出します出したい!
殺人鬼と芸術家のコンビとか超見たい!
まぁ、すぐに出てくるわけじゃないんですけどね。
あ、そうそう。目次のあらすじ変えたんで、よかったら読んでみてくださいな。結構格好良くなったはずです。
本編どうぞ。
15
駒王町のとある建物の地下から繋がる、冥界行きの電車にて。
特にやる事のない道中。いつもとは逆に、私が黄彩に膝枕されて、筋肉の無い柔らかな太腿を堪能していた。
黄彩はタブレットを私の頭に乗せて、何かを書いている。締め切りの近い仕事が一つあったらしいです。
「……ねぇ、小猫。悪魔に殺人鬼っている?」
「……人を好んで殺す悪魔はいるかもしれませんが、それを殺人鬼と呼んだりはしません」
「ふぅん、そう」
「作品の題材か何かですか?」
「んにゃ、別に。ちょっと気になっただけ」
「……黄彩は、殺人者ではありますが、殺人鬼じゃありませんよ」
「ウフフ、知ってるよ。ボクは芸術家だからね」
しばらく経ち、ちょうど黄彩の仕事が仕上がったタイミングで電車は止まった。
どうやら到着したらしい。
「「「「おかえりなさいませ、リアスお嬢様!!」」」」
と、グレモリー家のメイドや執事の皆さんからの出迎えを受け、アザゼル先生が魔王様と会議があるからと別れて、馬車で城に向かい、到着した時になってようやく気がついた。
「黄彩。……黄彩?」
黄彩が居なくなっていた。
迷子になれるタイミングなんてほとんどなかったはずなのだけれど……。
あ。
「もしかして、処理落ち?」
迷子ではなく、落とし物。
見慣れない土地に踏み込むと起こす、脳の限界到達。気絶して再起不能とまではなりませんが、限りなく行動不能です。
人間国宝の芸術家を人間国宝だからと拾う
「……部長。ちょっと出ます」
「え、ちょっと?」
「僕も行こう。なるべく早く返してしまいたい借りがある事だしね」
「裕斗までっ!? 家から使用人を向かわせるからちょっと待ちなさい!」
ここまで誰も気がつかなかった黄彩の失踪。流石に黄彩がじっとしているのもここまで。――黄彩を知らない
それに、黄彩を見つけ出すのに手間はそうかかりません。黄彩は目立ちますから。
私と木場先輩で部長の制止を振り切って城壁を超えたあたりで、城下町に異変が起きた。事件が見えた。
猫耳を出して感覚を広げれば聞こえてくる。建造物を殺戮する音。唸るようなモーター音。水風船の割れる様な水音。肉を肉で叩く様な水音。「ギャハハ」という野蛮な笑い声。
「……多分、黄彩はあそこです」
幾つもの建造物が崩壊して砂煙が竜巻の様に巻き上がる現場へと、私たちは急いで向かった。
現場に近づくにつれて、人口密度が濃くなっていく。近場の住人以外にも、野次馬や、人間界なら警察の役割を生業とする悪魔や、警備を生業とする悪魔が集まっている。
隙間を縫う様に通り抜けた先に広がっていたのは、綺麗でなく、可愛くなく、美しくなく、そして芸術的でもない、殺戮的に殺風景な殺戮風景。建物が建物と呼べないほどに殺戮されていて、地面が地面と呼べないほどに殺戮されていて、風景が風景と呼べない程に殺戮されていて、悪魔が悪魔と呼べないほどに殺戮されている。その中心地点で眠る異色こそ、眠っている黄彩だった。
風景になるほどに広範囲な事件現場を囲うように、悪魔達が黄彩を警戒して近づこうとしない。だからか、私や木場先輩が黄彩を保護するのに障害らしい障害は皆無だった。
「黄彩っ!」
見たところ、いつもの女児用ワンピースが多少汚れているだけで外傷はない様に見える。呼吸も心拍も睡眠時と同様、ただ眠っているだけでしょう。
「何があったのかわからないけれど、すぐにここを離れた方が良さそうだね」
「……そうできると、いいんですけどね」
どうやら私たちを、というか多分黄彩を、彼らは動かしたくないらしい。殺すにせよ捕らえるにせよ、この殺戮地帯よりも外には出したくないらしい。今にも、武器を降ろせとでも言う様に、黄彩を降ろせと言わんばかりに、私たちに武器や魔力を向けている。
「……黄彩。もう十分寝たでしょう。起きてくれませんか」
「ん、…………うにゃ。ここ、何処?」
すんなりと呼びかけに応じて目を覚ました黄彩は、情報量の無い風景を見渡して、さっぱりと目を覚ました。こうも何もないと、処理する情報が少ないと、慣れない地でも十全に目が届くでしょう。図ったのか偶然かは知りませんが、この惨状を殺戮し尽くした何かは、救った、とまでは言えませんが、黄彩を助けたのでしょう。
「ウフフ。こうも何もない殺風景だと、いっそキャンバスみたいだね。悪魔の血なんて持ち主が呪われそうだから使いたくないけど、悪魔の国なら問題はないかもしれないね」
ウフフフフフフフフ、と。優雅に笑いながら黄彩は私の手から二歩離れて、右腕を前方へと向けた。
「寝起きだけど、こうもさっぱりしてると寝ぼけも出来ないや。――芸術品になりたい人からおいで? ちゃんと作品にしてあげるから」
寝言は寝ているうちに言え、と。何処かの誰かから聞いた様な言葉を悪魔達が叫び、人間風情である黄彩に風情無く襲いかかる。
「作品No.13――若者」
魔力で放たれた炎の弾も、不可視の斬撃も、キレやすい若者の暴力も、芸術家の前では粘土板の上の粘土。バターでも切る様に抵抗なく、味気ない攻撃を塩気ある斬手で切り伏せる。
炎の弾を切られた初老の悪魔は怒りに燃えて吠え、斬撃を切り裂かれた淑女の悪魔は怒りが咲いてキレて吠え、腕を裂かれた若い悪魔は切られた激痛に叫ぶ。
先制した三名の悪魔へ同情の言葉を叫びながら、私たちに、というか黄彩に襲いかかる。
電撃や炎撃や水撃や砲撃や斬撃や爆撃や目撃や口撃や直撃や乱撃や迫撃や打撃や突撃や進撃や射撃や銃撃や狙撃や衝撃は、一撃の反撃に尽き切れた。
「……アハハ、相変わらず、壮絶だよね」
木場先輩がそうは言うものの、まだ芸術的な遺体は一つも完成していない。芸術的なところを探すなら、この殺風景な風景から探すなら、綺麗で可愛らしく美しい黄彩を除くなら、名前も知らない悪魔達の驚愕の顔くらいです。
「……今のうちにいきましょう。すぐには追って来れないはずです」
これ以上騒ぎを大きく、深くしない様に、黄彩を強引に抱き抱えてグレモリー家の城へと、殺風景を駆け抜けた。
城まで殺風景が広がっていた……なんてことはもちろんなく、あそこだけが爆心地の様に、クレーターの様に、パレットの様に、真っ赤な空白が城下町に出来上がっていた。
そう言えば結局、あの光景を作り出した犯人とは会えませんでしたね。
「……一体、何があったのか、黄彩は見ていませんか?」
「ウフフ、さてね。でも、きっと面白いよ。来て良かったかもね」
これ以上騒ぎに巻き込まれるより前に、城へ辿り着いた私たちを出迎えたのは、部長からのお説教でした。「ボクは何にもしてないもん」の一点張りで逃げ出そうとしましたが、騒ぎを聞きつけて駆けつけたグレイフィア様に捕まり、別室へと連れ去られて行きました。
「貴方には己が価値の理解が足りていません」
「う〜にゃ〜にゃ〜」
……グレイフィア様って、結構黄彩のこと気に入ってますよね。
「そういえば汚れていますね。先にお風呂にしましょう」
「い〜にゃ〜!?!?」
翌日。
と言うか、今日からしばらくの間、私たちは修行の日々を過ごすそうです。
各々がそれぞれ全く異なる修行をする中で、私の修行は「自ら封じているものを曝け出せ。自分を受け自分を受け入れなければ、お前の望む成長は期待できない」……と。アザゼル先生に知った風なことを言われてしまいました。いえ、知っているのでしょう。白龍皇を育てた、堕天使総督。会って間もない頃の黄彩が勘付いたことを、あの研究者気質の先生が気付いても不思議はありません。
「……でも、この力で、これだけで……」
「小猫ちゃんの体をそんなにしたボクが言うのもアレだけど、その力に大した成長はないよ」
「……え?」
悪魔として、妖怪としてフルパワーの力を出しながらのトレーニングをしていたら、女体化状態の黄彩がそんなことを言いながらやって来た。
「単純な理屈じゃないんだけど、まぁ単純に説明するとだね――ボクが即席で試作した肉体改造――百万回殺す猫はだね、脳が体に掛けてるリミッターを失わせるだけで、悪魔の魔力だか魔法だかの様な、赤龍帝や聖魔剣の様な、超常的な力は一切無い。現段階で100%出してしまっているのだから、120%とか200%みたいな映画で良くある様な出力はありえないよ」
「……そうですか」
「ちなみにボクの方も修行中。どんな修行か当ててみそ?」
……遊びに来ただけじゃなかったんですね。
「遊びも修行の内なのさ。ヒントその一、ギャスパーちゃん」
「私も修行中なんですけど」
「休憩も修行の内なのさ。オーバーワークは体に毒だよ」
そう言いながら、黄彩はスポーツドリンクを渡して来る。
冷えたペットボトルの結露した水滴が、手に染みる。
「……筋肉トレですか?」
「ハズレ。完成したボクの肉体に変化を望めるはずもないでしょう? ヒントその二、ハニードール」
ハニードール――黄彩が『可愛いは正義』を体現させようとしてできた、蜜蝋のワイングラスの様に脆く儚く弱い傑作。
「……花嫁修行?」
「ウフフフ。花嫁は小猫ちゃんだろう? これは大ヒントすぎるけれど、まぁいいか。ヒントその三、プラナリア」
プラナリアって、……いつかテレビで、生物系の番組で見ましたね。二つに切り分けたら二匹に増えるっていう、不死身っぽい生物。黄彩が「切って半分だけ売ればお金の無限増殖だね」とか言ってたからよく覚えてます。……増殖?
「……もしかして、分裂でもしてるんですか?」
「正解。
思えば、ギャーくんがハニードールを抱きしめて、うっかり潰してしまった時、黄彩はハニードールとなっていたし、ハニードールの亡骸を食べたのも黄彩だった。
「ちなみに、あっちのボクはグレイフィアちゃんと一緒に料理中。味は期待してくれていいぜ」
「楽しみにしながら頑張ります」
「ボクも協力するよ。鍛えるべき場所を正確に理解できるだけでも、効果は抜群に上がるだろうしね」
「お願いします」
おかげで身体中を指先で突かれながらも、今日のトレーニングはいつも以上に疲労と充実感のあるものでした。……それでも、先輩達やギャーくん、黄彩と比べて足りない気がしてしまう。
「焦る必要はないよ。……なんて、こんなことを言ったら余計に焦らせちゃうだろうけど、焦っちゃダメだよ。じゃないと、取り返しがつかなくなるからね。……ボクみたいに」
「……え?」
「心配はいらないさ。小猫ちゃんは強くなるよ」
黄彩の言葉の「ボクみたいに」というのが、どの黄彩を指しているのかとか、何をしてどうなっているのかとか、あの黄彩が何を焦ったのかとか、とかとかとかとか、どうにも気になって仕方がなかった。
「ヤァ、ボク。相変わらず、綺麗で可愛くて美しいね」
「ウフフ。相変わらず、綺麗で可愛いくて美しいだけだね。ボクったら」
食堂で向かい合う、ツインテールの美少女とツインテールの美少年。美しい顔立ちの可愛らしい口から出る綺麗な声は皮肉に染まっていて、その笑みには確かに、敬意と敵意が滲んでいた。
「じゃあ、また会おうぜ、小猫ちゃん」
「作品No.13、
また人喰いの光景を見せられるのかと身構えたけど、そんなことはなく、美少女の方の黄彩は霧状になり、黄彩の穴という穴から吸い込まれていった。
料理を運んできたグレイフィア様から、私たちも席につく様声をかけられた。