めでたし、めでたし。
聖剣使いの来訪、陰で繰り広げられた神父狩り、コカビエルの襲撃、白龍皇と赤龍帝の初対面。細かく見れば他にも色々ありましたが、最後にゼノヴィアさん、いえ、ゼノヴィア先輩の編入の一件で、無事落着と言えましょう。落着っていうか、不時着って感じですけど。特に彼女の行き当たりばったりな自暴自棄でまさかのグレモリー眷属の下僕悪魔になったあたりが。
「さぁ、やろうか。芸術家」
「ウフフフフ。いいよ、綺麗に可愛く美しい芸術品にしてあげる」
私たちとは同僚になったゼノヴィア先輩ですが、黄彩とのライバル関係のようなナニカは継続しているようで、楽しげに刃を向け合うようになりました。
「喧嘩はいいけど、校舎を壊さない程度にしなさいよ」
「芸術家なら直せるから大丈夫だろう」
「うにゃん? ボクを殺すんじゃなかったのん?」
「……ああ、そうだったな。というわけで先に謝っておこう。多分壊す、すまんな」
「ウフフフ。ウフフフフフフフフ」
なんか面倒くさそうですし、ほっときましょう。
ああ、それと、……私と黄彩の交際が認められたというか、交際という関係に押し込められたというか、交際しているということになったというか、……まぁ端的に言ってしまえば、黄彩と恋仲となりました。これはめでたしじゃ無いです。
どうしてこうなった?
いえ、好きですけれど。愛するとも言いましたけれども。それはどちらかといえば家族に向ける親愛のようなもので、……こう言ったら部長に「あら、もうそんなに近しい仲だったの。でも付き合う前からそんな関係だったなんて、危ないところだったわね」なんて、お花畑なことを言われてしまいましたね。
若干不服というか、遺憾ながらも祝われることになってしまい、コカビエル撃退記念とともにパーティまで開かれてしまいましたし、……嫌というわけでは無いのでまぁいいんですけれど、一番衝撃的だったのはあれですね。わざわざお祝いついでに連絡を持って来ていたグレイフィア様の、「おめでとうございます。ご立派な玉の輿ですね」という、魔王の妻渾身のギャグだと思いたい祝いの一言。
一悶着どころか、億悶着くらいあった気がしますが、やっぱりめでたしめでたし。後は楽しい学園ラブコメ、生涯安泰のメインヒロイン生活。――ということになるはずもなく。
次の騒動は、三大勢力のトップが学園に集まっての会談と、以前から密かに住み着いていたらしい、堕天使総督アザゼルの兵藤先輩との接触。
兵藤先輩の方はぶっちゃけどうでもいいんですけど、黄彩が言うには、アザゼルは黄彩にも近づこうとした、というかしていたらしいです。いつかの、県外での展覧会にアザゼルという名の客が参加して、何をするでもなく作品を見て帰っていったとか。フットワーク軽すぎでしょう。
「デュランダル!!」
「作品No.13――若者!!」
万物を切り裂くと言われる伝説の剣に、「キレやすい若者」という言葉から着想を得たという両腕の剣が火花を散らして、部長が止めようにも、部長の攻撃では余計に壊しかねないと、攻めあぐねている様子。――仕方ありません、止めますか。
コカビエルの時のように、普段は収めている耳と尻尾を出すと、全身に後付けされた筋肉にスイッチが入り、眠っていたことを知った脳が目を覚ます。――黄彩にも想定外だったみたいですが、耳と尻尾を出し入れすることでオンオフが出来るようになったみたいです。これもメンタル的な要因が大きいようで、何度もオンオフ繰り返すうちに境目がなくなるそうですが。尻尾はともかく、耳は帽子でもかぶらなきゃいけないところだったのでいつも通り隠せるのは助かりました。
翌日。生徒会からの要請により、我らがオカルト研究部でプール掃除をすることになりました。一応、コカビエルとの戦いのときの結界のお礼、ということになっているみたいです。掃除が終わったら一足先に泳いでもいいとか。
「……黄彩、水着は?」
「持ってないよ? 買ったことも着たことももちろん無い」
掃除でどうしても濡れるため、全員水着に着替えるという話だったのですが、更衣室から出て来た黄彩の格好は女児用のワンピース姿でした。確かに水色で水玉模様ですが、それは水着ではありません。
お風呂嫌いでしたし、当然プールも嫌いなんでしょうね。
改めてプールを見てみると、酷い惨状ですね……。水面に苔が生えるって、何をしたらそんなことになるんですか。
「汚い……。傑作No.15――ボク」
惨状をみた黄彩は顔を顰め、女体化しました。ついでにワンピースのサイズ、形状も変わって美しさ三倍って感じです。……もしかして、黄彩が女体化したら私は百合ってことになるんでしょうか。
「嗚呼、ボクよ。ボクに汚いものを担当させるのはいつものことだけど、ボクだって美学を磨く芸術の徒なんだぜ? 拷問もいい加減にしろよ。――圧縮加工――フリーズドライ加工――圧縮加工」
つべこべ言いつつも、黄彩は一瞬で掃除してしまった。汚れも水も一塊に纏めて空中に浮かべ、冷凍。真空にすることで水分を気化させて、再度圧縮。小さな立方体……カップラーメンのかやくみたいですね、あれ。
「ったく、やれやれだよ」
「……相変わらず、意味がわからないですね」
「ウフフ。全部化学の範疇だとも。じゃ、ボクをよろしくね、小猫ちゃん」
文字通り汚れがなくなったプールに副部長が魔力で水を張り始めたのをみると、黄彩は元の姿に戻っていきました。
「……黄彩」
「んっん〜、……うにゃん?」
サイズの合わないワンピースを作り直しながら、黄彩は私に向きながら首を傾げる。
「どっちの黄彩も、結構好きですよ」
「ウフフフ。ボクも大好きだよ」
私も大好きですけど、でも私が泳げないのを見て「猫みたいだね」って言ったのは絶対許しません。
休み明けには、一つイベントがありました。と言っても、そう物騒なものではありませんが。
ただの授業参観です。とはいえ、兵藤先輩や部長は憂鬱そうな顔をしていましたが。
私や黄彩にしてみれば、クラスメイトの親兄弟がやって来る程度のイベントでした。
いつも通り、いつもより目が増えて二倍、黄彩が居て三倍緊張している教師の授業を受けるだけだと思っていました。
……なんか居る。
十代半ばの子供の親ということで、それなりの年齢の方々が何人も教室を出入りする中、明らかに私たち生徒より年齢層の低い、黄彩よりひとまわり大きい程度で純白の髪の、幼女に片足突っ込んだ程度の少女が――絵本の妖精のような装いで――もちろん羽根を生やして――教室の上空を飛来して授業参観していた。
「……ママ、パンツ見えてる」
「見せてるのよ、あたし」
全員薄々感づいていたけど、黄彩のお母さんらしいです。妖精のようにふわふわと黄彩の上に浮き、手元を覗いている。
「その子はもうちょっと露出を減らしたほうが可愛いと思うわ、あたし」
「少し先で装備増えるからいいの」
「デフォルトでの可愛さも必要だと思うわ、あたし」
ちなみに、今は数学の授業です。黄彩の机には当然のように教科書もノートも無く、タブレットにスケッチブックとクレヨン。
「じゃ、久しぶりに顔も見れたことだし、もう行くわ、あたし」
「ん、またね」
結局一度も地に足を付けず、フヨフヨと新たに入ってきた誰かの親を飛び越えて、教室から出ていった。
直後。
「なにあれ!?」「空飛んでたよな!?」「妖精みたいだったね〜」「暢気すぎない? 有製ってもしかして妖精だったりするの?」「パンツ見えたぞ!!」「何ぃ!? 俺は見えなかったぞ羨ましい!!」
一種の緊張状態のようなものが解けた途端に、クラス中から所構わずの声が響き回る。あと、レベルの低い変態先輩みたいなのがこのクラスにはいるらしいです。
……うるさい。
授業が終わってからすぐ、私は黄彩に声をかける。
「黄彩。あの人、……人? が、黄彩のお母さんなんですか?」
黄彩は困惑しながら尋ねる私を面白がりながら答える。
「ウフフ、もちろん人間だよ。人間で
「ママって……」
そういえば可愛い呼び方ですね。あまり会うことがないと聞きましたが、それにしては親しげというか、近しいというか。
「だってあれ、お母さんとか、母上って感じのキャラクターじゃないじゃん。ママも違う気がするけど」
「……いえ、間違いなく黄彩と同じ血が流れてますよ。濃すぎるくらいに」
「ウフフフフフフフフ。行こっか、小猫」
「え?」
昼休みを告げるチャイムと同時に、黄彩のひ弱な腕に引かれて教室を出た。
騒がしい教室を出れば静かになるかと思ったら、もっと騒がしい。いや、ここは本当に学校なんですか? ライブ会場でももう少し秩序ある騒がしさだと思うのですが……。
よく見れば、人の流れには一貫性があるように見えた。
「……何かあったのでしょうか」
「ウフフ、面白そうだし行ってみよっか」
……そういえば、いつか黄彩は視界の情報量の多さに倒れたことがありましたけど、大丈夫でしょうか。
「あっちは、体育館だね。そういえば入ったことないかも」
騒がしいくらいなら平気なようですが、それより体育館に入ったことないって、どういうことですか。
「うにゃ、どうかした?」
「いえ、行きましょうか」
……薄々勘付いてはいました。部長の兄、サーゼクス様が来られるとのことですから、あの方が来ないはずもありません。
しかし、あの組み合わせは予想外というか、想定外というか。混ぜるな危険、ではありませんね。――水と油――
「ワイヤーアクションは少女の嗜みなのよ」
ついさっき教室を騒がしくした放火魔、黄彩のお母さんと他に四匹の妖精が、体育館のステージの上で舞い踊っていて、その下には、四大魔王の一人、セラフォルー・レヴィアタン様が如何にもな如何わしいポージングをしている。
「……あれ、ワイヤーアクションなんですか?」
「ママの特技だからね。人形を操りながら、自分も人形に成り切る完成形人形劇」
よくみると、四匹の妖精の目は確かに輝いているけど、人間とは違う、宝石の輝きだった。手足に指先まで自然に動いていて、その様はまるで生物。
「……もしかして、黄彩の作品だったりしますか。道徳的な龍みたく」
ほとんど直感だけど、そんな気がした。あの妙に可愛らしい龍と、自然すぎて不自然で小気味よく不気味な妖精は、何処か通ずるところがあるように感じた。
「んーん、あれはパパの作品。ママの使う人形は全部ね」
どんどん人が増えてきて、楽しげな雰囲気が出来上がっていくのに、黄彩だけは浮いて退屈そう。
「道徳的な龍を作るとき、ママからアドバイスもらったから。関節の動きが似てるのとかはそんな理由だと思うよ」
なるほど、と。黄彩の話に聞き入っていると、生徒会が彼女達を窘めにやって来た。匙先輩がステージに乱入する。……けれど、魔王様に一介の下級悪魔の言葉が通じるわけもなく(というか、常人の理論が通じるはずもなく)、匙先輩は悪戦苦闘している。
「匙、問題は迅速かつ効率的に対応しなさいと……」
「ソーナちゃん見ーつけた☆」
「あら、可愛い子ね。嫌いじゃないわ、あたし」
語尾に星をつける高等テクを淑女の嗜みとする魔王様と、語尾に一人称をつける天然テクを妖精の嗜みとする黄彩の母、蒼さんという、どう対処しても飛び火じゃ済まないファンタジー軍団に、会長は石化した。
匙先輩が野次馬達を追い払うと、二人はステージから降りて来た。蒼さんもちゃんと着陸してるし、妖精四匹も姿勢良く陳列している。目を凝らしても、ワイヤーらしいものは見えない。
「ワイヤーアクションはワイヤーを隠すことから始まるの」
「にゃ!?!?」
いっ、いきなり!!
急に目の前まで飛んできて、思わず黄彩みたいな声が出た。
「ワイヤーが見えてしまったら、そんなのはただのブランコと一緒だと思うの、あたし。……あなた、黄彩のお友達? それともお嫁さんかしらっ!」
なんですか、その、ハイ・オア・ニュートラルな選択肢。
「……一応、黄彩の恋人です」
「ウフフ、小猫だよ。可愛いでしょ」
「へぇ。……猫ね。まぁ、可愛い子だし認めるのだわ、あたし」
なんで私、親子揃って第一印象が猫になるんでしょうか。
「はじめましてっ☆ あなたが蒼ちゃんの子で芸術家の黄彩くんね? 魔王をやってる、セラフォルー・レヴィアタンって言いますっ☆ レヴィアたんって呼んでね?」
「うにゃ、よろしく。魔法少女のお姉さん」
「いやん、いけずぅ☆」
「というかその呼び方やめてくれません!? 私が魔法少女みたいになってるじゃないですか!」
基本的に呼び方を直さない黄彩の魔王様の呼び方は、魔法少女のお姉さんに決まったようです。