悪魔の町の芸術家   作:那由多 ユラ

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 今回、いつもよりちょっと短いです。


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「下等種族がぁ!!」

 

「ウフフ。ラストお姉ちゃん」

 

「はーい。両腕(アーム)変形(トランス)――自喰龍(ウロボロス)

 

 接戦していたアザゼルの隙を突き、黄彩を殺そうとしたカテレア・レヴィアタンが、二頭の龍に食い潰されていく。……あれ、食べた物ってどこに行くんでしょう。二の腕か肩あたりにでも胃があるんですかね?

 

「……オイオイ。その護衛だか保護者だかって、何者だってんだ」

 

 カテレアとの戦いで片腕を失ったアザゼルが、苦戦の色を全く見せずに完勝、というか完食して見せたラストさんに好機の目を向ける。

 

「さて、紅白龍合戦もなんか有耶無耶で終わってしまったようだし、帰ろうか」

 

 ……大人になったのは本当に体だけなんですね。アザゼルも魔王様達も天使長さんも、毎回最後は丸投げされてる部長と会長がすごい目で見てますよ。

 あと紅白龍合戦って! そんなめでたい感じの戦いじゃなかったでしょう!?

 

 

 

 

 

 まぁ、結局私は終始当事者から一歩二歩下がったところで守られていたので何が起きたのか半分以上も理解できていなかったのですが(五十歩百歩下がろうと黄彩は理解出来ていたのでしょうが)とりあえず和平は条約されました。

 それから何故かアザゼルが駒王学園の教師にあり、私たちオカルト研究部の顧問になったりしましたが、……まぁそんなことはどうでもいいんです。和平も堕天使も天使も、終業式も校長も教頭も、この世の尽くはかの巨大過ぎる存在の前には塵芥も同然。

 

 そう。それは学生にのみ許された、一ヶ月間の至福。ありとあらゆるしがらみから解放される、人類が唯一人間らしい日常を暮らせる奴隷社会の空白。

 

 そんな極楽の前に、私たちは一つの試練を課されていた。

 

 表彰式。

 普段あまり知られない活躍が全校生徒の前で公表される、運動部が唯一注目を浴びる年数回のステージ。

 ……というのは、もはや過去の話。運動部の表彰がすぐに終わると、そこから黄彩の表彰が始まる。数多の作品が数多の賞鳥、それを律儀に全て表彰するらしく、校長の前の偉そうな机には辞書を三冊は積み上げたくらいの高さまで積まれた賞状と、台車にトロフィーや景品が山積みにされている。

 もうすでに何人が保健室へと運ばれたのか分からない。倒れはせずとも、立ち続ける気力が尽き座り込んでしまう人が生徒だけでなく教師にもいて、壇上の校長は覇気の感じぬ弱々しい声でひたすらに読み上げ続けている。

 そして当の黄彩はといえば、どこから持ってきたのかパイプ椅子に座ってスマホをいじっている。

 

 なんの時間なんですか、これ。

 

 

 結局、校長が力尽きて倒れると終業式、表彰式は強制終了。保健室送り十七名、病院送り三名という前代未聞の被害数を叩き出したそうですが、幸い死人は出ませんでした。……死者の心配をしなきゃいけない学校行事というのも不吉な話ですけど、それが表彰というめでたい行事での話なのが尚更不吉です。

 

 

「――ってわけだから、これからよろしく」

 

「うにゃ?」

 

 一学期の終了を機に、グレモリー眷属は住居をある程度まとめることになりました。私以外は、一夜で改築して巨大になった兵藤先輩の家に。そして私は、一応恋人である黄彩の家です。

 

 幸い、部屋は物置予定だった空の部屋が幾つもあったうえ、作品の搬出用の出入口があったので引越し作業はとてつもなく楽でした。

 

「そういえば黄彩」

 

「うにゃ、なに?」

 

 今日は夏休み初日。引越し作業が終わると、私達はリビングで積み重なるようにソファで寝転がって寛いでました。

 

「悪魔の駒で眷属にする人の候補、誰かいないんですか?」

 

 私物の扱いがとてつもなく雑になる時がある黄彩は、魔王様四人から送られてきた悪魔の駒をその辺にほったらかして、引越し作業中には何故か私の荷物からも一つ出てきたりしました。今はリビングのテーブルに八つ揃って並んでいますが、……正直、黄彩が眷属を率いている光景が全く想像できません。

 

「女王ではなく戦車だったら、交換(トレード)で私がなることも出来るんですけどね」

 

「ん〜」

 

 私の唇を、リップでも塗るかのようにチロチロと舐めながら、思い出したように考え始める。仕返しに口を開いて舌を伸ばして絡めると、黄彩の方もうねらせて絡み合う。猫の舌のようにざらざらとした感触が擦れあって、滲み出てくる唾液が混ざり合って、流石に舌が疲れてきた頃に、黄彩はやっと顔を離した。

 

「いないね。そういえば友達もいたことない気がする」

 

「聞いてる私の方が悲しくなってきました」

 

「……小猫がいればいいもん」

 

「そう言われて悪い気はしませんが、今必要なのは友達でも恋人でもなく眷属、下僕ですよ」

 

「オークションで売っちゃダメかな。買った人がボクの下僕ってことで」

 

「ダメに決まっているでしょう」

 

「じゃあボクに勝った人がボクの下僕ってことで」

 

「いるわけないじゃないですか」

 

「じゃあ、道徳的な龍で世界中にばら撒くとかは?」

 

「ガイアメモリじゃないんですから」

 

「……小猫、仮面ライダーとか観るんだ」

 

「黄彩が知ってる方が予想外です」

 

「なんかの仕事でDVDを一通りもらう機会があってね。……観る?」

 

 とりあえず、今日の予定が決まりました。

 

 

 仮面ライダーを夜通しで見通した、翌々日。一日を睡眠で無駄にしてしまった次の日に、この家でオカルト研究部の活動をすることになった。

 

「グッフッフ。さて、まずはベッドの下から……」

 

「……変態が探すような本はあっちの本棚」

 

「何ぃ!? まさか、全く隠していないというのか!?」

 

「見ていいけど散らかさないでね」

 

 初めてきた時から、見て見ぬふりをしていたピンク色と肌色ばかりの本棚に、樹液に群がるカブトムシのように変態先輩が飛びついた。

 

「ほう、芸術家にもイッセーのような趣味があったのだな」

 

「アハハ、意外な一面を見てしまったよ」

 

「はわわわっ!? こっ、これはいけませんよ有製さん! こっ、こんなことまでぇ!?」

 

 さらに三匹、ゼノヴィア先輩と木場先輩とアーシア先輩が飛びついていった。

 アーシア先輩が見ているのを覗き見てみたら、かなりクレイジーというか、クレバーというか、クリエイティブな内容の漫画だった。

 

「あらあら、ウフフ」

 

「あなた達ねぇ……。ねぇ黄彩、あなたのアルバムとかないのかしら?」

 

 副部長はカブトムシ達を微笑みながら見守っていて、部長は変態先輩の家に行った時のことを思い出しながらアルバムを探し始める。……遠慮なしですね。

 

「アルバム、……無いかな。撮る人いないし。自画像ならどっかの美術館にあると思うけど」

 

「相変わらずあなたにしか言えないセリフね、それ」

 

 ギャーくんは一人、並べて飾られている黄彩の作品達を目を輝かせながら眺めている。

 そこには黄色いチェスの駒、八つの女王も、丁寧にチェス盤にエイトクイーンの条件を満たす状態で並んでいた。

 

「貴方もいつか、私たちのライバルになるのかしらね」

 

 そう。黄彩の眷属集めを私は応援してるけど、相対した時は敵にしてライバルになる。――いつかの、ライザー・フェニックスのように。

 私が、……私たち全員が、もっと強くならなければならない。ライザーよりも、コカビエルよりも、黄彩よりも、……ラストさんよりも。

 

「そういえば黄彩。ラストさんは眷属にしないんですか?」

 

 思いついて言ってみたけれど、黄彩は首を横に振りながら答える。

 

「ウフフ。それは言ってみたけど、断られちゃってね。『生きる時間の違う私が、生きとし生けるものと同じ土俵に立つわけにはいきません』とか、なんとかって」

 

「なら、仕方ありませんね」

 

 二倍速の世界を生き続けているラストさんが何を思っているのか、私にも、黄彩にだって知る術はない。

 

「そうそう、この夏休みは冥界に帰るのだけど、黄彩もくるかしら? 眷属を探すのにちょうどいいと思うのだけど」

 

「うにゃ? ……んまぁ、小猫が行くなら行ってもいいよ。今は何処でもできる仕事しかないし」

 

 え。私、冥界に行くんですか?

 

 ……行くらしいです。冥界にデートスポットみたいなところって、何かありましたかね。

 





《第一部完! ただし続編未定》みたいな!
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