魔剣王正伝   作:プルプルマン

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雨が降る中夜の海に一人でいると死にかけるよ
気をつけようね!


始まり

尋問というほど息苦しさはなく、詰問というほど厳しくはない、ただやんわりと穏やかに自分達の非と思考の浅はかさを責められる。

なぜ誰にも言わず怪物退治になんてでたか?そんなこと…

『それはっ、クエ…』

『ジュラ君には聞いていないんだ。主導したのはイオンだろう?言ってみなさい。』

厳しい笑顔を向けられたイオンはもう脳内がパニック状態なのだろう。

視線があっちやこっちに忙しなく動いている。

『そ…それは…クエーツクエーツさんの豚が食べられたって聞いて、村の皆を守るために…』

『それもまた立派な理由じゃが、嘘はいけないのう。おじいちゃんが聞きたいのは『イオンの』本音じゃよ?』

それっぽい言い訳を食い気味に否定されてどんどんイオンが縮こまっていく。

『…ジュラが、旅の護衛として十分な力を持ってるって証拠が欲しくて…』

『その結果がジュラ君に大怪我させて帰って来た今じゃあ世話ないのう。もし、このカエルよりもずっと恐ろしい相手だったらどうするつもりだったのかの?二人とも命を落としていたかもしれんぞ?』

『それは…その、ちゃんと逃げるよ!それに…』

またもやサクタイが食い気味に否定する。

『違うのう…弱者を逃すかどうかは相手次第、最後すら自分では決められず惨い結果になるのは見えておる。…仮に、お前がいうように旅にでることになればこんな危険は山ほどあるのう。そんな時、イオンや、どうするんじゃ?今のままで自分を…ひいては同行者を守れるのかの?』

自分よりもずっと小さい老人の一言一句の重圧がその場を支配していることにジュラは驚きを隠せない。

言葉を出そうとしても声が出ない。

俯いたイオンの顔は見えなかったが、手に持ったスープ皿が震え中身が波打っているのがわかる。

すぐそばで騒いでいるはずの村人たちの声がやたらと遠くに聞こえる。

たとえ地獄だってこんなに重たい空気は湛えていないだろう。

 

…どれほどの時間が経っただろうか、ようやくイオンが口を開いた。

『私は、立ち向かう…』

『ほほう、どうするつもりかの?お前はもちろん仮にジュラ君を連れて行くとして、彼の力にも限界は必ずあるぞ?』

『助けてもらう…誰かの知恵を、力を貸してもらうッ!』

『甘い…いや、最早論外。打算抜きで助けてくれる者がどれほど希少なのか知っておるかの?誰も彼もが皆この村の人々のようなお人よしではないぞ。騙す者、傷つける者、お前の会ったことも無いような外道が蔓延るのが世界じゃ。』

『確かに私は世界の汚い面なんて見たことない…でも、世界はそれだけじゃないよね?もしそうなら私が生まれる前に世界は滅亡してるはず。きっと光はある!』

『推測でものを言うのはやめなさい。論より証拠という言葉もある、うだうだ言っているよりお前が旅に出ても大丈夫な証拠を見せなさい。』

『じゃあ証拠集めに行ってくるから旅に出させて!』

『言い逃れじみたことをするんじゃないわい!』

両者しばしの沈黙、サクタイの方は熱くなり過ぎたのか息切れしたらしい。

痛いほど長い沈黙の時間が過ぎ、再びサクタイが口を開いた。

『世界は、お前の想像よりずっと優しくないかもしれんぞ…本当に…覚悟はあるんじゃな?』

『ある』

『旅を後悔したりはしないかの?』

『絶対に。私の選んだ道だもん、後悔は私自身への侮辱だよ。』

『第一に自分の命、これを徹底してくれるかの?』

『ごめん、私にだって見逃せないことはあるよ。でも、それ以外ではそうする。約束する。』

彼女の瞳が底なしの落とし穴の様に艶めいていた。

祖父は知っている、いつだって『そういう目』をした彼女は何をしようと止まることは無かった。

たとえ、どれほどの障害が立ちはだかっても自らの意思を成すだろう。

そういう目だった。

サクタイはため息を吐き、小さな体がより小さく見えるほど肩を落とした。

『そこまで決意が硬いならワシはもう何も言えん…いつの間にか…いや、やめておこう。今日は宴じゃ、出発の準備は明日からにしなさい。』

『………へ?ホントに、いいの?』

『うむ、自分の肌ですべてを感じてくるといい。ワシだって誰だって、昔は冒険に心躍っていたもんじゃ。さ、久々に呑むかのう。』

宴の輪に入っていくサクタイの背中をぽかんと眺めていたイオンだったが、その後すぐ我に帰りオーバーリアクションで跳ねて喜んだ。

『〜〜っぃいやったぁぁぁ〜〜〜‼️早速工具積み込まなきゃ!あ、それとも食糧が先かな?勿論本とかトランプも重要だよね〜ってそりゃピクニックか。あそうだ、着替えとか多めに積んだほうがいいのかな?洗濯がいつできるかとかわかんないし。水もいっぱいいるだろなぁ、井戸が枯れない程度にもらうとして、あとは、あとは〜』

イオンがお得意の呪文詠唱を始めそうになったその時、2倍速にしたコマネズミのごとき彼女の動きがピタリと止まった。

『あ、そうだ。一番大事なこと言っとかなきゃ。』

改めてジュラとイオンが対面する。

 

『私はイオン・アイシクル!冒険に恋する一人の発明家!でも私には足りない物が多すぎる!料理スキル、掃除スキル、戦闘力…他にもたくさん、だから!ジュラ・パズズ、貴方に私と共に来て欲しい!』

 

普段の彼女とは打って変わり、似つかわしくない真剣な表情を浮かべた少女から目の前に差し出される革手袋をつけた小さな手。

数日前までなら返事を渋っていただろう、しかし森での共闘を経てジュラの返答はもうとっくに決まっていた。

『ああ、そうだな、何より頭のネジが足りてねー。どこで無くしたんだ?まあともかく…よろしくな、イオン。』

握り返された手を見てイオンがいつもの笑顔に戻る。

『んへへ〜やったぜ〜』

どうやったら魔界へ帰ることができるのか、王の器とはどういうものなのか、全てが謎だらけの地界生活でこの少女に光明を見た気がする。

この旅でジュラには何が見えてくるのだろうか?

『さ、宴会に戻ろうぜ。』

『うん!あ、そういやちょっとわかんないかなー、私の部屋にはいっぱいありすぎて…』

『何の話だ?』

『私のネジ。足りてないんでしょ?どこにあるのやら…』

『…やっぱお前トんでるわ。』

『?…飛ぶのはイオンフライヤーだよ?』

それから一晩中祭りの声は止むことがなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、イオンとジュラは早速イオンフライヤーに食料や水、生活用品を積み込む作業に取り掛かっていた。

『んーと、次はそこの緊急用酸素マスク取ってー、ほら、シャッキリしようよ。』

『うるせー、人の一張羅にゲロぶっかけやがって…酒耐性無いなら飲むんじゃねーよちくしょー』

まぁつまりそういうことである。

ちなみにその一張羅はすでに洗って干してあるので安心してほしい。

『そんなことしたの私⁉︎ごめんね。』

『別にいいよもう…気にしねーよ。』

ぼやきつつも速やかに作業を遂行していく。

『えーと、この薪は…ストーブ用だったかな?こっちの一斗缶は何だっけ?』

『料理用の油だな、重いから俺が運んどくよ。』

『助かるねぇ。…ちょっと積み込み過ぎかな?』

朝から随分作業もしているが、まだ積荷リストの四分の1も終わっていない。

『確かに、とりあえずこの「ウルトラスーパーゴキブリとれ〜る君」とやらは要らないかもな。空にゴキブリいないだろうし。』

『燃料消費もバカになんないし、荷物はもっと削ろっか。えーと蓄音機は…重すぎるなぁ、ちょっと小型化するから待ってて。』

『まだ出発までは時間があるからな、あんまり根を詰めるなよ?』

イオンが早速機械をいじり出し、ジュラも少し休憩を入れようと手近の荷物に腰掛けた。

そのままボケーっと空を眺めていると、地面を伝わり足音が聞こえて来る。

『誰だ?』

『俺だ。』

そこにいたのは箱の男、また冷やかしにでも来たのだろうか?

『お前に対しての果し状を預かってきた。俺がメッセンジャーをやるなんざ2度と見られんぞ。感謝しろ。』

『果し状?この忙しい時にクソ迷惑な…』

 

果し状

 

先日は突然喧嘩をふっかけてすまなかった、浅はかにも悪魔という種族のみで善悪を判断してしまった。

まずはそれを謝罪する。

先日のオオキバツノガエル討伐で貴殿が悪辣なる存在ではないことは理解できた。

さて、本題に入るが俺は先日の戦いで貴殿に負けた自分を許すことができないため、自分を鍛えながら道中で度々リベンジマッチを挑むつもりだ。

その際には正面から俺の挑戦を受けられることを願う。

旅の無事を祈っている。

 

P.S シチューは美味かった。ご馳走さん。

 

                        ゼロ・ゼロ

 

『うげぇ、あんときの天使じゃねーか⁉︎俺も厄介なストーカーに目ぇつけられたなぁ…最後とか誤字ってるしよ。』

『誤字ではないな。同じ音が続くのは天使の正式名称だ。まあいいじゃないか、受けてやれば。そうして切磋琢磨し強くなったら二人まとめて俺が喰らう…理想の世界だ。』

『俺たちは家畜かなんかか⁉︎あと、コイツちゃっかりシチュー食ってるし!』

『あ!マオマオだ!ちょっと物運ぶの手伝って〜』

『よかろう。』

もう蓄音機の改造は終わったらしい、そんでもっていつからあの2人は砕けた口調で呼ぶほど親しくなったんだ?

武術の達人のような距離の詰め方をするイオンに若干引きつつも荷物運びを再開する。

まぁ、変なストーカーがついて来ることば確定してしまったが、どうとでもなるだろう…多分。

 

 

その日の作業が終わり、一旦家に戻るイオンとジュラであったがまだまだ眠ってはいられない。

ラジオをちょうど天気予報を放送しているチャンネルに合わせ、方眼紙を取り出したイオンが慣れた手つきで簡素な天気図を書いてゆく。

一人の素人(ジュラ)を放り出して、サクタイ・イオンとなぜかいる箱の男が顔を突き合わせて出発の日時を決めようと相談していた。

『多分ここの低気圧が…』

『でも、ここの観測機はこっちにずれることも…』

『仮にそうなら明日と明後日は雨になるはずだが…』

いつものことながら疑問に思う、自分の知らない分野の話を目の前で展開されるとなぜこんなにも面白くないのだろう?

突っ立って聞いてると頭が痛くなって来るような気さえしてくる。

邪魔にならないよう素人は黙って本でも読んでおくのが関の山だ。

その頃、村の薬屋の倉庫ではカエルの頭が安置されている布をかけられた巨大なガラス瓶がぼんやりと燐光を放ち、1時間程で消えていたが誰一人それに気づく者は居なかった。

 

 

 

それから三週間後…

『荷物のチェック終わった?全部乗ってた?』

『ああ、忘れもんは無いはずだぜ。勿論、お前のコウラムシちゃんぬいぐるみも乗ってたよ。それより、もう設備の点検の方は終わったのか?』

『勿論!システムオールグリーン!アミンも絶好調だよ!』

『マア、任セトケ。テメーラガ二日酔イデ死ニカケテテモ安全運転デキルクライニハさぽーとシテヤルカラヨ。』

いつも変わらない頼もしいお言葉に涙が出そうだ。

さて、後は…

『もう、いいのか?しばらく会えないのにあんな簡単な別れでよ。』

『大丈夫!冒険家の別れに涙は要らないのよ。』

エンジンが起動し、そのエネルギーが船内を震わせる。

テーブルの上のコップがカチャカチャ音を立てているが落ちる心配はなさそうだ。

イオンが舵輪を握り赤いレバーを上に上げた瞬間、イオンフライヤーは浮かび上がり地上に突き立てていた錨代わりの杭を引き上げてゆく。

『さあ、私達の冒険へ〜発進‼︎』

『発進。』

『ハッシン』

『発進だァ‼︎』

ん?

『なぁおい、今声が四人分あったような…』

『ああ、そりゃあ俺だ。』

声のする方に二人が振り向くと、そこにはジュラが討伐し記念にハンティングトロフィーに加工してもらったオオキバツノガエルの大きな顔面がにこやかに喋っていた。

『ぎゃぁぁー‼︎化けて出たー!』

『おおおお、落ち着け、アミン!今度こそ確実に仕留めるッッ!』

『ソコデ騒イデルノハいおんダ。テメーコソ落チ着ケ。』

『まぁまぁ、そうビビってくれるな。それよりもっと見るべき物があるんじゃあないか?例えば窓の外とかな。』

言われてみて初めて気づく、そういえば外から何か聞こえるような…

突然喋りだしたカエルに注意しつつ、窓から身を乗り出して音の元であろう下を見ると…数百人を超えるトトルス村の住人たちがイオンとジュラの旅立ちを祝福し、広場に集まって横断幕を持ち見送っていた。

『いってらっしゃーい、二人とも元気でなー、お土産よろしくー、生水は気をつけろよー、イオンちゃんを頼んだぞー、また顔見せてなー』

手を振る人混みの中には村長も、クエーツクエーツさんも、箱の男も…そして、サクタイの姿もあった。

自分がこの村で過ごした時間は2ヶ月にも満たない、しかしこんなにも自分達のことを思い、わざわざ見送りに来たり激励してくれているという事実に自然と胸が熱くなり、気づけば手を振り返して叫んでいた。

『ありがとう!本当に世話になった!俺はこの村が大好きだぁーーー!』

いや、叫ばずにはいられなかった。

感謝を、敬意を、そして親愛を。

これ以上はないほど幸福な旅立ちだ。

 

『オイ、イイノカ?聞コエテネェわけジャネーダロ。』

『…いいの。私は操縦士だから…手を離しちゃ…』

カチリと小さな音が鳴る。

『自動操縦もーどニ切替エトイタ。コンナ時ノタメノ私ダロ、自分ニ素直ニナレヨ。』

イオンはその言葉を聞くや否や脇目も振らず左の窓に突進し、飛び出しそうな勢いで手を振り始めた。

『マッタク、世話ガ焼ケル。マ、見ナカッタコトニシテヤルカ。』

舵輪に落ちた雫がそっと流れ落ちた。




やっと出発ですよ
ここまで9話もかかるとは予想もしてませんでした
こわいですね

登場人物

化物ズヘッド
なんか喋り出した。

用語集

ウルトラスーパーゴキブリとれ〜る君
その名の通りゴキブリを極めて強力な魅了効果のある餌で誘引し捕縛する粘着式のトラップ。
シロビン製薬の目玉商品。
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