いので不可抗力ではある。
『生きて戻りゃまた乗れる…しかしよくこんな良い船チャーターできたな。』
ゼロがこれから命を預ける船影を眺め、感嘆の息を漏らす。
それは、この港にある中でも特に立派な最新式の蒸気船だった。
『そこはホラ、自分が本業の方ちょーっと頑張って。』
エリシャが悪びれる気配も無くクスクス笑う。
こいつ上陸できても、そのまま収監されるんじゃないだろうか。
『俺も詳しいわけじゃないが、最高30ノットを叩き出すモンスターボートらしい。…念の為言っとくが、安全運転第一だからな?』
『約2名不満げにしているアホがいるが、無視していいぞヤマイ。…操縦できるのか?』
山威が首を振る。
『流石に船は未経験だ。よってアウトローというか、愉快犯的というか…そういう操舵手を雇っておいた。腕は確かだと…思う?』
『なぜに疑問形なんだよ。気休めでいいから保証をくれよ。』
突如、燐とエリシャが悲鳴を上げた。
反射的に振り向いたゼロはその意味を瞬時に理解する。
桟橋の下からシャープな鉤爪が突き出ていた。
青く透き通った水面しかその下に無いはずの場所から鉤爪は現れ、何かが木目の浮いた板に引っかけて這いあがろうとしていたのだ。
『新手の敵かッ!』
『待てっ、早まるなよゼロ…』
氷柱を生成するゼロを頭を押さえた山威が制止する。
拍子抜けしたゼロが動きを止めた瞬間、桟橋の下から水音を上げて飛び出す存在があった。
全身から水を滴らせ、両手に鉤爪を備えたそれは1人の男であった。
『失礼御嬢さん方、もうほんの少し離れていただいた方がいい。』
2人はその言葉を飲み込む前に水の爆撃を浴びていた。
男が水浴びを極端に嫌う犬のように体を激しく震わせたのだ。
当然、その服と頭髪に蓄えられた水分は四方へ飛散する。
『ふぅ…清々しい青空だ。』
目の上に手を添え空を見上げる男が、再び海へと放り出されたのはその直後だった。
『何すんじゃてめー!自分の一張羅を!』
『私に塩水をかけるなーっ!浄化されるじゃないの!』
燐とエリシャのコンビによる、無駄に洗練された同時跳び蹴りである。
再び大きな水音が上がり、飛沫を浴びた燐が大騒ぎして転ぶ。
『…なぁヤマイ、絶対に無いことだとは信じて聞いておくぞ。もしかして、アレがそうなのか?』
水面から垂直に飛び出し、桟橋へ舞い戻った男に山威が渋々手を振る。
『お前らに紹介する。この男が俺達の水先案内人、探検家のマナナンガル氏だ!彼には俺達の秘密を一部だけ伝えてある。』
『ご紹介に与った、『トレジャーハンターの!』マナナンガルです。よろしく。』
体を震わせながらも、一切の澱みない自己紹介だった。
おどろおどろしい鉤爪は、いつの間にかどこかへ消えていた。
『マナナンガルねぇ…オッちゃんてば意外と大物の知り合いがいるんだねえ。いつかの新聞で見たことある。』
呑気に話すエリシャは、持ち込んだビーチベッドを甲板に広げ横たわっていた。
『たまたま仕事現場が被っただけの腐れ縁だがな。明るい…というか何を考えてるかよくわからん奴だが、盗掘家とか呼んだらヘソ曲げるから気をつけろ。…いつまで樽にくるまってるんだ?灯焆。』
底を抜いた樽がガタガタ揺れる。
『察しが悪いわよオッちゃん、そんなんじゃモテないぞ。…ほらそこら中潮風だらけ。私ずっと継続ダメージ受けてる。』
紺碧の荒野に照りつける太陽、広義の亡霊…それも雪女の燐にとって、そこは毒ガス地帯に等しい危険地帯だった。
『……………そういやマナナンガルさん、桟橋の下なんぞで何を?』
ゴキゲンに鼻歌を鳴らしたマナナンガルの操舵を眺めていたゼロが、徐に問いかける。
『フジツボを食べてただけさ天使様。新鮮なのを殻ごと噛みちぎるのはたまんないね。まだ土の香るレフォールと交互に食べるのもいい。』
マナナンガルがポケットから取り出した生フジツボを噛み砕く。
恍惚の表情であった。
『そうか…それじゃあ不躾ながらもう一つ。ぶっちゃけあなたは何者なんだ?この地界に来てから見たどの魂とも似ていないし、養成所で見せられたいかなるサンプルとも違う。いや、そもそもそれは魂なのか…』
マナナンガルが舵輪を指差し、そのまま口の前で立てる。
この船の命は自分の掌の上、お連れさんを雪女から舟幽霊にしてやってもいいんだぞ、そういう意思表示だった。
『失礼、不躾な詮索だった。少なくとも、あんたの中に害異の影はない。』
思い返せば、顔も見たくないあの悪魔も特段魂に影は差していなかった。
出会いの時も、魔人との共闘の時もである。
だからこそゼロは肩を並べられたし、最も重要な一手を委ねることができた。
(養成所で繰り返し聞いた、悪魔は災厄の呼び水とかいう風評。信じ込んでいた俺は盲目だったのかもな。それはそれとしてアイツは嫌いだが。………先生も、俺の幻想通りなわけはないよな。)
口を閉じたゼロに満足したか、マナナンガルは再び鼻歌のビートを刻み始めた。
『おい全員起きろ。見えてきたぞ、この世の蓋が。そしておそらく、向こうからも既に察知されている。』
山威の呼びかけを皮切りに、船内はにわかに騒がしさを取り戻した。
事前の計画通り入念に虚構を積み上げ、嘘で船を塗り固めてゆく。
月夜に浮かぶ小さな小島と、不釣り合いに高い無機質な塔のシルエット。
意外にも、迎撃の素振りは無かった。
警備がザル?そんなわけはない。
むしろ、B.B.Cは両手を広げて侵入者を待っていた。
その顔に浮かぶのが純然たる来賓に対する歓待の笑みか、新たなエサに対する愉悦の笑みかはまだ窺い知れない。
数時間後、B.B.C西岸に一隻の難破船が漂着した。
旅行中と思しきその船は外部の損傷こそ見られないものの、内部にも騒動の痕跡は見られなかった。
乗員は生死を問わなければ4名、ある遺体は予備燃料の中に沈み、ある遺体はキッチンで氷漬けとなり、ある遺体は切断面の異常に滑らかな足首だけが残っていた。
唯一の生存者であるトレジャーハンター(自称)のマナナンガル氏(?)は保護・拘束された後にこう語った。
『呪いだよ。海より深く、星より妖い、堕落した大脳新皮質も眩むような呪いさ。』
鍵のかけられた冷たい遺体安置所で、蠢く影が3つあった。
ある影は不味すぎる燃料の舌触りを一刻も早く忘れようと頭を振り、別の影は滴ることなく消えた氷の中から立ち上がり、ある影は箱型の小空間より足首から順番にこの世へと出現する。
そして、3人の中心となるコンクリートの床から頭を突き出す影があった。
『どう?もっかい吸ったシャバの空気は。』
床から這い出たエリシャが笑う。
『刑務所の中でそれを言うか。まったく、自ら結界空間に入るなんぞ初めてだ。』
山威が体のどこかを置き忘れていないか、何度も確かめる。
『俺も自分を凍らせたのは初めてだ。なんというか、ツンドラで土葬された後ってのはこんな気分かもな。』
ゼロは勝手に未だ腐敗せず凍っているという、凍土の古獣にシンパシーを抱いていた。
そして燐はというと…
『うえぇ!ぶえっ!まっっっっっずい!くきぃーー!』
ひたすらに食レポに邁進していた。
燐の発案である、オペレーション・タナトーシス…要はただの本気で死んだフリ作戦なのだが、その第一段階は成功したようだ。
ちなみに、侵入方法は各々に委ねられていた。
陽動役を買ってでたのはマナナンガル。
曰く、『拷問室的なところを見てみたいから。』らしい。
まったく、後で助けに行くこちらの身にもなって欲しい。
『大丈夫か、リン?せめて冷却水にしとけば…』
『アレも海水だもん。私溶ける。』
『ご苦労さんだねぇリン。そうそう、こっちに来る解剖医は4人らしいよ。つまり自分も堂々とこんなかを歩けるわけでさ。』
ゼロ達は行動を開始した。
『では、我等2人はドアの前で待機しております。何かあればお呼びください。』
『ありがとう、君達の足が固まってしまわないよう、手早く済ませるよ。』
厳しい顔の看守と言葉を交わし、若い解剖医はドアを閉める。
外部から来た、それも怪死事件の遺体調査など、ここでは滅多にできない経験だ。
願っても無い機会、最大限多くを学ぼうと心構えを引き締め、勇んで振り向いた若き医師の目に映ったのは、硬直する先輩達の姿だった。
彼等は引き出しに手をかけたまま、道具を握ったまま、書き物机に突っ伏したまま、呻き声一つ上げず震えていた。
若き医師は一瞬動きを止めた後、警護の看守を呼ぼうと息を吸い込む。
『下手に触らないか。グッドな判断だ。』
しかしその体からは声一つ漏れること無く、医師は体を強制的に固められるような感覚とともに気を失ったのだった。
『よし、これで刑務所内をうろつく人員は差し引き0だ。早速彼等から手術衣を拝借しよう、と思ったが…重大なことを忘れていた。』
仕掛けておいた札を回収しつつ山威が頭を掻く。
『どうした、まさか電気の調整をミスって、殺してしまったとか言わないだろうな…』
『そこは問題無い。気絶こそさせたが彼等はキッチリ生きている。そんなことよりはるかに重大な話だ…どう見ても灯焆のサイズに合うやつが無い。』
考えてみれば当然のことである。
ある程度はフリーサイズの手術衣ではあるが、流石に身長130cmの子供が着用するのは想定外である。
試しに着てみた燐であったが、その姿はいいとこハロウィンの仮装のようだ。
とても医師には見えない。
『せめて身長だけでもなんとかなれば…灯焆、お前宙に浮けたりしないのか?』
『私は地に足ついた亡霊なのよ。』
『根無草なのにか。氷で靴を底上げしてやるから、転ばないように気をつけろよ。』
重い扉が内に開き、マスクで顔の殆どを覆った医師達が姿を現す。
『お疲れ様です。まだ時間は必要ですか?』
護衛の問いに医師の1人が頷く。
『死因としては溺死や凍死、切断部位はなんともいえないが、ごくありふれた部類じゃ。しかしまったく奇怪にして不気味、背景を知っていると、そうとしかいえんのう。』
特大の未知を前に、抑えきれない笑みを漏らす老翁に対し、看守達はやや距離を取るように眺めていた。
『さて、もう行っても良いかな。興味は尽きないが腰にきてね、歳は取りたくないものだ。今は冷却保管しているが、絶対に遺体に触らないようにね。できれば、部屋にも立ち入らせないで欲しいんだ。』
老翁の言葉に看守達が頷く。
満足げに更衣室へと向かう老翁。
他3人の医師もそれに続いて角の向こうへ姿を消したのだった。
更衣室のドアが閉じた瞬間、4人は手術衣を脱ぎ捨て、衛生員の制服を羽織る。
『さて、いつまで騙せるか。1時間は使えないと思っていた方がいい。』
老翁の背がしゃんと伸び、つけ髭をむしりとる。
『ああ、本物の医者達の体力も気になるしな。』
『安心しなよ天使様、ちゃんと足に鈴結んどいたから。騒ぎになったら誰かが見つけてくれるって。』
今、本物の医者達は安置室の引き出しに横たわっている。
完全な密閉空間ではなく、窒息の危険は少ない安全な場所だが…
目を覚ました時、冷たい鉄の床…それもかつて死体が入っていた場所に寝かされていたという事実は、精神的に辟易するものがあることは察せられる。
申し訳ないことこの上ないが、そこは最良の隠し場所なのだ。
(あとは、ショック死でもされないことを祈っておくか…)
『ええい!どっかにハサミ無い⁉︎もう袖切っちゃう!』
ぶかぶかの制服を着るだけで悪戦苦闘していた燐が、ついに刃物を探し始めた。
気絶させられた上、制服を切り刻まれる不運な一名には、もはや詫びの言葉さえ見つからない。
カツカツと靴底が床を打つ音が響く。
ゼロ達4人は至って普通の看守として、目的の人物を求め練り歩いていた。
どうも今いる場所は居住区らしく、そこかしこにこなれた制服姿の職員が立っている。
ここは絶海の孤島にして、存在自体がトップシークレットの刑務所、職員が缶詰めにされているのは考えてみれば当然のことである。
『てことはヤバいぞ、こいつら毎日顔を合わせてる。ちゃちな変装じゃ一発でバレる。』
ゼロ一行に緊張が走り、それぞれが自然と帽子を目深に被る。
『早いとこ抜けてしまおう。不審な行動一つで、バレるのは必至だ。』
『でも、ガンガゼのいる場所…ていうか、監房がどこにあるのか誰も知らないってのが問題よね。』
『そういうのってどっかに貼ってあるもんじゃ?避難経路的に。』
しかし、行けども行けども壁に貼られているのは宴会の写真や、ありきたりな標語ばかりである。
『こうなりゃ誰かに聞くしかあるまい。よしお前達は離れて立ち話のフリしてろ。騒ぎを起こすんじゃないぞ。』
そう言い残して、山威は少し離れた集団の元へと歩いて行った。
『ガンバレオッちゃーん。ところで天使様、監房の場所なんか悪そうな気配とかで見つけらんないんで?』
『雑なリクエストだな。…確かに死神程高性能なヤツは珍しいが、天使も「匪像眼」を備えている。眼球にある魂の罪業を見抜く器官だな。ちなみにお前ら全員真っ黒な。』
燐とエリシャが照れくさそうに頭を掻く。
(誰も褒めちゃいないぞコイツらときたら…俺も人のことは言えないか。)
ゼロが己の手を見つめる。
そこに漲る魂の色は、目の前で苦しみ死にゆく人間達を救えなかった罪で、どんよりと濁っていた。
(…任務を果たさなくっちゃあな。)
拳を静かに、強く握りしめた。
『あっ、オッちゃん戻ってきたわよ。どうだったどうだった?』
山威の表情は渋かった。
『ひとまず…奴は今面会室にいる。特例でのみ使用可能で一際厳重な警備のな。』
エリシャが舌を出す。
『うげー、出てくんの待つの?せめて長話してないでくれ〜。』
『そんな悠長にはしてられない。面会相手の名はスズガモ・フィンカルカヤ…俺達を襲ったカタミチ屋の魔法使いだ。』
『…バレて、いるのか?』
山威が目を伏せる。
『元々俺達は尾けられていた。おそらく狙いも割り出されている。直に襲ってこない理由は不明だが、あと数分でガンガゼが殺される可能性は高い。いや、もしかするともう…』
仮にガンガゼが死亡した場合、彼以上に文書を活かせる人間は見つかるのか?
答えは否だ。
黒子鷺が壊滅したその時、関係者は出入りしていた掃除小僧に至るまで始末された、というのが定説だ。
裏のノウハウある山威達がリスク度外視で1月探して、これだけしか手がかりを掴めなかった。
その男を失えば、文書の有効利用から大きく遠ざかることになってしまうだろう。
(いや…それより何より、俺は天使だ。これ以上、周りで命が奪われるのを許容できない。)
1月の放浪を経て、ゼロの内には意志が湧き上がっていた。
元々与えられた種族としての救済本能を超えた、仁徳の心がである。
肉体を弄られ、最後まで使われて死んでいく者がいた、自分のいない希望を託し死んでゆく者がいた。
任務と己の命、優先すべき事項を間違えている連中も、数え切れないほどにいた。
この世の誰であろうと、そんな不幸が許されていいはずがない。
たとえ、不幸の因果を生み出した張本人であろうとも。
追われる者には過ぎた願いだとわかっている。
それでもゼロは手を伸ばしたかった。
『行くぞ、生きていろよガンガゼ…っ!』
帽子のつばを押さえ、ゼロ達は駆け足で移動し始めた。
壁に叩きつけられた男の体が発した音は、およそ人体から響くものではなかった。
むしろ、金属で補強された木製テーブルを叩きつけたような、柔らかさと硬さの混じった音だった。
細身の魔法使いが歩みを進める。
今の魔法程度で始末できる相手なら、8年前に死んでいる。
改造を重ねた体を完全に破壊しなければ、男は死なない。
油断無く魔法陣を操る魔法使いの足元には、呼吸以外の機能を全て麻痺させられた看守が2人転がっていた。
『とんだ御挨拶だ。今更私を消しに来るとは、御宅は殺人一つ下知するにも10年かかるのかな?ええと、フィンカルカヤ君。』
叩きつけられた男が足を震わせつつ立ち上がる。
その顔は記録上の年齢と全く合致しない若々しさのままであり、体格はプロの拳闘士もかくやという程がっしりとしていた。
『鉄格子の内ではわからないだろうが、世の中は常に変わり続けているよDr.ガンガゼ。貴方の価値も然り。ただ、今は生きていられると都合の悪い理由がある。』
スズガモの周囲を回る魔法陣の一つが固定され、術式が効果を振るおうとしたその瞬間、巨大な氷塊が扉を破った勢いのまま魔法使いを吹き飛ばした。
砕ける氷塊とけたたましく鳴る非常ベル、風通しの良くなったドアの向こうには、手足から氷柱を垂らした看守服の人間が立っていた。
『間一髪…間に合ったか。無事で何よりだガンガゼ博士。』
『今日はストでもしているのかな。ちょいと警備がたるんでいる。』
積み重なっていた氷が内側からの巨大な熱によって溶かされる。
直後、揺れる炎に包まれた魔法使いが湯気の中から姿を現した。
『やはり来たか、文書はあるな?渡してもらおう。ここには大天使であろうと手出しできないぞ。』
服の中に収めていた翼が解放され、ゼロの周囲に霜が降り始める。
『そっちこそ、ご自慢のペットは入れなかったみたいだな。数の有利だ。』
『…ジクサクAlのことか。絶対彼女をそう呼ぶな。でなければ…こっちにも八つ当たりが来る。』
天井から、異様な音が響いた。
まるで、閉じ込められた癇癪持ちがあてもなく壁を叩き続けているような、そんな音が。
換気口の鉄格子が吹き飛んだのは、その直後だった。
同時に換気口から溢れる1本の触手、角質の歯がついた無数の吸盤と、自重を支え曳くに十分な筋肉を備えたそれは、容易に氷の盾を砕きゼロを壁へと叩きつけた。
『やだ〜冷たいじゃん。ダルい抵抗なんてやめてぇ、さっさと死ねよ。』
換気口からボトリと湿ったものが落ちる。
それは一つの触手が8mに達しようかという、巨大なタコだった。
全形だけなら、この海域には普通に生息している「タテジマザラテダコ」だ。
しかし、その外套膜の一部は異常に変色して膨らみ、そこから聞き覚えのある意地の悪い笑い声が垂れ流されている。
『な…何者だ…コイツ…』
『あぁ?1月で忘れてんじゃねぇよ。脳味噌まで背中のパーティグッズに引っ張られてんのかぁ⁉︎あぁん?どうみても妖艶でカワイイ、ジクサクAlちゃんだろうがよ〜!』
大ダコが体をくねらせて笑う。
呆気にとられるゼロの横を何かがすり抜けた。
船から抜き取った鉄クズに所内でくすねた鉄製品…ごちゃ混ぜの金属柱にガンガゼが吸い寄せられていた。
見れば、倒れた看守の拳銃もホルスターを破って吸い寄せられようとしている。
『あんたが体の殆どを改造している狂人でよかった。おかげで簡単に電磁石に引き寄せられてくれる。ゼロ!逃げるぞ敵の正体が掴めない!』
ゼロが去り際に作り出した氷塊に大ダコがぶつかり阻まれる。
脇を通ったスズガモも、天井から突きつけられた拳銃に身じろぎ後ずさる。
『エリシャ・ラシリアかっ。いつの間に看守から…』
『へっへー、バキューン!なんつって。』
拳銃をスズガモに投げ渡し、エリシャが天井の中へと姿を消す。
『当然弾は抜いてある…か。ジクサク!先にターゲットを追え!こちらは看守2人の記憶処理を済ませて行く!』
『命令すんなよスズガモちゃん!んなゴミ吹き飛ばしちゃえばいいじゃん!炭クズなら口もきけないし?』
『断る。これでも組織の人間だ、問題を大問題にはしない。』
大ダコが露骨に舌打ち(諸説あり)して逃げた獲物を追いかける。
頭足類の優れた視力は水中用のチューニングだ、地上では十分な性能を発揮できない。
しかし大ダコは既にロックオンを済ませていた。
虹彩を細めて笑い、大ダコが再び通気口へと姿を消した。
『くそっ、扉が開かない。電気回路式の珍しいタイプだが、何かパスでも必要なのか?なんとか開けてみるから待ってろ。』
扉の横にしゃがみ込む山威の後ろで、燐が首を捻った。
『長死にしても知らないことってあるものねぇ。鯉は竜になり、そのまま蛸になるなんて。』
『んなわけあるか、そんなことが罷り通ったら世界中の生物学者が首をくくるぞ。あれはもっと何か、おぞましい何かだ。』
エリシャがガンガゼの肩をバシバシ叩いた。
『まーここに製作者本人がいるんだし、聞けばよくない?さあ知ってる情報吐きやがれ〜マッチで炙り殺すぞ〜。』
ガンガゼが首を竦める。
『私はプロジェクトジクサクには非参加だ。科学者に専門外を語らせるのは、愚の骨頂と覚えておきたまえよ。』
『わーとっつきづら。よくムショで生き延びてるもんだわ。知ってる範囲でいいからさぁ。』
『プロジェクトジクサクは『神経接続』を主題にする、と計画書にあった。以上。』
己の認識下で輝くもの、それ以外に全く興味は無く語る気も無い、清々しいほどに無愛想極まる男である。
これで巨大組織の長だったのだから、わからないものだ。
『そんな事より、天使の…黒いの、君の能力は興味深いね。能力全般に言える事だが、君のはエネルギー保存則を特に鼻で笑っている。人工能力者計画も、本質はエネルギー平衡の突破だったのだが…』
ガコン、と背後で何かが外れた音が響く。
またしても、換気口の鉄格子だった。
『お喋りだなジジィ〜!遺言には困らなそ〜じゃん。』
ずるりと大ダコが這いずり出てきた。
『ヤバいっ!ヤマイッ、まだ扉は開かないか⁉︎』
大ダコが癪に触る声で笑う。
『開くわけねーじゃん!アタシがお邪魔する時、冷却水の取り込み口壊してやったんだから、電気供給自体がイカれてんだよ!いつまでも必死に弄ってなマヌケ!』
前には開かずの扉、後ろには得体の知れない刺客…ゼロ達は完全に袋のネズミだった。
『自分が文書持って適当に壁潜れば、いい囮に…』
ゼロが首を振る。
『ダメだ、魔法使いの方がどこにいるかわからない。もしも遭遇したらグラーラ系の術で壁ごと仕留められる。』
『スキにすればぁ〜?どっちみち、マーキングは終わってるしぃ、死ぬ順番が変わるだけかもね。』
そういえば、なぜジクサクAlは複雑な通気管を通り、あっという間にゼロ達に追いついたのだろうか。
謎のままにしておくには、あまりに危険なポイントだ。
『やっぱりぃ、バカが何匹雁首揃えてもしょうがないか。アタシが、一時的に代謝を加速させて揮発した唾液を振りかけていたことに、まーだ気づいてなかったんだから。』
ガンガゼが頷く。
『なるほど、生物の唾液には毒や酵素等大量の化学物質が含まれている。その物質を辿ってきたというわけか。素晴らしく合理的だ。』
『褒めてる場合かっ!くそっ、逃げながら風呂入ってる余裕は無いぞ…』
『心配は要らないよ黒天使君、『そろそろ』なのだから。』
ゼロがその言葉をオウム返ししようとした瞬間、開かずのドアが開いた。
見ればガンガゼの右手が展開し、そこから伸びたコードがドアの開閉装置に繋がっていた。
『電力はそこのメガネ君が供給してくれた、私はそれを適切に変換したのさ。これでも小器用な改造人間なのでね。』
勝ち誇った気分に水を差され、腹を立てた大ダコが地を滑って迫り来る。
その腕は今にも獲物を締め殺そうと、先の先まで昂っていた。
『閉めることはできるのかっ⁉︎』
『無論。も一度ビリッと頼むよメガネ君。』
ドアが重々しく閉まり始めるも、その速度は大ダコの突進に遠く及ばない。
『マズい!迎撃を…』
山威がゼロの肩に手を置く。
『まぁドンと構えてろ。俺としてはタコは生派なんだがな…鱗も甲殻も無い軟体動物なら効果抜群だろ。焼けてなこの骨無しが!』
扉の前に山威が仕掛けたトラップ、それは瞬間的に巨大な電流を生み出す、地に伏した雷…文字通りの地雷だった。
大ダコが悲鳴を上げ、弾かれたように後ろへ下がる。
その隙に、頑健なドアはゆっくりと逃走者を刺客の腕から匿ったのだった。
力任せに数度扉が叩かれ、静かになる。
『ひとまずは…安心か。』
通気管は施設全体にアリの巣の如く張り巡らされているだろう。
である以上、次の襲撃までさほど余裕は無いだろうが…それでもゼロ一行は一時の休息をとっていた。
燐が大きく息を吹くと、逃走者全員を包み込むように白いダイヤモンドダストが現れる。
自滅しない程度に周囲を冷やし、臭いの発散を抑える狙いだ。
ガンガゼはしきりにその様子を観察し、1人呟いていた。
『なるほど亡霊…熱を拒絶する性質は黒君の能力と似て非なるもの。受肉した霊は同一次元上に存在しながら本質が異なる位相の存在とする説があったが天則に反する性質もその位相の法則か?ああどこの器官までが熱を許容するのか?口唇か咽頭か肺の中は熱いのか。全く臓器ごとに培養してみたいな実にユニークでセンセーショナルな論文が書けることだろう。そうだ今度所長に相談してみようあぁそうしよう。』
『うわぁ、キモ…』
燐がゼロの翼の裏に身を隠す。
『失礼、少々取り乱してしまった。あぁ、そうそう…ほいこれ、君達の欲しがってる解読後の文書だ。どこをどう突けば効果的か、私流に解説もつけておいた。』
ガンガゼからポンと文書の写しを渡され、エリシャが口をぽかんと開ける。
『懐かしい魔法の痕跡を検知したかと思えば、これまた懐かしい文書が出てきたものだよ。まったく、郷愁に涙が溢れそうだ。まぁもう済ませてしまった以上、私が狙われる理由は薄くなったし、さっさと出ていってくれ。』
独房へと戻ろうとするガンガゼの裾をエリシャが引く。
『まだ何か?』
『いいねぇ、中々使える人材じゃんドクター。どう?ここ出て手ぇ組まない?』
ガンガゼが大袈裟に手を振る。
『脱獄?随分若いうちにボケたものだ。それはここでの人権を全て捨てるに等しい愚行。第一君達はどう見ても貧乏人、私の欲しい物を用意できるとは考えにくいが?』
燐とエリシャがより大袈裟に手を振る。
『果たしてそうかな?自分達にたいがい不可能はなくなりますぜ。何しろ、一国の王族になるんで。』
『…そのための文書と?幸運なことに、B.B.Cにはプロのカウンセラーも居れば、頑丈なベルトのついたベッドもある。2.3年ゆっくりしていくといい。』
茶化すガンガゼ、しかしエリシャは本気である。
『大学をブチ立ててあげる。どんな試薬も器具も検体も手に入るようにして、好き放題研究できますぜ。なんせドクターが座るのは学長の椅子なんだから。』
『皮算用で世界恐慌を引き起こすつもりかな。君が早めにその悪夢から抜けられるよう祈っておこ…』
『自分にはわかっちまうんだなぁ、ドクターみたいな目はガキのそれだって。可能性ばっかり見てる、夢追い人の目だって。冒険を嘲笑えるほど、まともな人間で?』
エリシャがガンガゼを誰かと重ね合わせて見ているのは明白だった。
それも、よく似た知己の者とだ。
だからこそ、その時ガンガゼは笑ったのだろう。
『永遠に潤う生木、火の起こりは悪いぞ。』
『使い方1つでさ、火持ちは良いでしょ。』
『私の先は長い。暇つぶしが多いに越したことは無い。条件は、まず今すぐ脱獄はしない。計画の初動で拳銃自殺するようなものだからだ。』
『噂通り、いやもっと危険な場所ってことかぁ。どうするつもりです?』
『君達にナビゲーターを付けよう。優秀かはさておき、私の信頼する人物だ。向こうに貨物用の電動エレベーターがある。安心安全の地獄へご案内しよう。』
一行は、ガンガゼの言うままに歩みを進める。
勿論、各所の換気口から目は外さずに。
キイキイと鳴るエレベーターの扉が開き、隙間から少し熱を持った空気が入り込む。
『この人数では少々狭いか。しかし着いた、これより先が独房エリアだ。』
片手でエレベーターを操りつつ、ガンガゼが降りるように促す。
周囲に過冷却水の盾を浮かべ、ゼロが扉の向こうへと一歩を踏み出した。
必要以上に太い鉄格子と厚い岩の壁は、その中に秘された存在の危険度を警告するものであり、同時にもう決して無辜の血を流すまいとする博愛と平穏の意思表示だ。
例え死神や天使でなくとも、その場に漂う血も凍るような、何の気なしに日常の一コマであるように命を奪い去るような空気を通じ、深く識ることになるだろう。
善悪を等しく抱擁する歴史さえも忌み嫌った、隠匿されるべき者達の魂がいかに穢れているかを。
危険という言葉では到底表せない、異常な邪悪の密度が筋肉を強張らせる。
この地獄行き特急便の待合所には隅々まで掃除が行き届いており、破壊の痕跡も無い。
それどころか、どこかアットホームで閉塞感すら感じないという点で逆に不気味だった。
『私の房番号は3-12、案内しよう。』
一行が少し歩き出せば、たちまち視線が全身に突き刺さる。
その中に多分に含まれていた、敵意ですらない無機質な視線がここの本質なのだろう。
まったく理解不能、平和を求める世に在ることはできないモノがそこにあった。
『ヒエ〜、こんなジロジロ見られんのはポリに捕まった時以来かも。』
『ああ…羽根の根元が緊張していやがる。捌かれる前の魚ってのはこんな気分かもな…』
ゼロの翼は、全体的にいつもの3割増しでふんわりしていた。
『まったく嫌な気分だ、どう関わっても破滅まっしぐら…って感じだ。…だから灯焆、威嚇するのはやめておけ。たのむから。』
ガンガゼが周囲を見回して頷く。
『今日は非常事態で機嫌がいいのかな、皆かつてない歓迎ムードだ。』
『え?これで?マジ?』
天使ゼロ、特大のカルチャーショックである。
数多の視線に見守られつつ、一行は1つの房の前で足を止める。
『狭く汚い部屋で時間もさほどないが、どうぞゆっくりしていってくれ。』
ガンガゼの房、その壁には所狭しと工具が吊り下げられていた。
おそらくは自身のメンテナンス用。
他に必要な技術水準を満たす者がいない故の措置だろうか。
『こんなの、脱獄してくれって言ってるようなものね…』
燐の呟きにガンガゼが苦笑いを浮かべる。
『まったくもってその通り。彼等の心中と一言一句違わぬことだろう。慎みの無い正義だことだ。』
含みのある言い方だったが、発言者が何か作業に取り掛かってしまったため、真意は問えなかった。
なんとなしに突っ立ったまま作業を眺めていた4人に、ガンガゼが首を動かすことなく言葉を投げかける。
『時に君達、中々強力な追手に迫られているようだが、仮に連中を迎撃したとしてどうなると思う?』
『次の追手が来るだけだろうな。うかうかしていると、こちらが削り殺される。』
いざ言葉にすると虚しいものがあるが、致し方ない。
そういう悲劇的円環の引き金を引いたのは自分達なのだから。
『わかっているじゃあないか。文明がいかなるステージへ進もうと、暴力は役に立つ。各々、できることを増やしておきたまえ。私は人工能力には携わっていないが、別件で能力者は弄ったことがある。できる範囲で助言も可能だ。』
山威が低く手を挙げる。
『ちなみに、魔法に関してなどは…』
『門外漢だ。何を相談したい?』
山威の頭によぎったのは、己の最大術を頭部に受けても意に介さなかったジクサクAl(竜)の姿であった。
『差し当たっては出力が欲しい。可能であれば、大型肉食竜鱗を貫けるレベルを。』
ガンガゼがしばらく間を置いて答える。
『15W-6を訪ねたまえ。私が言うのもなんだが、彼女は狂人だ。十分に気をつけて。』
同じ穴で同じ釜の飯を食う者さえも眉を顰める…そんな囚人が光明と?
山威が露骨に嫌そうな表情を浮かべる。
『怖いねぇオッちゃん、よしよし。私が着いてってあげようねえ。』
『いらん…と言いたいとこだが、どこから気さくな死が来るかわからん今、単独行動は避けたい。頼めるか。』
『大笹舟に乗った気でいていいよ!』
山威と燐が不安げに出ていった直後、ガンガゼが声のトーンを落として話し始めた。
『さて、まずは大前提として…君達は己の能力をどういうものと捉えている?』
ゼロが目を閉じて考え込む。
天与の才覚だとか幸福なる者への誕生祝いだとか、世間一般ではそう呼ばれているものの、そこにどんな法則が作用しメカニズムがどうなっているのか、踏み込んだ話はとんと聞かない。
『さあ?神様がほんのちょっとこの世を面白くしようとした、秘蔵のスパイスとか?』
茶化してはいるが、エリシャなりに考えた答えだったのだろう。
背を向けたままガンガゼが体を揺する。
『十分で、尚且つ好ましい答えと言える。通常、論理性無き意見は唾棄する他無いが、君のそれは実にお茶目で魅力的だ。それに、間違いとも言い切れない。千万無量の命を費やし、偉そうに講釈している私も『個人に紐付く、小世界』としかそれを認識できなかったのだから。知識も、理解も、スタートラインに立っているのかすら怪しいものだ。』
あくまで淡々と語ろうとする科学者の声は、隠しきれない一抹の悔しさを帯びていた。
正解の無い問いというのは、男のような類の探究者にとって実に目障りらしい。
ゼロが己の指先から伸ばした氷柱を見つめる。
自分は、産まれた時から共にあったソレを、なんだと思っていたのだろうか?
哲学者でもなければ自らの意識そのものについて深く考えたりはしないように、ゼロという天使も自らの力について考えたことは無かった。
『しかし、私とて闇の中で足踏みしていたというわけではない。天則を超越する能力の性質と極めて似た現象に辿り着いている。いわゆる、神の力だ。』
『え?てことは自分、実質神様ってこと?いよっしゃ。』
『オリジナリティをもって名乗る分には誰も止めないだろう。黒天使君、これからの話に激昂してもいいが、手を上げるのは最後まで聞いてからにしてくれ。…私は過去に捕獲した低級神と能力者の両方に、とある実験をした。それは視覚と身体の自由を制限し、己が何も持たざるただの人間であると、徹底的に暗示する…それだけのものだった。結果として、能力者は2週間、神は5ヶ月で権能を失い様々なデータを採取した後に処分した。…残念だが、痛覚は切ってあるんだ。』
右頬を打ち抜いた拳にさして興味も示さず、ガンガゼは手を動かし続けていた。
『ムチャするなぁ天使様…』
『すまない、あまりに…あんまりだった。』
『いいさ、君の習性を考えれば自然なこと。話を続けよう。興味深いことに、実験後の検体は身体構造や血液成分に変化がみられた。勿論、過剰なストレスが影響した可能性を排せない点ばかりだったが…特に神では顕著な変容だったかな。直立に適した骨格に、漿膜の中に整然と収められた循環及び消化器官と分泌系…まったく驚きという他ない。』
『…ドクター、改造しすぎて人間の構造忘れちゃった?』
ガンガゼが首を振る。
『前提が抜けていた。その神は元々四足歩行をしていたよ。加えて、実験前に体内をスキャンした限りでは、理解不能な内臓のような器官が詰まっていた。そして、元々の外見はコヨーテに似ていたけれども、実験後はほぼ人間のそれに変化していた。』
神を魔物ですらない一生命に堕とす…天使養成所で優秀だったゼロでさえ聞いたことも、どれほど罪深い行いかさえわからない程の冒涜だった。
『並行して進めていた実験の結果と併せて、私のチームは1つの結論を出した。神と能力者の権能は『基本的に同質のものであり、自らが内包する切り離された別の世界、そこにある法則を無理矢理適応させている』…無論練り直す余地は多いが、人類史上最も本質へ近づいた考察だと確信している。』
『…その小世界を無理矢理壊したから、実験で権能や神性が消えたと?』
ガンガゼが頷く。
『そうだと考えている。逆に小世界を拡張することで能力が強化された例もあった。これは何体かの胎児を混ぜ合わせて、ベースとなる検体と混ぜ合わせた実験だったのだが、死後の肉体及び魂だけでは変化がみられなかった。そこで、培養液中で両方を保持したまま混合すると、ベース能力の明らかな強化がみられたというわけだ。また、ある程度成熟した材料でも同様に実験を行ったが、その場合は変化がみられなかった。』
その成功例とやらをゼロは知っている。
エリシャが全力で制止していなければ、再び目の前の男に拳骨をお見舞いしていたであろう程度には、深く。
『これは、魂及び意識が外部からの影響を受け、形が定まりすぎていたためと私は考える。砂はいくら混ぜても一つになるが、砂岩はぶつけても独立したままだろう?悪くすれば互いに砕けてしまう。』
『こんなこと言っても何にもならないが…己の行動に悔悟は無いのか。』
ガンガゼはこともなげに首を振った。
『特には。しかしそれを根拠に罰されたとしても、なんら疑問は無い。一般的に罪深い行いだと認識している。続けよう、そこで私は漸く能力強化のノウハウを知ったが、はるか前に先達達は理外の力を0から産み出そうと考えていた。そこで始まったのが人工能力者計画だと聞いている。試薬や刺激、暗示によって被検体の内包小世界を歪ませ、神性の廉価版を得ようとしたわけだが…まぁ悉く成果は無かった。心身共に異形となった彼等が会得したのは、純粋な身体能力の延長か特定器官への魔力的干渉…魔法の亜流としか言えない、手品のようなものだけだった。エージェントの育成も兼ねていたし、実際出先で組織を大いに潤してくれた故、完全な失敗ではないが。』
『へぇ〜あのヒト達がね…他人事でも気が滅入るもんだなぁ。』
慎みの無さなら誰にも負けない、そう豪語するエリシャでさえ居心地が悪そうな仕草をしていた。
ゼロは口を開かない。
一度開けば、聞くに耐えない罵詈雑言が飛び出してしまいかねない。
『ここまでが『能力』の正体に関する仮説と、強化の実例だ。これを踏まえて君達がすべき研鑽は何か?外部から小世界を歪める?実に手っ取り早いが、ここには素材が無い。いっそ神にでもなってしまうか?ロマン主義者にはウケそうだが、成功確率を元に表現するなら、それは自害と同義。最善は『理解する』ことだと私は考える。今あるリソースを深く識り、極限まで理不尽を引き出して押し付ける。敵の前に、まず己を知る。これを抜かしちゃあならない、違うかな?』
『正論だな。だが少なくとも俺の能力は単純だ。冷気を出す、それ以上のことは無…』
ガンガゼの背中から飛び出した作業用アームが、ゼロの顔を指差した。
『それが引っかかる。『冷たい』とはなにか?極端に言うなら、それは物質の熱エネルギー保有量が低いという『状態』を示す表現だ。そして、エネルギーは常に高低のバランスを取ろうと振る舞う。春の川がいつまでも固まっていないように。トーストのバターがいつまでもとろけていないように。君の能力がこの世で冷気というかたちを取る以上、それは放出ではなく吸収と認識するのが道理だろう?尤も、吸収されたエネルギーがどこへ行くのか、そこは神秘だがね。』
180°認識を変えろ、突然そう言われても飲み込み難いものがある。
『吸収…奪取…もしそうなら全存在への奉仕者である天使にゃ、似つかわしくないな。』
結果出てきたのは己に対する安い嘲りだった。
『いいじゃんいいじゃん、明日から黒翼のアウトローエンジェル名乗っていこうぜ。』
『2度とそれ言うなよ。想像しただけで自分の首を掻っ切りたくなった。』
『やめたまえ、自房の掃除は自分でやらなくてはならないのだ。さて天使君が熱力学の原点に立ったところで、風精(シルフ)君の興味深い能力についても論じよう。』
『へっへー、待ってましたぁ。我ながら便利な最高の能力!さらに活かしてやれるのは嬉しみー。』
『好ましい。ではまず能力の詳細について明瞭にしておこう。一つ、先程君は天井に半身を埋めながら拳銃を扱っていた。単純な同化というなら指と引き金は一体化して動かすこと叶わないはず。』
エリシャはしばし目線を上に向け、口を開いた。
『同化できんのは一度に一種類のモノだけ。それが自分の能力でさ………あんま言いたくないけど。』
『ふむ………時に、拳銃の原料は?』
『は?鉄だろ。自分もしかしてバカにされてる?』
エリシャの目線が左右に行き来する。
大方ムカついて盗れそうな物を狙い始めたのだろう、目癖の悪いことだ。
『この緑の塔は海底より隆起した一枚岩をくり抜いて作られたそうだ。材質はチャート、二酸化珪素を主体とする硬質の鉱物だ。そして、不純物として一定量の鉄化合物を含む。この意味がわかるかね。』
ガンガゼが床をコンコンと叩く。
『私の信奉する『科学』の色眼鏡で見るならば、拳銃とこの監獄には同一の元素成分が含まれているのだよ。』
『はぁ…けど、拳銃と石は違うじゃん?材料どうこう言い出したら、気取った菓子屋がマフィンとスコーンを分けてる意味が無くなりますぜ?』
ガンガゼが徐に振り向き、エリシャの顔を指差す。
『そう!すばらしい理解だ!そもそもチャートという岩石も混合物。さらに言えば、主成分たる二酸化珪素はその名の通り2種の物質を含む。いや、近年は単一の原子さえも物質の最小単位ではなく、より小さい成分に分けられるとの説が有力だ。これが真ならば、この世において『単一』などという幻想は存在しないと言ったっていい。』
『そ、そう?ども…』
急に動いたガンガゼに面食らったエリシャは思わず半歩下がっていた。
『つまるところ君はきわめて個人的な基準で世界を定義し、それを己の能力の基準として用いている!私のような頭の凝り固まった科学の徒では決して扱えない能力だろう!』
『やっぱなんかバカにしてんだろドクターよぉ〜!』
ガンガゼが大きく首を振る。
『まともに他人と話すのは久しぶりでね。不快に思われたなら謝罪しよう。これは君が無学だとか科学が正当だとかではなく、世界をどう見るかの話だよ。例えば…』
『ダラダラ楽しくくっちゃべってんじゃぁーねぇよ。』
ガンガゼの話を遮り、冷たい声が響く。
同時に、排水口の鉄格子を吹き飛ばして現れた筋肉質の触手がエリシャに巻きつき、がっしりと動きを封じた。
『なっ…もう見つかったか!しかしまずいっ!』
無数の歯がついた吸盤が並ぶ触手は、即ち血を絞る枷だ。
そんな物で締め上げられたなら、どんな生物も無事ではいられない。
それは誰よりも当事者たるエリシャが理解していた。
皮膚に突き刺さる痛みを感じた直後、彼女は既に触手と同化していた。
あとほんの1秒判断が遅れれば胴体を真っ二つにされていただろう。
『キャハァ!まぁそうするしかないでしょ。でぇも、アタシがどうして小汚い虫に触れるまで腕を伸ばしたと思う?愛しく抱きしめるため、じゃあねーぞ。』
ずるりと這い出た大ダコの目がギラリと光った。
エリシャを掴んだ触手が大きく振りかぶられる。
『選べよ!トマトみたいに潰れるか!ビーツみたいな断面晒すか!お情けで即死させてあげるからさぁー!』
触手が振り下ろされる。
あの速度では例え脱出したとしても、壁か天井に叩きつけられて重傷は免れない。
触手を切断しようとゼロが生み出した氷は、別の触手にあえなく砕かれた。
『順番守って神妙にションベン垂らしてなよ天使サマ〜。すぐ頭の輪っか増やしてあげるからさぁ。』
エリシャの頭と床との距離は、既に1mを切っていた。
時間が足りない。
あの黒檀のような触手を切断し、エリシャを救うための氷を作り出すにはあまりに短すぎる猶予だった。
『うおぉぉぉぉぉーー!』
『さよーなら羽虫女!来世でアタシに怯えてなマヌケ!』
せめて自分がクッションになろうと走り出すゼロを確認し、己が場を支配している感覚に狂喜するジクサクAl。
エリシャはその享楽を冷や水の瀑布に突き落とすように、笑いを漏らした。
『悪いけど、まだドクターから聞いてないんだよね。自分の能力のステキな活かし方ってやつを。海産物なんかにブチ殺されてるヒマないっての。』
エリシャが触手の中を駆ける。
その向かう先は脱出とは真逆、大ダコの胴体であった。
『何を考えてるエリシャ!毒液を打ち込まれるぞッ!』
大ダコの顎板がガチガチと音を立て、虹彩が意地悪く歪む。
ジクサクAlとしても、敵がわざわざ苦しんで死んでくれるのは大歓迎なのだろう。
しかしエリシャは自他共に認める生き汚いスリである。
自ら死に向かう、などという愚行は絶対に冒さない。
『タコってのは脳みそが9コあるらしいじゃん。どこまで潰れても替えがきくのか、確かめてみよーかな〜!』
エリシャの手にはいつのまにかガスバーナーが握られていた。
既に温まったその口からは赤と青の混じった炎が噴き出ている。
『いつの間にくすねたのやら。すばらしい腕前だ。』
持ち主のガンガゼは妙に感心していた。
『だしょ?アンコールは随時受付中!さぁて脳みそ直火で炙ってやるから、顔真っ赤にして悔しがれ!』
ジクサクAlはエリシャを弾き出そうと他の触手を振り回すも、体そのものと同化している彼女をどうこうすることなどできない。
致命的な病原を自ら体に招き入れてしまったのだ。
『どうにもならないだろう。例えるなら、体内の腫瘍が武器をとって襲いかかってくるようなものか。』
淡々としたガンガゼの物言いに神経を逆撫でされつつも、ジクサクAlは次の手を打っていた。
『ガスの供給管!それさえ切断すれば…無い⁉︎』
エリシャの腕で鉛色のボンベが揺れる。
バーナーはガンガゼお手製液化ガス装填式、どこでも手軽に使える最新型である。
いくら探そうと断てる補給源は無い。
『まずは左目もーらいっ!……ん?』
エリシャが一瞬足を止める。
その隙をジクサクAlは見逃さなかった。
パツッと、小気味良い音と共にエリシャが同化していた触手が、大ダコの本体から切り離されていた。
ゼロもガンガゼも、当然エリシャ自身も何もしていない。
絶好のチャンスを自ら潰すなどするわけがない。
となればその原因は大ダコにあると見るべきだ。
『あいつ…自分で切りやがった!』
不規則に暴れる触手からエリシャが慌てて脱出する。
すかさずゼロが凍りつかせ動きを止める。
ヤスリのような吸盤に削られてはたまらない。
『なんで…ただのゴミクズ駆除で、腕一本無くさなくちゃならね〜んだよ、あ?絶対絶対絶対〜ッにブッ殺すッ‼︎手足をブッ千切って!ゴキブリに食わせて殺すッ‼︎』
大ダコの体にくっきりと青色の縞模様が浮かび、外套膜がはち切れんばかりに膨らむ。
ジクサクAlは完全に激昂していた。
『みてよ天使様、タコスケのやつ顔真っ赤ですぜ。』
『…むしろ真っ青では?てか挑発するな、ここからが本番なんだからな。』
2人の背後で何かの止金が外れ、足元に何かが転がる。
断面から光沢を放つそれは、ガンガゼの右手首だった。
『耳を塞いでおきたまえ。』
2人がしゃがんだ直後、銃身と化したガンガゼの右手が火を噴いた。
回転する弾丸が息つく間もなく発射され、ジクサクAlの悲鳴も湿った肉が抉られる寒気のするような音も、その銃声にかき消される。
時間にしておそらく数秒。
一生分の炸裂音を聞かされた耳を押さえつつ、ゼロが立ち上がる。
頭に乗った薬莢がポロポロと落ちる。
『そのシステムは…ノーカンZの……』
ガンガゼが頷く。
『彼を手術したのは私なのでね。我ながら傑作だった。…しかし困った、弾のストックが少な過ぎたかな。』
僅かに青い煙の中、ジクサクAlは生きていた。
7本の触手で体を覆い、その表面を縮めて硬質化することで、至近距離からの機関砲を耐え切っていた。
破れた傘膜の隙間から、眼が覗く。
立ち上る青い蒸気は極限の憤怒か、純粋な殺意か。
ともかく、血が気化するほどにそれの体温が上がっているのは間違いない。
次のラウンドのゴングとなるであろう一言を誰かが発する手前、床に飛び散った青い血が空中へ浮かび上がり文字となった。
暴れ過ぎた。 所長が不機嫌だ。 他の囚人も動き出している。 撤退する。
大ダコの虹彩が開き、噛み締め過ぎた顎板が砕け散る。
しかし、ジクサクAlは言葉の一つも発する事無くそれに従った。
無論、去り際の目には見たこともないような色が浮かんでいたが。
ジクサクAlが排水口に姿を消して数秒後、ようやくゼロが息を吐いた。
問題は山積みだ。
しかしひとまずは生存を喜ぶとしようか。
『例えば、天道教会では〜』
『ちょっと待て、さっきあったことふまえて何事もなく講釈し続けるつもりかよ。』
ガンガゼが右手を拾い装着し直す。
『少なくとも時間は有限だよ。ああ、そういえば同化の際服や小物は体と同じ認識なのかな?』
作業台に座ったエリシャが頷く。
『そういやそうかも。このボンベだってタコに弾かれなかったし。』
『それでいて物質としての性質は変わらないと…私の理解を超えている。しかし、無知なる者には烏滸がましいことだが、あえて助言しよう。君、縛られることなかれよ。色眼鏡をずっと磨いておきたまえ。丹念に歪めて世界を観察したまえ。歪めた法則の押し付けこそが『能力』だよ。』
『はぁ…よくわからないけど、自分に都合よく考えていいってことで?んじゃこの世に窃盗罪なんてものは無くてー……やだなぁ、冗談ですよ天使様。そんな睨まないで。』
声色からみて、言い訳の真偽は怪しいものである。
まとめると、ゼロは己を正しく認識し、エリシャはより認識を歪めろ、とのことらしい。
(正反対のようでいてどちらも『自分』の確立をしろという話か。…考えることが多すぎるな。)
頭によぎる標的・追手・文書…その全てが思考をかき乱す。
なんにせよ、一つずつ片付けていく他無いのだが。
下を向くゼロの耳に底のすり減った革靴の音が届く。
向こうもひと段落ついたらしい。
『何か騒がしいと思ったら、襲撃されてたのか。まぁ無事で何よりだ。』
『楽勝だったよん。オッちゃん達は…うん、お疲れ。』
エリシャがスッと顔を逸らす。
帰還した山威と燐の髪はメタリックな赤色に輝き、体の周囲には焦げ臭い小麦色の火花が絶え間無く散っていた。
『何肩震わせてんだ、人の目を見て喋れ、コラ。』
普段よりもっと疲れきった顔の山威がすごむも、やたら声が高くなっている故に滑稽レベルが増すばかりである。
『えらい目にあったわよ。私あの人きらい。』
『ご苦労さんだな。で、ヤマイはなんか掴めたのか?』
ヤマイの声が一オクターブ高くなる。
『それだそれっ!アドバイザーがあんなのなら始めに言っておけ!たまげたなんて言葉じゃ足りないぞっ。八尺メリーが生きてるなんてな!』
ゼロとエリシャが目を見開く。
その名はかつて、個人として類を見ない大規模な無差別魔法災害を引き起こした、悪名高い魔法使いのものだった。
全魔連の部隊と交戦のうえ死亡したというのが世間での常識だが、真相は違ったらしい。
『おお〜有名人。これブン屋に売ったらめちゃふんだくれるんじゃね!』
山威が悪巧みを始めたエリシャの肩を掴む。
『絶対にやめとけ。あれは世の中を可燃か不燃かでしか見てない。マジで関わっちゃいけないタイプだぞ。』
ただならぬ様子にエリシャは思わず何度も頷く。
『よし、マジにやるなよ。マジに。で、成果の方だが…無いことはない、といったところだな。あまりに魔法のスタイルが違うもんで、応用は難しそうだ。やれるだけ考えてはみる。そちらは?』
『ぼちぼちだな。だが、俺もエリシャも伸びしろがあるってのはわかった。』
山威が頷く。
『収穫はあったようで何より。なら早いとこずらかろう。撃退したとはいえまた追手が来るかもしれないし、看守達が俺達に勘づいてもいい頃合いだ。』
ふとガンガゼがゼロの手に何かを置く。
無機質なオールドタイプの通信機だった。
『持っていきたまえ。空間穴間直通方式ゆえ、世界中どこでも私と通話可能だ。距離に応じて、少々エネルギーは食うけどもね。』
『感謝する…しかし、よくこんなものを作れる環境があるな。セキュリティどうなってんだ。』
素晴らしく便利、しかし天使的には地界の治安に一抹の不安を覚えるアイテムだった。
『今代の所長は反省と自立がモットーだ。そしていみじく性格が悪い。特に受刑囚が正当でない理由で死ぬことを好まない。』
『?………その割に追手に狙われたあんたを助けにも来なかったが…』
『大方、カタミチ屋から適当な恩赦で釈放するとでも言われたのだろう。刑を終えた者がどうなろうと、所長はさして興味も無いはず。』
不気味な体制という他なかった。
これほどの環境が与えられながら、そこには情の片鱗すら無く、臓腑に蓄積する遅効性の毒を盛られているかのような、汗ばむ気配が一際強く主張している。
襲撃を退けてみれば、その蔓延する気配がくっきりと分かるようになった。
袋に包んだまま腐らせた、リンゴのような雰囲気だった。
『早く出よう。』
ゼロの言葉に3人が頷く。
『では、私は追い出されぬうちに窃盗事件でも起こして再び投獄されることとしよう。ここの懲罰房ほど安全な場所は無い。君達の大言が生きてるうちに叶うことを願うよ。』
軽く手を振るガンガゼに見送られ、独房の戸を開ける。
一連の騒動で身を起こした囚人達は、すでに彼等への興味を失っていた。
『さぁプリズンブレイクだわ!どっから出る?通気口?明かり取り窓?派手に壁ぶち壊す⁉︎』
『気楽すぎるぞリン。ここは世界最高の刑務所、侵入こそ上手くいったからいいが、出るとなったら殊更に厳しいはず。』
『もっかい死んだフリってのはどうよ。それかオッちゃんの腕輪に全員入って、自分がそれつけて壁を通り抜けるとか。』
『中々冴えてるな。餐禍ちゃんには少し我慢してもらうとして、少し狭いが3人…2.5人ならなんとか入るだろう。』
『オッちゃん今私のこと0.5でカウントした?毎晩覗き込むわよ、寝てる間ずっと。』
『こういうのはいかがかな。堂々と胸を張って、正面から出るというのは。』
一行の足が止まる。
エレベーターが開いていた。
その中には数人の看守、そして天井からぶら下がり揺れるマナナンガルが手を振っていた。
行きよりずっと見窄らしくなった船を嘆きつつ、一行は港へ向かう。
勿論出発地とは別だ。
同じ場所に寄るのは今後も避けるべきだろう。
『まさか客人として出られるとは思わなかったな…確かに元々救助された立場ではあるけどよ…』
少なくとも4人、職員を昏倒させているとは思えない待遇だった。
マナナンガルが陶器を落としたように笑う。
『昔の縁から手助けが入ってね!ひとえにマイ・人徳!全く忌々しいことだよねぇ。』
侵入者を賓客に変えるレベルの『縁』がなんなのか、その詮索をゼロはグッと飲み込んだ。
危険な気配に満ちており、何よりマナナンガル本人にとって好ましいモノではなさそう、と察してのことだった。
おそらく、現在進行形で悪縁を抱えるゼロにも痛い話だろう。
『そういや、ドクターに聞きそびれたんだけど、タコってあんなあったかいもんなの?』
エリシャがなんとなく気まずい沈黙を破った。
マナナンガルが答える。
『ハートという意味なら知らないけど、体温という意味なら考えづらいねぇ。既知の殆どの種は体温が、周りの温度で変わるものだよ。』
ジクサクAlは毒が気化するほど急激に体温を上げていた。
それは本来の適温を遥かに外れた、自らの命を縮める行為であるはずだ。
『やっぱり?なんか体内にやたらあったかい場所があったから、そういうものなのかなーって。』
捨て身の戦術…竜から蛸への変化…本来不可能な発声…神経接続…ゼロの脳内では少しずつ点がつながりつつあった。
(考えたくも無いことだが、もしかすると…『そう』なのか?)
ガンガゼは言っていた。
人工能力者は、すべて一定範囲での魔力操作か生体機能の拡張に過ぎない存在であると。
天使ゼロ・ゼロは口を開いた。
幻想と嗤われるだろう、夢想と呆れられもするだろう。
しかし、その可能性に行き当たった時言わずにはいられなかった。
ケッセンQの死からずっと思っていた、天使の生を超えた己の理想を。
『本当にバカな相談をさせてくれ。俺は…』
ひとしきり独りよがりな言葉を聞いた後、3人は言った。
『今更?こっちだって、もうとっくにそうしてやるつもりだけど?』
『どこ行ってやがったクソオジンがよ!』
ギラギラと色を変える大ダコに対し、細身の魔法使いは冷静である。
『姿を見せなかった点に関しては申し訳ない。リカバーのため「天の目」を破壊しに行っていた。』
魔法使いの首に触手が回される。
『り・か・ば・あ?アタシが失敗したって言いたいのかよえぇ⁉︎』
『確かに、信頼を損なう勝手な行動だった。本当に済まない。決して貴方の力を疑ってのことじゃない。』
『口じゃなんとも言えんだよボケヤセギスが。任務が終わったらブチ殺してやる。』
魔法使いスズガモ・フィンカルカヤはため息を吐く。
『神妙に受け入れよう。時に、体は保つのかい。かなりの損傷に見えるが。』
『一丁前にお節介焼いてんじゃねぇよ。確かに、熱で大半の蛋白質はイカれてるけどなっ!』
大ダコがサンゴ礁の中に姿を消す。
数分後、海面から鱗に覆われた長い首が伸び、クレストの並んだ背中が飛沫を上げた。
『天の目が無いってことはぁ、もうあの子離れ不全野郎は邪魔しに来ないんでしょー?じゃあさっさと全員ブチ殺して、山でも焼いてかーえろっと!』
ひとしきり笑った後、竜は海面から勢いよく飛び立ち、船を追いはじめた。
後には爆撃を受けたような粉々のサンゴだけが残されていた。
ここはブルー・ブラッド・ケージ特別重装備刑務所、歴史から厭われた極悪人が、安らかに穏やかに己の罪を雪ぎ魂の尊厳を取り戻すための特別更生施設である。
過去200年間における脱獄者0人、自殺0件、内部での殺人12件、脱獄未遂248件。
不慮の事故に強い医療チームや無縁仏にも嬉しい共同墓所完備。
聳え立つ緑の塔は今日も世界が泰平たる証明。
B.B.C一同、貴方とご縁のありませんことを、心よりお祈り申し上げます。
創世記の章完結、閑話挟んで次章ですわよ。
登場人物
酔醒の店長
この世のどこにも属さない場所を作り、何故か建てたバーで来ない客を待っている変人。
隠れた名店感を出そうとしたら加減がわからなくなった、とは本人の談。
魔人ムカゴ
ネクロの友達。
つまりロクな奴じゃない。
クイーン
砕天獣の章で侵入者にしばかれた被害者。
この頃は下っぱで、手っ取り早く成果を上げ好き勝手するために魔人と接触した。
ヴァニラを鋭意製作中だった。
パラミツ
クイーンの作品。
この頃はプロトタイプであり、性能もそこそこ。
マナナンガル
華彩流の章でジュラ一行が遭遇した変人トレジャーハンター。
自慢の宴会芸は人体切断マジック。
ガンガゼ
黒子鷺の元代表。
餐禍の製造やサイボーグ技術の開発に携わった。
体に色々仕込み過ぎて、たまに知らない機能がオンになって困る。
所長
邪神顕現事件より200年B.B.Cを治めるやり手の大ボス。
噂では誰も姿を見たことがないらしい。
用語集
酔醒
世界の隙間とでも呼ぶべき空間にある酒場。
現在は10人程(うち4人は身内)が存在を認知しており、後ろ暗い話をする時に利用している。
人が来ないあまりつまみのストックが無いため、注文が入ってから店長が着替えて買いに行く。
ファミン
死そのものを相手に与える魔法。
通常は自らのモラルや善性が邪魔をして効果は発動しないが、もし使えば対象は魂が消滅して輪廻の輪を外れることになる。
全魔連指定使用禁止魔法の一つ。
捕蝶結界
全魔連が世界中に展開、管理している大規模結界。
特定の魔法に反応するそのシンプルな機能は、闇深き魔法の蔓延に対する特効である。
B.B.C(ブルー・ブラッド・ケージ島)
まだ利用価値のある世界でもトップクラスの悪党を閉じ込める監獄の島。
島から出る看守と死体以外は警告無しの処刑が認められている。
駆天馬車
馬車本体と蹄鉄に浮遊の魔法をかけることで、空の交通手段とした乗り物。
当然、専用に訓練を受けた馬もセットで必要。
匪像眼
天使や死神が持つ、魂の清らかさを可視化する器官。
天使は網膜の一部に由来する自前の器官だが、死神のそれは就任時に閻魔大王より授けられる。
タテジマザラテダコ
やや低水温のサンゴ礁を好む大型の肉食軟体動物。
1000年以上をかけて形成された礁を特に好み、しばしば居着いた先で頂点捕食者となる。
その毒は脊椎動物に高い効果を発揮し、中型の海竜がよく餌食になる。
天の目
高位の天使が使う簡易の監視精霊と己の意識を接続する術式。
ある程度離れた距離から見守ることが可能。
ずっと使ってると耐え難い疲労に苛まれる。