有製黄彩君へ。
四大魔王の一人、サーゼクス・ルシファーだ。
先日、妹のリアスから相談、報告を受けていた、悪魔の駒が君に反応しない、という問題について。以下の内容から誰よりもまず君に、正確に誤解なく伝えるべきだと思い、こうして手紙を送らせてもらっている。
悪魔の駒には他種族、例えば人間や妖怪を転生させる機能がついているのだが、それ以外に、一定までなら負傷を修復できる機能が存在している。君の身近な例なら、兵藤一誠君がわかりやすくそれだ。何せ、彼は死亡した状態から転生しているからね。
一定と記したが、そう、修復が可能な程度にも限度が存在するそうなんだ。(以下内容は、もう一人の魔王、アジュカに尋ねて聞いた内容だ)
修復できないレベルの負傷として、彼は人間界での事故の一つ、電車の人身事故を例にあげた。なんでも、肉体がミンチになり原型なんて全く残らないそうだね。
損傷と破壊。まだ曖昧だけれど、可、不可の線引きの目安はそんなところらしい。
一度破壊された人間を転生悪魔にすることは出来ない。例え、縫い合わせたりして、一見完璧に修繕してもね。
アジュカ・ベルゼブブの推論は、君の肉体は破壊された状態で生きているのではないか、とのことだ。
あり得ないことだが、あり得ないだけで最も可能性が高いとも語っていたよ。
いつ死んでもおかしくない、なんて優しい話ではなく、なぜ生きているのかわからないという話だ。
肉片をつなぎ合わせただけの肉塊が生命活動しているという話だ。
他にも、神格がシステムの対象外だからという説もあるにはあるのだけれど、つまりこっちは君が現人神化しているということだ。君ほどに神聖視されている人間は珍しいが、決していないわけではない。かつてのアーシア・アルジェントのようにね。だから、こちらもあり得ないと思われる。
君は人間だけでなく、あらゆる世界のあらゆる種族から一目置かれる存在だ。そんな君がそんな破滅的な状況であることが、私はとても悲しいよ。どうか、長生きしてくれ。
追申。
グレイフィアから送られるであろう、私たち魔王四名からの贈り物は君の自由にしてくれて構わない。使おうと、捨てようと。説明はグレイフィアから聞いてくれ。
ギャーくんが、一応引きこもりをある程度脱却して、ホームルームだけでも出席できるようになって数日が経った今日。放課後に黄彩へ来客があった。
一枚の手紙と、大量の荷物を丁重に抱えたグレイフィア様。
「まずこちら、沖縄と北海道のお土産のお礼にと、魔王サーゼクス様、並びにグレモリー家一同から送らせていただきます。お茶菓子です」
いつか、黄彩が大量に買ったお土産。この部室にも大量に届き、賞味期限的に食べきれないことを察した部長が実家に送ったのだけれど、そのお返し(というか、仕返し?)らしいです。
「続きまして、魔王サーゼクス・ルシファー様からのお手紙です。まずはお一人で読んでほしいとのことですので、どうか」
「うにゃ、……。ん、ありがと」
黄彩の目は手紙を開けずとも読めるのか、天井へ掲げるように持ち上げて眺めた後、さっとテーブルに放り投げた。雑すぎる扱いに一切関せずを貫くグレイフィア様は、最後に桐の箱のようなものを黄彩に手渡す。
「こちら、魔王四名一同からの贈り物になります」
「ん、……開けていーい?」
私たちが贈り主に驚愕しているのも気にせず、そして聞いたにも関わらず返事を聞かずに、黄彩は箱を開けた。
そこに入っていたのは、白でも黒でもなく黄色のチェスの駒。八つの
「特注の
この場の誰も知らず(黄彩は話すのが面倒になっただけでしょうが)、グレイフィア様は丁寧に説明してくれた。
エイトクイーンとは、チェスの盤上に八個の
「この贈り物を提案した、魔王アジュカ・ベルゼブブ様は、あなたにもレーティングゲームに出場して頂きたいそうです」
「ふーん、……で、眷属に出来ないなら、代わりに王、っていうよりプレイヤーになってもらおうってこと?」
「エイトクイーンには王はいませんから、貴方本人が戦場に立つ必要もありません。
ゲームの際の詳細は、時が来れば伝えるとのことですし、きっとその場のノリで決めちゃったんでしょうね。魔王様達。
グレイフィア様は言うべきことだけ言って、すぐに部室を去って行ってしまいました。なんでも、会談に向けて忙しいのだとか。
ほんと、お疲れ様です。
グレイフィア様が去ってから、私は真っ先に黄彩宛ての手紙を読みました。恋人特権と言うことで、部長も何も言いませんでしたが、……。
「……黄彩、……本当だったんですか、これ」
書かれている内容を要約すれば、黄彩は治療不可なほどにボロボロだということ。いつか、似たような事を聞かせてくれたけど、……正直、冗談だとも思っていました。
「うにゃ? んー、まぁ、こんなことしてたらそうなるよね」
黄彩は笑いながら、腕をトルネードポテトのように螺旋状に斬り伸ばして見せた。
「いやぁぁぁあああ!?!? 怖いです怖いですぅぅぅ!!」
「……よしよし」
絶叫しているギャーくんを私が慰めているうちに、みんなしわくちゃに握り潰された手紙を回し読みしては、黄彩に心配の目を向けて行く。
「……そう。そういうことだったのね」
「ウフフ。どんだけボロボロな体でも死んでなきゃセーフだよ」
「その理論は
「やはり、健全な精神は健全な肉体にしか宿らないのだな」
「その理論でいくと、死んだやつ全員不健全じゃねぇか」
「……変態先輩、エッチな話はやめてください」
「結構上手いこと言ってなかったか!? 変態先輩!?」
「……ボクの体って、そんなにえっちぃ?」
「不健全ではありますね」
戦犯はゼノヴィアさんです。異論は認めません。
なんかこれから会談の話し合いをする空気でも無くなり、私はお得意さんの契約を二件済ませてから黄彩と一緒に下校しました。
通学路道中、いつも通り一緒の道を帰っていると。
「……最近さ、『幸せになる壺』を作ってる陶芸家の気持ちを思い知る仕事があったんだよね」
「いきなりなんですか。そこそこ疲れてるので、作者の気持ちを答えなさいみたいな問題は見たくもありませんよ」
「ボクの描いた絵が『幸せになる絵』だと買われて描いたボクの気持ちを答えなさい」
なんで聞かせてくるんですか。しかもなんか面白そうな話を面白い問題にして聞かせてくるんですか。
「『そんな……。私はこんな、こんなことのために描いていたわけではないのに……』、みたいな」
「正解は、『こんな絵じゃ幸せにすることなんてできない……!』、だよ」
「こだわりの強い職人みたいですね。……そういえばそうでしたね」
「妖怪って学校も試験もないらしいのになんで小猫は学校来てるの?」
「……急に話を方向転換しないでください。あとなんで妖怪の知識が鬼太郎のOPの歌詞しかないんですか」
「あれ、嘘なの……?」
なんで本気で失望したような顔してるんですか。
「お化けは死なないって言ってますが普通に死ぬし、墓場で運動会なんてしてないでしょう」
「じゃあ今年の運動会は墓地でやりたいね。いつの間にか一匹くらい混ざってるんじゃない?」
「混ざってるでしょうね」
そりゃ、
あれからさらに話が二転三転した後、無事に帰宅しましたとさ。……やっぱり、ちょっと寂しいですね。黄彩の家に泊めて貰えばよかったです。
ギャーくんに電話して八つ当たりと洒落込みましょう。
ついに来てしまった、三大勢力の会談の日。
ギャーくんは力の暴走も考慮してお留守番ですが、ギャーくん以外のグレモリー眷属は出席ということになります。ちなみに黄彩は人類代表として、私たちとは別枠の出席になるそうです。
私たちが会議室に入った時にはもう既に魔王様お二人に、堕天使総督を始めとした堕天使勢力、天使長を始めとした天界勢力が揃っており、残すは黄彩を待つのみという状況だった。
元々は敵対、牽制試合っていた関係関係性。互いに何も言わず時だけが進む、居心地の悪い空間が広がる最中にようやっと、文字通りの重役出勤で黄彩がやってきた。……黄彩らしき男が、一人の女性を連れてやって来た。
「ウフフ、待たせてしまったようだね。――人類代表の芸術家――シトリング・ラフィだ」
「護衛兼、保護者兼、お姉ちゃん――最終技術集結自動機構人形――略称、
この魑魅魍魎蔓延る会議室でもブッチ切りに厳つい名乗りを上げる、白髪黄色メッシュのツインテール美青年。まんま、黄彩を小学生から高校生まで急成長させたような美青年で、珍しく男性用のスーツを着こなしている。
追従しているラストさんは、前にあったときのメイド服ではなく、……何故か黄彩のものと似た男性用スーツを黄彩以上に格好よく着こなしている。
ラストさんに椅子を引かれて黄彩が座ると、会談は始まった。
大人しい、というか大人らしいのは見た目だけなのか、席に着くなり黄彩はトランプタワーを作り始めていた。隣ではラストさんが息を吹きかけたり、机を揺らしたりして妨害している。
会談は恙無く進み、三大勢力が和平を条約する方向へと向かっている最中。ここまでろくに介入してこなかった黄彩へ、アザゼルが声を掛ける。
「お前は俺たちの和平についてどう思っているんだ? 人間国宝の芸術家」
政治家でもないのに人類代表というのも違和感のある話ですが、政治家が人類代表というのも不思議な話です。
すると、誰を人類代表とするのかとなれば、黄彩が候補に上がるのも不思議ではない。
「ウフフ。……至極どうでもいいさ。ドンパチ戦争してようがみんな仲良くしてようが、ボクは冷ややかな目で風景画にでもするだけだし、ボクは笑い転げているだけだ」
「……お前、大人になると性格が悪くなるのな」
「ボクは綺麗で可愛く美しいボクとは違って失敗作だからね。劣悪で性悪なのさ」
そう言って笑う黄彩の笑い方は、確かにいつもほど綺麗でないし、可愛くないし、美しくないけれど。――でもどこか、人間らしいとは感じた。
「まぁ、ボク達は小猫ちゃんが大好きらしいからね。彼女に危険が及ぶようなら、……まぁその時はその時さ」
「なら、俺たち
「へぇ、約束?」
「場合によっちゃ、テメェ諸共ぶっ殺す必要があるかもしれねぇしな。――例えば、
と、その時。何かが起きたことを直感した。
「ヤァ、小猫ちゃん」
「え、黄彩?」
一瞬にして、場の雰囲気が変わった。殺伐というか、戦場というか。目の前に黄彩が現れたところを見るに、……ギャーくん?
「……何があったんですか」
「曰く、テロらしいね。外は魔術師、内には自称真の魔王。これなんだろうね?」
「カオスじゃないですか」
アザゼルから何かを受け取って、禁手化した赤龍帝、兵藤先輩が白龍皇に向かって行くのを見ながら、黄彩はラストさんを呼び出す。
「ラストお姉様、頼んだよ。全力全開、全速全壊だ」
「……ラストさんって戦えるんですか?」
「もちろんですとも。――
最終技術と語る謎技術でしょうか。両腕が鳥の翼に変形しています。
「では、ひとまず魔術師を蹂躙してきましょう。――
ラストさんは常人の10倍ほどの速さで、誰にも衝突することなく窓から飛び出して行った。
「現状の言語に頑張ってもらって説明するなら、ナノマシン技術と時間技術の最終形態の一つだね。……ラストお姉ちゃんの頭脳、今風に言うならCPUは、速度的に人類の半分とちょっと程度しか出せない。だから常に2倍速の世界を生きているんだ」
……速さが足りないから時間の方を弄るって、どんな超技術ですか。
「っていうか、そんなことしたら寿命とかどうなるんですか」
「不老長寿技術も勿論備えているとも」
「
「
「
「
巨大な右腕で叩き潰し、竜のような左腕で切り裂き、蛇の髪の毛で喉笛を食い殺し、歌われる演奏を聞いた者達が気を失っていく。
「最終技術集結自動機構人形の名は伊達じゃない。……ウフフ、すごいよねぇ」
黄彩は、いつもは絶対に見せないような誇らしげな表情でラストさんの蹂躙劇を堪能している。
九尾の尾を生やしたり、白龍皇のそれに似た機械仕掛けの翼を伸ばしたり、胸あたりからサメの顔面が飛び出たりと、まるでキメラのような様相をしているラストさんは、ついに最後の魔術師を喰らい殺してしまった。
「……私も行かないと」
「ラストねぇちゃんに任せておけば平気だよ。強いからね」
「黄彩は行かないんですか? いつもなら飛びついていきそうですけど」
「ウフフフ。ボク達を戦闘狂と勘違いしてないかい? ボクは全盛期を過ぎた雑魚だからね」
黄彩は近くの椅子に座ると、私を抱き寄せて膝にのせて抱き締めてくる。……いつもと逆なので、ちょっと新鮮ですね。