魔剣王正伝   作:プルプルマン

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天高く馬肥ゆる秋とも申しますが、終わって仕舞えば痩せ細るばかりですね。


砕天獣の章〜Over The Dimension〜
【フロン】


『昨日は色々と凄いモン見たなぁ…まだ自分が生きてる気がしないぜ。』

未だ鮮明に焼き付いたこの世における最強(暫定)との出会い。

脳味噌とは未知のものにであったとき、それを拒むか理解しようとしてみるかの2択を行なっているが、今回の場合は間違いなく前者の対応をすべきだろう。

なんというか…そもそもアレを常識に当てはめて考えることそれ自体が間違っている気がしてならない。

一陣の風が通り過ぎた置き土産に獣避けの青錆びたベルをカランカランと鳴らし、彼はその甲高い音で自身の手が止まっていることに気がついた。

『おっと…ちゃんと頼まれた分はやっとかないとな。』

誇り高き魔界の王族ジュラ・パズズは本日、その悪魔生において初めて古よりの麦藁帽子に手ぬぐいスタイルで鍬を振り下ろしていた。

というのも、二軒隣のクエーツクエーツさんから畑仕事を手伝ってほしいと頼まれたイオンが勝手に引き受けてしまっていたのだ。

そして、いつのまにか派遣されるのはジュラになっていた。

何を言ってるのかわからねぇと思うが、俺も何をされたかわからねぇ。

とはいえ既に頼まれた仕事、完璧に綺麗にこなさなければ悪魔が廃るというものだ。

それに、イオンから聞いた話によるとクエーツクエーツさんは怒るととんでもなく怖いらしい。

曰く、イオンが7歳の頃何が面白かったのかイタズラで糊をクエーツクエーツ家の外壁に塗りたくったことがあり、それが発覚したときにはこの世のあらゆる怒りを集めたような顔をしていたらしい。

怒髪天を貫き宇宙を両断するといった様子だったらしいが、あまり仰々しく言われると逆にどんな顔なのか気になってくるから困る。

さっき話した限りでは至って普通のオジサンに見えたが…

キケンな考え事をしつつ鍬を振るっていたジュラであったが、ふと何者かの気配を感じてそちらに目を向ける。

そこには、木陰で畑を囲う柵に寄りかかってニヤニヤと彼を見物しているマオマオがいた。

『よう、精が出るな。』

『…なんでここにいるんだ?』

『俺が存在する理由か?悪いが、そんなに哲学方面の造詣は深くないんでな、すぐには答えられん。』

『そういうことじゃないって…あんた、飯食ったらどっかいくんじゃなかったのかよ。』

マオマオは腕から下げた袋の中からサンドイッチを取り出し、頬張る。

『そんなこと誰が言った?俺はこの村が少々気にいってな。しばらく滞在することに決めた。まぁ御近所付き合いを1つよろしく頼もうか。』

これは、村に強力なガードマンがついたと見るべきなのか、それともいつ作動するかわからない大規模破壊魔法をかけられたと見るべきか…

『ああ…そうそう、今日は忠告もしてやろう思ってな。感謝しろよ?お前が気に入ったからわざわざ足を運んでるんだからな。』

サンドイッチのベーコンを噛み切り損ねて引っ張り出したマオマオは少し落ち込んでいるようにも見える。

『あんたが忠告って…随分仰々しいな。月でも落ちてくるのか?』

『いや、その程度なら俺が1人でどうとでもできる。単純に言おうか。お前、今日ここで死ぬかもな?』

『…は?』

マオマオはそう言うとスッとジュラの背後を指差した。

釣られて振り返った先にはただ畑が広がり、その向こうには木立が見えているだけの日常しかない。

となると…

ハラリハラリと羽根が落ちてくる。

それは空を統べる鷹のそれよりも大きく、闇を呼ぶ烏のそれよりも黒かった。

『上かッッ!』

上空から緩やかに舞い降りる十字の影、そこにいたのは黒い羽根、黒い髪のあまりらしくない風貌をした男の「天使」であった。

畑に降り立ったその男は2.3歩歩いた後、おもむろにジュラに話しかけてくる。

『やっぱりさぁ、サンダルで畑を彷徨くと土やらなにやらが妙なとこに入り込んでなんとも言いにくい気分になるよな…いくら制服みたいなものとはいえ、地上に来るときぐらい私服を着て来るべきだったかもな。』

(これは…どう答えるのが正解だ?)

手遅れかもしれないが、ここは気づかなかったフリをして無視を決め込むべきだろうか?

『どうした?言葉は伝わっているはずだ。使っている言語は魔界でもココでも天界でもおおよそ変わらない。尤も、どことも知れぬ異世界から流れてきたならわからないが、お前はそうでもないだろ?』

やはり用があるのはジュラらしい、モテ過ぎるのも考えものである。

『なんだ、俺が悪魔だってこと気づいてたのかよ…天使の目は欺けないのか?』

『欺きたけりゃもうちょいと隠す努力をするんだな、その角なんか知ってるヤツから見れば表札ぶら下げて歩いているようなものだ。自分は物分かりの悪い王族のボンボンですってな。』

最近、この村にもすっかり馴染みつつありほとんど意識していなかった。

悪魔という種族において一番遺伝しやすく、わかりやすい形質は角の色・形状である。

よって目の前の天使のような少し知識のあるものが見れば、ものにもよるだろうがそれだけで家名を言い当てるようなことも可能であり、まさに首から表札をぶら下げているような状態なのだ。

『ぐぬぬ…忘れてたぜ。平和ボケも考えものだな。』

『ああ、そうだな。次からは気をつけるようにするんだな。悪魔の王族がカツアゲに遭いました、なんて知れ渡れば延々酒場の語り草にされるだろうよ。ところで……なんでその悪魔がここにいるんだ?』

気のせいだろうか、辺りに漂う空気が少し冷え込んだ気がする。

『い…いや〜そんな哲学的なこと聞かれてもな…』

『…言っておくが、俺はてめーの存在意義みたいなどうでもいいことを聞いてるわけじゃあない。なんでてめーのような不吉極まりない悪魔がこの村にいるのかってことだ。』

『失礼言ってくれるぜ、それを教えてどーなるんだよ。お前には関係ないだろ。』

『いーや、大いにある。俺の名はゼロ、この村において「守護天使」として祀られる存在だからな。』

ああ、何ということか。確かにこの村の中心にある広間には古い苔むした天使の像があった。

10日ほど前に供物の絶えないそれを見て、悪魔である自分が天使に会わないことを祈ったジュラであったが、どうやら世界はその願いを聞き入れてはくれなかったらしい。

『いやー驚いたぜ、数ヶ月ぶりに村を見に来て見れば、見たこともない悪魔が住んでるんだからな。そりゃあ心底驚くし、柄にもなく焦ったもんだ。…なあ、お前わかってんのか?悪魔であるお前がこの場所に滞在する意味を、いずれもたらされる惨禍を。』

『どういう意味だ?それに、俺はこの村で暴れるつもりなんてないぞ?』

『フン、世界の壁を越えてくるならせめてもう少し一般常識を勉強してからくるんだな。ボンボンが。』

今度は明確に周囲の気温が低下したことがわかる。

先程まで存在すらしていなかった冷気が肌を撫で、体がブルリと震える。

さらにはこれからもっと暑さを増していく季節で、ギラつく太陽が照り付けているにも関わらず、周囲の土には霜が降り始めていた。

異様な周囲の状況に緊張感が高まるジュラであったが、対するゼロは未だ落ち着いた様子である。

『さて、あんまし長く話すこともないだろ。噂好きのご婦人方が井戸端談義をしてるわけでもあるまいし。取り敢えず……この村から消えろ、魔の眷族。』

既に周囲の土の下には霜柱ができており、一歩下がったジュラの足元がザクザクと音をたてた。

ゼロは右手を前に突き出し、掌を下に向けて固定する。

その掌から下へ下へと伸びてゆく細い氷の棘、ゼロは自らの手から氷柱を作り出していた。

次の瞬間、ゼロは作り上げたそれをこちらに向け、押し出すような構えをとる。

当然、それだけで済むはずもなくジュラに向けて氷柱が猛スピードで放たれ、白い靄を噴射しながら襲い掛かってきた。

『ッ…ヤバいッ!【フロン】‼️』

咄嗟に唱えた呪文が効果を発し、空中から炎の塊が出現、同時に迫りくる氷柱とぶつかり合い、猛烈な水煙と音を立てて打ち消し合う。

大量の水煙に2人は思わず顔を覆う。

『ぐ…危ねぇ!魔力も使わず氷を…まさかッ!』

『察しがいいな、お前の予想通り俺は冷気を自在に操る能力を持っている。にしても、今のが魔界の魔法か…呪文も効果も地上なんかのとさほど変わらないんだな…ちょいと意外だ。そういやお前の名前をまだ聞いてなかったな、死ぬ前に名乗っておけ!』

辺り一面は霜に覆われ、柵脇の飼馬桶に残された水は表面がうっすらと凍り付いている。

マオマオはとっくのとうにどこかへと姿を消してしまっていたようだ。

まぁ大方冷めたサンドイッチを食べるのが嫌なだけだろうが…

戦闘は避けられないことを察したジュラが腹を括り、ゼロを見据える。

誰も手を差し伸べてくれそうな様子はないし、第一に降りかかる災難から逃げ回ってばかりでは魔界への帰還など空の星より遠い話だろう。

『俺は現魔剣王カンブロリウム・パズズの孫にしてその栄誉ある王位を継ぐ(予定)者!ジュラ・パズズだ!覚えておけ!天界のカラスヤロー‼︎』

手の内に魔剣を出現させ、その柄を握りしめる。

凍り付いた地面を踏み締め、全力をもってゼロの懐に飛び込み、脳天に向けて剣を振り下ろした。

なんとも耳障りな音が響き渡り、ゼロが大きく後退し木の柵を突き破ってようやく停止する。

『ふぅ…中々に洗練された剣術だ。膂力も十分…流石魔剣王と呼ばれる一族だけのことはある。』

賞賛の言葉を口にしたものの、ゼロはその攻撃を頑丈な氷柱で手堅く防御していた。

加えて、氷柱ゆえに与えたヒビも、削れた結晶も、なんなら砕け散った時でさえもいとも簡単に修復できるだろう。

何よりこの天使、先程の防御を見るに相当の手練れと見える。

恐らく、いや確実にジュラより実戦を経験してきているのだろう。

となるといよいよ勝ち目は薄いように思えてならない。

弱気は負けに繋がるという話もあるが、既に気持ちを切り替えてどうにかなる次元ではない気がするのは悲観し過ぎだろうか?

だが、がむしゃらにジュラは攻撃を繰り返す。

別に自棄になったとかそういう訳ではなく、ただ単純に防御に徹した相手から攻撃が来なければ、少なくともその間は負けないだろうという考えからである。

しかし、勝ちを捨てたそれは甘い考えだと言わんばかりに剣撃を軽々と躱したゼロが一瞬の隙をつき、ジュラの鳩尾を蹴り飛ばした。

『ぐっ…いってぇ…』

地面を転がり、すぐに立ちあがろうとするものの足が震える、どうやらかなりのクリーンヒットだったらしい。

ジュラが剣を支えになんとか立ち上がったとき、ゼロは既に空へと舞い上がっていた。

『筋は悪くない。が、経験が足りてないらしいな。俺を木に吊るした小枝か何かだと思ってるのか?…もう決めるか、村民が来ちまう。』

ゼロが右手を天に向け冷気を収束させ、その黒い翼からは氷柱が無数に伸びて行く。

『安心しな、冷凍してどっかの氷河に埋めてやるだけだ。運が良ければ数万年後には氷から出られるさ、生きてるか死んでるかは別として…な。…白熊ッッ!』

ゼロの右手が巨大な氷に覆われ、屈強な獣のそれを模した形を成す。

(…ヤバいな、アレをまともに受けたら本当に永久凍結されかねない…かくなる上は…残った魔力を搾り出すッッ)

『【フロン・ブレディオ】コイツに我が命、預ける!』

胸の前に立てた魔剣が紅く染まり、先端から炎が吹き出した。

次の瞬間には刀身全てに炎が燃え広がり、数メートルほどにまで膨れ上がった火柱はゼロの氷に対抗するのに充分な大きさまで成長していた。

『チッ…俺は暑いのが嫌いなんだよッ!』

ジュラの前方に氷柱が作り出されるも、燃え上がる剣を振るえばジュッと音を立ててただの水へと変化する。

『そんなもんじゃ俺は倒せねーぞ!お前が降りてきやがれ、カラスヤロー!』

『カラスカラスとうるせーなぁ!上等だ、このコウモリヤロー!』

ジュラの誘いに乗ったゼロは大きく腕を振りかぶり、飢えた隼がそうするように地上へ向けて突撃する。

瞬く間に2人の距離は縮まり、白熊の爪と燃える魔剣は凄まじいエネルギーを発して白い湯気を吹き散らしながら激突したのだった。

『うるるるぐぁぁあああ‼︎吹っ飛べコノヤローォォォ‼︎』

『なっ…この火力ッ…しくじった、勝負をあせ…』

奇妙な話だがこの日、幸運を司る女神は悪魔であるジュラに微笑んだようだ。

まず1つにゼロが素直に誘いに乗ってきたこと、空を飛べないジュラはゼロが降りてこなければ攻撃のしようがなく、敗色は濃厚であった。

次に現在暖かい季節で且つ本日の天気が晴天だったこと、この世で最も大きな炎の熱に手厚い援護を受けてゼロの冷気に対応できたことが大きい。

仮にもっと曇天、あるいは寒冷な季節だったならば…勝敗は逆転していたかも知れない。

2つの幸運が重なり、炎の剣はゼロの白熊を打ち破ったのであった。

 

 

 

『ん…俺は…』

どうもぶつかり合いのショックで気絶していたらしい。

目を覚ましたジュラが辺りを見回すとそこにはもう凍り付いた土も無く、吐息が白くなったりもしていない。

そして、天使ゼロの姿も見当たらなかった。

しかし、あの戦闘は決して夢などではないことをかじかんだ指先と腹部に残る痛みが物語っている。

『…取り敢えず帰るか。さっきのことはその後で考えよ…』

大方の仕事は終わっていたこともあり、鍬を肩に担いで柵を飛び越え家路に着く、なお彼が同じく気絶して近くの木に引っかかっていたゼロに気づくことはなかった。

 

クエーツクエーツ家の納屋に鍬を返し、お礼にともらった林檎をかじりつつアイシクル家に帰ると、いつも通り中はギャーギャーと騒がしい。

ただ、今日ばかりはいつもの喧騒とは違うようで…

『おじいちゃんのわからず屋‼︎ちょっとぐらい孫娘が広い世界を見に行ってもいいじゃない‼︎それに、飛行船で空を行くだけなんだからそんなに心配いらないって…』

『そうやって油断した冒険狂いが過去何人行方をくらましたことか…知らんわけじゃないじゃろ!うっかり屋で世間の常識も危ういお前が世界を巡る旅など…言語道断!絶対に許せん!獰猛な生物に襲撃されたらどうする?どことも知れない秘境で遭難したらどうする?悪党に騙されたらどうする?』

イオンは祖父の剣幕に圧倒され、困ったように辺りを見回す。

その視線の先には丁度帰宅したジュラの姿があった。

目が合った彼女は何かロクでもないことを思い付いたようで、ニヤリと悪い顔をしている。

…モーレツに嫌な予感がするのは気のせいだろうか?気のせいであってくれ。

『それじゃあおじいちゃん、1人仲間を連れて行くよ。ボディーガード兼お料理係兼その他諸々として、つよ〜いこのジュラをね!』

悲しいかな、彼の嫌な予感は的中してしまったようだ。

サクタイも普段は細い目を丸くして驚いている。

『それならいいでしょ?強いし私よりしっかり者だし、何より美味しい料理作ってくれるし。』

これは不味い、イオンが押し切る前に本人抜きでアレコレ決めようとしている事に抗議しなくては。

『まてまて、俺は別にお前に連れ回されての旅なんてしたくないぜ。』

『ああ、なんてこと!助けられた恩をもう忘れるなんて!こんなに冷たい人だとは思わなかったワ、ヨヨヨ…』

(白々しい演技しやがって…だが、確かに恩があることは事実だ。悪魔の性質上恩人の頼みを無碍にもできない。それに、俺自身いつまでも穏やかな村には居られない。そう考えると悪い話でもないか?)

『と、兎に角、そのことはまた明日にでも考えようかの…今日はもう寝なさい。』

ひとまずはサクタイがその場を収め、話は翌日へと持ち越されることとなった。

テンションの高いイオンを横目に見ながらどうしたものか思考を巡らせる。

(さて、ホントにどうしたものかな…)

付け加えておくと、この時既にジュラは自身のベッドを作ってもらい、物置を借りて寝泊まりしていた。

いつまでも家人の寝床を借りるのは図々しいが過ぎるというものだ。

 

翌日、まだ深夜と言える時間から部屋のドアが勢いよく開けられ、夢現でまどろんでいたジュラは、ビクンと震えて目を覚ました。

『な、なんだ⁉︎地震?雷?火事?じいちゃん?』

幸い、そのどれでもなく入ってきたのはイオンであった。

『おっ、ジュラも起きてた?奇遇だね〜』

『おめーに起こされたんだよ。後、人の部屋に入る時にはノックしろよな…これでもう5回はおんなじこと言ってるぜ?』

『ああ、ゴメンゴメン…まあ、それはちょっと置いといて、今から森へ行くよ!ほら、着替えて着替えて…』

『ちょ…ちょっと待てよ、話が急すぎて何が何だかわからんぜ…』

イオンはポケットから丸めた貼り紙を取り出し、ジュラの目の前でパッと開く。

『今日配られてたチラシでね、西の森で大きな獣の影を見た人がいたんだってさ。だからコイツを討伐してジュラがボディーガードとして十分強いって証明しようと思ったわけよ!』

『そんなのほっとけよ…こーゆー手合には関わらないのがお互いにとって一番いいんだしさぁ。ほら、なんつーの?野生動物と人間の共存共栄がウンタラカンタラとか言うだろ?そもそも俺はお前のお守りをする気は…』

『クエーツクエーツさんの豚が3頭いなくなったんだって。』

急に目が冴えてきた。

『近場に誰も見たこと無い大きな足跡が残っててさ、十中八九この獣の仕業だろうってことになってるの。こんなのが彷徨いてたらしばらく誰も出歩けないし、村全体が凍り付いたみたいに動かなくなっちゃう…だから、お願い。謎の獣を倒して。そんでもってあわよくばおじいちゃんに旅の許可貰えたらいいかなーって。』

イオンは最後に茶化しているものの、途中の話をしているときは真剣そのものという目をしていた。

彼女も村のことは心配して不安を抱えているのだ、既に豚が姿を消したということは遠からず同じようなサイズの人間にも被害が及ぶ可能性も十分にあるのだから。

そんな目で頼み込まれて突っぱねるなんてことは本日2回目の悪魔が廃るというやつだ。

『…一言多いんだよ。ちったぁ自分の欲望ぐらい隠しやがれってんだ。いいぜ、これ以上そいつがなんかする前に仕留めるか!』

『ありがと、ジュラ!よし、早速西の森へ行くぞー!』

ジュラの手を引いてもう飛び出そうとするイオン、その勢いでジュラはベッドから転げ落ち、強めに背中を打つハメになった。

『だ、大丈夫?』

『お前…せっかちが過ぎるぜ…後、せめて着替えさせてくれ…』

結局、出発はその10分後となったのだった。




個人的に大人と子供を分ける境界の一つとして、積もった雪を喜ぶか疎ましく思うかということが挙げられると思います。
子供の頃、何も考えず遊び道具にしていた雪がいつのまにか嫌々スコップで押し退けるだけの存在になる…そういうことありませんか?
因みに私は後者です。
なので、まだまだガキンチョというわけですね、少なくとも心は。

登場人物

クエーツクエーツさん
本文中の通り、アイシクル家の二軒隣に住んでいるおじさん。
彼が怒ると鬼の形相となり、天地を震わせ、恐るべき力を発揮し、荒ぶる神の如き所業を行う、と村の子供たちの間でまことしやかに噂となっているが、本人は否定している。
手塩にかけて育てた豚を攫われて結構ショック。

ゼロ
天界におわする神よりこのトトルス村の守護を命ぜられた天使。
常に村にいるわけではなく、普段は2週間おきぐらいの感覚で村の様子を確認しにくる限りである。
また、その際に自身の像に供物があると、こっそり回収して食べたり屋根が壊れた家があればちょっとした修理をしていくこともあるとか。
冷気を自在に操る能力を持ち、同じ部署で働く天使の内では負け知らずであった。
今回久々の敗北でジュラに対抗意識を燃やしているとかいないとか…
羽根が黒いのは生まれつき、加えて辛いものを食べるとしばらく能力が使えなくなるという難儀な男である。
最近、上司が神殺しにより堕天してその穴埋めに追われていたため、村を視察できていなかった。

用語集

天使
天界人の中でも、神々に忠義を誓い、その命に従って行動する者たち。
知識、戦闘能力共に秀でており、中でも大天使と呼ばれる上位層は色々と別格らしい。
また、神の命に背き、天界を追われた者を堕天使と呼ぶとか。

守護天使
町や村などの集団居住地を守る天使。
基本的にはその名が刻まれた天使像が集落の中心に置かれている。

フロン
呪文の一種、例え燃料が無くても炎を発生させることができる。
形状、火力、使い方は使い手次第。

ブレディオ
呪文の一種、自身の剣になんらかの魔法効果を与える際に付け加えられる。
例えば、フロン・ブレディオで成功すれば剣が炎を纏うようになる。
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